八百三十九話 小型飛空戦船ラングバドルと<蓬茨・水月夜烏剣>


 漆黒の船体を見ながら段差の低い階段を上がった。

 ――あれが漆黒の悪魔、小型飛空戦船ラングバドル。

 バウスプリットの先端が細い、ハルバード的か。

 フォアステイはない。船首像もないが、ゴツい鋼の防御層の装飾に彫像のような印象を抱く。かなりカッコいい。

 しかし、屋上の滑走路がこうも変わるとはな。

 滑走路やヘリポートのような場が増えていた。


 前を歩くオプティマスさんは右の方に腕を出して、


「もうじき格納庫リフトシステムのラックに積まれた小型飛空艇ゼルヴァ十機とコンテナが見えるかと」


 そう発言した瞬間――。

 右側の床が四角形を作るように窪んで消えたと思ったら、その場所に、下の格納庫から垂直機動で上がってきた小型飛空艇ゼルヴァ十機とコンテナが見えた。


 コンテナを運ぶ機動がベルトコンベア的に横移動へと変化した。

 格納庫リフトシステムとはラックと歯止めを擁した航空機エレベーターでもあると。


 格納庫リフトシステムに載った荷物は、貨物列車が走るように滑走路に備わるドックの中に浮かぶ小型飛空戦船ラングバドルの前に移動。


 蒸気的な魔力を駆動部から発して止まった。


 小型飛空戦船ラングバドルの船体の横と後部には搬入口がある。


「商業魔塔ゲセラセラスの屋上と上層部だけなのも納得です」

「はい。飛空艇を主力にした聖櫃アークを扱う以上、格納庫は必須ですから。そして、下の階層の様々な商店がわたしどもの良いカモフラージュとなります」

「商業魔塔ゲセラセラスは、十人寄れば十国の者ですね」


 俺の言葉を聞いたオプティマスさんは笑顔を見せて、


「はは、たしかにその通り」


 そう語ると岩魔導傭兵と魔機械工と傭兵たちが集まってきた。


「かれらは?」

「小型飛空戦船ラングバドルに小型飛空挺ゼルヴァを乗せる人員です。整備士たちもそうです」


 岩魔導傭兵たちがラックに納まるために小型飛空艇ゼルヴァを縛っていたロープを解き、金具を外し、囲いのシートも取り外した。

 

 岩魔導傭兵は小型飛空挺ゼルヴァを軽々と持ち上げて胸元に抱え持つと、エヴァのような機動で滑走路の縁際に速やかに移動。


 小型飛空戦船ラングバドルの搬入口の下から出ていた鋼のタラップに足を踏み入れてノシノシと歩いた。


 ゴツい岩魔導傭兵は小型飛空挺ゼルヴァを抱えた状態で小型飛空戦船ラングバドルの搬入口に侵入。

 

 何かのアラート的な音が小型飛空戦船ラングバドルから響いたが、大丈夫か?


「音は大丈夫でしょう。クルーも未知の部分が多いとは思いますが、経験は豊富。小型飛空艇ゼルヴァの格納とジュラウスシステムとパワーセルの設置の作業が終わり次第、わたしたちも小型飛空戦船ラングバドルの中に入りましょう」

「はい」


 小型飛空挺ゼルヴァは小型飛空挺デラッカーと似たバイク型だ。

 それが十機も余裕で入る小型飛空戦船ラングバドルは、一種のミニ航空母艦の役割も可能ってことか。


 そして、冗談風に、


「乗ったまま帰れますか?」

「当然です」


 オプティマスさんは笑顔で語る。

 そのオプティマスさんは、


「――小型飛空戦船ラングバドルのエネルギー源は十分ありますから、すぐに岩巨人マウントジャイアント秘宝アーティファクトを探しに遠い北方への出発も可能です」

「すぐには向かいませんが、燃料はどういった仕組みなのでしょう」


 オプティマスさんは頷いた。漆黒の悪魔の船体を凝視。

 おもむろに長細い腕を伸ばす。


 種族ソサリーか……マリン・ペラダス司祭は元気かな。

 あの時は色々と映画を思い出したが、本当に宇宙の知的生命体が祖先だったとは。


「ラングバドル級は大概同じだと思いますが、漆黒の悪魔、この小型飛空戦船ラングバドルの魔力機関は不明です。補助をする魔力パワーセルには自信があります」

「補助をする魔力パワーセルとは、サービスで付けてくれた百万パワーセルのことでしょうか」


 オプティマスさんは頷いた。


「はい。正式名称は魔力パワーセル。その大本は極大魔石と魔宝石と聖櫃アーク。更に魔力パワーセルは魔力を扱う者から充魔と蓄魔が可能、周囲からの吸魔も可能な最新タイプ」

「へぇ、吸魔とは魔力を吸って魔力パワーセルに蓄積が可能な機能?」


 そう聞くと、オプティマスさんは頷いた。


「はい。この吸魔システムはジュウラスシステムと同じく船体の魔力機関にも備わっている可能性があります。漆黒の悪魔の内部機関の委細の報告が上がってこないので、おそらくですが、あるのでしょう。そして、今運んでいる魔力パワーセルは百万の魔力エネルギーがまっている状態。ですので、漆黒の悪魔の補給は当分要らないかと予想します」

「それは便利だ。パワーセルをありがとう」

 

 心のまま礼を言うと、オプティマスさんは微笑む。


「はは、実にいい顔です。白銀のカードの対価と友好の印。【天凛の月】との付き合いも重要。しかし、正直都市の組織はどうでもいい。バベル卍聖櫃アークが呼応し、漆黒の悪魔が起動した。まさに生きる伝説。更に、そのようなシュウヤさんが、わたしと交渉しようと番頭カボルを生きて返してくれた。その気概に惚れました。ですから気兼ねなく」


 最初は冷たそうに思えたが、心にマグマを持つ方だったか。

 そして、オプティマスさんは高揚したような表情だ。


 さきほどのレザアルさんの不気味な笑みと通じている雰囲気でもあるが……。


 皆、その不思議な魔力豪商オプティマスさんを凝視していた。

 種族がソサリーで珍しいってだけではないだろうな。


「はい、俺もです。魔力豪商オプティマスさんと知り合えて光栄の至り」


 オプティマスさんは瞳を揺らす。

 

「……はは、まいったまいった。あ、漆黒の悪魔こと小型飛空戦船ラングバドルの魔力機関が優秀だった場合、魔力パワーセルも要らない可能性があります。その際はバラすなり自由に売ってもらうなりしていただいて構わないです。エレニウムエネルギーとして再活用も可能でしょう」

「あ、エレニウムエネルギーは助かります。パワーセルといい、本当にありがたい」

「素晴らしいエネルギー源!」


 アクセルマギナが珍しい音声で大反応。

 とは言え機械音声に慣れていないオプティマスさん。


 ジロッと眼光を鋭くする。

 

 再び、俺の右腕を凝視。


 アクセルマギナは敬礼。

 オプティマスは片目で瞬き。


「……やはり優秀なインテリジェンスアイテム……」


 ボソボソと呟いたオプティマスさん。


 頷(うなず)いてから……漆黒の悪魔を凝視。


 小型飛空戦船ラングバドル。

 漆黒の悪魔の船体は陽を浴びても光沢を発していない。


 船体の異名からして闇属性の効果があるんだとは思うが、反射しないで陽を取り込んでいる?


 光属性に弱いわけではないようだ。

 漆黒の船体を見ていると……闇の中に吸い込まれていくような気持ちとなった。


 漆黒の船体には細い溝がある。

 それは喫水線を表現しているような細い線だ。


 その船体の表面に沿う溝の中をキラキラと紫色と赤色と銀色の魔力が走る。

 

 同時に――。

 両翼の真上と真下に卍の形の魔力が出現。


 船体の横にも魔力の渦が現れた。


 両翼の真上の卍と船体の横の魔力の渦はそれぞれ右回転で回り始める。

 

 風が発生――その風の流れが魔力でつくられるさまは美しい光景だ。

 そして、漆黒の船体に大気と光が吸い寄せられているようにも見える。

 

 が、また卍か。梵語のsvastika。

 吉祥(キチジョウ)の印。

 台風、鸚鵡貝、向日葵の形。

 フィボナッチ数列と黄金比。

 銀河の渦、DNAの螺旋的。

 

 前にも考えたが、1.68033988の黄金比は、この世界でも通じる。

 

 俺の知る地球でも、古代文明は、建築などあらゆる分野に黄金比と数学で美を見出していた。


 そう言えば、黄金の冒険者カードにも同じ卍のマークがあったな……。


 あ、頬のカレウドスコープもそっか。

 十字型の金属はタッチすると自動的に卍型へと変化する。


 遺産高神経レガシーハイナーブにも対応した。

 

 あの卍は宇宙のエネルギー源を意味するとか?


 <光闇の奔流>。

 光と闇の運び手ダモアヌンブリンガー

 選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスなどと共通する。

 

 そして、オプティマスさんのバベル卍聖櫃アークも。


 そう思考したところで――。

 

 小型飛空戦船ラングバドルの両翼から迸る魔力が強まった。

 

 両翼の真上で淡い輝きを放つ月夜を表現する。

 水墨画風のタッチの崩れた大きな月と小さい月が展開。

 漆黒の船体をキャンバスにしたような……。


 続いて、小型飛空戦船ラングバドルの船体の横にある可変式の漆黒の翼の真上に卍のマークが再度浮かぶ。


 その卍が月夜の真下で回転。

 美しい魔力の渦は月を取り込むような……。


 銀河の螺旋を思わせる。

 非常に美しい魔力の縺れ。


 そして、漆黒の悪魔の美しいフォルムが冴える。

 翼から放出中の魔力はF35BのようにSTOVLの垂直離発着が可能な斥力がありそう。


 すると、船首が煌めく。

 その船首と漆黒の鋼の舷墻が蠢いた。


 え?

 

 バウスプリットを頂点とする船首が大きなドリルに変形。

 外装だけでなく船体の内部から金属が延びた?


「ンン、にゃ?」

「「え?」」

「ヴァンッ、ワンッ、ワンッ!」

「グモ~、グモゥッ!」


 肩の相棒も皆も驚く。

 闇を切り裂く穂先を持つハルバードに見えた。

 

 小型飛空戦船ラングバドルは突貫兵器?

 中世の海賊戦のような白兵戦も可能なのか?


 ドリルは船首の内部に引き込まれるように消えた。

 バウスプリットと外装の防御層は元通り。


「ん、ドリルが出た?」

「うん、出ていたわね。ロロちゃんも驚いていた」

「螺旋状の溝が彫られたような痕がある大きな刃だった」

「ん、シュウヤの<闇穿・魔壊槍>?」

「似ているが違う」

「はい、壊槍グラドパルスや魔槍杖バルドークの穂先とも似ていました」

「ロロ様の触手から繰り出される骨剣、骨の爪にも見えましたよ」

「グモゥ」

「ワンッ」


 ハウレッツとシルバーフィタンアスも驚いていた。

 子犬のシルバーフィタンアスは尻尾の動きが激しい。


「驚きですね……知らなかった」

「オプティマスさんもですか」

「はい。漆黒の悪魔の牙でしょうか? やはりバベル卍聖櫃アークの秘密がありそうです」


 オプティマスさんは楽しそうに語る。

 俺もワクワクが止まらない。


 レベッカもそうらしい、双眸に蒼炎が灯っていた。


 ミスティは鼻血を流しつつ――。

 羊皮紙にペンで文字を書く作業を続けている。

 腰ベルトの金具と羊皮紙の束は結われていて、その羊皮紙の束は数枚が外れてハウレッツに食べられているが、気にしていない。


 と、小型飛空戦船ラングバドルの甲板の中央にある主力の帆柱と帆の角度が後部へと傾いた。


 船体の横に備わる可変式の帆も角度を変える。

 それらの帆が白銀色に近い淡い魔力光を放ち始めた。


 これまた渋い。


「素敵な漆黒の鋼と白銀色の魔力!」

「船体の表面は滑らかそうな魔金属ターグントとタングステン? 帆柱は魔柔黒鋼ソフトブラックスチールと似たような金属かしら……メモる!」

「ん、漆黒の魔鋼の間の魔線の色合いも不思議」

「はい、お兄様の髪と同じ黒色で渋い船体です!」

「うん。小型飛空戦船ラングバドルはシュウヤにぴったり」

「はい!」

「惑星セラの重力圏からの離脱は可能?」

「単体だけなら出力次第。出力が足らずとも、神獣ロロディーヌ様もいますから余裕かと」


 ビーサの発言にアクセルマギナが反応していた。


「たしかに相棒はすんなりと宇宙空間に出ていた」


 相棒が放出する魔力粒子は素晴らしい。


「ご主人様、小型飛空戦船ラングバドルで宇宙に進出を!?」

「いや、しない。宇宙に出るだけなら相棒に任せれば楽勝だからな。それに宇宙には宇宙のナパーム星系の品がある――」


 即座にハルホンクを意識。

 胸元にフォド・ワン・プリズムバッジを出現させた。

 ヴィーネは頷いて、俺の胸元のバッジを凝視。


「あ、そうでしたね。ETA端末ロッドの下に転移すると」

「起動状態の戦闘機のオービタルファイターの下にですね」


 ヴィーネとキサラの言葉に頷いた。

 オプティマスさんは、キサラのオービタルファイターの言葉を聞いて興味深そうな顔色を示すが、


「ンン、にゃ」

「にゃァ」


 足下に降りた黒猫ロロ銀灰猫メトだ。

 滑走路的な道路の端から小型飛空戦船ラングバドルを見ている。


 鼻先をクンクンさせている姿は可愛い。


 そして、少し前に出たヴィーネが俺をチラッと見て微笑みを寄越してから、オプティマスさんを見て、


「主力の帆も、横の可変式の翼と同じく角度を自由に変えられる。漆黒の悪魔は、かなりの機動力を誇る?」

「漆黒の悪魔が起動したのは初めてですから詳しくは分かりませんが……その予想は正解でしょう。横の可変式の翼も他のラングバドル級とは形が異なるオリジナル。牙槍の穂先のような攻撃方法も他にない代物。近接戦も得意そうな印象です」

「やはり」


 頷いたヴィーネ。

 するとキサラが、


「小型飛空戦船ラングバドルは洋上航海も可能なのですか?」


 と聞いていた。

 オプティマスさんは、


「漆黒の悪魔もラングバドル級に変わりはないはず。小型飛空艇と小型飛行船と変わらず洋上を進めるはずです。自由戦船への偽装も可能かと」


 自由戦船か。


「空と海の切り替えが可能なのは便利だ」

「はい。空は高度が高くなるほどモンスターが多く強くなりますから、洋上を進むほうが安全な場合もある」


 納得だ。

 マハハイム山脈の高い空域には凄い数のモンスターが生息していた。


「高度が高いとドラゴンなどの巨大なモンスターも多くなる」

「はい、ドラゴン系は数も多い。ですから高い索敵能力と操縦技術が求められる」

「漆黒の悪魔の操縦には、専用の席があるのでしょうか」

「あるはず。操舵を備えたブリッジに関しては他の飛空戦船と異なるようですから、先ほどの帆の変化や武器、魔力放出といい……非常に興味深い。機関部や搬入口は、ラングバドル級と似ているようですが、さて……」


 漆黒の悪魔を凝視して予想するオプティマスさん。

 興奮気味だ。


 同時にビーサの瞳が輝いた。

 後頭部の肩にかかる髪の毛のような器官から桃色の魔力粒子が迸る。


「漆黒の悪魔の操縦はビーサに任せようか」

「師匠! 嬉しい。しかし、小型飛空戦船ラングバドルの黄金のカードは、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの師匠に対応したから、起動したんだと思います。ですので、わたしは師匠の弟子としての補佐をしたい。副操縦士をお任せください――」


 ビーサは片膝で硬い床を突く。

 真面目なビーサだ。


「分かった。副操縦士ビーサ、その時は頼む。ま、委細は内部を見てからとなる。そして、ビーサだから可能な操縦システムが宇宙船には存在すると聞いている。だから、専門の操縦システムだった場合、ビーサに担当してもらうぞ」


 ビーサは体から魔力を放出。


「おぉ、お任せを!」


 後頭部の三つの器官が浮くと、その器官の先っぽから盛大に薄桃色の魔力を噴出させた。


 ビーサの周囲に桃色粒子が散る。

 桜が散るような魔力越しに、俺を凝視してくるビーサが素敵すぎた。


 ビーサの頬が朱に染まる。


「ビーサ、立て」

「はい、偉大なる選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス――」


 立つや否やラ・ケラーダのマークを胸元に作るビーサ。

 

 アキレス師匠の顔を思い出す。

 少し感動した。

 オプティマスさんは俺とビーサを凝視。

 後頭部の三つの髪の毛の房のような器官が気になる?


 オプティマスさんの片眼鏡が輝く。

 種族ファネルファガルを分析中かな。

 オプティマスさんはジッとビーサを観察して、


「あまり見ない種族の方。魔族の方でしょうか」

「いえ、ラロル星系の種族ファネルファガルです。ナパーム星系ではないです」

「星系? なるほど……宇宙海賊と同じような勢力でもあるのですね。その女性がシュウヤさんを師匠とは……バベル卍聖櫃アークが反応したシュウヤさんは、惑星セラ出身ではないようですね。第一世代と……」


 思案気に語るオプティマスさん。


 魔力豪商オプティマスさんも聖櫃アークを求めているから、当然、宇宙海賊を知っているか。


 ということは……。

 ナ・パーム統合軍惑星同盟上級大佐。

 セクター30特殊部隊に所属しているが、それは偽装で、実は宇宙海賊【八皇】の一人でもあるハーミットを知っている?

 

 そのことは言わず、


「その通り、異世界出身。エセル界、魔界、神界、獄界、瞑界ではないです」

「……異世界出身とは、途方もない。時空魔法の失敗による連鎖が起きたのでしょうか」

「ンン」


 黒猫ロロが勘の良いオプティマスさんの言葉に反応。

 一瞬、ローゼスとの会話を思い出すが、まさか?

 と思ったが――。

 

 相棒はシルバーフィタンアスの肛門の匂いを嗅いでいた。

 一瞬、片膝で地面を突くようなフリから、柔道の受け身を実行したい気分となったが、自重。


 気を取り直して、


「先ほど、部下たちにジュウラスシステムも付けろと指示を出していましたが、そのジュウラスシステムとは?」


 そう聞くと、オプティマスさんは片頬を上げた。

 ニヤリとした見せ顔か。


「結界大魔石と魔力機関に連動した羅針盤が魔力レーダー網ジュウラスシステムです。魔力パワーセルが合えば出力を上げることは可能かも知れないですが……その辺りは、先ほどパワーセルについて語ったように、漆黒の悪魔に元々備わる索敵能力が優秀だった場合は、必要ないかも知れません。改良については、パマン兵長の腕次第かと」

「ん、結界石は魔力を放出してモンスターを近づけさせない魔道具?」

「近いです」

「船側の掌握察。風の探知のような船の能力でしょう」

「はい。空路の見極めは、結界大魔石と連動した羅針盤の魔力レーダー網ジュウラスシステムの活用が重要となる」


 皆頷いた。

 オプティマスさんは、


「しかし、危険が多い空を回避して海を優先したとしても……海のモンスターもまた危険です。そして、そのモンスターを倒せる十二大海賊団や野良海賊団、セブンフォリア海軍と空軍に各国の竜騎士隊と隠蔽私掠船も脅威。飛空挺を持つ海賊もいますから、空旅を行う際は気を付けてください」


 神獣ロロディーヌに乗った空旅でも危険はあるからな。

 しかし、飛空挺を持つ集団か。


「十二大海賊団もラングバドルのような飛空戦船を持つ?」

「それは不明です。聖櫃アークを手にしているだろう大海賊団はかなりいるようです。魔導船を多く所有している群島諸国サザナミの海域で活躍中のハーミット団は有名。様々な海路に進出しているアズラ海賊団、ティルガン大海賊団、ビヨルッド大海賊団なども飛空挺は持つかも知れないですね」

「ハーミット団とアズラ海賊団なら多少は聞いている」


 先も考えたが、ハーミット団はもろだな。

 ハートミット艦長しか会ってないが、俺も、そのハーミット団に所属していることになる。


 艦長のハートミット・グレイセス。

 彼女との連絡手段の心臓と髑髏のマークのバッジはハルホンクの衣装の飾りとして時々利用する。

 

 皆も頷いた。

 仲間の黒猫海賊団のレイ・ジャックのこともあるか。

 オプティマスさんは、


「はい、アズラ海賊団は、陸地にも名が響く大海賊団。一番~十番の隊長も強者。アズラ海賊団以外の魚人海賊&野良海賊の中にも人知れぬ強さを秘めた隠者は多いです。南の大海を越えた先にあるビッグザフットライン巨人の足航路という名がある未知の航路は聞いたことがある」

「あ、そのビッグザフットライン巨人の足航路なら聞いたことがあります」

「シュウヤさんは漆黒の悪魔で北や南に向かうのですか?」

「どちらも魅力的な冒険ですが、まだ向かいません。そして、単純な質問があるのですが」

「どうぞ」

「俺たちがここに来た時の傭兵たちはどこに?」

「あぁ、今頃は下の格納庫です。坂か梯子で第二管制室にいるレンティルの傍に移動したはず」


 オプティマスさんはそう語りつつ、坂と階段と梯子がある方向に腕を差す。


 頷いた。


「……その第二管制室とは先ほどの映像の場所でしょうか」

「パマン、バフマンたちがいたところは格納庫リフトシステムの配魔盤辺りです」

「そうでしたか。あの映像を表示する魔機械は魔通貝的な魔道具でしょうか」

「はい。魔通貝と同様に、通信範囲は狭いですが、離れた場所にいる仲間と会話が可能。エセル界の魔撮貝と魔受貝です。この塔烈中立都市セナアプアでは魔法が阻害されることが多いですからね。非常に便利な魔機械。まぁ、魔道具の一種です」

「エセル界の品は【白鯨の血長耳】から?」

「そうです。魔通貝の数百倍高い。【天凜の月】の盟主には【血月布武】の名がある。魔通貝などのエセル界の品をお安く仕入れているのでしょうか」

「いえ、魔通貝は持っていないです」

「そうでしたか。意外ですね……」


 オプティマスさんは――。

 俺の闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトと右腕などの竜頭金属甲ハルホンク装備を凝視。


「推測通り、仲間との連絡手段は他にも色々とある」

「はは、羨ましい。魔界セブドラと神界セウロスの品以外にも、荒神、呪神、旧神、廃れた神々に血脈を活かしたスキルなどの可能性は色々とあるとは知っています」


 そう語るオプティマスさんの片眼鏡が煌めいた。

 アイテム鑑定屋のスロザを想起。


 同時にシキ、コレクターも思い出す。

 魔界セブドラの神の一柱、宵闇の女王レブラ様の眷属。


「血長耳と盟約者でもあるシュウヤさんならば、エセル界に進出は可能と認識しますが……エセル界に興味はないのでしょうか」


 頷いた。

 そして、ディアたちを見て、


「多少は気になります。しかし、今はやるべきことを優先しています」

「そうですか。その流れでカボルを、ありがたい」


 オプティマスさんは俺たちを見ながら語りつつ、数回頷いていた。


 俺も皆の美しい表情を見ながら頷いた。

 エヴァの微笑みを見て癒やされる。


「ん」


 そして、


「話を変えますが、オプティマスさんが暮らしている? 俺たちが先ほどまでいたクリスタルキューブは一種の魔道具なのでしょうか」

「その通り、高級な魔造家マジックテント。名はキシオスキューブです」


 へぇ、魔造家マジックテントの一種か。


 そう語ったオプティマスさん。

 小型飛空戦船ラングバドルの搬入口に入って、せっせと荷物を運び入れている岩魔導傭兵と魔機械工の方々を見て、


「これは内密にお願いしますが、先ほどの格納庫担当の整備士たちと番頭のカボル、岩魔導傭兵を扱う傭兵長のレザアルは、わたしの母船でもある中型飛空戦船トマホークの乗り組み員も兼ねた【大商会トマホーク】のメンバーなのです」

「中型飛空戦船トマホーク?」

「はい、わたしの母船です。格納庫にあります」


 中型っていうと大きいのか。


「ん、中型飛空戦船トマホークは、小型飛空戦船ラングバドルよりも、おっきい?」


 エヴァの声を聞きながら下の格納庫を見る。

 離発着の場には、ドックとしての窪みと隙間と金網で覆われたメッシュが至る所にあった。


 その間から下を覗くが……。

 飛行機なども豊富にあるから分からない。


「少し大きい程度。この滑走路に備わる射出機カタパルトから発進できます」


 オプティマスさんは一直線の窪みを差す。

 射出機カタパルトか。


 エヴァは魔導車椅子のリムを操作。 

 ――魔導車椅子を横回転させた。

 オプティマスさんが差した方角を見る。


 ――黒髪が揺れるさまが可愛い。


 中型飛行戦船トマホークとは、射出機カタパルトがないと発進できないほど大きく重い? 

 

 それとも、この商業魔塔ゲセラセラスが巨大ロボットに変形を?


 それはさすがに飛躍しすぎか。

 

「だから大商会トマホークには海運の船が少なかったのね」

「噂も聞かないほどの謎だった豪商。広い下界の港街、歓楽街、商店街に大商会トマホークの拠点がないことも不思議だった」


 ユイとヴィーネが語る。


「うん。セナアプアで商売用の船を持たない大商会って聞いたことなかったし」

「大商会トマホークと魔力豪商オプティマスの情報が少ないのは、盗賊ギルドに金を渡して情報制限をかけていた?」

「はい」


 ヴィーネの問いにオプティマスさんは頷いた。

 キサラは頷いてから俺を見て、


「豪商には豪商の特別な伝があると……」


 そう呟く。

 キサラに向けて頷いた。


 〝輝けるサセルエル〟をもらったからな――。

 

 魔力豪商オプティマスさんからもらったその短剣を、戦闘型デバイスから取り出した。


 〝輝けるサセルエル〟を左手の掌の中で回す。

 短剣の柄巻の乾いた布が掌に吸い付いた。


 随分と使いやすい。

 さすがに短剣を主力にするつもりはないが――。

 〝輝けるサセルエル〟は良い武器だ。


 <魔闘術>と<魔闘術の心得>を即座に意識。

 全身に魔力を纏いながら、指と指の間で〝輝けるサセルエル〟を転がす――。


「ん、速いシュウヤ!」

「わぁ……」

「修練モードに入ったわね」


 レベッカの声に頷く。

 ヤゼカポスの短剣を主力に扱っていたオゼ・サリガンのナイフトリックを想起。

 

 同時にキサラの匕首、聖なる暗闇の扱いも思い出す。


 キサラ先生――。

 格闘術の師匠でもあるキサラ――。

 キサラの偉大なおっぱい――。

 

 そんなことを考えつつ――。

 

 〝輝けるサセルエル〟を、左右の掌で受け渡しつつ、カリィの<短剣・荒四肢>を想起。

 

 上段回し蹴りを交互に放った直後――。

 その蹴り機動を活かすように振るった右手を引く。

 そして、サセルエルの短剣の刃を舌で舐めるようなポージングのままキサラを凝視。


 輝けるサセルエルの短剣の刃越しにキサラに笑顔を送った。キサラは体を震わせる。


「ぁ……ん……」


 感じた声を発していた。

 可愛い。

 

 そんなキサラのハートを狙うように――。

 右手に移した〝輝けるサセルエル〟の刃で、前方の宙空を突いた。


 キサラは『触ってください』と表現するように胸を前に突き出して、豊かな乳房を揺らす。


 やや遅れて両手で、その胸を押さえた。


「シュウヤ様……」


 指の間を悩ましい乳房の膨らみが覆う。


 同時に竜頭金属甲ハルホンクを意識。


 初期の頃の暗緑色衣装に変化させる。 

 一歩、二歩、三歩、四歩、五歩。

 足を交互にクロスさせたヒップホップスタイルに――。

 フリースタイルフットボールでボールをリフティングするように〝輝けるサセルエル〟を手足で扱いつつ退いた。


「ん、カッコいい!」


 エヴァが金属の足にチェンジして――。

 素早い腰の回しを活かす上段回し蹴りを実行。


 蹴りの技術は<血襲回転蹴刀>を得ているから確実に上がっているが、ムチムチの白い太股と黒パンティさんが可愛すぎた。


 エヴァの様子も見たいが――。

 皆は俺の短剣の演武を凝視中。


 気を取り直すように――魔力を練る。

 

 血魔力<血道第三・開門>。

 <血液加速ブラッディアクセル>――。

 

 <血魔力>と魔力で体を焦がす勢いでホワインさんとの格闘戦を想起。

 

 そして、柄巻を逆手に握った〝輝けるサセルエル〟を袖の中に隠すと同時に素の右手で――。


 ――<蓬茨・一式>。

 正拳突き。

 続けて、前傾姿勢よりも低い体勢のまま前進するや否や、左手で<蓬茨・一式>を実行。

 同時に袖から左手の掌の中に移した〝輝けるサセルエル〟で前方のホワインさんの幻想を突く。


 刹那、左腕から茨が絡む月と鴉の形の魔力が四方八方に散った。


 ピコーン※<蓬茨・水月夜烏剣>スキル獲得※


「え、シュウヤ、今の……」

「おう、スキル<蓬茨・水月夜烏剣>を獲得した」

「「ええ!」」

「お兄様……素敵すぎて……」


 ディアが倒れそうになった。

 が、素早くミスティがディアを支えてあげていた。

 片手でディアのおっぱいさんを鷲づかみしているが、指摘はしない。

 

 キサラは俺の手さばきをジッと見てから――。

 視線が合うとうっとり顔となって、


「素晴らしいです。それは短剣の技でしょうか」

「短剣&長剣両方だと思う。キサラの匕首の扱いを参考にしたんだ、ありがとな――」

 

 とキサラと間合いを詰めて抱く。


「――は、はぅ、シュウヤ様――あんっ」


 キサラは俺を抱き返す気概があったが、感じてしまって背を反らしていた。

 

 そんなキサラの背中を支えていると、「ふん、つっこまない……つっこまない……皆、見てるし……」


 と、普段と違うレベッカの姿があった。

 すると、素早い機動力を誇る黒猫ロロが、肩に戻る。

 銀灰猫メトも飛び乗ってきた。


 黒猫ロロは、


「ンン――」


 喉音を発して、〝輝けるサセルエル〟に向けて前足を伸ばして戯れようとしてきた。

 急ぎ、


「――ロロ、危ないから戯れるのは禁止」

 

 〝輝けるサセルエル〟を仕舞う。


「ンン」


 黒猫ロロは不満気に喉声を鳴らす。

 尻尾を振るって肩と腕と胸を叩いてきた。


 んなこと言ってもな。 

 肉球ちゃんは大切なんだぞ? と相棒の前足を掴んでギュッと握ったった。


 右の前足の肉球を親指で押して揉み揉み。

 揉み揉みしながら黒猫ロロを見るが、そのお目目はまん丸気味。


 瞳が散大中。

 興奮しては、頭部を傾けている。


『にゃんだお? やるかお?』


 といった小生意気な表情だ。

 

 訓練に影響を受けたか?

 面白い。すると、頭巾の中に戻っていた銀灰猫メトも、


「……にゃァ?」


 とくぐもった感のある鳴き声を発していた。

 そして、銀灰猫メトは頭巾の中で寝処を調整するように回る。


 パーカーの頭巾越しに感じる体重が可愛い。


「ふふ、メトちゃん、ロロちゃんの動きが分かるの?」

「にゃァ」

「メトちゃん可愛い~! 頭巾で耳を隠しちゃう!」


 レベッカが興奮。

 ――背中側へとグイッとハルホンクの衣装が引っ張られた。

 

 パーカー的なハルホンクの頭巾を引っ張って銀灰猫メトを包んだ?


「にゃぅ、にゃァ~」

「メトちゃんの両耳が」

「ん、頭巾で隠れた、ふふ!」

「ふふ、うん。すっぽりちゃん! 毛布で包んだ赤ちゃんみたい~」


 ひょっとして忍者の衣装的?


「「ふふ」」


 俺の背中で銀灰猫メト萌え合戦が始まった。


「俺の首が締まったことは誰も……」 

「ワンッ」

「グモゥ」


 シルバーフィタンアスとハウレッツが俺の足下に来てくれた。


「シルバーとハウ!」

「ワンッ!」

「グモッ!」


 二匹とも一心不乱に吼えてくれた。

 シベリアンハスキーと似ているシルバーフィタンアスの目は紺碧系。


 可愛い。

 子鹿のハウレッツも変な声だったが気持ちを伝えてようとしてくれた。


 オプティマスさんはチラッと俺たちの様子を見て微笑むが、時折、配下の方々から連絡が来ているようだ。


 耳元で煌めく魔通貝。


 そして、小型飛空艇ゼルヴァと小型飛空戦船ラングバドルの装備品のコンテナを運び終えた岩魔導傭兵たちが近寄ってきた。


「――オプティマス様」

「「作業は無事終えました」」


 と報告。


「分かった。下がっていい」


 大柄の岩魔導傭兵たちは敬礼。

 素早く踵を返して後退した。


 岩魔導傭兵たちは関節の節々から硬質な駆動音を響かせて歩く。


 ロボット的だが、魔法生命体か。


 そして、小型飛空戦船ラングバドルの中で作業を行なっていた魔機械工と滑走路で働いていた魔機械工に傭兵たちも集まってきた。


「「パワーセル設置完了」」

「調整に少し時間がかかりましたが、漆黒の悪魔は素晴らしい船ですね。そして、結界を備えたジュラウスシステムは既に可動中!」

「「すべて整いました」」


 と報告が始まる。


「分かった。お前たちも下がっていい」

「「はい」」


 オプティマスさんに敬礼を行う魔機械工と傭兵たち。

 俺たちにも頭を下げた。


 一部の魔機械工たちは俺たちの様子を見て驚いたのか。


 きょどる。

 が、一斉に踵を返した。

 坂道と梯子を下る。


 オプティマスさんは、


「さぁ、お聞きになったでしょう。小型飛空艇ゼルヴァ、パワーセル、ジュラウスシステムの組み込みは完了です。一緒に小型飛空戦船ラングバドルに入りましょう」

「はい」

「ん!」

「うん、楽しみ~」


 漆黒の悪魔こと、小型飛空戦船ラングバドルに足を向けた。

 

 その小型飛空戦船ラングバドルは滑走路と地続きのドック的な溝の中で浮いている。


 可変式の帆と小さい噴射孔から推進力がありそうな魔力が放出されたままだ。


 鋼のタラップに足を乗せようとした時、レベッカが、


「小型飛空戦船ラングバドルは浮いているのかしら。実は船体の下部に歯止めが嵌まっている?」

「もう浮いています。歯止めは外れた状態です」

「へぇ」


 その間に、


「にゃおおお――」

「にゃァ」


 先に走る黒猫ロロ銀灰猫メトはオプティマスさんを越した。


 二匹は小型飛空戦船ラングバドルの縁から出ていたタラップの上を走る。


 走る相棒の周囲に朱色の魔力の粒が集まる。

 小型飛空戦船ラングバドルから出た朱色の魔力か。


 朱色の魔力は、なんの意味があるんだろう。

 <血魔力>?


 不思議だ。

 タラップは横に広い。

 二匹は小型飛空戦船ラングバドルに乗り込んだ。


 甲板の上を走りまくる。

 相棒のところだけ、足跡が赤い。


「ワンッ」

「グモゥッ」


 シルバーフィタンアスとハウレッツもタラップを走って先に小型飛空戦船ラングバドルに突入。


 相棒たちと追いかけっこが始まる。


「ん、ロロちゃんとメトちゃんが一番乗り~」

「俺たちも行こう」


 すると、主力の帆が自動的に動いて変形。


 近付いた俺たちに呼応した?

 鏃の形に変化した帆。

 船首からドリル武器も出すし、面白い漆黒の悪魔だ。


 帆の形で速度が変わる?

 速度が急加速する帆の形とかあるのかも知れない。

 前を歩くオプティマスさんは漆黒の悪魔の帆と帆柱が変形したことを見て体を震わせる。


「……帆がまた変形とは……」

「俺たちに呼応?」


 神妙な顔付きのオプティマスさんは、頭部を二、三回振るい、


「あ、は、はい。黄金のカードを持つシュウヤさんに、漆黒の悪魔は、今も反応し続けているのでしょう……そう、使い手、使い魔が、シュウヤさんを新しい主として認めるように」


 俺に反応か。

 生きているようには見えないが。


「ングゥゥィィ――」

「ヒィッ」


 と、またもハルホンクにビビるオプティマス氏。


 びびり方が少し面白かったから、氏とつけてみた。


 しかし、漆黒の悪魔は、フォド・ワン・ユニオンAFVと似たトーラスエネルギー的な出力機構を備えている?

 

 鋼のタラップに足を乗せた。

 すると、赤い足跡が生まれた。


「あ、足跡? シュウヤだけ?」

「相棒にも反応していたな。魔力を得るとか、血が吸われるとかはない」

「へぇ、シュウヤとロロちゃんだけに反応しているのね」

「不思議ですね」


 相棒と俺は<神獣止水・翔>で色々と共有しているからか?


「あ、皆、先に行かないで」

「ふふ、ミスティ、書きながら歩いているし、そこの縁とタラップから落ちないでよ?」

「ん、大丈夫そう。器用な<筆頭従者長選ばれし眷属>?」

「うん」


 ユイとエヴァが笑う。

 半笑いのミスティだったが、しっかりとメモを続けながら器用に歩く。


 同時に小型ゼクスも起動させている。

 さすが<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人。

 

 そして、肝心の小型飛空戦船ラングバドルの甲板の色合いは黒い鉄でゴツい。


 ここはメイン=デッキにあたるのか。

 

「これが漆黒の悪魔の甲板。やはり、普通のラングバドル級とは構造も異なるようですね」

「オプティマスさんが知るラングバドル級は、甲板は鋼鉄製ではない?」

「素材は色々ですが、大半は鋼鉄のような素材ではなく樹のような素材が多い。そして、操舵室は、この辺りにはないようですね。船体の後部でしょうか」

「ん、ブリッジは奥にある」

「縁の金属はすべすべしてる!」

「帆柱の根元は黄金と漆黒の金属が融合しているようです。表面には魔法の文字が刻まれていますね。檣楼しょうろうも角度に合わせて変形するようです」


 ヴィーネが見上げながら語る。

 その仕種が魅力的。


 そんなヴィーネが眺める檣楼には……。


「にゃおおおおおん――」


 と頭部を上向けている黒豹ロロディーヌがいて、吠えていた。

 

 近くの白銀の帆からロロディーヌに合わせて魔力が迸っていた。


 そんな相棒の真似をしようと銀灰猫メトが銀灰色の虎魔獣に変身しながら檣楼目掛けて帆柱を駆けようとしているが、虎魔獣に変身する度に落下。


 大きさはまだ上手くコントロールできないようだ。大人しく銀灰色の子猫となったメトは帆柱を駆けた。あ、だが、爪が引っ掛からず、危ない――。

 と、跳躍したが、相棒が素早く降りて、銀灰猫メトの首を咥えて救っていた。


「――ガルルゥ」


 銀灰猫メトを咥えたまま唸り声を発した黒豹ロロは帆柱を蹴って、鐘楼の上に三角跳びで移る。


 カッコいい。

 宙空の<導想魔手>の上に着地。

 そして、


「ロロ、メトはまだお前のような機動力は無理なようだから見てやってくれよ」

「ンン、にゃお」


 相棒は俺の顔をジッと見て鳴いていた。

 頷くと、相棒も頷く。

 可愛い。


「んじゃ、降りる時はメトを咥えるか、頭部に乗せて降りてこい」

「にゃお~」

「よし!」

「にゃァ」


 元気な相棒の頭部と銀灰猫メトの頭部を撫でてから離れて――降下。


 皆と小型飛空戦船ラングバドルの甲板の上を歩く。


 無駄に船体の鋼に触れてみた。

 魔力を感じる。

 不思議と漆黒の悪魔の魔力、心のようなモノと通じたような感覚を得た。


 魔力を送ると、ルシヴァルの紋章樹のような魔力の波紋が鋼の中に浸透していった。

 

 漆黒の悪魔こと、小型飛空戦船ラングバドルが呼応したように、ボゥゥッという法螺貝的な音が聞こえたような……。


『閣下、今、何か音が』

『妾も聞こえた』

『皆は気付いていない。俺たちだけか』

『ふむ』

『はい。漆黒の悪魔は息衝いている?』

『魔界セブドラ、神界セウロスの匂いはしないが……不思議ぞ。これが聖櫃アークの戦船なのか』

『水をかけてみたいです』

『ヘルメも沙たちも外に出るか?』

『出る!』

『はい!』


 左手を翳すと――。

 左手の運命線のような傷が開く。

 そこから沙・羅・貂の神剣が飛び出た。

 ヘルメも外に出る。

 オプティマスさんが悲鳴をあげていたが、放っておいた。

 

 ま、野郎だしな。


「あ、精霊様と沙・羅・貂さんたち! わたしも外に出てナノセキュリティの確認をしたいです」

「了解。アクセルマギナも出ろ」

「はい」


 戦闘型デバイスから銀灰色の魔力粒子が迸ると、その魔力は瞬時にアクセルマギナとなる。


「ワハハ――」

「きゃ」

「沙、器様の大切な船を傷つけてはだめですよ」

「そんなことはせん!」

「ふふ。では、先のほうから見てきます」

「了解」


 アクセルマギナは船首のほうから調べるようだ。


 キサラはダモアヌンの魔槍で床を叩いて硬度を確認していた。


「シュウヤ様、硬いです――」

「そりゃそうだろう」

「ふふ、そうですね。あ――」


 キサラはダモアヌンの魔槍を跨ぐ。

 そのまま杖に乗った魔女のように空を飛翔。

 

 ダモアヌンの魔槍に跨がりつつ衣服を黒色の戦闘服に変化させたキサラは、後方斜めに傾いている主力の帆柱に近付く。

 帆から迸る魔力を浴びたようにも見えるキサラだったが、構わずステイスル的な形の白銀の帆に向けて片腕を伸ばした。


 その白銀の帆に指で優しく触れていた。

 

 すると、高い帆柱の横側に幻想的な旗が出現していた。


 魔力の旗か。

 マークはルシヴァルの紋章樹的。

 卍と太陽が合わさったような背景模様もある。

 不思議なことに、そのマークは右回りに回っていた。


 視線を甲板に戻した。


「フォド・ワン・ユニオンAFVと似たような武器があります!」


 ヘルメが指摘するようにハープーンガンのような武器がある。

 

 捕鯨砲のような印象だ。

 前方付近にハープーンガンは四基備わる。


「碇縄を備えた巨大鏃の魔機械。フォド・ワン・ユニオンAFVにもある銃座っぽいわね。そこに鋼のロープもあるけど、あ、下の四角い鋼は……」


 ユイとレベッカの足下付近の甲板がズレるように開いた。


「鋼鉄製の扉。内部は狭いけど飾りも豪華」

「見て、そこの伝声管がユイの声に反応したから開いたのよ」


 ミスティが指摘。

 階段を覗いていたユイの斜め前にある伝声管と似た長細い鋼は甲板と繋がっている。

 伝声管は船体の内部と繋がる仕組みか。


 ミスティはレイが操る銀船の内部を溶かすように見学していたからな。


 ユイは伝声管にキスをするように小声で話しかけていた。


 その度に伝声管が怪しく反応。

 なんか、少しエロい。


 そのユイは俺の視線を感じたのか、俺に向けてニコッと微笑む。


 と、人差し指で伝声管の天辺を怪しくなぞってから俺に向けてウィンク。

 

 唇を窄めてエアーキッスを寄越した。

 ドキッとするがな。


 何度も味わっているが、毎回新鮮な気分にさせてくれる。


 そんな妖艶なユイは、


「ふふ、下の船内には簾中の仕切りがあるみたい。見てきていい?」

「おう。そこは船首に近いからブリッジではないと思うが」

「了解、見てくる。先のドリルとなった秘密を内側から見ることができるかも」

「あ、わたしも!」


 ユイとレベッカが階段を下りた。

 二人とも楽しそうだ。


 幸せな気持ちになった。


「ん、シュウヤ、後ろの甲板に船長室か操舵室がある! 行こう~」

「あ、分かった――」


 エヴァに引っ張られて進む。

 少し鼻息が荒いエヴァも、楽しくて興奮しているようだ。


 可愛い。

 と、船体の後方に移動。

 豪華な部屋がある。


「扉は閉まってる」


 手前に窪みがある。

 遅れてきたヴィーネとキサラとミスティ。

 

 ビーサとディアも来る。

 シルバーフィタンアスと一緒のようだ。


 そして、オプティマスさんが、


「そこが黄金のカードを納める認証ボックスでしょう」

「ここに納めれば、この司令室的な部屋が開くのは分かる」

「はい。では、漆黒の悪魔の船長、開けましょうか」

 

 オプティマスさんの声に頷いた。

 

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