八百二十四話 魔霊魂トールン

「ミスティには反応がないか」

「マスターがコアに触れたら反応が?」

「あった。激しい放電を浴びたが、とくにダメージはなかった」

「はい、わたしもですが、隻眼キュイズナーのミナルザンも驚いていましたよ。シュウヤ様は雷撃のシャワーを上半身に浴びているように見えましたからね。あ、でも、夜の瞳に映る稲妻がとても綺麗で、素敵なシュウヤ様でした」


 キサラはうっとりとした顔付きで俺を凝視。

 その蒼い瞳と目が合った。

 キサラはドキッとしたのか目元が揺らぐ。

 黒いノースリーブ衣装のおっぱいも揺れた。

 そのキサラは、俺の唇をチラッと見てから、色白の肌に朱色を浮かばせる。


 キスの余韻がまだあるようだ。熱い視線だから、少し照れる。


 その視線を察知したヴィーネは、俺の右手を掴むと、キサラにアピールするように恋人握りを行いつつ、


「――わたしも少し驚きました。ご主人様の顔色と態度から試作型魔白滅皇高炉と同じ効果なのだろうと、すぐに判断しました」


 ヴィーネは肩に横乳を当ててくる。ナイスだ。


 そのヴィーネに頷いて、


「たしかにバチバチといった音は迫力があったな」


 そのヴィーネの態度を見たキサラとミスティは微笑む。が、目は笑ってないような気がする。


 肩の相棒がヴィーネの長耳に鼻先を向けて匂いを嗅いでから、舐めていた。

 感じたヴィーネは「きゃっ」と体をブルッと震わせてから離れた。

 

 ――横乳女帝よ、然らば。

 

「へぇ、高位魔力層のマスターだからなのね。大魔術師アキエ・エニグマも本当に策士……あ、試作型魔白滅皇高炉と同じく体に微かな共振を齎すなら肌に良さそう! 皆もマスターがこの場にいる状態でコアに触れたの?」

「あ、前に試しただけで、今はまだ――」

「わたしも触ってみます」


 皆で漆黒の直方体であるコアを触るが何もなし。


「マスターが触れなきゃやはり、反応はナシ」

「ンン――」


 皆の行動に肩の相棒が反応。

 首下から一対の触手を漆黒の直方体のコアに伸ばした。先端が丸い。


 相棒の丸い触手がコアに触れた直後――コアから放電が起きる。

 放電を受けた触手はブルッと震えた。


「ンン」

 

 相棒は暢気な喉音を発しつつ、医者が患者に触診を行うように漆黒の直方体の表面に丸い触手をペタペタと付着させていた。


 『ドラ〇もん』の手のような触手ちゃんだ。

 正直、可愛い。


「あん、うふ……ふふふ」


 分身体の魔霊魂トールンが体をくねらせて反応していた。

 姿が魔女っ子だから、なんとも。悩ましい声に少し驚きつつ……。


「魔霊魂トールン、本体が眠る直方体のコアと感覚を共有しているのか?」

「はい、眷属様たちには反応しませんが、高位魔力層のご主人様に触れられたら感覚があります。そして、今、反応があったように、黒猫ロロ様がわたしの本体に触れたら、高位魔力層のご主人様と似た感覚を覚えました」

「表面はただの鋼に見えるけど……とにかく、面白いわ。でも、貴方たちを造り上げた大魔術師ケンダーヴァルって、何者よ!」

「はい、よくよく考えれば、管理人たちが融合した分身体で魔女っ子トールンの体を得る魔法が仕込まれていたということ。魔女っ子トールンは、金属以外の素材を使った魔法生物、魔導人形ウォーガノフとも呼べる存在?」

「エセル界の素材もありそうです」

「……うん」


 皆の分析を聞いたミスティは鼻血を流しそうな表情だ。


 そして、コアの表面には、俺と相棒だけに反応する感覚素子でも付いているのか。

 すると、ミスティは鼻ではなく、指先から血を出した。

 爪は光っていない。


「え、あ!」


 魔霊魂トールンの分身体は少し驚く。

 ミスティの感覚を本体から得たようだ。ミスティは指の行為を止めない。

 相棒は触手を離している。


 そのミスティが<血魔力>を直方体のコアに流すと、コアの表面に微かな霜が生まれては消えるのを繰り返す。その霜と血の点滅には放電も混じる。

 点滅は小さいルシヴァルの紋章樹の形を模った。


「点滅している形はルシヴァルの紋章樹でしょうか」

「そうだろう」

「先ほどの反応と似ている?」

「床に落ちた霜に血を垂らした時ですね。今までにない管理人たちの姿でした」


 ヴィーネとキサラの発言に頷いた。

 ミスティは、


「ヴィーネとキサラの<血魔力>にも呼応したってことね」


 と発言しつつ、魔霊魂トールンの分身体を見る。


「<絶対防衛トールン>。貴方の本体が、わたしの血を調べたの?」

「はい」

「詳細を教えて」

「高位魔力層のご主人様の魔力と近いミスティさんの<血魔力>を感知して、承認を兼ねての反応です」

「へぇ――」


 素早く羊皮紙にメモったミスティ。

 すると、ヴィーネが、


「さきほどの床に垂らした時に現れた半透明なデボンチッチたちの反応も、わたしたちを調べようと?」

「いえ、先ほどの反応は分かりません。わたしではなく管理人たちの一部が、ヴィーネさんとキサラさんの<血魔力>に反応したんだと思います」

「ほぅ、謎だが、面白い」

「はい、魔機械風でしたが、デボンチッチ風、まさか……機械仕掛けの神デウス・エクス・マーキナ様の子精霊デボンチッチでしょうか」

「ありえる」


 ヴィーネとキサラがそう分析した。

 ミスティも手が自動書記を引き起こしているように素早くメモりつつ、頷いていた。


 分身体の魔女っ子トールンは、


「そうかも知れないです。ここのルーム内ではわたしの感覚が強いですが、完全ではないので」

「あのような珍しい管理人たちもいるということですね」

「はい」

 

 ミナルザンと相棒以外の皆が納得するように頷く。


「にゃお」


 相棒は魔霊魂トールンの分身体に向けて鳴いていた。


「挨拶が遅れましたが、こんにちは、可愛いロロちゃん様」


 丁寧に御辞儀する魔女っ子トールン。

 肩の黒猫ロロも嬉しそうに、


「ンン、にゃあ~」

「ふふ」


 魔女っ子トールンは笑顔を黒猫ロロに向けた。

 素直に可愛い。ミスティとミナルザン以外は笑顔だ。

 そのミスティは、鋭い視線で分身体の魔女っ子トールンを見る。


「もう一度聞くけど、今の貴方と、このコアの中で眠る本体の魔霊魂トールンは意識を共有しているのよね?」

「はい」

「本体が、使役系の魔法かスキルと連動しているのかしら」


 すると、右腕のアイテムボックスの上に浮かぶアクセルマギナが、


「はい、素晴らしい魔法技術かと。現時点では、マスターがいるこの部屋のみの効果のようですが、分身体のボディが、原子の密集した極めて薄い結晶格子が何重にも積み重なった次元拡張格子を備えているからこそ可能な感覚共有と推測します」


 遺伝子ターゲティングを施してあるとは思うが、一種のアバターか。


 俺の知る日本、地球では、他者の体の感覚を共有できる『bioSync』や宙空に触角を生み出すハプティック技術など、脳に極小サイズのインプラントやマイクロチップの電極を埋め込んで『brainternet』などを用いた『ニューロコンピュータ・インターフェース』は開発されていた。

 

 PTSD治療などの難病の治療に使える優れた技術だった。

 ビーサが得意としている宇宙船操縦技術もこの技術と関連してそうだ。


 が……何事にも裏があるからな。

 そして、その関係に連なることで、爺ちゃんと近所の人が集団ストーカーのチラシを持ちつつ、


『屑な者たちが被害者を付け回し、リレー方式でSNSを使い、被害者が何を着ているのか画像共有か。それでいて公権力に通報し、その内部の腐った者が被害者に対してつけ回していると謎のアピール。犯罪者としてのレッテルを貼るための行動を被害者に促す、と。偽旗作戦に利用したりと、屑な宗教組織などが関わっている? SNSで嫌がらせのための募集を募るか。こういった連中が社会を腐らせる原因だな……一方的な見地から、金だけのために、人権を無視し、防犯パトロールといった名目で不正に顔認証を店に登録とは……こそこそと嫌がらせのために行動し、金を払う側も仕事としてもらう側も、宗教的な理由付けがあろうとも、呆れてものが言えない。性根が腐った連中だ。かならず、その者たちには、なにかしらの天罰が下るであろう』


 と、管理社会、スーパーシティ法案にも繋がることを指摘していたな。


 さて、昔のことを思い出しても仕方がない。


 魔女っ子トールンは、


「外典・宝玉システマの魔術書と闇渦のライマゼイの技術と、<魔霊魂>を用いたスキルの結果です」


 と発言。すると、キサラが、


「ここで光神教徒アブリムと繋がる……」


 大魔術師ケンダーヴァルが使ったらしい外典・宝玉システマの魔術書か。


「外典が入っていないが、宝玉システマは四天魔女ラティファさんが調査していたんだったな。そして、光神教徒アビリムの名もその時に聞いた」

「はい、光神教徒アビリム。光神ルロディスの八大使徒と目される聖者で、エデンの果実を授かった人物」


 頷いていたミスティが、


「なら、大魔術師ケンダーヴァルは、光神教徒の一人の可能性もある?」

「……」


 少し間が空いて、俺を見る皆。ミナルザンは相棒を凝視。


 相棒も興味深くミナルザンを見ていた。ミナルザンは『もぎゅ』っている。


 皆の視線の先は、俺の胸元。<光の授印>があるからか?


 違うだろってことで頭部を左右に振ると、皆は魔女っ子トールンに視線を向けた。


 その魔女っ子トールンが、


「……覚えている大魔術師ケンダーヴァルは……光属性の魔法を扱えていました。しかしながら、光神教徒……? それはないと思います。どちらかと言えば魔界セブドラ側かと。<血魔力>が必要な魔界四九三書の〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟のほうを使いこなしていましたから」


 大魔術師ケンダーヴァルは俺たちと同じく光属性と闇属性を持つ?


 それとも<火焔光背>のようなスキルを持つのかな。


 すると、ミスティが、


「……魔界四九三書。吸血神ルグナド様繋がりか。魔塔ゲルハットの権利を持つ高位魔力層のマスターの血、わたしたち光魔ルシヴァルの<血魔力>に、コアが反応を示す理由に繋がるわ」


 ミスティの言葉に皆が頷いた。

 床に落ちた霜と触れたヴィーネとキサラの<血魔力>への反応にも通じるか。


「〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟を使いこなす大魔術師ケンダーヴァル……かなり手強そうな印象です」


 相棒とミナルザンと魔女っ子トールン以外の皆が頷いた。


 キサラはミナルザンをチラッと見て、


「……はい、同時に嫌な予感がします」


 地底神ヒュベアコモの秘宝が欲しいからと、一方的に【外部傭兵ザナドゥ】を魔塔ゲルハットに閉じ込めたからか。が、どうして閉じ込めたままなんだろうか。

 大魔術師ミユ・アケンザと争いでもあったか?

 途中で中断したままの理由が気になる。

 この辺りは大魔術師たちから話を聞かないと分からないな。


「では、大魔術師ミユ・アケンザの手記と被りますが、本来は、魔界四九三書の〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟は、吸血鬼たちが持つべき秘宝のはずです。そこから推測しますと、大魔術師ケンダーヴァルは、十二支族の吸血鬼たちと争いがあった?」


 聡明なヴィーネが発言。


 魔女っ子トールンは、眉間に皺を寄せつつ、


「大魔術師ケンダーヴァルは、滅びた支配層エンティラマの子孫であると名乗っていたことがあります。ヤーグ・ヴァイ人に似た能力も使うことができました。そして、フクロラウドの名を通し……様々なコネクションを利用しながら、魔軍夜行により滅びた都市を旅したと。そして、始祖の十二支族のパイロン家に手を貸した際には、<魔法陣・覇黙デアガメスス>を使用、戦いに勝利を齎した。報酬として、正式にもらい受けたモノが、〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟だと聞いています。本当にもらい受けたモノかは知りません」

「「ええ!?」」


 驚きだ。

 フクロラウドの名も驚き。

 

 まさか、大魔術師ケンダーヴァルはフクロラウドでもある?

 ヤーグ・ヴァイ人に似た能力って変身できるってことだろうし、厄介だ。

 そして、クナと知り合いの【八巨星】の一人か?

 

「にゃご!」

 

 肩の相棒は俺の声に驚いて、猫パンチを浴びせてきた。


 少し後頭部が痛かったが、可愛いから許す。


「パイロン家に手を貸した……」

「フクロラウドの名も驚き」

「はい……」

「その名については、もうじきサイデイルに帰還する暗黒のクナから聞かないとね。そして、ハルゼルマ家は、古代狼族やそのパイロン家などとの争いで滅びた吸血鬼一族の名で、意外にマスターの部下に多い」


 ミスティの言葉に頷く。そして、


「ハルゼルマ家は滅びたと聞いているだけで、パイロン家の戦力に大魔術師ケンダーヴァルがいたとは聞いていないな……そして、ダンジョンマスターのアケミさんの部下、血骨騎士ミレイ、俺のソレグレン派の眷属の赤髪ヒャッハーのサルジンとスゥンも元ハルゼルマ家だ」


 と発言。

 ヴィーネも、


「はい、デルハウトと戦い、エヴァとも戦ったことのある<血文王電>を扱う黒髪の貴公子も、元ハルゼルマ家です」


 ……色々と繋がる。

 頷いていたキサラが、

 

「パイロン家から報酬として本当にもらったかは怪しいですが、大魔術師ケンダーヴァルが、秘宝クラスの魔界四九三書の血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズを持つには十分な理由ですね」


 もらい受けた話は俄には信じられない。

 奪った可能性が高いか。


「……納得だ」

「ンン、にゃお~」

「……黒猫ロロハ、言語ヲ理解? シカシ、何ヲ皆神妙ニ……話ヲ」


「ンン、ンン、ハッハッ、にゃぁ」

「ヌヌヌ、猫語ハ、ワカラヌ」


 ミナルザンには悪いが、説明は相棒に任せよう。


「そして、その血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズの名を聞くと、内臓、十二指腸の消化器を想像してしまう」


 そう発言すると、ヴィーネが、


「では、魔界四九三書の血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズは、吸血神ルグナド様の内臓を意味する? もしくは、元々の内臓が変化を?」


 皆、微かに頷いた。

 

 血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズは、元々、吸血神ルグナド様の十二指腸って可能性か。


「はい、魔界セブドラにも神々の争いがありますからね。その余波はどんなことになるのか……」

「ご主人様が持つ宵闇の指輪を思い出しました」

「吸血鬼を普通の種族に戻すという秘宝、スロザの鑑定結果もそれらしい内容だった」


 頷いた。


「大魔術師ケンダーヴァルは、そんな大層な魔界四九三書を使いこなすことが可能だから、コアとこの魔塔ゲルハットの建築に加わったんだな」

「はい。他にも理由はあるとは思いますが」

「ヴィーネも指摘しましたが、【第六天魔塔ゲルハット】の建築に加わったその大魔術師ケンダーヴァルは、光属性も使えるようですから、敵となるのなら強敵です」

「あぁ、厄介だな」


 外典・宝玉システマの魔術書は光属性の魔法書だろう。


 聖書的なイメージ。

 神聖書という書物もあることは知っている。


 宗教国家ヘスリファート、神聖教会の勢力や関係者ではないと思うが、光属性と闇属性を扱うことが可能な大魔術師ケンダーヴァルということだ。


 先も思考したが……。

 <火焔光背>などがあれば、属性を持たなくとも、その属性の魔力を吸収し、体にリスクはあるが、再利用は可能。


 そして、まだスキル化できていないが、<魔手太陰肺経>などもある……。


 アイテムなどを活用する方法もあるだろう。


 陰陽太極図的に、陰陽、光と闇が混じり合うことを研究する大魔術師がいても不思議ではない。占いなら陰陽道が有名か。

 陰陽五行説。

 更に、八卦とかな。易の卦。

 陰陽二種の爻(こう)の形象。

 二ビットワード、三ワードブロックという形式。

 同時に人間のDNAに共通している。

 森羅万象を説明する易経は、かなり凄いから、興味深かった。

 

 八卦にはDNAの暗号が含まれているとされた話は知っている。

 

 DNAの塩基は四つ。

 コドンのmRNA上の遺伝暗号の単位、三個一組の塩基配列は、4の3乗、トリプレットで64種類。


 易経も64。


 陰・陽は、

 老陽(夏)。

 少陽(春)。

 少陰(秋)。

 老陰(冬)。


 の四象。

 乾、兌、離、震、巽、坎、艮、坤。


 八卦、八卦を互いに相重ねれば……六十四卦となる。


 南マハハイム地方だと……。

 

 陽夏=夏。

 金牛=春。

 枯秋=秋。

 厳冬=冬。


 九十日で変わるんだったな。ま、これは関係ないか。


 ふと、ユイと過ごしたゾルの屋敷で見つけた魔法基本大全の事典を思い出す。


 パブラマンティの言葉に……。


 ※但し、これはあくまでも一般論。スキル、精霊、神々、魔道具の要因によって成長具合や魔法の発動も変化を遂げることがあることを覚えておくのが良いだろう※


 そして、


 ※二十四次元界からの簡略魔法因数モデルの引き出し方、ブレーン界との干渉と魔力溜まりの衝突※

 

 などに、天文学的な概要もあった。

 最後のほうは難しすぎて読んでいなかったが……。


「ンン」


 と、耳朶に猫パンチを受けた。が、構わず、


「もう一つ聞こうか。魔霊魂トールン、君の本体が眠る漆黒のコアの表面にグラフィカルな文字で『二十三』が浮かんでいたんだが、なんの意味だ?」

「それは個体識別番号。ですが、わたしにはトールンという名があります!」

 機嫌を損ねた?

「へぇ……」


 さて、模擬戦をやろうか。とは言わない。


「ミスティ、俺たちは上に戻るが」

「あ、うん。トールンちゃん。ギュスターブの名は本当に知らないのよね」

「はい」

「本体も貴方も、<金属融解・解>や<超・魔金細工>に<素材精錬>を使って中身を見たい気持ちもあるけど、生きているなら使えない。それに……そこの魔力送管は、試作型魔白滅皇高炉のコントロール場と通じているんでしょ?」

「はい」

「うん、やっぱり。魔力送管の素材入れの中に生体金属の欠片と塊があったからね。なら十分。マスター、戻ろう。色々とあったし、まったりしたいでしょう?」

「おう」


 んじゃ、戻るか。少し横になりつつ、ルシェルに連絡かな。

「ンン」

「なんだ、頭を撫でろか?」

「ンン、にゃお~」

「――尻尾で首をくすぐるなっての、まったく、耳を引っ張ってやる!」

「――にゃお~」


 逃げた。コアルームの出入り口から廊下に出た黒猫ロロさんだ。

 鼻先をくんくんと動かしている。空気の違いを感じているようだ。


「では、魔女っ子トールン。俺たちは上に戻るとする。センティアの部屋の移動で【幻瞑暗黒回廊】を利用する機会があると思うから、また今度な」

「はい、高位魔力層のご主人様、魔塔ゲルハットをよろしくお願いします」

 

 魔女っ子トールンは礼儀正しい。その魔女っ子トールンは一瞬で、複数の管理人たちの姿になって消えた。


「それで、マスター。ミナルザンって名前のキュイズナー標本だけど」

「……ヌヌ」

「クナのような話はナシだ」

「ふふ、分かってる」


 ミナルザンが一瞬過呼吸気味に見えたが、


「ミナルザン、上に行くからついてこい」

「ワカッタ、シュウヤ」

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