九百十二話 黒魔族シャントル隊と激突と<朱雀閃刹>の獲得


 イゾルデと右の奥に<白炎仙手>で展開した白炎の霧を見て、


「<白炎仙手>の貫手だが、一、二、三、その三のタイミングで貫手を消すことにする」


 イゾルデは頷くと武王龍槍を振るって、

 

「――我は今すぐ消してもらっても大丈夫だぞ?」

「まぁ聞け。白炎の霧を馬の頭蓋モンスターが多い右側に伸ばしておく。しかし、<仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>と<仙魔術・水黄綬の心得>があっても<白炎仙手>の効果は直に消えるだろう」

「承知! 礼を言う。これで楽に近づける」

 

 そう発言したイゾルデは踵を返す。白銀の長い髪が靡いた。

 そして、体から放出された魔力の影響で、白銀の髪が浮き上がった。

 その髪から良い匂いが漂う。<血魔力>と汗のフェロモンも混じる匂い。

 

 靡く髪の毛の間から、細い項と龍人の和風衣装が覗く。

 和風衣装はモノトーンでシンプルで、洗練されている。

 肌と密着した下着は競泳水着にも見えるが、カーボンナノファイバーが用いられているような印象だ。 

 しなやかそうな背骨と尖る肩甲骨に、くびれた腰と悩ましい尻の大きさが良い。


 すべての魅力度が高い。


 入手したばかりの大きい十字手裏剣は真鍮製の金具でベルトに括られている。

 

 手甲鉤の真上には小型の龍カチューシャが浮いていた。

 左手の手甲鉤も似合う。

 後ろ向きの絵画だったら良い絵になるだろうな。

 武王龍槍を持ち、半首のような装備が似合う横顔の絵とか。

 そして、ヘルメがいたら……。


『閣下、イゾルデのお尻ちゃんは秘宝クラスですね!』


 と興奮したことだろう。

 会わせたい仲間の中では筆頭候補かもしれない。

 その魅惑度が高いイゾルデは……。

 目の前に展開されている<白炎仙手>の魔力の層を凝視。

 <白炎仙手>の魔力の中には白銀の龍の鱗がキラキラと見えている。


 前に、ホウシン師匠とエンビヤも俺の<白炎仙手>の中身の変化について指摘していたな。


「我とシュウヤ様の絆……そして、我を喜ばせてくれた仙剣者や仙槍者の想いが見える」

「あぁ、美しい鱗だな。貫手の物理属性効果が増しているのは、偶然ではないだろう」


 しかし、意外だ。イゾルデは、荒々しい武威を込めた言葉を言うかと思ったが……。

 今のは泣いているような口振りだった。

 イゾルデは嘗ての【神水ノ神韻儀】の先祖たちの謳と演奏を思い出している?

 そのイゾルデは、


「うむ」

「イゾルデの髪と似て、とても綺麗だ」


 俺がそう語ると、イゾルデは肩を揺らし右腕を弛緩させた。


「……」


 下に傾いた武王龍槍の穂先が地面を擦る。

 穂先が触れた地面はジリッと音を立てた。

 無数の刃と雷撃の傷痕が地面に発生していた。

 武王龍槍は強力だ。が、この武器を扱うイゾルデも激強い。


 <龍神闘法>。

 <白銀龍天華法>。

 <龍神・龍人>。


 などの秘奥義を知る。その武術は底が知れない。

 更に俺の胸を穿った<光魔・龍雷爪槍>は見事だった。

 あのような必殺技を数個持つイゾルデ。

 すると、頭部を傾けたイゾルデは横顔のまま、


「……シュウヤ様、武威が散るであろうがッ。それとも、敵を目の前にして、我の胸を焦がす気か?」


 そう荒い調子で語る。頬は真っ赤だ。

 思わず後ろから抱きしめたくなったが、


「済まん。敵を焦がそうか」

「ふっ、そうだな」


 照れを隠すイゾルデは俺を見ない。そのイゾルデに、


「準備は良いか?」

「バージエルの魔騎兵衆は、我に任せろ」

「馬の頭蓋モンスターの名はバージエルか」

「そうだ。魔界王子ライランには騎兵部隊が多い」

「へぇ、バージエルの騎兵部隊か。そのバージエルの魔騎兵衆はイゾルデに任せた。そして、味方が押し返す切っ掛けを作ろう! 征こうか」

「承知!」


 イゾルデの後ろ姿を見ながら――。


「一、二、三!」


 <白炎仙手>を操作。<白炎仙手>から出ていた貫手が消える。

 イゾルデは、


「――ライランの勢力は我が潰す!!!」


 そう発言しつつ武王龍槍を振るい、白炎の霧から現れた鋼の角を真っ二つ――。


 イゾルデは振るい下げた武王龍槍を引き上げる。

 穂先をバージエルの魔騎兵衆に向けながら白炎を纏うように前進。

 俺も左側へと――<白炎仙手>の魔力を纏いながら駆けた。

 走りながら<白炎仙手>の白炎を少し弱めて、視界を確保。

 すると、巨大な鹿モンスターの頭部が俺に向く。

 騎乗している大柄な魔族も俺を凝視してきた。肩に乗るチッコイ魔族は、小さい指で俺を差している。

 骨人形のような見た目の魔族はキストレンスと少し似ているが、形が異なるから違う種族だろう。

 大柄魔族のほうも魔剣の切っ先を俺に向けた。

 

 体長に見合う大剣。魔大剣か。

 相棒が使うことが多い魔雅大剣を想起する。


 もしかして、体格といい……魔界王子ライランに雇われた魔族で、諸侯ガセイコズ、ガモルザクの眷属の可能性もある?

 赤と黒を基調とした剣身から朱色の炎が迸っていた。

 その魔大剣を持つ大柄魔族は、周囲の魔族たちに向けて、


「――ガジッ、(あの)、ドライッ(槍使い)、ドゴガァッ、ガッツ! ババッド、ホガァス!」


 大声で指示を飛ばす。攻城兵器が並ぶところから俺のところまで、まだ数キロは離れているが、俺にも聞こえるかなりの大声だ。魔声のスキルか?

 心、精神に作用があるような声質。

 そのスキルの魔声は途中まで<翻訳即是>が利いていた。

 

 魔族グリズベルと近い言語か? やはりイゾルデが指摘したように、あの大柄魔族は狩魔の王ボーフーンの眷族なんだろうか。


 大柄魔族は大型の鹿モンスターに騎乗しているから樹海地域の樹怪王の軍勢を想起する。が、大柄魔族の頭部は爬虫類で恐竜のようでもあるから違うか。

 その大柄魔族に命令を受けた黒い衣服を着た魔族たちが前進を開始する。


 その魔族たちの名は知らない。

 赤黒い肌だから、勝手に海老魔族と命名。

 

 海老魔族たちはシンメトリーの角か器官を光らせる。角が伸びる? 角から魔弾?

 何かの遠距離攻撃を寄越すつもりか?

 海老魔族たちの遠距離攻撃を横移動で避けることを想定したが――杞憂か。

 

 海老魔族たちは遠距離攻撃を寄越さない。

 先ほどの馬の頭蓋モンスターが繰り出していたような能力はないようだ。


 代わりに海老魔族たちは己の左右の腕を伸ばす。

 腕を個性的な剣と槍と似た武器に変化させてきた。


 海老魔族のシンメトリーの角のような器官と黒い衣服の切れ端も武器だろうし、要注意か。


 太股も太いし、長細い両足も怪しいか。

 あ、足の爪が伸びると、体勢を低くした。

 地を這うような姿勢で異常な加速を見せる海老魔族たち。


 腹に手でも生えているような姿勢。海老魔族たちは傭兵集団か。


 戦場を渡り歩いているような印象だ。海老魔族の集団は加速。

 まだ遠距離攻撃はない。中距離が海老魔族たちの主力距離か?

 すると、海老魔族たちは俺を囲う動きに出た。

 

 正面と左右に展開。


 正面の海老魔族たちは槍腕を掲げて歩行速度を落とす。他の海老魔族たちは異常な速さの蟹歩きで左右に展開。戦術的に鉄槌と金床で俺を挟み撃ち?


 思念で連絡を取っているが如く、海老魔族集団には一切の乱れがない。


 やはり、隊としての質がかなり高い。

 一直線に並んでいたら……。

 <闇穿・魔壊槍>をぶち込めたんだが、そう簡単にはいかんよな……。


「ガァッ!!!」

「ドッヂビー!!!」

「ドガァッ――」

「ドッチッ、ヂー!!」


 海老魔族たちは威勢の良い異質な声を発しながら黒い衣服の切れ端を伸ばしてきた。


 俺が後退すると、黒い衣服から伸びた切れ端は途中で止まり、縮むように海老魔族たちの黒い衣服の元に戻る。


 黒い衣服の切れ端は伸縮自在か。

 槍腕と剣腕も同じく中距離までは伸びると想定しようか。


 海老魔族の大半は中距離戦が主力と予想。

 フェイクかも知れないが、加速しておこう。


 ――血魔力<血道第三・開門>。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>。

 ――<闘気玄装>。

 ――<魔闘術の仙極>。

 ――<滔天内丹術>。

 ――<四神相応>。

 ――<朱雀ノ纏>。

 を意識して発動。


 無名無礼の魔槍の握りを強めながら――。

 正面の槍腕を構えている海老魔族に近付いた。


 俺の心、精神と融合している朱雀が、


『グォォォォ』


 と荒ぶる神気と思念を寄越してきた。


 魔力をその朱雀に吸われたような、意識が朱雀と混濁しそうな感覚を得るが、<四神相応>があるから平気だ。だから構わず――。

 標的の海老魔族との間合いを詰めた――。


 最初の狙いは手前の海老魔族。

 槍腕が少し伸びたが、俺の加速には追いつけない。


 左右の海老魔族たちの黒い衣服の切れ端が反応を示す。

 

 が、これも遅い。


 手前の海老魔族に向けて直進。

 槍圏内となったところで、海老魔族に細い目があることを把握。

 そして、左足の踏み込みから――。

 腰を捻りつつ右腕ごと無名無礼の魔槍をぶっこ抜く勢いで<龍豪閃>を繰り出した――。

 

 墨色の炎が吼えたような音を響かせる蜻蛉切と似た穂先が海老魔族の首を豪快に刎ねた。


 頭部を失い倒れる海老魔族が視界の下に消えゆくのを把握しながら爪先半回転を実行――。

 

 もう一度爪先半回転――回転しつつ掌握察――。

 位置を把握した海老魔族たちへと近付く。


 海老魔族たちは頭部の二つの角を変化させる。

 刃状の骨が上下に連なる蛇腹剣のような武器に変化させていく。


 古代中国なら『九節鞭』か。

 または古代インドの武術の『カラリパヤット』で使われていた『ウルミ』という武器に近い。


 次々と己の角を骨と骨がワイヤーで繋がっているような武器に変えていく海老魔族たち。

 ま、九節鞭で良いか。

 更に海老魔族たちは体を強化した。

 <魔闘術>系統は巧みだ。

 <黒呪強瞑>だろうか。

 

 <仙羅・幻網>を使用したくなるが我慢。


 速度を上げた海老魔族の一人が頭部をぐわりと振るって、九節鞭のような武器を振るってくる。


 ――鞭機動の骨刃は機動が読み難い。

 ――爪先半回転で鞭機動の骨刃を――。

 ――ギリギリの距離で避けた。

 ――風の音が怖い。


 ――まずは近くの海老魔族――。

 いた! 左の海老魔族にしよう。

 

 左手の掌で、その海老魔族を掴むようなポーズを取った。そいつとの間合いを潰す! 


 ――駆けた。

 体幹を意識しつつ腰を捻る。

 迅速な左足の踏み込みで――。


 この海老魔族は<黒呪強瞑>が得意なのか、他と違い、動きが速い。


 槍腕の先端を俺に向けてきた。

 槍腕の先端が来る前に――。

 右手が握る無名無礼の魔槍を前に突出させる。

 ――<塔魂魔突>を繰り出した。

 穂先から紅い光を発した無名無礼の魔槍は、海老魔族の槍腕を荒々しく墨色の魔力の炎を発しながら弾く――そのまま無名無礼の魔槍の穂先は海老魔族の胸を貫き、背骨をも突き破った。


 無名無礼の魔槍の向こう側、海老魔族の背後から血飛沫と紅い光と墨色の炎が迸っていた。


 かなりの手応えだ。


 そして、セイオクス師匠たちの八大墳墓を破壊しないとな。

 先に少しだけ魔界セブドラに行くかもしれないが――。


 海老魔族は己の胸に生えたように刺さる無名無礼の魔槍を血の涙を流しつつ凝視。

 

 力なく項垂れていた。

 海老魔族は悲鳴を発することもなく絶命。

 

 その海老魔族の背骨の一部と肉片と下半身が、その背後に散っていた。

 それらの肉塊が背後の海老魔族に絡み付いている。

 

 動きが鈍っている? チャンス、と前進――。

 走りながら右腕を引いて横に無名無礼の魔槍を動かした。

 念のため、ミスディレクションを狙う。

 無名無礼の魔槍を消去し、再出現させる。


 と、動きが鈍く思えた海老魔族だったが――己の頭部を動かした。


 やはり反応したか――。

 骨の九節鞭のような骨と骨が上下に繋がる武器を首だけで扱うのは器用だ。


 二つの鞭のような細長い骨刃は、絡み合うことなく俺に直進――。


 その二つの骨刃を避けず、凝視。

 同時に、無名無礼の魔槍を斜めに傾けた。

 やや前方に押す。

 最初の骨刃を穂先に衝突させる。

 更に無名無礼の魔槍を下に傾けた――。

 やや遅れて飛来したもう一つの九節鞭の骨刃が、螻蛄首と衝突し、弾ける。


 九節鞭のような攻撃を防ぐことに成功!

 そこに槍腕の三連撃が迫るが、柄を上下させて、連続攻撃をすべて叩き落とした。

 

 合間を縫って前進――。

 九節鞭のような骨が連なる攻撃を振るってきた海老魔族の頭部に向け――。

 光を穂先に集約したような<光穿>の無名無礼の魔槍をぶち当てた。

 その頭部は溶けるように消失。

 頭部を失った海老魔族は蒸発したような血飛沫音を発しながら力なく倒れた。


 次の瞬間――。

 他の海老魔族たちの攻撃が迫る。

 

 退かず避けず――。

 できるだけ攻撃を受けようか!


 無名無礼の魔槍を防御に使う。


 複数の槍腕と剣腕の攻撃を――。

 柄と穂先で連続的に弾いた。

 しかし、黒い衣服の切れ端を喰らう。

 九節鞭のような機動を読み切れず、骨刃の攻撃も喰らった。


 切り傷があちこちに発生したと分かる。

 が、防御を優先し続けた。無名無礼の魔槍の穂先と柄と竜頭金属甲ハルホンクの防護服で――それらの海老魔族たちの総攻撃の大半を防ぐ。


 しかし、一部の黒い衣服と伸びた槍腕の攻撃と骨刃の攻撃が竜頭金属甲ハルホンクの防護服を貫いてきた。


 体に深々と突き刺さり、斬られた。

 神話ミソロジー級といえど、あっさりと貫かれた。痛すぎる、が――我慢だ。


 この痛みを海老魔族たちに返そうか。

 竜頭金属甲ハルホンクを意識しつつ、


「――ハルホンク! 海老魔族の槍腕と黒い衣服を捕まえとけ! そして、俺たちが取り込んだ朱雀の能力を活かすぞ! 手裏剣乱舞といこうか!」

「ングゥゥィィ!!」


 呼応した竜頭金属甲ハルホンク

 俺の魔力を盛大に喰らうと防護服の一部を変化させる。

 

 体に突き刺さったままの海老魔族たちの攻撃を逆に喰らうように、黒い切れ端、槍腕、槍腕、骨刃に竜頭金属甲ハルホンクの防護服が絡み付き固定した。


 これで海老魔族たちの一部は逃げられないが、<仙魔術>を使用した時よりも多くの魔力を消費した。

 

 続いて朱雀を模した左腕の袖口から――。

 棒手裏剣と手裏剣が多数装着された朱雀を模した装備が出た。


 その朱雀を模した装備が急回転――。

 回転する朱雀に嵌まっていた無数の棒手裏剣と手裏剣が火花を散らしながら螺旋突出し、宙を切り裂くように海老魔族たちが多くいる右側へと向かう。


 棒手裏剣と手裏剣の操作は、ある程度思念で可能か。その棒手裏剣と手裏剣から迦陵頻伽かりょうびんがのような朱雀の幻影が見えた。


 その朱雀の魔力を内包した棒手裏剣と手裏剣はゼロコンマ数秒も経たず海老魔族たちと衝突し体を貫く。

 貫かれた海老魔族たちは燃焼し、朱雀の紋様を描く塵となって消えていく。


 海老魔族たちの体を貫いた棒手裏剣と手裏剣は地面をも穿ち、その地面にめり込む。

 

 地面が盛り上がっていた。


 ピコーン※<朱雀閃刹>※スキル獲得※


 ――よっしゃぁ!

 スキルをゲット!


 火の鳥のような魔力を纏う棒手裏剣と手裏剣。

 ショットガン系中距離攻撃か。

 

 戦場ならより有効なスキルだ。


 そのまま小さな呼気の塊を一つ吐きながら――。

 残りの海老魔族たちを凝視――。

 左手に無名無礼の魔槍を移しながら爪先半回転。

 周囲を窺う。


 海老魔族たちは体の表面に入れ墨が刻まれた。

 <黒呪強瞑>系統のスキルを使用したのか魔力が強まる。


 剣腕と槍腕の動きも加速してくる。

 横移動が多い海老魔族たち。


 さすがに先ほどの<朱雀閃刹>を見ているから、警戒しているようだ。


「ヂダダ――」

「ゲボッ、ドガッ!」

「ドッヂビー!!!」

「ドガァッ――」


 黒い衣服の切れ端が伸びてきた。

 まだ<仙羅・幻網>と<滔天魔瞳術>は使わない。

 <脳脊魔速>の切り札も最後だ――。

 

 参戦して来ない大柄魔族に手の内は見せない。


 ――<仙魔・暈繝飛動>を発動。

 右にステップを行う――。

 切れ端の攻撃を避けた。


 黒い衣服の切れ端は地面に衝突。

 俺のいない宙空を通り過ぎる。


 避けた俺に、再度黒い衣服の切れ端が飛来。


 さらに左にステップ移動し避けた。


 切れ端は弧を描いて、避けた俺を追ってくる。

 後退しながら斜め後方に跳躍――。


 一転して前進し、ジグザグ移動を行う。

 黒い衣服の切れ端と、骨と骨が連結した鞭のような攻撃を避け続けながら――。

 

 <滔天神働術>と<玄武ノ纏>を発動――。


 一瞬で俺の<四神相応>の朱雀が玄武に切り替わったと理解した。


「ングゥゥィィ!!」


 竜頭金属甲ハルホンクも応えた。

 体の防護服が玄武を模した物に変化。

 

 徐々に海老魔族たちとの間合いを詰めていく。

 ――<仙魔奇道の心得>を発動。


 やや遅れて<仙魔・桂馬歩法>を実行――。

 

 海老魔族たちの中距離攻撃が勢いを増すが、霧の魔力が俺の身代わりとして機能するように霧の魔力を活かしつつ前進。


 飛来する槍腕と剣腕を楽に避ける。

 が、鞭のような骨刃の機動は読み難い。


 頭部を下げて、その骨刃を避けたが――。

 頬をざっくりと切られ髪の毛も切断された。


 海老魔族の頭部がぐるぐる回る。

 

 再び、九節鞭のような骨刃が飛来するが、構わず、亀の甲羅を活かす――。

 籠手の甲羅で槍腕を受けた。


 その槍腕を籠手の甲羅で持ち上げながら前進。

 そのまま海老魔族の槍腕の長さを実感するように膝行機動で――海老魔族との間合いを零とした。


 次の瞬間――。


 右足で地面を踏み噛む――。

 そのまま左拳で<崑崙・白龍血拳>を実行。

 左籠手の蛇矛が海老魔族の胴体を穿つ――。


「ゲェアァ――」


 海老魔族は悲鳴を発しているが頭部を振るう。

 反対の槍腕も振るってきたが、遅い。


 素早く右手を振るう――。

 籠手の甲羅で海老魔族の頭部を先に潰した。

 カウンターを頭部に受けた海老魔族は項垂れた。

 

 左腕に覆い被さってきた直後――。

 その左腕に倒れた死体は白炎に包まれ爆発。

 海老魔族の血飛沫と濃厚な魔力を吸い取った。


 下半身の一部は溶けている。


 左手の蛇矛から飛び出た白銀の龍が喰ったんだろう。白銀の龍は<血魔力>を放出しつつ前進。

 

 他の海老魔族の肩から胸を喰らってから消えた。

 

「ゲェァアァ……」


 右肩と胸の大半をざっくりと白銀の龍に喰われた海老魔族は蹌踉よろめく。が、生きている。

 タフだ。光魔ルシヴァルの<血魔力>を浴びても平気か。前に倒した鬼魔人とは違う。

 

 魔族にも個性がある。

 光に耐性を持つ者なんだろう。


 そう思考しながら――。

 融合した<超脳魔軽・感覚>を活かす。

 ――<超脳・朧水月爪先回転>を実行。

 ――体が独楽の如く一瞬で回る。

 掌握察で周囲を把握しながら、月を描く軌道の足技<湖月魔蹴>を繰り出し、右肩と胸の大半を失っていた海老魔族の頭部を右足の甲で捕らえた。

 

 海老魔族の頭部を潰し、吹き飛ばす。

 威力が半端ない――<玄武ノ纏>効果か。


 右足を上げた蹴りポーズのまま一回転。


 アーゼンのブーツと似たブーツ。

 その竜頭金属甲ハルホンク装備には、玄武の甲羅の模様が入っていた。


 視界に残りの海老魔族たちが入る。

 足を元に戻し、深呼吸――。


 海老魔族の鋼のような体と黒い衣服には変化がない。


 あの海老魔族たちの動きを誘うとしよう。


 消費が大きい<四神相応>を解除。

 ――<玄武ノ纏>も解除。

 ――<仙魔奇道の心得>を解除。

 ――<仙魔・暈繝飛動>も解除。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>も解除。

 ――<闘気玄装>を弱める。

 ――<魔闘術の仙極>も弱めた。

 ――<魔闘術の心得>を微かに意識。

 ――<滔天内丹術>を解除。


 ――<白炎仙手>が自動的に切れていることを把握。


 蹌踉めくように後退。


「ドッヂビー!!!」

「ドガァッ――」

「ヂダッ――」


 俺の誘いに乗った海老魔族たちは突進。

 

 白蛇竜小神ゲン様の指貫グローブを短槍に変化させながら地面を蹴って、転じた。

 <闘気玄装>を急激に強めた。

 手前の海老魔族との間合いを迅速に詰める。

 海老魔族たちは俄に強まった<闘気玄装>の質と、俺の動きに驚いたような動きを示すが、遅い――。


 近くの海老魔族の胸元に向けて――。

 膂力ある左足の踏み込みから腰を捻り――。

 丹田から右腕へ伝わる魔力のすべてを白蛇竜小神ゲン様の短槍に集約した風槍流<刺突>を繰り出した――。


 迅雷耳を掩うに暇あらずの如く――。


 疾風迅雷の白蛇竜小神ゲン様の短槍の刃が海老魔族の胸を貫通。

 

「ゲェ……」


 更に――左手が握る無名無礼の魔槍で<血穿>を繰り出した。

 紅蓮の炎にも見える血が穂先から無名無礼の魔槍のすべてを包む瞬間、<血穿>の穂先が海老魔族の頭部を穿った。


 頭部が爆発するように散った海老魔族は背後に吹き飛んだ。無名無礼の魔槍の柄と白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄から海老魔族の吹き飛んだ影響の振動が微かに伝わってくる。


 二槍流の手応えは良い。


 左手の無名無礼の魔槍を消す。

 右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍を指貫グローブに変化させながら……。


 右手を少し前に出し左手を腹近くに置く。

 ホウシン師匠の『玄智・明鬯組手』の構えの真似をした。


 見様見真似だが……これが結構大事。

 実戦こそ最高の訓練の場だ。


「ドッヂ……」

「……」

 

 残りの海老魔族たちは前進を止めた。

 無手の俺ではあるが、武器の出し入れのタイミングを見て警戒していると分かる。


 動かないなら先に動くまで。


 素早く前進。

 が、俄に動きを止める。

 そのまま流れで、腰を沈めて――。

 右手に無名無礼の魔槍を再出現させながら<刺突>のモーションに移行。


 海老魔族たちには、魔力を溜めている行為にも見えるだろう。

 

 宮本武蔵で有名な『後の先』は戦いの基本。

 待ち構える俺に対して……。


 『攻めるしかない』と海老魔族たちは考えたのか、槍腕と剣腕の間合いを変えながら仕掛けてきた。


 中距離から攻撃を繰り出してくる。


 黒い衣服の端も伸びた。

 同時に頭部も振るう。


 三種類の中距離攻撃を巧みに扱う海老魔族たちは強い。強い仙武人たちも武仙砦を利用しなければこういう猛者集団と戦うことは難しいだろう。

 

 骨が上下に連なる九節鞭のような武器を凝視しながら――<血穿・炎狼牙>を実行!


 右腕ごと一つの無名無礼の魔槍となったが如く。

 体から放出された血が無名無礼の魔槍ごと俺を覆うと、その俺の血は巨大な血の炎狼へと変成を遂げて、俺の体をチュパッと抜けて無名無礼の魔槍と合体した。

 

 <血穿・炎狼牙>の血の炎狼の感触は、微温湯のシリコンのようで……不可思議だった。

 

 そんな思いも束の間――。

 穂先から炎狼の頭部が出るや口を広げ、


「グォォォ――」


 と歯牙を晒しつつ咆哮を発した。

 <血穿・炎狼牙>血の炎狼は突進――。


 海老魔族が繰り出した槍腕と剣腕、黒い衣服の切れ端、九節鞭のような鞭攻撃などと血の炎狼が衝突。

 

 血の炎狼は無傷。

 海老魔族たちが繰り出したすべての攻撃は燃焼して消える。

 

 その<血穿・炎狼牙>血の炎狼は止まらない。

 海老魔族たちを次々と喰らう。

 <血穿・炎狼牙>の血の炎狼は、


「グォォォ――」

 

 と再び咆哮。


『オマエノ体マル囓り――』


 と喋るように海老魔族たちを喰らう。

 <血穿・炎狼牙>の血の炎狼は、すべての海老魔族を平らげると、そのまま戦場を駆け抜け炎の足跡のような軌跡を残しつつ儚く消失した。


 威力と持続時間が増したか?


 すると、地響き、震動だ。イゾルデの変身ではない。

 俺に凄まじい速度で近付いてくる魔素を把握。

 巨大な鹿に乗った大柄魔族が近付いてきた。


「ドァァ――」


 大柄魔族は咆哮のような掛け声を発している。完全に武者であり、騎士だ。

 そんな魔界騎士だろう存在を騎乗させている巨大な鹿は、四肢を躍動させるように加速するや否や跳躍を行う――。

 巨大な鹿に乗ったまま――大柄魔族が魔大剣を豪快に振り下ろしてきやがった。


 肩にいた骨人形は宙空に浮く。

 眼窩の深い位置に灯る炎が眼球なんだろうか。

 とりあえず朱色に燃える魔大剣は受けない。


 素直に後退――。

 

 地面と衝突した魔大剣の威力は凄まじい。

 地面が抉れたのか、土煙を伴う土礫が飛来――。


 勢いを付けて横移動――避難。反撃の間を窺う束の間――。


 巨大な鹿の前脚が迫る――俺を追ってきたのか。


 前脚の蹴りを見ながら――。

 後退しつつ両腕にダメージを負った振りを行う。

 

 ――素早く<血道第一・開門>。

 両腕から周囲に血を撒き散らす。

 弛緩させた両腕から血を垂らしながら――。


 <水神の呼び声>を発動――。


 水神アクレシス様の気配をこの地域に感じた。

 玄智の森に息衝く神々の想いは強いと分かる。


 続けて<血道第四・開門>――。

 ――<霊血の泉>を発動。


 すると、俺の頭上に腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが出現――。


 俺の<霊血の泉>を吸うように紙垂の一部が赤くなるや宙空に赤い稲妻のような血飛沫が散った。


 そこから複数の子精霊デボンチッチが出現しまくる。

 

「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」

「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」


 大柄の魔族は動きを止めた。

 巨大な鹿も響めくような荒い息を吐く。

 

 魔大剣の切っ先を俺に向けた大柄魔族。

 短いシンメトリーの角が光る。と、背中から新しい腕が二つ飛び出た。

 そして、


「……血の槍使い。黒魔族シャントル隊を悉く倒しきるお前は何者か……玄智の森に住まう者ではないであろう」


 と聞いてきた。

 言語は魔界の共通語か?

 <翻訳即是>の効果で理解できた。


 黒魔族シャントル隊が先の頭部の角を九節鞭のような武器に変えた奴らか。


「そうだ。お前は?」

「我は魔界騎士ド・ラグネス」

「魔界騎士ド・ラグネス。黒魔族シャントル隊を率いていたのか?」

「否。魔界王子ライランに美味い狩り場がある。と誘われたルグファント地方の一隊が、シャントル隊だ」


 ルグファント……。

 ここでその魔界の地名を聞くとは。

 そのことは聞かず、倒した部隊の、


「シャントル隊とは、角が鞭のように変化する奴らだよな」

「その通り。分身を用いずとも、手数を増やす優秀な魔傭兵たちだ。そして、一人一人が強かった」

「だろうな。中々の手応えだった。で、魔界騎士ド・ラグネス。お前は魔界王子ライランの眷属なのか?」

「否。贄の魂を五万、魔傀儡兵三千の魔契約でこの戦場にはせ参じた」

「へぇ、そんな契約があるのか。で、お前の雇い主、魔界王子ライランはどこにいる」

「さあな。【ライランの血沼】は広い。魔界王子ライラン様は、暴虐の王ボシアド様や魔公爵ゼン様の勢力とも戦っている。この美味しい狩り場を狙う勢力は多いのだ」


 悪夢の女神ヴァーミナ様も前に地図を見せてくれたが、かなり広かった。


「……お前も鬼魔人傷場を狙っているのか」

「無論……が、我は傷場の占有ができるほど、兵士、神格、スキル、秘宝を有していない」

「へぇ」


 すると、魔界騎士ド・ラグネスの肩の上に浮いている骨人形が、


「……魔界騎士ド・ラグネス。暢気に喋る契約はしていないですよ? さっさとその槍使いを処分してください」


 と命令していた。

 形と言葉は異なるが、骨だけに、キストレンスを思い出す。


 魔界騎士ド・ラグネスは少し頭を垂れて、

 

「承知……」

「ちょい待て。お前は魔界王子ライランの直の軍勢ではないのか?」


 俺がそう聞くと、魔界騎士ド・ラグネスは笑う。


「それを知らぬ槍使い。お前は【ライランの血沼】出身ではないのだな」

「そうだ。魔界王子ライランの拠点は知らない。俺は、夢魔世界に移動できるスキルを使ってもらい、この玄智の森に訪問してきた」

「夢魔世界? 分からぬが……次元を超える稀人のような存在か。そして、魔界王子ライラン様の軍勢を今も屠り続けている……あの血を扱う龍人はお前と繋がりし者か?」


 イゾルデのことか。


「そうだ。で、そのイゾルデが潰し倒しまくっている馬の頭蓋が特徴的なモンスターの名は、バージエルの魔騎兵衆だったか? そして、頭蓋骨は馬だが、中身は馬ではない?」

「さぁな?」


 大柄魔族はそう語りつつ、ぎょろりと目を剥いて睨んできた。

 顎というかすべてが厳つい。

 恐竜のような頭部だから迫力がある。


「……魔界と神界の神気を宿した<血魔力>に……子鬼、精霊も見たことがないが……」

 

 と発言する大柄魔族。刹那、骨人形の魔素が膨れる。

 骨人形は小さい手に似合わない巨大な杖を召喚。


「――<シュベリの血網>」


 スキル名を発した骨人形の眼窩から大量の血が迸る。巨大な杖で、その血が攪拌された。

 

 血は<血魔力>?

 その攪拌された血は血の網となる。

 俺に飛来してきた――。

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