八百九十三話 <白虎ノ纏>

 

 木々が近付いたところで――。

 エンビヤの手を握りつつ<導想魔手>を発動した。その刹那、光魔武龍イゾルデの龍体が龍人へと変化――足下の感覚がなくなった。


 向かい風どころではない状況のエンビヤとアイコンタクトを行いながら彼女の手を離す――。


 笑顔のエンビヤは頷くと<導想魔手>を蹴り、斜め下の大きい木の幹へ向かった。


 ――俺も<導想魔手>から離れて宙空を降下――。


 俺たちよりも先を降下中のイゾルデの頭頂部から背中が見えた。


 そのイゾルデの体から湯気のような魔力と熱風が迸っている。

 それらの魔力と熱風を自身の体とカチューシャの半透明の龍体が吸引していく。

 と、イゾルデの頭上に薄らとした如意宝珠の幻影が浮き始める。


 如意宝珠の幻影は朧気に点滅を始めていた。


 イゾルデの背中に魔力と熱風が引き込む姿は神々しい。


 大きいマントを羽織ったようにも見えた。そのイゾルデが着地するのを見ながらエンビヤを追った。


 エンビヤの背中とお尻の服が魅力的――。


 そのエンビヤは水泳で言うフリップターンで回転を行い、両足の裏で幹を蹴って反対方向の木々へ向かう。

 ターンの美しい姿を見ながら――俺も幹を片足で蹴った。

 体を縦回転させながら宙を飛翔。


 降りる前に見ていたが、木々と土の道に周囲の地形を改めて把握。


 ダンとクレハさんも視認。

 木の幹を蹴る二人は華麗に反対側の木に移動。

 <闘気玄装>の使い方は一流。

 その細かな技術の扱いは俺よりも上だろう。まだまだ見倣うべき技術は沢山ある――そう思考していると、もう目の前は違う木の幹、色合いは焦げ茶色の樹皮。

 その樹皮を足で削るように片足の裏でとらえ蹴って反転を行う。

 <闘気玄装>を活かす――。

 イゾルデの真似をするように両手を拡げながら地面スレスレを低空飛行――更に<白虎ノ心得>を意識。


 続けて<白虎ノ纏>を発動――。


『ガルゥゥ……』


 上半身の体から漏れた四神の白虎の魔力が俺の<魔闘術>と<闘気玄装>の魔力を上書きするように全身に広がる。同時に竜頭金属甲ハルホンク衣装も変化。


 白虎の幻影魔力を纏った。

 皮膚の表面も変化。

 白銀の繊維の束が線状に密集したような新たな皮膚スーツとなる。

『ガルルルゥゥ――』

 霊獣白虎が唸り声の思念を発すると俺の上半身の一部から、白虎の爪と前腕のような物が飛び出た。

 が、直ぐに他の上半身から白銀の筋肉繊維のような束が伸びて先に出ていた白虎の爪と前腕に絡み付き、その白銀の爪と前腕を上半身に引き戻した。

 そうして荒ぶる霊獣を活かした新たな上半身の鎧模様となったが……俺の魔力ごと霊獣に喰われるような感覚には慣れそうにない。


 が、<四神相応>を使って四神たちを飼い馴らす――。


 その<白虎ノ纏>を纏いながら<滔天仙正理大綱>を意識。


 ――<滔天内丹術>を実行。


 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>も実行。

 地面を滑るような機動でイゾルデに向かう。


 イゾルデの近くで足を止めた。

 エンビヤも遅れて着地。

 ダンとクレハさんも<闘気玄装>を用いて軽やかに木々を蹴って地面に着地している。


 少し距離がある。


 目の前のイゾルデは目を見開いていた。

 直ぐに片膝で地面を突く。頭を垂れるイゾルデ。


「四神の盟約者のシュウヤ様!」

「おう」


 俺の<白虎ノ纏>は肌と融合した白銀の細かい鋼が筋肉の繊維的に密集しつつ上半身に作り上げた魔法の筋肉鎧だ。


 イゾルデが普段見ることが多かった竜頭金属甲ハルホンクの防護服系統とは異なる。


 肌と密着したワイヤーが重なったような鎖帷子に近いか?


 魔竜王鎧と牛白熊装備を意識すれば、更にびっくりするかもしれない。


 すると、エンビヤが、


「――先ほどは手を握ってくれて、急の足場も、ありがとう」

「なぁに、いつものことだ」

「シュウヤは気が利く素敵な男性です!」


 間近で言われると照れるがな。


「ふふ、あ、でもシュウヤ、その白銀の立派な魔力の肌はハルちゃんの能力ではない?」

「さすがに分かったか」


 そう告げた直後――。

 右肩が動く。


「あ、肩の」

「お? シュウヤ、前方の争いに――ってなんだ?」

「シュウヤ殿の衣服がまた変化を、肩に――」


 着地を終えた皆が寄ってくる。


 同時に二の腕の魔力の質が変化。

 更に体の右側の極一部の白銀の筋肉の鎧が自然と防護衣服系に変化を遂げた。


 更に竜頭金属甲ハルホンクが出た。


 え? 色合いが少し変化している。


 四神の神気と俺の魔力がかなり混じり合った結果か……。


 右側のハルホンクの防護服と混じり合った白銀の鋼の繋ぎ目には、無数の小さい陰陽太極図が施されてあった。その陰と陽の中には白虎のマークが刻まれてある。


 ハルホンクと融合した<白虎ノ纏>か。


「よう、ニューハルホンク?」

「ングゥゥィィ!」

「ハルちゃん!」

「エンビヤ、ノ、マリョク、クレタラ、元気ニナル!」

「今は止せ」


 ダンが、


「喋る竜の防具は相変わらず面白い」

「おう、しかし、ハルホンク、色合いと形が変化したか?」

「主ガ、トリコンダマリョクノセイ! スゴク、マズイ、マリョク……ダガガ!!! 少シ、トリコメタ!」

「おぉ、凄いじゃないか。ウマカッチャン?」

「――マズカッチャン!」


 一瞬、膝から転けそうになった。


「ふふふ」

「あはは」

「はは……シュウヤ殿のその肩防具は面白いですね」


 クレハさんは相当にハルホンクの喋り方が面白かったようで、腹と脇腹を両手で押さえていた。


「クレハ、ハ主ニ、タオサレタ!」


 竜の頭の金属性の甲でもあるハルホンクが、クレハさんの名を呼ぶとは思わなかった。


 ギュルと動いて回る魔竜王の蒼眼が剥く。

 目玉の動き方がコミカルで面白い。


「はい、敗れました」

「ングゥゥィィ!」


 ダンは暫し呆気に取られる。


「竜か龍の頭に、片方の蒼い眼球は質の高い魔力を内包している。……そしてその魔法の鎧、白銀の細い鋼鉄で筋肉と皮膚を構成したような肉鎧? 白虎の能力か? ……凄まじいな」

「おう」

「シュウヤ様、前方に向かおうぞ!」


 その掛け声はイゾルデだ。

 イゾルデは立ち上がっていた。


「了解。先ほど見えていた争いの理由が分からんが、行くだけ行こう」

「おう」

「はい」

「行きましょう」

「劣勢なのは、制服からして風仙衆のはず――」

「了解――」


 ならば、劣勢側に加わるか?

 土の道を走り出した。

 

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