八百七十七話 水神アクレシスの幻影

 二人も液体世界の水の法異結界に入ってきた。

 口元から泡が吹き出る。

 エンビヤとホウシン師匠は普通の肺呼吸だと思っていたが、違う?


 あ、この液体世界の水の法異結界が普通ではない?


 そう考えつつ振り返る。

 ホウシン師匠は魚と戦いを始めていた。

 腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチは魚から逃げていた。

 近くに戻ってくると、ヘルメ的に平泳ぎを繰り返してからダンスを始めた。


 注連縄の下の、二つのお稲荷さんの陰嚢がぷるるっと揺れている。

 何か意味があるんだろうか。


 その背後のホウシン師匠の戦いのほうが重要か――。

 牙が目立つシーラカンスのような巨大魚が何匹もホウシン師匠を食べようと飛来していた。

 ホウシン師匠は迅速に拳を突き出して一匹の巨大魚を粉砕。


 即座に前進しながら凄まじい拳の連打を繰り出していく。

 拳と拳から放たれる風の魔力を受けた巨大魚はボボッと音を立てて破裂。


 拳を突き出す度に拳に見合う空気の層が四方八方に伸びていた。


 あの拳のスキルは<武王・渾風拳>かな。

 ホウシン師匠は更に加速。


 ホウシン師匠が向かった先には、大きな鰻。

 大きな鰻は、口から無数の鋭い牙を覗かせている。

 あれは魔界セブドラ側の生物?

 が、ここは神域の水の法異結界。


 神界セウロスにもあんな怪物が棲むのか?

 ホウシン師匠は両足と背中から魔力が迸った。

 ロケットの推進剤が噴き出る孔でもあるのかってぐらいのスーパーな加速から体を捻る。


 ホウシン師匠はくるくると横回転を行いながら大きい鰻に近付いた。

 体の周囲に螺旋した水の流れが幾つも発生していた。

 その螺旋の水の流れは雲龍に見える。


 ――凄い機動力だ。

 

 そんなホウシン師匠は、『アチャアァァァ――』と気合い溢れる声が聞こえてくるような鋭い回し蹴りを、大きい鰻の胴体に浴びせていた。


 強烈な蹴りを腹に喰らった大きい鰻は吹き飛び、半透明な魚と衝突し、鰻とその半透明な魚の二匹が破裂して派手に血飛沫が周囲に散った。


 すると、鮫と似た大きな魚群が、その破裂した鰻と半透明な魚の身を食い散らかすように集結していた。


 ホウシン師匠を襲っていた魚たちは逃げるように玄樹の珠智鐘の近くに移動。

 

 ホウシン師匠は追撃はしない。

 くるくると回りながら泳ぎつつ、周囲を見てから、俺に向け、


『魚は神界セウロスのモノと融合した何かじゃ! わしらの行動の妨害をしてくる。ここは危険かもしれん!』

『俺も戦いますか?』

『否、暫し、わしが普通ではない巨大な魚と戦う様子を見ておくのだ!』


 的な意味があるだろう仕種を取る。

 拱手して頷いた。


 隣で立ち泳ぎをしながら見ていたエンビヤとイゾルデに向け、


「――ホウシン師匠は魚を見定めるようだ。俺の声は聞こえているか?」


 と言ったが――。

 口元から大量の泡が出るだけで、声は水の法異結界の液体の中では上手く伝わらない。

 

 と思ったが、イゾルデはかろうじて聞こえていたようなニュアンスで頭部を傾ける。


 異質な魚モンスターを見ては悲しそうな表情を浮かべて、



『あれは……同胞……』


 と呟いているようにも聞こえた。

 そして、人族とは異なるエルフっぽい片耳に手を当てながら頭部を少しだけ左右に振った。


『水の法異結界の中では、あまり声は聞こえない』


 といった感じかな。

 イルカや鯨のような音波ならいけると思うが、そんな便利な声帯はない。

 思念の会話も無理か? と思ったが――。

 イゾルデは、その俺の考えを察知したような面を作る。


 両腕を拡げながらジェスチャーを繰り返す。


 ジェスチャーの意味は、


『おっぱいが大きいから肩がこるのだ。肩を揉んでくれ』


 ではなく、


『我は龍にならないと思念が使えないのだ』


 だろう。そのイゾルデのジェスチャーの仕方が可愛くて面白い。

 思念は大きな龍状態でないと無理なようだ。


 ヘルメのように俺の目に入ることができれば楽なんだが……。


 イゾルデと一緒にいた小型の龍もイゾルデの動きと連動。

 迅速に上下左右に泳いでいた。

 イゾルデの体の表面を舐めるように動く。


 スタイル抜群のイゾルデの体だけに、エロティシズムが溢れて魅了される。

 

 小型の龍は蛇のように動いてエンビヤの周囲にも向かう。


 が、小型の龍はエンビヤの体には触れず。

 くねくねと身をくねらせてイゾルデのほうに戻った。


『カチューシャ、興奮するな。あれは同胞ではない。同胞の朽ちた魂や体を利用された魔物であろう……』


 と口を動かしていた。

 空気の泡で少し口元が見えにくいが、読唇術で、そんな言葉だろうと理解できた。


 小型の龍はエンビヤの体に触れなかった。

 少し安心している俺がいる。


 小型の龍はイゾルデの肩に頭部を乗せていた。

 竜頭金属甲ハルホンク的な印象を抱かせる。


 笑顔を向けると、その小型の龍はムクッと頭部を起こす。

 俺に向けて頭部をゆっくりと下げてきた。


 挨拶をしてくれる小型の龍は可愛い。

 その小型の龍はイゾルデから離れて、宙を旋回。


 へびうなぎなまずと似ている面もある。


 まさに水を得た魚。

 

 あぁ、うなぎの美味しい料理が食べたくなった!

 

 うなぎまぶしが恋しい……。

 あ、玄智の森の世界には米があるんだった!

 きっとカソビの街にも米料理があるだろう!

 

 もしかして鰻料理がある? もしかするのか? 鰻まぶしが食べられる!?

 そう考えるとカソビの街に行きたくなってきた。

 

 すると、小型の龍は俺の『うなぎ食べたいなぁ』という考えを察知した?

 警戒して視線を鋭くするとイゾルデの背中に隠れるように逃げていた。


 すると、エンビヤが、


『シュウヤ! お師匠様の動きが止まりました。前に行きましょう』

 

 と空気の泡を口元から発しながら片腕をホウシン師匠と玄樹の珠智鐘に向ける。

 イゾルデと一緒に『行こうか』と三人で頷いてから前進。


 ホウシン師匠が待っているところまで泳ぐ。

 ホウシン師匠は俺たちに向けて頷くと、


『あれが、怪しい魚と玄樹の珠智鐘じゃ』


 というように腕を伸ばす。

 玄樹の珠智鐘の前にはホウシン師匠を攻撃してきた魚たちが集結していた。

 皆に


「あの魚は魔界セブドラ側? イゾルデは同胞と告げたが……ここは神域のような場所だろう? あ、元同胞だから活動できるのか?」


 そう言葉を発しつつ親指と人差し指でジェスチャーを繰り返す。

 三人は頷いた。

 ホウシン師匠は『魔界セブドラのモンスターであろう』といった感じのジェスチャーを繰り返す。


 イゾルデは俺と腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチとホウシン師匠が戦った魚のモンスターに向けて指を差しながら、 


『あれは同胞のなれの果て。元々は神界セウロス側だった龍神、竜神、白蛇、龍族、竜族、蛇竜族などだ。鬼魔人の魔咒師に子精霊デボンチッチなどと一緒に利用されたのだろう』


 と、悲しそうな表情を浮かべて喋っていた。

 少し音が届いたから声も聞こえていた。

 続いて、


『玄樹の珠智鐘の下に向かうなら一緒に行け』


 と喋る。ホウシン師匠はそのイゾルデの言葉を聞いて驚きつつも頷いていた。

 

 一方、エンビヤは立ち泳ぎをしながら、


『シュウヤ、お師匠様の蹴りスキルに対抗している魚もいます! 強そうです』


 といったような印象で口を動かした。

 そのエンビヤに頷いた。

 そして、ホウシン師匠に、


「怪しい魚たちはイゾルデの親戚のようです。ですからここに存在できるのでしょう。そして、玄樹の珠智鐘に近付いてみます!」


 実際に喋りながらも、そんな印象のジェスチャーを繰り返した。

 ホウシン師匠はイゾルデを数回見てから納得顔。


 すると、腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが前進。


「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」


 と音波を発した。

 大小様々な怪しい魚たちが一瞬で逃走。


 音波を浴びた大きい鯰たちが爆発。

 鮫も不自然な動きから体がひっくり返ると爆発。


 そんな魚たちを破壊した音波の色合いは神々しい。


 そんな音波を発した腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチは振り返ると――。


 俺に向けて何かのメッセージを伝える。


 不思議と意味は理解できた。

 その注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチに合わせて――。


 ――<水神の呼び声>を発動した。


 刹那、注連縄が強く輝いた子精霊デボンチッチ


 俺と注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチの周囲に水流が発生。

 注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチは液体を吸い込み始めた。


 俺も液体を取り込んだような感覚を覚えると、魔力を得る。

 同時に魔力が増大したであろう注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチは、


「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」


 と神々しい音波を再び発した。

 

 魔力をかなり消費。

 胃や内臓が捻れ切れるような感覚を受けた。


 吐き気を我慢。

 

 あ、まさか――。

 

 音波は魚たちではなく玄樹の珠智鐘と衝突した。


 次の瞬間――。

 

 ドアァァァッ――と不思議な音が響く。

 次元に亀裂が走ったような印象を受けるが――。


 おお!? 

 水神アクレシス様の幻影が出現。


 ――やはり、<水神の呼び声>が発動したのか。


『『『!!!!』』』


 エンビヤ、ホウシン師匠、イゾルデも水神アクレシス様の幻影を見ている。


 驚きのあまり、エンビヤは溺れそうになった。

 そのエンビヤに寄り添った。

 手を握りつつ背中をさすってあげると、『シュウヤ……』と声を発して落ち着きを取り戻す。


『落ち着きました、ありがとう』

「気にするな」


 笑みと言葉を返した。

 すると、強烈な音波が前方から響く。 

 注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチからだ。


 水神アクレシス様の幻影と玄樹の珠智鐘からも、ドドッ、キキキッと甲高い不協和音が連続で響き渡るや、仙槍者の石像たちと周囲の液体の中から子精霊デボンチッチの出現が始まった。


 神秘的な鐘の音が響く。


「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」

「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」


 子精霊デボンチッチの音色と同時に水中の至るところから水神アクレシス神殿で響いていたようなハンドベルの音と似た音も連続で響く。


 フォルトナ街を思い出す。

 ハンドベルの音以外にも、三味線、琴の音も響いてきた。


 これは一種の水神アクレシス様を祝う浄瑠璃的な儀式か?

 

 しかし、琴や三味線の音は金切り音が響いて止まる。

 

 生まれたばかりの子精霊デボンチッチが、鰻のような魚と、元々は龍か、体が半透明な魚に食われてしまったからだ。


 水神アクレシス様の幻影は菩薩のような顔付きだったが――。

 双眸をカッと見開いた。

 その見開いた双眸から子精霊デボンチッチを喰らう大きい魚たちに向けてビームのような魔力の波動を発した。

 ――ビームのような魔力の波動は液体で減衰しない。

 

 ビームのような魔力の波動を浴びた大きい魚たちは一瞬で長細い骨となって沈む。下の仙槍者の石像から迸る魔線と当たった骨は蒸発するように消えていた。


 蒸発の軌跡が綺麗だ。

 チェレンコフ放射的な蒼い光だった。

 にしても、凄まじい威力。

 

 <水神の呼び声>に連動した子精霊デボンチッチは振り返って、

 

『水神アクレシス様を呼んだぜぇ』


 的なドヤ顔を浮かべる。

 赤ちゃんのような小さい手を俺に向けていた。


 『ポパイ』的な力瘤を二の腕にぽっこりと出現させている。

 そして、背筋をクイッと反らし――。


『こっちにこいや、シュウヤ!』

『出てこいや』


 的な仕種を取る。

 思わず吹く、はは――面白い。


 常にリーサルウェポンな『男祭り』を知っているのか?

 年末に行われることが多かった格闘技祭りを思い出す。


 特徴的な音楽が脳内で響く。

 

 ――笑いながら皆とアイコンタクト。

 皆は、


『シュウヤはなんのことで笑っているんだ?』


 と言ったように疑問符が頭部の上に浮いている。

 そんな皆に向けて笑顔のまま、


「気になさらず、前に行きます」


 と実際に口から声を発した。

 口元から泡のような空気が漏れる中、指先で、


『水神アクレシス様の幻影と玄樹の珠智鐘がある部分に向かいます』


 的な意味のあるジャスチャーを繰り返す。

 皆との距離は近いから声は聞こえているはず。


 皆の口元からは無数の空気泡が発生している。

 

 普通に呼吸ができているんだろう。


 仙武人は肺が特別? 仙人の家系だからな。単に仙人用の呼吸法で、酸素や窒素に二酸化炭素があまり要らないとか?

 

 ま、何度も考えているが、この液体世界の水の法異結界が普通ではないんだろう。

 

 ホウシン師匠とエンビヤとイゾルデは、


『『うむ』』

『はい』


 と頷いた。

 腰を捻って前を向いて前進――。


 腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチも俺の動きに合わせて平泳ぎを実行。


 ――水曜日はスイスイスイ。


 的に泳ぐデボンチッチ。

 

 陰嚢の金玉が揺れて悩ましいところがムカつく。


 が、ヘルメと似た泳ぎ方は共通項だ。


 そして、水神アクレシス様の幻影に近付くと、


「『――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ』」


 腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチがまた音色と一緒に魔力の波動を放った。


 その直後腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチは水神アクレシス様の幻影へと直進。背中から天使的な小さい翼を生やす。


 幻影の水神アクレシス様も呼応。

 ゆったりと前に動いた。

 

 その注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチと重なると合体。


 注連縄の形が変化。

 子精霊デボンチッチは少し体が大きくなった。


 水神アクレシス様と融合した子精霊デボンチッチは振り返り、


「『――シュウヤ』」

『――水神アクレシス様!』


 懐かしい思念と声に思わず興奮した。

 水神アクレシス様と融合した子精霊デボンチッチは片足を少し上げる。


 水流が発生。

 斜め下の玄樹の珠智鐘から鐘の音が響き渡った。


 直後、樹が絡む玄樹の珠智鐘が強く輝いて震動を起こすと、玄樹の珠智鐘と繋がる樹が割れた。


 水晶の玄樹の珠智鐘は、その場から離れて旋回を開始すると、水神アクレシス様と融合した子精霊デボンチッチに向かう。


 水神アクレシス様の子精霊デボンチッチは、その玄樹の珠智鐘を優し気に見てから俺を見て、


「『……幾度かソナタを見ているが、こうして話をするのはソナタの眷属を<仙魔術>の白炎系統で救った時以来か』」

『はい!』


 水神アクレシス様が宿る子精霊デボンチッチは頷くが、双眸の形を水神アクレシス様の双眸へと大きく変化させた。


 神眼? 五芒星と六芒星。

 眼球の表面に魔法陣が積層していた。


 魔眼のような力を発動させて、


「『あの時の……水の眷属が感知できぬ。ぬ? ……ソナタは本当にシュウヤなのか?』」


 その迫力と言い方には武威的なモノがあった。

 夢魔世界を通した、いつもの俺と違う俺を察知した? 思わず、息を呑む。


『そうです。俺は俺。我思う、故に我あり』


 俺がそう発言すると、水神アクレシス様の子精霊デボンチッチは水流を発生させた。


「『……たしかに、そのようだ。光と闇を超える水の心は、まさにシュウヤその物。そして……喜ばしいことに、汚らわしい烙印が消えているではないか! ふふふ。あぁ、なるほど。この玄智の森世界に干渉しうる次元を超える夢魔・・のような禁忌の術を使ったようだな。その影響か……』」


 さすがは幻影とはいえ水神アクレシス様だ。

 現状の俺を見抜いたか。


 夢追いタンモールのことを暗に指摘してきた。


『はい、その通り』


 水神アクレシス様と融合中の子精霊デボンチッチはチラッとイゾルデを見る。


「『過ぎたことだが、元は我の<神水千眼>に棲んでいた八百万やおよろずの大眷属の龍神。それがこうも血の匂いを撒き散らす存在になろうとは、気に食わぬ……』」


 頭を垂れていたイゾルデは体を震わせる。

 ホウシン師匠とエンビヤも頭を垂れている。

 三人とも水中だが、不思議と足下に台でもあるように片膝を下げた体勢のままだ。


 その三人を見てから、水神アクレシス様の子精霊デボンチッチに、


『――すみません、水神アクレシス様の大眷属の武王龍神イゾルデを、俺の眷属に……』


 と本心を告げた。


「『否、シュウヤ、ソナタを責めているのではない。寧ろ、我の眷属を良く眷属に迎えいれてくれた。非常に嬉しく思う。気に食わぬ思いは我の沽券、矜持故の気持ちの高ぶりなのだ……』」

『はい』

「『……古き神々、新しき神々も、定命の者たちと変わらぬ面を持つと心得よ』」


 大地の神ガイア様も同じようなことを仰っていた。


「『そして、イゾルデ、良くぞ生きていた』」


 すると、イゾルデが前に出る。


『水神アクレシス様!』

「『助けてやれず、すまなんだ。この玄智の森から、お前の神気が伝わる度、生き続けているとは知っていたが……この玄智の森には……』」

『分かっています。だからこそ……』


 イゾルデは涙ぐむ。


 子精霊デボンチッチから幻影の水神アクレシス様がぬるりと出た。


 美しい女神の上半身。双眸から涙が溢れていた。


「『……泣かせるでない……ソナタの貢献は理解している。素直に玄智聖水を浴び続けておれば良いものを……自らを犠牲に……このバカ者が……』」

『ふふ、良いのです……玄智の森のため。それに同胞はとうに朽ちて利用されていた……ドアラスたちのことを思えば……我は幸せです。こうしてシュウヤ様に救われて、水神アクレシス様にこうして再会できたのですから』

「『……心が奮えるぞ』」

『はい!』

「『良きかな、良きかな、イゾルデ』」


 暫し、沈黙。

 水神アクレシス様の幻影は玄樹の珠智鐘に向けて魔力を送ると、玄樹の珠智鐘は小さくなる。その玄樹の珠智鐘を子精霊デボンチッチは掴む。


 そして、水神アクレシス様の幻影は俺を見て、


『「シュウヤよ、頼みがある」』

『はい』

『「〝鬼魔人傷場〟で、この玄樹の珠智鐘と白炎鏡の欠片、冥々ノ享禄を使用してほしいのだ。そうすれば、魔界セブドラ側の傷場が消える可能性がある。さすれば玄智の森が仙鼬籬せんゆりに戻れる可能性がある。しかし……」』

『しかし?』

『「使用者がどうなるか分からぬ」』

『了解しました』

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