九百五十一話 〝輝けるサセルエル〟の意味と侠気

 黒豹ロロが足下で甘えているヴィーネに向け、


「クナのいる中央昇降台の人はかなり増えたが、総合上闘役のキルヒスはまだ。サセルエル夏終闘技祭のブリーフィングは開始されていない。が、強者のような雰囲気を醸し出している存在と、その関係者は増えている。身なりは、ローブや外套を羽織っている者が多いから、顔は見えない。クナは元気だ」

「はい」


 そこでキサラたちの真上に展開中の偵察用ドローンの視界を注視しつつ、


「キサラとアクセルマギナは踊り場の陰から上の階を覗いている。攻撃は受けていないが、階段の上に魔素を感じているのか様子を窺っている」


 とヴィーネたちに報告。


「【剣団ガルオム】の襲撃失敗に備えて待ち伏せを用意していた?」

「ん、ブリーフィングがまだならキサラたちの応援に行く?」


 エヴァの【天凛の月】の新戦闘装束はムントミーの衣服と合う。

 そのエヴァの戦闘装束に魅了されながら――。


「時間はある。とりあえず作戦会議だ。偵察用ドローンで――」


 キサラたちの斜め後方に展開させていた偵察用ドローンを操作し、斜め下のキサラたちの近くに移動させた。キサラとアクセルマギナは、その偵察用ドローンに気付く。

 二人は敬礼してから微笑む。

 キサラは頭部を傾けて偵察用ドローンを凝視。

 はらりとした前髪の間から蒼い双眸と眉毛を覗かせた。

 その表情をよく見ようとズームアップを行う。が、ズームし過ぎた。


 キサラの額と眉が拡大されて「うおっ」と驚いて変な声を発してしまった。

 ヴィーネたちは怪訝そうな表情を浮かべる。


 ……はは。


 偵察用ドローンに集中している時の俺の双眸は寄り目になる? 

 イモリザがツアンとピュリンに話をする時を想像しながら――。


 変顔を意識しながらヴィーネとキサラを見た。


「ご主人様?」


 ヴィーネはそう俺に聞きながら、


『キサラ、何かあったのか?』


 と血文字をキサラに送っていた。

 キサラから直ぐに、


『戦いは起きていません。シュウヤ様が操る偵察用ドローンの一つが、わたしたちに寄ってきました。そして、今、アクセルマギナと共に三階の踊り場で待機中です』


 キサラの血文字の返事を見たヴィーネとエヴァは俺を凝視。


『その変顔には意味がある?』


 と聞くような顔色を浮かべつつ、ジッと俺を見て、


「ん? シュウヤ、唇を横に窄めて変な顔?」

「何者かから精神攻撃を?」


 と聞いてきた。

 ヴィーネは周囲を見渡していた。


「ごめん、変顔はなんでもない。気にせず、キサラから報告を聞こう」

「ん」

「そうですか、はい」


 エヴァとヴィーネは笑みを浮かべて納得。


 一方ヘルメはオレキの死体から荷物を拾ってくれている。

 相棒の黒猫ロロは消えゆく血文字に肉球パンチを放っていた。


 【剣団ガルオム】たちとイフアンが見ているが構わず<血魔力>を有した指先を動かした。


『キサラ、わざと逃がした【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部はどうした?』

『魔術師タイプの幹部は分身などを用いてわたしの<冥々血鴉>を払おうと追跡を撹乱してきましたが、<冥々血鴉>には効きません。その魔術師タイプの幹部は四階へ逃げ込みました』

『四階か、やはりVIPルームかな』

『はい。逃げた魔術師タイプの幹部は四階の幅広い廊下で待機していた仲間たちに声を掛けながら大きな部屋の一つに駆け込みました。その廊下には大きな部屋が幾つもあり、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】以外の【闇の八巨星】の幹部か傭兵、兵士など、人員が多かった。そして、その四階の幅広い廊下の天井付近を進んでいたアクセルマギナが操作していた偵察用ドローンは、何者かの攻撃を受けて潰されたようです』

『分かった。こちらも報告しとこう。無事に【剣団ガルオム】の方々は団長のルシエンヌさんと合流した。そのルシエンヌさんを拷問していた【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の人員はルシエンヌさんに殺された。で、見張りの【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】に雇われていたイフアンと黒き獣トギアは一時的に仲間になってもらった。更に【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の捕らえていた幹部の獣鉄剣オレキ・マドルアだが、喋りそうもないから、解放して、サシで倒した。この事から、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】と俺たちの【天凜の月】が全面戦争となることは必至』


 そう血文字を返す。


『はい、分かりました。ユイたちに血文字を送りましたか?』

『まだだ』

『では、ここで上の様子を窺う間に、ユイ、ペレランドラ、メル、ヴェロニカ、カルード、キッシュに血文字を送って情報を共有しておきます』

『頼む』


 キサラの血文字を見たヴィーネとエヴァとヘルメは頷く。


 キサラとアクセルマギナを映している偵察用ドローンの視界は慣れたが、不思議だ。


 キサラたちと踊り場と壁は現実其の物。


 その視界にいるキサラとアクセルマギナは俺の血文字と偵察用ドローンを見て頷いていた。


 キサラとアクセルマギナが目の前にいるようにも見える。


 が、実際の目の前には、ヴィーネとエヴァとヘルメがいる。


 濃密な複合現実が重なった感覚?


 偵察用ドローンの視界に映る美しいキサラは<血魔力>を宿す指先を動かし、


『あ、シュウヤ様、四階の長い廊下と地形について情報があります』

『了解、教えてくれ』


 血文字をエヴァ、ヴィーネ、ヘルメが注視。


『はい。真向かい側の壁は総じて低く、特別なテラスのような観客席へ出入りが可能な低い階段もあります。長い廊下から闘技場の観客席に直ぐに出られる』


 その血文字を見ていたヴィーネとエヴァが頷く。


『観客席か。四階の廊下側の壁にも、魔法陣のような防御膜があるのかな』

『あります。廊下と地続きの低い壁の外側に金網と半透明な魔法陣が窓のように設置されている。その金網と魔法陣に触れたら偵察用ドローンが破壊される可能性が高い。とアクセルマギナが言っていました』


 だろうな。

 一階から二階、三階、四階のほうの客席を見上げた時、半透明な魔法陣が宙空に展開されていた。


『分かった。二人とも理解していると思うが、俺たちの行動が筒抜けの場合を想定しておけ』

『はい。偵察が可能な偵察用ドローンに似た魔機械や幻獣などを持つ存在はいると思いますから』

『あぁ』

『そして、【剣団ガルオム】側に付いた【天凜の月】の情報は、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】を通じて闇の界隈の一部に伝わったと考えています』

『そうだな。エセル界の品も流通している』

『そうですね。他にも<アシュラーの系譜>、<千里眼>、<透視>、<未来予測>などのスキルを持つ存在が敵側に居れば、光魔ルシヴァルに関わることで、未来の事象が読めない不透明なことが増えたと分かり、警戒を増すはず』


 キサラの血文字に頷いた。


『たしかに』

『他にも<超音波察>や<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>に<心音呼吸>などのスキルがあれば、ご主人様やわたしたちの動きを遠くからでも追跡は可能なはず』

「ん、魔素を遮断するスキルを持つ存在も」

「そうですね。今この瞬間も油断はできない」


 エヴァとヴィーネがそう発言。

 皆も頷く。


『【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】以外の【闇の八巨星】のすべてがフクロラウドの魔塔に集結しているとは思えませんが、【八指】以外の強者も多いと予測します』


 無名の強者か。

 ありえる。

 キサラは血文字を続けた。


『……【テーバロンテの償い】の邪教の人員、【七戒】の残りの幹部は可能性が低いとして、暗殺一家の【チフホープ家】の者。チフホープ家は闇ギルド【魚殺鹿殺】の会長ビルカと同幹部傭兵長ゼハン・ジェームズとの戦いで忙しいかもしれないのでここにはいないかもしれませんが……あ、狂言教の長老も忍び込んでいるかもです』


 さすが元四天魔女キサラ。

 色々と深い読みだ。


 が、【七戒】の生き残りがいたとしても、ここに潜入している可能性は低いだろう。


 オセべリア王国の高級官僚やゼントラーディ伯爵とアツメルダとは通じていたが、セナアプア下界の港は【白鯨の血長耳】の監視の目が強い。


 それに<従者長>でもある上院評議員ペレランドラの伝は、港街の各所に広まりつつある。


 【七戒】のことは置いておいて、


『……【テーバロンテの償い】が絡んでくるならクレインも気になると思うんだよな』

「ん、先生なら自分に向かってくる存在以外はとくに気にしないはず。【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のホアルのことは知らせておく」

「あぁ、キルアスヒ側を潰せたとしても、ホアル側が健在だからな」

「……【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】と全面戦争……ふふ」


 ヴィーネは気合いが入っていた。

 <筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネなら、単独で、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の本拠に乗り込んで潰せそうな印象を抱く。


 そう考えると、またキサラから血文字が、


『その【テーバロンテの償い】とフクロラウド・サセルエルは通じているだけかもしれないです。魔界王子テーバロンテの眷属の線もありますが、さすがに……」


 通じているだけならありがたいが……。

 そう都合が良い展開となるかどうか。


『グレーか。フクロラウドは、情報屋、フィクサーのような立場でもあるようだからな。魔界王子テーバロンテの眷属だった場合は……俺たちの敵となる可能性が高い……話が分かる魔界王子の眷属ってのも案外ありえるのかもしれないが……それに、そのフクロラウド・サセルエルは、魔塔ゲルハットを造った一人の大魔術師ケンダーヴァル本人って情報もあるからな……俺的にはグレーであってほしい』


 俺の血文字を見たエヴァとヴィーネにヘルメは頷いた。

 黒猫ロロは背を廊下に付けてゴロニャンコ。


 お腹の薄い毛からピンクの乳首さんを見せている。

 撫でたいが、我慢。


『はい。大魔術師ケンダーヴァルなら魔塔ゲルハットの仕組みをよく知っているはず。クナと合わせて未知の転移陣の作製もお願いできるかもしれません。シュウヤ様もそれが念頭にあるからこそ、サセルエル夏終闘技祭への参加を決めたのでは?』


 自然と頷いた。


『おう、そうだ。〝輝けるサセルエル〟という伝で、仲良くなれればという判断。ま、闘技祭で戦いを純粋に楽しみたいってのも強いがな』

『はい☺』


 血文字で絵文字の笑顔マークが来るとは――。


 キサラの血文字に皆が頷いた。

 俺も絵文字を返そうと思ったが、止めて、


『フクロラウドの主催者側は、【剣団ガルオム】と【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の争いを止めず放置し、俺たちの乱入も止めなかった。それはどうなんだろう……』


 とキサラに聞いてみた。


『そうですね。主催は行いつつも、放任主義のフクロラウド? そのフクロラウドがわたしたちを敵と認識し、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】と組んでいた場合、四階でフクロラウドの主催者側と【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】が合同で罠を張って待っている可能性もあります』


 ……待ち伏せか。

 何事も絶対はないからな。

 一方的な情報を鵜呑みにせず。

 何事も保留が大事だ。

 一つの可能性は一つの可能性。

 他の可能性や一つの可能性の僅かな分岐を逃さず思考する。様々な情報と照らし合わせながら先を考慮することが大事だ。


 ま、案外直感が正しいことが多いんだがな。


 偵察用ドローンが映しているキサラとアクセルマギナは頷いた。


 【剣団ガルオム】の方々とイフアンが、リアルタイムに血文字が出現しては消える謎の血文字コミュニケーションに注目している。


 血文字は【天凛の月】と光魔ルシヴァルの重要情報の一つだが……ま、いいさ。


 今は【剣団ガルオム】とイフアンとの縁を大事にしよう。

 その【剣団ガルオム】の方々が、


「団長、シュウヤ殿たちが扱う血の文字は……」

「……【血月布武】の名を忘れていないか?」

「あ、【白鯨の血長耳】のエセル界の権益……」

「そうだ。ここは【塔烈中立都市セナアプア】。そして、【天凜の月】は【迷宮都市ペルネーテ】が本拠と聞いている」

「では魔通貝と貝力風と似たエセル界の魔機械。それか迷宮産の遠距離会話が可能な伝説レジェンド級以上の魔道具を使用していると?」

「そういうことだろう。この会場にも【白鯨の血長耳】の枝葉か幹部が来ているかもしれない」


 ルシエンヌさんと副長たちが会話を行っていた。

 血文字の連絡は魔道具ではなく、光魔ルシヴァルの俺と眷属たち限定の時空コミュニケーションと言ったら驚くかな。


 ま、勘違いさせておこう。

 【白鯨の血長耳】の通信用魔道具は闇社会ではそれなりに有名なようだし、聞かれたら話すが、今はこのまま。


 その【血長耳】の幹部なら〝輝けるサセルエル〟を持っていてもおかしくはない。


 だれかここに来ているかも……。


 しかし、【塔烈中立都市セナアプア】は上界と下界があり、無数の浮遊岩と魔塔とエセル界の出入り口があるだろう魔塔か浮遊岩もある。


 若いエルフの兵士が増えていると聞いたが、古くからの最高幹部は減り続けている【白鯨の血長耳】。


 忙しいはずだ。


 盟主、団長のレザライサと最高幹部のファスは、西のラドフォード帝国の工作任務から帰還したとは聞いていない。


 サプライズでここに登場とかなったらかなり驚くが……まさか、それはないだろう。


 そんなことを考えていると――。

 常闇の水精霊ヘルメが傍に来る。


 指先の<珠瑠の花>を緩めてイフアンと黒き獣トギアの拘束を解き、<珠瑠の花>を消した。


「あ、どうも」

「ルゥゥ」


 そのイフアンとトギアを睨む【剣団ガルオム】。

 答えは分かっているが、周囲に分かってもらうため、イフアンに


「イフアン、俺たちと共闘せずフクロラウドの魔塔から逃げるか?」

「え? 盟主はオレキの言葉に影響を?」

「いや、あれはあれ、個人の資質だ。どうもこうもない。男なら男として応えたまで」

「……はい。では、このまま【天凛の月】の傍にいさせてもらいます。【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】との全面戦争となれば、まずわたしが狙われる」


 【剣団ガルオム】の方々と黒き獣トギアをチラッと見てから、イフアンに、


「おう。改めてよろしく頼む。【天凜の月】の盟主として約束は守るから安心しろ」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願い致します……」


 ヴィーネが、


「イフアン。【天凛の月】を裏切れば、どうなるか、分かるな?」

「ガルルゥ」


 黒い小型グリフォンに見えるトギアがヴィーネに対して唸る。


 イフアンに忠実なトギアは可愛い。


 すると、黒猫の姿に戻っていた黒猫ロロがヴィーネを守るようにトギアの前へ移動すると、トギアは黄緑色の瞳を散大収縮させる。


 そのトギアに近付いて、


「トギア、俺と相棒にヴィーネにも喧嘩を売るのはナシだ」


 そう言うと黒き獣トギアは頭を垂れた。


「ルルゥ」


 と鳴いて大人しくなった。


 小型グリフォンと似た黒き獣が自ら頭部を下げるとは思わなかった。


 トギアは可愛い……。


「え……トギアが懐いた……シュウヤ様には調教師などのスキルが……」


 とイフアンは呟くように驚いてから黒猫ロロを見て、


「あ、そういうことか……シュウヤ様と黒猫様は絶対に裏切りません」


 イフアンはそう語る。


 黒猫ロロを見て、黒豹の姿に変身していたことを思い出したようだな。


 そして、イフアンの立場なら俺たちに付くのは当然。 

 願ってもない好機。


 ルシエンヌさんが助かった情報は直ぐに伝わるはず。


 更に、その拷問部屋の見張りとして雇われたイフアンがルシエンヌさんと一緒にいるところを【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】側の者が見たり知ったりしたら、イフアンは裏切り者として扱われることは必定。


 更に、他の【闇の八巨星】グループに、大規模な【闇の枢軸会議】の連中にもある程度は知れ渡るはず。


 まぁ傭兵稼業は金次第。

 ただの傭兵として捨て置かれるとは思うが……。


 少なくとも、広範囲の勢力【闇の枢軸会議】間での傭兵イフアンの信用は失墜する。


 だからこそ、【天凜の月】の傘の中でイフアンが活動したがるのは当然。


「……閣下、オレキが持っていた、このアイテム類を仕舞いますか?」

「お、ありがとう。受け取っておく」


 鉄の曲大剣が納まる幅の調整が可能な黒革の剣帯とアイテムボックスを受け取る。


 オレキは魔法の鎧を着ていたからあまり目立たなかったが……この剣帯はお洒落だ。


 さて、戦闘型デバイスでもいいが――。

 ハルホンクに喰わせるか。


「ハルホンク、鉄の曲大剣と黒革の剣帯を喰っていい。アイテムボックスは保管してくれ。魔力は濃厚だから美味しいと思う」

「ングゥゥィィ――」


 左肩に出現した肩の竜頭装甲ハルホンクは嬉しそうに鳴いた。

 その肩の竜頭装甲ハルホンクの口に重い鉄の曲大剣を当てた瞬間――。


 瞬時に鉄の曲大剣と黒革の剣帯とアイテムボックスを取り込んだ肩の竜頭装甲ハルホンク

 左肩から転移するように消えて、ポコッと右肩に再出現。


 魔竜王の蒼眼が点滅していた。


「ングゥゥィィ、ウマカッチャン、ゾォイ!」


 鉄の曲大剣と黒革の剣帯は魔力が濃厚だったからな。

 ハルホンクは魔竜王の蒼眼で遊びを行うように左目と右目に蒼眼を転移させては点滅させていく。


「「……」」


 イフアンと【剣団ガルオム】の方々は、肩の竜頭装甲ハルホンクのアピールに驚いている。

 気にせず、


「取り込んだ素材を活かした胸ベルトも少し改良しようか、イメージを送るから鉄の曲大剣も出してくれ――」

「ングゥゥィィ」


 一瞬で右肩の肩の竜頭装甲ハルホンクは鉄の曲大剣を抜き身のまま吐き出す。それを掌で回転させて逆手で扱い盾の運用に――。

 訓練したいが今は止めよう。ハルホンクに改めて喰わせた。

 その間に黒革の剣帯の素材がハルホンクの防護服と一体化している胸ベルトの縁から滲むように出現。


 すると、黒革の素材がハルホンクの防護服と融合し、俺がイメージした通り、胸ベルトのデザインが変化を遂げた。


 胸ベルトと防護服は、バックルと金具と魔竜王素材と牛白熊の素材で構成した新しいversionだったが、更にversionが上がったことになる。


 〝輝けるサセルエル〟

 〝魔竜王バルドークの短剣〟

 〝蒼聖の魔剣タナトス〟

 〝古の義遊暗行師ミルヴァの短剣〟


 などもちゃんと装着されている。


「……素材を取り込める……凄い装備だ」

「「「おぉ~」」」


 イフアンと【剣団ガルオム】の方々は当然驚く。


「また素敵な胸ベルトが進化を!」

「胸ベルトではなく防護服と言っても良いのでは?」

「はい、閣下とハルホンクは凄い」

「ん、格好良い。〝蒼聖の魔剣タナトス〟が嵌まる部分は、横から急な脱着が可能に見える」

「おう。短剣類も活かせるようにと、どんな体勢からも逆手で抜けるようにイメージしたんだ」

「戦闘を考えながらのスタイル変更とは、そのセンスが素晴らしい……」

「ありがとう」


 褒めてくれたヴィーネたちに、


「俺のことより、これからだ。四階は【闇の八巨星】たちが泊まるVIPルームだな」

「はい。観客席の最上部に隣接しているようですね」

「ん、地下オークションの【八頭輝】と同じく、【闇の八巨星】たちも、サセルエル夏終闘技祭が行われる日は大規模に争わないのかも?」

「それはありえる。事前に【アシュラー教団】のような存在が動いて【八頭輝】の盟主を集めた時と似た会合が【闇の八巨星】の間で執り行われていたかもな」


 そう言いながら、イフアンたちに意見を求めようと視線を巡らせた。

 イフアンとルシエンヌさんに【剣団ガルオム】の方々は顔を見合わせる。


 イフアンが、


「【八頭輝】の盟主たちには、そのような会合があったのですね。わたしはただの傭兵で【闇の八巨星】ではないので、詳しくは知りませんが、サセルエル夏終闘技祭には、そのような会合はないと思います。強いて言えば、地下の中央昇降台で行われるサセルエル夏終闘技祭のブリーフィングでしょうか。そして、【闇の八巨星】や【闇の枢軸会議】側の戦いは大規模も小規模もあり得ます。サセルエル夏終闘技祭が開催されたら、その戦いは止まる時がありますが、問答無用で争いは続くことが多い。仲裁に入る強者などの状況次第と言ったところでしょうか」


 ルシエンヌさんも頷いて、


「その通り、四階の観客席と通じている大きな部屋は【闇の八巨星】が利用し、名目八封という決まりもあるので、あまり【闇の八巨星】同士の争いは起きない。ですが、それは【闇の八巨星】の勢力が互いに実力が高い故のはず」


 その情報を聞いて武者震いが起きた。


「「はい」」


 【剣団ガルオム】の副長テアビルさんと幹部のヒウガルさんも同意の声をハモらせる。


 テアビルさんの武器は二本の直刀で腰に差している。

 ヒウガルさんは槍使い。

 短槍を背中の胸ベルトと連なる槍帯に納めていた。


 イフアンも【剣団ガルオム】の一員になったように、


「その通り。フクロラウドの魔塔には【闇の八巨星】を含めて闇ギルドの人員と闇の仕事に携わる者たちが集まっている。観客も主催者も様々な争いは織り込み済みです。毎回争い合う大会ですから、終わったあとがまた……」


 そう発言。

 ルシエンヌさんはチラッとイフアンや仲間たちを見てから、頷いて、


「わたしが【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】に狙われたように闇ギルド同士の争いもあります……が、〝輝けるサセルエル〟を狙う争いは常に起きている。寧ろ、ここでは〝輝けるサセルエル〟の争いが本命なのです」

「夏終闘技祭の主催者は【闇の八巨星】の一人フクロラウド・サセルエルですからね」

「はい、〝輝けるサセルエル〟を持つのは一種のステータス。実は、サセルエル夏終闘技祭に出場するまでが大変なんです」


 団長ルシエンヌさんの言葉に【剣団ガルオム】の方々も頷いた。

 イフアンは、


「【闇の八巨星】側は、己の力を競うように、自らの組織の息が掛かった者を多数サセルエル夏終闘技祭に出場させようとします」

「ん、納得」

「はい。【闇の八巨星】のフクロラウド・サセルエル様も、その争いを分かっていて止めようとしない。ですから、この敷地内に入った時点で既にサセルエル夏終闘技祭の戦いは始まっているのです」

「……そういうことか」


 地下で偵察用ドローンが多数潰された。

 猫獣人アンムルと魔族らしき人物の激戦も……。


 すべてが〝輝けるサセルエル〟を巡る前哨戦ってことだったのか。

 【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】は【剣団ガルオム】の秘宝と〝輝けるサセルエル〟の一挙両得を狙ったってことか。


 ヴィーネも、


「納得しました。だからあの時……」

「ヴィーネたちが【剣団ガルオム】の副長テアルビさんを救った時だな」


 俺がそう聞くとエヴァが興味深そうにヴィーネを見る。


 ヴィーネが、


「はい。副長テアルビを狙う暗殺者をキサラとアクセルマギナと協力して捕らえ倒した時、観客席に紛れていた【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の人員たちが、わたしたちと【剣団ガルオム】に戦いを仕掛けてきました。それらを薙ぎ倒す際、観客たちの中にはわたしたちの戦いを見て喜んで発狂する者もいた……戦いに参加していた観客もいたのかもしれない。他にも、【剣団ガルオム】側と【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】側のどちらが勝つか負けるかの賭け事も行われていました」


 ヴィーネの発言に、エヴァの顔色が悪くなった。


「様々な情報が符号する。一種のサバイバルは始まっていたと」


 皆が頷く。


「そのようです。しかし、魔力豪商オプティマスも、良く〝輝けるサセルエル〟を入手できましたね」

「それはそうだな。オプティマスとその部下も、ただもんじゃないってことだろう」

「はい」

「ん、商業魔塔ゲセラセラス。【大商会トマホーク】は凄かった」


 あぁ、あの商業魔塔ゲセラセラスはとんでもない魔塔だ。

 すると、ヘルメが、水をイフアンとトギアに掛けて、黒猫ロロに飲ませてあげていた。


 ガードナーマリオルスが、その周りを回る。

 常闇の水精霊ヘルメと黒猫ロロとガードナーマリオルスがいる空間はメルヘンチックで癒やされる。


 その黒猫ロロは、


「ンン」


 と鳴いてトコトコと歩く。


 イフアンと黒き獣トギアの近くに移動していた。

 その黒猫ロロさんは、トギアの背後に回り込むと、トギアのお尻に鼻を付けた。

 お尻の臭いをくんかくんかと嗅いで――。


 俺たちに向けて、くちゃー顔を披露していた。


「ふふ、お尻ちゃんチェック! ですね!」

「にゃおお~」

「ピピピッ」


 相棒はドヤ顔でフレーメン反応を浮かべている。

 相棒の気持ちを予想するとしたら、


『トギアの臭いは健康だにゃ~、相棒も臭いを嗅ぐにゃお~』


 とか考えている? そう考えたら笑ってしまう。


 ガードナーマリオルスも、ドヤ顔の相棒の真似をしているのか、


「ピピピッ」


 と音を発して片目のようなレンズの形を変化させる。

 そして、小さいパラボナアンテナを円盤の頭部から出していた。


 可愛くて面白い。


 ヘルメと黒猫ロロとガードナーマリオルスがいる空間の空気感だけが、異空間。

 ボンと黒猫ロロが遊んでいた時を思い出した。


 が、気を取り直して、ルシエンヌさんとイフアンに、


「他の【闇の八巨星】など、闇界隈の情報を聞いておきたい」

「はい。東マハハイム地方の【異風都市イビキアンデス】で闇ギルド同士の戦いが起きていたことはご存じですか?」

「知らない。教えてくれ」

「はい。その都市を支配していた【闇の八巨星】の一つと呼ばれていた【天日のイキラバイス】が【十刻アンデファレウ】に本部と支部を多数潰されたのです。その【十刻アンデファレウ】は新たな【闇の八巨星】と呼ばれています」

「へぇ、ありがとう。覚えておこう」

「ふふ、良かった」


 東の都市の事象を教えてくれた。

 【剣団ガルオム】の方々と副長テアルビさんも頷く。

 【十刻アンデファレウ】の名はヴィーネとキサラの情報にもあった。


 【天日のイキラバイス】を潰した【十刻アンデファレウ】は強者揃いか。


 フクロラウドの魔塔にいるなら強敵。


「ルシエンヌさん、その【十刻アンデファレウ】の幹部には猫獣人アンムルの槍使いはいる?」

「はい、【十刻アンデファレウ】の【八指】魔槍フレドナスと【十刻アンデファレウ】の盟主のアンデファレウが有名、両者とも二槍使いで、<魔声発破>が得意と聞きました」


 地下で魔族らしき人物と戦っていたのは【十刻アンデファレウ】の【八指】魔槍フレドナスか、その盟主のアンデファレウか。


「その両者も〝輝けるサセルエル〟を持つ?」

「分かりませんが、可能性は大いにあり得ます。両者とも武闘派です」


 四つの魔剣を扱っていた魔族も強かったが、猫獣人アンムルの槍使いはそれよりも強かった。

 フレドナスかアンデファレウか。


「ん、その【闇の八巨星】の強者と【八指】たちがシュウヤの偵察用ドローンを破壊した者たちで、〝輝けるサセルエル〟を奪い合っている?」

「たぶん、そうだと思う」

「クナの近くに集結している一部の【八指】と関係者は、素直にサセルエル夏終闘技祭の開催を待っているのか……虎視眈々と〝輝けるサセルエル〟を持つ出場者を襲おうと狙っている?」


 頷いた。


「そして、他の強者と【八指】の連中は、〝輝けるサセルエル〟の奪取を狙い戦っている可能性があるということですね」

「だろうな」


 ヘルメと相棒以外の全員が頷いた。

 さて、イフアンに肝心なことを聞くか。


「イフアン、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の盟主のホアルとキルアスヒは、このフクロラウドの魔塔には乗り込んでいるのか?」

「キルアスヒ様は四階のVIPルームか観客席のはず。護衛には、魔槍使いゲン・ハヤブサと魔剣ゲルバのチームと【闇の教団ハデス】の強者が付いていて、数十名の強者で構成されている。【闇の教団ハデス】のメンバーは知らない」

「【闇の教団ハデス】のメンバーもいるんだったか……闇神リヴォグラフを信奉している組織と聞いたが、魔界セブドラから出張している魔界騎士もいるんだろう?」

「……え? そ、そうなのですか?」

「「「……」」」

「ま、魔界騎士……魔族側、魔界セブドラ側の強者中の強者……」


 ルシエンヌさんが怯えながら語る。

 イフアンと【剣団ガルオム】の方々も顔の筋肉が引き攣っているような表情となっている。

 エヴァは、


「ん、シュウヤ、たぶん正解」

「はい。七魔将リフルとの戦いの際に闇神リヴォグラフは地上の【闇の教団ハデス】と合流せよと語っていた。その可能性は高い。そして、魔蛾王ゼバルの前例もありますからね」


 頷いた。


 シュヘリアとデルハウトは魔蛾王ゼバルの魔界騎士として地上で任務をこなしていた。そして、シュヘリアには〝列強魔軍地図〟に触れてもらいたかったが、今度触れてもらおう。


 皆に、


「さて、皆とルシエンヌさん。【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】と戦う案は色々と浮かんではいるが……最初は【天凛の月】の面を出す。堂々と行こうと思う」

「……はい」

「ん」

「ご主人様には、暗殺など、色々な選択肢があると思いますが、正々堂々と乗り込むのですね」

「そうだ」


 ヴィーネも<無影歩>などを活かした暗殺方法などを瞬時に考えただろう。

 そして、皆の顔を見てから、ルシエンヌさんに、


「……ルシエンヌさん、今の話を基軸に事を進めるとして、貴方の〝輝けるサセルエル〟とアイテムボックスを持つ存在の断定ができない以上、フクロラウドの魔塔にいる【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の殲滅を最優先にしたいが、どうだろうか」

「はい。八指の暗光ヨバサが持っている可能性が高いだけで、正確にだれが何を持っているかは分かりませんから、それで十分です」


 頷いた。


「……では、俺と相棒と誰かで四階へ乗り込んでキルアスヒと対面、戦おうか。そして、皆には三階で、四階へ乗り込む準備をしておいてもらう」


 イフアンがキルアスヒの顔を知っているのなら……。

 イフアンが俺の傍にいれば確実にキルアスヒを狙える。


 しかし、イフアンも傭兵として強いとは思うが、四階は未知数だからリスクが大きい。


「ん、賛成、イフアンと【剣団ガルオム】はわたしたちが守るから」

「良い案です。ご主人様ならサセルエル夏終闘技祭のブリーフィングが開始される前に事を終えることが可能でしょう」

「大胆ですが……本気なのですね……」


 ルシエンヌさんは声を震わせながら語る。

 俺を凝視する瞳が散大し萎縮していた。


 恐怖心か。


 【剣団ガルオム】の皆は絶句。

 一方、ヴィーネ、エヴァ、ヘルメは当然って顔付きだ。


「本気だ。サセルエル夏終闘技祭の出場にも別段固執していない。〝輝けるサセルエル〟もルシエンヌさんに渡してもいいぐらいだ」

「え、それは……」


 サセルエル夏終闘技祭の優勝の報酬は気になるが、まぁそれはそれだ。


「イフアン、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の印か暗号があるなら聞いておきたい。キルアスヒの特徴も教えてくれ」

「印は闇剣と星のマークで、キルアスヒ様、否、キルアスヒは胸に闇剣と星の黄金のブローチを付けていることが多かった。体格は大柄で魔剣師、二剣使い。種族は人族と聞いていますが、闇神リヴォグラフ様を信奉しているように魔族の血が濃いと思います」

「了解」


 ナロミヴァスと似たような能力かな。


「そして、【八指】暗光ヨバサがサセルエル夏終闘技祭に出場することは事前に告げていた」

「では、わたしから奪った〝輝けるサセルエル〟はキルアスヒか他の幹部が持っている可能性があるのか……アイテムボックスもだが、誰が持っているかは不明……」


 ルシエンヌさんがそう語る。


「【剣団ガルオム】の重要なアイテムだけを取り出してアイテムボックスは処分したかもしれないです」


 イフアンがそう告げる。

 俺は頷いて、


「そうなるとアイテムボックスの回収は難しそうだな」


 ルシエンヌさんは、


「……ガルオムの聖剣と聖剣ソラギヌルはもう失ったと考えていますので構いません。今、こうして生きて話し合いができて、復讐を行えることを嬉しく思います」

「「はい!」」


 【剣団ガルオム】の方々の一部がそう語る。


「そうですか」

「はい、我らと対等に話をしてくれる【天凛の月】には頭が下がる思いです」

「その当たりは気にせず、ざっくばらんで構わない。そして、質問があれば受け付けよう」


 すると、副長テアルビさんが、


「では、【天凛の月】の盟主様、団長と我らを助けて頂けるのは嬉しく思いますが、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】と戦う利点が【天凛の月】にはあまりないように思えますが……」

「組織云々ではない。良心に従って動いただけ。拷問は時と場合によるが、やはり好まない。ましてや女性の拷問なんて見たくもないからな。その行為を止められるだけの能力はあると考えたから、止めに動いただけだ」

「分かりました。男として尊敬します」


 副長テアルビさんは敬礼してくれた。

 俺も敬礼を返す。


「ありがとう。だが、良かれと思った行為が間違っていたら? と考えながらの行動だった。一方的な正義感ほど愚かなことはないからな。特に宗教の正義を信じてしまうほど愚かなことはない」

「たしかに……拷問を受けている者が猟奇殺人犯、重大な犯罪者の場合もあります。狂信者の場合は狂い過ぎて何も言えない。性善という言葉が虚構だと身に染みていますから」


 副長テアルビさんも苦労しているんだな。


「あぁ、が、間違いを怖がっていても仕方ない。間違ったら間違いを認めて謝罪が必要なら行い、真摯に反省をすればいい。と考えている。そして、遅かれ早かれ【闇の枢軸会議】の中核の【闇の八巨星】の連中とは争うことになるだろうと思っていた」


 少し静まる。

 皆、真剣な表情だ。


 ルシエンヌさんは、


「はい……下界には【闇の枢軸会議】と通じた邪教が多いと聞きました」

「その通り、今も眷属と仲間たちが下界で戦っている」

「そうでしたか」

「おう。俺たちは【闇の八巨星】のキーラ・ホセライの【御九星集団】やサーマリア王国の公爵の配下の【ロゼンの戒】、その公爵筋の軍産複合体とも間接的に争っている。そして、【血印の使徒】、【テーバロンテの償い】、【狂言教】、【イシュルーン闇教会】とも争っている。狼月都市ハーレイアに関わる幻獣絡みもある。あ、因みに【白鯨の血長耳】にはサセルエル夏終闘技祭について話は通していない。今は【天凛の月】の独断。ま、【白鯨の血長耳】に伺いを立てる立場でもないが、そのことは理解してくれ」

「分かりました。貴重な情報をありがとうございます。しかし、シュウヤ殿の話を聞けば聞くほど、シュウヤ殿は武芸者として男らしさに溢れていると分かりますぞ。同時に【天凛の月】の強さが伺えます」

「はは、まぁ褒めるのは事が終わってからにしてくれ」

「ふっ、はい」


 副長テアルビさんも端正の顔立ちで渋い方だ。


 笑顔から気を引き締めるように相棒とヴィーネとエヴァを見て、


「四階に上る前に、三階にいるキサラたちと合流する」

「はい」

「ん、地下のブリーフィングはまだ?」

「あぁ、まだだ」

「【剣団ガルオム】の方々は三十人ぐらいいますが」

「さすがにキサラたちのいる踊り場が混み合うか。三階の踊り場は複数あるだろうから人数を分けるか?」

「それもそうですね。ではもう一つの三階側には、念のためわたしが行きましょう」

「ヴィーネなら任せられる」

「はい。しかし、分かれての挟撃は二次案。ご主人様とロロ様なら【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のキルアスヒを確実に討ち取れるでしょう」

「ま、挑戦しようか」

「イフアンとルシエンヌさんもそれで良いかな」

「はい。四階に上がれる階段なら、だいたい分かります」

「わたしもです。副長テアルビたちと共に三階から四階に上がって吼えれば、ヴィーネさんの言ったように挟撃、囮になります」


 頷いてから、


「……最初は【天凛の月】の盟主として行動しよう。その挟撃案はあくまでも乱戦用と考えてくれ」

「ご主人様らしい考えです」

「ん、シュウヤ、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のキルアスヒと話をするつもり?」

「そうだ」

「ふふ、武人としての気概、わたしも漲ってきました」


 ヴィーネは古代邪竜剣ガドリセスを右手に召喚。

 左手に新しい長剣を出現させる。両方とも抜き身状態か。抜き身と鞘に収めた状態を透魔大竜ゲンジーダの胃袋は記憶できるってことかな。そして、あの特大剣にも変更が可能な新しい長剣の名が知りたい。

 一旦、俺の戦闘型デバイスに納めて名を調べるのもアリだが――。


 魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 肩に柄を預け、


「おう。相手が人外で大魔術師を超えた存在なら、他の手段を取ると思うがな」

「はい。わたしの弓、キサラの<補陀落ポータラカ>、エヴァのサージロンの球で一気に押し潰すことも可能。ご主人様も多種多様に暗殺手段を持つ」

「カレウドスコープを用いたビームライフルとかな……。が、今回はサセルエル夏終闘技祭。相手は【闇の八巨星】の一角。俺も【天凜の月】の盟主として、スマートに行こうと思う」


 笑顔でしめた。

 すると、浮いているヘルメが近寄り、


「閣下! 槍使いと、黒猫としてですね?」

「おうよ」

「ンン、にゃお~」


 肩に乗ってきた黒猫ロロも皆に肉球を見せるように宣言。


 そこで、ルシエンヌさんたちに向け、


「で、【剣団ガルオム】の方々。俺の考え方は、武に偏り過ぎて手緩いと思われるかもしれない。それでもよろしいか?」

「よろしいも何も、文句はありません!」

「わたしもです」

「俺もだ! むしろ渋すぎる!」

「ボクもです!」

「「はい!」」

「皆と同じ気持ちです。テアルビが侠気を褒めていましたが、素直にわたしもそう思います!」

「ありがとう」


 と言うと、ルシエンヌさんは頬を朱に染める。


「ふふ、その素直なところも……素敵です。更に、命を救ってくれたシュウヤ様の、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】との争い、全面戦争のリスクを負ってでも【剣団ガルオム】を守り、対等に付き合おうとする、その心意気と侠気に惚れました。わたしは恩のあるシュウヤ様についていきます!!」


 ルシエンヌさんが宣言。

 気合いが入った表情だ。


「わたしもです」

「俺も従います」

「俺もです」

「わたしもだ!」


 【剣団ガルオム】の方々も了承してくれた。


「じゃあ行こうか」

「「「はい!」」」

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