八百四十七話 ペントハウスでクレインの処女刃
ロンバージュ魔酒瓶。
高級シャンパン?
俺の知る地球では、盲目だった修道士『ドン・ピエール・ペリニヨン』が造ったとされる高いお酒は有名だった。
少し味わってみたいと思ったが――。
アイテムボックスから処女刃を出して、
「クレイン、処女刃を渡しとく――」
と渡した。
「承知、って、さすがにここでは、裸になったわたしだけども……」
「今更恥ずかしがってもな」
「う、そりゃ勢いって奴さ……」
赤い頬が更に赤くなったクレイン。
空になったロンバージュ魔酒瓶を覗いている。
「はは、では、酔っ払い<
「宗主、その通りだが、普通に喋ってくれるとありがたい」
「あはは、了解。戻ろうか」
「了解さ! 先に行くよ――」
クレインは走る。
快活姐さんという渾名を思い浮かべたが、魅惑的なお尻さんが、そんな渾名を吹き飛ばした。
そのお尻さんの映像を海馬にそっと貯蔵(しまう)。
そして、
「皆、自由に過ごしてくれ。アクセルマギナと<神剣・三叉法具サラテン>は戻ってこい――」
「はい――」
「えぇ~」
「沙、戻りますよ」
「はい――」
シルバーフィタンアスと遊んでいた沙は不満そうだったが、羅と貂に腕を引っ張られて、共に走る――。
アクセルマギナは一瞬で体とマスドレッドコアが分解――。
魔力粒子となって戦闘型デバイスに戻る。
人工知能システムのアクセルマギナの体が一瞬で灰銀色を帯びた魔力粒子となって、俺の右腕の戦闘型デバイスに戻る光景か。
量子的な分解やらと思うが、クラークの三法則を思い出す。
ファンタジー溢れる光景だった。
同時に左手に<神剣・三叉法具サラテン>を素早く納めた。
そして<魔闘術>を全開――。
「「はい」」
「ん」
「にゃお~」
「にゃァ」
「ワンッ」
クレインの背中を見ながらペントハウスに突入。
壇を蹴って跳躍――。
飛び上がった俺は瞬時にクレインを抜かして、皆が寛いでいた段差が高いリビングを越えた。
――棒高跳び競技なら金メダル確定か。
階段の中段に着地して、一気に二段三段と階段を上がりきった。
ペントハウスの二階に到着。
<生活魔法>を地味に足下に展開しつつ、足を滑らせながら廊下を少し進む――。
硝子の天井と一体化した三階もあるようだ。
が、まずは、このまま――二階の踊り場をチェック。
俺が上がってきた階段から地続きの手摺に触れながら、バルコニーと廊下が一緒になった二階の空間を見渡す――かなり広い。手摺に体重を掛けつつ右側の一階の景色を堪能――。
いいねぇ。
ペントハウスは硝子張りが多いから、この二階からでも庭園とセナアプアの絶景は見渡せる。
その屋上の庭園の左側は植物園。
ペントハウスと植物園の間には換気を促すドライエリアと似た階段と渡り廊下があり、ペントハウスの二階と繋がっている。
洗練された作りだ。
ここらへんは現代にも通じる建築センス。
俺が上がってきた階段近くの踊り場には机と椅子が置かれてある。
植物が育つプランターが右側の手摺際にずらっと並ぶ。
左の部屋と部屋の間に水晶の香具と一緒に並ぶプランナーには風情があった。
この踊り場を兼ねた二階の廊下の真下は浮遊岩が並ぶところかな。
背後にクレインの魔素を感じた。
そのクレインが、
「――宗主、<
と発言しつつ、俺の傍を通って二階の廊下を少し歩く。
「<魔闘術>を全開で使ったからな」
「そうかい。<魔闘術の心得>もある宗主だ。魔技系統の成長も顕著なようだねぇ」
「おうよ、処女刃の血の儀式は、そこの部屋でやろう」
ペントハウスの二階の廊下は進まず――左の扉をサッと開けた。
部屋の奥には大きな机と窓硝子と一体化したスペシャルな望遠鏡がある。
プラネタリウムって印象。
机と天井には星々と神々の名が記されたグラフィックアートが飾られてある。
タペストリーとは異なるが、不思議な魔法の布とキャンパスか。
棚と机には魔法関連の本がどっさりと積まれてある。
「了解、魔術部屋って印象だねぇ」
ここはクナが要チェックするところっぽい。
星々に詳しい大魔術師の部屋の一つだったようだな。
「あぁ、今、盥を造る――」
寝台はない。
床の荷物に気を付けつつ――。
<邪王の樹>で大きな盥を造った。
「その中でやるんだね」
「そうだ。見守っているから。痛いと思うが……」
「ふ――」
と、裸に近い状態になったクレイン。
素早く処女刃を二の腕に嵌めていた。
そして、処女刃のスイッチを入れたクレイン。
「――くっ、痛ッ」
「……がんばれ」
俺が少し寄ろうとしたが、『来るな』と左手を出して、顎先をクイッと動かす。
「……宗主、黙って、そこで座って見ておきな。痛みは慣れっこさ――」
頷いた。見守るか。
痛いと思うが、ある程度、痛みは克服しているような印象だ。
倒れることもなく、垂れた血が素早く二の腕、腕の中に吸収されていた。
やはり、ペレランドラとは違う。
強者のクレインだ。
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