八百六十八話 <水の神使>

 王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードから〝流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ〟の文字だけがヒラヒラと浮いた。


 同時に魔力をかなり消費する。

 胃と胆が神々の手で捻られたような凄まじい激痛が……。


 すると、王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードに残る他の、


『善美なる氷王ヴェリンガー、融通無碍ゆうずうむげの水帝フィルラーム、魂と方樹をたしなむ氷竜レバへイム、白蛇竜小神ゲン、八大龍王トンヘルガババン――――霄壌の水の大眷属たち、知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。水垢離みずごりの清浄と栄光は水の理を知る。が、大眷属の霊位たちは、白砂はくしゃと白銀の極まる幽邃ゆうすいの地に、魔界のガ……封印された。その一端を知ることになれば、火影が震えし水の万丈としての墳墓の一端が現世うつしよに現れようぞ。が、雀躍じゃくやくとなりても、その心は浮雲と常住坐臥じょうじゅうざがだ。魔界セブドラも神界セウロスもある意味で表裏一体と知れ……何事も白刃踏むべし』


 などの文字が閃光を放った。

 ところが、王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードのページに記されていた文字は突然消える。


 白紙に戻った。

 その白紙の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの真上に浮き続けている〝流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ〟の魔法の文字が、蛇のように蠢きつつゆっくりと上昇――。


「魔法の文字が!」

「ふむ。白蛇竜大神イン様のお力も関係しているのだろうか……しかし、シュウヤならば、もしやと考えたが、このような聖なる儀式が始まるとは思わなんだ」


 エンビヤはホウシン師匠の言葉を聞きながらコクコクと頷きつつ魔法の文字の動きを見守った。


 〝流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ〟の魔法の文字は――。

 壁と天井の〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の巨大な白熊と衝突。


 すると、半透明の熊の幻影がにょろりと出現した。


 色がついている〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の造形とは似ていつつも異なるが、熊の幻影に同じ色がつくなら白熊の幻影か。


 氷皇アモダルガは白熊なのか?

 そして、白熊と言えばパウを思い出す。


「え、く、熊が!」

「シュウヤ……その書物は秘奥義書でもあるのか?」


 頷いて、


「と似た魔法書であり神遺物で、秘宝と呼べる代物です。名は王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤード。【塔烈中立都市セナアプア】の【ローグアサシン連盟】に加盟している豪商五指の一人、サキアグル・レタンチネスから購入し、手に入れたアイテムです」


 と浮いている王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの入手経緯を説明。


「……都市の名に商人の名も知らぬが……王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードとは曰くがありそうな名の秘宝じゃな……」


 ホウシン師匠は神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを凝視しては、肩の竜頭金属甲ハルホンクを見てくる。


 そのホウシン師匠が、


「……肩の喋る防具は胸元に小さい袋を出現させた。その小さい袋は神威袋であろう。そして、肩の竜の形をした防具も不思議じゃ!」


 頷いた。

 が、神威袋?


「その神威袋とは物がたくさん入る袋でしょうか」

「そうじゃ。轟雷迷宮で入手可能。自由に品物が出し入れ可能となる。容量はまちまち。中々の貴重品じゃ。武芸を競う大会の景品に多い。容量が大きい神々の名の付く神威袋はかなりの貴重品となる」


 この世界にもアイテムボックスがあるんだな。

 名は神威袋か。


「その神威袋は、俺のいる世界ではアイテムボックスという名です」

「ほう、共通項が多いの」

「はい、シュウヤの夢世界、異世界の話は興味深いです」

「そして、〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟と連動する秘宝と呼べる王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードの書を持つとは……」


 エンビヤも王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを見る。


「名前からして、水の王たちのお墓と関係が?」

「ある」


 エンビヤは頷いて、すぐに真上の白熊の幻影に視線を向けた。


「幻影の熊の大本は立派な白熊ですし、〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の白熊は水神アクレシス様と関係が深い王様なのでしょうか。あ、光が強まってます。冠は氷、水を帯びた白銀の金属に見えます!」

「ふむ。その神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードから魔力と文字が消えたようじゃが、白銀の冠を持つ熊の出現は決定事項か。水神アクレシス様と関係した眷属様の熊が出現するのじゃろうか……」

「きっとそうですよ! ゆっくりとですが、熊は、周囲の魔力を吸い取っているようにも見えます!」

「ふむ。たしかに熊の幻影の回りには風も発生しておる……奇跡的な現象じゃ。そして、これもシュウヤの修業ということか」

「はい、修業なのでしょう。シュウヤは神遺物に魔力を吸われたように見えました」

「あぁ、顔に出ていたか」

「はい、シュウヤは苦しそうでした。魔力を吸われる修業は辛いと分かります。大丈夫なのですか?」

「大丈夫。俺は、精神力と魔力には自信があるんだ。魔力を吸われるのは結構慣れっこだったりする」


 と、美女の手前かっこつけたった。


「本当なのですね?」

「おう」


 笑みが可愛いエンビヤだ。


「分かりました。なにかあったらわたしが内魔力をシュウヤに捧げますから」

「……ふぉふぉ、エンビヤはそこまで」


 内魔力?

 自分の魔力を送ることは結構な気持ちの表し方なのか。


 エンビヤの気持ちはありがたいが……ホウシン師匠とエンビヤは頷き合う。

 そのホウシン師匠は俺に視線を向け直し、竜頭金属甲ハルホンクをジッと見る。


「熊の出現はまだのようじゃから、そのシュウヤの肩防具に棲まう、竜の頭の話が聞きたい」


 頷いて、


「名はハルホンク。エンビヤは見て知っているように、アイテムを食べることができる竜頭金属甲ハルホンク。神界系のアイテムは苦手ですが、大半の物を食べることができます。魔力が多い物が好みです。その食べた物を吸収しては、防具や武器として出すことが可能。また、防護服の素材として流用が可能となります。服の色合いと厚みも自由自在です」


 エンビヤとホウシン師匠は頷いた。


「素晴らしい代物じゃ」

「はい……」


 魔力を集積している白熊をチラッと見上げてから、二人に、


「アイテム鑑定士の鑑定内容では、暴喰いハルホンクの金属皮膚と最初に出ました。魔界では覇王ハルホンクと呼ばれていたこともあるようです。その魔界と関係が深いハルホンクを、俺は食べて融合を果たした。その竜頭金属甲ハルホンクですが、最近まで眠った状態だったんです。しかし、とある戦いで目覚め始めて、つい最近覚醒したばかり。ですから、また眠るかも知れない存在がハルホンクなんです」


 エンビヤとホウシン師匠は暫し沈黙。

 そして、


「魔界セブドラの覇王ハルホンクを食べて融合とは驚きじゃ」

「シュウヤのハルホンクは魔界セブドラの……でも、シュウヤは……」


 エンビヤは怯えてしまう。

 ホウシン師匠も驚いていた。

 が、両者とも侮蔑の感情は顔には出ていない。正直に話をしたが……。


「魔界セブドラと関係がある防具で意識があり、それでいて神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを仕舞うこともできるということは、神界セウロスの品も扱える。それらのことから、シュウヤは光と闇と水の属性を持つのじゃな」

「その通り。俺の種族は光魔ルシヴァル。魔族と人族の血が流れている種族。この世界でもそれは変わらないはず」


 エンビヤは俺をジッと見て、


「……魔界セブドラの勢力は……敵」


 嫌われたかな。

 頷いた。


「……玄智の森の伝承を聞く限り、武王院や玄智の森は、神界セウロス側から派生した世界。神界セウロスと親戚と呼べる異世界がここだろう。だから、魔界セブドラ側の存在を毛嫌いするのは当然……そんな魔界セブドラ側の一面を備えた俺は嫌われても仕方ない」


 嫌うなら嫌うでいい。

 エンビヤは頭部を少し左右に振って、


「……嫌いません! シュウヤはわたしを助けてくれた。一緒に訓練をして、教授してくれた。そして、この武王院に秘蔵されていた秘宝〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟に反応する神界セウロスと通じている神遺物の王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを持ち、その秘宝を使用できる聖なる水神アクレシス様の加護も持つ偉大な槍使いがシュウヤです! ですから、わたしは同じ八部衆としてシュウヤを信じます!」

「……ありがとう」


 嬉しい。

 必死に喋るエンビヤの姿に感動を覚えた。


 が、もし白王院や武仙砦だったら、エンビヤやホウシン師匠とは違う人材ばかりで、ヒャッハーな方々が多いはず。


 ――魔界セブドラの勢力だぁ?

 ――殺せ、倒せ、潰せぇ。


 といった展開になっていた可能性が高い。


 そう考えたら震える思いだ。

 いや、武者震いといえるか?


 この殺伐とした意識が自然と湧いて出てくることが、俺が魔界セブドラ側の心も持つ存在である証拠と言えるだろう。


 ホウシン師匠は、


「基本敵側が魔界セブドラの勢力であることに変わりはないが、鬼魔人の血脈が強くとも正義に生きる存在は、カソビの街や玄智の森の手合いの者にもちらほらといるからの。シュウヤも気にしないでいい」

「はい」

「白王院や他の仙境はわしの考えを認めないが、わしは仙武人にも魔族の血が入っていると考えているのじゃからな」


 ホウシン師匠の考えには共感しまくりだ。だからホウシン師匠の目の前に俺は出現したんだろうか。


 ナミの<夢送り>は凄い。


「……カソビの街の状況はエンビヤから少し聞きました」


 エンビヤは頷いた。


「ふむ。鬼魔人も仙武人も雲となり雨となる。同じ木の切れなのじゃよ。シュウヤが、たとえ魔界セブドラの重要な存在だったとしても、エンビヤを救ったことは事実。そして、パイラを失った時の話を聞きながら共に涙を流してくれた……あの涙は本物じゃ。そして、シュウヤの涙を見て、わしは救われたような気になったのじゃ……」


 エンビヤも頷いた。


「……」

「……善に生きる強き心を持つ真の男の涙で、わしは……」


 ホウシン師匠は涙ぐむ。


「お師匠様……」


 まいったな。


「すまなんだ……」

「いえ、とんでもない。お師匠様の直弟子になれて凄く嬉しい思いです。エンビヤと同じ一門となれたことも嬉しい」

「ふふ」

「ふぉふぉ。それはわしの言葉じゃ」


 まさにラ・ケラーダ。


「恐縮です」


 ホウシン師匠は満足そうに微笑む。

 そして、顎髭を伸ばしつつ、白熊の出現具合をチラッと見てから、


「……わしはシュウヤを水神アクレシス様の化身とおもうておる。水鏡の槍使いとな」


 と発言しつつ片目を瞑る。

 お師匠様のウィンク攻撃は違った意味で迫力があった。


「……水鏡の槍使い……それは俺が出現した時に」


 ニカッと笑うホウシン師匠。

 武人としての雰囲気を醸し出した。


「そうじゃ。そこの白熊の出現が終わったら向かう予定の【仙王の隠韻洞】の碑文には、水神アクレシス様の眷属の中に、水の相即仗者がいると記された碑文があるのじゃよ」


 おぉ、マジか。


「水神アクレシス様の加護は<水の即仗>です……」

「なんと……」

「凄い……シュウヤはお師匠様が言われているように、本当に水神アクレシス様の化身様なの?」

「ちょいまて、エンビヤ。化身は言いすぎだって。お師匠様も言い過ぎです。俺の基本はただの野郎と同じ。そんな存在が神様の化身な訳がない」

「ふぉふぉ……その正直さが、まさに応身・・なのじゃよ。そして、ますます好感を抱くのう、エンビヤ?」

「え、あ、はい!」

「ふぉふぉ」


 エンビヤの反応が面白い。

 エンビヤは照れるように視線を上下左右に動かして、あたふたする。


 可愛い。


 そのエンビヤは白熊の幻影を見上げて、


「あ、水飛沫と氷の粒を発した白熊の白銀の冠と頭部が本物に変化しました! 水と氷といい、不思議です!」

「……ふむ、面白い! 〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟と似た造形だが、水と氷の白熊とは……きっと、水神アクレシス様の大眷属様であろう」

「……水神アクレシス様の大眷属様がお生まれになるのですね……」



 頷いた。

 あの白熊は白銀のような氷の冠といい、氷皇アモダルガ。


 〝流れを汲みて源を知る氷皇アモダルガ〟その物。


 が、まだ出現に時間がかかるのか、召喚が成立していないようだ。

 白い霧が発生して白熊の体が徐々に形成されていった。


「白熊の召喚を待つとして、先ほどシュウヤはスキルを獲得したと言ったが、〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の内容を理解したのじゃな?」

「スキルを獲得したので、理解したと言えるのかも知れません」

「凄い!」

「もう少し詳しく教えてくれるかの?」


 二人に頷いて、


「……玄智山や玄智の森に近い大自然の環境が見えたのです。凄く綺麗でした」

「それは神界セウロスの光景か」

「はい、そうでしょう」

「……」


 俺の言葉を待つエンビヤは瞳を輝かせてくれている。


「神界セウロスの仙鼬籬せんゆりだと思われる美しい場所でした」

「シュウヤ……」

「ふむ……」


 二人は感動しているような表情を浮かべてくれている。


 嬉しくなった。


 その感情を二人に伝えるように、


「……美しさもありましたが、仙人たちが戦う光景になったのです。それは実際の仙人、仙武人の戦いで、凄惨極まる光景でした」

「……」

「シュウヤ……」


 エンビヤの体が震える。

 『大丈夫か?』と視線を向けると、エンビヤは『はい』と言うように微笑んでくれた。


 そんなエンビヤとホウシン師匠に頷いて、


「戦う仙武人、仙人たちの一挙手一投足の質は極めて高かった。そうして、二人が見えていたように魔力を吸収し……<仙羅・幻網>、<仙羅・絲刀>、<羅仙瞑道百妙技の心得>などのスキルを獲得できたのです」

「三つもか、素晴らしい才能だ。シュウヤよ、わしはとても嬉しく、誇りに思う……」


 ホウシン師匠に言われると照れる。

 ホウシン師匠は何回も頷いて、幻影の白熊と俺を交互に見ていた。


 エンビヤは、


「はい。〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟を理解しえる心と精神を持つシュウヤは凄いです、尊敬します……しかし、天賦の才能を持つシュウヤに嫉妬を覚えました……後、お師匠様の勘の鋭さも、さすがです。シュウヤとお師匠様は凄すぎる……わたしは……」

「エンビヤよ、まだ気付いておらんようじゃが、エンビヤもまた成長しておるのじゃぞ。それも、シュウヤと出会ってから急激にな」

「え……」

「シュウヤと組み手を行なったであろう? 肌と肌を触れあったとも言えるか。その互いの訓練と互いに寄せる好意の伝搬が己たちの糧となったのであろう」


 好意の伝搬か。


 とある製薬会社の『臨床試験報告書』に記されていたように……。


 治験のワクチンが健康な者たちに副反応の害を与えて、その周囲にも害を及ぼす……。


 体外に排出されているスパイクタンパクのエクソソームをまき散らすシェディングや、ドローンの蚊にケムトイレルなど、


 かゆい

 うま


 の飼育係の日誌が現実に起きた事象を知るだけになんとも言えないな。


 build back betterの名の下、クライシスシアターを起用した偽旗作戦を行いつつ、惨事便乗型改革のショック・ドクトリンをも実行し、スーパーシティ法案を実行し、監視、一般国民を管理したい支配者層。そんなニュースやfakeニュースを垂れ流し、金をもらって喜んで垂れ流すクソマスコミ。自らの首を絞めていることに気付いているのか不明だが。更に、治験データの改ざんなど、不適切な業務を行うクソな製薬会社や、副作用がある真実をデマだと言い切る金と脅しに屈した一部の医者や利権で動く集団はクズが多かった。


 さて、ニホン、俺の知る地球の事象のことを考えても仕方ない。


 美しいエンビヤを見ながら、


「……エンビヤも成長を、たしかに稽古を行なっている時にエンビヤの動きは良くなっているように見えましたが」

「シュウヤもお師匠様と同じ感想を……わたしはあまり自覚はありませんが……」

「成長とはそういうものじゃ」


 ホウシン師匠の言葉に頷いた。

 そのホウシン師匠は、


「で、シュウヤよ。その肩のハルホンクじゃが、どういう経緯で入手できたのじゃ? まさかその防具と一緒に生まれたわけではあるまい?」

「はい。理解は難しいと思いますが、聞きますか?」

「聞こう」

「……俺がいる世界、いや、邪界ヘルローネで手に入れた秘宝クラスのアイテムがハルホンクなのです」

「……ふむ……」

「邪界ヘルローネ?」


 理解は難しいだろう。

 ま、できることはしようか。


黒き環ザララープと合体しているペルネーテという名の都市にある水晶の塊は、迷宮に転移が可能なんだ。その迷宮が邪界ヘルローネでもう一つの異世界となる。その迷宮で見つけることが可能な宝が記されている魔宝地図というアイテムがあり、その魔宝地図を基に、俺が率いるイノセントアームズという冒険者集団が、邪界ヘルローネの迷宮二十階層に冒険に出た。その冒険で四眼ルリゼゼと出会い友となった。そんな迷宮二十階層の邪界ヘルローネの地に魔宝地図を置くと、白銀の宝箱が出現。その白銀の宝箱に入っていたのが、竜の頭が目立つ肩防具のハルホンク。そのハルホンクは魔界セブドラで活躍していたようです」


黒き環ザララープなどはいまいち分からぬが、ハルホンクはなんとなく分かる」

「少し理解できます。不思議な神遺物はシュウヤのいる異世界で入手。そして、シュウヤのいる異世界から行けるまた違う異世界で入手した防具服がハルホンクなのですね」


 エンビヤの理解力は高い。

 ま、何回も説明してたら理解するか。


「ングゥゥィィ――喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク! アルジニ喰ワレテモ、イキテタ、ハルホンク!」

「ぬお」

「……また喋った!」


 ホウシン師匠とエンビヤは俺の竜頭金属甲ハルホンクを凝視。


 ピカピカと魔竜王の蒼眼が輝く。


「魔界セブドラにいたであろう、このハルホンクの過去はまだよく知りません」


 ホウシン師匠は額の上に???の疑問符が連続で浮かんでいるような表情だ。


「ングゥゥィィ!」


 ハルホンクの鳴き声、声に反応したかは不明だが――。


 〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の巨大な白熊の造形部分が光る。


 そして、幻影だった熊に白っぽい魔力が備わりつつ、〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟の魔力を吸い取った直後――本物の白熊が出現。


 その白熊が落下――。


「ガォォ――」

「エンビヤ――」


 思わずエンビヤの腕を引っ張って守った。


 白熊の声はエコー掛かっていた。


「もう神界セウロスの白熊を召喚か! ここまで速いとは!」

「――あ、ありがとう! 氷と水の魔力を纏う白熊といい、魔力を帯びた氷、白銀の冠も立派です……」


 リアルな冠を被る白熊は俺の前に来る。


「お前は氷皇アモダルガか」

「ガォォォ――」


 口を拡げて牙を見せながら吠えた。

 が、攻撃の意思はないと分かる。


「同意した?」

「〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟と関係している冠を被る白熊が氷皇アモダルガか。お主は氷皇アモダルガなのじゃな?」


 白熊は頷くような仕種を取る。


「ガォォ――」


 と、吠えた白熊こと氷皇アモダルガ。


 水や氷を思わせる不思議な魔力を全身から放出している。


 氷皇アモダルガは掌を俺に見せてきた。


「肉球のような膨らみは可愛い」

「ガォ」

「戦隊の『僕と握手』的なノリか?」

「ガォォォ」


 白熊は怒ったように口を広げる。

 熊の手からは鋭い爪が伸びた。


「俺の手を合わせろ、でいいんだな?」

「ガォォォ」


 腕を上げたまま氷皇アモダルガは吠えた。

 なら、合わせるか。

 その氷皇アモダルガの掌に、俺の掌を合わせてみた。


 その直後――。

 氷皇アモダルガは散る。


 魔力粒子となって俺の体に入り、俺の体の周りに霧のような魔力が漂った。


「おぉ……」

「……白銀の<魔力纏>なのか? <闘気霊装>か……」


 ピコーン※<水の神使>※恒久スキル獲得※

 ピコーン※<王氷墓葎の使い手>※恒久スキル獲得※

 ピコーン※<氷皇アモダルガ使役>※恒久スキル獲得※

 ピコーン※<霊纏・氷皇装>※恒久スキル獲得※


 おぉ、またまた連続的にスキルを!


 更に、壁と天井の〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟と他の修業蝟集道場の建物の内部から、仙剣者や仙槍者の幻影が見え隠れ。


 それらの幽体の仙剣者や仙槍者の幻影は拍手をしてくれていた。


 音が響く。


「な、この拍手……」

「不思議……神々しい。あ、子精霊デボンチッチです! いっぱい」


 周囲に子精霊デボンチッチが無数に出現。


 同時に、その真上に出現中の仙剣者や仙槍者の幻影が頷き合うと消えていった。


「シュウヤにはデボンチッチのほかにも何か見えているのか?」

「はい……もう消えましたが、武王院の衣装を着た仙剣者や仙槍者が見えました……」

「……ここで修業を兼ねた仙武人のご先祖様たちであろう……」

「……デボンチッチと清浄な雰囲気は、非常に懐かしい思いです」

「ふむ……しかし、しもうたわい。ソウカンとモコにも、この神秘の経験を体感させたかった……」


 エンビヤは頷いた。

 興奮気味のホウシン師匠から、


「……偉大な弟子のシュウヤよ。その白銀の霧のような<魔力纏>からして、新しいスキルを獲得したのじゃな?」


 頷いた。


「はい、<水の神使>、<王氷墓葎の使い手>、<氷皇アモダルガ使役>、<霊纏・氷皇装>を獲得しました」

「凄い! 先ほどのスキルといい、なんて事象なの!!」

「……感動じゃ……ここに〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟が存在し続けた理由は、シュウヤが来るのを待っていたということか……」

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