九百九話 独鈷コユリと零八小隊の副隊長が仲間に

 謝る独鈷コユリ。


「敢えて聞く。俺たちを魔族だと間違えて襲撃を?」


 気まずそうな表情を浮かべた独鈷コユリは頷いた。

 そして、


「そうだ、間違えた。前代未聞の龍を従えた魔族たちが幻瞑森から突如飛来してきたと勘違いした。更に武仙砦の連中が、シュウヤたちを見て動かないことにも苛立ちと焦りを覚えたのさ」


 納得。


「事情を知らない優秀な遊撃者なら、そうなるのも頷ける。独鈷コユリは魔族たちによる武仙砦の攻略作戦と勘違いしたんだな」


 独鈷コユリは頷いた。


「そうさ。私は、シュウヤたち全員が魔族だと思い込んだ。外と内からの武仙砦の挟み撃ち作戦だと勘違いした。今思えば……シュウヤたちに対して動こうとしない武仙砦の仙剣者と仙槍者の動きから、シュウヤたちの動機を察するべきだった……」


 独鈷コユリは丁寧にお辞儀をして謝ってきた。俺も日本人として、両手を太股に当てながら体勢を傾けて頭部を下げる礼をしてから――。


 体勢を戻してから独鈷コユリに笑みを送った。

 そして、


「なあに、もう終わったこと、気にするな」

「……ありがとう」


 独鈷コユリは頬を朱に染めている。可愛い笑顔だ。

 皺は少なく肌艶も良い。もしかして白い砂糖のようなモノを何十年も取らずに生活していたとか? 違うか、回復スキルの効果だろう。

 腹の穴は再生途中だ。腹の穴の側面から出た筋肉の繊維が幾つも絡み合っている。

 俺の<崑崙・白龍血拳>で拳が腹を通り抜けた傷痕は酷かったが……もうかなり回復していた。

 絡み合った筋肉繊維は瞬時にくっ付き絡み合いながら太くなって再生されていく。

 

 その傷が修復されていく様子は粘菌的でもあり、蠕動のような動きの質で見ていて素直に面白い。


 内臓は見えなくなって腹の穴も消えた。


 面白いが、吸血鬼ヴァンパイアを彷彿とさせる再生速度だ。


 修復された腹筋と脇腹は筋肉質で意外に細マッチョ。

 

 腹には独鈷コユリの顔にあるような皺がない。


 カザネを思い出すが、コユリのおっぱいは垂れていないと推測。

 

 腕の骨と皮膚のほうも修復されていた。


 独鈷コユリは肉体を再生させるスキル持ちか。

 体は大丈夫そうだ。


 少しホッとした気分を得ていると、血濡れて破け、切れていた和風衣装の修復も始まっていた。


 その独鈷コユリの着ている修復されゆく和風衣装を凝視。


 和風は和風だが、アクセルマギナが身に着けている、ナ・パーム統合軍惑星同盟の文明圏に揉まれているような、洗練された戦闘用の衣服に見える。


 そんな渋い衣装を着ている独鈷コユリに、


「……俺も回復スキルはあるが、独鈷コユリの傷の再生速度はかなり速いな。そして、その和風衣装が気になる」

「回復スキルの<大王異体>の効果さ。魔戦峰着コトノハも自動的に傷が修復される。優秀な防具さ」


 <大王異体>はデルハウトと似たスキルか。

 独鈷コユリは魔界セブドラを知っている?


 そのことではなく、独鈷コユリの和風衣装を見て、


「魔戦峰着コトノハは個別の意識を持つ? 喋るとか?」


 竜頭金属甲ハルホンクのような渾名があったら面白い。


「喋ることはできない。私には感知できないが、意識はあるかもしれないねぇ」

「へぇ、素晴らしいアイテムだな」

「あぁ、この魔戦峰着コトノハは傷を負う度に、その傷が自動的に再生する。防御強度も増す。更に着ていると身体速度も増すのさ」


 独鈷コユリの動きが良い理由の一つ? だから加速していたのか。


「もしかして、魔界セブドラの品?」


 そう指摘すると、独鈷コユリは片方の眉を上げた。


「その通り、魔界八賢師コトノハの念と魔力が込められていると言われている。入手したのは魔界セブドラを旅した時さ」


 マジか。

 驚いた。

 魔界セブドラを旅とか。


 ホウシン師匠の言葉は本当だったのか。


 そして、魔界八賢師ランウェンと魔界八賢師セデルグオ・セイルの名なら聞いたことがある。


 ムーが持つ糸の魔法書は、魔界八賢師セデルグオ・セイル製だ。


 そんな魔界に旅したことは後回しにして……。


「コトノハの名はしらないが、魔界八賢師なら聞いたことがある」


 と言葉を返した。


「お、さすがに知っているか。その有名な魔界八賢師が作ったとされる魔戦峰着でも……シュウヤが繰り出した血と白銀の龍の魔力を纏った拳は……威力がありすぎたようだ。内臓に響くスキルなのか……ぐっ……」


 独鈷コユリは辛そうに自分の腹を片手で押さえた。


 唇の色が少し青み掛かって、口端に血を浮かばせる。


 なんか、申し訳ない気持ちになった。


「万仙丹丸薬はいるか?」

「……優しいねぇ。が、要らないよ。魔金万丹丸薬を持っているからね」


 独鈷コユリはそう発言。

 懐から丸薬を取り出して口に含む。

 

 あれが、魔金万丹丸薬か。


 その丸薬を噛み砕いて飲んだ独鈷コユリの喉が膨らむと、唇に赤みが戻る。腹の傷も、みるみるうちに良くなっていった。


「その魔戦峰着コトノハごと、独鈷コユリの腹をぶち抜いたのは、<崑崙・白龍血拳>だ」

「……崑崙。神界セウロスの三神山の一つ、崑崙山に住まう崑崙王家ハヴィスだけが使える、崑崙の名の付くスキル……それをどうして玄智の森にいるシュウヤが……まぁ、それは置いておくとして、シュウヤはホウシンの弟子でありながら<血魔力>を扱う魔族でもあるのかい?」


 頷いた。


「俺の種族は光魔ルシヴァル。魔界と神界に通じている」


 独鈷コユリはあまり驚かず、頷き、


「光と闇の属性を併せ持つ種族が、その光魔ルシヴァルなんだねぇ」


 そう発言すると俺の身長を測るように視線を上下させた。


 頷いた。

 独鈷コユリは、


「……では、シュウヤの眷属の龍の背中に乗っていた鬼魔人と仙妖魔に仙武人たちの全員がシュウヤの種族なのか?」

「違う。イゾルデだけだ。龍の背中には武王院のクレハ、ダン、八部衆のエンビヤも一緒に乗っていた」

「そうだったのか……まずったねぇ」

「皆も、誤解だと分かれば理解してくれるだろう。気にするな」


 俺がそう言うと、独鈷コユリはニコッと笑顔を見せて、


「……ふふ、気に入った。少し試させてもらうよ?」

「試す?」

「そうさ。安心しろ、戦いではない」


 独鈷コユリは両手を上げながら片方の目から魔力を発した。

 

 鑑定眼か魔察眼系の能力か。


「仙武人が持つスキルを調べられる鑑定眼を発動中?」


 そう聞くと、独鈷コユリは微笑んで、


「鑑定眼はない。私のコレは単なる魔察眼で、しているのも単なるシュウヤの観察さ。先のシュウヤとの戦いで使った<仙眼防壁>は対魔眼専用の防御用。精神攻撃のスキルもあるが、勿論、今は使わない」


 <仙眼防壁>で俺の<滔天魔瞳術>を防いでいたから納得だ。


 そして、ステータスでまだ<滔天魔瞳術>は調べていないが、相手の目と俺の目が合えば気絶させることが可能と理解している。


 独鈷コユリは、


「……先の<血魔力>系統の<魔闘術>のようなスキルも極めて高度なスキルと推測したよ? 更に、地獄龍山に住まう血龍魔仙族が使うような薙ぎ払いも見事……あの一閃は、魔界セブドラで修業をして獲得したのかい?」


 <血魔力>の扱いには自信がある。が、


「魔界セブドラにはまだ行ったことがない」

「シュウヤは魔界騎士にも見えるが、意外だ」

「……先ほど、独鈷コユリが魔界セブドラを旅したと言ったが、そのほうが驚きだろう」


 俺がそう発言すると、独鈷コユリは眉をひそめて、


「ん? 鬼魔人傷場は近くにあるじゃないか」

「あぁ」

「そこを渡ればすぐに魔界セブドラだぞ……お前もホウシンたちと同じく魔界セブドラを嫌っているのか?」


 睨む独鈷コユリの双眸は丸くて可愛さがあるが、迫力があった。独鈷コユリは、普通の仙武人ではなく、魔界セブドラ側の人材でもあるのか?


 そう考えながら、


「嫌ってはいない。魔界沸騎士長たちも配下にいる」

「魔界に配下がいるだと?」

「そうだよ。今装備していないが、闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトという名の指輪を持つ。そのお陰で狭間ヴェイルを越える繋がりを得ている」

「魔界の存在と因果指定された指輪か」

「そうだ。魔界沸騎士長ゼメタスとアドモス。昔の種族から進化したが、分からないか」

「ふつ騎士長ゼメタスとアドモスという名の部下を魔界に持つんだねぇ」

「おう」

「……膨大な精神力や魔力を有した槍使いのシュウヤでもあると……その話が本当ならば、大魔術師アークメイジ賢者技師サージエンチャントクラフターと似た能力もあると分かる。龍を眷属にしたのにも頷ける」


 頷いた。


「魔力はかなりある。だから、俺が魔界セブドラの世界は嫌っていないと理解したか?」

「……その話が、本当ならばな」


 そう発言すると、にやりと笑う独鈷コユリ。その笑顔を見ながら俺は、


「だからこそ独鈷コユリが魔界を旅したことに驚いたのさ。普通、仙武人は鬼魔人傷場から魔界側には向かわないはず。鬼魔人傷場から武仙砦に群がる魔族たちも多い。それらを蹴散らしてからの魔界セブドラ側への進出は中々できることではない」


 独鈷コユリは数回頷いた。


「たしかに、鬼魔人傷場に好き好んで突入する愚か者は、私以外いないさね」


 その発言に頷く。

 そして、<血龍仙閃>のことを、


「先の<血龍仙閃>の話に戻すが、<血龍仙閃>は、眷属のイゾルデと模擬戦を行った際に学べたんだ」

「眷属のイゾルデは龍なのだろう?」

「龍人にも変化する」

「驚きだ……」


 あまり龍に関してはしらないのか。まぁ、龍神と話をするってあまりないよな。


「イゾルデは過去、神界セウロス側の武王龍神だった。だから遠い昔、地獄龍山に住まう血龍魔仙族と戦っている。その時の戦いの影響で、イゾルデは<血龍仙閃>の動きを習得していたんだろう」


 本人的には、


『そんなのは知らん! 魔界セブドラ側など!』


 と言いそうだが。

 独鈷コユリは、


「……なるほど、理解したが……玄智の森に龍神が眠っていたのか。そして、武王龍神を光魔ルシヴァルの眷属として復活させたってことか……シュウヤはとんでもない男だねぇ。強者中の強者じゃないか!」


 独鈷コユリは興奮し始めている。


「……環境のお陰だろう」

「環境……武王院の玄智山か」

 

 頷いた。


「……あぁ、白蛇竜大神イン様の白蛇聖水インパワルと水神アクレシス様の聖水レシスホロンの仙王ノ神滝に……玄智聖水の地底湖、水神アクレシス様の像、仙武人の祖先たちの像を造り上げた仙王スーウィン家のサギラ・スーウィンさん、子精霊デボンチッチたち……神界セウロスの神々の奇跡が起きたお陰さ」


 俺がそう話すと、真上に腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが現れる。

 

 独鈷コユリは笑みを見せつつ、チラッと腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチを見て、


「……珍しいデボンチッチか。これも奇跡、光魔の奇跡か……どちらにせよ……龍神を復活させたシュウヤは膨大な精神力と魔力に<血魔力>を持つということだ」


 独鈷コユリは、そう俺を分析。玄智山の地底湖の底に龍神の頭蓋骨が存在し続けていたことはしらなかったようだ。


 そのことは聞かず、


「魔力量には結構自信がある。復活したイゾルデへと、<血魔力>をプレゼントした」

「その復活の祝いを兼ねた模擬戦で、イゾルデから大技を伝授されたのか……しかし、そう簡単に秘奥技、<魔槍技>、奥義などの極めて高度な攻撃スキルを獲得できるものなのかねぇ……」


 俺は<脳魔脊髄革命>の<天賦の魔才>を持つ。


「近接系のスキルは覚えやすいんだ」


 独鈷コユリとの戦いでも<玄智・八卦練翔はっけれんしょう>を覚えられた。


「ほぉ……ますます興味深い」

「独鈷コユリは血龍魔仙族と戦ったことがあるのか?」

「ある。魔界を旅した際にな」

「鬼魔人傷場から湧くように出現している存在は……」

「あぁ、倒しながらだ」

「凄い」

「そんな私を実力で屈服させたシュウヤのほうが凄いだろう」

「そりゃどうも。独鈷コユリの目的は魔界王子ライランの討伐か?」


 笑みを浮かべていた独鈷コユリだったが、一変。

 憂いの表情に変化した。


 唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべて、


「……そうだ。魔界王子ライランを倒すため鬼魔人傷場に突入した。が、魔界王子ライランが率いる軍は鬼魔人傷場の近くには陣を張っていなかった……」


 この情報は何気に重要。


 今も独鈷コユリが魔界に侵入した頃と同じなのかは不明だが、今も同じならば……鬼魔人たちが魔界セブドラに戻った際、魔界王子ライランの軍隊が待機している可能性は低い。


 てっきり鬼魔人傷場の周囲と同じく、魔界側にも城や砦があるもんだと考えていたが……昔の独鈷コユリが魔界セブドラに行った時は何もなかっただけで、今回は、砦と城に街が存在するかもしれない。


 更に言えば、いきなり崖、滝、落とし穴とか、魔界セブドラ側の土地の環境が違っている可能性もある。


 一つの参考例として覚えておこう。

 そう思考しつつ、


「魔界セブドラ側の鬼魔人傷場近辺には興味がある。少し様子を聞かせてくれ」

「見渡す限り荒野。モンスターばかりだったねぇ。暫くモンスターを倒しつつ旅をしたさ。山がある森林地帯に入った。そこで血龍魔仙族と戦ったのさ。私は戦いに自信があったが……さすがに多勢に無勢。森林地帯を逆に利用して逃げまくった。そうして、荒野に戻ることになり、鬼魔人傷場から玄智の森に再び戻ってきたというわけさ」


 頷いた。


「鬼魔人傷場から魔界セブドラに入るのに条件はないのか? 狭間ヴェイルの作用とか」

「そんなものはないはずさ」

「魔王の楽譜、ハイセルコーンの角笛、タイミングを見極める必要もないんだな?」

「ハイセルコーン種族は知っているが。鬼魔人傷場からすんなり魔界セブドラに入れるはずさね」


 この辺りは惑星セラと異なる。

 

「ありがとう。参考になった」

「減るもんでもないし、別にいいさ。それより、シュウヤの<闘気玄装>はかなりの域と見たよ? 武王院で長く修業して、師匠のホウシンを倒しまくったと見たが、どうなんだい? そして、〝玄智の森闘技杯〟での優勝も間違いないだろう。武仙砦に来るレベルの仙槍者だと思うが……」


 <闘気玄装>は覚えたばかり。

 独鈷コユリからは、俺の扱う<闘気玄装>は高レベルに見えるようだ。


「武王院には入学したばかりなんだ。<闘気玄装>も数日前に覚えたばかり」

「……入ったばかりで、これほどの……」

「あぁ、俺は、この世界に来訪する前から武芸者だ。自慢ではないが、風槍流を学び武芸者として色々と経験を経ている。スキルも色々と獲得していた。更に言えばホウシン師匠の教え方が上手だった。エンビヤたちのお陰でもある」

「……」


 勿論、アキレス師匠の教えに基づいた心構えがあってこそだが……。

 が、独鈷コユリは疑う視線だ。話を変えるか。


「独鈷コユリ。武仙砦の提督とは連絡を取ってないのか?」


 頷く独鈷コユリは頬をポリポリと掻いて、


「その通り、取っていない。先も少し語ったが、武仙砦の小僧たちがシュウヤたちが乗る龍を見て動かなかった理由だな」

「あぁ」

「……シュウヤたちへの攻撃は完全に私の早とちりさ……」


 頷いた。

 

 武仙砦の屋上にいた仙剣者と仙槍者は俺たちを見て驚いていた。ダムの天辺の通路と似た場所には、巨大バリスタが揃い、並んでいた。

 そして、皆、見学に終始してくれていたのは、ノラキ師兄が黒独古で武仙砦の総督に連絡してくれたお陰だろう。


 独鈷コユリは武仙砦の方角を見やる。


「……私は提督とは反りが合わなくてねぇ」


 そう呟く姿を見ながら、


「禹仙鋼槍を扱うホウシン師匠に槍の技術を指南した槍仙老婆、独鈷コユリ。武仙砦を救うため魔界王子ライランの大眷属を屠った話は聞いている」

「そうさ。今までずっと個人で動いてきた」


 独鈷コユリは雰囲気的に気が合いそうだ。頷いた。


「個人だからこそ可能なこともある」


 俺がそう発言すると、独鈷コユリの双眸が煌めいた。そして、


「ふ、お前のような仙槍者は珍しい。私がカソビの街で暴れた話も聞いているのか」

「詳細はしらないが、独鈷コユリが暴れて賞金首となっていることはエンビヤから聞いた」

「だろうな……仙武人だろうと悪は潰す」


 鬼婆の表情を浮かべている。少し怖い。

 ま、ダンパンのような手合いはいるからな。


 すると、


「シュウヤ、ホウシンは元気にしているかい?」

「勿論、元気もりもり。今も武王院の学院長だ。稽古は厳しかったが、楽しかった。そして、ホウシン師匠たちは、俺たちの行動に合わせて行動してくれている」

「そうかい。シュウヤたちの行動か。武仙砦を越えて鬼魔人傷場に向かうことが目的かい?」

「水神アクレシス様に頼まれた玄智の森を神界セウロスへと戻すための行動だ。皆、その行動に全力を注いでいる状況だ」

「……玄智の森を神界に戻すためだと……」

「あぁ、水神アクレシス様直々の頼みだ」

「……」


 暫し、唖然として沈黙する独鈷コユリは、唾を飲み込み、


「だから皆で武仙砦を越えたのだな……なんてことだ」


 と発言。


「あぁ、その一環いっかんだ。俺たちが暴れた反動に備えたホウシン師匠たちには、武王院で院生たちを守ってもらっている。更に、纏まりのない各仙境を玄智仙境会の名目で一つに纏めようとがんばっている」

「ホウシンはホウシンらしく役割を果たしているのだな」

「正解だ。そして、俺とエンビヤたちはカソビの街から幻瞑森に向かい、魔族たちの本拠の鬼羅仙洞窟を発見。その洞窟の奥にいた魔界王子ライランの眷属アドオミを俺が倒した」

「おぉぉ、凄い! 魔界王子ライランの眷属を見つけて倒したのか!!」


 独鈷コユリは興奮。

 

 頷いた。


「そして、玄智の森にいるだろうすべての魔族たちは、魔界王子ライランの洗脳が解けた。目覚めたと言える」


 少し間が空く。独鈷コユリは、


「魔界王子ライランの眷属の魔族は特殊なスキルを使う存在だったのだな。そして、目覚めた魔族たちか……」


 と呟くと、


「おう。その目覚めた魔族たちの故郷は魔界王子ライランによって蹂躙されていた。更に洗脳を受けて、偽りの信仰心と記憶を植え付けられて、玄智の森に進出していた」

「……傀儡くぐつ兵士だったのか。では、玄智の森を攻撃していた魔族たちは、もう前の魔族たちと違う?」


 頷いた。


「現状、すべての魔族とは言えないかもだが、洗脳前の魔族と今の魔族たちでは考えが異なるはずだ。だからこそ鬼魔砦に駐留していた目覚めた魔族たちは魔界王子ライランに反旗を翻していた。しかし、魔界王子ライランも魔界の諸侯の一人だ。自らの眷属アドオミが倒されたことを察知し、鬼魔人と仙妖魔の叛乱に直ぐに気付いたようだ。そして、事前に魔界セブドラ側に軍隊を待機させていただろう魔界王子ライランは、その新しい軍隊を鬼魔人傷場から玄智の森へと差し向けた。俺が鬼魔砦に潜入した頃には、魔界王子ライランの軍隊が鬼魔砦を襲撃していた……」

「では、シュウヤは単独で鬼魔砦に潜入を? そして、その戦いに参加したのか?」

「戦いには参加しなかった」

「あれほどの強さを持つシュウヤなら……」

「あぁ、仲間となったザンクワという名の目覚めた鬼魔人から鬼魔砦の話は聞いていたが、まだまだ分からないことだらけだったこともある」

「……ふむ」

「単独での潜入を優先し、その鬼魔砦と鬼魔人傷場の間で繰り広げられている戦いを少し見てから、鬼魔砦の司令室に向かった。そこにいた魔将オオクワと副官ディエと交渉を行い、その二人との交渉に成功。その証拠がコレだ――」


 竜頭金属甲ハルホンクを意識。


 胸元に出現した鬼魔砦統帥権の鬼闘印を剥がして――。


 水戸黄門の格さん気分で鬼闘印を見せた。


「魔将を配下に……それは軍令印のような物か。え? だとすると、現在の鬼魔人と仙妖魔たちの首魁はシュウヤなのか」

「限定的だが、そうなるか。アドオミを倒した証拠もある――」


 鬼闘印を胸に付け直し、冥々ノ享禄をポケットから取り出した。


「そ、それは……」

「名は冥々ノ享禄。玄智の森を神界セウロスに戻すために必要な秘宝の一つ。これをアドオミは持っていた。水神アクレシス様から探すように言われていた秘宝なんだ」

「凄い話だ……」

「あぁ、その鬼魔砦だが、背後は武仙砦だ。目の前で、魔族同士でぶつかり合う鬼魔砦の様子を見て、漁夫の利を得られるチャンスだと思い、鬼魔砦ごと魔界セブドラから出現してくる魔界王子ライランの軍隊に対して戦を仕掛けてもおかしくない状況だったんだ」


 独鈷コユリは頷いた。


「シュウヤたちは魔族たちを救うためギリギリの作戦を実行していたんだねぇ……」


 武仙砦の仙剣者と仙槍者たちは鬼魔砦に突撃予定だったのかな。


「まぁ、俺なりに急いでいた」


 独鈷コユリは頷き、


「……武仙砦の皆は、鬼魔砦の魔族たちを攻めていない。シュウヤが事前に武仙砦の総督に連絡をしたんだね」

「そうだ。武王院のノラキ師兄に黒独鈷を用いた思念で連絡をしてもらった」

「なるほど……だから鬼魔砦の魔族たちの加勢にシュウヤたちは向かっていたのだな。知らなかった……」

「知らないのも無理はない。数時間前に魔界王子ライランの眷属アドオミを倒したばかりだ。俺の移動も鬼羅仙洞窟にあった伝送陣を用いた移動で一瞬だからな」

「すべて理解した。シュウヤは凄い、凄すぎる――」


 と独鈷コユリは片膝で地面を突く。頭を下げてきた。


「ちょ、頭を下げるなよ」


 俺がそう言うと、頭部を左右に振るう独鈷コユリ。


「……私は馬鹿すぎる……」

「もう許したと言ったろう。それに、俺たちを倒そうと動いた独鈷コユリの行動は、玄智の森を守ろうとする優しさと強さを持つ故の行動だ。そして、自分を責めないでください、独鈷コユリ様――」


 と片膝を地面に突けて頭を垂れた。


「な、な……私に様とか付けるな……それに、なんでシュウヤも頭を下げる!」


 頭部を上げて、独鈷コユリと視線を合わせた。


「――目上の独鈷コユリ様です。いけませんか? 独鈷コユリ様……」

「……わ、分かったから、私に様をつけるな。鳥肌が立つ……」

「では、立ってください、独鈷コユリ様?」

「あぁぁ、わ、分かったから、先ほどの調子に戻せ! そしてさっさとお前も立て!」

「了解――」


 猫だったらイカ耳状態か?

 

 と笑いながら少し焦った様子の独鈷コユリを見る。様とか呼ばれるのはいやか。

 俺と同じタイプだな。


 独鈷コユリは膝頭を払ってから、俺を少し睨む。


 が、微笑んでくれた。


「……」


 独鈷コユリはジッと俺を見る。

 その独鈷コユリに、


「では、そろそろ鬼魔砦に戻る」

「シュウヤ、私も連れていけ。そして、今日限りで武仙砦のお守りはお仕舞いだ」

「鬼魔人と仙妖魔に味方するんだな?」

「勿論」

「了解。強い独鈷コユリが味方に加われば、更に戦いはこちらに有利に進む」

「ふふ、玄智の森を神界セウロスに戻す秘宝について、説明してくれ」


 頷いて、説明しようとした瞬間――。

 複数の魔素を察知。


「独鈷コユリ様――」

「――槍仙老婆様ァァ」

「その怪しい魔槍を持つ武人は? 魔族!? 戦いが起きたのですか!」


 あ、武仙砦の仙剣者と仙槍者か。

 とりあえず、笑顔で――。


「どうも、俺の名はシュウヤです。武仙砦の方々ですね」

「そうだ。俺はキライジャ。鬼魔戦場零八小隊隊長だ」

「私は副隊長カップアン」


 零八小隊。

 その08の名は好きだ。

 すると、独鈷コユリが、


「零八小隊か。お前たち、私はこのシュウヤ様の部下となった」

「「「「ええ?」」」」

 

 武仙砦の方々が全員驚く。

 と言うか、俺も驚いた。


「独鈷コユリ? いつ部下に」

「今だ」


 俺はダンの物まねではないが、両腕を少し上げて『What?』的な動作を取った。

 零八小隊の方々は不思議がり、


「独鈷コユリ様、どうしてこの方の部下に……」

「どうもこうもない。総督から聞いてないのか。先ほどの巨大な龍に乗っていた一行の一人が、シュウヤ様なのだぞ」

「「「「え!」」」」


 零八小隊の方々は全員が驚いていた。


「驚くのは早い! 龍を眷属けんぞくとして従えているシュウヤ様は、魔界王子ライランの眷属けんぞくアドオミを倒したのだ。そして、武王院の八部衆の一人である! 更に魔界王子ライランの眷属けんぞくを倒したことにより、鬼魔人と仙妖魔たちの洗脳が解かれたのだ! そうして、魔族たちの新しい首魁しゅかいとなられたシュウヤ様なのである!」


 と、イゾルデのような口調で皆に説明していた。


「「「なんと!」」」

「それは本当なのですか!?」

「武仙砦の八部衆が、魔族の頭領!?」

「そうだ! シュウヤ様の胸元を見るのだ! 鬼魔砦の鬼闘印がその証拠!」

「え!」

「「「おぉ」」」

「あれは……魔将オオクワが持っていた?」

「すげぇ、本物だ……」

「――あ、提督は、武王院の八部衆のシュウヤが龍に乗って武仙砦を越えると……」

「あぁ! 私も少し前に、玄樹の珠智鐘を持つ武王院の英雄が玄智の森のために活動を開始したと聞いています」

「……では……」

「あぁ……」

「「「……」」」


 ザザッという勢いで零八小隊の方々は俺に向けて敬礼を取った。


 俺もラ・ケラーダの挨拶を返した。


 独鈷コユリは俺に向けて、満足そうに頷く。

 頷きを返した。


 そして、皆を見据えてから、


「今の話はすべて真実。そして、水神アクレシス様に頼まれた三つの内二つの秘宝を入手した。その情報はノラキ師兄から総督ウォーライと副総督ドンボイにも伝わっていることだろう。だから、残りは白炎鏡の欠片のみ。が、その秘宝入手の活動に移る前に、目覚めた鬼魔人と仙妖魔たちを救う活動をしている」

「……鬼魔人と仙妖魔を救う」

「……魔族を……」


 ざわつく零八小隊の方々。

 

 まぁ、武仙砦の勢力は、今の今まで鬼魔人と仙妖魔と戦い続けていた。すぐに信じろってのは酷か。


 すると、独鈷コユリは、


「お前たち、なに浮かない顔してんのさ! お前たちも、魔界王子ライランの軍隊を潰すために、シュウヤ様の戦力に加わるべきなんだよ!」


 と発破をかける。


「えっと……」

「鬼魔人と仙妖魔たちを潰すのではなく?」

「今の話を聞いていなかったのかい! もう鬼魔人と仙妖魔は味方なのさ! シュウヤ様が言うには『すべての鬼魔人と仙妖魔が味方というわけではない』との推測もあるが……鬼魔砦で、現在も魔界王子ライランの勢力と戦っている鬼魔人と仙妖魔たちなら、私は信じられる。お前たちもそう思わないのかい?」

「それはそうかもしれませんが……」

「私とシュウヤ様の言葉が信じられないのなら捨て置くさ。キライジャたちは一度武仙砦に戻ればいい」

「……はい」

「隊長、私は……独鈷コユリ様に救われた……今の話を信じます」

「な……」


 副隊長カップアンは隊長キライジャに反目していた。


「カップアンか。私はシュウヤ様と鬼魔砦に向かうが、ついてくるんだね?」

「はい!」

「キライジャは、総督ウォーライと副総督ドンボイに、私たちのことを至急報告しろ。総督のおやじなら、直ぐに援軍を出すだろう。そして、鬼魔砦側の鬼魔人と仙妖魔を攻撃し始めたら、おまえたちを襲うとも告げておけ」

「「「……」」」

「返事はどうしたキライジャ……」

「は、はい!」

「か細い声だねぇ、本当に泣く子も黙る武仙砦の小隊長さんなのかい?」

「そ、そうであります、独鈷コユリ様!」

「ならば、気合いを入れた返事を寄越せ小僧!!!」


 こえぇ。

 独鈷コユリ、こええぇ。

 キライジャは、


「はいぃぃぃ!!!」


 と盛大に声を発していた。

 喉、大丈夫か?

 

「シュウヤ様、一人若いのが増えてしまったが……」 

「あぁ、戦力が増えるのは良い。だが、独鈷コユリが面倒を見ろよ?」

「はい」

「お任せください。足手まといにはなりません!」


 黒髪のカップアンが叫ぶ。

 女性で仙槍者か。

 ま、武仙砦の兵士は優れた仙剣者や仙槍者と聞いている。

 そして、零八小隊の副隊長だ。大丈夫だろう。


「了解。んじゃ、鬼魔砦に向かう――」

「「はい」」


 武仙砦の小隊長さんキライジャと、零八小隊の方々を残して、駆けた。背後から付いてくる独鈷コユリとカップアン。


 少し歩む速度を落として――。

 振り返ってから足を止めた。


 しかし、独鈷コユリと零八小隊の副隊長が仲間になるとは思わなかった。

 そして、


「鬼魔砦の外で龍か龍人のイゾルデが魔界王子ライランの勢力と戦っている可能性もある。鬼魔砦の中には、武王院のエンビヤ、クレハ、ダンもいるはずだ」

「「はい」」

「で、俺たちの敵は、見たら直ぐに分かる。気色の悪い連中だ。魔肉ガガ部隊は余裕だと思うが、巨人一物野郎には気を付けろ。やけに動きが速く、大きいから力も強いだろう。更に、一物から酸のようなションベンが前方に散る。俺は迅速に魔界騎士のようなトップ連中を狙うから、戦場でははぐれるかもしれない」

「「……」」

「いやなら、武仙砦に戻ったほうが良いんじゃないか? 独鈷コユリ様?」

「うぐ……様はやめろ。た、多少ビビッただけだ」

「ま、最初は武王院の仲間と合流しようか。二人は、鬼魔砦の鬼魔人と仙妖魔の大将でもあるオオクワにも面を見せていたほうが今後のためにもなるだろう」

「そうだな」

「はい、少し怖いですが」

 

 カップアンの言葉に頷いた。

 

「先にイゾルデたちがいる。大丈夫だろう。行くぞ――」

「「はい」」


 鬼魔砦に向かう――。

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