七百三十七話 血想槍

 

 二槍を構える魔人ソルフェナトス。

 骨刃が拳の上で浮いている手で掴む。


 そして、俺を見ながら、


「その面頬は闘気霊装か。それにしても見事な戦いだった」

「おう。ソルフェナトスも魔槍の扱いと骨刃の飛び道具は見事だった」


 俺がそう告げるとソルフェナトスは破顔。

 そのソルフェナトスは、エヴァとレベッカにヴィーネとキサラを見てから、


「互いにある程度の技を見せたわけか。が、まだまだ本気ではないんだろう?」

「当然だ」

「俺もだ」


 そう答えると、骨人形のキストレンスが近付いてきた。


「おい、武術マニア共、仲良くなってんじゃねぇぞ、ボケ」


 語り口調が面白い骨人形のキストレンス。


 相棒が見上げた。

 骨人形のキストレンスに興味を持ったか。

 桃色の鼻の穴を拡げて窄ませていた。

 きっとキストレンスに飛び掛かって頭蓋骨の溝と眼窩に鼻や口の骨の匂いを嗅ぎたいんだろう。


 噛みついて感触を確かめたいとか?

 歯磨きに利用できるとか? 


 刹那――。

 そんな暢気な空気は失せた。


 掌握察に魔素の反応だ。 

 魔素は多数。

 ヴィーネとキサラたちの左と右斜め前が多いか。


 黒豹の状態だった相棒も尻尾を動かしつつ魔素の反応が多い左側へと頭部を向けた。


 相棒は四肢に力が入ったのか。

 爪が地面に食い込む。


「ガルルゥ」


 唸り声を発した。

 骨人形のキストレンスは、


「はぁ、またかよ。で――」


 とソルフェナトスの肩に腰掛けると、ソルフェナトスと俺を交互に見て、


「ソルフェナトス。また戦うのか?」

「当然だ――そして、この状況だが」


 ソルフェナトスは遠慮気味だ。

 意味は逃げるなら逃げろか?


「気にするな。約束は守る」


 俺はそう言って――。

 魔槍杖バルドークを引き抜く。


 頷いたソルフェナトス。

 肩にキストレンスを乗せたまま頭を下げた。


 礼儀正しい所作だ。

 そして、頭部を上げると、


「では、さっさと外の連中を倒すとしよう」

「おうよ。で、新手だが、今倒した連中と同じ類いか?」

「たぶんな」

「魔人武王ガンジスの遺産を狙う魔人武術の使い手たちってことか」


 すると、レベッカが、


「シュウヤが戦っていた連中はラスアレの弟子って聞いたわよ」


 レベッカの言葉と同時に反応した魔軍夜行ノ槍業。


『――使い手が倒したのは魔人武王ガンジスの弟子の弟子。その魔人武王ガンジスの弟子の一人のラスアレとは、俺が<獄魔破豪>で片腕を貫いた野郎だ』

『そのラスアレって方はまだ生きているようですね』

『仕留めたはずだが魔人だからな……が、使い手よ。お前は魔人武王ガンジスの弟子の弟子を倒したんだ――俺の獄魔流の第一の弟子として、〝良くやった〟と褒めておこう』

『ありがとうございます』

『おう。槍技は獄魔流だけを励め。で、そこのソルフェナトスは俺たちの元配下。戦旗を持ち、縁もある。が、お前と戦うつもりなら話は別だ。気にするなよ? トースンの魔人武術に関する秘伝書はお前が学ぶべき代物だ。優しさで譲るようなことは、絶対にするな!』

『ご安心を。武に関しては、そんな柔ではない。真面目に叩きのめす覚悟です』

『フハハ、うむ! いい面といい覚悟だ』


 魔軍夜行ノ槍業から魔力が俺に伝わる。

 いつもと逆だから少し意外だった。


 活力を得た。


 同時に腰ベルトにぶら下がる閃光のミレイヴァルがピクピクと動く。

 フィナプルスの夜会も、魔軍夜行ノ槍業の行為に驚いたのか揺れていた。


 そんなゼロコンマ数秒の間に――。

 ソルフェナトスは魔軍夜行ノ槍業をチラッと見た。


 が、直ぐに鋭い目付きのままレベッカに視線を移すと、


「その通り、蒼炎使いの耳長エルフ。槍使いが倒した両手剣使いの名はガダレッガ。種族は馬怪魔ガイバール。魔人武王ガンジスの弟子の一人のラスアレの弟子と呼ばれていた存在のはず。他にも魔剣師ホスレル、魔槍使いアトラセル、魔弾ナリアン、魔弾の射手ガラインなどもいたが、そこの紫色の魔力を扱う黒髪のトンファー使いとお前に倒されていた。因みに魔弾ナリアンは【闇の枢軸会議】に従属している【陰速】と通じていたはずだ。そして、魔杖のテテナスだが、槍使いも体に傷を受けていたように、強者として名は聞いている」

「ん、わたしたちの戦いも観察していたの?」

「あぁ? 当然だろう。槍使いを倒せば、お前たちは黙っていないだろうからな」

「――え? エヴァとも戦うつもりなの? もしそうなら、魔人武王ガンジスの遺産がどうとか、お宝絡みなんだとは思うけど……容赦はしないわよ……」


 レベッカはそう語ると拳に蒼炎を灯す。

 少し怒った。


「……ほぉ」

「何が、ほぉよ。シュウヤに勝ったつもりなの!」


 レベッカは更に怒った。

 拳の周囲から出た蒼炎の火力が凄まじい。

 ふと思ったが、ムラサメブレード的な運用も可能か?

 すると、エヴァが、


「ん、わたしは貴方と戦いたくない」

「……」


 エヴァの真正面からの言葉を聞いた魔人ソルフェナトスは動揺。

 エヴァは、その真意を測るように魔人ソルフェナトスの厳つい表情を凝視し続ける。


 魔人ソルフェナトスはエヴァの視線を受けて赤い魔眼を左右に泳がせ続けた。


「……反応に困る言葉だな。ま、俺は俺の武に自信があるだけだ」


 そう語るソルフェナトス。


「ふん、武への自信ならシュウヤにだってあるんだから!」


 レベッカはそう発言すると腰に手を当てながら胸を張る。

 すると、魔人ソルフェナトスのイヤーカフが光った。

 そのイヤーカフにキストレンスは吸い込まれる。

 そして、小さい頭蓋骨だけがイヤーカフから出た。


 プニョッと音はならないが、アドゥムブラリ的に出た小さい頭蓋骨が、


「キーキーうるせぇアマだ」


 と発言。

 レベッカは双眸にも蒼炎を宿らせて、


「……ムカつく。シュウヤ、その骨ごとソルフェナトスを叩き潰してね」


 そう発言した。


「おう。チャンスがあったらな」

「槍使いも乗り気か。危機が迫ったら、槍使いと仲間たちで、俺たちを一斉に攻撃するつもりか?」

「わたしはそれでもいいわ。その生意気な骨人形のキストレンスもソルフェナトスと一緒に戦うんだから、当然でしょ!」


 レベッカの言葉は数がどうとかの前に正論だ。

 が、魔人ソルフェナトスは俺を待ちつつ、今も、こうして律儀に会話を楽しんでいる時点でな。


「レベッカも落ち着け。そんなことはしない。ソルフェナトスも強引に奪うつもりなら、俺たちがここに来た時に、さっさと先制攻撃を仕掛けてきただろうからな」

「……チッ、読まれたか。喰えねぇ奴らだ。その通りだよ。槍武術はマジだからな。遊びだろうと趣味だろうと、マジに遊ばねえと意味がねぇ」


 タイマンで学びたいってか。

 漢として生きている魔人か。


「……しょうがねぇな。槍使いとソルフェナトスが戦う際は俺はイヤーカフの魔道具、ガ・レバースから外に出よう。それでいいか? 耳長エルフ。そして、サシで俺と戦いたいなら戦ってもいいぞ」


 骨人形のキストレンスが流暢にレベッカに対して語りかける。


「骨人形、勘違いしないで。わたしは武人ではないし本当は戦いたくない。お菓子を食べて紅茶を飲みながらシュウヤと一緒に過ごしていたいだけ。でも、意外ね。骨人形は生意気だけど、堂々としてる」

「ふ、生意気はお前だろう。お菓子と紅茶が好きな可愛い耳長エルフ。そして、ソルフェナトスと同様に俺も強いぞ。骨人形と侮ると……お前の細身の体が穴だらけになるだろう」


 骨人形のキストレンスはコミカルに語ると、イヤーカフから頭部以外の体の一部を出して、その体の一部を少し大きくしていた。


「……え、可愛いは、うん、ありがと……でも怖い顔して! 戦わないと言ったでしょうに! あと、口が悪いわたしならともかく、エヴァに手を出すつもりなら……ほんっとに許さないからね!」


 すると、エヴァが紫色の瞳を揺らしつつレベッカを凝視。


「……ん、ありがとうレベッカ。凄く嬉しい」

「ふふ、当然でしょ! エヴァだって、わたしと同じ気持ちのはず」

「ん! レベッカのことは守る!」


 キッと表情を強めたエヴァは紫色の魔力を体から発していた。

 が、直ぐに視線は優しく変わる。


 そのエヴァは、


「魔人ソルフェナトスとキストレンス。レベッカにもシュウヤにも戦ってほしくない」


 優しいエヴァだ。

 こうして話ができているから尚のことなんだろう。


「あと魔族は他にもいる。今はソルフェナトスとキストレンスも仲間!」


 力強く語ったエヴァ。

 ジッとソルフェナトスとキストレンスを見る。

 イヤーカフと繋がっている骨人形のキストレンスはあまり動じていないが、魔人ソルフェナトスは……。


 そのエヴァを見て、


「チッ、調子が狂うぜ……」


 と舌打ちをしてから喋ると恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 視線を逸らして鋼色の魔槍の柄を肩に乗せつつ、


「黒髪の美女。お前の言うことは正しい……ということにして、今は外の敵に集中しようか」


 そう言ったソルフェナトス。

 頬が少し赤い?

 エヴァが好みか。

 そのソルフェナトスに向けて、


「魔人武王の遺産には俺も深く関わる。だから遅かれ早かれ俺にも魔族共が押し寄せてくることになるってことだ」

「さっき出現させていた槍の中のどれかか。そして、その腰の魔軍夜行ノ槍業は、俺のような存在が狙うだろうからな……」


 ソルフェナトスはそう語りつつ、エヴァのことをチラッと数回見た。

 エヴァはキョトンとしている。


 そのソルフェナトスに向けて、


「で、魔人武術を好む魔族たちのようだが、元々は、一匹狼的な傭兵が多いのか?」

「そうだ。が、俺とキストレンスは【血銀昆虫の街】の酒場と武術街の幾つかで暴れたんだ。その結果、俺を狙う連中が増えた」

「暴れたってのは、この烈戒の浮遊岩に来る前か」

「おう、大海賊の船が転覆するような怒濤の勢いでな!」

「詳しく」


 魔人ソルフェナトスは頷きながら両手を拡げた。そして、


「……武術街で、魔術剣の使い手ハバドッドと怒剣流の奥義剣譜を巡って争いつつ、魔槍使いラアンとも魔人ソーライが残した独自の<魔槍技>と<武槍技>の襲牙槍譜を巡って争いあった。ついでに【魔風ライゼッハ】の連中が幅を利かせている闘技場と賭博場で揉め事を起こして、武術連盟と裏武術街の連中とも大喧嘩。闇ギルドの【ペニースールの従者】と揉めては、【テーバロンテの償い】の黒装束野郎とも大喧嘩。虎獣人ラゼールのアボルって剣士に、ライカンスロープの愚連隊とも大喧嘩。港では名は忘れたが大海賊の連中のシマを荒らして、違法奴隷たちが詰め込まれていた箱を解放。ついでに船の宝を頂いた。追っ手がわらわらと来たから逃げたんだ。ま、他にも色々だ。で、ネドーの企みについて、その一環から情報を得ることができたって面もある」


 ネドーに関しては感謝しかないが、下界で暴れまくりじゃないか。

 一種のトラブルメーカーか?


「それと、港では【闇教団ハデス】と協力関係にあるサーマリア王国のミューラー伯爵の名を聞いたな」


 ミューラー伯爵?

 聞いたことがないが、大海賊繋がりか。

 そのことは言わずに、


「【血銀昆虫の街】の連中と揉めたからか……」

「ん、【血銀昆虫の街】は、魔の昆虫を育てることに適した環境と聞いている」

「違法な奴隷売買に利用されている建物が多い。そこを潰したのなら偉いわ」

「ん、同意。奴隷たちが入ったコンテナ。そのコンテナに生きたまま奴隷を詰めていることもあるって話は残酷すぎる」

「そう。邪教も多い。奴隷たちは儀式の触媒用でしょう? 反吐が出る……」

「ん……」

「【魔塔アッセルバインド】の小さい事務所は下界にもあるんだけど、そのリズさんからも『怖い場所もある。慈善事業で集められた人や子供などを金に換えて売り飛ばす。更には子供大人関わらず、臓器として売買するために殺しまくる、一部の権力者と通じた屑な邪教カルトが多い場所だよ』って聞いているから」


 おぞましい。

 が、どこの世界も変わらないな。


 俺が知る日本でも毎年、行方不明になる子供の数は多かった。


「……ん、先生たちは、その怖い街を通ってペレランドラの商会の港側に近い倉庫に向かったから心配」


 エヴァとレベッカがそう発言。

 魔人ソルフェナトスは頷くと、


「下界はとくに多いが、魔界だろうと、この地上だろうと、醜い争いはどこにでもあるもんだ」


 魔界セブドラは、沸騎士たち、シュヘリア、デルハウト、アドゥムブラリから聞く範囲だと、常に争い合っているイメージだが……。

 アドゥムブラリの話では街や都市もあるようだったからな。


 ソルフェナトスは続いて、


「奴隷たちの血肉を触媒に利用する連中では、【テーバロンテの償い】の幹部の【魔の扉】を操るバルミュグと、【ライランの縁】の血剣師サンガ・ガンガの兄弟辺りが有名だ」


 と、情報を寄越してくれた。


「そんな連中が多いから副議長のドイガルガも逃げることができたってことか」

「ん、仕方ない」

「うん」


 俺たちは頷き合う。

 すると、ソルフェナトスは敵の魔素の反応があった方角を見る。


 敵の魔族たちは遺跡の壁を利用しながら近付いてくるや姿を一斉に現した。


 先頭は射手たちか。


 魔族の射手たちは並ぶ。

 俺たち目掛けて一斉に魔矢を射出。

 黄緑色に輝く魔矢だ。

 毒か――。

 すると――前方にいるキサラが、


「シュウヤ様。あれはわたしが――」


 キサラが出した鴉の群れが矢を相殺――。

 ソルフェナトスは、


「ほぉ、一瞬で、あの量の矢を血色に輝く鴉で迎撃するとは、素晴らしい質の魔法かスキルだが……珍しいな。大魔術師の類いでありながら槍使いか」


 キサラは褒められても笑顔は見せず。


「……ソルフェナトス。シュウヤ様と戦うようですが、もし、卑怯な真似をしたら、どうなるか……」

「卑怯だと? 知るかってんだ。で、俺が卑怯な戦いをしたらどうなるってんだ?」

「……骨人形ごと、その体を木っ端微塵に消し飛ばしてみせます――」


 キサラは苛ついた表情を顔に出しながらダモアヌンの魔槍を地面に突き刺す。


 <血魔力>を全身から発している。

 少し怖かった。

 ヴィーネは黙ったまま冷然と立つ。


 キサラと完全に同意したような面だ。


 二人とも冷静に。

 と思うが、まぁ、敵の攻撃も飛来した。


 血が滾るのも仕方ないか。

 魔人ソルフェナトスは笑いながら魔槍を振るって、飛来した第二波の魔矢を弾き斬る――。

 イヤーカフにキストレンスは格納された。

 そして、


「――フハハ! 槍使いの部下たちも強そうで戦えば楽しめそうだ――が、まずは、あの魔族共だな――」


 そう語るや――。

 鋼色の魔槍で振るって魔矢を幾つも切断。

 鋼色の魔槍に振り回されるような機動にも見えた横回転を行う魔人ソルフェナトス――。

 すると、二つの長く太い腕で持つ魔槍を勢いよく振るう、否、<投擲>――。


 宙を直進する鋼色の魔槍――。

 飛来する魔矢と衝突した鋼色の魔槍。

 そのまま鋼色の魔槍は魔矢を弾き飛ばしつつ三人の黒装束の射手の胴体を貫くや、一瞬で、背後の角あり魔族の胴体に突き刺さった。


 胴体を貫かれた黒装束の射手は力なく倒れたが、その背後の角あり魔族は、灰色の魔槍が胴体に突き刺さったまま苦しそうな表情を浮かべて生きていた。


 角あり魔族は胸元の鋼色の魔槍を掴む。

 魔人ソルフェナトスの<投擲>は威力があったと思うが……。


「俺の魔槍ホーバインの<グレナダ狩り>を受けきるとはな……やはり、魔人武王の遺産を狙うだけはある」


 敵を褒める魔人ソルフェナトス。

 あの角あり魔族の体は頑丈か。

 角が密集している額の角は、他の角あり魔族と違う。


 再生能力を有していそうな気配がある。


「……ぐぁ、このような槍なぞ……」


 と喋った角あり魔族は前に出ると、自分の胴体に刺さった鋼色の魔槍を引き抜いて捨てた。

 血濡れたホーバインと名がある鋼色の魔槍は地面に転がった。

 角あり魔族の胸元の丸い傷の穴から紫色の血が迸る。


 が、直ぐに傷の穴の周囲から煙が湧きつつ筋肉組織が自動修復された。


 すると、


「シュウヤ様、出ます」

「ご主人様。あの魔族たちはわたしたちが」

「了解」


 俺の頷きと言葉を見て聞いたキサラとヴィーネは素早く駆ける。


 左のキサラはダモアヌンの魔槍で<刺突>系の技を繰り出す。


 角あり魔族の頭部を穂先が貫いた。


 右のヴィーネはガドリセスの邪竜剣の<刺突>系の技で、その角あり魔族の体を刺し貫いた。


 左右で肩を並べた二人。

 そのまま呼吸を合わせてダモアヌンの魔槍の矛とガドリセスの刃を互いの逆側へと動かして角あり魔族の体を裂いた。


 魔人ソルフェナトスは角あり魔族を倒した二人の動きを見て、


「すげぇな。血の眷属の類いか?」


 と、素直に感心。

 喜んでいる。


 ソルフェナトスは根っからの武人だな。

 そのソルフェナトスは手を上げる。


 その手と体から出た魔線が輝いた。

 次の瞬間――。


 角あり魔族が捨てた鋼色の魔槍が動く。

 一瞬で飛来させつつ、その鋼色の魔槍ホーバインを手に引き寄せていた。


 魔人ソルフェナトスは手以外から出た魔線も輝きを放つ。


 それらの魔線は、周囲の地面に突き刺さったままの魔剣などと繋がっている。

 いつでも複数の武器を体の近くに引き寄せることは可能か。


 <導魔術>のように浮かせて独自に戦わせることもできるとみたが……俺の<超能力精神サイキックマインド>とエヴァの<念動力>にも似ている。んだが、やはり、カリィやアキレス師匠が扱うような<導魔術>系の能力だろう。


 そう魔人ソルフェナトスを分析しながら、


「そうだ」


 と血の眷属について肯定。

 すると、射手の魔族たちを越えて武者っぽい装束の魔族たちが次々と出現。


 俺たちに武具を向けてくる。


「――ソルフェナトスが雇った闇ギルドの連中か!」

「先ほどは血の鴉が舞っていた。高祖吸血鬼の一族かもしれん!」

「ともかく、高位魔力層の集団だ。侮るな」

「「おう――」」


 武者魔族たちが叫ぶ。

 その背後に並んだ魔族の射手連中がヴィーネたちに矢を放つ。

 キサラとヴィーネはそれぞれの武器で魔矢を弾きつつ遺跡の溝に隠れた。


「先鋒が隠れたぞ! まずは、ソルフェナトスを優先だ!」

「「おう」」

「――【魔風ライゼッハ】の心意気を見せろ!」

「「おう! 魔風の如く――」」

「「敵を食い破る!」」


 新手の声は荒々しい。


 角が額に密集した兜は戦国時代の武将風だ。

 それぞれ特徴のある兜と帽子を装備している武者風の魔族たちは渋い。


 それらの渋い武者魔族たちは……。

 槍使い、魔剣士、短弓師、魔術師、破戒僧、修験者、山伏、武士といった格好にも似た装備類だ。


 山伏的な魔族たちの頭部の造形は、面頬的。

 鼻は天狗っぽい。

 そして、巨大な尖頭円型の頭襟を装着している。


 エルフと違う長い耳が多い。

 網代笠のような帽子を被る武者魔族もいた。

 武器は棍棒が多いか。


 長い槍を持つ槍使いの武者魔族もいる。


 それらの武者魔族と射手魔族たちが、遺跡の坂道とがれ場を駆けてくる。

 すると、


「ん、わたしたちも――」


 エヴァは紫色の魔力が包むサージロンの球を<投擲>――。

 続いて緑皇鋼エメラルファイバーを操作するエヴァ。


 緑皇鋼エメラルファイバーの円盤状の刃と長方形の刃を周囲に無数に造る。

 と、その緑皇鋼エメラルファイバーの円盤状の刃と長方形の刃を前方に向かわせた。

 遠隔攻撃を繰り出したエヴァの斜め前にいるレベッカが、


「うん――」


 と言いながら蒼炎の槍を造る。

 エヴァの遠距離攻撃に合わせて蒼炎の槍の<投擲>を行った。


 サージロンの球が武者魔族の射手たちの頭部を粉砕。

 魔術師と修験者の武者魔族の体に、緑皇鋼エメラルファイバーの円盤状の刃が次々と突き刺さる。


 山伏っぽい魔族の体にはレベッカの<投擲>した蒼炎の槍が突き刺さった。


 エヴァとレベッカの攻撃に合わせて、キサラとヴィーネは前進。

 前衛の機動に合わせるとしよう。


 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を発動――。


 武者魔族の集団に《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を喰らわせた。

 魔剣士、槍使い、山伏系の武者魔族の一部は、氷の網に武器ごと体が捕らわれると、その体は一瞬でバラバラとなった。


 しかし、動きの速い武者魔族は《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》に対応。

 刀を傾けつつ横に飛翔し《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を避けるや、レベッカの蒼炎の槍をも、遺跡の一部を障害物として利用して避けて、ヴィーネとキサラとの間合いを詰める。


 接近戦となったヴィーネとキサラたち。

 ま、大丈夫だろう。


 俺は――。

 動きが鈍い大柄の武者魔族を狙う。


 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》――。

 を再び繰り出す。

 しかし、大柄魔族の防具は優秀か。

 俺の《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》が衝突する瞬間。

 大柄魔族の周囲が光って、大柄魔族が着る魔法の鎧に《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》の氷の網が吸収されるように消失してしまった。


 その大柄の武者魔族はエヴァのサージロンの球を大きな鉈で払って前進してくる。

 が、同時に向かってきたレベッカの蒼炎の槍の攻撃を、その大きな鉈で防ぐことは難しい。

 俺の《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を吸収した優秀な防具だったが、蒼炎の槍が複数箇所に突き刺さると、大柄の武者魔族の頭部をも蒼炎の槍が突き抜けた。


 頭部を失った大柄の武者魔族は仰向けにゆっくりと倒れた。

 その背後の破戒僧の武者魔族は横へのステップを繰り返しつつ、倒れてきた大柄の武者魔族を避ける。


 同時に防御魔法の発動を続けていた。

 器用だ。


 破戒僧の武者魔族は、俺の《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》と、エヴァのサージロンの球に緑皇鋼エメラルファイバーの金属の刃を、その扇状の防御魔法で見事に防ぎつつ加速する。


 <血液加速ブラッディアクセル>のような加速術か?


「――あの防御魔法と加速術を同時に扱える強そうな破戒僧の武者魔族と右奥の武者魔族たちは、俺と相棒が倒すとしよう」

「にゃお~」

「承知した」

「ん、シュウヤ、がんばって」

「うん、右奥の数は多いし手前の頭巾魔族も厄介そうだから気を付けて!」


 俺と相棒は皆の声を聞きながら――。

 破戒僧の武者魔族が跳んだ右側に向かう。

 手前の破戒僧の武者魔族は身構える。その奥の遺跡の坂道にいる武者魔族の数は十数。


 先を走る黒豹ロロディーヌが、


「ンン」


 と、喉声を発した。

 同時に首か胸元から触手を前方に向けて伸ばしていた。

 破戒僧の武者魔族に向かう触手の先端から骨剣が出るが、その触手骨剣は扇状の防御魔法に弾かれた。


 エヴァの緑皇鋼エメラルファイバーの金属の刃を防いだように物理防御能力も高い扇状の防御魔法で、硬い。


 試しに<鎖>――。

 <鎖>はその防御魔法に突き刺さった。

 よし、相性が良かったか。


「――相棒、少し離れていろ」

「にゃ――」


 横移動しつつ――<鎖型・滅印>を意識。

 両手を最小の動作でクイックネスに動かしつつ<鎖>を連続発射。


 梵字が宿る<鎖>が躍動――。

 扇状の防御魔法を削りに削る。


 続けて<血道第三・開門>を意識。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動すると同時に<魔闘術の心得>も意識。

 体幹を中心とした魔力が体を一瞬で巡る。

 <魔闘術>を強めつつ血を纏う魔槍杖バルドークで<刺突>のモーションのまま破戒僧の武者魔族との間合いを詰めた。


 そこでいきなり左手を翳す。

 破戒僧の武者魔族は驚く。


「んあ?」

『――ぬお!?』


 <神剣・三叉法具サラテン>を発動。

 魔族と一緒に沙も驚いていた。

 ――しかし、驚きながらも左手の掌から――。


 ちゃんと神剣沙・羅・貂サラテンとして俄に飛翔する――。

 削れて薄まった扇状の防御魔法をぶち抜いた神剣沙・羅・貂サラテン――。


 そのまま破戒僧の武者魔族の頭部を派手に貫いた。

 脳漿などの血飛沫を吸い寄せる神剣沙・羅・貂サラテンは突進。

 遺跡の壁に突き刺さりそうになったが、そうはさせない。


 神々の残骸も重要かも知れないが――。

 あとでいい――。


『戻ってこい』

『うん――』


 いい子バージョンの沙。

 神剣沙・羅・貂サラテンは即座に左手の掌に戻った。

 戻る際に半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードの蛸足が出た。


 俺が「シュレ」と呟くと――。


 直ぐに『主』と思念を寄越したシュレゴス・ロードの桃色魔力が左腕を覆う。

 そのまま右の武者魔族たちを凝視。


 その武者魔族たちの中の一人が前進してくる。


「――このザハメドルが、彼奴を仕留めてみせよう!」


 そう叫びつつ魔剣を振るってきた。

 鋭い魔剣の斬撃だ――。

 が、魔力操作に筋肉の動きで、その刃の軌道は読める――。

 魔剣軌道の裏を見るように掻い潜りつつ、左手から出た半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードの魔力を左手に移した魔槍杖バルドークに吸わせた。


 同時に<柔鬼紅刃>を発動。

 ――魔槍杖バルドークの穂先が瞬時に紅斧刃に変わるや――。

 その紅斧刃となった魔槍杖バルドークを右下に、手前へと柄を引きつつ移動させる――。

 ⚡的な稲妻の文字を描く機動の紅斧刃が、武者魔族の下腹部を捉えた。

 そのまま腹から太股を薙ぎ斬る。


「――げぇ」


 悲鳴を載せた臓物と血飛沫が迸った。

 その血飛沫を吸い取って大量の魔力を得る。

 魂も得ていると分かるが、魔槍杖バルドークもそれらの魔力と魂を得て喜んでいた。


「カカカッ」

 

 と、乾いた笑い声が魔槍杖バルドークから響いてくる。

 その魔槍杖バルドークを左手から消して直ぐに神槍ガンジスを左手に召喚――。

 そのまま左手一本が槍と化すモーションの<水穿>を繰り出した――。


 倒れゆく武者魔族の頭部を方天画戟と似た矛が穿った。


「つえぇぇ!!」

「紫色の魔槍と白銀色の魔槍か? 異質過ぎる……」

「血の面頬といい吸血能力を有した闘技者だろうか」

「どう考えても吸血鬼だろ? セナアプアではかなりレアな存在だが……」

「流浪の高祖級の吸血鬼……数千年は生きているとなると、魔人武術と槍技の質は魔人ソルフェナトスを超えるか?」

「――な!? おい! お前ら! あの腰の書物をよく見ろ!!」

「オォ? 異質な魔力が詰まった魔術書、魔導書、魔造書か?」

「魔人武王ガンジス様の遺産か? 敵対者の奥義書か?」

「……貴重な奥義書ならたまんねぇな! だから槍使いは強いのか!」

「あぁ……この際だ、あの魔人ソルフェナトスは捨ておくか。魔槍の杖か……他の装備も高級品に違いない……」

「では、俺があの書物を、奥義書をもらうとしよう!」

「まてや、俺が発見したんだ!!」

「あの背後の女共もいい女だな……へへ」

「ぐはは、あの魔人ソルフェナトスを潰して、いい女も、皆、頂きだ!!」


 威勢のいい他の武者魔族たち。


「――シュウヤ、変態魔族たちを生きて帰さないでね」

「ん、変態魔族たちをやっつけて!」


 レベッカとエヴァの声援で心が弛緩したとは言えないから無難に片手を上げた。

 そんな束の間の間に右から武者魔族たちが迫った。


 再召喚した魔槍杖バルドークの柄を胸元に上げた――。

 先頭の武者魔族が振るった魔剣を受け持つ。

 ――言うだけはある。

 ――力強い斬撃だ。

 紫紺と灼爍とした火花が眼前で散り咲くのを見ながら、魔槍杖バルドークの柄の握りと柄の角度を変えた。


 が、これは――。

 つばぜり合いに移行するフェイク――。


 魔剣を受けた魔槍杖バルドークを消した。


 ――逆に魔剣持ちの魔族との間合いを詰めて近々距離戦に移行する。

 武者魔族が扱う魔剣は俺の太股スレスレを通りつつ刃先が地面と衝突――。

 武者魔族は魔槍杖バルドークとのつばぜり合いを想定していたはず。

 と、左手と右手で攻撃をと、考えたところで、左から他の武者魔族の剣刃が迫った――。


 直ぐに神槍ガンジスを左手に出現させる。


 逆手持ちの神槍ガンジスの柄で、左の剣刃を防ぐことに成功。

 即座に神槍ガンジスを消し、無手となった手を活かす――。

 まずは正面の武者魔族! その襟を右手で掴む。

 襟を引っ張りつつ左手の掌底を突っ伏した武者魔族の顎に喰らわせた――顎を粉砕。


「ぐあぇぇ」


 顎が粉砕した武者魔族は顔を歪ませながら仰け反った。

 俺は右に回りつつ<超能力精神サイキックマインド>――。

 正面の顎を掌底で潰した魔族と左から再び斬撃を繰り出していた武者魔族の二人を<超能力精神サイキックマインド>で吹き飛ばす。


 そこから――。

 爪先半回転を実行。

 右と前方から迫る武者魔族たちの攻撃をギリギリの間合いを保ちつつ、踊るようにステップワークで避けて武者魔族の武器を確認――。


 そして、<血道第一・開門>を意識。

 <水月血闘法>を実行――。

 瞬時に血を周囲に撒く。

 指の竜紋と同じ位置に宿る水鴉のマークが輝いた。


 同時にイモリザの第三の腕を意識。


 すると――。

 俺の<脳魔脊髄革命>の感覚をアクセルマギナが感じ取ったのか――。

 右腕の戦闘型デバイスからリズミカルな戦闘音楽が響く――。


「イイセンスだ、アクセルマギナ!」

「はい!」


 戦闘音楽のリズムに乗りつつ武者魔族の斬撃と槍技を避け続けた。

 魔人武術を観察――。

 キサラ、アドゥムブラリ、デルハウト、シュヘリア、沸騎士ゼメタス、沸騎士アドモスたちのほうが上だが、随所に未知の魔人武術の動きがある。心の中でラ・ケラーダを魔族たちに送る。


「くッ、なんて速い避け技だ」

「追い切れない!」

「同時に攻撃をしろ、ってもう右かよ!」

「あ、左に回った、<愚式蹴り>があたらねぇ」

「――上だ。あ、バックステップだと!?」

「今度は左に――消えただと!?」

「――斜めに回った」

「いや、右だ!」


 と、武者魔族たちは混乱した。

 それと同時に六眼四腕のタルナタムの剣術を想起――。

 続いて<血想剣>を発動。

 右腕の肘に第三の腕のイモリザを意識。


 そのまま槍使いとしての気概を表に出すように、


「――お前らの魔人武術は参考にさせてもらった! いくぞ――」


 そう吼えた――。

 そして、俺の光魔ルシヴァルの血が舞う周囲に――。


 血を纏う雷式ラ・ドオラ。

 血を纏う王牌十字槍ヴェクサード。

 血を纏う聖槍アロステ。

 血を纏う神槍ガンジス。

 血を纏う聖槍ラマドシュラー。

 血を纏う魔槍グドルル。

 血を吸う魔槍杖バルドーク。


 を一瞬で出した。

 血を纏う魔槍グドルルは直進、武者魔族の胴体を貫く。

 血を纏う王牌十字槍ヴェクサードが<血穿>で武者魔族の頭部を穿つ。

 血を纏う雷式ラ・ドオラが武者魔族の足を払い斬り、血を纏う聖槍アロステが<血穿>でその武者魔族の胴体を穿つ。


 それらの血を纏う槍が交差すると――。

 血が、ルシヴァルの紋章樹らしき紋様の幻影を模った。

 同時に血を纏う聖槍ラマドシュラーを右手で掴みつつ前進。

 <豪閃>――。

 武者魔族の首を斬る。

 続いてイモリザの第三の腕で神槍ガンジスを掴むと同時に<双豪閃>。

 駒のように回転しつつ二人の魔族の首を一瞬で斬る。


 更に左手で魔槍杖バルドークを掴むや<豪閃>――。


 右側の武者魔族たちを倒しきったところで、足を停めた。

 刹那、足下から出たルシヴァルの紋章樹を模った幻影の紋様が俺を祝福するように輝いた。


 ※ピコーン※<血想槍>※スキル獲得※


 おお、やった!

 新スキルを覚えた。


「血の槍舞、格好いい……」

「ん、素敵」

「……」

「にゃおおおお~」


 皆の声を背中で受けた。

 が、まだ左前方に武者魔族がいる。


 余韻を消すように、

 イモリザを意識。


「イモリザ、外に出ていいぞ。ツアン、ピュリン、だれが表に出ても構わない――」


 と言いながら、前方のキサラを観察。


 第三の腕だったイモリザは瞬時に黄金芋虫ゴールドセキュリオンに変身。


「ピュィ」


 と鳴いてから、イモリザの姿に戻った。


「使者様♪ ひさしぶりの槍使いのイモちゃん、参上ですぞ♪」

「おう」


 沸騎士たちの真似をするココアミルク肌を持つイモリザは変わらない。


「イモリザ、左側を見ながら戻る。魔人ソルフェナトスとのやりとりは聞いていたな? そして、戦う予定だが、今は仲間だと思って構わない」

「はい♪」


 イモリザからキサラに視線を移す。


 ダモアヌンの魔槍で槍使いの<刺突>を受け流しつつ左足で相手の接地を狂わせるように足払いを繰り出していた。


 左の武者魔族が扱う魔剣の突剣は、ダモアヌンの魔槍の柄頭で弾く。


 ダモアヌンの魔槍の扱いは完璧だ。

 キサラは、後退していた槍使いの角あり魔族の足を<牙衝>的な下段攻撃で穿つ――。


 そこにヴィーネが前に出た。

 ガドリセスの邪竜剣を逆袈裟で振り抜いた。

 その槍使いの角あり魔族の脇腹から右肩を斜めに両断。


 刹那――。


 キサラの<刺突>が、その仰け反った角あり魔族の頭部をぶち抜く。

 角あり魔族を派手に倒しつつ――横回転。

 横斜め前にいた、魔剣使いの横っ腹へと回し蹴りを喰らわせた。


 蹴りを繰り出したキサラは横回転を続けると――。

 ダモアヌンの魔槍を放り投げた。蹴りで怯んだ魔剣使いの胸元に、ダモアヌンの魔槍の柄を連続的に衝突させる。


 更にキサラは前進。

 魔剣使いとの間合いを詰めつつ跳ね返ったダモアヌンの魔槍を右手に掴む。

 と同時に、地面が陥没する勢いの右足の踏み込みから――。

 左手の貫手を魔剣使いの胸に喰らわせた――。


 真っ直ぐ伸びた左手を、魔剣使いの胸元から引き抜く。

 キサラの左手には魔族の心臓が握られていた。


 その心臓を握り潰す。

 と腕から零れ落ちた血を体に吸収しつつ、手首の黒数珠から鴉を出し、体を隠すと、一瞬で姿をノースリーブの黒衣装に変化させた。


 更に血色に輝く鴉を周囲に放ちつつ踊るように地面を可憐に駆ける。


 素敵なキサラだ。

 <筆頭従者長選ばれし眷属>としての力を遺憾なく発揮中だな。


 一方、ヴィーネはヒューイの翼で急上昇しつつ、槍使いの攻撃を避けていた。

 そして、宙空からガドリセスの邪竜剣の切っ先を下に向けるや、急降下。


 そのまま武者魔族の槍使いの頭部ごと胸元を貫いて倒している。


「黒い修道服の槍使いか……それに、翼を得た色違いのエルフは亜種か?」


 ソルフェナトスはダークエルフは見たことがないようだな。


 そのソルフェナトスは、


「で、槍使い。先ほどの魔法といい、見事な血の槍武術だったぞ……もしや……【魔術総武会】とも繋がりがあるのか?」

「ある。大魔術師アキエ・エニグマとな」

「……そりゃ、マジかよ……」


 驚いていた。

 イヤーカフから頭蓋骨だけ出ている骨人形のキストレンスも驚きの顔を浮かべている。


「おい、ソルフェナトス! あの、大魔術師アキエ・エニグマの知り合いと喧嘩する気かよ。宿願の相手といえど戦うべき相手ではないように思えるが……」

「仕方ねぇ! 約束は約束だ。そして、今はあの魔族共を倒すことが先決!」


 ソルフェナトスは宣言するように語る。

 その刹那――。

 魔力を全身から発したソルフェナトスは前傾姿勢で前方に駆けた。


 豪快な走りで足跡が地面に残る。

 狙いは角あり武者魔族。


 ソルフェナトスの両手には魔力が集中。

 同時に俺たちの近くの地面に突き刺さったままだった魔剣が揺らぐ。

 その魔剣が走る魔人ソルフェナトスの掌に吸い寄せられた。


 下腹部にクロスしていた二つの手に二つの魔剣が納まるや、ほぼ同時に角あり魔族の魔剣を屈んで避けた魔人ソルフェナトスは、立ち上がりつつ腕を振り上げた。

 魔剣を持つ腕が左右に開く。

 一瞬で、二振りの魔剣が角あり魔族の胴体を斬り刻む。


 宙空に×印の軌跡が幾つも生まれた。


 角あり魔族の体は複数に分散しつつ爆発しながら血飛沫として散った。


 ソルフェナトスは血飛沫を退かす勢いで前進――。

 武者魔族の槍使いと対峙。

 髑髏模様が目立つ魔槍を灰色の魔槍の柄で受けつつ、二振りの魔剣を振るう――。


 ソルフェナトスの片方の魔剣の刃が、武者魔族の面頬を削るように首を薙ぎ斬って、もう片方の魔剣の切っ先が胴体を貫いた。

 武者魔族の槍使いの死体を蹴り飛ばすとさらに前進するソルフェナトス。


 ヴィーネとキサラが戦っている武者魔族の隙を狙うようだ。


 魔剣を振るう武者魔族の横っ腹に灰色の魔槍を突き刺した。

 死体が突き刺さったままの灰色の魔槍を持ち上げて振るい回す。


 武者魔族の死体を振るい投げた。

 直ぐに跳躍して、横移動。

 棒状の投げ手裏剣が、ソルフェナトスがいた地面に突き刺さっていた。


 次の瞬間、その棒状の投げ手裏剣を繰り出した武者魔族の胸元に、骨人形のキストレンスが伸ばした骨剣が突き刺さった。

 片膝で地面を突いて着地するソルフェナトス。

 徐に立ち上がると――。


 全身から魔力を発して、自分の周りの宙に魔剣と魔槍を引き寄せつつ――。


 キサラとヴィーネが戦う武者魔族に向けて突貫――。


「フハハ――甘いな、再生するなら一瞬で再生させろ、足がなくとも戦え!」


 と叫びながら、キサラとヴィーネと連携して武者魔族たちを倒していった。


 俺は――。

 近付いてきた武者魔族の胴体を<刺突>で穿ち、倒す。

 相棒も近付いてくる武者魔族の頭部を触手骨剣で貫いて倒す。


 そうして、エヴァとレベッカと前衛を交代する形で近付く武者魔族たちのすべてを倒した。


「ん、やった。もう魔族の姿はない!」

「にゃごぉぉぉ」

「勝ったわね」

「キュゥゥ~」


 ヴィーネの背中から離れた荒鷹ヒューイが戻ってくると、俺の肩に着地した。


 ソルフェナトスたちも戻ってきた。


「よっしゃ、やっとだ。槍使い! 準備はいいか? それとキストレンス、外に出ろ」

「……了解」


 不満そうな骨人形のキストレンスはイヤーカフから外に出た。

 近くにきた骨人形のキストレンスを見たレベッカが一瞬、ギョッとしている。


 レベッカは、その骨人形のキストレンスに対して、


「な、なによ!」


 と言いながら細い腕を上げた。

 ウルトラマンが必殺技を放つようなポージングを取る。


 面白い。


 骨人形のキストレンスのほうは、眼窩の片方の形を変えつつレベッカを凝視。


 エヴァは微笑んでいた。

 俺はヒューイを見て、


「ヒューイはエヴァのところに」

「キュ!」

「ご主人様……」

「使者様~♪ わたしも魔族とガチンコ勝負を!」

「イモちゃんはわたしたちと一緒に見学」

『閣下、わたしも外に?』

『おう』


 左目から液体ヘルメが迸る。

 骨人形のキストレンスは驚いてレベッカの背後に移動していた。

 その行動にレベッカがまた変なポージングで驚きつつキストレンスを警戒。


「シュウヤ様。応援します」

「シュウヤなら大丈夫だって」

「ん、見守るけど、少し心配」

「大丈夫イィ♪」


 イモリザの頭部の形についてはスルー。

 エヴァたちの言葉に頷いて応えていると、ソルフェナトスが、


「……左目の魔素の淀みは、水の魔法生命体を飼っていたからとはな、精霊の類いか」

「おう。ま、他にもあるが――」


 俺は魔槍杖バルドークで風槍流の構えを取った。


 対峙するソルフェナトスも微笑むような面を浮かべてから鋼色の魔槍の穂先を俺に見せる。

 その魔槍を傾けて、鋭い視線を柄越しに寄越してきた。


「いざ、尋常に勝負」

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