七百八十五話 赤い眼の闇神リヴォグラフと<夢闇祝>


 不愉快は当然か。

 闇神リヴォグラフ様に関わる眷属と七魔将リフルを倒したからな。


「闇神リヴォグラフ様。俺たちになんの用でしょう」

「『……我の神意力を受けても平気なようであるな?』」

「神意力? 不快なプレッシャーなら肌が痛いほどヒリヒリ感じていますが、ま、屁の河童ですよ」

「『……不遜な態度で不愉快である』」

「不遜もなにも、七魔将リフルたちを倒した存在が俺ですから。それで、なんの用があると聞いているんですが」


 霊槍ハヴィスと魔槍杖バルドークを構える。


「『……いい度胸だ。この魔迷宮を崩壊に誘った存在であるシュウヤを……そして、我の<暗黒瞑想>に干渉したシュウヤを見に来たのだ……』」

「その<暗黒瞑想>とはなんでしょう」


 赤い眼の闇神リヴォグラフ様は沸騎士たちをチラッと見てから、


「『解せぬ。<魔力楔の解>や<暗黒瞑想>のようなスキルはないのか? 腰の二つの書物のいずれかは、魔界四九三書であろうに……』」


 魔軍夜行ノ槍業にフィナプルスの夜会を指摘してくる。


「そのようなスキルはないです」

「『では、そこの魔界騎士のような存在は……』」


 沸騎士たちは蒸気のような魔力を強めた。

 闇神リヴォグラフ様に魔界騎士と間違えられたことで、沸騎士たちは喜んだ?


 エヴァが小声で「ぼあぼあが元気」と呟いていた。


「沸騎士たちとの絆の象徴である魔具は、最初に闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトに進化しましたから。その沸騎士たちとは不思議な繋がりがあります」

「『道理で、魔界セブドラに楔があるのか。魔界セブドラに領域を勝ち得ている証拠。定命の者の範疇でありながら、因果律を超えた存在がシュウヤなのだな』」

「はい、そのようです」


 俺がそう言うと、赤い双眸が無気味に煌く。

 何故か、プレッシャーが強まる。

 怒りの気配が増した。


「『理解。魔界セブドラに小さいが領域を持ち、諸侯と呼ぶべき存在でありながら、神界セウロスの神々の匂いをも撒き散らす異質な者がシュウヤなのだな。闇と光……実に不愉快である!」』


 素直に闇に染まっていれば違ったと思うが、まぁ一神教的な神様だしな、仕方ない。


 何事も恐れず、即断実行。

 ダークエルフなら、


〝戦う前によく考え敵を知る、厳粛に魔毒の女神ミセア様を恐れて敬ってから大事なことを決めろ〟


 の精神で、


「不愉快だろうが、俺は俺。光と闇を併せ持つ光魔ルシヴァルが俺たちだ」

「……リフルを屠るだけあって良い気概ではあるが、我は神の一人ぞ、おおいなる不遜である。しかし、強欲のリフルもザンスインなぞに肩入れするからこうなったのだ……そして、不遜であるが、我が愛する深い闇がありながらも、水神アクレシスに光神ルロディスの神気を宿すとは……不愉快極まりない! その神獣も闇がありながら光がある、不愉快だ。<闇神ノ鑑識>を弾く眷属どもも愛と光に満ちている。更に、そこの魔毒の女神ミセアの匂いを持つ弓を扱うダークエルフ……我を睨むとは……実に不愉快だ……が、そこの気を失った女の魔靴は我の匂いがする……不快ではない。更に、惑星セラでは珍しい種族がおる。プレッシャーは受けているようだが……総じて、気に食わぬ。不愉快である!』」

 

 そう言葉と思念を寄越すと――。

 紫色の閃光と雷鳴が至るところで響き渡る。


 赤い双眸が少し縮むと、瞬く。

 その双眸の前に、どす黒い色合いの闇と血が混じる魔法陣が現れた。


 魔法陣の中には複数の眼球がある。

 ぎょろぎょろと蠢く眼球の群れ。


 そして、


「『朱魔獣王使いグアルアン! 賢愚・魔界騎士アガン・ラヌス! 現れよ! 我に屈せヌ、不遜ナこやつらヲ、生きてこの場から離脱させるな! この滅びゆく魔迷宮リフルと都市ごとで構わぬ、こやつらヲ罰せよ!』」


 闇神リヴォグラフ様の震える言葉と強い思念が響く。

 眼球が複数ある魔法陣が閃光を放つ。


 しかし、俺たちごと塔烈中立都市セナアプアを潰すだと?


 刹那、右側の黒い霧に渦が発生――。

 渦の周囲に紫色の雷鳴が迸る。

 続いて、その雷鳴を伴うように巨大な人型魔獣が出現。


 立派な角を有した人型魔獣か。

 その人型魔獣の肩には戦士風の魔族が乗っている。

 ソルフェナトスっぽい雰囲気があった。

 やや遅れてローブを羽織った魔人が現れる。魔人……怪人か?

 頭部が二つ。大きい頭頂部同士が繋がっていた。

 痩せた大魔術師が二人で一人か。

 二人羽織とはまた違うが、異質すぎる。


 リフルのような三つの頭部なら、まだ分かるが。


 地下都市フェーンの魔神帝国の怪物っぽいか。

 総じて、新手は魔界セブドラの諸侯たちってことだろう。


「ガルルゥ」

「皆、警戒。相棒も距離を取れ」

「ん」

「ンン――」

「「はい」」


 相棒はセンティアの部屋の上から跳躍。

 俺の近くに着地する。

 

 大きな黒豹ロロの瞳は散大中。

 その相棒とアイコンタクトして頷いた。


「ンン」

「……あれ?」

 

 相棒の背中にいる寝ボケ顔のディアが起きる。


「あ、お兄様! あぅ――」


 相棒は喋り途中のディアを乗せて沸騎士たちの下に向かう。


「ロロ殿様!!」

「ロロ様ァァァ」

「ンン、にゃ」

「ひゃぁぁぁぁ」

「なんと、女子が気を失ってしまった!」


 沸騎士たちの興奮は声で分かる。

 その沸騎士たちを間近で見たディアはまた気を失ったか。


 沸騎士たちは見た目がゴツいからな。

 サイデイルの子供たちには人気があったんだが仕方がない。


「沸騎士たち、守りを優先」

「「ハッ」」


 皆も頭上の様子を窺いながら俺の横と背後に移動してきた。


「シュウヤ、魔界騎士たちが召喚されたようだけど……」

「大きい魔獣を扱う魔界騎士は強そうです――」


 キサラは紙人形を展開中。

 

「ん、降りてくる速度が遅い?」


 確かに、ホバリングしているわけじゃない。


「あぁ、ある程度推測はできるが」

「魔迷宮リフルの崩壊が関係しているかもですね」

「はい、闇神リヴォグラフは<暗黒瞑想>とやらで、この魔迷宮リフルと繋がりがあるとはいえ、ここはセラですから、狭間ヴェイルの干渉を受けているはず」


 ヴィーネとキサラの言葉に頷きつつ――。

 アイテムボックスから波群瓢箪を出した。


「あ、リサナを出すのね」

「おう」


 と返事をしつつ上を見る。

 あの渦に<闇穿・魔壊槍>をぶち込むか?


 いや、反作用で何が起こるか分からない。

 外は塔烈中立都市セナアプア。

 センティアの部屋がある【幻瞑暗黒回廊】と通じている魔迷宮がここだ。

 

「召喚に時間が掛かるなら好都合。リサナ、砦モード、ミスティと連携――」

「はい♪」


 続いて、腰の閃光のミレイヴァルの杭へと魔力を込める。

 <霊珠魔印>を意識。


「閃光のミレイヴァル、出番だ」


 二の腕の<霊珠魔印>と胸元が輝いた。

 金属の杭が青白い塵となって消えた直後――。

 ミレイヴァルは片膝で床を突いた状態で実体化。


 そのミレイヴァルの手の甲の十字架が光り輝いていた。


 膝の横に縦に置いた聖槍シャルマッハの柄を握った姿勢のミレイヴァルは、エロカッコいい。


 黒髪には青白い魔力がまだ残っていた。

 そのミレイヴァルが俺を見上げる。

 双眸を隠していた前髪が揺らいで、前髪の間から片目を覗かせた。

 

 その片目の視線は熱い。


「陛下――破迅団団長ミレイヴァルが、今ここに!」

「おう、頭上から闇神リヴォグラフと関わる魔界騎士が降りてくるようだ」

「はい! 魔界の……」


 ミレイヴァルは聖槍シャルマッハを握りつつ真上を見た。

 すると、横にいた実体化していた沙が神剣を斜め上に向けて、


「器よ、まだ何かある! ヴィーネとキサラが話していたが、その通りであろう。魔迷宮が崩壊する間の狭間ヴェイルの干渉がオカシイようだ」

「闇神リヴォグラフの魔力が弱まっていることも関係があるか」


 そう発言しつつ常闇の水精霊ヘルメとアイコンタクト。

 頷き合う。

 そして、相棒とディアをチラッと見て、再びヘルメを見た。

 

「はい、守りを優先します」


 ヘルメの笑顔を見ると安心できる。


「頼む」


 王牌十字槍ヴェクサードを出して床に刺す。


 すると、首筋に痛みが走った。

 

「え? シュウヤ、首から血が」

「ん……<夢闇祝>?」

「そのようだが、まさか――」


 真上の黒い霧の渦が暈けると、その黒い霧の更に奥に別の空間が誕生した。


 その奥の空間に白っぽい光が走ると、奥の空間に樹木のような蜃気楼を映す。


 同時に、その奥の空間その物が白銀色の輝きを放った。

 

 輝きは瞬く間に霧となる。その霧が、また暈けた。

 霧が薄まると、白湖の銀世界が一気に拡がった。


 白銀の湖が、黒い渦の奥に誕生した。


 白銀の湖の上には紫金の大樹が浮かぶ。大樹の幹には虹色の複眼が嵌まっている。

 瑪瑙の枝には、珊瑚の葉に、黒真珠の果実と勾玉の闇の三つ花が綺麗に咲いて育っていた。幹の根元から出た白銀色の水が滝を作っている。

 滝の水飛沫を浴びている湖面では無数の鬼の小人たちが踊る。


 楽器を持つ小人。

 塗り傘を被り、黄心樹と弓張り提灯を手に持つ小人。

 傀儡廻しで踊る人形のように踊る小人。

 念仏踊りと田楽的に踊る小人。

 墨痕淋漓とした筆で、三玉宝石の絵を描いている小人。


 まさに、魔界版デボンチッチだ。小さい勾玉も浮いている。

 そして、そんな不思議な者たちを従えている存在が中央にいた。


 湖と同じ白銀の髪。

 エメラルドと深淵の闇を感じさせる虹彩の瞳。


 単袴のような美しい衣を羽織る美しい女性。

 その美しい女性が俺たちを見ると、手元がブレた。


 刹那、ブレた腕から無数の黒兎が連なりつつ――。

 ゼロコンマ数秒も経たず、黒い穂先のような形を形成すると、黒い穂先は伸びに伸びて手前の黒い渦を切り裂いた。


 更に直進した黒兎の穂先――。

 眼球が複数ある魔法陣をも貫いた。魔法陣は闇の炎に包まれる。


 黒兎の穂先は勢い衰えず突きすすむと、出現途中だった朱魔獣王使いグアルアンと賢愚・魔界騎士アガン・ラヌスを貫いた。黒兎たちは、口を拡げつつ、その魔界騎士たちの体を引き裂くや、魔界騎士だった肉塊を喰らう黒兎たち。


「『な!?』」

「『――美しき黒い瞳を持つ魔界騎士は妾の魔界騎士ぞ! 手出し無用!』」

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