八百二十三話 魔神帝国の勢力との協定情報と<絶対防衛トールン>

 見るだけだと思っていたが、


「見るだけのつもりだったが、コアの魔霊魂トールンが気になる。この地下のコアルームに入るぞ」

「ふふ、はい」

「はい、シュウヤ様ならそう言うだろうと思っていました」

「異界ノ部屋ニ入ルノカ?」

「独自のナノセキュリティを感じます。直方体の中には魔素の生体反応があります」


 アクセルマギナの機械音声が響く。

 先に部屋に入った。遅れて皆が付いてくる。


「人体の模型図、設計図でしょうか。この未知の魔法陣は……大魔術師アキエ・エニグマが用いていた召喚系に使う魔方陣と似ています」


 キサラがそう指摘したのは、マクロコスモスとミクロコスモスのような半透明な幻影だ。その黄金比率を感じさせる魔法陣に触れたが、魔法陣は透ける。

 

 床で踊っていた管理人たちは腕を伸ばした俺と同じポーズを取った。


 すると、そのマクロコスモスとミクロコスモスのような幻影は漆黒の直方体の上部と下部の窪みの中に吸い寄せられていく。

 管理人たちはコミカルな動きで、その吸われつつ収縮し歪んだマクロコスモスとミクロコスモスのような幻影を追った。

 マクロコスモスとミクロコスモスのような幻影は漆黒の直方体の中に消えた。


 管理人たちは、直方体を触っていた。

 なんか儀式のように見える。


「魔方陣は消えてしまいました」

「ングゥゥィィ、マリョク、少シキエタ」

「シュウヤ、幻獣ガ一体増エタ!」


 竜頭金属甲ハルホンクに反応するミナルザン。

 ハルホンクとは仲良くなれそうな気配があるが。


「あぁ、漆黒の直方体に触れてみる」

「はい」


 電弧放電の魔線は俺だけに集中している。

 その電弧放電を浴びるように、直方体を囲うケージングを見ながら漆黒の直方体に近付いた。


「右肩ノ竜ガ魔力ヲ吸収? シュウヤハ平気ナノダナ? 魔線ニハ、雷撃ダメージガアリソウダガ、ア、ソウイエバ、戦イノ時、我ノ雷ノ魔力ヲ浴ビテモ、平気デアッタナ……」


 ミナルザンは放電魔線についてヴィーネ曰く『もぎゅもぎゅ』と語る。

 ヴィーネと目が合うと、不機嫌そうな面で、


「はい、もぎゅってます」


 と言った。思わず笑う。

 すると、キサラが、


「シュウヤ様とヴィーネ、中を見てください。漆黒の直方体の中で眠るのは少女でしょうか。コアの魔霊魂トールンの本体?」

「たぶんな」


 漆黒の直方体の中で眠る少女か。更に、俺たちは、その直方体に近付いた。

 漆黒の直方体の表面にグラフィカルな文字で『二十三』と数字が浮かぶ。


 更に、亀裂のような霜が走る。瞬く間に、直方体は霜に包まれた。


 女性の姿は見えなくなった。

 その霜からチョークの粉のようなモノが斜め前方に降り注ぐと、粉の中に魔女っ子、魔霊魂トールンのホログラム的な映像が映し出された。


 先ほどの廊下や地下防衛機構の見た目より、今回のほうがリアリティは高い。


 俺の知る日本にほんにありそうな黒色のカーディガンが似合う。


 しかし、露出した腕と足は透けている。

 蛍光色の透けた血管が脈動していた。武器は光る棒か。


 その魔女っ子、魔霊魂トールンはお辞儀。


 下の管理人たちも、振り返って俺たちにお辞儀をする。

 魔霊魂トールンは頭を上げると笑顔を見せてくれた。


 すると、ホログラム的な魔霊魂トールンに管理人たちが吸い寄せられて融合。


「なんと!」

「おお、体かよ、しかも血管が見えてる」

「リサナや精霊様的な体を瞬時に構成? 武器は光る棍? 黒魔女教団にはない棍です」


 魔霊魂トールンは不可思議な体を得る。

 皆と同じく驚きつつ、ミナルザン以外はその魔霊魂トールンに礼をした。


 頭を上げてから、魔女っ子の魔霊魂トールンを凝視。


「魔霊魂トールン、喋れるかな?」


 魔霊魂トールンは、魔女がかぶるような三角帽子を片手で取る。

 その帽子を消した魔霊魂トールンは、


「はい、喋れます。先ほどは分身がお世話になりました、高位魔力層のご主人様」


 透き通った声も先ほどの防衛機構の分身体と同じ。

 髪の毛は銀と黒が混じる。瞳は銀灰色。

 ヴィーネの瞳の色に近いか。

 カーディガンといい、近未来の魔女的な格好だ。

 

「魔霊魂トールン。その新しい体は、ある種の分身体か、クローン技術?」

「クローンが分かりませんが、管理人たちを使った分身体が、今のわたしです。勿論、地下の防衛機構の分身体よりも強いです」

「魔霊魂トールンを造ったのは大魔術師ケンダーヴァル?」

「はい。大魔術師ケンダーヴァルは、宝玉システマと闇渦のライマゼイの技術の一部を流用した物がわたしだと仰っていました。背後のコアとして眠る本体もです。大本の記憶は、闇の中を彷徨っていた……ぐらいです」

「宝玉システマと闇渦のライマゼイの技術の流用だと? 偽宝玉システマの名は知っているか?」

「光神教徒が残した外典・宝玉システマの魔術書の技術の一部と聞いたことがあります」


 一瞬、間が空いた。ヴィーネとキサラは驚いている。


「ご主人様……偽宝玉システマと魔霊魂トールン、では、地下のゼレナードが破壊した星鉱独立都市ギュスターブと繋がる?」


 鳥肌が立った。


「あぁ……」

「魔塔ゲルハットも巨大。地下の塔のようなギュスターブの施設も魔神具でした」

「地下の偽宝玉システマの奥にあった縦長の施設は、ギュスターブの一部だったようだが……塔にしか見えなかった。高位魔力層の言葉といい、色々と、この魔塔ゲルハットと繋がる」


 ……ゼレナードが造り上げた地下施設の元々は星鉱独立都市ギュスターブ。

 そして、ミスティ・ギュスターブの祖先だった偽宝玉システマとの会話では……。



 ◇◇◇◇



『――高位魔力層よ、汝の名はシュウヤなのだな?』


 と、古い口調で聞いてきたっけ。

 偽宝玉システマの頭部は、魔霊魂トールンのように少女のような姿ではなく、成人女性だった。


 魔眼を使った偽宝玉システマ。

 瞳孔の中にΩ、α、♯、∴といった様々なマークが規則正しく並んでいた。

 

 ミスティの額にあるマークもあった。


『その高位魔力層総称の中に、ゼレナードとアドホックがいるのか?』

『否、ゼレナードとアドホックは高位魔力層の最上位。偽宝玉システマを、我を作り上げたのは、ゼレナードとアドホックなのだ』

『ゼレナードたちが作り上げた偽宝玉システマに俺の魔力が食い込んだか。干渉したのか?』

『そうだ。なんらかのスキルを用いたのではないのか』

『使っていない……』


 更に、その後、血の涙を流す偽宝玉システマ。


『やっと死ねるのだ。この地獄の日々から、解放される……』

『しかし……』

『否、我はゼレナード&アドホックが無数の人々を無残にも白色の紋章と化すことに力を貸した。魂を奪うことに協力した罪深い魔神具が、この偽宝玉システマなのだぞ!! だからこそゼレナードの道具と化した領主と種人たちを殺してくれて……感謝しているのだ』


 あの時、双眸から血の涙を流し続けていた偽宝玉システマは……。


『感謝か……』

『うむ。絶対防衛機構は破られ散った。そこの偽宝玉システマから出ている頭部だけの領主たちもシュウヤに倒され本望だろう。そして、じきに我も、この偽宝玉システマとしての<絶対防衛ギュスターブ>が終わる』



 ◇◇◇◇


「……魔霊魂トールンもギュスターブ一族なのでしょうか」

「額に魔印はないから違うだろう」

「魔霊魂トールン、ギュスターブの名は?」

「知りません」

「ゼレナードとアドホックの名は?」

「その名は覚えています。【九紫院】の離脱者、大魔術師ミッシェル・ゼレナードですね、アドホック・グレイホークはガーディアンズの離脱者。どちらも行方不明のままのはず」

「そいつらは倒した」

「な! 【九紫院】の離脱者を……大魔術師ケンダーヴァルでさえ逃がした存在たちを倒したとは……さすがは高位魔力層のご主人様……」


 驚いている魔霊魂トールン。


「魔霊魂トールンが造られたのはいつぐらいだろう」

「相当古い、としか分かりません。魔霊魂トールンとしての本体も眠っているように、魔塔ゲルハットを管理する機能が殆どです。そして、魔塔ゲルハットの権利者が変わるごとに、古い情報はかなりの部分が消去されます。ですので、魔塔ゲルハットの各部屋の管理は完璧ではありません」


 大魔術師ミユ・アケンザが造り上げた魔増築部屋と繋がるか。


「分かった。とりあえず、ミスティを呼ぶ」

「そうですね」

「はい」


 血文字で、


『ミスティ、魔霊魂トールンとはまだ会ってないんだろう?』

『うん』

『俺に反応して管理人たちの魔力を使い体を構成した魔霊魂トールンは、ゼレナードとアドホックを知っていた。そして、大魔術師ケンダーヴァルが魔塔ゲルハット用に魔霊魂トールンを造ったようだ。で、星鉱独立都市ギュスターブを潰したゼレナードとアドホックの名を覚えていた』

『ちょっと! びっくりドンキーよ! 蛸の頭のキュイズナーより驚き!』


 ハンバーグは美味しいってボケても仕方ない。


『おう、植物園の周囲にいるだろう相棒を呼んで背中に乗せてもらえ』

『うん』

『相棒なら必要ないが、広いからな、<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を行う』

『分かった』


 ――<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>。


「ヌヌ? <血魔力>カ! 不思議ナ匂いダゾ!」


 ミナルザンの足先の形が少し変化した。

 骨も武器になりそうだな。

 俺との戦いでは剣術に拘っていたのか。

「そうだ。今、<筆頭従者長選ばれし眷属>を呼んだ。ミスティと相棒が来る」

「ミスティトアイボウカ」


 さて、ミスティが来るまで、魔霊魂トールンに、


「大魔術師ケンダーヴァルは【幻瞑暗黒回廊】を利用している?」

「利用しているとは思いますが、管理者はもう何代も代わっているので詳しくは分からないです」


 頷いた。


「覚えている範囲で、地下防衛機構の分身などの情報も教えてくれ」

「はい、【幻瞑暗黒回廊】を守る魔霊魂トールンの分身よりも、アギト、ナリラ、ナリラ、フリラ、アギトナリラ、ナリラフリラなど、複数の管理人たちの魔力と融合したわたしのほうが強いです。背後のわたしの本体が眠るコアを守る<絶対防衛トールン>がわたしです。しかしながら、この場限定での体の<絶対防衛トールン>となります。そして、高位魔力層のご主人様がいた場合限定で、メリス魔板、ウォルフラム魔鋼、エセル魔方陣の能力が多重に付加されて、わたし<絶対防衛トールン>は強まります」


 手に持つ輝く棍が渋い。

 槍使いなら模擬戦とか考える俺も槍武術馬鹿だ。


「魔力ガ濃厚ナ、未知ノ体デアルノニ、光ル棍ヲ使ウノカ……シュウヤト同ジ槍使イ?」


 未知か。

 ミナルザンも未知の体だろう。

 と言ったツッコミは入れない。


 そのミナルザンも驚いている。


 ヴィーネが、


「一階から中層までのコアは魔霊魂テフ=カテと聞いている。ご主人様が傍にいれば、その魔霊魂テフ=カテも部屋の中で姿を保てる?」

「はい、そのはずです」

「魔塔ゲルハットには強力な守りがあるのですね。【魔術総武会】の重要施設なだけはある。納得です」


 二人の言葉に頷いた。


 霜が走る漆黒の直方体を見ながら、


「アギト、ナリラ、ナリラ、フリラ、アギトナリラ、ナリラフリラの管理人たちは、それぞれのコアの力になるってことなのか」

「はい、魔霊魂テフ=カテ、第六天霊魂ゲルハットなども姿を、わたしと同じくコアルーム内なら<絶対防衛>として体を得ることができるはずです」

「へぇ」

「コアはそれだけ大事であると分かります」

「魔塔ゲルハットの不思議な管理人たちの能力の一端を理解しました」


 ヴィーネとキサラの言葉に頷いた。

 そのキサラが、


「シュウヤ様、コアルームの奥を見てきます」

「おう」


 キサラは、直方体の裏側をぐるっと回っていた。

 この地下のルームは広くないから、すぐにキサラの顔が見えた。

 

「コアは凍ったようにも見えますが、活発な魔力の循環は変わらず、そのコアの直方体の裏側からは一切の魔力が放出されていません」

「高度な技術力が使われた証拠です」


 右腕の戦闘型デバイスの上に浮かぶ小さいアクセルマギナもそう発言。


「了解」


 キサラはヴィーネの隣に戻る。

 と、直方体の真下に溢れ落ちた霜の魔力に<血魔力>を当てていた。


 ヴィーネも頷いて指先から<血魔力>を放出。

 

 キサラとヴィーネの<血魔力>に呼応したように、床から半透明な管理人が出現。

 

 今までと違う管理人。

 デボンチッチ風、機械の人形っぽさもある。


 不思議な管理人はスッとした動きで二人の<血魔力>をすり抜けて、消えては、再出現を繰り返す。


 ミナルザンは体を震わせている。


 不思議な光景を見ながら魔霊魂トールンに視線を移しつつ、ミスティ以外にも、


『皆、ミスティから聞いていると思うが、地下のコアルームに入ったら、そのコアの魔霊魂トールンが、自分の本体の体を守るための、管理人たちを吸収して作る<絶対防衛トールン>の体を得た。そして、俺がコアルームに入ると強まるようだ』


 血文字を皆に送る。

 すると、エヴァが、


『ん、分身は分身でも、地下の防衛機構の分身体のトールンちゃんと、その<絶対防衛トールン>の体のトールンちゃんは異なる?』

『そのようだ。一階から中層のコアである魔霊魂テフ=カテも、最上階付近のコアの第六天霊魂ゲルハットも、同じように<絶対防衛>として体を得られるらしい』

『ん、理解した。魔塔ゲルハットは、それだけ凄い施設。大魔術師アキエ・エニグマたちからも詳しく説明が聞きたくなった』

『あぁ、これから大魔術師ケンダーヴァルのことも聞いてみるつもりだ』

『ん、分かった。今、ミスティの気配は遠くなったから、ロロちゃんと一緒に移動中のはず』

『おう』

『ん、硝子の出入り口付近で、ミスティの紅茶を奪うようにがぶ飲みしたロロちゃんが可愛かった。そして、精霊様から水飛沫を受けて魔力を得ていたロロちゃんは、大きな黒豹に変身したの、橙色の魔力も発して格好良かった』


 ヘルメの水か。

 犬のように体を振動させて毛から水飛沫を飛ばす姿を想起した。

 

 猫、もとい、動物好きとしては、見たかったかもしれない。


 続いて、レベッカから、


『ミナルザンといい、魔塔ゲルハットの重大な秘密の一つは気になる』

『エヴァと一緒にレベッカも来るか?』

『ううん。キュイズナーの【外部傭兵ザナドゥ】と戦闘になったと聞いた時は、皆で行こうかという話もあったけど、少し広すぎるから今度にする』

『ユイもそこかな』

『うん。皆と一緒に、硝子張りのソファー椅子で、植物園の花々を見ながらの紅茶タイムで、まったり中よ』


 そのユイが、


『朝には、【宿り月】と魔塔ゲルハットを結ぶ巡回ルートからメンバーたちが帰ってくるはずだから、猫好きの空戦魔導師のビロユアンも交渉が上手く行っていればそろそろかな』


 と、血文字を寄越してくれた。


『了解』


 続いて、レベッカが、


『ちゃっかりカボルもいるからね。あと、ロロちゃんと精霊様は、植物園付近で楽しそうに追い掛けっこして遊んでいたんだ。でも、ミスティが呼んだら急いで走ったロロちゃん。姿が可愛いから嫉妬しちゃった。あ、ディアちゃんとビーサさんは、もう横になった』

『おう』


 血文字で簡単に情報交換してから、暫し待つ。

 

「魔霊魂トールン、今、<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人のミスティと相棒がここに来る、その本体を触ってもいいか?」

「はい」


 体がある魔女っ子のトールンの横を通る。

 コアの漆黒の直方体の表面には霜があるが、表面に指を当てると、指の範囲の霜が消えた――更に、指の波紋が表面に拡がって霜が消えていく。

 同時に振動を伴う電弧放電が走る。


「振動が凄いが、アクセルマギナ、大丈夫か?」

「ご安心を、どのような雷撃魔法だろうと、通じません」

「この、未来的な箱物にも見える動力源のコアをどう見る?」

「外側の一部には鉄とニッケル合金、ウォルフラム魔鋼にはチタン系の生命因子配列が刻まれた魔素反応とエレニウム粒子もあります」

「シュウヤ……凄マジイ雷ノヨウナ魔線ヲ浴ビテイルガ、アァ、コ、コレガ、噂ニ聞ク、ダークエルフノ拷問部屋デアルノカ!」


 ミナルザンは混乱中か?


「もぎゅもぎゅとうるさい」


 ヴィーネが怒る。


「ヌ? ダークエルフ、怒ッタノカ? 我ハ捕虜ト同ジ。生皮ヲ剥グツモリダナ?」

「何を語っている……」


 ヴィーネはミナルザンを睨む。


「契約ガ不可能デ、精神耐性ガ高イキュイズナーハ、大抵、厳シイ拷問ノ末ニ……モンスタート魔融合サセラレルト聞イテイル……」


 ダークエルフに捕まった場合か。

 ミグスの一件を思い出す。

 魔神帝国側のキュイズナーもひどかったが、どっちもどっちか。


「……」


 ヴィーネは睨みを強めてしまった。

 

「ミナルザン、動揺して混乱気味な状況だと分かるが、先の会話を忘れたか? ミナルザンのことは自由だと語っただろう?」


 そう発言すると、ミナルザンは頷いた。


「……理解シテイル。ガ、余リニモ、不思議ナ出来事ガ、続イテイル……」


 たしかに、強者の傭兵として生きてきたキュイズナーには驚きの連続か。負けることも早々なかっただろうし。


 更に、地下のコアの直方体も不思議だ。

 表面には無数の霜が走り、放電も放つ。

 

 内部には魔霊魂トールンの本体も眠る。

 しまいには、その本体の分身体の魔霊魂トールンは、管理人たちと融合して体を得たからな。


「気持ちは分かるが、そう心配するな」


 隻眼のミナルザンは片方の瞳をギュルッと回している。

 眼球の動かし方が、アジュールと似ている。


 瞼は銀色で眉毛と睫毛もある。

 生物学的に気になる眼球で、蛸系の頭部だ。

 

 その動揺しているミナルザンが、

 

「……実ハ我ハ、大魔術師ケンダーヴァルノ罠ニ嵌マリ、魂ダケノ存在トシテ……大魔術師タチガ造ル幻影ニ惑ワサレテイル?」

「違うと言っているだろう」


 しかし、幻術もリアルを超えると、そんな感覚になるのかも知れない。


「我ハ……ソレラノ大魔術師タチニ、生皮ヲ剥ギ取ラレルノデハ? 我ハ、精神汚染ヲ超エタ拷問ヲ……」

「ミナルザン、安心しろ。俺たちは大魔術師ケンダーヴァルではない。そしてここは異界ノ部屋ではない。地下のコア魔霊魂トールンだ。拷問部屋でもない。俺も幻ではない。ダークエルフの魔導貴族の司祭たちや魔神帝国のキュイズナーの魔術師が行うような精神汚染もない」

「フム……」

「その腰に戻した獄炎光骨剣の感触は偽物か?」


 ミナルザンは、腰ベルトの剣帯に戻していた獄炎光骨剣を触る。


「……否、獄炎光骨剣は本物デアル……シュウヤ、混乱シタ、スマナイ」

「おう。徐々に慣れてくれればいい。で、そこの直方体の地下のコアは、魔塔ゲルハットを支える魔力源の一つ。魔神具の一つと言えば分かるか。魔塔ゲルハットは巨大な建物なんだ」


 ミナルザンは頷いた。


「魔神具……驚キダ。ケルンノヨウナ道標デハナイノダナ。地底神ヒュベアコモ様ヲ降臨サセルタメノ魔道具ト同ジカ。地下神殿ノヨウナ場所……少シ理解シタ」


 ミナルザンもなんとなく理解したようだ。


 ヴィーネはミナルザンを睨んだままだ。

 ヴィーネは、俺がミナルザンを仲間にしたことを喜んでくれていたが、あまり好んでいないようだ。


 キサラもヴィーネの視線に気付いたのか、


「ヴィーネ、外部傭兵とはいえ、キュイズナーはキュイズナー。魔神帝国の印象は拭えませんか」


 キサラの発言にヴィーネはゆっくりと頷いて、


「……幼い頃を思い出してしまうのだ」


 あぁ、そうだった。

 キサラは頷いて、


「アズマイル家の……」


 ヴィーネは神妙にもう一度頷いた。


「妹たちと出来損ないの弟たちと共に【暗黒街道】を通り抜ける試練」


 ヴィーネは弟妹を……。

 ヴィーネを見ながら、


「無数のモンスターたちと激闘を繰り広げたサバイバルだったんだよな」

「はい、妹と弟を、闇虎ドーレ、戦獄ウグラ、アービター、蟲鮫、闇獅子ダークブレズム、【魔神帝国】のキュイズナーなどに……」


 ヴィーネはそう語りつつチラッとミナルザンを見る。


 ミナルザンは『もぎゅ』と口元の触手を動かし、隻眼の片目をギョロリと動かして、『なんだ?』という顔付きだ。


 人族に似た眉毛部分の産毛の色合いが面白い。未知との遭遇すぎる。


 ヴィーネは俺に視線を戻し、


「はい、何度も、洗脳を受けた妹と弟を間近で……」

 

 ヴィーネは昔を思い出しているのか。銀色の瞳をうるうるとさせる。

 

 泣かせるつもりはなかったが……。


「ヴィーネ、すまん。ミナルザンを見る目がそうなるのも頷ける」


 ヴィーネは頭部を少し振るってから、


「あ、ご主人様はお気になさらず。ミナルザンを恨んでいるわけではないのです」

「それは分かっているつもりだ。幼い時からの環境と教育は、そうそう拭いきれるモノじゃない」

「はい……しかし、ミナルザンは、わたしの知るキュイズナーではない。当時のキュイズナーでもない。キュイズナーもダークエルフ、いえ、すべての知的生命体と同じ……善と悪に長所短所を併せ持つ存在です。更にミナルザンは仲間のために命を懸けた。素晴らしい戦士。更に、大切な武器に誓って、わたしのご主人様に降伏を行った」


 頷いた。


「ご主人様も受け入れた強者がミナルザン。ですから、わたしも光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人として受け入れます――」

「フム、ヴィーネ、我ノ事ヲ語ッテイルナ? 地下都市ゴレアノダークエルフノ魔導貴族タチヨリ美形デアル」


 と、ヴィーネの喋っている途中で、ミナルザンが発言。

 ヴィーネは溜め息を吐いて、


「……しかし、何度も言いますが、あの口元の触手が蠢きつつ『もぎゅもぎゅ』という声が響くと、どうにも……思い出してしまって」


 ヴィーネの態度は厳しいが、笑みには優しさが混じっている。

 俺には分かった。

 辛い過去があってもミナルザンを受け入れようとしてくれているんだな。

 

 自然とヴィーネを抱きしめていた――。


「あ、ご主人様……」

「気を張り過ぎるな。ミナルザンは降伏したが、イヤならイヤでいい」


 ぎゅっと抱きしめる。


「……ぁ、はい」

「ふふ」


 ヴィーネは俺の胸元に顔を預けた。

 長い耳がピクピクッと動いているから息を吹きかけたくなったが、自重した。


 キサラも笑顔。

 傍で『もぎゅもぎゅ』と口元の触手を動かすミナルザン。


「サキホドノ接吻トイイ、光魔ルシヴァルノ性行為ヲ、ココデ行ウノカ?」


 ふいた。

 隻眼キュイズナーも真面目な発言なんだと思うが、少し笑ってしまう。


「しねぇから。ヴィーネの過去は見て分かるようにダークエルフ、魔導貴族の一員。だからミナルザンを見ると、地下社会で過ごしてきた争いや古傷を思い出すようだ」

「……過去カ、血戦ノ連続ハ地下社会ノ常。納得ダ」


 隻眼のミナルザンの表情は渋い。

 口元の触腕が収斂。

 普通の人族系の口に変化していた。

 

 夏侯惇キュイズナーで渋い。

 魚人海賊のイケメン中年に見えなくもないか。


 そのミナルザンに、


「ダークエルフなど、複数の地下の共同体と魔神帝国の争いは、どれほどの規模なんだ?」

「魔神帝国の諸勢力同士デモ争イガアル。独立都市毎ニ異ナル。広大過ギテ、分カラヌ」

「分かる範囲で頼む、ダークエルフの魔導貴族とは?」

「争イハ多い。ガ、【地下都市ダウメザラン】ノ魔導貴族トハ、個別ニ協定ヲ結ンデイル勢力ガイタ」

「協定か。ヴィーネも前に言っていた」


 ヴィーネを見ると、


「ご主人様?」

「あぁ、今、魔神帝国の中の勢力が、どのダークエルフの魔導貴族と協定を結んでいるんだ? って話になった。だから現在ヴィーネが知り得る範囲でいいから、協定を結んでいるだろう魔導貴族の名を教えてくれ。ヴィーネなりの推測でいい」

「ハッ――」


 ヴィーネは軍隊式の挨拶。少しレアなポーズ。

 アズマイル家の挨拶かな。

 そのヴィーネが、


「前のミグスの話と合わせて、現在知っている魔神帝国の勢力と協定を結んでいるだろう魔導貴族は……【第六位魔導貴族アソボロス家】、【第七位魔導貴族リジェ家】、【第八位魔導貴族サーメイヤー家】、【第九位魔導貴族ラマルアル家】、【第十位魔導貴族グマチュツイ家】の筈です。上位の魔導貴族たちも魔神帝国の勢力と組むことはありえます……【外部傭兵ザナドゥ】のように外部傭兵も様々。正直、すべての魔導貴族たちに可能性があるかと」


 そう発言。そりゃそうか。

 地下社会の闇ギルドもある。

 秘密結社のようなはぐれダークエルフ集団とか、はぐれドワーフ、はぐれノームなども合わせたら、可能性は一気に拡がる。


 とりあえず、ミナルザンに向けて、


「地下都市ダウメザランの【第七位魔導貴族リジェ家】と【第六位魔導貴族アソボロス家】の名は知っているか?」


 と聞いてみた。

 ミナルザンはチラッとヴィーネを見てから、俺を凝視。

 そして、


「知ッテイル。【第七位魔導貴族リジェ家】ト【第六位魔導貴族アソボロス家】。魔神帝国ノ【外部傭兵ウロバトアス】ト【外部傭兵フスロシ】ガ協力シテイル」


 【外部傭兵ザナドゥ】のような存在は多いか。


「その外部傭兵にも【外部傭兵ザナドゥ】と同じく外部魔賢長や傭兵百兵長という位が存在する?」

「部隊ゴトニ異ナル、ガ、当然存在スルダロウ」


 ヴィーネとキサラは俺とミナルザンの会話を聞きながら、地下のコアがあるルームを見ていた。


「その【外部傭兵ウロバトアス】、【外部傭兵フスロシ】等の後ろ盾、または根城にしている地下都市、信奉している地底神の名は?」

「……【独立都市キプレット】ガ、根城。地底神バドアヌ様ヲ信奉シテイル」


 地底神バドアヌも、地底神ロルガのような存在なら強敵だな。

 独立都市キプレットも、独立都市フェーンのような魑魅魍魎の諸侯が棲むのなら、凶悪な地下都市が【独立都市キプレット】か。


「その地底神バドアヌも、キュイズナーと似た姿なのか?」

「不明ダ。バドアヌ様ヲ信奉スル第一梯団【魔雷散重兵】ト、ホームズンノ兵士ヲ率イル無架魔剣師ボナハン卿、ヲ、遠クカラ、見タコトガアル」


 無架魔剣師ボナハン卿は、ミナルザン的な存在かな。


「第一梯団【魔雷散重兵】とホームズンの軍隊を率いる無架魔剣師ボナハン卿の姿は、ミナルザン的な蛸と烏賊が融合したような頭部?」

「……我ト似て……マグル、ト似タ部分モ多い……ガ、キュイズナーニ変ワリハナイ」


 頷いてから、


「そのリギョホルン様がいる地下都市ゴレアは、魔導貴族のダークエルフが主勢力のはずだが」

「ソウダ。地下都市ゴレアノ【第十位魔導貴族ビカマイセン家】ト、我ラ【外部傭兵ザナドゥ】ハ同盟関係デアル。現在ハ、ワカラヌガ……」

「地底神ヒュベアコアモ様の秘宝、リギョホルンを守る契約をしたリギョホルン様はキュイズナーなんだよな?」

「ソウダ」

「これは答えなくていいが、その秘宝と同じ名のリギョホルン様は、秘宝その物? ダークエルフたちと情義の間柄の魔術師型のキュイズナーとか?」


 俺がそう聞くと、ミナルザンは少し動揺。


「……ソウダ」


 リギョホルンの細かいことはあまり言いたくないようだな。キュイズナーのカザネのような印象を抱いたが……まぁ、降伏したてだ。

 仲間に繋がる情報はあまり喋りたくないか。

 が、他にも地底のことで気になることがある。

 

「地底神セレデルの勢力とキュイズナーたちは、どんな間柄なんだ?」

「地底神セレデル! ソノ一派トハ戦ッタゾ!」

「地底神同士の争いか。獄界ゴドローンから出てきた勢力は一枚岩ではないんだな?」

「地底神勢力同士デ、仲間トナル場合モアル。ガ! 一枚岩デハナイ。基本ハ、地底神勢力モ弱肉強食ダ。鳳竜アビリセン、ノーム、ダークエルフ、魔界セブドラノ連中ト変ワラヌ」


 ミナルザンの解説に頷いた。

 ノームはドワーフたちと助けあっているようにも見えるが……。

 ヴィーネとキサラに、


「ヴィーネはよく知ると思うが、当初の予想通り、独立都市フェーンの内部で様子見していた勢力がいたように、地底神同士でも争いはあるようだ」

「はい」

「地上も広いですが、そういう話を聞くと、地底世界のほうが広大に思えてくる」

「キサラ、惑星セラは地下のほうが広大なのかも知れないぞ。巨大地球型惑星だからな。俺の知る地球にも空洞説があった」


 南極に超巨大隕石が衝突してできたウィルクスランドクレーターやら、リチャード・バード少将率いる連合軍が『ハイジャンプ作戦』を行っていた話は覚えている。


「はい……独立都市フェーンに向かう旅は凄かったですから、たしかにそうですね」


 キサラに頷いて、ミナルザンに、


「独立都市フェーンには、地底神ロルガなど、キュイズナーの大怪物が犇めいていた」

「……当タリ前ダ。独立都市フェーンニハ、力ヲ持ツ地底神ガ多イト聞イテイル。ソンナ独立都市フェーンヘト戦いヲ挑ンデ、生キテイル……シュウヤタチ、強者過ギル!」

「おう。皆のお陰でもある」


 すると、開いたままの出入り口のほうから、


「にゃごおおおお」

「きゃぁ、速いぃぃ――」

「にゃ?」

「って、急に止まるし、ロロちゃん、鼻が凄いくんくん動いてる! わたしも、って匂いは――」

「ンンン――」


 面白い。興奮した相棒の姿が目に浮かぶ。


「ヌヌ? ナンダ、身震イガオキル……」


 あぁ、ミナルザン、大丈夫か?

 なにも言わないと、相棒に食べられてしまう可能性が。

 ミスティもミナルザンに、腹の内臓を調べるから開腹手術をしましょう? 


 とか言いそう。

 そう考えていると、相棒を乗せたミスティが見えた。


「――やった。到着! 皆、あ、キュイズナーの標本! と、魔霊魂トールンの分身体の強いバージョンね!」

「ンンン――」

 

 相棒はミスティが降りると姿を普通の黒豹の大きさに戻しつつ――。


「きゃ」

 

 ミスティを退かして突進。

 

「ヒィィ、巨大闇虎ドーレガ!! シュウヤ! ヤハリ、ココハ罠ダナ!」


 ミナルザンの悲鳴が面白い。

 しかし、相棒の突進先は俺だ。

 ヴィーネは素早く、ミナルザンの長細い片手が触れた骨の柄巻に向けて、魔杖からブゥゥゥンと魔力ブレードを出していた。


「ミナルザン、その武器を抜けば、お前の片手を斬る」

「……ヒィィ、ダークエルフガ……」

「ミナルザン、罠ではないからな?」

「ンン――」

「よう――」


 胸に飛び掛かってきた黒豹ロロは黒猫に姿を収縮。

 その小さい黒猫ロロを抱きしめた。


 黒豹ロロでもいいが――黒毛のモフモフがたまらない。


「ンン、にゃ~~」


 俺の頬を一生懸命に舐めてきた。

 

「はは、ざらついて冷たい――」

 

 と、肉球を揉み揉みしながら黒猫ロロを抱いた。

 ゴロゴロの黒猫ロロエンジンが凄い音だ。


 黒猫ロロは勢い余って、俺の耳朶を噛んできた。

 甘噛みだが、くすぐったい。


「くすぐったいぞ」

「にゃ」

「ふふ」

「退かされたけど、その可愛い姿を見ちゃうとたまらないわね」

「ロロ様、シュウヤ様の耳朶を噛むのが好きなのですね」

「ンン、にゃ~」


 キサラの人差し指に鼻先を付けて、その指先をペロッと舐める。

 怯えたミナルザンを見て安心したヴィーネも――。


「ロロ様、わたしにも!」


 指先を黒猫ロロの鼻先に向けた。

 黒猫ロロはヴィーネの青白い指先をやや寄り目気味に見てから、匂いを嗅いでペロッとなめてから、頭部を前に移動させて、ヴィーネの指先で頬を擦り出す。


「ふふ、わたしとキサラの匂いの違いを判断しているロロ様は、秀才です!」

「はい!」

闇虎ドーレ? 小サイ猫? ニ変身トハ……」

「ミナルザン、相棒のロロディーヌだ。神獣で姿を獣系なら自由に変化が可能。が、基本はネコ科だ」

「神獣……」

「戦神ラマドシュラー様の力を宿している」

「シュウヤハ、槍使イデアリナガラ、闇虎ドーレナドヲ使役スル魔物使イデモアルノカ」

「おう」

「にゃお~」


 俺の肩に移動した相棒は、そのミナルザンに片足を上げて挨拶。


「ムム、ソノ足ノ裏ノ桃色ノ丸イタマタマハ……」


 ωも可愛いが、


「ふぐりのタマタマじゃない、肉球だ」

「あはは、もう! 可笑しいんだから……争い合うキュイズナーから、猫の肉球と金玉の話を聞くとは思わなかったわ」


 ミスティが腹を抱えて大笑い。

 俺も笑った。皆も笑う。


 ミナルザンはぎこちない笑顔を見せる。

 それが、また皆の笑いを誘った。


 相棒も可笑しいのか。


「ンン、ンン、ハッ、ハッ、にゃぁ」


 と、変な声を連続で発している。

 相棒なりに珍しいキュイズナーにコミュニケーションを取ろうとしているのか。


「ふふ、面白いですね、ロロ様とミナルザン」

「ふふふ」


 ヴィーネも笑っていた。

 しかし、隻眼キュイズナーのミナルザン、やりおる。

 相棒の芸を増やしたことになるな。


 そんな笑いの間となったところで、肝心の魔霊魂トールンとミスティに向けて、


「ミスティ、彼女が魔塔ゲルハットの地下コア。魔霊魂トールンの<絶対防衛トールン>だ」

「はい。<絶対防衛トールン>です。一応体がありますが分身体。本体は背後です」

「うん、聞いてる。もう知ってると思うけど、マスターの<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人、ミスティ」

「はい、認知しています」

「うん。管理人たちでもあるんだもんね」

「はい」

「では、魔霊魂トールンちゃん、少し調べさせて。分解とかはしないから」

「……」


 魔霊魂トールンは俺を心配そうに見る。

 頷いてから、ミスティに、


「呼んどいてあれだが、大丈夫か?」

「大丈夫よ」

「魔霊魂トールン、ミスティは信頼できる」

「分かりました。承認します」

「うん。では、聞きながら……魔霊魂トールンちゃん。魔塔ゲルハットを造った一人の大魔術師ケンダーヴァルについて知っていることを教えて頂戴――」


 ミスティは魔霊魂トールンの分身体を触る。


「はい。あぅ……大魔術師ケンダーヴァルは【魔術総武会】の最長老の一人、出身は、学術都市、魔法都市エルンスト。〝古の大魔造書・アルファ増築魔法〟と魔界四九三書の〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟などを持つ。更に、<魔霊魂>建築に関わるエクストラスキルも扱えます。次元壁を有した地下防衛機構の魔結界主ヒカツチなども、そのスキルが大本です」


 ガルモデウスさんのような存在なのは確実か。

 もし生きているのなら、ゼレナードのような存在でないことを祈るしかない。


「現在は? 生きているの?」

「権利書の支配権が移る度に情報が消えますので分かりません」

「へぇ」

 

 ミスティはメモを素早く取った。

 魔霊魂トールンの本体が眠る直方体コアの表面を触る。俺のときのように放電反応は起きない。

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