九百五十話 獣鉄剣オレキ・マドルアとの戦い

 ヴィーネと【剣団ガルオム】の方々だ。

 偵察用ドローンで見ていた戦闘装束と同じ。

 その偵察用ドローンの一つはヴィーネたちの後方の天井付近にいたが、消去を意識すると、蜂の形をした偵察用ドローンは魔力の粒子となって消える。


 ヴィーネは【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部を前に連れていた。


 【剣団ガルオム】の方々が、


「あっ――団長だ!」

「良かった、生きていた!」

「【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】め」

「あぁ、だが、今は素直に喜んでおこう!」

「ヴィーネさんの言っていたことは本当だった!」

「浮いている女性も【天凛の月】の幹部なのか?」

「「おおおぉぉ」」


 ルシエンヌさんは今にも泣きそうな表情を浮かべて「あぁ、皆……」と呟きつつエヴァと俺に視線を寄越してきた。急ぎ頷き、「どうぞ、気にせず行ってください」と発言。

 笑顔を見せるルシエンヌさんは、


「はい!」


 と返事をしてから、己の衣服を凝視。

 肌の露出がないことを確認している。


「ん、大丈夫。見えてない」

「あ、はい。では」


 ルシエンヌさんは、エヴァの言葉で安心したような表情を浮かべると【剣団ガルオム】の方々の方へと向かう。


「「団長!!」」


 一気に歓声が上がった。

 喜ぶ皆の様子は微笑ましい。

 その【剣団ガルオム】の数は三十人いるかいないか。


 強者と分かる存在は数人。マークしていたお偉いさんもいる。

 あの方が副長さんかな。


 ルシエンヌさんは皆と談笑、仲間と無事を喜び合う。


「良い光景ですね」


 下りてきたヘルメがそう発言。

 ヘルメは<珠瑠の花>の紐を操作。

 <珠瑠の花>が体に絡まっているイフアンと黒き獣トギアをわざと回転させてから、俺の前に運ぶ。


「あ、【剣団ガルオム】……え! 幹部の獣鉄剣オレキ・マドルアが捕まっている……【天凛の月】は……あ、わたしの解放は嘘?」


 イフアンがそう語る。


「ガルルゥ……」

「にゃぉ~」


 黒き獣トギアの下にいる黒豹ロロが頭部を少しあげて、トギアの匂いを嗅いでいた。


「イフアン、余計なことは言わんほうが身のためだ。今はジッとしとけ」

「……」

「ガルルゥ」

「ん、イフアン、シュウヤは……」


 俺はエヴァに向け視線と手で『そのまま勘違いさせておけ』的なニュアンスをアピール。

 直ぐに理解したエヴァは「あ、うん」と返事をしてくれた。


 大柄の人物を連れているヴィーネに、


「そいつが、〝獣鉄剣オレキ・マドルア〟か」

「はい」


 ヴィーネは大柄の人物の肩越しに、俺に会釈。

 その後ろ手に縛っているだろう大柄の人物を前に突き出し、


「……こいつの武器と荷物は既に回収しています」

「了解」


 頭部は、まさに獅子獣人のラハカーンだ。

 戦った冥王不喰のメイバルのことを思い出す。

 が、目の前のオレキは人族と似た鼻と口で、両足の体毛が少ない。

 上半身は魔法の鎧を着ていて体毛は見えていない。


 そのオレキに、


「オレキ。俺が【天凛の月】の盟主、総長だ。名はシュウヤ。お前たちへの襲撃を命じた者だ」

「殺してやる……」


 オレキは強引に前に出るが、ヴィーネが直ぐに反応。

 オレキの両腕を拘束している拘束具の鎖を引っ張って、赤い鱗に納まっている古代邪竜剣ガドリセスを振るった。

 その赤い鱗の鞘はオレキの膝の裏に衝突。


「グアァ――」


 鞘にはガドリセスの剣が入っていて重いから、結構な衝撃のはず。


 オレキは体勢が崩れ、両足の膝が地に突く。

 ヴィーネは、そのオレキの髪を引っ張り、オレキをらせて首を晒させる。


 直ぐにでも首をへし折れる、または首を切れるような体勢だ。


 冷然なヴィーネは、


「……殺す? お前の舌をぐぞ?」

「……さっさと削げ」

「……」

「ハッ、さっさと殺せよ、ダークエルフ。時間の無駄だ」


 オレキに同意。

 オレキは【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】を裏切るたまじゃないだろう。


「ヴィーネ、そいつを今すぐ解放して、武器も渡してやれ」

「はい、え? ご主人様、それは……」


 俺を二度見するヴィーネが面白い。


「「な!?」」


 皆も驚く。


 ヴィーネはオレキの後頭部から片手を離した。

 オレキは双眸そうぼう瞳孔どうこうが開いていた。


 そのオレキに、


「オレキ、ねんため言うが、【天凛の月】に付かないか?」


 そう伝えると、オレキはわらい、


「ハッ、ねぇな。そこの矜持きょうじのない獣使いの女と一緒にするな」

「なんですって!」


 イフアンは怒った。

 が、もっと怒ったのは獅子獣人ラハカーンのオレキ。


 怒気を見せるオレキはおのれの毛を逆立てながら、


「事実だろうが! 俺のかしらはキルアスヒ様ただ一人だけだ!!」


 そう叫ぶ。

 <珠瑠の花>に縛られつつも少しおびえたイフアンは、


「……わたしは傭兵ようへいだし」

「ガルルゥ」


 と弱々しくつぶやく。代わりに黒き獣トギアが鳴いていた。


「ヘッ、クズが。俺にもかしらがぽんぽんすげ替わる度、犬のように尾を振ってへーこらへーこらしろってかぁ? だいたい【天凛の月】ぃ~、そんなクソ女、てめぇの都合でかしらを直ぐに裏切るような部下を得ても得はしねぇと思うが? どうなんだ? 【天凛の月】の盟主さんよぉ?」


 素直な侠気おとこぎで、忠義か。


「お前の物差しで俺たちを心配してくれるな。が、あえて付き合おうか。死んで花実が咲くものかって言葉があるぞ?」

「ハッ、命より名を惜しむ。と言えば満足か?」

「はは、分かった。サシで戦おう」


 俺がそう言うとオレキは「……俺とサシ?」と呟いて、片方の眉を下げた。

 俺の胸元と相棒の黒豹ロロを見て俺に視線を戻し、


「ああ、〝輝けるサセルエル〟か……噂では聞いていたが……へへ、分かってるじゃねぇか。望むところだ」


 そう発言。


「おう。ヴィーネ、離してやれ。そして、皆も離れろ。【剣団ガルオム】の方々もだ」

「……なんで? 折角捕まえたのに」

「何のために……【天凛の月】は……」

「サリアとマツ。今は黙って、恩のある方ですよ!」


 ルシエンヌさんが、【剣団ガルオム】の人員を叱る。


「は、はい」

「すみません」


 ヘルメとヴィーネが、そのサリアとマツを睨む。

 そのヴィーネは溜め息を吐いて俺を見てきた。


 俺は『悪いな』と笑顔を浮かべつつ視線を動かす――。


 『オレキを、その先で自由にしてやれ』


 と訴えた。

 そのヴィーネは廊下の先をチラッと見てから頷いて、


「分かりました。ですが一応……」


 そう発言しながらオレキを廊下の先に連れていく。


 皆は、俺たちと位置を交換するように、俺たちの背後へ移動していく。


 ヘルメと俺と相棒とガードナーマリオルスは、ヴィーネとオレキを追うように前に出た。


 ヴィーネのオレキの両腕を拘束している魔道具は初見だ。


 ハマル・シャティの商店街の怪しい店で買ったのかな。


 そのオレキを連れていったヴィーネは足を止め、


「暴れたら、その場で殺す」

「ハッ、暴れねぇよ……逃げることもしねぇから安心しろ」

「……大人しく膝を床につけ」

「ヘッ、怖ぇな? ダークエルフってのは気が短えのか?」

「あ?」

「はいはい――」


 オレキはヴィーネを見ずに両膝を地面に付ける。


 少々過剰な演技が入っていると思われるヴィーネはオレキの拘束具を外し、バックステップ。オレキの背後に移動した。


 そこで透魔大竜ゲンジーダの胃袋から――。

 鉄の大剣が納まる剣帯とアイテムボックスを含めた装備類をオレキの足下に素早く放っていた。


 ヴィーネはオレキが逃げたら、直ぐに倒すつもりなんだろう。

 が、オレキは逃げないと思う。


 そのオレキは両腕を確認し、剣帯とアイテムボックスを見て、


「ハッ、マジで解放するとはな。【天凛の月】はイカレてやがる」


 ヴィーネはその言葉を聞いた瞬間、翡翠の蛇弓バジュラを構えた。 

 光線の矢はもう番われている状態だ。


 透魔大竜ゲンジーダの胃袋はかなり便利だな。

 少し笑いつつ、


「ヴィーネ、そいつは口は悪いが褒めてるんだよ。そのまま見ておけよ?」

「あ、は、はい」

「はは!!! ヤヴァいな【天凛の月】の盟主は! 嬉しくなるぜ――」


 快活に笑ったオレキは、素早く装備を身に付けた。


 幅広な鉄の曲剣を構える。

 曲大剣と呼べるかな。


 俺も得物の魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 そのまま歩いた。


「やはり槍使い。そして、背後の黒豹は、黒猫か……」

「その通り、で、戦いの合図は必要か?」

「ケッ――」


 オレキは<魔闘術>系統を強めながら幅広な鉄の曲大剣を突き出してきた。

 重い武器を軽々と扱うオレキ。


 獅子獣人ラハカーンの血が入っていると分かる。


 ――<魔闘術の心得>。

 ――<魔闘術の仙極>。

 を意識、発動しながら、少し待った。


 魔槍杖バルドークを上から下へと動かす――。

 漏斗雲や嵐雲と似た穂先が、鉄の曲大剣の切っ先を叩き落とした。


「――ぐっ」


 鉄の曲大剣の刃が地面を叩く――。

 が、オレキは素早く鉄の曲大剣を持ち上げてきた。


 その動きを見ながら風槍流『変形・片手風車』を実行――。

 左手の柄の握りを少し緩めた。

 掌の中をするすると落ちる魔槍杖バルドーク。


 その柄を、右の掌底で叩く――。

 魔槍杖バルドークの柄を押し出し縦に回転させた――。

 魔槍杖バルドークの竜魔石がオレキの頭部に向かう。

 オレキは後退、上から振り下ろされた魔槍杖バルドークの竜魔石を避ける。


 オレキは<魔闘術>系統をさらに強めた。

 <黒呪強瞑>か<魔闘気>か不明なスキルを無言で使ったようだ。


 構わず、後退したオレキを追う。

 そのオレキの後方にいるヴィーネが少し後退するのが見えた。


 そのまま歩幅を変えて風槍流『孔雀崩し』で魔槍杖バルドークを回転させながら風槍流『片切り羽根』の歩法を実行。


 前傾姿勢で前進――。

 魔槍杖バルドークの穂先と重なって見えるオレキとの間合いを詰める。


 槍圏内に入った直後、左足で床を突くが如くの踏み込み――。

 右腕ごと槍となるような<刺突>を迅速に繰り出した。


 刹那、<血魔力>を右腕から発した。

 視界が一瞬血に染まる、同時に<柔鬼紅刃>を発動――。

 突き出た魔槍杖バルドークの穂先が紅斧刃に変化。


 そして、<刺突>をキャンセルするように魔槍杖バルドークを左斜め下へ動かした。


「え!?」


 オレキは魔槍杖バルドークの機動の変化に驚く。

 鉄の曲大剣の刃と紅斧刃の刃が衝突――その刃に魔槍杖バルドークの刃が引っ掛かる。

 そのまま強引に鉄の曲大剣を下に押し込みつつ魔槍杖バルドークを持ち上げながら、オレキとの間合いを詰めて、縦にした魔槍杖バルドークの柄でオレキの体を押し、柄をオレキの体に貼り付けるようにして近々距離戦へと持ち込んだ。


 刹那、<闘気玄装>を発動。

 魔槍杖バルドークをオレキの体に預けながら、素早く両腕で――。

 宙空に円を描く機動の<玄智・陰陽流槌>を繰り出した。


 ――ホウシン師匠が見せてくれた<玄智・明鬯組手>を思い描く。


「閣下の腕から水飛沫の円が!!」


 背後からヘルメの声が谺すると同時に、左、右の肘を活かす<玄智・陰陽流槌>の打撃が、オレキの体と魔槍杖バルドークにドドッと数段連続ヒット――。


 オレキは吹き飛ぶ。

 肘の打撃と共に水の陰陽魚が踊る。

 ドゴッドゴッドゴッと鈍い音と共に衝撃波のような陰陽太極図の水飛沫が両腕から発生し、オレキの周囲にも弾け飛ぶ。

 オレキの正面側の鎧部分はあっという間にボコボコとなり、鎧がドッと破裂――更にオレキは吹き飛ぶ。


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動――。

 前傾姿勢で前進しながら<黒呪強瞑>を発動。


「ぐあぁぁ――」


 加速しながら乱雑に回転中の魔槍杖バルドークを左手で掴んで――。

 <湖月魔蹴>を実行。

 タフなオレキの左腹に右回し蹴りの<湖月魔蹴>が入った。

 回転途中の蹴り終わりの腰を正面へと向けながら左足と右足で前の空間を蹴り潰すイメージの前進から、


「げぇふぁ――」


 仰け反るオレキを凝視、<龍異仙穿>を実行。

 オレキの胸を、俺の左腕ごと突き抜けるが如く魔槍杖バルドークの穂先が突き抜けた。


 魔槍杖バルドークが胸に生えたように見えるオレキは絶命。

 床に鉄の曲大剣が落ちる。

 その魔槍杖バルドークを引き抜きつつ消去。

 胸の大きな風穴を晒したオレキは床に倒れた。


 間近で見ていたヴィーネが寄ってきて、


「ご主人様、お見事です!」

「おう」

「閣下、腕から水飛沫の円を発した肘打撃からの連携攻撃は見事です!」


 背後からヘルメたちも寄ってくる。

 エヴァと【剣団ガルオム】も一緒だ。


「あぁ、<玄智・陰陽流槌>からの流れだ」

「……強い……【天凛の月】の盟主のシュウヤ様……わたしは本当に……」

「イフアン、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】はここが本拠地ではないんだろう?」

「……はい……」

「なら、自分がなぜそこにいるのか、分かると思うが」

「……あ、そこまで考えて、わたしたちを――」

「そう言うこった。だからサセルエル夏終闘技祭が終わるまで共闘しないか?」

「「おぉ」」

「にゃ~」

「えッ」

「って……」


 【剣団ガルオム】の方々は不満気だ。

 黒豹ロロを撫でたエヴァは、


「ん、良い考え」


 イフアンは、


「……それは願ったり叶ったり。しかし……」


 そう発言、トギアは、


「……ガルゥ」


 と、唸るだけ。


「遠慮している時間はないと思うが」

「……」


 ヴィーネをチラッと見てから、ルシエンヌさんたちに、


「【剣団ガルオム】の方々、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】に雇われていたイフアンとトギアは、俺たちが預かる。それで良いかな?」

「「……」」

「はい、構いません。皆も良いな?」


 ルシエンヌさんがそう言った。


「「はい!」」


 【剣団ガルオム】の方々は全員了承。

 イフアンは、


「分かりました。【天凛の月】の盟主に従う! トギアも良いでしょう?」

「……ルゥゥ」


 お? 黒き獣トギアがデレた声を発した。

 小型グリフォンにも見えるから可愛い。

 野良猫が急に飼い猫になったような印象を覚えて嬉しくなった。


 ルシエンヌさんと初老の方二人が寄ってくる。

 男性のほうが【剣団ガルオム】の副長さんか。


「挨拶が遅れました。副長テアルビです。我らも恩のある【天凛の月】と共闘致します」

「幹部のヒウガルです。団長を救って頂き、ありがとうございます」

「はい。善い方を救えて良かった。アイテムボックス奪還も手伝う予定です」

「「おぉ」」

「それはありがたい、良かったですな団長!!」

「……あぁ、それは、うむ」


 ルシエンヌさんは、少し納得がいってないか。

 単純に、【剣団ガルオム】の面子かな。己の力で取り戻したい、復讐をしたいって顔付き。


 クナがいる地下では、まだブリーフィングは開始されていない。

 キサラを追う偵察用ドローンの視界には、アクセルマギナもいる。

 移動はゆっくりとなっているから、俺もそっちに合流かな。


 ヴィーネとその件で話をしようとしたら、黒豹ロロに抱きつかれた勢いのまま壁に背を付けていた。


 ヴィーネも黒豹ロロの背の毛を撫でていた。

 そのヴィーネに向け、


「ヴィーネ、急な指示でよく動いてくれたな。ありがとう」

「はい、当然です。それよりも地下の動きとキサラたちはどうなりましたか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る