八百五十話 【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】が合流
中層のバルコニーでリツとナミを待つこと数分。
「ピュゥゥゥ」
荒鷹ヒューイの鳴き声だ。その荒鷹ヒューイが降りてきた。
ヴィーネの翼と化していたヒューイはセナアプアの空を満喫していたようだ。しかし、空は空で何が起きるか分からないから、俺たちから離れてほしくなかったりする。
が、束縛はしない、空を楽しんでくれたら嬉しい。
そして、荒鷹ヒューイの素の性格は大空を舞う鷹だと思うからな。
その荒鷹ヒューイの降りてくるタイミングに合わせて右肩の
――両足から出た爪が怖い。
荒鷹ヒューイは、見事
肩に衝撃がきたが構わない。
そのヒューイが、
「――キュ」
「よう、最近はヴィーネと仲が良かったようだな?」
「キュゥ~♪」
ヒューイは目を瞑りつつ俺の頬に頭部を寄せてくれた。
三つの点の眉毛も可愛いが、小さい目を瞑る仕種のほうが好みだ。
『主、ヒューイ好き』
と、左手の<シュレゴス・ロードの魔印>に棲むシュレゴス・ロードが反応。
普段は厳つい雰囲気だが、ヒューイの場合はデレるシュレゴス・ロード。
ヒューイは皆の翼になることが多いから、シュレは少し寂しかったのかな。
すると、キスマリが、
「シュウヤは大きな魔鳥も飼うのか」
「キュゥ?」
ヒューイは疑問風に鳴く。
小さい頭部をキスマリに向けていた。
「名は荒鷹ヒューイ」
ペレランドラは特に指摘はしてこない。
「ヒューイか。我はキスマリ。六眼キスマリと呼ばれていたこともある」
「キュゥ」
ヒューイが嘴を拡げて応えていた。
餌でもくれると判断したのかな。
キスマリの六眼の内の四眼の瞳が散大。
キスマリはヒューイの反応に驚いたようだ。
キスマリはヒューイを凝視した。
あのキスマリの二つの目の治療はマコトでも可能だろうか。
血骨仙女の片眼球などもあるし、マルアの隻眼も併せて、アラウルの錬金術店にお邪魔するかな。
マコトも忙しいだろうし留守の可能性もあるか。光魔ルシヴァルの眷属となれば、傷が癒える可能性は高い。が、まだこれからだな。
キスマリは種族に誇りを持つかも知れない。
そのキスマリに、
「普段は鷹系の鳥だが、<荒鷹ノ空具>として皆の背中に付く翼に変身が可能。だから、<荒鷹ノ空具>の翼を得たら、飛翔能力を得られる」
「おぉ、我でも飛べるように?」
「なると思うが、ヒューイにも好みがあるからな」
「キュゥ~」
すると、
『ご主人様、わたしたちも下に向かいます』
『了解』
ヴィーネの血文字が消えた直後――。
リツたちを乗せた浮遊岩が到着した。
浮遊岩の前にある扉が開く。
浮遊岩から現れたのはユイとリツと【髪結い床・幽銀門】の面々だ。
「あの面子がシュウヤの新しいメンバーか。衣装が揃いとは、軍隊の武将、魔界騎士のような存在か?」
「【髪結い床・幽銀門】で軍隊ではない。そして、あくまでも【天凛の月】の枠の範疇」
「【天凛の月】の盗賊ギルド部門の【髪結い床・幽銀門】と精神防御部門の【夢取りタンモール】ということでしょうか」
<従者長>ペレランドラがそう発言。
「そうなる」
浮遊岩の前の扉が再び閉まる。
と、浮遊岩はエレベーターのように降る。
中層の踊り場に足を踏み入れた【髪結い床・幽銀門】の面々はリツを含めて六人。先頭のリツは両手を拡げて仲間たちに指示を出していた。
そのリツは振り返ると、敬礼するように俺たちに向けて会釈。
リツの紅色の髪が靡く姿は美しい。
通称、紅の暗殺髪師だったか。
「来ましたね」
「あぁ」
「ふふ、嬉しい、こんな日が来るなんて」
ペレランドラにとっては、リツとナミは友だからな。
同じ組織の一員になるとは思っていなかっただろうし、感慨深いんだろう。
【髪結い床・幽銀門】の方々は、皆、凜としている。
美容師だから当然か。
衣服は黒系統でシックに統一されていた。
銀色のベルトと装備品の色合いが渋くてカッコいい。
その方々は中層の踊り場の大広間で待機。
続いて、下から浮遊岩が上がってきた。
踊り場の前にある扉が開く。
エレベーターの扉が開くように浮遊岩から現れたのはナミと【夢取りタンモール】の面々で、皆、ナミと同じローブ姿で、杖を持つ。
腕輪もあるし、ベルトには魔道具をぶらさげていた。
ナミとリツとユイと【髪結い床・幽銀門】の面々は踊り場で合流。
ナミの背後にいる方が夢取師ギンガサさんかな。
浮遊岩の前の扉が閉じた。
浮遊岩は上のペントハウスに向かう。
ヴィーネたちが浮遊岩に乗って降りてくるだろう。
リツたちとナミたちは拱門を潜ってバルコニーに入ってきた。
拱門の真上の壁には、ハルピュイアとドラゴンの像が飾られてある。
最上階を支える魔塔ゲルハットの外壁はマンジャの塔と似た部分もあった。
メディチ家と似た紋章もあるからイタリアっぽい。
その拱門を潜る多士済々のメンバーたちが、俺たちに近付いてきた。
知らない方々だ。
少しドキドキする。
直後、浮遊岩が中層の踊り場に降下してきた。扉が開く。浮遊岩から現れたのは
ヴィーネ、エヴァ、キサラ、クレイン、ビーサ、レベッカ、ドロシーだ。
「ご主人様――」
「シュウヤ様」
ヴィーネとキサラがエヴァを抜かす。
レベッカがエヴァの魔導車椅子を押して仲良く踊り場を進む。
硝子の下に流れる水が綺麗。
猫草のような観葉植物もあるが、相棒と
「――【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の方々ね」
「ンン――」
「ン――」
踊り場から拱門を抜けた皆。
相棒と
<
相棒はヒューイがいるから肩に乗らずに、俺の足下を襲う。
二匹は、足の匂いを嗅ぐ競争でもしているのか、互いに小鼻をふがふがさせて頬と頭部をアーゼンのブーツに擦りつけていた。
グルーミングを見ると、ほっこりする。
【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の面々は俺に向けて会釈。
俺も会釈した。
前にいるリツとナミが、俺の前に来て、
「盟主! 【髪結い床・幽銀門】の総長パムカレと髪結い師たちを連れてきました」
「盟主、【夢取りタンモール】の長の夢取師ギンガサと仲間たちを連れてきました」
「おう、分かった」
すると、リツとナミは胸元を叩く。
同時に、【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の皆がポーズ。
「「【天凛の月】の盟主!!」」
「「【天凛の月】の盟主!」」
リツとナミは<
中央に残った【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】から二人が前に出た。
「盟主、ご挨拶致します。わたしは【髪結い床・幽銀門】の総長パムカレ」
「盟主、ご挨拶致します。わたしは【夢取りタンモール】の長の夢取師ギンガサ」
俺は頷いて、
「俺が【天凛の月】の盟主、総長のシュウヤ・カガリ。よろしく頼む」
「「はい!」」
両者は素早く胸元を叩いた。
クナが執った心臓を捧げるようなポーズと似ていて渋い。
「パムカレさんとギンガサさん。両組織とも【天凛の月】に入るということでよろしいですか?」
「そうです。リツから話を聞いて、皆で相談した結果です」
「はい。わたしたちもナミに話を聞き、相談しました。そして、【天凛の月】に入ると決めました」
「分かった、喜んで迎えいれよう。横に並ぶのは俺の<
「はい! 皆様方、今後ともよろしくお願い致します」
「皆様方、よろしくお願いします」
皆、顔を見合わせてから、
「「よろしくお願いします!」」
皆の声を聞いた相棒はムクッと上半身を起き上がらせる。
そのまま黒虎ロロディーヌに変化して、
「にゃごおおおぉぉぉ」
気合いの咆哮。
近くにいた
「「おぉぉ――」」
皆、驚きの声を発して、片膝を床に突けていた。
黒虎ロロディーヌは大きいし、神獣的だからな。
その
俺の足下に移動してきた。
「素敵な神獣様……」
「「あぁ」」
「見事な黒毛だ……モフモフが凄い」
「あの爪は強烈そうだな……」
皆が相棒を見てそう呟く。
その黒虎ロロディーヌの胴体を片手で撫でてから、
「この相棒が、ロロディーヌ。黒猫から黒虎に変身したように姿は自由自在。愛称はロロだ」
「「はい!」」
俺は魔槍杖バルドークを出してから、
「で、俺は武闘派。危ない戦いは俺が担当だ。それでいて冒険者でもある。セナアプアにいない場合もある」
「「はい」」
「「分かりました」」
【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の面々が元気よく返事を寄越す。
すると、黒虎ロロディーヌが、
「ンン、にゃおぉ」
猫の鳴き声で皆に何かを喋る。
鳴き声は可愛いが、姿は黒虎だから皆は怯えたような面となりつつ、
「……【天凛の月】の盟主、槍使いと、黒猫……」
「おう。噂通りだろう? 本当に槍使いだ」
皆、俺の言葉を聞いて、静まった。
構わず、
「魔塔ゲルハットを手に入れて【天凛の月】の重要な拠点となったが、このセナアプアにいないことも多い。その点を考慮してくれると助かる。そして、【天凛の月】の内務は副長のメルが担当だ。現在その副長メルはペルネーテ。だから、セナアプアの内務はこの場にいる皆にフォローしてもらっている。最近は最高幹部のユイがセナアプアでがんばってくれていた。キサラ、エヴァ、レベッカ、ヴィーネもいるが、今後はペレランドラが、その担当になると思う」
ユイがウィンク。キサラとヴィーネは頷き合う。
エヴァは魔導車椅子に座ったまま頭を下げていた。
お淑やかだ。レベッカは威風堂々、という印象を醸し出そうと両手を腰に当てて胸を張る。
「はい! 補佐はお任せください」
そう言葉を発したペレランドラは皆に向けて挨拶。
拱手していた。
皆もペレランドラに挨拶。
【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の方々も挨拶。
その方々が、
「最高幹部の〝蒼炎使い〟、〝紫の魔導使い〟、〝死の女神〟、〝四天魔女〟の噂は聞いています」
「盟主、合流に当たって、質問があります。よろしいでしょうか」
そう聞いてきたのは、【髪結い床・幽銀門】の総長パムカレさんだ。
「どうぞ」
「はい。【髪結い床・幽銀門】の名を【天凜の髪結い床】に変更しますか?」
「強制はしない。引き継ぎもあるだろうし、当面は【髪結い床・幽銀門】で通してもらって構わない」
「分かりました……しかし、よろしいのでしょうか」
「おう。この魔塔ゲルハットを利用している以上は、自然と【髪結い床・幽銀門】が【天凛の月】の傘下となったという情報は伝わるだろう。だが、【髪結い床・幽銀門】は、上界の繁華街エセル、七草ハピオン通り、天狼一刀塔、帰命頂礼通り、荒神アズラ通りなどを主力とする地域密着型と聞いている。だから、いきなりの変更だと軋轢が生まれるのではないかと考えた」
少しざわざわ。
感心するような声が【夢取りタンモール】のメンバーから聞こえた。
そんな感心するほどのことでもない。
リツとの会話で、
『はい。基本、髪結い床で美容師の集団としての【髪結い床・幽銀門】です。そして、髪結い床は一種のサロン。そのサロンには色々な方々が集まります。情報も凄まじく行き交う』
と、報告は受けているからな。
その地域密着型のサロンこそが結構大事だ。
一見、変哲も無い床屋さん、カミソリを持った叔父さんが一流の暗殺者だったりするんだろう。
この総長パムカレさんのように……。
リツは<天魔闘法>を獲得している強者。
この総長パムカレさんも相当な強者だ。
獲物は腰の小さい前掛けに様々な鋏が納まる。
横には、キャスターが付いたメイクキャリーケースのような箱もあった。
リツの和風な鬢盥とは違う。
リツは髷棒に仕込んだドスを扱う。
パムカレさんも仕込み武器なんだろうか。
そのダンディな【髪結い床・幽銀門】の総長パムカレさんは御辞儀をしてから、
「……そこまでわたしたちのことを考えて頂けるとは恐悦至極。では【髪結い床・幽銀門】の名は暫く残しつつ、魔塔ゲルハットに髪結い床を開きたいと思います」
「おう。そんな萎縮せず、一階、二階、空いている場所に支店を開いていい」
「素晴らしい考えかと、一定の情報網がここに集約できる」
ペレランドラがそう指摘。
「「おぉ」」
【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の方々が声をハモらせた。
パムカレさんは、
「ありがとうございます。では、今までの店を支店として、【髪結い床・幽銀門】の本店をここに準備致します。そして、本店と支店で働く戦髪結い師たちを紹介いたします」
そう発言すると、パムカレさんは左に退く。
同時に【髪結い床・幽銀門】の方々が前に出た。
「盟主がご存じの、戦髪結い師リツ」
リツはお辞儀。
「左の黄金色の長髪の女性が戦髪結い師ヒムタア」
そのヒムタアさんが、
「ヒムタアです。盟主、リツがお気に入りと聞いていますが、是非、わたしに散髪を命じてくださいまし。手揉み付きのサービスとフェーシャル=マッサージもありますの。盟主にはキンジツの髪薬を用意して戦闘力が上がる髪形に仕上げてみせますわ」
そう発言したヒムタアさん。
挟みと包丁がセットになった武器を構えて会釈してくれた。
腰ベルトには髪薬入りの瓶が差してある。
人族で、北欧系のScandinaviaの女性っぽい。内実は、幽鬼系の血が入った種族かな。足が長い。
続いて、
「その背後の黒と緑の髪質の女性が戦髪結い師アジン」
アジンさんはエルフの方か。
頬の氏族を表すマークは蜻蛉のような形。
幽鬼系だと思うが、そのアジンさんが、
「盟主と最高幹部の方々。護衛と散髪の指名をお待ちしています」
と挨拶。
アジンさんは、リツと似た和風な鬢盥を二つ持つ。
続いて、パムカレさんは、
「右の額に傷がある男性が戦髪結い師ジョー」
紹介してくれた。戦髪結い師ジョーさんか。
人族だと思うが、魔人かも知れない。
左目に魔眼と分かる魔法陣が浮かぶ。
右手の掌と甲に長細い挟みがセットになった特殊な挟みを持つ。
そのジョーさんが、
「盟主、カット=アンド=ブロー=ドライの腕には自信がある。是非、盟主の髪を担当させてくれ。槍技に活かせる<髪式・槍猛虎>もある」
「お、それは興味がある」
ジョーさんの散髪を受けてみたくなった。
続いて、
「髪より筋肉好きと噂の戦髪結い師ウビナンです。皆、腕は確実です」
タンクトップをキメている。
筋骨隆々。ダブルラリアットでマスク狩りを行いそう。
カウボーイハットを被って腕を上げて『ウィィ!』とか叫びそうだ。
目が合うと両手を上げて体でY文字を作る。そして、勢いよく両手を腹に下げるや、その拳と拳を衝突させて、「グォォォ」と気合いの声を上げていた。金色のモヒカンよりも短い髪が逆立つ。
筋肉がひくひくひきつる? もりもり具合がヤヴァい。
黒いタンクトップが破れていた。
『大胸筋マッスル』といった声が聞こえたような……。
戦髪結い師ウビナンさんを見た戦髪結い師たちは、「またか」、「やってしまった」、「あぁ、<髪式・筋肉百倍>だろう」と、少し呆れている。
ウビナンさんには悪いが、髪の毛を預けるなら女性がいい。
無難にリツとヴィーネとエヴァを見て、癒やされた。
ふぅ。
「「よろしくお願いします」」
「こちらこそよろしく。商店街にあるだろう支店のほうは大丈夫なのか?」
「はい、徐々に仕事を本店に回す形にしようかと」
パムカレさんがそう応える。
総長が言うんだ、信用しよう。
頷いた。
「分かった。その辺りは任せよう」
「はい!」
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