八百六話 新しい仲間と家族の情報共有
【ギルド請負人】の方々は必死な表情だ。ハカさんが、
「キッカ、本当に大丈夫なのか?」
「眷属となって心が変わったとかはないのだな?」
「ギルマス、意識は?」
「普通に歩いているぞ?」
エミアさんは手元に丸い水晶を召喚。その水晶を掲げた。
「小型の蟲を眼球に受けていない? 呪縛に洗脳のスキルとかは浴びていないのよね? 大丈夫なの?」
「はは、エミア、心配しすぎだぞ。四方聖水晶の反応は、わたしと閣下たち。そして、失礼だろう。閣下たちを【血銀昆虫の街】の魔虫使いの連中と一緒くたにするな。そして、わたしはわたしだ」
キッカは笑顔でそう語ると視線を寄越して、
「閣下、すみません」
『ふふ、閣下!』
ヘルメがキッカの口調を真似る、というかいつもの呼び方と同じだが、無視して、キッカに、
「いいよ、大量の血を用いた種族進化の場面だ。仲間の心配は当然」
「はい」
「閣下か。シュウヤ殿に対してそこまで心酔を……」
ハカさんがそう発言。
「呼び方はシュウヤでいいぞ?」
「閣下、陛下、またはシュウヤ様にします」
キッカの血を帯びた黒い瞳は真剣だ。
細い眉といい、真剣な表情も可愛い女性だな。自然と笑顔となった。
眷属となったキッカ・マヨハルトだからな。
「了解。好きにしたらいい」
今のやりとりを聞いていたハカさん、エミアさん、ドミタスさん、サンさんの表情は、不安気だ。そのキッカを心配する気持ちは分かる。
その冒険者ギルドの方々を安心させようと、
「皆さん。<
そう発言。
サンさん、エミアさん、ハカさん、ドミタスさんは頷く。
その顔色を見てから夜王の傘セイヴァルトを少し引いた。
螺旋状の漆黒の生地の表面に浮かぶ黄金の冒険者カードを皆に見せる。
「俺たちも、多士済々な皆様方と同じ冒険者――」
そう発言、夜王の傘セイヴァルトを戦闘型デバイスに仕舞う。
黄金の冒険者カードを掴んでから、
「そして、皆さんを〝戦友〟だと思っています」
「「おぉ」」
「戦友。嬉しい言葉だ。同時に、この網の浮遊岩で散った冒険者たちの魂が見えた気がした」
「……まさに神々が認めるほどの冒険者がシュウヤ殿。〝網の浮遊岩の解放者〟の言葉だ。信じよう」
「あぁ、シュウヤ殿の言葉なら信じられる。信じられるが……」
ハカさんはそう発言して、キッカを見る。
キッカは『わたしか?』と、きょとんとした顔付きを浮かべてからジッとハカを見て笑うような睨むような表情を浮かべて、
「ハカの斧馬鹿、わたしを信用しろよ、何年一緒に活動しているんだ、まったく」
と発言。
「はは、まぁ、あれほどの血を受けた眷属化だ。ハカが心配するのも分かる。そして、キッカ次第と言えるのか?」
そう笑って発言したのはドミタスさん。
「ふふ、眷属云々より、王族に恋をしたような乙女の顔付きだし」
「ギルマスの乙女顔はレアだ」
「な!? ドミタスにサンに皆!」
「「あはは」」
「いつものキッカだな。安心した」
その会話を聞いていると、自然と、俺たちも笑顔となった。
塔烈中立都市セナアプアの冒険者ギルドの面々か。
裏仕事人の仕事が闇ギルドのような印象もあって気にはなるが、話の通じるいい方たちだ。
本当に命を救えて良かった。
その思いで、ヴィーネとキサラとアイコンタクト。
ヴィーネは微笑みを讃えて前進すると皆に向けて、
「皆様。先のご主人様の言葉は本当です。そして、はっきりと言いますが、ご主人様は【天凜の月】の総長よりも、冒険者としての活動のほうが好きなのです」
「「え!?」」
「はい、いつも仰っていました。〝冒険者の槍使いが俺だ〟と。シュウヤ様の、その心意気に陰日向はない」
キサラの言葉を聞いてジーンときた。
肩揉みをして、労ってあげたい。
そして、あの見事なおっぱいも。
すると、ヴィーネが腕を伸ばしキサラの胸元を隠す。
その腕を払うキサラ。気にせずヴィーネが、
「しかし、ヴァンパイアハーフで血の渇望に慣れているとは思うキッカだが、<
「はい、愛しい思いも増えますから」
ヴィーネとキサラがそう話しつつ、俺の両手を握る。
そして、ヴィーネはキッとした表情を浮かべてキッカを睨みつつ、
「あぁ、それに怪夜魔族と怪魔魔族の祖先から伝わる魔剣・月華忌憚を持つ。その魔剣・月華忌憚に怪魔王ヴァルアンの勾玉を授けたご主人様だ……」
青白い人差し指でツンツンと俺の胸を突く。
薄着の
キサラも俺の胸元に指を伸ばして、
「ヴィーネ、わたしも嫉妬を覚えました、シュウヤ様は! 夜王の傘セイヴァルトの持ち主ですからね!」
「そうだ。怪夜王セイヴァルトと怪魔王ヴァルアンは夫婦!」
二人は指で俺の乳首さんを悩ましく小突いて責めてくる。
た、たまらんが、なんだ、この羞恥心的な感じは……。
キッカは少し動揺。
「二人とも気持ちは分かったから、な?」
「ふふ、はい」
「はい」
キサラとヴィーネは少し距離を取る。
キッカが、
「……ヴィーネさん、血に関して否定はしない」
「わたしたちは同じ立場。ヴィーネで結構」
「はい。ヴィーネ、改めてよろしく」
「はい。こちらこそよろしくだ。少し遅れたが、<
「ありがとう」
「ん、おめでとう、キッカ。わたしも歓迎する!」
「わたしも大歓迎!」
「はい、歓迎しましょう。敵が多いわたしたちに、頼もしい味方の家族が誕生した! 血魔剣師キッカ・マヨハルトがいれば心強い!」
「うん、おめでとう。キッカはもう家族。これから塔烈中立都市セナアプアの代表格として活躍するだろうし、期待しとく。魔塔ゲルハットを重点的に守ってほしいかも。地下は
「わたしは、まだ眷属ではないですが、おめでとうございます」
「にゃお~」
ディアは相棒にセンティアの手の籠手を叩かれている。
「皆、ありがとう」
キッカの照れた表情もいい。
すると、エヴァが、
「ん、ギルドマスターのキッカだから、わたしたちも冒険者ギルド機構側のメンバー? 聖ギルドメンバー?」
聖ギルドメンバーか。
聖ギルド連盟の割符を持つ。
そして、新しい称号が、光魔ノ仁智印バスター。
秩序の神オリミール様と智恵の神イリアス様からの加護か。
あ、ジョディとも繋がるのか。
ジョディは聖ギルド連盟のジャケットがお気に入りだった。
和と洋が合わさるデザインでセンスのある服。
サイデイルにいるシェイルとジョディ……。
元気に活動していることだろう。
少し暇になったら、果樹園に向かうとしよう。
血の花に、お参りしないとな。
エヴァたちも気にしているはず。
キッカさんは少し考えて、
「ありがとう。そして、聖ギルドメンバーか。エヴァたちはAランクの冒険者。秩序の神オリミール様と智恵の神イリアス様に認められた存在たち。聖ギルド連盟に加わったと言えるのかも知れないな」
そう発言。
「なら、冒険者ギルド機構側として『必殺仕事人』的に裏仕事人をがんばるか? キサラとユイとヴィーネを連れて悪人を退治に出かけるのも面白いかも知れない」
と冗談半分に発言。
すると、キサラが微笑みながら、
「ふふ。では、冒険者ギルドの裏仕事人として――」
半身退くとダモアヌンの魔槍をバトンのように胸元で回す。
そして、半身を戻して前進したキサラ。白絹のような美しい髪が舞い上がる。
小さい角が見えた、可愛い。
「――冒険者崩れの犯罪者を打ち倒すのですね――」
と、ダモアヌンの魔槍の柄頭で地面を突いてダモアヌンの魔槍を止めた。
完全に達人の槍使いの動きだ。
「「おぉ」」
【ギルド請負人】の面々はマジ顔の反応。
「俺たちは俺たちでやることがあるからな。そして、キサラの発言はともかく、裏仕事人は冗談だぞ?」
ハカさんは、
「そうでしたか。シュウヤ殿なら、任せられる裏仕事がたくさん……」
「ふふ、美しいキサラさんは本気っぽい?」
「【天凜の月】の四天魔女の名は有名。そして<
「待て、ハカとサン。閣下は冗談と語った。閣下が言うように、わたしたちにはわたしたちの仕事があるだろう。わたしも光魔ルシヴァルの一員として強くなったんだからな、仕事は前以上にこなせる。強敵も逃すことなく勝てる機会も増えるはずだ」
キッカが力強く発言。
副ギルドマスターのエミアさんが、
「裏仕事人の現場かぁ。闇系の血の反応に変化がないようだし、今回の<
「……いつものようにあしらうだけさ」
キッカはふふっと笑って腕をサッと伸ばす。
<血魔力>の軌跡が美しい。
「ねね、その裏仕事人って詳しくは分からないんだけど、シュウヤが行う場合、【天凛の月】の総長なんだから、闇ギルドとしての動きと言えばそれまでのような」
「レベッカさんよ、こまけぇことはいいんだよ」
少し変顔を意識して突っ込む。
レベッカは「えっ……ぷ、くっ」と、俺の変顔を凝視して笑いかけるが、鼻を膨らませて我慢。そして、蒼い目に蒼炎を灯しつつ、俺をキッと睨んで、
「シュウヤからツッコミを受けるなんて把神ショック!」
それなりのボケをかます。
「ん、面白い」
「にゃご~」
相棒とエヴァが微妙な反応。俺も笑ったが、微妙にスルー。
そこから皆に対して、色々と説明を開始。
キッカの眷属化――。
ラ・ディウスマントルとその眷属モンスターたちとの戦い――。
常闇の水精霊ヘルメの出し入れと紹介――。
「閣下の水――」
<シュレゴス・ロードの魔印>に棲むシュレの紹介。
皆、桃色の蛸っぽい足を見てビビる。仕方なし。
吸血王の血魔剣の自慢――。
レベッカとミスティによる血文字の使い方講座、その一、その二。
サイデイルの女王こと<
空極のルマルディとアルルカンの把神書、<
モガ&ネームスと墓守人たちにバーレンティン――。
かつて、羅将軍と呼ばれたハンカイ。そのハンカイと話をしようとしていること――。
光魔騎士のデルハウトとシュヘリア――。
フィナプルスの紹介――。
魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たち――。
タルナタムを使役していること――。
魔界の狂剣タークマリアを信奉している狂言教が敵にいること――。
敵側の存在として【闇の枢軸会議】の中核の【八巨星】グループ――。
逃走した上院評議会副議長ドイガルガとピサード大商会――。
下界に多い邪教の一つ【テーバロンテの償い】との戦い――。
ホルカーバムの【血印の使徒】と戦うカルードたち――。
魔塔ゲルハットと魔塔ゲルハットの内部に神々へと通じる一大事業としての『すべての戦神たち』を造る予定の【魔金細工組合ペグワース】たち――。
【天凛の月】の最高幹部&<
<従者長>カットマギー――。
猫好き空戦魔導師のビロユアンが【天凛の月】入りしたこと――。
【宿り月】の縄張りと新しい幹部たち――。
【魔塔アッセルバインド】とは同盟があること――。
そのメンバーでもあるクレインはエヴァの師匠で、<
カリィは変態だから気を付けるように――。
レンショウは鉄扇使いで強者――。
大魔術師アキエ・エニグマが幽閉中の魔塔ナイトレーン関連――。
キッカたちの冒険者ギルドの実情――。
ドミタスさんの家について――。
烈戒の浮遊岩を巡る魔人たちの戦い――。
【白鯨の血長耳】と【天凜の月】の関係――。
副長メルはヴェロニカの眷属――。
ベネットとヴェロニカの迷宮都市ペルネーテ――。
評議会を牛耳っていた上院評議員議長ケルソネス・ネドーの諸勢力と上院評議員ペレランドラの勢力の争い――。
またペルネーテ関連に戻って武術街に家を持つこと――。
中庭にクラブアイスの不思議な墓石があること――。
イノセントアームズの経緯――。
など、について色々と多岐に話し合う。
ディアとミスティは俺が<邪王の樹>で用意した席に座り、ポーションを飲んで休憩中。
「ハハ――」
「ンン――」
俺は暇そうな相棒と<邪王の樹>で造った猫じゃらしで遊んでいると――。
ヴィーネとキッカの会話が聞こえてきた。
「キッカ・マヨハルトを見ていると強い精神性とタフさを感じる。ご主人様の血を浴びて体に痛みを感じながらも自由に動けていた」
「月華忌憚を操った時か。痛みに慣れているんだ。ヴィーネも同じだろう?」
「不死性はあるが、痛みの感覚には慣れていないのだ。ダークエルフとしての習慣のほうが長い。格闘と剣術も、いかに傷を受けず対処するかが重要と教わった」
「たしかに、飛剣流、絶剣流、王剣流、他の流派も、如何にして生きて勝つか? が肝要な部分が多い。玉砕する技もあるが……
「はい。わたしは、そんなキッカの血を活かす剣技を学びたい」
柄ごとガドリセスを掲げるヴィーネ。
その鞘を見て、何かを考える面を見せるキッカ。
「……学びたいか。仕事の合間となるが、それでもいいのなら」
「いい」
「了解した。模擬戦か、冒険者の依頼を共にこなすか。裏仕事人の現場で悪人を処罰するのもいいな」
「どの形でも構わない。その際はよろしく頼む」
「分かった。ならば裏仕事人の仕事を頼むとしよう」
「ふふ――」
と<血魔力>を有した二人が握手。
銀色の髪が揺らめくヴィーネ。
<血魔力>を有した黒色の髪が靡くキッカ。
二人は美人さん。すこぶる絵になった。
が、握手する二人の手よりも……。
二人の魅力的な胸元を見てしまうのは、男のロマンシング|性(サガ)だ。
そんなことを考えていると、「ンンン――」猫じゃらしを奪われた。
猫じゃらしは、南無。
すると、さり気なく俺の右手を握るエヴァ。
「ん、シュウヤ、キッカさんとヴィーネが仲良くなって嬉しい?」
「嬉しい。が、エヴァの手のほうがもっと嬉しい」
「ふふ――」
俺の腕を抱くエヴァっ子が可愛すぎる。
レベッカのツッコミがないから、エヴァの自由にさせた。
そのエヴァは上目遣いで、
「ん、秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様の加護の称号が融合して……」
「おう。光魔ノ仁智印バスターになった」
「やっぱり聖ギルド連盟と関係してる! 凄い!」
「俺もびっくりしたさ、冒険者カードが飛来とか、予想してなかった。最初は逃げてしまって、でも夜王の傘セイヴァルトが吸い込み、で融合だろう?」
「ん!」
「聖ギルド連盟の聖刻印バスターと似た感じかな」
「冒険卿の孫のリーンと同じ?」
「正確には違うと思うが」
「ん、あ、<光魔ノ魔術師>と<光魔ノ奇術師>も獲得してる――」
頬にキスをくれたエヴァに向けて、
「おう、ありがと――」
エヴァのおでこにキスを返した。艶のある黒髪からいい匂いが漂う。
リツさんの髪薬は凄い。そして、瞬きが可愛いエヴァは、
「ん! <光魔ノ奇想使い>。あと<光魔ノ奇想札>って黄金の冒険者カードと夜王の傘セイヴァルトの専用技?」
「まだ試していないから分からないが、そうだと思う」
「ん、でも怪魔王ヴァルアンの勾玉は凄く大事だと思ってたから、あげちゃったのはびっくりした」
「驚かせたなら済まない。あの穴を見て……色々と想起した」
「ん……神槍ガンジスの太刀打ちの窪み、神魔石?」
驚いた。俺の深層の考えを読んだのか。
「ん、ごめん」
「いや、エヴァなら全部知っていてくれていい」
「ふふ、ずっと前にも気になることがあるって……神魔石を嵌めようとしないから、何か理由があるんだろうと思ってた」
「あぁ、なんせ、神槍ガンジスは、魔人武王が好んで使っていた代物だ。ま、いつかやるさ」
スロザの店主も、
『これは凄まじい。
と鑑定していた。
異界からこの槍が突然現れたのも気になるし……。
魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちと神魔石との相性がちょいと心配だ。
その、腰の魔軍夜行ノ槍業が震える。
同時に、レベッカとミスティとビーサとディアの笑い声が響いた。
【ギルド請負人】の方々と談笑か。
レベッカは蒼炎を自慢していた。
すると、ヴィーネとキッカと会話するキサラの、
「シュウヤ様は、上に交わりて諂わず、下に交わりて驕らずの面があるんです」
「気さくな方なのだな」
といった会話から、また長い会話に入った。
俺とエヴァと相棒も、その会話に乱入。
そして、キッカに、ペレランドラ上院評議員が生きていることを伏せつつ――。
俺たちが網の浮遊岩の依頼を受けず、どうしてこの場に出現したのか。
しかも、魔塔の内部の【幻瞑封石室】の近くに現れた理由の説明を開始。
魔法学院ロンベルジュの学生ディアと一緒にセンティアの部屋を用いて【幻瞑暗黒回廊】を移動することを伝える。
すると、ギルド請負人の方々が近寄ってくる。
凄まじく
斯く斯く然然。
そんな話し合いの最中――。
暇な
床の出っ張りを利用して背中を擦るロロディーヌ。
腹を晒して背中を揺らす『かいーの』を連続で行う。
薄い桃色の地肌と乳首も見えていた。
神獣のマークは黒毛で見えないや。
そんな
腹を晒したまま、俺たちを見上げる。
つぶらな瞳。
おっさんのように腹を晒して、片方の前足はだらんと横に伸ばしたまま、肉球を見せびらかしていた。
「「……」」
仕種が絶妙に可愛い。
思わず皆の会話が止まっていた。
そして、皆の顔を見て『ながいはなしは、おちまいなのにゃ~?』的なサイレントにゃーを行う。
「――ふふ! たまんない!」
「ん!」
レベッカとエヴァが興奮して、床で転がる相棒を撫でまくる。
「ロロ様のむちむちを……」
「わたしは喉のお毛毛を梳いてあげるのだ――」
「ふふ、皆でよってたかって――」
「わ、わたしも!」
キサラ、ヴィーネ、ミスティ、ビーサも参加。
ゴロゴロと喉音を鳴らして応えていた。
その撫でられている途中、体が痒くなったように下腹部を震わせると、黒豹と化した。
体を大きくすると、首から出した触手をディアの足に絡める。
「ロロちゃんは、ディアも触っていいって」
「は、はい!」
ディアは
優しいロロディーヌだな。
その相棒は、俺のほうにも触手を伸ばすが、天の邪鬼気分で爪先半回転。
寝転がっている
「ンンン」
不満そうに虎的な喉声を鳴らす。
暫し、和む。
そうしてから冒険者ギルドの副ギルドマスターのエミアさんが【幻瞑封石室】に関して説明をしてくれた。
今回のラ・ディウスマントルの討伐は【幻瞑暗黒回廊】と通じている【幻瞑封石室】を封じるための仕事でもあったと。
そのエミアさんが、
「皆さんの話を聞くと、センティアの部屋が転移してきてくれたお陰のようです」
「……もしそうだとしたら、キサラの語る救世主、その言葉の信憑性が増す」
「当然です。
「……壮大な話だが、わたしたちは実際に命を救われたから強く納得できる! そして、夜王の傘セイヴァルトを持つ閣下は怪夜魔族の王様なのだからな……そして、神界セウロスの神々のお導きかも知れない……」
『その通りです。キッカは理解しています。いい部下を得ました!』
「うん。運命神アシュラー様が関係していそうな話は置いといて、開いたままの【幻瞑封石室】が安定しているのは、センティアの部屋のお陰ってことは決定?」
レベッカの言葉に頷いて、センティアの部屋を凝視。
「そのようだ」
「まだ仮定だと思いますが、はい」
エミアさんはそう発言。
エヴァが、
「ん、本当なら、【幻瞑封石室】の扉は閉まっていて【幻瞑暗黒回廊】は見えていない?」
「はい。更に、本来ならばケルソネス魔法学院の魔塔の中は、複雑な魔法結界が施された魔法改築部屋が多重に重なっている構造のはずです」
「ネドーが事前に、部下の魔法家職人に命じて、改造を施した可能性が?」
ヴィーネが皆に聞いた。
白髪のドミタスさんが、
「シュウヤ殿と皆さんから聞いた通りなら、ありえるだろう。ネドー、恐ろしい爺だったということだ」
「はい、魔王錬成……アルゼを救った話といい、シュウヤ殿はやはり……」
「分かったから、そこは俺ではなくて、ソルフェナトスとキストレンスに感謝すべきだ」
「その魔人、烈戒の浮遊岩を占拠した存在ですよね……」
「そうなる。占拠する前は、下界で暴れたようだ」
「ならば討伐依頼の紙はあるかも知れません……」
「悪いが、ソルフェナトスとは友人となった。その依頼がボードに貼られてあるのなら取り下げは可能かな」
「依頼主次第です。依頼主と交渉はできます」
ま、依頼を受けて討伐に向かっても返り討ちにあうだろう。
「それじゃ、キッカと【ギルド請負人】の方々。新しい仲間と家族の情報共有はここまでにしよう」
「「はい」」
「閣下たちはセンティアの部屋の利用を?」
「そうだ」
「ん」
「了解しました」
「【幻瞑暗黒回廊】を巡る旅! すぐに魔塔ゲルハットに到着が理想!」
「ふふ、でも、いい休憩になったわ」
「皆さん、その前に【幻瞑封石室】を封じてもいいでしょうか」
「あ、はい。センティアの部屋に封印が掛かるとかはないですよね?」
「大丈夫です。では、キッカ、ドミタス、魔力を送ってね。あの近くで【四玉魔封石】を使います――」
エミアさんが【幻瞑封石室】の開いている扉に向けて、四角い石板のような【四玉魔封石】を向ける。
その【四玉魔封石】から濃厚な黄金色の魔力が【幻瞑封石室】の石の扉にかかると、石の扉が黄金色に輝きつつ横に動く。【幻瞑封石室】が閉じた。
扉の黄金色の輝きは失われる。
覗かせていた【幻瞑暗黒回廊】はもう見えない。
続いて、【幻瞑封石室】の閉じた石の扉の真上に【四玉魔封石】の模様が朧気に現れると、模様が揺らぎつつ幅が拡大された。
扉と【幻瞑封石室】に封印の意味があるような魔印が浮かぶ。
蝋のような盛り上がった模様もある。続いて四つの魔印は角に出現。
陰陽太極図と似た模様と四つの魔印は、朧気な【四玉魔封石】の真上に重なって【幻瞑封石室】の真上に魔法陣が出現。
半透明な幾何学模様の魔法陣は安定状態。
「やった、成功」
【幻瞑封石室】を封じたようだ。
「エミアさんもキッカも、これで一段落か。おめでとう」
「はい」
「ありがとうございます」
「シュウヤ殿、イノセントアームズに幸あれ!」
「今日はありがとう、閣下!」
さて、
「俺たちはセンティアの部屋に移動だ。ディア――」
「はい、準備は万全です――」
センティアの手を一緒に発動しつつ掛けた。
センティアの部屋の扉が開く。少しセンティアの部屋が浮いた。
「よーし、皆、センティアの部屋に入ろう」
「うん――」
「それじゃ、キッカ、またあとで。魔塔ゲルハットだったらすぐに会いましょう」
ミスティが発言。
キッカは頷いて、
「分かった。行き先が泡の浮遊岩だった場合は、閣下と皆さんに、すべてを任せよう」
「ギルド側は網の浮遊岩問題を最優先していたから動きは鈍い。けど、何人かの強者は、既に泡の浮遊岩の迷宮に乗り込んでいるはず」
「腕に覚えのある冒険者はごまんといるからな」
エミアさんとハカさんがそう発言。
白髪のドミタスさんが、
「センティアの部屋で移動できる【幻瞑暗黒回廊】の行き先は、確実ではないと聞いているが……」
「話を聞く限りは……泡の浮遊岩だと思うわよ。魔迷宮にこの網の浮遊岩だし、まったく違う場所かも知れないけど」
サンさんがそう発言。皆が頷く。
俺は、
「泡の浮遊岩と予想しています。ですから、暁の墓碑の密使が一人、ゲ・ゲラ・トーと戦うか、交渉となるかは、まだ分かりませんが」
「とにかく、泡の浮遊岩の問題を解決したのなら、冒険者ギルドマスターとして、正式にイノセントアームズの偉業を讃えることになることでしょう!」
「にゃお~」
「ん」
「偉業! わたしたちは伝説の青腕宝団を超えた!」
「ほら、分かったから、レベッカ、前に行って」
「あ、うん」
「了解」
「では皆さん、また今度~」
「「はい」」
◇◆◇◆
センティアの部屋が一瞬で網の浮遊岩から消えた。
「閣下たちは消えたか……」
「あぁ、話には聞いていたが、本当に消えるとはな」
「【幻瞑封石室】は閉じて魔力の漏れは感知できないけど、【幻瞑暗黒回廊】に影響を及ぼせるセンティアの部屋は【幻瞑封石室】の多重結界を貫けるってことね」
「巨大な箱、センティアの部屋は特殊な次元転移が可能。<魔内外増築・極>などのスキルを持つ大魔術師たちが造り上げたのだろう。或いは大賢者の命その物か……センティアという名は古い文献にもあった。で、あるからディアという小娘も普通ではない」
そう語るのは鋭い視線を皆に向けている白髪のドミタス・ラオンイングラハム。
皆、神妙な顔付きで頷いた。
ギルドマスターのキッカ・マヨハルトも、
「アス家の娘と聞いたが、その名は知らなかった」
副ギルドマスターのエミアは、
「アス家はオセべリア王国の大貴族らしいけどね。わたしも知らなかったわ」
「どちらにせよ、魔法学院ロンベルジュの校長たちも【幻瞑暗黒回廊】の旅を許可したのだ。アス家の名は覚えておいて損はないだろう」
ギルドマスターのキッカがそう語る。
その様子を見たハカは憲章オリミール・珠目罰を手元に出して、周囲を見てから、
「……しかし、生き残ることができてよかった。シュウヤ殿は勿論だが、オリミール様に感謝だ……」
「ふふ、裏仕事人のハカがそんな面を浮かべるとはな?」
「それは俺の言葉だギルマス。シュウヤ殿を見つめる熱い眼差しは……少なくとも、俺は初めて見る。なぁ、皆もだろ?」
「あぁ」
「そうね、気持ちは分かるけど」
すると、キッカは溜め息を吐いて、
「当分はからかわれる……が、命を救われ、血を交わしたのだ、当然だろう――」
と喋り、魔剣・月華忌憚の鞘を持ち上げる。
厳しい顔色となったキッカ・マヨハルト。
「さ、戦友たちの遺品を集めようか! サンは先に上界に戻れ、今回の経緯を副ギルドマスターのキアルキューに正式に報告。そして、人手を集めて網の浮遊岩の気持ち悪い遺物を破壊しよう。魔法ギルドは、今は無理か、まぁ連絡だけしておくのだ」
「「了解」」
【ギルド請負人】たちはギルドマスターに背を向けて走り出した。
キッカは、仲間たちの様子を見て満足そうに頷いた。そして、シュウヤたちが向かったであろう泡の浮遊岩がある方角を見る。
閣下……。
◇◆◇◆
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