九百六十五話 囚われていた方々の救出

 正式に契約された高級戦闘奴隷ってわけではないようだ。

 皆には首輪がない。両手だけが魔力が漂う拘束具で拘束されていた。

 

 下の荷物にも鍵束は無かったから強引に鉄格子を壊すか。

 他の木箱には――。

 

 乾パンと南瓜のような野菜が入っていた。

 囚われていた方々の食料かな。

 その囚われている方々に向け、


「ここから水属性の回復魔法を掛けるが、大丈夫かな?」

「あ、大丈夫だと思いますが、魔術師の方なのですね」


 大人の男性がそう聞いてきた。

 頷いてから、牢屋の中の囚われている方々に向けて、《水癒ウォーター・キュア》――。

 《水浄化ピュリファイウォーター》――。

 の魔法を念じた。


 複数の水球が破裂して、皆に雫が大量に降りかかった。

 その《水癒ウォーター・キュア》の魔法の雫と、《水浄化ピュリファイウォーター》の水飛沫は一瞬で皆の体に浸透、衣服は濡れない。


 皆の顔色が良くなった。

 よっしゃ。


「「「おぉ」」」

「……」

「あぁ、体に活力が、凄い!」


 大人の女性が喜ぶ。

 笑顔を作りつつ、


「はい、ちょっと奥に下がってください。強引に、あ、金属なら――」


 大人の女性は頷くと後退。

 二人の子供以外は後退してくれた。

 

 血文字で、


『エヴァ、二階に牢屋があった。八人の人族と魔族の大人と子供が囚われていた。強引に壊すと破片が飛ぶ可能性があるから、エヴァが溶かしてくれないか』

『分かった――』

 

 エヴァを待つ間に、二人の子供は一人の子供と大人の男性が引っ張って退かせてくれた。


 その囚われた方々に、


「今、仲間が来る」

「うん、あ、黒猫ちゃんがいる……あれ、触手? 大きい剣を持っている?」


 この男の子は元気だ。


「にゃ」


 黒猫ロロは触手で持っていた魔雅大剣を下に置いた。

 

 一瞬で触手を体内に引っ込める。


 牢屋の中には、三人の子供がいるが……今喋った人族の男の子だけしか黒猫ロロに反応していない。


 二人の子供の双眸は虚ろで、俺を見ているようで見ていない。


 白昼夢か?


「シュウヤ――」


 エヴァは速い――。

 鬼気迫る顔色のエヴァ。

 

 体には紫色の魔力<念導力>を纏っている。

 輝く骨の足を突き出しながら鉄格子に骨の足の一部が触れた。

 一瞬で足が触れた鉄格子が溶ける。床にボトボトと垂れた金属の溶液は一瞬でエヴァの骨の足に吸着されて新たな金属の足となった。


「「「おぉ」」」

「溶けた!!」

「解放してくれるのか……」

「足にくっ付いた……」

「凄い~」


 念の為、切られたような鉄格子の下を触った。

 熱くない、滑らか。しかも少し傾斜した作りに変化していた。


「ん、これぐらいなら直ぐにできるようになった」


 一瞬でバリアフリーとか、


「さすがはエヴァだ」

「ふふ、ミスティなら檻のすべての金属を一瞬でインゴットにしたと思う」

「そうだろうな」


 さて、


「皆、出てくれ。おチビちゃんたちは歩けるかな?」

「わたしは歩けます。ありがとうございます!」

「わたしも大丈夫だ、シュウヤさんと女性の方、ありがとう、ココア、出よう」

「うん」

「「ありがとう!」」

「はい――」


 二人の子供を残して全員が外に出た。

 全員着ている衣服は薄い貫頭衣。


「ん、皆の拘束具を外します。両手を出して並んで、あ、先に茶色の髪の女性から」

「はい――」

「……タベナイで……」

「うぅぅぅ……」


 牢屋から外に出ないのは、魔族と人族の子供。


 人族の子供はタベナイでとか……。

 【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】にはカニバリズム的な習慣がある?

 闇神系ならありえるか。魔族の子供は恐怖で喋れないようだ。


 牢屋の中に入って、子供を強引に抱くか?


 エヴァならメンタルケアができると思うが――。

 紫色の眼が真剣なエヴァは、


「ん、シュウヤ、その子たちは任せた」

「分かった」

「にゃお~」


 先に相棒が二人の足下に寄る。


「……」

「うぅぅぅ」


 黒猫ロロが二人の足にすり寄っても二人は反応が鈍い。


 相棒は何回か己の頭部を子供の足に当てていた。


 が、子供は触れようともしない。


 相棒は鼻先を微かに上下させて、二人の匂いを嗅ぐ。


 と、黒猫ロロは振り向く。


「……にゃ」


 微かな声。

 残念そうな印象と分かる。


 その相棒は、エヴァたちの下にトコトコと移動していた。


 エヴァは、


「鍵穴がない。拘束具は魔道具、切るからジッとしてて」

「はい」


 両袖の中からトンファーを伸ばした。

 トンファーの八角の面から刃が出ると、そのトンファーから龍の形をした魔力が迸る。

 龍の魔力はトンファーの刃と八角の面に絡み蜷局を巻きながら上昇――。

 エヴァはそのトンファーを縦に振り抜いた。


 シュッと音がなった直後――。

 トンファーから発せられた<血魔力>を内包した龍の頭部が、拘束具に噛み付いたような幻影が生まれ――茶色の髪の女性の手首を拘束していた拘束具は割れた。


「凄い!! ありがとう!」


 トンファーの技術ではなく、凄い剣技に見えた。

 ユイのような印象を抱く。

 まぁ、俺が寝ている期間でも成長は可能。

 更に<黒呪強瞑>系統を学んで強くなったエヴァだからな。


 玄智の森の試練は、皆のためにもなったってことだ。


 さて――。

 素早く<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の駒を真上に移動させてから様子がオカシイ二人の子供に近付いた――。


 魔族らしき子を抱く。


「うぅぅぅ……」


 僅かな声を発するだけか。

 体重は軽い。体は震えていた。

 もう一人を素早く――。

 抱きあげた。


「……タベナイで……」


 体重が異常に軽い……。

 この子も震えている。


「だれも食べない、安心しろ。外に出るぞ」


 思わず、二人の子供を抱く力を強めてしまった。


「「……」」


 頷く様子もない、虚ろなままか。


「エヴァ、先に廊下に出ている」

「ん」

「相棒、廊下に出るぞ」

「にゃ」

 

 魔雅大剣を触手で拾った黒猫ロロを連れて、子供を抱きながら慎重に階段を下りた。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の駒は意識せずとも付いてくる。


 キサラが残っていた廊下に出た。

 

「シュウヤ様、あ、子供が……」

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