九百七話 鬼魔人のヘイバトと鬼魔・幻腕隊ガマジハルたち

 静かな鬼魔人たちは頭を垂れたままだ。とりあえず、


「鬼魔人と仙妖魔の皆、立ってくれ」

「「「――はい」」」


 一斉に立ち上がる鬼魔人と仙妖魔たち。


「意見があれば聞こう。代表者のような者はいるのかな」


 鬼魔人と仙妖魔たちは、


「ヘイバトが出るべきだ」

「ヘイバトと戦える強者は、ガマジハルやガ・デスなど、数えるほど。そうはいない」


 そう仲間たちに促された鬼魔人が一人前に出た。

 彼がヘイバトか。黒仮面は被っていない。

 体格は中肉中背で体内の魔力操作はスムーズ。

 <魔闘術>系統の<黒呪強瞑>の練度は高いと分かる。


 その鬼魔人ヘイバトが、


「俺の名はヘイバト・ルヒアンキ! 渾名は魔刀のヘイバトです」

「ヘイバト、よろしく」

「はい! こちらこそよろしくお願いします――そして、鬼闘印を持つシュウヤ様に従います!」

「了解した。武器を拾って戦いに備えてくれ」

「はい。ついでに演武もお見せしたいと思いますが、よろしいでしょうか」

「いいぞ。存分にアピールしてくれ。隊長格に抜擢するかもしれない」

「はい!」


 気合い漲る鬼魔人のヘイバトは両手をクロスさせつつ振るう。

 空手の『押す』と似た挨拶だ。そこから両手を徐に拡げて諸手の姿勢に移行したヘイバトは呼吸を整えるようなスキルを発動した? 

 と、前傾姿勢で駆けた。鬼魔人と仙妖魔たちが武器を放棄した場所に向かうと、自らの愛刀か? その魔刀を左右の手で素早く拾うや右斜め前方に向かって体がブレる。


 そのままブレた体を一つに集約させつつ疾風の如く駆けながら魔刀を迅速に振るった。

 腕の振りが一流。ユイやカルード、ヴィーネを思い出す。

 魔刀を振るう度に細長い湾曲した軌跡が宙に生まれていた。

 それらの軌跡が重なり消える度に魔力の蝶が舞うようにも見える。

 かなりの強者だろう。


 すると、ザンクワが、


「シュウヤ様、当たり前ですが魔刀のヘイバトは仙武人を嫌っています。しかしながら実直です。先の言葉は本当かと。そして、カソビの街での潜入と幻瞑森の警邏の任務では負け知らずと聞いています。内実はカソビの街には凄腕が多いので引き分け痛み分けが多かったようですが、確実に成果を出していた強者です」


 と教えてくれた。

 そのヘイバトは後転。演武を終わらせて、御辞儀。

 魔刀の具合を確認。柄巻や柄頭に刃を調べている?

 満足そうに頷くと、その魔刀を腰に差し戻していた。

 すると、徐に重心を落として、鯉口に右手を置く。

 ――鞘から魔刀を引き抜いた。ユイと似た居合術。その居合切りスキルから半身ごと左に体を流しながら右手の魔刀をかち上げ。

 肘が跳ねるような柄の打撃と斬り上げに続けて、左手が握る魔刀の剣先が真正面を突く。

 引いた右手を振り下げる袈裟斬りを実行。

 その袈裟斬りから返す魔刀で右腕を斜め上へ動かし、体を横回転させてから膝の横にスラスターでも付いているような機動力で横移動を数回行う。


 動きを止めた。凄い動きだ。

 ザンクワの指摘通り、ヘイバトは凄腕の二刀流の魔剣師。


 そのヘイバトは細い切っ先を俺に向けてくる。

 切っ先越しに俺を見てくる金色の双眸は鋭い。

 瞳には六芒星の魔法陣が浮かぶ。なんらかの魔眼持ちと推測。

 頬に緑色の薔薇のような傷痕を持つ。


 薔薇の傷跡は魔力を宿しているし、まさか……。


「魔眼に<魔闘術>系統の<黒呪強瞑>を持つ?」

「はい。魔眼は<魔眼・写速応>、そして<鬼強羅体>を持ちます」


 <鬼強羅体>は聞き覚えがあるスキル。

 アオモギたちと共に行動していた、俺が倒した幻鳳魔流の槍使いキヨマサが使用していた。キヨマサは仙武人だったが。


「へぇ……」


 ヘイバトから殺気は感じない。

 そのヘイバトは魔刀を腰の鞘に戻してから御辞儀を行う。


 ――礼には礼の御辞儀を返した。

 鬼魔人ヘイバトは、俺の礼を見てきょどる。

 その仕種から武人然とした態度が崩れた。俺の礼はヘイバトには予想外か。

 背後からエンビヤたちの「ふふ」という笑い声が聞こえた。


 ヘイバトはキリッとした顔付きとなって、近付いてきた。

 そのヘイバトと握手でもするように、


「ありがとう、良い演武だった。鬼魔砦での活躍を期待する」

「はい! お任せを!」

「少し聞くが、良いかな」

「はい」

「ヘイバトと皆は、アドオミを倒した者たちへの降伏目的で鬼羅仙洞窟の前に集結していたのかな」

「皆は多分そうでしょう。俺は魔界王子ライランの呪縛から解放してくれた存在に、お礼が言いたかった。ですから改めて、シュウヤ様、ありがとうございます……意識を取り戻させていただき感謝しています」


 ヘイバトの笑顔は良い。鬼魔人も仙武人と変わらん。


「どういたしまして。ザンクワや君のような存在の意識を回復させることができて、本当に良かった」


 素直にそう告げると、

 ヘイバトは金色の双眸を左右に揺らしつつ、


「……感動です……」


 片方の目から涙を流す。そのヘイバトに、


「感動?」


 そう聞くと、ヘイバトは片手で涙を拭い、


「はい。我らを魔界セブドラへと導こうとしてくれているシュウヤ様という奇跡の存在にです。ですから、我らの導きし者がシュウヤ様で在らせられる――」


 と再び片膝で地面を突くヘイバト。

 すると、背後の鬼魔人と仙妖魔たちが、


「導きし者、シュウヤ様に従おう――」

「「従うさ!」」

「俺たちにはもう後がない! シュウヤ様に従う!」

「魔界王子ライランの勢力に一矢報いる機会をくれたシュウヤ様を信じる!」


 と各自叫びつつ前に出た。ヘイバトと同じく片膝を地面につける。

 更に、背後から片腕がない兵士たちが前に出ては、


「この【鬼魔・幻腕隊ガマジハル】を率いるガマジハルも、シュウヤ様を信じよう! そして、一兵卒として鬼魔砦で戦う者たちに加わることを、ここに誓う――」


 【鬼魔・幻腕隊ガマジハル】の隊長さんか。


「――俺もシュウヤ様を信じる!」

「――親の仇の雪辱を果たせる機会は逃しません。シュウヤ様に従います」

「――俺もだ! アドオミを倒してくれたシュウヤ様に付いて行くぞ! しかし、アドオミに洗脳されていたことが情けない……」

「――ドノバン……それは皆も同じこと……」

「――あぁ、魔界王子ライランとアドオミが、それだけ強かったということ」

「――故郷は蹂躙されて捕らわれた我らのような弱者は虐げられて利用されてしまう……」

「――が、これからは違う!」

「――そうだ」

「……おう。故郷へ導こうとしてくれる偉大なシュウヤ様に従わない者は、この場にはいないはず!」

「あぁ、仙武人を殺すことが正義だと信じていた愚かな俺たちを……差別なく、導こうとしてくれるなんて……俺は、俺は……嬉しくて……」

「泣くな……トガミル」

「泣きたくもなるさ! シュウヤ様は仙武人側だ。そのシュウヤ様が我らを見捨てず歩み寄ってくれたのだぞ……ここで感動しない漢は漢じゃねぇ!」

「あぁ、そうだな……生きる屍だった俺たちに生きる目的をくれた。たとえ、魔界王子ライランの兵士と衝突し死ぬことになっても、悔いは無い……」


 前に出た【鬼魔・幻腕隊ガマジハル】の方々は泣きながら語る。

 泣いている鬼魔・幻腕隊ガマジハルたちは、皆、片腕のみ。


 片腕のみは病気? それとも……。

 幻腕隊ガマジハルのことで、ザンクワに意見を求めよう。

 とザンクワを見たが、彼女も肩を震わせて涙を流していた。


 その涙を流すザンクワは俺の視線に気付くと笑みを浮かべつつ、片手の親指で涙を拭ってから、


「……鬼魔・幻腕隊ガマジハルたちは幻瞑森で戦い続けていた陰の集団です。実際の腕は片腕しかありませんが、<黒呪導術>で構成した幻腕をいつでも失った腕代わりに発生させることができます。その幻腕は様々に変化が可能です」


 と説明してくれた。


「ありがとう。片腕が自由自在か。強者の集団だな」

「ふふ、はい。ガマジハルたちもヘイバトに負けていません」


 頷いた。<黒呪導術>は名前的に<導魔術>系統に近い印象を受ける。


 幻腕か。鬼魔・幻腕隊ガマジハルたちは、<導想魔手>のようなスキルが使えるってことだろう。

 様々に変化が可能な腕を持つようだから、<導想魔手>よりも自由度は高いかもな。


 中々有能な集団と分かる。

 すると、ヘイバトが、


「泣くな! ガマジハルとクコピジャの皆! 重要な戦いはこれからなのだぞ!」

「そうだな……」

「あぁ」


 ヘイバトの両腕はガマジハルたちとは違い、健在だ。

 ヘイバトは片腕を上げて、


「皆、魔界王子ライランへの雪辱を果たす機会を与えて下さろうとしてくれているシュウヤ様に従おう! 偉大な導きし者のシュウヤ様に!」


「「「――偉大な導きし者、シュウヤ様!!」」」


 鬼魔人と仙妖魔の兵士たちが声を合わせて宣言してくれたが。


「……そんな大層なもんじゃないさ」


 そう呟くと、一人の仙妖魔が前に出た。

 ヘイバトの隣に出て、


「――シュウヤ様が偉大な導きし者であることを否定しようとも、私は鬼闘印を持つシュウヤ様が偉大な導き者だと信じる!」

「俺もだ!」

「俺も信じます!」


 仙妖魔の背後の鬼魔人たちも同意するように叫んでいた。

 前にいる美形な仙妖魔が、


「あの魔将オオクワ様が鬼闘印をシュウヤ様に譲られたことも重要だ!」

「オオクワ様は、どんな状況だろうと鬼闘印を手放すことはなかった」

「それがシュウヤ様にすんなりと鬼闘印を譲られたようだからな。それは鬼魔人と仙妖魔の代表という立場をシュウヤ様に譲るのと同じことだと思う!」

「「「「そうだ!」」」」

「我らを導きしシュウヤ様、我らの閣下!」

「はい、シュウヤ閣下!」


 次々と前に出ては、


「閣下!」

「閣下ァ」

「「「閣下ァァ」」」


 皆が俺を求める。

 鬼魔人と仙妖魔の兵士たちの凄まじい気合いが隠った声が響き渡った。

 高いエネルギーを肌に感じて、肌がヒリヒリと痛む。


 魂力というか、魔界沸騎士長たちと似たような魂魄力でもあるんだろうか。

 あ、魔界セブドラの気質か……。

 すると、俺の頭上に、腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが点滅しながら現れ消えた。


 鬼魔人と仙妖魔の兵士たちの熱い叫びに反応したか。

 だが、皆を見据えて、


「皆の熱い気持ちは重に理解した。その気持ちは本気だろう。神輿を担ぐつもりでもないと分かる。が、閣下や導きし者と俺を呼ぶのは止めてくれ。俺は、そんな柄じゃない」


 周囲はどよめく。

 お山の大将ってノリはどうもな。


「……」

「ヘイバトも理解したな?」

「……しかし……」

「譲歩して〝様〟だけだ。皆、理解したな?」

「は、はい! シュウヤ様!」

「「「シュウヤ様!」」」


 理解してくれたようだ。

 すると、俺の横で聞いていたザンクワが、


「見事な交渉術です」


 交渉はしてないような……。

 ま、いっか。そして、


「で、皆に鬼魔砦に向かうための鬼魔ノ伝送札を渡す。ここに箱を置くから、各自、札を取ったら、伝送陣から鬼魔砦に向かってくれ――」

「「「「ハッ」」」」

「「「分かりました」」」」


 ディエからもらった鬼魔ノ伝送札入りの箱を地面に置いた。

 鬼魔人と仙妖魔たちは素早く箱に近付いて、鬼魔ノ伝送札を三枚取る。


 その鬼魔人と仙妖魔たちは、まだ鬼羅仙洞窟に入らない。俺たちを見ては、喋りたそうにこちらを見ている。まだ遠慮しているようだ。


 鬼魔ノ伝送札を持っていない鬼魔人と仙妖魔もいた。


 底の深い箱は空。

 鬼魔ノ伝送札を持っていない鬼魔人と仙妖魔の数は、十数人。その十数人にはイゾルデの背中に乗ってもらうとしよう。


 そして、その十数人の魔族は魔界側と神界側の争いで活躍した龍神の姿を垣間見るわけか……。


 一気に白髪三千丈と化したりしないよな? 

 と余計な心配をしてしまう。


 ま、仕方ない。

 そして、一応命令系統は作っておいたほうが良いだろう。


「皆、ヘイバトとガマジハルの二人に、この集団の隊長を任せたいが、どうだろう。そして、鬼魔砦では魔将オオクワとディエの麾下に入ってもらう」

「シュウヤ様は?」

「我らはシュウヤ様に従うと決めた!」


 鬼魔人と仙妖魔たちは不満気だが、


「俺も鬼魔砦に向かい戦場に出よう。が、玄智の森を神界に戻すことが俺の役目でもある。だから鬼魔戦場から離脱することになるだろう。その際、要所要所でお前たちに指示を出すかもしれない」

「……」


 鬼魔人と仙妖魔たちは一気に沈黙。


「返事はどうした?」

「わ、分かりました!」

「は、はい!」

「で、俺は槍使い。接近戦が得意だが飛び道具もある。戦い方にもよるが、なるべく戦場では俺の周囲に近付くな」

「「「はい!」」」

「「了解しました」」

「背後にいる俺の仲間たちも強い。で、言うのを忘れていたが、俺は武王院の八部衆の一人。仙武人側の立場だ」


 正直に話をした。

 先ほどと似た、冷えた空気感となる。


 背後のダン、クレハ、エンビヤは、武器を構えた。

 イゾルデは気にせず。

 堂々と前に出て俺の横に来ると、ザンクワに挨拶してから、


「お前たち、優しいシュウヤ様の言葉は真実! そして、我はシュウヤ様の眷属であり、優しくはない。不満があるなら我がお前らを押し潰すことになるだろう――」


 武王龍槍を振るうイゾルデ。

 穂先から魔力が迸っている。


「――不満はありません」

「はい。シュウヤ様とイゾルデ様、ご安心を。鬼魔砦に向かいます――」

「俺も向かいます。では、イゾルデ様とシュウヤ様!」

「素敵なイゾルデ様の傍に居たい!」

「おい馬鹿ギジぃ~、これから鬼魔砦だっつうの――」

「ひぃ、叩くなよ、ポポア」


 仲の良い鬼魔人と仙妖魔のカップル兵士が場の空気を和らげた。

 ギジとポポアか。その男女は御辞儀して鬼羅仙洞窟に向かう。


 生き残ってほしいが、どうなるか。


「はははは、我を素敵とは! 物わかりのいい鬼魔人である。では、鬼魔ノ伝送札を持っていない兵士たち、我に刮目せよ。身が凍えるかも知れぬが、慣れるのだ。ふふふふ、はははは、いくぞ――我の背中に乗るのだ――ガァアヅッロアガァァァァァァ――」


 圧力を持った空気を周囲に発したイゾルデは一瞬で龍体に変化。

 ドドドッと重低音が周囲に響き渡る。


「「「「ひぁぁぁぁ」」」」


 圧倒的な龍神様の姿を見た鬼魔人と仙妖魔たちは一瞬で全滅。

 といった印象を皆が持つように、へなへなと力なく地面に座り込む。


 イゾルデの頭部のシンメトリーの金色の角と白銀の龍体はそれ自体が芸術性が高く、純粋に拝みたくなる姿だ。だから、祈る。龍神様ありがとう、と――。


 俺の横のザンクワも乙女座りとなっていた。


「ザンクワ、慣れろとは言わないが……」

「無理もありませんよ。龍神イゾルデ様は神界セウロスの神々の一角として魔界セブドラの神々と戦っていたのですから」


 エンビヤの言葉だ。

 俺とダンとクレハは頷いた。


 エンビヤはザンクワに手を差し伸べる。

 ザンクワは「あ、ありがとう」と言いながらエンビヤの手を握り立った。両者はキスできる近さで笑顔を浮かべ合う。


 両者とも美形だから写真をとりたい。

 すると、ダンが、


「イゾルデの龍体には二度乗ったが、未だに信じられない部分がある。なんせ、龍だからな」

「はい……白銀の鱗が素敵過ぎます。すべすべしていますし、いい匂いもします。金色の角の根元付近の髪の毛とか触ってみたい……」


 クレハがそんな発言をすると、光魔武龍イゾルデは頭部を少し揺らしていた。話は聞いているようだな。


 ダンも光魔武龍イゾルデを凝視していた。

 少し頬が朱色だ。今は龍体で神々しいが、イゾルデのことを実は好いているのかもしれない?


 さて、びびる鬼魔人と仙妖魔たちに、


「皆、イゾルデは俺たちの味方だからな。武器を拾い直せ。で、鬼魔ノ伝送札を持つ鬼魔人と仙妖魔は、さっさと鬼羅仙洞窟から鬼魔砦に向かえ!」

「「「「――はい!」」」」


 走り出す鬼魔人と仙妖魔たち。

 その兵士たちに向け、


「あ、砦の外は名前通り戦場だ! 砦の内部はまだ大丈夫。内部ではオオクワとディエの指示に従うように」

「「「――承知!」」」

「「「「「はいッ」」」」」


 鬼魔ノ伝送札を持たない鬼魔人と仙妖魔たちは恐る恐るイゾルデの背中に乗ろうとしているが、滑って乗れていない。


 というか、普通に跳躍できるだろうに。

 ビビりすぎだ。


「皆、遠慮せず、普通に跳躍して乗れ。エンビヤ、クレハ、ダン、見本を頼む」

「おう――」


 とダンは龍体イゾルデに乗る。

 足下以外にも白銀の毛が絡んでいた。


 あれなら落ちることはないだろう。

 白銀の毛のソファーがあれば、気持ち良さそうなんだが、龍のイゾルデに相棒ロロディーヌのような乗り心地を求めても仕方ないか。


「皆さん、わたしたちの真似をして下さい、普通に乗れますから――」

「はい。イゾルデの背中からは、自然と白銀の毛が足下に伸びてきますので、安全です。宙から落ちたりはしません。乗り心地は前より改善されています――」


 エンビヤとクレアが華麗に乗る。

 武王院の制服ではないことが悔やまれる。

 黒装束も勿論カッコいいんだが……。

 武王院の制服は、股間と臀部を隠す前掛けのヒラヒラが捲れることがあるから魅力的なんだがなぁ。

 と、エロいことを考えていると、鬼魔人と仙妖魔たちが、イゾルデに向けて、


「はい!」

「では――」

「――素敵なお龍様の背中に乗らせていただきます!」


 次々と跳び乗った。

 鬼魔ノ伝送札を持っていない鬼魔人と仙妖魔の全員が乗った。ヘイバトとガマジハルは鬼魔ノ伝送札組だから乗っていない。


 さて、この場に残った鬼魔人と仙妖魔は……いないかな。

 幻瞑森と鬼羅仙洞窟の出入り口の周囲を見渡した。


 人型の魔素は感知できず。

 幻瞑森を含めた玄智の森には鬼魔人や仙妖魔はいると思うが……。


 まぁ、すべてを救おうと考えるのは、俺の我が儘か。んじゃ行くか。

 龍体のイゾルデが頭部を向けてきた。


「『シュウヤ様、早く乗れ――』」


 思念と声を寄越すが、龍の息が凄い。

 前髪がもってかれた。


「了解――」

「『ふはは、魔界王子ライランをぶちのめす!』」


 光魔武龍イゾルデはそう叫びつつ宙空へ飛び立った。

 魔界王子ライラン本人は鬼魔人傷場にはいないと思うが、指摘はしない。


 あっという間に幻瞑森を越えたと分かる。

 カソビの街が背後の遠くに見えた。

 イゾルデは、武仙砦の方角に直進。

 玄智の森の北側をぐいぐいと偉い速度で直進。


 周囲の魔族の兵士たちの中には気を失っている者もいた。

「イゾルデ、少し速度を落とせ――仙妖魔の兵士が気絶している」

「『なぬ! なんとも不甲斐ない!』」


 速度を落としたイゾルデ。

 鱗と鱗の間から覗かせる肉から白銀の毛を生やして、その白銀の毛を気絶した兵士の頬に伸ばす。

 その白銀の毛で仙妖魔の兵士の頬を叩いて起こしていた。


 背中に乗せた皆の位置は丸わかりか。

 相棒と同じ感覚かな。


 すると、巨大な壁が見えてきた。


「――シュウヤ、あれが武仙砦です」

「――あぁ、断崖絶壁の大砦だな。世界の要害といった印象だ」

「はい、イゾルデは、きゃ――」


 イゾルデは急角度で上昇――。

 武仙砦をあっさりと越えた。


 眼下の武仙砦の頂上で、俺たちを凝視している仙武人たちがいる。皆、驚愕って顔だが――。


 斜め左前方の突兀が多い岩場を跳ねるように移動している仙武人がいた。


 見た目は老婆? 槍を持つ。

 ホウシン師匠のような凄まじい機動力で移動している……。

 あ、あの老婆は……。

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