八百六十三話 玄智山の大自然と修業蝟集道場

 

 大きな楼門の先は――水が流れる和風庭園。

 右側には泉と古風な道場がある。

 中央庭園の奥には孟宗竹が疎らに生えた蒼い壁と玄智山の水によって浸食された段丘の岩棚と滝があった。


 その岩棚の滝の水流と孟宗竹を利用した添水そうずと水車が蒼い壁に見事な水の自然美を作りあげている。


 絶景の那智を思わせる滝の奥には洞窟もありそうだ。


 あまりにも美しい大自然の光景に名作の山水画を見ている気分となった。

 あ、水神アクレシス様の幻影が一瞬見えた?


 デボンチッチも飛ぶ。


 それらしい神々しい神気はいたるところに満ちている。

 最初の紫色の濃霧とは真逆だ。


 すると、水車に大小様々な添水が、


 コンッ――。

 コンッ――。

 ココッコン――。

 ココンッ――。


 水音と小気味いい鹿威ししおどしが連続で音を立てた。

 リズム感覚は和の日本の神楽。


 キサラや羅がいたら……。

 それぞれの楽器で即興演奏を奏でてくれただろうな。


「マヤ、修業蝟集道場に入りますので、封を頼みます」

「分かりました!」

「あ、封は一人で大丈夫ですか?」

「はい!」


 師匠と弟子の掟を感じさせる二人の会話だ。


 マヤって子は小柄の院生。

 中高生ってイメージだが……結構強いかも知れない。

 身なりは射手用の軽装で、武王院の制服にも多少の変化バージョンがあるということか。


 弓と弦に矢も特別。

 すべての武器防具から俺たちが通ってきた石幢の魔力と似た波動のような魔力を発していた。


 そのマヤは八部衆の一人ではないようだ。

 マヤは弦を指で弾いて魔力を放つ。

 隣にいるエンビヤが、


「シュウヤ、行きましょう」

「おう」


 一緒に大きな楼門を潜る。

 大きな楼門の左右には柱に巻き付いた螺旋階段がある。


 右側は花々の冠を被る女神像と植物の女神サデュラ様と似た女神像が並ぶ。

 左側は白蛇の群れを従えている大きな白蛇像か。


 白蛇竜大神イン様をモデルにしているのかな。


「左側の木像は白蛇竜大神イン様?」

「そうです」

「右側は植物の女神サデュラ様?」

「はい。シュウヤは女神サデュラ様も知っていた?」

「あぁ、知っていた」


 会話したことあるって言ったら……。

 笑顔のエンビヤ。


「やはり不思議な縁です。そして、右側の像は花大精霊コトハル。両方とも隠神槍・コヨラリの作品。<仙王術>が得意なコヨラリは器用でした」

「へぇ」


 大きな楼門を通り抜けた。


 滝壺から庭園を巡る清水は綺麗だ。

 魔力を含んでいるから聖水にも見える。


 歩きながら、


「あの滝を擁した段丘の岩棚も玄智山なんだな?」

「はい」

「滝の水は水神アクレシス様の清水とか?」

「その通り! 白蛇竜大神イン様の白蛇聖水インパワルと水神アクレシス様と【仙王ノ神滝】が関係深い玄智聖水とされています。魔力も濃厚で綺麗な水なんです」


 頷きつつ、


「右の古い道場は雰囲気がある」

「玄智系の組み手の特訓ができます」

「『玄智・明鬯組手』などか」

「え!? あ、お師匠様から手ほどきを?」

「いや、まだだ。『玄智・明鬯組手』の秘奥譜の名は聞いてる」

「そうでしたか」

「滝壺と滝の裏にある洞窟も修業場所?」

「あ、はい」


 その清水が庭園の右側で泉を形成。

 滝と泉と古い道場の真上には子精霊デボンチッチたちが宙を行き交っている。


 澄んだ小川といい素晴らしい景観だ。

 舟下りを行える幅がある。


 その大自然の滝に向かう前の庭園には黒曜石のような巨大な丸い岩が数個均等に並んでいた。


「この岩は……」


 黒曜石のような巨大な丸い岩の幾つかは削られた跡がある。


「はい、武仙のカンバ、宵隠鳴剣のアズサ、氷仙棒のモーガンなど、無数の仙剣者や仙槍者も、この黒仙鋼岩砕きの訓練場所で訓練を行ったと聞きました」

「へぇ……」


 凄まじい量の魔力を内包しているし、黒曜石のような巨大な丸い岩はインパクトが大きい。


「ホウシンさんもここに来ることが?」

「はい、その通り。お師匠様のことをよく分かりますね」


 笑顔を見せながら、


「ここには歴史を感じたからな。歩くだけで身が引き締まる思いを得た」

「ふふ。武人としての空気感ですね」


 頷いた。


 巨大な丸い岩の手前には……。

 コンクリートのような石畳の上に仙剣者や仙槍者たちが行った長年の訓練の跡と思われる足跡の窪みが存在した。


 そこに向けて歩きつつエンビヤを見る。


「ここで英雄たちが、か……」

「はい」

「黒曜石のような巨大な丸い岩を削る訓練なのか?」

「削る……合ってはいますが、仙鏡花岩は、ただ硬いだけではないのです」

「へぇ……」


 色々とありそうだ。

 良い修業場所と分かる。


 幾つか竹筒も巨大な丸い岩の近くに浮いていた。


 それらの竹筒の上下には……。

 魔力が濃厚な水球がぷかぷかと漂っていた。


 水球からは強い魔力が上下左右に迸っている。


「竹筒の水球は水属性系の魔法? <仙魔術>に関わる訓練が行える?」

「はい。<仙魔・強水練>、<仙魔・水鏡>など、色々と学べるはず」

「おお~、それは期待」


 少し前を歩く。

 地面は砂利と苔に岩畳。


 大きな水車と巨大な添水に砂利と苔に石の道がいい感じだ。


 また添水から小気味いい音が連続的に響く。

 右側の古風な道場から鈴の音も響いてきた。


 奥の巨大な添水は水浴び場でもあるようだ。 

 人が立つところがあり、魔力のカーテンの敷居があった。


「古風な道場が……」

「はい、修業蝟集部屋で道場です。入りましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る