七百九十五話 センティアの部屋で【幻瞑暗黒回廊】

 羅と貂に向けて左手を翳す。


「羅と貂は左手に戻ってくれ」


 掌の運命線のような傷が開くと、


「「はい!」」


 羅と貂は二つの神剣に変身。

 羅と貂の神剣の形は柄巻と柄頭が少し異なるぐらいか。

 その羅と貂の神剣が重なると、一つ<神剣・三叉法具サラテン>となる。

 

 煌びやかな<神剣・三叉法具サラテン>は、切っ先で俺の左手を貫く勢いで直進。

 左手の運命線の傷の中に戻ってきた。

 

「ヘルメも左目に」

「はい、今戻ります」


 常闇の水精霊ヘルメは可愛いポーズから液体に変身。

 その液体をスパイラルさせつつ俺の左目に入り込むと、左目に浸透。

 瞳が一気に潤う感覚を得た。そんな左目を触るように左の眉を親指で擦りつつ――。

 そろそろ皆が来るかな。と――雲のような霧が晴れた右側を凝視。

 すると、予感が的中。浮遊岩と浮遊岩の間に黒いモノを視認。


『ロロ様たちです』

『あぁ、こうして見ると、この塔烈中立都市セナアプアの大きさが分かるな』

『はい。魔塔に浮遊岩が形成する一大都市』


 飛翔している相棒は時々魔力粒子を体から出していた。

 黒っぽい色合いが殆どだが、中には橙色で燃えるような魔力粒子もあるようだ。

 戦神ラマドシュラー様の恩恵の炎。魔界騎士ウロボルアスと激突する際、皆が血文字で知らせてくれていたが、あの時も相棒は俺を魔力で包んでくれていた。


 そんな状態で近付いてくる相棒の姿は巨大な黒猫状態だ。

 可愛い神猫と呼べる黒猫ロロディーヌの速度が加速――。


 まさに、猫まっしぐら。宙を巨大な黒猫が駆ける姿は可愛い。

 が、巨大黒猫ロロさん、華麗に、浮遊岩の機動に釣られた。

 左上を奇妙に移動している浮遊岩に巨大な相棒が向かう。


 まぁ、どんな姿になろうと、猫だしな、仕方ない。

 そんな浮遊岩に釣られた相棒は、皆から注意を受けて、巨大な耳を凹ませると、俺たちの浮遊岩へと方向転換。


 はは、反省する巨大な黒猫ちゃんが可愛い。

 しかし、巨大な黒猫の姿を見ていると、巨大な浮遊岩が玩具に見えてくる。


 俺たちに飛来してくる神猫ロロディーヌは、黒い瞳が散大中。

 やや興奮状態か。


 真っ黒黒助なお目目だ。

 ピンク掛かった鼻がなんとも言えない。

 

 その大きい黒猫ロロディーヌが、


「にゃおお~」


 と声を発して俺たちがいる浮遊岩の上空でストップ。

 ドッと風速三十メートルぐらいはありそうな風を受けた。

 

 前髪がオールバック状態になったが、構わない。


「相棒と皆、お帰り」

「ンン――」


 相棒は喉声を発しつつ触手が体に絡まっている皆を元ドリサン魔法学院の屋上に降ろしてきた。

 先に解放されたレベッカとエヴァが、

 

「ただいま~」

「ん、シュウヤ――」


 エヴァが跳躍するように俺に突進。

 珍しい、そのエヴァを抱きしめた。

 背中にはヒューイはいない。ヴィーネの背中かな。

 

 胸元に顔を寄せたエヴァの背中を支えながら、


「どうした」

「ん、昨日少し寂しかった」


 頭を上げたエヴァは微笑む。

 いつ見ても癒やされる。


「そりゃすまんかった」

「ううん、これで満足。シュウヤと一緒だと幸せ」

「俺もエヴァの温もりを得て幸せだ。元気もりもり」

「ん! わたしも元気もりもり。今日もがんばろう!」

「おう」

 

 エヴァは俺から離れて、頷きつつ片手でグーを作る。


 胸元が揺れて可愛い。

 レベッカは数回頷いていた。

 しかし、いつもの勢いで嫉妬の肩タックルがこないのは、なぜだ。


 そのレベッカは、


「シュウヤの顔を見て安心した。ガルモデウスと戦いにならないで本当によかったわ」

「ん、シュウヤの顔を見て安心!」

「うん。なんだかんだいって、シュウヤはシュウやん。だからね」


 真面目だったが笑顔でエヴァと頷き合う素敵なレベッカ。

 心配させたか、


「そうだな。で、いつものタックルはどうした?」

「しない。けど」


 と普通に寄ってきた。

 お淑やかversionとはやりおる。


 そのレベッカが、俺の肌を触りつつ、


「シュウヤ、衣装は薄着になったけど、ガルモデウスから何も攻撃を受けていないのよね?」

「大丈夫だ――」

 

 そう言って、レベッカの長耳にキス。

 小声で、


「心配させたなら、すまん」

「――ぁう、いいの! って、今は抱きしめさせなさい!」


 と右腕をレベッカの自由にさせた。

 アイテムボックスからロマンチックな曲が自然と流れる。


「ん、シュウヤ、レベッカは、ディアを理由にわたしたちも危険から遠ざけたと考えてた」


 そのエヴァはレベッカの背中を撫でていた。

 レベッカはエヴァの言葉に頷きつつ顔を腕に押し付けてくる。


「そりゃ皆を守りたい気持ちは当然強いが、考えすぎだ、レベッカ」


 俺の言葉を聞いても、『信じない』というように頭部を左右に動かしながら、自身の鼻と頬を俺の腕で擦る。


 そのレベッカの鼻息は荒い。

 その犬っぽい感じの仕種にエヴァと俺は笑った。

 ヴィーネとキサラも寄ってくる。


「ご主人様。沸騎士、いや、沸騎士長たちは魔界セブドラに?」

「そうだ、魔界に帰還した」


 ヒューイはヴィーネの背中だ。

 キサラは、


「では、闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの見た目も少し変化が?」


 指輪の闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを二人に見せた。


「あまり変化がないように見えます」

「あ、内側の節々の小さい骨が連なる部分が、ご主人様の指と同化している?」

「え? ――本当だ」


 気付かなかった。

 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトが動いた感覚はなかったが、アニメイテッド・ボーンズにプレインハニーを塗った効果が俺にもあったか?


 プレインハニーで精力が高まった時かも知れない。

 勃起具合が激しかったからなぁ。

 注意力が激しく落ちたかも知れない。


「……光る指輪を構成する肋骨的な小骨が不思議です。え、一つの小骨が消え、あ、指輪の上部に骨が移動しました」


 光る小骨を見るにプレインハニーの効果が残っていたか。


 すると、闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの上部に小さい樹状突起のようなモノが発生。


「ご主人様、沸騎士たちをお呼びに?」

「いや、呼んでない」


 小さい樹状突起から黒色と赤色の糸と煙が出た。

 が、直ぐに樹状突起のような部分を残して黒色と赤色の糸と煙は消えた。

 

 煙、蒸気とも呼べる新・ぼあぼあは、沸騎士たちの領域に引き込むような消え方だった。


「魔界セブドラにいる沸騎士たち、沸騎士長たちが、何かをしたのかな」

「はい。では、<魔界沸騎士長・召喚術>のスキルの効果が続いている? 沸騎士長たちの変化がまだ続いているのかも知れません」

「そうかもな」


『閣下、魔界セブドラで、沸騎士長たちが戦いで何かしらの結果を残した?』

『そうだな、予想するに、魔界騎士&諸侯の討伐に成功? 魔界セブドラの領域を広げることに成功&新種の輝く骨を拾ったとか?』

『どうでしょう。闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの小骨が輝いて、小さい飾りが増えただけですからね』


 左目のヘルメはそう指摘してくれた。


「今、新しい沸騎士たちを呼んだらどうなるか、気になるが、今は止めとくか」

「はい、今は闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの進化とだけ考えておきましょう」

「とにかく、シュウヤ様と沸騎士たちの成長の証しかと」


 二人の言葉に頷いた。

 すると、


「魔界セブドラで、わたしは傍で働けるのでしょうか」

「わたしもだ。ご主人様!」

「愚問だな――」


 とヴィーネとキサラの二人を抱きしめた。


「ぁ」

「ご主人様……」


 二人の匂いを満喫しつつ、


「二人が望むなら、俺に付いてこい」

「「はい!」」


 そして、ヴィーネに、


「話を変えるが、ヴィーネ。ユイと【天凛の月】についての話をしたかな」

「はい。魔塔ゲルハットと宿り月のルートは用途分けして多岐に増える予定です。上界と下界を結ぶ浮遊岩の周辺には幹部が常駐できる施設を用意すると聞きました。しかし、下界のほうは正直人員を置くだけ無駄な争いが増えますから港が近い浮遊岩を利用する時にだけ幹部を回せるようにしたほうがいいとメルにも連絡していました」

「了解した」

 

 さて、センティアの部屋を使うかと、ディアを見る。

 眼鏡っ娘のディアは、ニコッとして、


「お兄様! 魔塔ゲルハットは凄かった! 部屋もいっぱいあって、あのような魔法施設は他に見たことがないです。バルコニーは綺麗で、最上階には植物園、硝子張りで綺麗だった。小人さんもいっぱいで……魔法学院の施設を超えています! 浮遊岩の乗り物も凄いです!」


 興奮しているディアが可愛い。

 先生のミスティも微笑んでいた。

 ビーサはキサラと少し話をしていたが、目が合うと頷き合う。


 俺はディアに視線を戻し、


「おう。ディアも魔塔ゲルハットは自由に利用していいからな」

「はい、ありがとうございます。嬉しいです!」


 すると、ビーサが、


「シュウヤ。皆さんから冒険者ギルド、そのギルドの銀行、聖ギルド連盟、聖魔ギルド銀行、聖魔中央銀行、魔法ギルドと【魔術総武会】、【天凛の月】と関係する【白鯨の血長耳】の重要性と、<従者長>となったペレランドラさんたちを救ったシュウヤが活躍した数々の戦いを聞きました」

「皆で少し長く説明してあげたわ」


 レベッカの言葉に皆が頷いた。

 ビーサは頭部を下げて、礼を行う。


 ビーサは礼儀正しい。

 そのビーサが、


「おぞましいネドーの話も聞きました……」

「あぁ、人族の爺さんだったようだが、ほんっと欲深いとどうしようもない。ま、評議員という権力者は、どうしようもない奴らばかりだということかな。あの分だと評議員を選ぶ不正選挙も行われていそうだ。選挙に透明性がない時点でお里が知れるが」

「……副議長たちですね。悪魔のような評議員たちです。中立をいいことに、セナアプアの役人、評議宿、宗教組織、闇ギルドだけでなく他国の権力者と官僚組織に通じて、自分の懐を肥やすためだけに市井を苦しめて悪さをしている……それでいて聖人のゴムマスクをかぶって情報操作……塔烈中立都市セナアプアは毒の沼です。そして、似たような都市はラロル星系にも多い……」


 だろうな。俺の知る地球もそうだ。


「あぁ、毒の沼。ディープで邪悪な連中のステートってことだな。が、ペレランドラのような市井を思う優秀で正義を目指す評議員もいる」


 毒の沼にも希望はいる。

 ペレランドラを救えてよかった。

 もう<従者長>だし、この塔烈中立都市セナアプアで中心的な役割を担ってくれるだろう。


「はい。シュウヤは、〝小さなジャスティス〟の想いで娘さんと評議員を救った。少し前のゼレナードのことも聞きましたし、正義の神シャファ様の話も聞きました」

「正義のリュートか」

「はい。聴かせた女性、同調した女性限定で、秘術系カウンターマジックである《正義の反銀剣シャファソード》を心に宿らせることができると」


 皆頷いた。

 

「更に、シュウヤは、『汝、須く寛大たれ、嘘偽りを述べるなかれ、生まれた星を愛すべし、いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし』を実践していると分かる。まさに唯一無二の選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスターで在らせられる――」


 と片膝を突けるビーサ。

 そんなビーサに手を差し出して、


「――敬う姿勢は理解できる。が、俺には必要ない。そして、それを言うなら『自らのサイキックの向上を図り心身のバランスを保て』だ。俺を妄信するな。自分の心を、自分の正義を信じろ――」


 笑顔のビーサは「自分の正義を……」と頷いてから俺の手を取って、


「――はい。そして……ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス!」


 更に、戦闘型デバイスからアクセルマギナが、


「ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス!」


 とエコーを響かせる。

 更に、


『自分の正義を信じろか。至極心に響く言葉じゃ。やはり、真に輝かしき銀河騎士じゃ』


 アオロ・トルーマーさんの思念も響いてきた。


『ありがとうございます』

『ふぉふぉ……良き銀河戦士カリームの超戦士を得たのじゃ。さすがは、銀河に黄金比バランスを伝える役目を持つ選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスじゃな。あとは宇宙……』

 

 途中で思念が切れた。

 とりあえず、ビーサに向けて、


「おう。ま、俺から言わせたら、ラ・ケラーダだ」


 ビーサからミスティを見て、


「ってことでゼクスの魔改造はどのぐらい進んだんだ? エヴァもパワーアップしたとか」

「血文字で伝えたけど、持ってた金属を全部使ってゼクスの外装と中身のパーツを組み替えた。見た目の変化はあまりなし。あとエヴァの魔導車椅子。血文字でも知らせたけど、ぐふふ……」

「ん、これ?」


 と、エヴァは瞬時に金属の足から魔導車椅子になる。

 たしかに変化速度が速まっていた。

 魔導車椅子になるとガードと車輪が盾のように湾曲してフットレストと一体化し、エヴァ自身を守る。

 

 少し視界が悪いようにも思えるが、エヴァはエスパーだ。

 感覚は超優秀、<念動力>とトンファーも扱えるし、視界は関係ないかな。

 

 重戦車タイプも進化か。


「あ、見せちゃった~。そう」

「ん、でも、ゼクスの〝ぱいろっと〟はまだ無理――」


 エヴァは一瞬でいつもの魔導車椅子に戻した。


「あ~、それも言っちゃうの!」

「一夜でそこまでできるもんなのか」

「できる」

「ミスティは、わたしのお菓子とかトトリーナ花鳥の弁当も食べなかった。途中から言葉も聞こえないぐらい夢中だったからね」

「ん、昔の工房部屋を思い出す」

「あったあった。バルちゃんのオシッコが新しい金属を生むとか面白かった」

「ん」


 皆で笑い合った。

 ミスティを見て、


「しかし、ミスティのパイロットは見たが、エヴァとゼクスの合体にも興味がある」

「マスターがわたしに血文字で異世界の情報を教えてくれたからね。わたしとの相性もいいからエヴァっ子は!」

「ん!」


 ミスティはやはり天才か。

 エヴァの笑顔が可愛い。


「<血魔力>を活かすシステムか」

「そう。試作型魔白滅皇高炉はかなり使える。また新しいシステムを構築中よ。だから、血文字でも伝えたけど、今度、実験に必要な素材と魔道具を魔塔ゲルハットに運びたい」

「おう。今後に期待しよう」

「うん」


 そこで、沙を見る。

 沙は珍しくディアを含めた皆との会話を優先していた。

 その沙と目が合うと、


「器よ。花妖精もどきをゲットしたが、魔塔ゲルハットから出ると、消えるように魔塔ゲルハットに戻ってしまったのだ!」

「へぇ、捕まえたのか。アギトナリラとナリラフリラの管理人は色々な力を秘めていそうだな」

「ふむ! 魔塔ゲルハットの外に出て買い物をする普通の花妖精もどきもいるのじゃ、不思議ぞ」

「アギトナリラとナリラフリラの管理人にも秘密がありそうです」


 ヴィーネの言葉に頷いた。

 

 沙を見て、


「沙、戻ってこい。羅と貂はもう中だ」

「分かった!」


 左手を翳した。

 掌の運命線のような傷が開く。

 運命線のような傷は、いつ見ても不思議だ。

 運命線の傷の近くには<シュレゴス・ロードの魔印>もある。


 その魔印から桃色の魔力粒子が少しだけ出ていた。


 前にも考えたが、やはり、この掌の傷の中と周辺は異空間と呼ぶべきものなんだろうか。


「器よ、戻るのだろう? さっさともう一度左手を翳せ」

「悪い――」

「ふふ、構わぬ――」


 微笑む美しい沙は体が分身しつつ揺らぐ。

 同時に体が細かな魔力粒子となりつつ神剣を模った。

 模った神剣に沙を意味するような梵字が浮かぶと、沙の魔力粒子は<神剣・三叉法具サラテン>の神剣になる。


 その神剣の沙が切っ先を見せつつ俺に向けて直進。

 当初のことを思い出すと、正直怖いが、大丈夫。


 ――<神剣・三叉法具サラテン>の神剣の沙は左手の掌の中にシュパッと音を立てつつ突入。

 

 ちゃんと帰還してくれた。

 そして、掌の中に戻る時の感触が気持ちいい。


 <サラテンの秘術>の傷。

 その秘術の完成が<神剣・三叉法具サラテン>。


 ステータスには、


 ※サラテンの秘術※

 ※掌に秘術を生む、神界から地上に堕ちたサラテンが主と認めた者の証拠※

 ※高能力値or<投擲術>or戦闘職業:<魔技使い>系統の高い熟練が必須とされる※

 ※シークレットウェポン系秘術:秘宝神具サラテン剣の操作が可能※


 ※神剣・三叉法具サラテン※

 ※使い手の三叉魔神経網が拡充、知覚根と運動根を発展させる※

 ※沙、羅、貂、が同時に目覚める時<サラテンの秘術>が完成する※

 ※サラテン※沙※羅※貂※

 ※沙、誉れある神界の那由他の沙剣なり※ 

 ※羅、誉れある神界の網と帷子が羅なり※

 ※貂、誉れある神界の仙王鼬族が貂なり※


 シークレットウェポン系秘術:秘宝神具サラテン剣。


 羅と貂の会話から、沙が神界セウロスから墜ちざるをえない何かがあったことは簡単に想像ができた。


 そんなことを考えながら――センティアの手を召喚して装着。


「センティアの部屋を使うぞ、ディア」

「はい、準備はできています」


 ディアは腕を上げてセンティアの手を見せる。

 俺も頷いた。そして、皆を見て、


「さぁ、センティアの部屋を活用しよう。【幻瞑暗黒回廊】を移動するぞ」

「「はい」」

「ん」


 センティアの部屋の黄金と銀の扉を二人で触る。

 

 俺とディアのセンティアの手の角灯が融合。

 前と同じく眩しく輝いたセンティアの手。

 半透明になると女性の手となって、瞬時にセンティアの扉に浸透。


 黄金と銀の扉が開く。

 瞬時にセンティアの部屋が少し浮いた。


「ご主人様!」

「――おう、皆、センティアの部屋の中に入れ」

「ンンン――」


 一番乗りは黒猫ロロ

 成猫versionだ。


「わたしも入ります」

「ん」

「了解、突入~」

「空を飛ぶ円盤に見えるわね」

「一種の宇宙船ってか?」


 ミスティにそう冗談を言いながら――。

 ディアを連れてセンティアの部屋の中に突入。

 

 前と同じく相棒が待つ中央に移動。

 俺とディアのセンティアの手はもう元通り。


「リフルが管轄していた魔迷宮と繋がっていた時と同じ壁ね」

「はい。背後の黄金と銀の扉が閉まりました」

「また魔法学院の屋上?」

「たぶんな」

「にゃお~」


 ディアは黒猫ロロの頭部を撫でている。


 そのディアは黒猫ロロから手を離して、俺を見る。

 すると、恥ずかしそうに頬が斑に赤くなった。


 ミスティと傍に寄ったエヴァが、ディアに小声で、


「ディア。落ち着いて」

「シュウヤは優しいから大丈夫」


 ディアは眼鏡に指を当てる仕種から、


「はい」


 と返事をしてから、俺を見る。

 直ぐに慌てて、スーハースーハーと深呼吸の動作。


 そのディアは新しい防護服の端をたくし上げる。

 スカート系だが、ゲージが厚いし魔力も内包しているスカートだ。


「わたしがあげたの」

「そっか」

「はい、レベッカさんから、美味しいお菓子と、魔力が上がる化粧品と肌の艶が良くなる軟膏と体の疲労が取れるポーションに髪留めのアクセサリーとパンツに防護服もいただきました!」


 レベッカはまめだなぁ。

 そして、こういうときは凄く優しい。


 そのレベッカは腰に両手を置いて、ドヤ顔を繰り出している。

 小熊太郎的な行動だ。ムカつくから褒めるのは止めとこう。


 さて、


「皆、早速試す」

「はい」

「シュウヤとディア、魔塔ゲルハットを想像してね!」

「おう。まだコントロールは完璧じゃないが……ま、やるだけやろう」

「はい、がんばります、レベッカお姉様!」

「うん! 善い子なディア!」


 ディアとレベッカが熱い眼差しで頷き合う。


「ご主人様、【幻瞑暗黒回廊】に出た直後に襲われる可能性も考慮しておきます」


 翡翠の蛇弓バジュラを構えたヴィーネ。

 白銀色の翼の<荒鷹ノ空具>で少し浮いていた。

 エヴァはディアの近く。


 黒猫ロロは黒豹に姿を大きくすると、俺の横に来る。


 レベッカも蒼炎を纏って魔靴で浮いた。

 ビーサは俺の背中側に回る。

 ミスティはゼクスの肩に乗った。


 キサラは弦楽器風のダモアヌンの魔槍を持って、


「飛魔式、ひゅうれいや……」

 

 <魔謳>を歌いながら<血魔力>を展開。

 ギターと三味音が合わさったような音楽がいい。

 更に、百鬼道ノ八十八の<魔倶飛式>たちと<飛式>たちも展開される。


 西洋と和が合わさった音楽に合わせて踊る紙人形たち。

 紙人形たちは俺たちの周囲を行き交う。


「ンン」


 黒豹ロロが紙人形を見て、一瞬瞳を散大。

 が、直ぐに俺を見て、大人しくなった。

 エジプト座りで尻尾を少し振るっている。

 相棒なりの警戒を示す座り方だ。


 そんな黒豹ロロとアイコンタクト。


「にゃ」


 相棒に向けて頷いた。相棒は頷くように首を引いて瞼と一瞬閉じた。可愛い。

 そして、ディアを見た。


「ディアも準備はいいな? チェーンが体に巻き付く」

「はい、お兄様が傍にいるから平気」

「よし、ディア、もう一度、センティアの部屋で【幻瞑暗黒回廊】に挑戦する!」

「はい、お兄様……<覚式ノ理>を、きて……」


 なんか色っぽい声だ。

 頷いてからセンティアの手に再び魔力を送る。

 ディアも自身の腕に嵌まるセンティアの手に魔力を送った。


 センティアの手に血と魔力を吸われた。

 俺とディアのセンティアの手からぶらさがる角灯が床に付着。

 同時に、センティアの部屋とセンティアの手から閃光が走る。

 

 その刹那――ディアがセンティアの部屋と融合。

 

 このディアと融合する感覚でセンティアの部屋をコントロール――。


『あぁぁ……お兄様……と……』


 前と同じくディアの中に俺の感覚がある。

 ディアの健気な心を労りつつコントロール。

 周囲の壁が一気に【幻瞑暗黒回廊】に変わった直後、ドッと衝撃音。

 左の壁に眼球お化けの怪物がぁぁ――。


 ほっと、安心。その怪物が消える。

 灰色の壁模様に変化。

 明らかに早いが、【幻瞑暗黒回廊】と通じた何処かに到着したようだ。


 どこだろう。

 ディアも不思議そうに自分の体が解放される様子を見る。

 

「ディア、魔力は大丈夫か?」

「はい」

「着いたようね……」

「おう。魔法学院か、または……」

「ご主人様、泡の浮遊岩と網の浮遊岩にも魔法学院はありますから……」


 ヴィーネの問いに皆が警戒度を高める。

 

「ま、あの黄金と銀の扉を開けないとな」

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