九百六十九話 血月布武の前衛と急襲前衛と激戦

 左の宙空から迫るイケメンの魔法使いは――。

 魔法の杭を掌の真上に召喚し、その魔法の杭を飛ばしながら飛翔してきた。

 魔法の杭の入射角度に合わせ魔槍杖バルドークを傾ける。

 一歩前に出ながら嵐雲と似た穂先の<刺突>で、飛来してきた魔法の杭を破壊し切断――。

 割れたようにも見える杭だったモノは二手に分かれ、上側の杭が髪を掠めて頭上を越えた、下側の杭は床と衝突、跳弾、どこかに跳ねた。床はかなりの硬度か。


 そして、イケメンの魔法使いの杭も硬かった。


 <闘気玄装>を活かすように体内魔力を両足に集めることを意識。

 同時にハルホンクの防護服の腰の青白い炎の魔力繊維が束ねている玄智宝珠札と棒手裏剣が少し伸びた。


「ロロ、少しの間、風の女精霊は任せた」

「にゃ――」


 相棒は前足を振るって、腰の猫じゃらしではないが、青白い炎の紐が絡む玄智宝珠札と棒手裏剣に肉球パンチを当ててくる。


 銭差的に連なる玄智宝珠札と棒手裏剣連はフキナガシフウチョウの飾り羽根にも見えるからな。

 

 ネコ科としての本能が反応してしまったんだろう。


 その黒豹ロロさんを背後に残し、左のイケメン魔法使いに向かう。

 レザライサの気配も左後方に察知。


「――槍使い、パーティ名は【血月布武】と行こうか?」

「――了解した。前衛の盾として動こう」

「ふっ、ならばわたしは強襲前衛か? ふふ、頼りにしているぞ」

「任せろ、隊長――」

「え?」


 レザライサの驚く声が色っぽくて可愛い。


 そのままイケメン魔法使いに近付く。

 そのイケメンの魔法使いは、速度を緩め、


「チッ、その<魔闘術>は<闘気霊装>系統か!」


 そう評してくると、体から土色、否、様々な色合いの魔力を放出。

 更にゴツゴツとした岩が表面に付く魔法事典のようなモノを一瞬で己の周囲に生み出した。


 その魔法事典から無数の礫を発生させて、大量の礫を飛来させてくる。


 〝獣鉄剣オレキ・マドルア〟が持っていた鉄の曲大剣を思い描き――。


 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。


 一瞬で、逆手に合わせて左腕と左足に右半身の防護服を変更。

 逆手で持つ鉄の曲大剣を出現させた。

 曲大剣の刃を新たな肘に、新たな籠手として扱う――。


 その左手、否、左腕を覆うような鉄の曲大剣を盾代わりに大量の礫を防ぎつつ前進――。


 マシンガンの弾を受け続けているような――。

 ドドッとした衝撃を曲大剣と足と右腕にも受けた。

 が、平気だ――。


 このまま曲大剣で突っ込むとしよう。


『――閣下、流石です! <精霊珠想>も曲大剣の盾に合わせます』

『任せた』


 一瞬で、俺の左腕と鉄の曲大剣が液体の<精霊珠想>に包まれる。

 鉄の曲大剣と勝手に呼んでいるが、魔力を結構内包している曲大剣。


 この鉄の曲大剣は、かなりの代物か?


 イケメンの魔法使いが放つ大量の礫は<精霊珠想>に取り込まれるか曲大剣で弾いた。

 ヘルメの<精霊珠想>のお陰で、先ほどと違い、左半身から受ける衝撃はない。


 イケメンの魔法使いは、俺の防御の仕方と衣装の変化を見て――。


「装甲が変化する防護服……」


 そう言いながら、周囲を見て、旋回機動を取り速度を落とす。

 と、片目から魔力を放出させる。


 岩が表面に付着している魔法事典を宙に残しつつ、イケメンの魔法使いの雰囲気が変化。


 髪の毛の色合いが変化?

 更に、膨大な風属性の魔力を両手から放出させ、その膨大な魔力を片目と繋げた。


 イケメンの魔法使いは、その両手を左右斜め下に伸ばす。


 手首と両手の親指を立て、掌を俺に見せるように人差し指と中指を揃えている。


 爪が怪しく輝く。


 その左右の両手と片目に繋がっている魔力の量は凄まじい。

 左と右の手と頭部の片目を結ぶ魔力の線は三角形。

 

 三角形の魔法陣を目の前に生み出しているように見える。


 その三角形となった魔線の内側には、入り組んだ形の小片に切り離されたような紙片が並ぶ。

 そのジグソーパズルを思わせる紙片と紙片の間には、蜘蛛の巣のような魔線と繋がるルーン文字のような魔法文字が幾つも浮いていた。


『大量の礫も異常ですが、それはただの牽制として、あの三角形の魔法陣? はカウンター魔法でしょうか』

『あぁ』

『そして、ロロ様と戦っている右側にいる風の女精霊は、わたしと似た意識を持った精霊、わたしも出たほうが』

『相棒なら大丈夫だ。カソジックと鳥のササミを出されたらヤバイかもだが』

『ふふ、はい』


 常闇の水精霊ヘルメと思念会話をしながら――。

 背後のレザライサの気配に合わせ風槍流『片切り羽根』の歩法を実行――。

 

 イケメン魔法使いとの間合いを詰めていく。


 そのイケメンの魔法使いは、岩が表面に付着している魔法事典から礫を射出させつつ後退――。

 <精霊珠想>と曲大剣で礫を防ぎながら迅速に駆けた。


 イケメンの魔法使いが槍圏内に入った。

 そのまま左足で床を突く踏み込みから――。


 魔槍杖バルドークを突き出す<血穿>を繰り出す。


 イケメンの魔法使いは加速しつつ、


「速いが、ここだ――」


 後退しながら、両手と片目を結ぶ三角形の魔線から、本当に三角形の魔法陣を回転させながら飛ばしてきた。更に両手と片目を結ぶ三角形の魔線からも、複数の魔法文字と紙片を飛ばしてきた。


 その魔法文字と紙片は稲妻を帯びる。

 岩の魔法事典から射出している礫と混じるように飛来してきた。


 罠に誘ったつもりか?

 ――このまま盾として動こうか。


 それらの礫と稲妻を帯びた魔法文字と紙片が――。

 ドッ、ドドドッと音を響かせながら<血穿>の魔槍杖バルドークと右腕と右半身のハルホンクの防護服と左腕を覆うような曲大剣と衝突を繰り返す、爆発も起きた――。

 

 髪の毛や耳が切断されたぐらいであまりダメージはないが<血穿>は止められた。

 イケメンの魔法使いは退く――。

 と、背後のレザライサが、


「――槍使い、一の後をもらう」


 そう発言しつつ跳躍してきた。

 銀魔力が体を包むレザライサ――。

 ゼロコンマ数秒も経たず防護服が変化を遂げた。

 

 【白鯨の血長耳】の先鋭的な戦闘スタイルを表現しているような印象を覚える。


 そのレザライサは魔槍杖バルドークを蹴って軽やかに前方へ跳ぶ――。

 イケメンの魔法使いに宙空から近付いた。

 銀魔力が魔剣ルギヌンフを包む。

 レザライサは迅速に魔剣ルギヌンフを振るった。


 魔剣ルギヌンフの幅広の刃から喰い刃の化け物がにゅるりと出現。

 その喰い刃の化け物は獰猛さ極まる鮫の歯牙を擁した塊に見えた。


 魔剣ルギヌンフの造形を見たイケメンの魔法使いは驚愕。


「なんだ!?」


 と言いながらも、両手と片目を結ぶ三角形を描くような魔線の内部から魔法文字と紙片を斜め前方に飛ばし、岩の事典のようなモノから礫を放ちながら魔剣ルギヌンフの喰い刃の化け物に衝突させていくが、一瞬で喰い刃の化け物に喰われて消える。


 イケメンの魔法使いの口が真一文字に切断された。


「げぇぁぁ――」

「浅かったか!」


 レザライサはそう叫ぶと前進し――返す魔剣ルギヌンフを振るう。


「トフカ様!」


 黒豹ロロと戦っていた風の女精霊は叫ぶ。


 イケメンの魔法使いは「――チッ」と舌打ちしつつ、足下から長い土の壁を生成し、頭上から大きな鐘を召喚する。


 魔剣ルギヌンフの喰い刃の化け物は土の壁の大半を喰らい消すと大きな鐘と衝突。

 大きな鐘を喰い刃の化け物は喰えず、魔剣ルギヌンフは反動でレザライサの腕ごと持ち上がる。

 そのレザライサは退いた。


 口が派手に切断されているイケメンの魔法使いは、周囲に風を起こしながら横回転しつつ口の傷を回復させたのか、「――俺は大丈夫だ」と宣言。


 レザライサは、


「その回復能力は吸血鬼ヴァンパイア級か!」


 そう言いながら再び前進。

 が、そんなレザライサと逃げるイケメンの魔法使いに短剣とポーション瓶が複数飛来。

 短剣とポーション瓶を複数<投擲>してきた存在は赤髪で外套を着ている。


 その赤髪の男はイケメンの魔法使いのほうに移動した。


 レザライサは咄嗟に退く。


 レザライサがいた床が連鎖爆発、短剣も床に突き刺さった。


 その退いたレザライサに、二剣を持つ魔剣師が迫る。


 その二剣の魔剣師に向け《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を数発放つ。

 スキルの<仙玄樹・紅霞月>の月の魔刃も放った。


 同時に左手の武器を鉄の曲大剣から無名無礼の魔槍に変更しながらレザライサの横に移動。


 俺の遠距離攻撃を青白い魔剣で払った魔剣師は退いた。

 レザライサは体勢を立て直し、


「槍使い、すまん、助かった」

「おう、いつものことだ、気にするな」

「ふっ」

「血長耳の盟主と強者の黒髪、三剣ミカズキが参る!」


 その三剣ミカヅキは前傾姿勢で魔剣を持つ両手を前方に突き出してきた。

 魔槍杖バルドークを傾け、待つ――。


 ゼロコンマ数秒後――。


 乱雲の形と似た穂先と螻蛄首で二つの魔剣を受けた。


 二つの魔剣の切っ先から剣身を上に運び担ぐように前進――。

 二つの魔剣と擦れた魔槍杖バルドークの穂先と螻蛄首から火花が散った。

 

 三剣ミカヅキは両腕が上がり胴体を晒す。

 そのがら空きの胴体に無名無礼の魔槍の穂先をぶち込もうとした瞬間――。


 三剣ミカズキはニヒルに嗤い、


「<牙眼魔手キドル>――」


 胸から牙と眼球が重なった歪な魔手が握る赤黒い魔剣が伸びてきた。


 魔槍杖バルドークを強引に上げ、消去――。

 無名無礼の魔槍も消す。

 体勢を屈めたダッキングで赤黒い魔剣を避けつつ<凍迅>を発動――。

 アーゼンのブーツに魔力を込めた。

 《スノー命体鋼・コア・フルボディ》の影響もあってか<凍迅>の威力が高まったように三剣ミカヅキがいる方向だけが細氷世界となった。


 俺の頭頂部を掠った魔剣と魔手の<牙眼魔手キドル>も一瞬で凍り付く。

 そのまま<水月暗穿>を実行――。

 <導想魔手>で床を突く、その反動を活かし<導想魔手>で体を支えながら独自上段足刀トラースキックを繰り出した。

 三剣ミカヅキは、体が凍え硬直し、二つの魔剣を落としていた。

 その腹を独自上段足刀トラースキックが捉える。

 ドゴッと重低音が響くと更にゴキッという破裂音が三剣ミカヅキの腹から響いた。


「ぐえぇぁぁ――」

 

 三剣ミカヅキの体は上空に打ち上がる。

 続けざま、左手に無名無礼の魔槍と右手に魔槍杖バルドークを召喚しつつ跳躍――。

 <凍迅>の上昇気流に乗るように無名無礼の魔槍と魔槍杖バルドークの穂先が、凍っていた三剣ミカヅキを穿ち、その体を破壊――。


 周囲を見ながら着地。

 俺に迫る風の魔弾と魔矢と投げ槍に向け<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚。

 

 風の魔弾と魔矢を大きい駒で防ぐ。

 投げ槍は左前に出たレザライサが魔剣ルギヌンフで両断してくれた。


 刹那、そのレザライサがいる左側にいるイケメンの魔法使いが魔法の杭を寄越す。

 大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾にしつつレザライサの隙を埋めるように左に出た。

 

 シンプルな魔槍杖バルドークの<刺突>で魔法の杭を両断――。

 やはり杭は硬い。<火焔光背>で吸えるような感触ではない。

 魔法の杭だと思うが、魔法って感じがしないな。


 レザライサは帽子を被った射手を見て少し驚きつつ、


「あの射手、覚えがある……」


 そう発言し、イケメンの魔法使いを見て、


「しかし、今切断した杭は魔法なのか?」

「魔法だとは思うが、硬い」


 硬度はどれぐらいだろう。

 レザライサは、


「スキルの可能性があるか」

「あぁ」

「どちらにせよ質は異常に高い。前哨戦を勝ち上がっただけはある」

「最低でも三属性以上の魔法を扱える大魔術師アークメイジ級か」


 レザライサは頷く。

 チラッと相棒と風の女精霊を見ては、


「……更に、お前の神獣と互角の風の精霊様を使役している」


 頷いた。

 天凜堂の戦いで相棒の強さを見ているレザライサだからな。

 そのレザライサはイケメンの魔法使いに視線を戻し、


「身なりは戦士系で、大魔術師とは思えない強者は、髪の色を変えることが可能で、傷を回復するアイテムかスキルを持ち、空極と呼べる空戦魔導師のような見事な飛空術を扱える存在だ」

「レザライサは知らないのか」

「知らない」

「【闇の八巨星】の【八指】なら、その闇ギルドごと有名になっているぐらいには強いか」


 頷くレザライサ。


「【闇の枢軸会議】の枠に入っている組織のすべてを把握しているわけではないからな。だから、ここ最近、【塔烈中立都市セナアプア】にやってきた存在と推測する」

「……」

「槍使い、お前がそのような表情を浮かべるとは意外だ」


 カリィのように心外ダァとやればいいのか?

 

「……どんなだよ。ま、怖いもんは怖い。痛いのは嫌なだけさ」

「では、わたしがあの魔法生命体と大魔術師アークメイジと似た空戦魔導師のような男を倒そうか?」

「レザライサは、俺たちの背後を頼む」

「ふっ、血月布武の隊長・・殿! 了解した――」


 レザライサは笑うように俺に隊長を被せてきた。

 魔剣ルギヌンフを振るい、床から重低音を響かせながら前に出た。


 そのレザライサが狙う敵の動きも速い。

 魔素の動きからの判断でしかないが、当然一流の凄腕。

 ま、血長耳の総長だ、大丈夫だろう。


 後方はレザライサに任せる。


『閣下、わたしが出ますか?』

『まだだ、<精霊珠想>を続けてくれ』

『はい』


 左目から液体ヘルメが少し出た。

 左の宙空を漂うイケメンの魔法使いは、レザライサとの連携と周囲の敵を警戒したのか距離を詰めてこない。中距離~遠距離戦を主体とする戦い方か。


 そのイケメンの魔法使いは掌の真上に魔法の杭を再び出現させる。


 その魔法の杭を飛ばしてきた。

 ――<導魔術>で操作している杭にも見える。

 その飛来してくる魔法の杭を魔槍杖バルドークの螻蛄首で叩き潰した。

 

 その直後――。

 風の女精霊が黒豹ロロの頭上を越えて風の魔弾を寄越してきたから、魔槍杖バルドークを左から右へと返し、二つの風の魔弾を柄で潰した。


 そのまま風の女精霊のほうへ前進――俄に加速した風の魔弾が増えてきた。


「トフカ様に傷を与えた片割れ……許しません」


 風の女精霊は、目に角を立てる。そして、動きは速い――。更に、風の魔弾はひと味違う――緩急の付いた風の魔弾とか、受ける側からしたらたまったもんではない――。

 

 が、頼もしい黒豹ロロの触手骨剣が、その風の魔弾を貫きまくる。

 ヘルメの<精霊珠想>から出た水の手も風の魔弾を溶かすように引き込んでくれた。


 その間に宙を旋回していたイケメンの魔法使いを凝視――。


 同時に、左奥の中央で暗光ヨバサと戦っている魔剣師たちも視界に入る。


 大舞台の中央は激戦区か。

 暗光ヨバサは俺が倒したかったが――。

 他のだれかに倒されてしまうかもしれないな。


 大舞台の外の関係者席で見守るルシエンヌに――。

 『済まん』と視線を向けたかったが、そんな余裕はない――。


 無数の風の弾丸に加えて針のような風の攻撃が増えてくる。

 更に風の塊を繰り出してきた。塊は風のハンマーか。

 風の弾丸と針のようなモノが、その風のハンマーの周囲を覆っていた。


 俺の魔察眼では、中央と端の魔力の濃淡で形がよく分かる。

 が、中々凶悪な攻撃手段だ。


「ンン、にゃご!」

「おう」


 黒豹ロロと気持ちを一つに――。 

 触手骨剣と魔雅大剣の突きと魔槍杖バルドークの<刺突>で――。


 その風のハンマーごと風の魔弾と針のような連続攻撃のすべてを貫く――。


『ふふ、ロロ様との連携がイイ感じです!』


 ヘルメの思念に『ああ』と同意しつつイケメンの魔法使いにも気を配る。

 と、暗光ヨバサと戦う二刀流の魔剣師が目に入った。


 ジャマダハルのような短剣を右手に持つ軽戦士も暗光ヨバサに寄る。


 軽戦士は、暗光ヨバサの胴体を狙う突きを繰り出した。

 暗光ヨバサは右手に持つ魔刀の柄頭でジャマダハルの攻撃を往なし、左手に持つ鞘を前方に動かして更に繰り出しされたジャマダハルの払いを弾く。


 と、二刀流の魔剣師の斬撃を斜めに傾けた魔刀の刃で受け、二刀流の魔剣師の攻撃も華麗に左上に弾く。


 暗光ヨバサは二対一となったが気にしていない。


 軽戦士のジャマダハルの突きスキルを上下に動かした鞘で打ち払うと、闇魔力に包まれ消えた。


 否、闇魔力を活かした残像スキルか?

 霧か靄のようなモノの中から加速しながら出現した暗光ヨバサは身を捻りながら足を伸ばす――。


 中段足刀を軽戦士の腹に喰らわせ蹴り飛ばしていた。

 短剣と似たジャマダハルは床に転がった。

 暗光ヨバサは強い。

 が、あまり見てばかりいられない――。 

 

 風の女精霊による攻撃が増えてきた。

 右の制空権を握るが如き勢いだ。

 戦闘機がバルカン砲を連射する光景を想起しつつ、その激しい風の魔弾を避けるように黒豹ロロと大舞台の右側へと移動しながら――。


 無数の《氷弾フリーズブレット》を放つ。

 

 迫りくる風の魔弾と《氷弾フリーズブレット》が衝突。

 俺と風の女精霊の間の宙空に、幾つもの霜のカーテンが発生した。


 先ほどの鉄の曲大剣を盾にすることも考えていたが、風の魔弾の相殺に成功。

 

 そして、風の女精霊は風の魔弾を放ち続けているが、魔力の衰えはない。


 魔力は無尽蔵か。

 俺と常闇の水精霊ヘルメのような本契約を、イケメンの魔法使いと結んでいるのか、それともアイテムをキーとした契約か……。

 

 その風の女精霊目掛けて――。

 十数の《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を繰り出した。

 間髪を容れず――。


 ――《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》も繰り出した。


「――ナイア、武技のエインザブルを仕留めた無詠唱の皇級か神級だ! 面取りを優先しろ!」

「トフカ様、心配し過ぎです。どんな上位魔法も魔法は魔法――」


 風の女精霊はそう言い切る。

 と、小型の魔法陣を一瞬で無数に生成し――それらを操作?


 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》と《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》の周囲に小型の魔法陣を移動させた。


 それは陰陽・五行・十干十二支を意味するような結界魔法陣となる。

 挟まれた《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》と《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》は一瞬で消えてしまった。


 消え方が瞬間的過ぎる。


『え! 閣下の強力な魔法を……』

『あぁ、厖婦闇眼ドミエルとはまた違うが強い』

『はい、動きも素早い』

『妾のシークレットウェポンなら、風の精霊の体をズボッと貫いて終わるはず!』

『そうかもしれないが、まだ使わない』

『ぐぬぬ!』


 すると、黒豹ロロが「ンン」と鳴いて俺の前に出た。

 風の女精霊は、その黒豹ロロと俺に風の魔弾を連射してくる。


 相棒は首付近から複数の触手を上空にいる風の女精霊に繰り出した。


 それらの触手からダイナミックに飛び出た骨剣が無数の風の魔弾を貫き切断しまくると、黒豹ロロは、


「にゃご!」


 と気合いを発し魔雅大剣を持つ触手を直進させる。

 螺旋回転する魔雅大剣の切っ先が風の女精霊に向かった。


 魔雅大剣から橙色の魔力の粒子が周囲に出る。

 その魔雅大剣の周囲を回る複数の触手が上下左右に動き宙を戦ぐ。


 その魔雅大剣の突きが、風の女精霊の体を突き抜ける。

 倒したかと思われた直後――。


 ――風の女精霊の姿が一瞬消えて現れる。


 魔雅大剣と魔雅大剣を持つ触手は風の女精霊の体をすり抜けていた。


「にゃ! にゃぉ~」

『風の精霊はわたしと同じく物理攻撃を無効化するようです!』

『あぁ』

『なぁんと! 前言撤回! おっぱいの大きさは妾よりないが風の女精霊は強い! 器よ、<鎖>で捕まえて<火焔光背>で吸うか、弱らせて<霊呪網鎖>を使うのだ!』

『狙えたら狙うが――』


 ――黒豹ロロは魔雅大剣を持つ触手を引かせた。

 ――複数の触手から出た骨剣の攻撃を主力に切り替えつつ俺と一緒に前進。


 走りながら左側の宙空にいるイケメンの魔法使いに――。


 《氷弾フリーズブレット》を繰り出す。

 イケメンの魔法使いは土属性の魔法盾を無詠唱で出現させる。

 

 俺の《氷弾フリーズブレット》を土の魔法盾で防ぎながら横へ移動。


 そのイケメンの魔法使いの斜め後方から複数の短剣とポーションが飛来していく。


 イケメンの魔法使いがレザライサに攻撃にいけない理由か。

 好都合――攻撃が集中しているイケメンの魔法使いに向け――。

 

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を連続的に五発発動――。


 イケメンの魔法使いは己の<魔闘術>系統を強めた。 

 足下から魔印を生み出す。

 体がブレにブレる加速術を発動。


 <仙魔・桂馬歩法>や<脳脊魔速>のような加速スキル系統か?

 

 俺が放った《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を避け、横回転を行った。

 イケメンの魔法使いは踊るような機動から、背後に目があるが如く――。

 身を翻しながら振るった魔杖から伸びたムラサメブレード・改のような青白い魔刃で複数の短剣を一度に両断――。


 召喚し直した小さい魔法事典からも礫を飛ばす――己に近付いていたポーション瓶と礫が衝突し爆発。他のポーション瓶とも衝突し爆発が連続的に続く。


 ポーション瓶は爆発ポーションか。

 手榴弾みたいなもんか。


 イケメンの魔法使いは、礫と魔杖から伸びた魔刃を振るって短剣とポーション瓶を迎撃しながら退きつつ、土の魔法盾もポーション瓶に衝突させた。

 

 ポーション瓶と土の魔法盾は相殺、大爆発。

 後退を続けるイケメンの魔法使いは大爆発で頭部にダメージを喰らった。

 頭部から血を流す。

 

 そのイケメン魔法使いに次々と短剣とポーション瓶が飛来する。


「ロロ、また風の女精霊を少し頼む」

「ンン――」


 黒豹ロロに少し任せて、漁夫の利を狙うとしよう――。

 左斜め前に走りながらイケメンの魔法使いに向け《氷竜列フリーズドラゴネス》を放つ。


「トフカ様!」

「ふっ」


 イケメンの魔法使いは笑う。

 

 飛来してきた短剣を魔杖の魔刃で斬り刻みながら横移動を行う。


 と、頭上に先程レザライサの攻撃を防いだ巨大な鐘のような物を召喚。

 その巨大な鐘が煌めくと《氷竜列フリーズドラゴネス》を吸収――。


 マジか、吸収かよ! 驚いた。

 

 そのイケメンの魔法使いこと、トフカは上昇を続けて透明な膜を越え天井に足を付けた。


 そのまま天井を駆けるトフカ。

 トフカの靴は磁力か蛸の吸盤のようなモノが複数付いている?


 ポルセンなどが得意としている<血魔力>を足に纏わせるスキルもあるからな。


 ポーション瓶と短剣は、そんなトフカを追尾するように向かっていった。

 その無数のポーション瓶と短剣を<投擲>する存在は赤髪の男。


 赤髪の男はアイテムボックス持ちだとは思うが、短剣やポーション瓶を<投擲>しているようには見えない。袖か手首に備えた装備から短剣とポーション瓶を射出しているか、召喚しているように見える。


 ポーション瓶は透明な膜と衝突。

 膜の表面を焦がす程度の爆発が起きて止まる。

 一方、短剣は透明な膜を突き抜け、次々とトフカがいた位置の天井に突き刺さっていた。 


 天井は頑丈、短剣にも魔力は内包されていて刺さってはいるが、びくともしない。

 トフカは飛翔し、急旋回しながら大舞台の中央にいる魔法使いの隙を突くように、魔法の杭を、その魔法使いに喰らわせて倒す。


 と、赤髪の強者から離れて俺の左側に戻ってきた。


 そのトフカは宙空浮遊を続けて静止。

 体力と魔力を回復させるように<瞑想>を行った。


 隙は逃さない。

 風の女精霊と戦う黒豹ロロに向け――。


「ロロ、仕掛けるから後退してくれ」

「ンン――」


 相棒が俺の後方に戻ったところで――。

 左と右の方角へダブルの《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を発動。


「無駄だ。多重無詠唱魔法を扱う大魔術師アークメイジ!」


 トフカはポーション瓶の爆発から逃れるように体を加速させる。


 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》に近付くと同時に《氷竜列フリーズドラゴネス》を吸収した巨大な鐘で《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を吸収。


 巨大な鐘は不思議な音を鳴らして消えた。


 風の女精霊は、先ほどと同じく複数の小型の魔法陣を《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》に衝突させるように結界を作ると、一気に《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を消してきた。


「ハハハッ、いい魔力だ!」

 

 トフカは俺の魔法の魔力を吸い取ったのか?


「わたしに魔法は効きません!」


 風の女精霊はそう言うと、小さい三日月状の魔刃を俺と相棒に寄越してきた。

 俺と相棒は横に移動するが、正確に追尾してくるから厄介だ。


 魔槍杖バルドークを上下に振るい、小さい三日月状の魔刃を叩き潰した。

 同時に、俺の半身を守るヘルメの<精霊珠想>から伸びた無数の水の手が、三日月状の魔刃を五つ捕らえ<精霊珠想>の中に引き込む。


『ふふ、強力な魔刃ですが、わたしにも閣下にも効きません!』

 

 ヘルメと俺は魔力を得た。


「……お前も連続の無詠唱魔法や紋章魔法などに加えて、左目の存在も見事すぎるが……さすがに俺の<顧法ノ大鐘タルヴァ>は見たことがないだろう……」


 巨大な鐘は対魔法の<顧法ノ大鐘タルヴァ>か。

 スキルか?

 それとも召喚アイテムか。

 そんな巨大な鐘を扱うトフカは強い。


 岩の魔法事典が膨らむと最初の時に見せていた大きさに戻った。


 トフカは岩の魔法事典と魔杖を周囲に浮かせたまま、己の両手から長柄の魔法杭を生み出すと、己に短剣とポーションの遠距離攻撃を繰り出していた赤髪の強者を凝視。

 そして、岩の魔法事典から無数の礫を赤髪の強者へと飛ばしていた。


 トフカは長柄の魔法の杭も、その赤髪の強者へと飛翔させていく。

 

 トフカは赤髪の強者を優先して狙うようだ。


 レザライサの位置を把握。

 レザライサは魔剣師と戦って数度打ち合うと、その魔剣師を斬り伏せていた。


 レザライサの左右から敵が迫るが、俺にも、風の女精霊が風の魔弾を寄越してきたから――。


 相棒と一緒に大舞台の右に走る。


 風の魔弾目掛けて魔槍杖バルドークを振るい下げ、風の魔弾を嵐雲の穂先で斬る。

 続けて魔槍杖バルドークの柄を下げ風の魔弾を潰した。

 そのまま魔槍杖バルドークの柄を持つ右手ごと振るい上げる。

 

 竜魔石で風の魔弾を弾くように潰す。


 今度は魔槍杖バルドークの穂先を上方向に振るい上げた――。

 

 風の魔弾を連続的に漏斗雲と似た穂先で斬る。


 そのまま両手握りの魔槍杖バルドークの両端で∞の字を宙に描くように振るい回し、風の魔弾を切断しまくった。


「ンン」


 相棒も触手から出た骨剣を振るい回し、風の魔弾を切断。

 中央の右寄りから右側へと移動すると風の女精霊と距離が離れた。


 風の女精霊はトフカの周囲からあまり離れていない。


 横目で中央と左側を見る。


 赤髪の強者は、ゆったりとした動きから、急に加速し、飛来してきた無数の礫を避けた。


 更に、両手首の真上から肘にかけて三日月状の湾曲した魔刃を生やす。

 その両腕の魔刃を振るいながらジグザク機動を繰り返す。


 己に近付いてきた礫と魔法の杭を、両腕の魔刃で切断しながら退く。


 赤髪の強者は、トフカから距離を取り、乱戦状態の大舞台の中央部に移動し――魔銃使いの遠距離射撃を魔槍で防いでいた猫獣人アンムルに近付いた。


 トフカの遠距離攻撃を魔銃使いと猫獣人アンムルの槍使いになすりつけるつもりか。


 その赤髪の強者は、己の姿を何重にも重ねたような影を足下に創ると、影の中に消えた。


 刹那、右斜め横に出現した赤髪の強者――。


 疾風迅雷の加速から、三角帽子を被る魔杖から炎の剣を無数に発生させていた魔法使いに近付き、腕の魔刃を振るった。


 三角帽子を頭部に被る魔法使いは両手に炎の剣を持ち、周囲に炎の剣を浮かせて操作していた。


 その魔法使い、魔剣師と呼ぶべきか。


 三角帽子が似合う魔剣師は、赤髪の強者が振るった魔刃を炎の剣で受けて弾く。


 三角帽子が似合う魔剣師と赤髪の強者は、一瞬で数十と打ち合いながら横移動を繰り返し、間合いを取っては再び激突。赤髪の強者は爆弾ポーションと短剣に剣術まで巧み。


 その二人の戦いに四つん這いとなっている存在が近付く。

 乱戦模様となりそうだ。


 と、風の女精霊が反転して、俺に風の魔弾を寄越してきた。


 赤髪と魔銃使いと猫獣人アンムルに向けて魔法の杭を飛ばしていたトフカは、己に迫った魔矢を避けつつ、


「――ナイア、その槍使いは後回しにしろ!」

「――はい」


 ナイアというらしい風の女精霊は、風の魔弾と小さい三日月状の魔刃を俺たちに放ち続けながら飛翔。


「ンン――」


 俺と黒豹ロロは凍った床を滑るように前進を続けて風の魔弾を避けた――。

 すると、ぞくりと背筋が震えた。

 強力な魔力をトフカのほうから察知――。

 風の女精霊ナイアも俺への攻撃を止めてトフカに向かう。

 トフカの足下、中央から右側の床には巨大魔法陣が展開されていた。


 トフカが繰り出した巨大魔法陣?

 宙空からトフカに近付いていた風の女精霊ナイアは、


「トフカ様、この魔法陣は!?」


 そう聞いた風の女精霊ナイアも飛行する能力が消えたようにトフカに寄る。

 同時にトフカの周囲の岩の魔法事典が萎んで消えた。

 トフカは巨大魔法陣に着地し、左手を翳す。


「――ナイア、これに戻れ」

「はい――」


 トフカの指輪に吸い込まれて消えた風の女精霊ナイア。

 トフカは左側を睨みながら「……<顧法ノ大鐘タルヴァ>」とスキルを使用。


 巨大な鐘を足下に出した。

 巨大魔法陣は、その巨大な鐘の影響を受けたのか、トフカの足下だけ穴が出来ていた。

 

 その穴が出来たお陰で巨大魔法陣の影響が消えたのか、トフカの近くに岩の魔法事典が浮かび上がる。


 巨大魔法陣の影響はトフカ以外の魔法使い系統の強者たちも受けている。

 

 魔法が霧散していた。


 魔法剣や魔法槍が消えては、使役しているだろう魔法生物などが消えていきテイマーが叫ぶ。


 一方、巨大魔法陣の影響を受けても、魔法が消えず魔法剣も扱える存在と、魔造虎のような魔法生物を扱うテイマー系の凄腕もいる。


 精神力、魔力の差か?

 その中央と左側の乱戦中の誰かが対魔法効力の高い巨大魔法陣を発動させたようだ。


『あのマジックキャンセルの巨大魔法陣の中では、わたしは出ないほうが良いですね。しかし、トフカが扱う閣下の魔法を吸収してきた<顧法ノ大鐘タルヴァ>はそれにすらも干渉を……凄い』

『あぁ……』

『器、あの巨大魔法陣だろうと妾たちなら動けるはず、使うのじゃ』

『まだだ』


 そのトフカに迫る魔槍が見えた。

 トフカは足下の<顧法ノ大鐘タルヴァ>の横から縦長の土壁を生み出す。

 左側から迫った魔槍は土壁を突き抜けて、トフカに刺さるかと思ったが、トフカは魔杖から伸ばした魔刃を振るい上げ、魔槍を斜め上に叩き上げ弾くと、その魔槍は床に転がった。


 トフカは魔槍を<投擲>してきた存在目掛けて突進。

 左右の手に魔杖を召喚し直し、その二つの魔杖から魔刃を生やして乱戦に混ざる。

 トフカは、魔法剣士系統の戦闘職業も持つようだ。


 <脳脊魔速>を使って、皆の武術と魔法の動きを学びたい――。

 が、今できることは限られている――。 


 後退し、レザライサの横を取ろうとした二剣を扱う魔剣師に向け――。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を繰り出す。

 魔剣師は俺の《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》に気付き、半身の姿勢となったが、レザライサに隙を見せたらお終いだ。


 魔剣師は肩から魔剣ルギヌンフの刃に喰われたように胴体が真っ二つ。

 そのレザライサは、


「槍使い、見事な牽制だ――」

「おう」


 レザライサは俺と黒豹ロロの背後に回り込む。

 そのまま皆で大舞台の右側へと移動。


 すると、大舞台の右奥で戦っていた魔剣師二人と槍使い二人が後退してきた。


 人族の肌に刺青が目立つ槍使いの<豪閃>らしき薙ぎ払いを往なした四腕を持つ魔剣師魔族が、俺に向け、


「<悪式・斬首剣>――」


 いきなり魔刀を振り下げてきた。


「槍使い、わたしの方に突っ込んでくる強者がいる。フォローはできん」

「了解――」


 レザライサが離れた。

 右足を引き、半身の姿勢から爪先半回転を行う。

 魔刀の<悪式・斬首剣>を避けつつ、その魔刀を振るった魔剣師魔族とレザライサの髪を見ながら右斜め後方に後退した。


 黒豹ロロも後退。

 魔剣師魔族は槍使いが繰り出してきた連続突きを左上腕と左下腕が握る魔刀で左右に弾く。


 と、魔槍の穂先を二つの魔刀で挟み、封じる。

 槍使いは、


「離せ! ケビルの魔槍を――」


 力尽くで魔槍を引き抜こうとした。

 が、その槍使いに魔剣師魔族は下段蹴りを喰らわせる。


「げぇ――」

 

 足を掬われ転倒した槍使い。

 戦っていた魔剣師魔族以外の二人から問答無用で攻撃を喰らう。

 頭部と胴体が潰されるように串刺しにされ倒された。


 魔剣師魔族は転倒した槍使いと戦っていた二人を無視して俺に突進してきた。


「覚悟――」


 そう言いながら俺と相棒に迫る。

 誘い待つ。

 魔剣師魔族は槍と剣の間合いに入った直後――。

 

 細長い右上腕が持つ魔刀を、


「<愚王・斬襲>――」


 とスキル名を発しながら振るってきた。

 赤い魔刀の<愚王・斬襲>の機動に合わせ魔槍杖バルドークの石突の竜魔石を前方に突き出して、赤い魔刀の刃に竜魔石を衝突させた。


 竜魔石と赤い魔刀の衝突面から蒼と赤の激しい火花が散った。


 硬質な音が響くなか、血魔力<血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>――。


 その加速から微妙に<魔闘術>を強め弱めを繰り返し緩急を付けた。

 <魔人武術の心得>を意識。


 右、左と反復横跳びを行うように横移動を繰り返し、魔剣師魔族から離れた。

 同時に右手の魔槍杖バルドークを消す。

 直ぐに左手に魔槍杖バルドークを再召喚。


『羅、力を貸してもらう』

『はい――』


 <瞑道・瞑水>を発動。

 <瞑道・霊闘法被>は使わない。


 俺の左側にいた黒豹ロロが、首から出した触手を魔剣師魔族の足へと向かわせた。

 魔剣師魔族は四眼と額の小さい角を輝かせ、

 

「チッ、魔獣めが!」


 魔剣師魔族はそう叫びつつ――。

 黒豹ロロの動きを二つの魔眼で捕らえながら、右下腕が持つ魔刀を足下に半円を描くように振るい、触手から出た骨剣を弾く。


 もう二つの魔眼で俺を追うように頭部を向けてきた。

 魔眼からプレッシャーを感じる。

 魔剣師魔族は前のめりの体勢となって右前に出た。


 その魔剣師魔族は己の<魔闘術>系統を強め、


「――魔法衣と<血魔力>の加速スキルを持つ魔獣使い! 動きは速いが、<四眼イニス>には見えているぞ、<愚王・速魔剣>――」


 そう言いながら――。

 左上腕が握る魔刀で俺の胸を突こうとしてきた。

 四眼ルリゼゼや魔人ソルフェナトスを思わせる加速からの剣術スキル。


 突き出てくる闇色と小麦色が混じる魔力を纏う<愚王・速魔剣>の刃の機動に合わせ――。

 魔力を込めた魔槍杖バルドークを斜めに傾ける。

 ――腰も落とす。

 <愚王・速魔剣>の切っ先と刃を紫色の柄で受けた直後に<黒呪強瞑>を発動。


 魔槍杖バルドークを上げた。


 硬質な音と共に発生している火花を吸収している魔槍杖バルドークからゴォォと不気味な重低音の魔声が響く中、魔刀ごと魔刀を持つ魔剣師魔族の左上腕が上がった。


 刹那、右の逆手を――。


 胸と脇腹に掛けて身に付けている剣帯と蒼聖の魔剣タナトスの柄巻に当てるように動かし、その蒼聖の魔剣タナトスを引き抜く。


 掌で、その蒼聖の魔剣タナトスを回転させる。

 握り手を普通に戻しながら振り下げ、魔剣師魔族の左下腕の魔刀に蒼聖の魔剣タナトスの刃を衝突させながら引き、切っ先を魔剣師魔族に向け、同時に<導想魔手>の歪な魔力の手で古の義遊暗行師ミルヴァの短剣も引き抜いた刹那――。

 

 <蓬茨・水月夜烏剣>を実行――。


 真っ直ぐ突き出た蒼聖の魔剣タナトスから蒼い半月が四方に散る。

 その蒼い剣先が魔剣師魔族の肩口から侵入――。


 魔剣師魔族の胸と肺に剣先が届いた。


「ぐぇ」


 血を吐く魔剣師魔族は死なず、右下腕を動かした。


 素早く<導想魔手>で扱う――。

 古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を――。


 魔剣師魔族の右下腕が持つ魔刀に衝突させた。

 古の義遊暗行師ミルヴァの短剣から紫と蒼が混じる鴉が散って、魔剣師魔族の視界を潰す。その古の義遊暗行師ミルヴァの短剣で魔剣師魔族の右下腕の手首を切った。


 その直後、魔剣師魔族の胸から閃光が迸って上半身が吹き飛ぶ。

 血濡れて淡い光を放つ蒼聖の魔剣タナトスと古の義遊暗行師ミルヴァの短剣から茨が絡む月と鴉の魔力が噴出――。 

 脊髄が僅かに残っていた魔剣師魔族の下半身は、それらの茨が絡む月と鴉の魔力と衝突し、散り散りとなった。


 <蓬茨・水月夜烏剣>を見た槍使いと魔剣師は、


「四眼ザイファルがこっぱ微塵みじんとは!」

「あの黒髪は剣と槍の達人で、大魔術師アークメイジ級の魔獣使いか」


 そう語る両者は頷き合う。

 暗黙の了解があるように前傾姿勢で前進してきた。


 二人は協力して俺を倒すことにしたようだ。

 ま、当然の判断だろう。


 <生活魔法>の水を撒く。

 と同時に<闘気玄装>を強めながら――前進。

 

 槍使いは黄緑色の魔槍で、俺の胸を狙う。 

 魔剣師も槍使いと合わせて寄ってきた。


 <導想魔手>の歪な魔力の手が扱う――古の義遊暗行師ミルヴァの短剣で<刺突>を受けた。その古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を下から右に左にと回して黄緑色の魔槍の素槍と似た穂先をなで回す。


 同時に左手が持つ魔槍杖バルドークに魔力を送った。

 魔力が柄から竜魔石に伝搬すると竜魔石から両手剣の幅を持った隠し剣氷の爪が伸び、魔剣師が振るおうとした魔剣と衝突。

 

 魔剣師の足止めに成功。


 続けて、<導想魔手>は捻れる心配がないから――。

 自由に古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を回し続けることが可能――。

 槍使いが持つ黄緑色の魔槍を絶妙に回しながら――。

 

 聖刻印バスターの動きと――。

 〝悪しき冒険者を裁き秩序を保つ〟の言葉を想起。


 前傾姿勢で前進――。


 古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を左へと動かす。

 黄緑色の魔槍を横へ運び、その槍使いとの間合いを詰めた。


 その一弾指――。


 左手が持つ魔槍杖バルドークの隠し剣氷の爪を弾いた魔剣師が寄ってきた。

 魔剣師は下から上へと振り上げた赤黒い魔剣で俺の首を狙う。


 <魔闘術>系統と――。

 <血液加速ブラッディアクセル>などのすべてを消す。


 更にわざと体勢を崩す。

 刹那、<血液加速ブラッディアクセル>を再発動――。


 同時に腰を下げつつ前に移動。


「――な!?」

 

 タイミングが狂った魔剣師の魔剣を楽に避けた。

 黄緑色の魔槍を引いている槍使いに近づきながら<闘気玄装>と<仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を発動。

 

 加速しながら腰を巻くように――。

 右手が握る蒼聖の魔剣タナトスを振るう。


 回避も防御も遅れた槍使いの胸を蒼聖の魔剣タナトスが捉える。

 ざっくりと斬り伏せた。


 ピコーン※<惰・月斬り>※スキル獲得※

 

 よっしゃ――。

 スキル獲得の余韻もないまま魔槍杖バルドークの穂先で床を突く。

 体勢を直すように前転から倒れゆく槍使いの肩を踏みつけ前に跳ぶ――。


 俺の首を狙ってきた右の魔剣師に向け温存していた<鎖>を出すかと思ったが、


「ンン――」


 黒豹ロロが対応。

 右側にいた魔剣師の胴体を魔雅大剣で捉え貫いて、魔雅大剣を振り上げ両断。


「ありがとうロロ!」


 着地際、俺の右後ろに相棒が近寄ってきた。

 蒼聖の魔剣タナトスと古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を胸ベルトに仕舞う。

 

 半身の姿勢で周囲を見ながら黒豹ロロに向け、


「ロロ、次はレザライサのフォローを頼む、俺はちょい試す――」

「にゃ~」


 黒豹ロロの反転する動きを魔素で把握しながら前進。

 大舞台の端に近付き、前方へ跳躍――。

 低い金網を瞬時に飛び越え《氷竜列フリーズドラゴネス》に耐えた透明な膜に肩タックル――そのまま透明な膜を突き抜け大舞台の外に出た。


 ――足下に生成した<導想魔手>を蹴り跳ぶ。

 関係者の席を越え一階の観客席の真上辺りに移動――。

 再び足下に<導想魔手>を作り、その<導想魔手>に着地しながら振り返る。

 大舞台を見てから――。

 一階の観客席の前部と関係者たちがいる昇降台だった席に視線を移す。

 

 フクロラウドが事前に語っていたように――。

 低い金網の上に展開されていた魔法の膜は単なる魔法防御用か――。


 再び<導想魔手>を蹴って跳び――。

 宙空からフクロラウド・サセルエルたちが乗る円盤を見上げた。


 大魔術師ラジヴァンはここからでは見えない――。

 フクロラウド・サセルエルと通じていたのなら、やはり……。


 ま、今は気にしてもな――。

 もう少し試す――。

 宙空で身を捻り<導想魔手>を足下に生成し、その<導想魔手>を片足で蹴り大舞台側へ向けて跳ぶ。

 身を捻りながら再び足下に<導想魔手>を生成し、その<導想魔手>を蹴って真上に跳ぶ。

 そこから再び<導想魔手>を足下に生成し、斜め上に跳ぶ。


 宙空で跳ぶ機動を繰り返す度――大舞台の激戦と関係者の席と観客席や天井などを把握していく。天井は、最初見た時よりも低く感じる。

 視線を下げ、大舞台の縁から伸びている魔法の膜を凝視。

 その魔法の膜の根元は大舞台を囲う低い金網だ。

 その大舞台を囲う魔法の膜へ突入し、また反転、出入りを繰り返した。


 魔法の膜の出入りの度に、ニュルッ、ポンッとした感覚を体に得る。


 何かの糊が体に纏わり付くようで付かない、ガムテープの粘着力より弱くてスライム的か? ちょいと癖になる感覚だ。

 

 結界ってだいたいこんな感じが多い。

 <仙魔・桂馬歩法>を意識。

 半身を大舞台のほうに向ける努力をしながら――。

 点々と突兀を踏む修業を行うように<導想魔手>を蹴る。


 <仙魔・桂馬歩法>を実行。

 

 コンッ――。

 コンッ――。

 ココッコン――。

 ココンッ――。


 小気味いい鹿威ししおどしのリズムが体内に響いた。


『ふふ、何かのリズムを感じます』


 常闇の水精霊ヘルメも音を感じているようだ。

『俺にも肺はあるから、一種の呼吸法に近いか』

『武芸十八般ですね!』

『少し違うが、まぁ似たようなもんだ』


 この思念会話を行うヘルメと、玄智の森のイゾルデを会わせたかった。

 イゾルデは元龍神様。

 その龍神様を眷属とか、嬉しすぎる。

 移り変わる視界の中に玄智の森の光景が混ざったが、今は今! 集中――。


 大舞台の至るところで戦う凄腕たちの様子を把握――。

 相棒とレザライサを視認。

 魔剣ルギヌンフから出た鮫のようなモンスターが射手の胸元を抉っていた。


 すると、大舞台の右側で飛翔を続ける俺に向け、飛び道具が幾つか迫った。


 物理属性の魔矢は、透明な膜をあっさりと抜けて迫る。が、魔槍杖バルドークで弾く。

 魔法の攻撃は、膜の表面に痕跡を残し膜を越えることはなかった。

 対魔法は万全か。観客も安心しきっている。


 これだけの大魔法を展開したフクロラウド・サセルエルはかなり強い。

 

 歓声が激しい。

 すると、また大舞台から、宙にいる俺に向けて魔矢と短剣が迫る。

 その魔矢と短剣を魔槍杖バルドークで処理しつつ――。


 <導想魔手>を蹴って跳ぶ。

 飛翔を続けた。


「ご主人様、ファイト~」

「「閣下ァ、我らの命を捧げる!!!」」

「ん、ゼメタスとアドモス、まだ帰ったらダメ。子供たちもいる。あ、シュウヤ、がんばって」

「――シュウヤ様、子供たちは大丈夫ですから!」

「シュウヤ様、暗光ヨバサはまだ生きています、お気を付けて!」

「おう!」

「シュウヤさん、総長をよろしく~」


 ――クリドススの間の抜けた声が響いた。

 そのクリドススと【白鯨の血長耳】の幹部たちがいる方角に向け手を上げた。


 上から失礼だが、軍曹メリチェグと会釈をしあう。

 世話人ガルファさんはいないようだ。


 さて、<導想魔手>を蹴って膜の中に突入――。

 射手から連続して魔矢が飛来してくる。

 

 再び足下に生成した<導想魔手>を蹴って方向転換――。

 魔矢の追尾がないことを確認し、魔槍杖バルドークを消してから――。


 右手を大舞台の端のほうにいる軍人帽子を被る射手に向けた。

 王級:水属性の《王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード》を発動。


 一瞬で、右腕の前方が氷の世界となった。


 冷気がびゅうと谺する。


 巨大な氷の墓標を伴う氷の道が宙空に連なって大舞台の北側のエリアとドッと衝突。

 軍人帽子を被る射手と、範囲内にいた魔剣師と斧使いは対応できず。

 三人が巨大な氷の墓標に潰されて散った。


 良し、トフカ&ナイアや先ほどの巨大魔法陣を放ったような存在は少ない。

 魔法キャンセル効果が濃厚な巨大魔法陣は、大舞台の中央部に残り続けている。

 

 皆、上位魔法の不意打ちを恐れているのか、その中央部で戦うことが多くなった。

 レザライサと黒豹ロロの位置をもう一度把握。

 

 中央に展開されている巨大魔法陣に入るか入らないかの位置で戦っている。

 俯瞰で見れば大舞台の西側の後方か。


 その西側から北東にかけての床の一部は最初に《氷竜列フリーズドラゴネス》を放った影響か、まだ凍り付いていた。


 その近くにいるレザライサと相棒は大丈夫として――。

 大舞台の中央部で乱戦中の暗光ヨバサを狙うとしよう。


 そう思った瞬間――。


 大舞台の北側に膨大な魔力を察知。


 《王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード》が大舞台と衝突した影響で巨大な氷の墓標が連なっていた氷の世界が溶けて散った。


 氷の塊はあちこちに分かれ吹き飛んでいく。

 周囲にいた魔剣師は炎に巻きこまれ炭化。


 大柄の槍使いは氷の塊と衝突し大舞台から弾き飛ばされ関係者席と衝突。


 大きな猿を連れたテイマーも猿ごと炭化していた。


 相棒の炎を思わせる強力な炎は神級規模か?


 その強烈な炎の魔法を繰り出したのは……。

 三角帽子が似合う女性の魔法使い。


 戦闘職業は大魔術師アークメイジを超えているかもしれない。

 

 が、その大魔術師アークメイジ級だと思われる女性が被っていた三角帽子が吹き飛ぶ。


 金色の髪が不自然に持ち上がった。

 女性は絶句したような表情を浮かべていた。

 

 絶望的な眼差しは己の胸に向けられている。

 その女性の胸には二つの魔槍の切っ先が生えていた。背後にいるのは猫獣人アンムルの魔槍使い、地下で俺が操作していた偵察用ドローンを潰した存在か。


 大魔術師アークメイジと予測できる女性はガクッと力なく頭部を傾けた。


 死んだか……。


 猫獣人アンムルは、その女性の死体がぶら下がる二つの魔槍を持ち上げた。


 そのまま見上げて俺を凝視――。

 三つの双眸は鋭く魔眼持ち。


 星型と正多角形の魔法陣が浮かんでいる。

 

 その猫獣人アンムルは二つの魔槍を左右に振るって女性の大魔術師アークメイジの死体を裂くと斜め前方にいた魔剣師に向かった。

 

 さすがにあの時のように魔槍は<投擲>してこなかったが……。


 位置的に魔槍を蹴り魔槍を飛来させてきた時の光景が重なった。

 恐怖を覚える。

 同時に【ノクターの誓い】のホクバ・シャフィードたち三兄弟をまたも思い出した。

 さて、人数はかなり減ったが……暗光ヨバサはまだ生きている。


 キサラならここから<補陀落ポータラカ>って考えるかな?

 が、素直に槍使いとして突っ込むかな。

 <四神相応>を……いや、フクロラウドが見ているから止めとくか。

 

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