九百三十話 神々の争いと秘宝の使用と相棒の可愛い体重

 魔界セブドラの四柱の神々と眷属たちの争いをチラッと見てから鬼魔人傷場に向かう。

 ――走ると体が少し浮くような加速感を得た。

 この加速感はハルホンクの進化のお陰か。跳びながら移動するが――。

 まだ鬼魔人傷場まで距離がある。その傷場の霧のような魔力の色合いは増えていた。

 更に、傷場の内部と傷場の外へとプロミネンス的に放出されている灰色と黄色の稲妻も前にも増して凄まじいような……。


 神々と神々の眷属の争いが鬼魔人傷場に影響している?

 ますます恐怖を覚えながら足下に<導想魔手>を生成。

 その<導想魔手>を蹴って跳ぶ。棒高跳びの選手になったかの如く宙を飛翔――。

 魔界セブドラの風を感じ匂いを鼻孔に得ながら足下に<導想魔手>を再び生成。

 その<導想魔手>を右足の裏で捕らえ蹴って前方へ跳ぶ。


 同時に<闘気玄装とうきげんそう>を発動。

 続いて<仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を実行――。


 体に霧のような魔力を纏う。そして、何事も修業!

 アキレス師匠直伝の気概で魔力の放出を行った。


 魔技でたとえるなら<導魔術>と<仙魔術>に当たる魔力の放出だ。

 魔技の訓練を続けながら再び足下に<導想魔手>を生成し、その<導想魔手>を踏み台に跳ぶ。


 高く跳んだ宙空で<闘気玄装>を強める。

 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>は広げながら薄めるとかに挑戦。


 ――体内と体の表面を巡る<闘気玄装>は奥が深い。

 ――体の表面と体の周囲に展開される<仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>も難易度が高い。


 更に、二つの同時使用は魔力操作の難易度を引き上げる。

 <仙魔術>と<導魔術>と<魔闘術>の魔技のスキルが無ければ覚えることはできなかっただろう。


 その二つの魔力層の境目を意識。

 魔力と魔力の微妙な差異さいのミクロの隙間を魔力の糸で縫い合わせるように――。

 一つに融合させて、体内の魔力を練り上げる。


 ――この己の魔力を練り上げる修業は魔力の網、魔力の液体、魔力の気体、捉えどころがない魔力層だから大変だ。

 この段階から更に<血魔力>と<水月血闘法>と<魔闘術の仙極>の連続使用も可能。

 <龍神・魔力纏>を使えば更なる強化が可能となる。

 しかし、その分、魔力消費と魔力操作の難易度は高まることになる。

 が、その難しい魔力操作が<闘気霊装>系の妙。

 修業や実戦を繰り返せば繰り返すほど、戦いに活かせるようになる。


 そして、<滔天内丹術>、<仙魔奇道の心得>、<経脈自在>、<滔天仙正理大綱>、<性命双修>などのスキルが無ければ、ここまで魔技を強めることはできなかっただろう。同時に、それらのスキルがなければ五臓六腑が爆発していたかもしれない。

 これは本体に戻っても継続されるはず。だが、<四神相応>の四神を使う際……。

 精神と融合している四神が暴れるように意思を示すから、ある意味内臓は爆発している?


 さて、続いてハルホンクの進化した新防護服の能力も試そうか。


 ハルホンクの防護服を意識――。

 袖の内側から出た棒手裏剣と手裏剣の束は使わず――。


 魔力が脇の溝から度々噴出しているが、その魔力の出力を変化させた。

 この脇のスラスターのような機構は、加速と姿勢制御が可能となる孔だ。


 空中機動力が増す。

 走る速度を少し落とした。

 腰下に出現している青白い炎のような魔力が結ぶ玄智宝珠札と棒手裏剣を見た。


 銭差ぜにさし的。

 玄智宝珠札と棒手裏剣が連なる形が、フキナガシフウチョウの飾り羽根にも見える。


 または、唐鳥の頭の白い毛にも見えるかな。

 孔雀か鳳凰の尾にも見えるか。

 あ、<朱雀閃刹>と関係した<四神相応>の朱雀の尾?

 その炎のような繊維が片結びで結ぶ玄智宝珠札と棒手裏剣は衝突するように擦れ合い魔力の火花が散っている。しかし、前回響かせていた金属めいた擦れる音は響かせて来ない。


 不思議だ。尻側にも青白い炎の魔力が結ぶ玄智宝珠札と棒手裏剣は存在する。

 当然、俺からは見えない――。

 その太股の横で靡く、その銭差ぜにさしのようなモノを触った。


 玄智宝珠札と棒手裏剣は硬貨と鋼鉄っぽい。

 青白い炎で燃焼している繊維のような魔力は熱くないが感触はある。その玄智宝珠札と棒手裏剣で<投擲>のような攻撃演習を実行しようか。


「ハルホンク、やるぞ」

「ングゥゥィィ――」


 玄智宝珠札と棒手裏剣の遠距離攻撃を行う――。

 青白い炎の繊維が舞うように左右の横に拡がり、瞬く間に繊維が結んでいた玄智宝珠札と棒手裏剣が前方と斜め前方に飛翔し、靡く。

 その直後――。

 不思議な浮力を得た。更に、梵字と星々のような魔力幻影がゼロコンマ数秒も経たない間に浮かぶ――二十八宿の南方朱雀の意味か?

 今の幻影は凝視していないと、まず気付かないか。

 棒手裏剣と玄智宝珠札は、前方左右斜めの地面に突き刺さっている。

 姿勢を下げて、その<投擲>した棒手裏剣と玄智宝珠札を回収――。

 上半身を上げる動作からホップ、ステップ、ハイジャンプッとタイミング良く足下に<導想魔手>を作り続けて低空飛翔を行った。


 更に<仙魔・桂馬歩法>も実行。


 鬼魔人傷場をチラッと見てから――。

 左の空で戦う魔界の神々と、その神々の眷属たちの争いを再び見た。


 眷属と眷属の戦いは互角も多い。

 差し違えて死ぬ場合もある。


 四柱の神々は、遠距離攻撃を主体とした攻撃を行い始めた。

 すると、吸血神ルグナド様は歌い始めた。


 美しい旋律――と、全身から血を放出させる。

 瞬く間に血は血の霧として拡がった。


「『我の血の支配を抜けし罪人よ、我の血の一端を見て、恐れ慄くが良い……<血道第八・開門>――<血霊回生>』――』」


 吸血神ルグナド様の思念と美しい声が全身を突き抜けた。

 <霊血の泉>のような能力か。

 <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を超えた血の匂いで、脳を揺らすほどの衝撃だった。


 心の臓、精神に向けて杭が打ちこまれたような衝撃を感じた。

 その血の霧から次々と凝固した血の塊が現れると、その凝固した血の塊が崩れたその中身は吸血神ルグナド様の眷属たちだ。倒れて死んだ者たちが復活を始めた。


 悪夢の女神ヴァーミナ様も同様に距離を取った。


 上空の空間が歪む。


 その歪んだ空間から大きい背凭れ付きの黒椅子が出現。

 その黒い椅子に座るのは、悪夢の女神ヴァーミナ様の幻影だった。


 ここで、魔界セブドラの神絵巻の絵柄とはな。


 鼻と首の半分が切断された状態だったが、他は無傷の美しい姿だ。

 鼻と首の傷から血が宙空に展開されているが、血は無重力状態。

 落ちずに漂う血の群れだ。


 その血の群れは、無数の勾玉と巨大な三つの勾玉に変化を遂げる。


 三つの勾玉はネックレスに変化すると悪夢の女神ヴァーミナ様の胸元に装着された。

 一つ一つの勾玉から魔力の糸のような繊維が放出されて、瞬く間に幾つもの繊維状の魔法陣を模った。


 その魔法陣の真上に包帯の塊が出現。

 その包帯の塊は、包帯に包まれている黒兎たちだった。


 神々と神々の眷属たちと戦い倒されて消えていた黒兎たちの復活か。


 大柄の黒兎シャイサードは喜んで吼えた。


 その大柄の黒兎シャイサードは分身体を作り出す。


 魔毒の女神ミセア様も茨のカーテンを宙空に展開させる。


 その茨のカーテン内から次々に魔毒の女神ミセア様の眷属たちが復活を遂げた。


 闇神リヴォグラフは体から周囲に赤黒い魔力と漆黒の魔力を放出。

 更に、己の上下の空間に闇の柱を生み出す。

 周囲に展開していた赤黒い魔力と漆黒の魔力を、上下の闇の柱が吸収していた。


 闇神リヴォグラフは、上の闇の柱に入ると、その柱と下の柱が消える。


 が、直ぐに闇の柱が至るところに出現。すると、戦場と俺の目の前の空間が歪む。


「『ふ、下郎の槍使いめが、お前が見て良いモノではないが、特別に見るが良い。そして、七魔将リフルなぞは、ただのセラの駒に過ぎんことを知れ――』」


 俺の精神に楔を打ちこむような波動が伝わってきた。

 融けたプラスチックのような臭い、ダイオキシンのような臭いだ。

 指向性を有した電磁波が誘導する毒ガスか?


 が、その波動&電磁波を帯びたような攻撃を、


「『弾かれたか……お前たちが欲する下郎の拷問死を目の前で見たらさぞや愉快な光景となったろうに……』」

「『闇神リヴォグラフ、戯れ言を申すな! 我の夫予定の槍使いに<咎魔楔印>など打ちこませるわけがない――』」

「『闇神リヴォグラフ、我の行為を邪魔するとは、<夜の瞳>を有した混沌の槍使いシュウヤは我の魔界騎士候補でもあるのだぞ!』」


 悪夢の女神ヴァーミナ様と魔毒の女神ミセア様が放った言葉と衝撃波の魔力が伝わると臭いと空間の歪みが消えた。


 闇神リヴォグラフは怒ったような咆哮を発したようだ。

 思念と声は聞こえないが、震動波のようなモノを察知。

 闇神リヴォグラフは周囲の闇の柱を操作した。

 宙空に何個も浮いていた闇の柱が一気に地面へと降り注ぐ。


 地面に隕石が衝突したようなクレーターがいたるところにできた。そのクレーターの中心に聳え立つ闇の柱から闇神リヴォグラフの眷属たちが現れた。


 他の神々の眷属たちと同様に復活を果たしていく。

 それらの眷属たちと黒兎シャイサードが率いる黒兎軍団が争いを始めた。


 悪夢の女神ヴァーミナ様の両手がブレる。

 柱の中にいるだろう闇神リヴォグラフの真上に刃と化した魔力の糸が転移して、雨霰と降り注ぐ。

 闇神リヴォグラフは咄嗟に闇の柱から飛び出した。

 刃と化した魔力を体に喰らい鎧と体が切断されながらも、漆黒魔力の巨大な腕を持つ幻獣怪物を宙空に召喚――。幻獣怪物は宙空を転移しながら悪夢の女神ヴァーミナ様との間合いを瞬時に詰めて、両腕を素早く振るう。


 悪夢の女神ヴァーミナ様は大きい魔獣の頭部を召喚し、掲げた。

 幻獣怪物が繰り出した拳の攻撃を、その掲げた魔獣の頭部で防いでいた。


 魔獣の頭部は大きな盾代わりか。

 あの魔獣の頭部は見た覚えがある。

 幻獣怪物の太い両腕が迅速に繰り出す拳の攻撃を防ぎきる魔獣の頭部は硬い。


 連続した打撃攻撃を魔獣の頭部で防ぐたび、悪夢の女神ヴァーミナ様の魔力が増えていくように見えた。その魔獣の頭部の大盾が光る。

 双眸が光ると口から大量の白濁した液体を吐き出した。


 白濁した液体をまともに浴びた幻獣怪物は一瞬で溶けて消える。

 白濁した液体は指向性のある液体スライムのように闇神リヴォグラフにも向かう。避けられない闇神リヴォグラフは頭部から白濁した液体を浴びた。


 が、角が赤く輝いた闇神リヴォグラフ。

 上半身の一部が無残に溶けたが生きていた。

 瞬時に赤黒い紋様が闇神リヴォグラフの体の表面を覆うと、闇神リヴォグラフは元の姿に戻る。


 と、悪夢の女神ヴァーミナ様は魔獣の頭部を放る。


 闇神リヴォグラフは漆黒魔力を体から噴出させた。

 その噴出途中の漆黒魔力の中に消える。転移か。


 闇神リヴォグラフは悪夢の女神ヴァーミナ様の背後に転移――。


 出合い頭ではないが、転移した刹那、漆黒の大剣を振るう。


 蛇のような稲妻が絡む大剣を背中に喰らった悪夢の女神ヴァーミナ様は、湯気のような靄を背中から発生させつつ体を横回転させた。


 悪夢の女神ヴァーミナ様にダメージはない?

 その悪夢の女神ヴァーミナ様は両腕から発した魔力の糸を前方に伸ばして、その糸の上を駆けていた。更に、足から包帯の繊維を前方に伸ばし、放り投げていた魔獣の頭部に絡ませていた。重い魔獣の頭部に引っ張られるように悪夢の女神ヴァーミナ様は宙を旋回し始めた。そのまま飛翔速度が上がると、距離を取る。


 黒兎シャイサードの分身体の一部も加速。

 悪夢の女神ヴァーミナ様の行動を追うように飛翔していく。


 黒兎シャイサードの分身体は本人と同じ魔力に筋肉量を再現している。

 優秀な分身体だ。しかし、リスクが高そうにも思えた。


 その黒兎シャイサードの分身体は魔毒の女神ミセア様、吸血神ルグナド様、闇神リヴォグラフの眷属たちの攻撃を受けて散った。


 しかし、両腕に魔槍を持つ本体のシャイサードが爆発的な加速で、<刺突>のような連続攻撃を神々の眷属たちに喰らわせて倒す。


 先ほど、俺に対して思念と言葉を発してきた吸血神ルグナド様も気になった。


 <血魔力>をマントの如く扱う吸血神ルグナド様。

 絶世の美女でありながら魔界騎士のような出で立ち。


 そんな吸血神ルグナド様に、闇神リヴォグラフが放った漆黒魔力が向かう。

 吸血神ルグナド様は、細い二腕と幻想の四腕が握る魔法の大剣を振るい、漆黒魔力を斬った。更に、振るわれた魔法の大剣から無数の血の魔刃が周囲に飛翔し、復活したばかりの闇神リヴォグラフの眷属たちを貫き、切断していく。


 血の魔刃の群れは闇神リヴォグラフの半身にも傷を与えていた。


 強いな、吸血神ルグナド様。

 怒りに震えたような動きを示す闇神リヴォグラフは咆哮。

 吸血神ルグナド様は闇神リヴォグラフの反撃と、悪夢の女神ヴァーミナ様と魔毒の女神ミセア様の攻撃も喰らって後退。


 乱戦が激しい。


 更に、魔毒の女神ミセア様と悪夢の女神ヴァーミナ様が俺に向けて飛来。

 しかし、両者は向かい合うと、双眸から光線が迸る。

 光線と光線は相殺されるが、そのまま殴り合う二柱の神々。

 と、殴り合いから一転して離れた。


 魔毒の女神ミセア様は、悪夢の女神ヴァーミナ様ではなく――。

 横から不意打ちを狙った吸血神ルグナド様に向けて茨の鞭を振るう。


 離れた悪夢の女神ヴァーミナ様は、同じく不意打ちを狙っただろう闇神リヴォグラフに向けて魔力の糸を放出している。

 すると、魔毒の女神ミセア様と吸血神ルグナド様の攻撃が相殺された衝撃波が、悪夢の女神ヴァーミナ様と闇神リヴォグラフに衝突。


 二柱の神は吹き飛ぶ。


 悪夢の女神ヴァーミナ様は素早く反転。

 そんな悪夢の女神ヴァーミナ様に向け、魔毒の女神ミセア様が蛇の群れを繰り出す。

 すると、その魔毒の女神ミセア様に向けて、吸血神ルグナド様が背後から無数の血の礫を放つ。


 血の礫は逆さ十字の形だった。

 あの血の礫の形からして、光神ルロディス様とは相容れないと分かる。


 魔毒の女神ミセア様は悪夢の女神ヴァーミナ様への攻撃を止めて無数の血の礫を避けていく。


 吸血神ルグナド様と眷属たちの<血魔力>は……。

 俺たち光魔ルシヴァルの<血魔力>と殆ど同じに見える。


 吸血神ルグナド様の<血魔力>は非常に気になった。

 <血液加速ブラッディアクセル>などもあるだろう。


 が、加速から速度を急に落とす緩急の動きが多くあまり見られない。


 ――お?

 <血想槍>や<血想剣>と似たような<血魔力>の技を使う黒髪の高祖吸血鬼ヴァンパイアを見つけた。


 本体か分身体か不明な黒兎シャイサードの体を切り刻む。

 更に他のシャイサードの体に噛み付き吸収していた。


 黒髪の高祖吸血鬼ヴァンパイアは強い。


 他にも吸血神ルグナド様の眷属だと思われる巨大蝙蝠もいる。

 巨大蝙蝠は大きな蛇と正面衝突、大きな蛇は魔毒の女神ミセア様の眷属だろう。

 巨大蝙蝠と大きな蛇は互いに噛み付きを行い、錐もみ回転中に、大きな蛇のほうは萎れて散った。


 巨大蝙蝠が<吸魂>か<吸血>を行ったようだ。

 巨大蝙蝠は人型の吸血鬼ヴァンパイアに戻る。


 銀髪で片目を瞑ったまま宙空で動きを止めた。

 端正な顔立ちで鎧風の防護服を着ていた。

 右手に銀槍を、左手に木塊を持つ。

 木塊は棍棒系だろうか。


 他にも二振りの魔槍を振るう高祖吸血鬼ヴァンパイアの槍使いがいる。 

 それは紫色のマントを羽織る渋い女性。

 どことなくエヴァと似ている。 

 その紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアに闇神リヴォグラフの眷属だと思われる大きい黒獅子が空から近付いた。


 更に闇神リヴォグラフの眷属の槍使いも宙を直進。

 どちらも翼はないがかなり速度が速い。


 大きい黒獅子は黒爪を振るう。

 漆黒魔力を纏う槍使いは体から手裏剣の形の魔力を飛ばしつつ、赤黒い魔槍で<刺突>を繰り出す。


 紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは、体がブレる加速から二振りの魔槍を頭上に掲げるように前進。


 黒獅子が振るった黒爪を魔槍越しに睨む紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは、右手が握る魔槍で受けて、弾く。

 続いて、赤黒い魔槍を持つ槍使いが繰り出した<刺突>を、左手が持つ魔槍の柄で受けて柄を捻って横に払うと前進。

 が、その前進した紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは槍使いの体から出ていた手裏剣の形の魔力を体に浴びて傷を受ける。


 そんな傷を気にしていない紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは綺麗な下着を露出しつつ大きい黒獅子との間合いを零とすると右手が握る魔槍を振り上げた。


 大きい獅子の頭部を斜めに切断。


 小柄の紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアが持つ二振りの魔槍は特別か?

 紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは斬った大きい獅子を蹴って反転し宙を飛翔――宙空から<血魔力>を周囲に発して、身を翻す。


 続けざまに体を横に捻り回転。

 上昇しながら降下する間に二振りの魔槍を槍使いに振り下ろす二連続の斬撃を繰り出していた。


 闇神リヴォグラフの眷属の槍使いは二連続の斬撃を弾けず、胸の一部と片腕を切断されると体勢を崩した。が、まだ生きている。


 紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは頭部を下げながら上半身ごと二振りの魔槍を前方に突き出すダブル<刺突>の突き技を繰り出した。


 ダブル<刺突>が槍使いの首に決まる。闇神リヴォグラフの眷属の槍使いは倒れた。


 二槍流の紫色のマントを羽織る美女吸血鬼ヴァンパイアは強者。

 魔界セブドラの神々の眷属たちは強者ばかりで興味が湧く。


 が、もう見ない……。

 鬼魔人傷場に向かう。


 が、最後に――宙空で半身となって鬼魔人&仙妖魔の仲間たちを見た。

 仲間たちの姿は見えない。


 驀進している大厖魔街異獣ボベルファの後ろ姿のみ。


 ボベルファは山を背負った亀に見えるが、強烈な走り姿だ。


 大厖魔街異獣ボベルファの周囲には白色の輝きを帯びた塵が発生している。


 風属性の魔力の探知や掌握察のような探知系の魔力を阻害する?

 しかし、異常な速さだ。


 多脚が通り抜けた地面はぐちゃぐちゃに潰れて土煙が発生していたが、白色の塵が土煙を吹き飛ばしていた。


 大厖魔街異獣ボベルファの凄さを実感。


 この大厖魔街異獣ボベルファと本契約をした証拠のクリスタルは大事にしよう。


「ハルホンク、しまってくれ」

「ングゥゥィィ」


 ハルホンクのポケットの中に入れて格納させた。

 大厖魔街異獣ボベルファと本契約をした証拠のクリスタルを食べて吸収したとしても、ハルホンクは吐けるから、大丈夫だとは思うが……無難に格納のみ。

 再び、大厖魔街異獣ボベルファの後ろ姿を見るが……。

 小山のような印象の大きさでしかない。寂しさを覚えた。


 ザンクワ、射手のアラ、副官ディエ、魔界騎士ド・ラグネス……。

 魔将オオクワ、ヘイバト、片腕の部隊たち……。

 名の知らぬ優秀な仙妖魔……元気で。


 鬼魔人と仙妖魔を救えて良かった。

 大厖魔街異獣ボベルファの動きを見て安心できた。

 ――良し! 頬を叩いた。


 <導想魔手>を蹴って跳ぶ。低空から鬼魔人傷場に向かった。

 鬼魔人傷場はゲートと呼べばゲートなんだろうが……。

 中は稲妻のようなモノが駆け巡っているから恐怖を覚える。


 怖いもんは怖いんだよな。


 更に表面だけを見れば霧か液体の膜にも見えた。

 縁は丸かったり、四角だったり、歪な三角だったりと変化している。

 その縁の際の空間は歪んでいた。


 そんな鬼魔人傷場に正面から突入――玄智の森に帰還だ!

 グワワンといった重低音が頭部に走る。

 耳鳴りが響いたが、鬼魔人傷場を越えた。


 と、いきなり目の前にイゾルデと腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが――。


「シュウヤ様ァァァ」

「シュウヤが戻ってきたぁぁぁ」

「シュウヤ!」

「おぉぉ~」

「シュウヤだ!」

「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」

「分かったから、羽交い締めはするな……」


 額に子精霊デボンチッチのプルルッとした陰嚢が当たる。

 ふと、金玉を額に持つチップさんを思い出して笑いそうになるが、あれは種族としての証し、笑ってはいけない……。


 エンビヤは嬉しそうに泣いているし。

 ホウシン師匠にクレハとダンもいる。


 俺を猛烈に抱きしめているイゾルデが皆をここまで運んでくれたようだな。

 幸せな痛みだが、おっぱいの圧力も良い……。


「……アァ」

「イゾルデも激しいねぇ」


 独鈷コユリは笑う。


「ングゥゥィィ、イタイ」


 肩に出現した肩の竜頭装甲ハルホンクも珍しく痛がった。

 イゾルデは、


「わ、分かった」


 と離れた。

 独鈷コユリが、


「ふふ、変な顔も面白いシュウヤ、お帰りだよ。短い旅だったようだが、魔界セブドラの地はどうだった?」

「色々とあった。鬼魔人と仙妖魔の軍は無事だ」

「魔界王子ライランの勢力は?」

「「おぉ」」

「時間的にそうじゃろうとは思っておった」


 ホウシン師匠に拱手の挨拶をしてから、


「はい。予想通り【ライランの血沼】では諸勢力の戦いが激しいようです。しかし、魔界セブドラの神々が飛来。北側の空域で争いを始めました」

「なんと……」

「悪夢の女神ヴァーミナ様と魔毒の女神ミセア様は、俺との接触を試みてくれたようですが、神々の争いは壮絶な乱戦で二柱の神との接触は無理だった。あの分ですと、ライランの血沼と呼ばれている北から東にかけての地域は混沌と化す。魔界王子ライランの勢力範囲は一気に狭まるか、諸侯か神々に討ち取られることは必至」

「……神々の争い……魔界大戦が起きたのか!」

「鬼魔人と仙妖魔たちは地獄龍山に?」


 イゾルデは魔界大戦を知っているから驚いている。

 そのイゾルデと独鈷コユリに、


「悪夢の女神ヴァーミナ様と魔毒の女神ミセア様、吸血神ルグナド様と闇神リヴォグラフの勢力の一部のみだから、規模は小さい範疇だと思う。が、戦いは激しかった。しかし、神々は本物に見せかけた分身体って可能性も捨てきれない」

「神々は無理をしていた可能性もあるのか」

「あるだろう」

「神々も諸侯と同じく、それぞれ敵がいる状況だからな……」

「……守るべき領域を放っておける余地があるとも言える」

「可能性は色々さね」


 イゾルデと独鈷コユリは頷き合う。

 皆も納得顔だ。


 そんな皆に向けて、


「玄智の森組の鬼魔人と仙妖魔の軍は、大厖魔街異獣ボベルファに全員乗ってもらった。そして、地獄龍山ではなくグルガンヌ地方を目指してもらった」

「グルガンヌ? しかし、なんだい? その、だいぼうまがいいじゅう、ボベルファとは……」

「独鈷コユリは知らないのか」

「知らないねぇ」

「いじゅう……街とは……」


 エンビヤは察したようだ。


「動く山のような移動都市。背中が土地の巨大魔獣だ。玄智山の一部、武王院が移動していると考えれば早いか」

「山が動くほど、龍様のイゾルデ様の数倍規模か……想像ができない。それを使役したってことかい」

「ほぉ~」


 ホウシン師匠は楽しそうに聞いてくれている。

 俺も嬉しくなって、自然と笑顔になった。


「凄いな、いきなり大仕事かよ!」

「おう」


 ダンの笑顔はイケメンだ。

 するとイゾルデが、


「……魔界セブドラ側の神々は、そのような巨大な怪物を所有している。突然軍団が増えるので厄介な戦力だ」


 イゾルデは知っていたか。


「ボベルファに似たような種族がいるってことだろう。まぁ珍しい希少種だとは思うが、魔界セブドラも広いからな」

「それほどの大きさなら、まぁ、幸運に違いないが、紙一重を地で行くシュウヤさね。下手したら、皆がその巨大怪物に押し潰されて死んでいた可能性もある」


 独鈷コユリの言葉に頷いた。

 イゾルデが、


「が、ボベルファは、シュウヤ様でなければ、近付くこともなかったと推測する」

「担い手のミトリ・ミトンって少女がいたんだが、そのミトリ・ミトンはボベルファの様子がいつもと違っていたと語っていた」

「興味深い。そのボベルファは魔界セブドラでは珍しい部類の<血魔力>とシュウヤ独自の光属性、時空属性に反応したのじゃろうか」


 ホウシン師匠がそう予測。


「はい、そうかもしれません」


 さて、肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。


「ではそろそろ、三つの秘宝を使うとします」

「……シュウヤ……」

「シュウヤ、待て」

「ん?」


 ダンが〝黒呪咒剣仙譜〟を投げてきた。 

 それを受け取った。


 〝黒呪咒剣仙譜〟の表紙を見てから、クレハをチラッと見る。


「気になさらず。わたしは前に言ったように<黒呪強瞑>を覚えましたから。シュウヤさんが持つべき物です」

「俺も覚えたし、ホウシン師匠とモコにも見せた。ソウカンは〝黒呪咒剣仙譜〟を斬り捨てようとしたから大変だった」


 笑顔でそう語ったダンは<黒呪強瞑>を披露。

 両腕の前腕に黒い波紋のような紋様が走る。

 墨の魔力の紋章陣も浮いていた。

 へぇ、<黒呪強瞑>の応用か。


 そのダンが、


「それと、このハジメ師匠が記した〝風獣仙千面筆帖〟の基本と〝風獣墨法仙帖〟の武術書に、この仙大筆に仙魔硯箱を持っていけ」

「おい、それは……」

「あぁ、気にするな。また新しく作ってもらうさ。朧免囚戯画は入手できなかったが、その仙大筆ならシュウヤでも使えるはずだ」


 ダンが愛用していた仙大筆などに巻物と冊子が入った袋を渡してくれたが……。


「シュウヤ、顔に出ているからな?」

「ありがとう、感謝だ」

「おう……いつか神界セウロスに戻った玄智の森に再訪して、シュウヤなりの〝風獣墨法仙流〟を俺に見せてくれるんだろう?」


 そう語るダンは泣きそうになっていた。


「……見せてやるさ。ダンも仙剣王となった姿を見せてくれるんだろう?」


 そう発言。

 ダンは笑顔を見せつつ片頬に涙が伝う。

 そんな涙を隠すように半身の姿勢になりながら、


「……はは、おうよ!」


 と元気良く腕を伸ばす。ダンは良い男だ。


 玄智の森の友だな。

 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 左右の胸にポケットを出現させる。そのポケットに、ダンからもらったアイテムを入れて格納させた。

 続けて、八部衆の腕輪も肩の竜頭装甲ハルホンクに格納させて、白蛇竜小神ゲン様の指貫グローブも槍に変化させて格納させた。


 そして、この肩の竜頭装甲ハルホンクの中には、仙武人が使っていた魔剣数本を喰わせたし、鬼羅仙洞窟で回収したアイテムなども格納されている。


 蛇の人形。

 トタテグモ下目の人形。

 鴉の仮面を被る人形。

 仙王鼬族の人形。

 白蛇仙人の人形。

 背が甲羅と融合している仙武人の人形。

 魔人の彫像三体。


 寝ている本体に無事に帰還できたら、ハルホンクの防護服から取り出して調べたいアイテムだ。


「それじゃ、三つの秘宝を使うとしよう」

「待った。秘宝を使う前に、仙妖魔のことを聞かせてくれ。このメンバーなら聞いても大丈夫だと思うが、どうだろう」


 独鈷コユリがそう聞いてきた。

 ホウシン師匠とエンビヤとイゾルデは知っている。


「そうだった。仙妖魔の元の種族は、セウロスに至る道の禁忌を破った神界セウロスの仙女たち。堕ちた者たちだ」

「セウロスに至る道の禁忌を破った仙女たちが……仙妖魔だと?」

「驚きだ」

「はい……」

「仙妖魔が仙女たち……」

「信じられないですが、そうなのですね」

「ふむ……」


 ホウシン師匠は髭を伸ばしつつ納得顔。

 他の皆は驚いている。イゾルデは独鈷コユリに、


「……コユリ、罰を受けた一族だ。神界を追われて、魔界かセラに堕ちた者は多数いるのだぞ」

「堕ちた存在なら知っているさ。無数に伝承があるからねぇ。が、禁忌破りの仙妖魔の下りは初耳だったのさ。そして、戦っていた存在が実は、神界セウロスの仙女たちだったとは、複雑さね……」


 ホウシン師匠を含めた皆が、独鈷コユリの言葉に頷いていた。


「はい」

「「……」」


 イゾルデは視線を斜め上に向けて何かを思い出すような表情を浮かべていた。


「仙女が堕ちて、仙妖魔という種族に変化したんだから、その辺りの倫理観は気にしないでも良いと思うが?」

「ふむ」

「はい」

「そうですね……でも仲良くなれた仙妖魔もいたかもしれない。少なくとも、鬼魔人の一部にはその可能性があった」


 エンビヤの発言に自然と頷いた。

 そう思うと……鬼羅仙洞窟で戦ったアドオミたちの中に仙妖魔がいた。倒してしまったことが悔やまれるか。

 デュラートの秘剣の<光魔ノ秘剣・マルア>を知っているだけに、心に来るものがある……。


 が、それが戦いだ。独鈷コユリは片方の眉を下げつつ、


「……魔族の仙妖魔、仙女に関して、知っていることを教えておくれ」

「<サラテンの秘術>。神界から地上に堕ちた神剣サラテンの名。または<神剣・三叉法具サラテン>や沙・羅・貂の名は聞いたことがあるかな?」


 と独鈷コユリに聞いてみた。


「さ・ら・てんは知らない。先ほどの話と通じるが、堕ちた神剣なら幾つかの伝承と伝説は聞いている。更に〝残骸神山の伝承〟や〝堕ちた剣精霊のお伽噺〟などの名は話のネタとして聞いた覚えがあるさ。そして、そのお伽噺とセウロスに至る道の禁忌を破った仙女たちが、どう玄智の森と関係しているんだい?」


 堕ちた神剣の伝承は複数あるのか。

 <神剣・三叉法具サラテン>と似たような神剣なのかな。

 そして、堕ちた剣精霊か。アーゼン超異文明は神界セウロスと関係が深そうだ。

 白鼬の剣精霊イターシャが<神剣・三叉法具サラテン>たちに懐いたことも関係があるんだろう。

 そして、那由他の砂で鍛えられた沙なら神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜の中に入れる。いつか神界セウロスの玄智の森に行けたなら沙を連れて修業蝟集道場に向かうとしよう。

 が、そのことは一旦置いておく。


 貂たちとマルアの過去話の内容を思い出しつつ、


「ある堕ちた神剣たちは、俺が使役し、<神剣・三叉法具サラテン>として進化した。その内のは、神界セウロスで運命神アシュラー様に傷を負わせている。その運命神に傷を負わせた事象は、玄智の森の伝承にあった神々の戦いと関係すると予想している。そして、仙妖魔の種族に話を戻すが、白炎王山から〝白炎鏡の魂宝〟を盗んだ仙女フーディと仙女一族と仙骨種族たちが、神界セウロスの神々に罰せられて神界セウロスから追放された果てに、仙妖魔の種族となったと、沙・羅・貂の内の仙王鼬族の貂から聞いたんだ」

「「「おぉ」」」


 ダンとクレハに独鈷コユリは初耳か。


仙鼬籬せんゆりの森の仙王鼬族! 仙王家と親類と聞いたことがある」

「はい、前に聞きました。そして、イゾルデからも玄智の森が誕生した頃の話は少し聞いています」


 エンビヤがそう話をすると、イゾルデが、


「我が知る武王院や玄智山には仙王鼬族がいたから、今も玄智の森のどこかに隠れ住んでいるかもだ」


 そう発言。続いて、ホウシン師匠も、


「泡仙人、鴉天狗、白蛇仙人の種族たち……玄智の森も広い。どこかにいるかもしれぬ」


 そう言うと、独鈷コユリが、


「では〝白炎鏡の魂宝〟を盗んだ仙女フーディと、その仙女一族と仙骨種族たちが、仙鼬籬せんゆりの森から〝玄智の森〟が分離する要因を作り出したってことなんだね?」

「そうだと聞いているだけだ。<神剣・三叉法具サラテン>たちの会話と玄智の森の伝承は色々と符号するからな」

「驚きさね……」

「……今の話は、大いなる結界と狭間ヴェイルが破られる前の仙鼬籬せんゆりの森なんだよな? 鬼魔人傷場ができる前の……」

「そうだ」

「仙妖魔が仙女と仙骨種族ってことなのか……」

「はい、玄智の森の前日譚……仙鼬籬せんゆりの森だった頃……」


 クレハとダンは身震い。

 腕を見ると、鳥肌が立っていた。


「……わたしたち仙武人の誕生秘話でもある」

「神界セウロスから分離する原因は……仙妖魔で、その仙女たち……しかし、わたしたちの祖先でもある?」

「はい。その仙妖魔がいなければ、今の仙武人はいない」

「そうかもしれない……血統を維持している仙人種族もいるかとは思うが……」

「シュウヤ、遠慮するな。実際そうなんだろう……那由他の時間が経っている。仙妖魔が俺たちの母の一部だってことだ。皆、総じて黒色の髪と瞳に肌の色も同じ……<闘気玄装>と<黒呪強瞑>を扱えることからして、仙妖魔とは繋がりが深いと分かる。純粋な仙人もいるとは思うが……少数だろうな」

「「「……」」」


 ダンがそう話をすると皆、沈黙した。 

 そして、魔族と仙武人の繋がりは、武仙砦や白王院の方々には受け入れがたいだろう。


 独鈷コユリは溜め息を吐いて、


「……その〝白炎鏡の魂宝〟を用いた影響で、大いなる結界が破られて狭間ヴェイルに傷が発生し、〝白炎鏡の魂宝〟が壊れた? 或いは〝白炎鏡の魂宝〟が魔界側と繋がったから〝白炎鏡の魂宝〟が壊れた?」

「それらの予想はありえる。大いなる結界と狭間ヴェイルに傷を作り出したが故に、〝白炎鏡の魂宝〟が壊れた可能性。仙鼬籬せんゆりの森から、玄智の森だけが分離した影響で〝白炎鏡の魂宝〟が壊れた可能性。または、神々の争いの影響を受けて〝白炎鏡の魂宝〟が破壊されたか……詳しくは分からない。とにかく〝白炎鏡の魂宝〟がバラバラになったからこそ俺が持つ白炎鏡の欠片が存在する」

「驚きです。だから水神アクレシス様は白炎鏡の欠片をシュウヤに探すように求めたのですね」

「あぁ、鬼魔人傷場を塞ぐ秘宝の一つとして、白炎鏡の欠片が必要な理由だろう」


 エンビヤとホウシン師匠は、前に少し話をしているから知っているように頷いた。


「……凄まじい話じゃ」

「足ることを知るシュウヤだから水神アクレシス様に選ばれたんだねぇ」

「あぁ」

「最初から<白炎仙手>を覚えていたシュウヤ。水神アクレシス様の加護を持つシュウヤ……」


 エンビヤはそう呟く。

 ホウシン師匠は頷きつつ、


「ふむ……最初の、シュウヤの現れ方も希少。まさに水鏡の槍使いであった……更に、わしらの祖先サギラ・スーウィンが残した碑文には、『あの戦いで、我らの仲間は幾千万も散り果て、玄智の森も仙鼬籬せんゆりの森から離れて一つの迷いの世界となったが、これもまた一つの〝セウロスに至る道〟であろう。であるからして、水神アクレシス様を信奉する証しとして、ここに彫像たちを造り上げた。その刹那、我の命は枯れたが、最期に、水神アクレシス様からお告げを授かった。それは、無碍なる水神ノ超仗者の存在が新たに生まれ出ると……その者は、水の相即仗者であり水の即仗を持つ存在なり、と。その者、水を知り闇を知り光を知る、一即多、多即一を理解する希有な者と。その水の者ならば大眷属たちの復活も夢ではないであろう、と。であるからして、仙武人よ、心して待つがいい……調和を齎す一即多、多即一を実行しえる……水鏡の槍使いの存在を……』と、彫られてあった」

「凄いお話です!」

「あぁ! 先ほどから連続で鳥肌が立っている。デボンチッチと連動する神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードと、無名無礼の魔槍の召喚魔槍と、すべてが繋がる話だ……」

「はい。わたしたちは歴史に立ち会えている……感動です」

「すべて、過去から預言されていた……〝セウロスに至る道〟、水の即仗、水鏡の槍使い……なんてことだ」

「神々と祖先たちは、シュウヤの到来を予期していた」

「あぁ、祖先たちも、しっかりと俺たちを導いてくれていたんだな……」

「……はい、すべて無駄ではなかった。皆の行為が今に繋がっている。仙王槍スーウィンはシュウヤが入手しました……」

「……すべてだ。一即多、多即一を実行しえる……シュウヤのことが碑文に……」


 皆、感動している。

 エンビヤとクレハとイゾルデは涙を流していた。


 ホウシン師匠は満足そうな表情を浮かべて、長い白髭を指先で摘み、その白髭を伸ばしていた。


 偶然と必然の妙。


 俺が選んだリスクあるスキル獲得を促す夢が入る水晶。

 更にナミの<夢送り>類のスキルと貴重な魔道具。

 などが起因することには変わりないとは思うが……。


 俺がスキル獲得を促す夢を選ぶと最初から決められていた?


 アシュラー教団と関係を持つ【夢取りタンモール】の儀式に水神アクレシス様と正義の神シャファ様と戦神イシュルル様と運命神アシュラー様が介入した結果かな。

 他にも色々と可能性は考えられる。


 すると、独鈷コユリは思案顔。

 細い顎先に右手の人差し指を当てる。


 その右腕の肘を左手の掌で支えるポーズを取りつつ、


「しかし、仙妖魔の仙女が神界セウロスの白炎王山から、秘宝中の秘宝〝白炎鏡の魂宝〟をどうやって盗んだのだろうか」


 貂のマルアの推測話を思い出す。

 俺と同じことを独鈷コユリは聞いてきた。


「動機は定命の剣士の男と輪廻の縁が深い一族と会うため。と貂から聞いているが……そう単純ではないだろうな」

「定命の剣士の男に恋した仙女が大本とは……色々と縁を感じるね」

「ふむ……」

「はい……」


 ウサタカの件といい色々な……。


「白炎王山から秘宝中の秘宝〝白炎鏡の魂宝〟を仙女たちが盗めた理由には、恋バナ以外にも様々な理由がありそうですね」


 エンビヤの言葉に皆が頷いて、ホウシン師匠が、


「ふむ、神界セウロスの神々の争い。そして白炎王山の権力を巡る派閥争い、敵対種族の争い、内と外の組織の思惑と陰謀が絡んだ故に……神々にも重要な〝白炎鏡の魂宝〟を仙女たちが盗むことが可能だったと推測するのじゃ」


 と様々に予想してくれた。

 独鈷コユリとホウシン師匠は目が合うと頷き合う。

 その独鈷コユリは、


「……白蛇竜大神イン様を崇める仙王スーウィン家。仙王家と仙王鼬族には氏族が複数ある。三神山と八大龍王たちが揉めた伝承は有名。神界から堕ちた龍王の話に、竜鬼神グレートイスパル様の悲しみと龍神たちの深い因縁……更に、その方々と誼を通じた仙女と仙人に龍人は多い……ありえるねぇ」


 そう発言。八大龍王トンヘルガババン様の名は王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードに記されている。そして、堕ちた勢力と語っていた大蛇龍ガスノンドロロクン様は、八大龍王の一柱と名乗っていた。


 すると、イゾルデも、


「そうだ。玄智の森が誕生する前を遡れば無数に因縁は螺旋する」


 皆の話を補足する。ダンは、


「白炎王山の仙人か。白王院の気位の高さと似ているのか?」

「……そうかもねぇ。そして、その白王院についてだが、学院長ゲンショウの経緯とウサタカの最期を皆から聞いたさ。仙妖魔と白炎王山といい、色々とくるもんがあるさね」


 そう発言した独鈷コユリはどこか辛そうだ。俺は、


「過去は過去、今は今。神界セウロスに戻る玄智の森には独鈷コユリのように魔界セブドラを知る者も必要となるはずだ」


 独鈷コユリは微笑して頷き、


「……ふふ、ありがとう」

「シュウヤ様らしい言葉だ……そして、これは推測だが、魔界王子ライランの手駒となっている血龍魔仙族ホツラマも同じであろう……」

「血龍魔仙族ホツラマと魔界セブドラで戦ったことがあるが……神界セウロスの龍族だった可能性が?」

「あくまでも推測だ。見た目は龍人であり龍だった血龍魔仙族ホツラマが、神界セウロスの【竜龍ノ牙海園】などに棲まう一族だったのかは不明。我の勘違いかもしれぬ。しかし、<血龍仙閃>は確かだ。シュウヤ様が覚えたように、我も光魔ルシヴァルとして覚えている……」


 イゾルデと独鈷コユリの二人は偶然にも血龍魔仙族ホツラマと戦ったことがある。

 その独鈷コユリに、


「血龍魔仙族ホツラマも仙妖魔と同じく神界と関わる堕ちた龍族ってことだろう。で、話は少し変わるが、魔界王子ライランの眷属アドオミの洗脳を解いた仙妖魔は、玄智の森で過ごす内に神界セウロスの仙女の力が強まったんだろうか」

「その可能性はあるねぇ。元々は神界セウロスの仙女だったんだ。仙女系の神秘力や信仰を得たのかもしれないよ?」

「玄智山には【仙王ノ神滝】と四神柱がある。玄智聖水が溜まる地底湖に守護仙湯など、神界セウロスの神々の力が満ちた大自然が豊富じゃからな」


 独鈷コユリとホウシン師匠の言葉に頷く。

 まさに、〝自然は神の生きた服装である〟か。


 サデュラの葉も無数に落ちている玄智の森。

 四神柱の闘技場では回復力も顕著に上がっていたし、納得できる。


 そう考えてから、肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 懐のポケットから冥々ノ享禄、玄樹の珠智鐘、白炎鏡の欠片の三つの秘宝を取り出した。


「それじゃ、この三つの秘宝を鬼魔人傷場に使うとしよう」

「あぁ……ついにだねぇ……」

「うむ!」

「シュウヤ……わたし、わたし、シュウヤが――」


 エンビヤを抱きしめる。


「ぁ……」


 皆が見ているが、すまんの思いで……エンビヤの耳元に


「エンビヤ、また会える」

「はい……」


 強く抱きしめて、本当はエンビヤだけは……が、言葉にはしない。


 エンビヤの二の腕に手を優しく置いてから笑顔を作り離れた。


「……シュウヤ」


 エンビヤも微笑むが哀し気だ。

 独鈷コユリとイゾルデも、皆も……嬉しさと悲しさが同居したようななんとも言えない表情を浮かべていた。

 ホウシン師匠にもあんな顔をされると、心が痛いが……。


 すると、腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが、玄樹の珠智鐘に触れた。


「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」


 〝子精霊の音色〟が響く。

 更に三つの秘宝の回りに子精霊デボンチッチたちが疎らに出現。


 三つの秘宝を持ちつつ腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチと複数の子精霊デボンチッチを引き連れながら――。


「それじゃ、皆、玄智の森を頼むぞ」

「シュウヤ様、我は、我は――」


 イゾルデに背後から抱きつかれた。

 俺の二の腕を掴む。

 背中に潰れている巨乳の柔らかさが……。

 が、イゾルデの切ない気持ちは理解できた。


 イゾルデは少し震えていると分かる。安心させるように、


「泣くな、イゾルデ、また会える」

「わ、分かっている! が……」

「俺の大眷属、光魔武龍イゾルデ、一先ず然らばだ――」


 イゾルデの腕を振り払って強引に鬼魔人傷場へ走った。


 その鬼魔人傷場から放出されている稲妻のような魔力に触れる位置で止まる。


 そして、冥々ノ享禄、玄樹の珠智鐘、白炎鏡の欠片に魔力を込めた。


 刹那、三つの秘宝に魔力が逆に吸われると、三つの秘宝から閃光が迸った。


 目映い玄樹の珠智鐘に触れていた腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチが膨れ上がる。

 巨大なデボンチッチに変化、体が半透明となった。

 巨大なデボンチッチは冥々ノ享禄、玄樹の珠智鐘、白炎鏡の欠片を体内に取り込む。

 更に液体を体から放出し、鬼魔人傷場の魔力を口から吸い込み始めた。


 すると、少ししてその巨大なデボンチッチは水神アクレシス様の姿に変化。


 水神アクレシス様は俺を呼ぶような仕種を取った。

 その直後、自然と体が浮いた。


 抗うことはできず、その水神アクレシス様の体内にずにゅっと入ってしまった。


 皆と、魔力が吸われ続けた影響で形が変化した鬼魔人傷場は見えている。


 ホウシン師匠とエンビヤに皆は心配そうな表情だ。

 イゾルデは吼えているような印象だ。

 笑顔を送ったが、皆からは俺の姿は見えずに、水神アクレシス様の姿が見えているだけだろう。


 そういった外の光景と同時に水神アクレシス様の内側の世界が見えていた。


 常闇の水精霊ヘルメの液体世界と似た印象を抱く……。


 輝きを発している水流の宇宙?

 水流と水流が衝突して閃光を発している小マゼラン雲のような場所がいたるところにある。


 一種の細胞の変化?

 宇宙背景放射? インフレーション宇宙? 闇蒼霊手ヴェニュー?


 箱船に乗った七福神の衣装を着た闇蒼霊手ヴェニューたちのような存在が無数に泳いでいる部分もある。


 すると、水神アクレシス様の幻影が映る。


 何かの投影が始まった。

 巨大なアシカの頭部を持つ巨人も映る。


 水神アクレシス様と話をしているアシカの頭部を持つ巨人さんは神様?


 メダリオン付きのケープを羽織っている。

 アシカ巨人は水神アクレシス様とは異なる水飛沫を体から放出していた。


 すると、投影が変化。


 そのアシカ巨人の他に、炎の巨人もいる。

 勿論水神アクレシス様もいた。


 その神々と目される存在たちは、吹き荒れた海流を豪快に割っては、大地をも割る。

 割った大地から、巨大な貝殻の台座を取り出した。


 その貝殻台座の上に、ドロドロとした液体金属を垂れ流す神々たち。


 アシカ巨人と水神アクレシス様は呼応したように歌を謳う。

 と、大精霊のような存在たちが周囲に現れる。

 遠い空から雷鳴が響くと、近くの地面に電気を帯びた巨大なハンマーが突き刺さった。


 その巨大なハンマーを掴むアシカ巨人は、貝殻台座の上で固まった鋼鉄のようなモノを叩き始めた。


 炎の巨人も自らの巨大な炎の腕を振るって、鋼鉄を叩く。


 巨大な火壺も召喚する炎の巨人。

 三人で豪快な鍛冶を行い始めていく。


 ザガ&ボンのエンチャントどころではない。


 それらの幻想世界は一瞬で様々な事象に切り替わっていく。


 あ、黒猫ロロと俺がいた!

 ……消えた。


 ……常闇の水精霊ヘルメによって視ることが可能な精霊世界のような一部と似ているが、水神アクレシス様が俺に色々な幻影を見せてくれているんだろうか。


 すると、天の彼方から閃光が俺に飛来。

 避けようがない閃光は俺を貫いて、鬼魔人傷場に衝突していた。


 ホウシン師匠たちには影響はない。

 鬼魔人傷場に大きな亀裂が走ると、周囲の空間が揺れ始める。


 すると、


『「水鏡の槍使いのシュウヤ。良く戦い、約定を果たしてくれた」』

『とんでもない、スキルを色々と獲得できました。感謝です。そして、貴女は水神アクレシス様ですね』

『「そうだ」』

『俺はどうなるのでしょう』

『「じきに分かる。下の鬼魔人傷場が消える瞬間に、シュウヤの今の体は消えるが、元の世界に戻れるだろう」』

『そうですか。ここは夢魔世界の一部? 玄智の森は本当に存在しているのですよね』

『「どちらも本当の世界だ。『夢とは捕らえられるモノ』。囚われるかもしれぬが……」』

『……本物』

『我は<霊水波破ブレイン>を用いたが、夢魔の曙鏡や霊鉢リバルアルの器などにタンモールの秘技が必要であることに変わりはない。夢魔世界へのアクセスを経たからこその、今のシュウヤである。夢魔世界は神界セウロスから分かれた玄智の森に通じただけだ」』

『はい』

『「では、戻るが良い……<信心魔ノ還>――」』


 水神アクレシス様の言葉が響いた直後――。

 すべての感覚を失った。


 が、急に胸元が重くなった。

 可愛い体重で理解。

 更に『ふぅふぅふぅ』と『ふがふが』の荒い息を鼻先に感じる。

 これは相棒!


「にゃご!?」


 黒猫ロロが俺の顔を見て驚いている。

 散大した黒色の瞳が面白い。


「にゃおおおお~」


 凄い勢いでペロペロと顔を舐めてきた。

 ははは、相棒のざらざらとした舌の感触だ。


 笑いながら、上半身を起こす。


「――分かったって、あ、ヴィーネ」

「……ご、ご主人様が起きた!!」

「ンン、にゃ~~~」


 相棒が何回も跳びながら俺の頭部に頭突きを行ってくる。

 舐めたりないようだ。

 昔の地下世界から帰ってきた時を思い出すが……妙な爽快感……。


 体格に変わりはない。

 ――<闘気玄装>を意識。

 ドッと魔力が噴き上がる。


 良~し、夢の経験は本物!!

 こりゃ、相当なパワーアップだ。


「あぁぁ! 魔力が激増! ご主人様……それは<魔闘術>ではなく、<水月血闘法>のような<闘気霊装>でしょうか」

「そうだ。ナミのお陰でもある」

「夢送りが成功したのですね!」


 そのナミは横になっていた。

 夢魔の曙鏡などは近くにある。

 ラプサスの魔細工机と霊鉢リバルアルは、前と同じ。

 エヴァにレベッカにキサラ、皆がいないが、


「俺は、どの程度寝ていた? ナミは寝ているのか」

「……一週間と少しです。心配しましたよ! あ、ナミは皆の<夢送り>の施術を既に終えています。その後も起きないご主人様の体調を見てくれていたのです。今は普通に寝ているだけです」

「そっか。十日以上寝ていたのか……ヴィーネも見ていてくれたんだな。心配かけてごめん」

「……はい。ご主人様ですから、夢の世界で冒険を楽しんでいるんだろうと思っていました」


 凄い。さすがは第一の<筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネ。

 俺を分かっている。そんなヴィーネの傍のサイドテーブルには、〝浮遊岩全集〟、〝下界と上界の仕組み〟、〝魔塔、否、魔塔〟、〝セナアプアの歴史本〟などの本が積まれてあった。


 俺を見ながら色々と勉強していたんだな。


「そっか、さすがだ。そして、ハルホンク――」

「ングゥゥィィ」

「にゃ~」

「きゃ」


 新ハルホンクの防護服をヴィーネと黒猫ロロに見せた。

 黒猫ロロは脇の溝から出ている魔力粒子に猫パンチを繰り出している。


「新衣裳、ハルホンクも力を増したのですね」

「おう。アイテムも回収したが、ちゃんと――」


 蛇の人形。

 トタテグモ下目の人形。

 鴉の仮面を被る人形。

 仙王鼬族の人形。

 白蛇仙人の人形。

 背が甲羅と融合している仙武人の人形。

 魔人の彫像三体。


 を胸のポケットから取り出した。


「……にゃ?」


 黒猫ロロがおそるおそる人形たちに近付いて匂いを嗅いでいる。


「え! 夢魔世界のアイテムを回収できたのですか……」

「そうなるが、ただの夢魔世界ではなかったんだ……で、詳細を説明する前に、俺が寝ている間に俺の体に変化はなかったか?」


 そう聞きながら――。

 ポケットの中に指を入れて、〝黒呪咒剣仙譜〟、白蛇竜小神ゲン様の短槍、八部衆の腕輪を意識したら指に感触を得た。便利だ。


 喰っても格納しても自由にハルホンクの防護服から出せるからな。


 ただ、素材として防護服に流用するには、ハルホンクに喰ってもらうしかない。

 神界セウロス系も苦手だが喰えるようになったから、アイテムボックスを喰ってもらうか?


 ングゥゥィィ、マズイ、モウイッパイ。とかになりそう。

 あの俳優さんは好きだった。そして、懐かしい青汁のCMを思い出して、自然と笑う。


 アイテムボックスごと喰らうのは、今のところは止すかな。


 更に、そのアイテムボックスを確認しようと両手首を凝視。

 <鎖の因子>のマークにウェアラブルコンピュータのような腕輪を確認。

 アイテムボックスは変わらない。正面は時計の風防硝子風、その風防硝子を縁取るのは太陽のプロミネンスのような形の飾り。そして、指先で、その風防硝子のディスプレイを触り、『オープン』と発すると、いつものウィンドウ画面が浮いた状態で出現――。


 よっしゃ~、なんか戻ったって感じる。ウィンドウを消す。

 ヴィーネは俺の様子を見ながら、数回頷いて、


「……実は、ずっとご主人様を見ていたわけではなかったのですが、見ている時に、不思議な魔力の増減が起きたり、体に傷が発生したりと……更に、かんじという文字が自然とご主人様の周囲に浮くこともありました」

「へぇ……」


 と、皆の気配を廊下に感知。

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