九百三十四話 <青龍蒼雷腕>を披露
〝黒呪咒剣仙譜〟は後で皆にも読んでもらうとしよう。
当たり前だが、中層の踊り場の拱門から覗かせるバルコニーは前と変わらず。
そのバルコニーではビーサがラービアンソードを振るっていた。
そのビーサが俺たちに気付いて走り寄ってくる。
そのビーサの後頭部の器官が煌めいた。器官の先っぽから桃色の魔力粒子が迸る。
リサナとは異なる魔力粒子の飛ばし方だ。
あの三つの器官は種族ファネルファガルの証拠。
鎖骨を隠す三つの器官はサイド編みの髪にも見える。そのビーサは、
「師匠~~~」
と言いながらラービアンソードの柄巻に魔力を通すのを止めた。
柄巻の付け根、根元、鍔、はばきと地続きの放射口からビームのような魔力のサーベルが伸びていたが、放射口へとガスバーナーの火力が弱まるように吸引されて消える。
ビーサはそのラービアンソードの柄巻を腰に差して俺の近くに寄った。
そのビーサに、
「よお、稽古していたか」
「はい! 師匠……起きてくださった。良かったです」
「ごめん。心配かけたよな」
「ふふ、心配はしましたが、師匠は銀河に平和を齎す存在。
<
まぁ色々と獲得したからな。
「おう、成長した。<水月血闘法・水仙>、<龍豪閃>、<闘気玄装>、<血龍仙閃>、<龍異仙穿>、<白蛇穿>、<白蛇竜異穿>、<血龍天牙衝>、<青龍雷赫穿>、<戦神震戈・零>、<経脈自在>、<性命双修>、<滔天仙正理大綱>、<霊仙酒槍術>、<仙魔奇道の心得>、<仙魔・桂馬歩法>、<仙魔・霧纏>と<玄樹・霧纏>が融合した<仙魔・
「なんと……」
ビーサは口を拡げて驚いた。
後頭部の三つの器官から桃色魔力の粒子を勢い良く放出させる。
少しリズムがあるから面白い。
まったりとした和風とミュージックにラップを合わせてビートを刻みたくなる。
すると、背後の廊下から踊り場に出た皆が、
「凄! ついこの間、<魔装天狗・聖盗>などを覚えて驚いてたのに!」
レベッカがそう発言。顔を横にしてハルホンク衣装を見てくる。
続けて、キサラがビーサに会釈。
そして、
「凄すぎます! <霊槍・水仙白炎獄師>……仙人系の能力を取り込んだということでしょうか」
と質問。俺の左手と右手を交互に見てきた。
「あ、仙王ノ神滝の水と四神柱と大豊御酒を取り込んで酔っ払いの水の仙人様になったの!?」
「なってないと言いたいが、水仙とあるから、なったのかもしれない」
「わぁ……」
「ん、シュウヤはがんばった! スキル獲得は立派な勲章!」
「はい。称号の効果も凄そうですね」
「称号と戦闘職業は前人未踏の領域。そして、膨大なスキルの獲得、おめでとうございます! 模擬戦が楽しみです」
「あぁ、キサラとの稽古はワクワクだ」
「ふふ」
「器は、戦神イシュルル様が使ったとされる神獣を取り込んだのだな?」
「そうなる、青龍・朱雀・白虎・玄武の一部だと思うが、魂を得た」
「その四神の神獣と関連したスキルは色々と凄そうね。<青龍蒼雷腕>とか名前からして強力そう」
頷きつつ――。
上半身が一瞬で薄着となるや鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼が体に装着された。
皆の動体視力は、並ではない。だから俺の股間を見る者が多いが股間に両手を当てたポージングは別段取らない。
更に、
――<闘気玄装>。
――<経脈自在>。
――<魔闘術の仙極>。
――<滔天内丹術>。
――<四神相応>。
――<青龍ノ纏>。
などのスキルを連続発動。
踊り場を前傾姿勢で駆けた――。
バルコニーにはぎりぎり出ない拱門の真下辺りで<青龍蒼雷腕>を発動――。
俺の精神世界にいるだろう青龍が『ギュォォォ』と思念を寄越す。
鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の手甲に刻まれている稲妻模様が蒼く輝いた。
同時に雷属性の魔力を右腕に集約。
バチバチと音が響く蒼い稲妻を宿す片腕を皆に見せながらゆっくりと爪先半回転。
エヴァのような機動を意識した振り返りを行う。
「わぁ~」
「す、素敵すぎる……」
「にゃおおお~」
「ワンッ」
「にゃァ」
「グモゥ!」
「う、うん、マスターの片腕、蒼い稲妻の龍が幾つも絡んで……胸板の筋肉に鎖骨が!」
ミスティも興奮している。
「上半身の肌が変化している! 青龍の鱗が混じっているの?」
「鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼といい、<召喚闘法>の効果もあるのかな……とにかく格好良い!」
「器様に濃厚な水の気配を幾つかと、他にも濃厚な魔力を察していましたが……<四神相応>とは恐れ入ります」
羅の言葉に頷く。
「はい。装備と地肌が渋すぎる……そして<魔闘術>の質が極めて高いです。<闘気霊装>も幾つか重なっている?」
「妾たちも成長を遂げた理由か」
「うん……拳を活かした武術家にも見える」
レベッカは影響を受けたのか、己の体から蒼炎を発した。
ひゅぅ~と思わず口笛。
蒼炎を纏うだけで、一気にハイエルフ感が強まるんだよな。
そんなレベッカに、
「あぁ、格闘系も進化したからな。無手でもそれなりに戦える」
「ふふ、武者震いが起きました」
「あ、わたしも」
「ん」
「はい……」
ヴィーネからヴァニラの匂いが漂う。
うっとり顔のヴィーネに笑みを送る。
ヴィーネは胸を少し揺らして「あぅ」と小さな喘ぎ声を発して感じてくれた。
俺の煩悩がヤヴァいがな。
ビーサは、俺の<青龍蒼雷腕>の右腕を見ながら呆気に取られていた。
「これからは異界軍事貴族と同様に聖獣も使役可能に?」
「それは分からない。ま、俺には相棒がいれば良いからな」
「にゃぁ」
相棒が、足に頭部を寄せてくる。
ヘルメも、
『閣下の濃密な魔素からして、スキルは沢山獲得していると予想していましたが、予想を超えていました』
『おう。
『はい』
<青龍蒼雷腕>を消す。
防護服も瞬時に戻した。
皆に向け、
「先ほども言ったが、青龍・朱雀・白虎・玄武の四神の神獣の魂と大豊御酒を飲んだ俺が呼応した成果だ。もしくは、〝玄智の森闘技杯〟への出場権が掛かった予選で俺が優勝したから、戦神イシュルル様と水神アクレシス様が、俺にご褒美を下さった可能性もある」
「神々が関係した大豊御酒かぁ」
「美味しかった?」
「あぁ、美味。米が美味いだけある」
訓練の間にエンビヤが作ってくれたお握りは忘れない。その握り飯の恩は返せたから満足だ。
「へぇ、わたしも飲みたいな~」
「ん、お酒は料理に使える」
「ロンバージュ魔酒とどっちが美味しい?」
「大豊御酒だな」
「言い切った。クレインが聞いたら大変ね」
「あぁ……で、その四神にまつわるスキル群だが、<経脈自在>と<闘気玄装>が無ければ<四神相応>の獲得は無理だったかもしれない……更に四神柱には白蛇竜小神ゲン様の魂の欠片が浮き彫りで刻まれていた。その欠片に反応したのが、
「
「あぁ」
「大海賊キャットシー・デズモンドの魔法地図も、その店で買ったんですよね」
キサラはレベッカに話を振る。
レベッカは頷いて、
「そう、化粧品とかもつけてくれた。そして、皇級:無属性の
そう発言。皆頷いた。
「ポル・ジャスミンといい、大物だった」
「でも結局はナミよね。ナミがいなければ、シュウヤの成長はなかった。もっとお礼しないと!」
「ん、わたしもお礼したい。魔道具の片付けを手伝いたくなった」
「……魔技系統、槍武術系統は分かりますが、瞳術系と四神系に<召喚闘法>などが気になります」
数回頷いていたヴィーネが俺のスキルを分析していた。
「うん。あと、<霊仙八式槍舞>と<戦神震戈・零>がかなり高位なスキルだという予感がしてる……」
「素で強くなったと分かるけど」
「うん、仙武人たちが暮らす玄智の森かぁ……シュウヤにとって良い修業部屋でもあったのね」
「そうだな、正直言えば、皆と体感したかった。で、ビーサ、大丈夫か?」
「あ、はい!」
軍隊風の敬礼を寄越す。
俺もラ・ケラーダを送ってから、
「なら、一階か外にいるだろうディアと合流だ」
「行きます!」
ビーサに頷く。
そのまま踊り場を歩いた。
香具とお洒落な植木。
床の硝子の中を流れる幻想的な川のような光源は変わらず美しい。
天井には……。
アギトナリラ、アギト、ナリラ、ナリラフリラ、ナリラ、フリラなどの管理人たちがいた。
天井と壁を、箒とモップと雑巾の魔道具で掃除を行っている。
雑巾掛けを行うアギトナリラは可愛らしい。
管理人の一部が降りてきた。
アギトナリラたちは、デボンチッチ的で、ふわふわ感が強い。
「ご主人様~♪」
「寝ていた、ご主人様が、起きた~♪」
「起きた♪ 起きた♪ 起きたんぼ~♪」
「起きた♪ 起きた♪ 起きたんぼ~♪」
「起きた♪ 起きた♪ 起きたんぼ~♪」
「海人ババーンバが採るマキ貝を食べますかァ~♪」
「「マキ貝を食べますかァ~♪」」
「「マキ貝を食べますかァ~♪」」
「海人トトッルッポンが採ったポポルッガの海草を食べますかァ♪」
「「ポポルッガの海草を食べますかァ♪」」
「「ポポルッガの海草を食べますかァ♪」」
「にゃご! ンンン――」
「にゃァァァ――」
「ワンッ、ワンッ、グブァ――」
「ブボォォ――」
相棒たちが面白い歌とダンスを宙空で披露するアギトナリラたちに大反応。
「「ひぃぃ♪」」
「にげろぉぉぉ♪」
「「神獣軍団だぁぁぁ♪」」
妖精的なアギトナリラが一斉に散る。
ふわふわ感のある妖精だ。
暫し、バルコニーを走り回る相棒たちを見てから、
「相棒、皆、ほどほどにな。直ぐに下に来いよ」
「にゃお~」
「ワン!」
相棒とシルバーフィタンアスは返事をしてくれたが、
さて、と振り返り、浮遊岩に乗り込む。
皆で浮遊岩に乗って一階に向かった。
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