六百八十三話 白鯨の血長耳の暗躍とドカッと一発!

 ◇◆◇◆


 シュウヤがペレランドラの魔塔に向かっている最中。


 上界のエセル大広場でも争いが起きていた。

 上院評議員議長のネドーと評議員ペレランドラの一派だ。



 互いの勢力は一般客に被害を出しつつ……。

 摩天楼の一角とエセル大広場のあちこちで争う。


 ペレランドラ側の闇ギルドの人員もそれなりに実力者は多かったが、ネドー側が雇った狂言の魔剣師カットマギーという名の魔剣師が暗躍。次々に敵対する相手を倒していった。


 ペレランドラの雇った闇ギルドは裏切りも続く。

 戦いの情勢は一気にネドー一派側へと傾いた。

 

 そして、エセル大広場の左隅にある【ラ・シェル・バ】の巨大菓子店の二階にネドーの勢力が集結。


 ラ・シェル・バの二階は普段客で賑やかだが、今は静かだ。

 天井のシャンデリアの光源が、ホルカーバム産の家具を照らす。


 そして、目が異常に細い老人が、皆に向けて、


「皆、布で隠れた石像が何を表しているのか、目を瞑りながら述べるのだ」


 老人の言葉に従う者たち。

 ホルカーバム産の布で隠された石像を撫でていく。


「尻尾が長い怪物ケラリトリンかと」

「巨大な鼻を有したエセルの大怪物ハーベン、そのモンスターがモデルのはず」

「耳と牙も大きいから、魔獣ガルバウントタイガーだろ」


 老人は頷いてから、


「ふむ、どれも間違いだ。目を開けよ――」


 石像を覆っていた布を払う老人。

 皆、石像を見て、驚いていた。


「これは象神都市レジーピックの……」

「そうだ。地母神の像である。そして、石像を触らせていた理由を分かる者はおるか?」


 皆、沈黙。


「……」


 老人はツマラナイといった表情を作る。


「ウコダラも分からぬのか」

「はい」

「理由は、ある黒髪の男から教わった『群盲象を評す』という言葉だ。……局部にとらわれては、全体像を判断する力に欠けている。という意味になる。これで、わしが何を言いたかったのか、分かったであろう?」

「はい。ネドー様」


 貴族風の衣装が似合う老人はウコダラを凝視してから、乱暴に机を叩き、


「ならばだ! ペレランドラの娘の件はどうなっている。まだ来ないではないか!」


 片方の眉毛がないウコダラは、


「我らの雇った闇ギルド側にも、御しきれない腐った奴らは多いのです」


 その言葉を聞いたネドーは、頬がピクピクと反応。


「ペレランドラの家族の陵辱か。屑どもが」

「ネドー様、すみません。しかしながら、ペレランドラの空戦魔導師と空魔法士隊をすべて潰したことは事実。その娘も一応は、無事な体で運ばれてくるはずです」

「ならば待つとしようか。で、問題のペレランドラの魔塔から出てくる連中の始末は?」

「……指示通りに【連羽ケネル・エネル】、【ネビュロスの雷】、【岩刃谷】、【テーバロンテの償い】の連中が動いている最中かと。ペレランドラ側の組織も魔塔ごと潰せるはず……」

「相手も金を持つ評議員ペレランドラ。強者を雇う可能性も告げたが、それも対処はしたのだな?」

「はい。双剣フゼルと狂言の魔剣師カットマギーは既に動いています。暗殺一家にも依頼を……ですから、評議会に逆らう一派の掃除もじきに完了するでしょう。ただし【白鯨の血長耳】と連絡が途絶えています」


 その最後の言葉を聞いたネドーは眉を動かした。

 

「……ふむ。念のため魔塔を引き払ったのは正解か」

「先を読んでいたからこその行動でしたか……」


 ネドーの行動を褒めるように発言するウコダラ。


「エセル界の品を牛耳る死に損ないのエルフ共は優秀だ」

「そうでしょうか、エセル界の品の流通も闇市に出回るようになりましたし、西の戦争と噂に聞くペルネーテのオークションがあった前後で、人員の多くを失ったと聞き及んでいます。副議長への賄賂も少なく下界の支配が緩んでいるとも」

「……油断はできん。血長耳の戦争屋としての一面は事実。オセベリアとの強固な繋がりもある。そして、わしは昔……血長耳と敵対した取り引き相手の【闇のリスト】の一人の死に様を目の前で見たことがある……まさに『肝脳、地に塗る』だった」


 ネドーの表情は本気だ。

 ウコダラは背中に寒いモノを感じた。


「では、血長耳が我らと敵対したと?」

「いや、それはないであろう。レザライサとの不可侵の協定が評議会にはあるのだ」

「ソルベルッシとクアレスマとドイガルガの件もありますが」

「……個々の評議員との、いざこざか。それには互いに目を瞑ってきた面があることは、お前もよく知っているではないか」

「はい……」

「で、肝心の下界と上界のブツの件だが、仕入れたブツの偽装は済んだんだろうな? 魔塔から運び入れた大切なブツは魔虫とはまた違うのだぞ」

「はい、空魔法士隊の副長と抜擢した魔法学院の学生たちにも、ネドー様のご指示を伝えてあります。評議会の上界管理委員会が支配する〝泡の浮遊岩〟、〝網の浮遊岩〟、〝烈戒の浮遊岩〟の、それぞれの魔塔に合う分霊秘奥箱にブツを分けての移動は既に完了しているはずです。下界の港にも通じた浮遊岩ですから守りは万全。まもなく、魔通貝で連絡もある頃かと……」


 ウコダラの言葉に頷くネドー。

 

「……このわしの上界の動きに乗じて他の連中も動くぞ」

「はい」

「が、【血銀昆虫の街】が荒らされると困る」

「ネドー様も予測できないように……下界は……。クモラス、お前の担当した浮遊岩近辺はどうなのだ?」


 ウコダラが、空魔法士隊のメンバーに尋ねた。

 背後にいたクモラスは、『わたしですか?』という顔を見せてから、前に出た。


 そのクモラスは遠慮がちに、


「……【ペニースールの従者】と下界管理委員会からの派遣が五月蠅いです。ブツが奪われたり施設が燃やされたりと……傭兵商会の連中も多い」


 と、発言した。

 ネドーは頷きつつ、


「……地下街アンダーシティーの商売に支障はないのだろうな?」


 細い目をカッと開けて脅迫するように尋ねていた。

 驚いたクモラスは怯えるように口を震わせて、


「はい、いまのところは……」


 と、発言しつつ、助けを求めるように、指揮官ウコダラと空魔法士隊の上司スーチンに視線を向ける。

 ネドーは構わず、


「……サーマリア王国を経由しない【大海賊テンペスト】との人身売買を兼ねた地下の商売も、わしの大事な収入源の一つ。だからこそ、その権益の邪魔をするペレランドラは潰さねばならない」


 ネドーの言葉を聞いた皆は頭を下げた。

 ウコダラと、直属の上司のスーチンに一礼してから、少し下がるクモラス。


 そして、空戦魔導師ウコダラは、


「はい……先の発言に補足する形ですが、下界は混沌とした街。宗教街では正義の神シャファの木鐸を巡るくだらない争い、武術街では、魔剣術の書を巡って自身の強さを競うように身内同士で常に争いが起きています。その余波で倉庫街と我らが所有する浮遊岩に被害がでることはネドー様も昔嘆かれていたようにご存じのはず。【ペニースールの従者】と【白鯨の血長耳】に下界管理委員会などの分かり易い邪魔な動きなら、我らだけで対処は可能ですが」


 そう発言。

 ネドーが目を細めて、

 

「倉庫街が守れたらそれでいいのだ」

「通じている【テーバロンテの償い】とライカンの愚連隊が徘徊していますし、倉庫街の一角に限定するならば、上界より安心かと思います」

「ライカンが活発になる時期か?」

「そろそろかと……」


 ウコダラがそう喋る。

 嘗て、ウコダラはライカンのグループと喧嘩をしたことがある。

 彼は、その凶暴性を備えるライカンスロープの実力に、ただの獣人とは違う利用価値を見いだしていた。


 ネドーは、【テーバロンテの償い】と、そのライカンの愚連隊の言葉を聞いて……。

 片目を瞑りつつ納得したような表情を浮かべていた。


 ネドーは頷いてから、


「……上界の荒くれ者は、下界の荒くれ者より弱いという、レッテルもあるな」

「はい、上界の闇ギルドの連中も下界では苦戦が多いと聞きます。ペレランドラの手の者が倉庫街を荒らすことは、まず、不可能なはず」

「『ぼうふらも虫の内』。あの【魔扉】も倉庫街にいる……気色悪いが使える奴らではある」

「……ネドー様、あまり彼らの……」

 

 そう怯えながら語るウコダラを嗤うネドー。


「口にしただけでも殺されるとは、ただの噂に過ぎん。【テーバロンテの償い】など、ただの力のある邪教の一つでしかないのじゃからの」

「……はい」

 

 そう返事をしたウコダラだが、腹の中では否定していた。

 彼なりの【テーバロンテの償い】に対して恐怖する理由があるからだ。

 

 そんな顔色を変えないウコダラを凝視するネドー。

 評議員同時の犬兎の争いと、火で火は消えぬ争いを制してきたネドーだが、ウコダラの気持ちは読めていなかった。


 そのウコダラは、空極のウコダラ。

 空極のルマルディ、空極のペイオーグなどと争った経験を持つ空戦魔導師。

 

 衣服は彼独自の魔導服で、腰には専用の魔造書を有していた。

 右腰には魔刃を飛ばせる飛剣アブサメがぶら下がり、右の背中には幻獣リョクソールの跳弾牙を隠し持つ。

 

 ウコダラの横には、空魔法士隊【海エセル】の隊長スーチンと配下の数名が控えていた。


 ――刹那。

 エセル大広場の【ラ・シェル・バ】の巨大菓子店の近辺に不自然な風が吹く。

 空魔法士隊【海エセル】が上空から店の近隣を窺う。


 が、その怪しい雰囲気に気付かない。

 【連羽ケネル・エネル】と【テーバロンテの償い】のメンバーたちも気付かない。


 そのメンバーたちは眉間に違和感を抱いた瞬間――倒れた。


 手を下した者たちはペレランドラの勢力ではない。

 そこから、エセル大広場のあちこちで血濡れたエルフたちが出現。

 

 更に、【連羽ケネル・エネル】の五番隊隊長カーセが、


「……血長耳だと……」


 朦朧としながら呟く。

 そして、ふらつきながら、エセル大広場の露店の商品を荒らす。

 

 商人と客は、その散った商品が血に染まっているのを見た瞬間、


「ここでも闇ギルドの争いだ」

「逃げろ」


 と、避難を開始。

 表情が虚ろのカーセは虫の息だが、まだ生きていた。

 彼の胴体は一見無傷。

 しかし、細い穴が革鎧に数カ所現れると血を吐いて倒れた。

 その背後に立つ人物も、またエルフ。

 銀色と緑色のメッシュが綺麗な髪色を持つ小柄なエルフだ。


 血長耳の最高幹部の一人。

 戦闘妖精の渾名があるクリドスス。


 クリドススは虫も殺せないような顔のまま……。

 耳元に手を当て「軍曹……連羽の羽を五枚削いだ」と、丸わかりの暗号を告げる。

 風を感じたクリドスス。

 ふと、目の前にいる子供を見た。

 子供は、にこりとする。

 笑う子供は、額に魔矢が刺さって死んでいる店員が目の前にいるのに、構わず、血濡れたビスケットを食べていた。


 その子供に向けて、


「それ、美味しい?」

「うん! エルフのお姉さんも食べる?」


 子供の物怖じしない面を見て、クリドススは首を傾げる。


「ううん、要らない。けど、そこの死体を見ても、怖くないの?」

「怖いけど、食べろって、ングゥゥィィって声が聞こえるの」


 子供の腰に備わる魔力が漂う不思議な短剣を凝視するクリドススだったが、気にせず、


「声? ……オカシイ子供ですネ。ですが、ここはセナアプアですからネ。子供ちゃん。そこのビスケットが入った箱を持って向こうに行きなさい」

「うん!」


 異常に足の速い子供の姿を見て、クリドススは魔界の住人に化かされた?

 と考える。

 

 ほぼ同時刻。

 

 ラ・シェル・バの二階に向かう階段を上がる音が響く。

 ネドー本人と空極のウコダラと【海エセル】の隊長スーチンはとくに気にせず会話を続けていた。

 

 しかし、階段を上がった人物を見た空魔法士隊のメンバーが「なぜ、下界の世話人が!」と、言葉を発してから、「ぎゃぁ」と悲鳴をあげる。


「何事か!」

「あ――」


 逃げようとした空魔法士隊の人族の首から血が迸る。

 倒れた空魔法士隊の背後に立つのは、額に傷のあるエルフ。


 そのエルフは血濡れた剣を下げつつ、背中に回した背中の指でサインを送る。


「カカカッ、軍曹、わしに指示を出すつもりか?」

「あ、いえ、その、いつものくせでして……」

「わかっとるわい。ほれ、前の連中を絞めるぞ」

「ハッ」


 老エルフに敬礼するエルフの所作を見たウコダラは左手を翳しつつ、


「ネドー様、わたしの背後に」

「うむ……」

 

 空魔法士隊隊長スーチンと、そのメンバーたちもネドーを守ろうと前に並んだ。

 その並んだネドー一派に近付く老エルフとメリチェグ。


 ネドーは見知った老エルフを見て、


「……ガルファ、どういうことだ、協定があるだろう」

「時勢じゃよ、ネドー」

「……下界の世話人が……何を、か――」


 空極のウコダラの意識はそこで飛ぶ。

 口の半分が切断されていた――。

 額に傷のあるエルフが神速の域で、ただの鋼の剣を振るっていた。

 そのスキルは<無明長夜>。

 無明の剣術師メリチェグの妙技が決まった瞬間でもあった。



 ◇◆◇◆



 キャノン砲の角度をハイム川に向けた。


「――アクセルマギナ、この角度でキャノン砲を撃てば、その砲弾の着弾はハイム川だよな?」

「はい」

「皆、ちょいと試す」

「ん、また撃つの?」

「そうだ――」

 

 レーザーパルス180㎜キャノン砲を発射した。

 ドッ――と、また鈍い音が響いた。

 一条の白色光がハイム川に向かうと同時にフォド・ワン・ユニオンAFVも持ち上がる。

 

「ん、わたしたち、ううん、戦車が浮いた?」

「これは空を飛べるのかい?」

「砲撃の威力で、一時的に浮いただけだ。で、キャノン砲の角度は平気か? アクセルマギナ」

「はい、微調整済みです」


 俺は頷きつつ、戦闘型デバイスのアイテムボックスから魔力回復薬ポーションを出した。


「連続して撃つから、皆もそのつもりで――エヴァ、それを飲め。で、二人は眠ったままか?」

「ん、ありがと。二人は安全――」


 エヴァは眠る親子を浮かせて見せつつポーションを飲む。

 細い喉が魅力的――皆も、その紫色の魔力が包む二人が眠る姿を把握。

 その周囲を細かな緑皇鋼エメラルファイバーの盾の群れが囲いながら浮く。

 金属はエヴァのほうが少ないし、優しいエヴァらしさが溢れる防御網で、万全だ。


 ポーションを飲み終えた天使の微笑のエヴァに微笑みを返す。

 

 同時に偵察用ドローンの視界から落下中の俺たちの位置を把握――。

 ペレランドラの魔塔の残骸と隣の魔塔の一部が衝突。

 ビルとビルが、タワーとタワーが衝突して崩壊が重なった。


 こりゃ上界だけでなく、下界の街にも被害が出そうだが……。


 そして、ヴィーネが魔塔の屋上で、空戦魔導師と戦う場面が映る。

 あの魔塔は位置的に被害は皆無か。

 しかし、ヴィーネの光線の矢を弾く魔法の剣と魔造書から召喚したであろう鬼のような怪物とは……。

 お、ヴィーネが<血魔力>を強めた瞬間、速度が加速。

 空戦魔導師と間合いを零としたヴィーネはガドリセスを振る。

 やや遅れて翡翠の蛇弓バジュラが逆袈裟でガドリセスを防いだ鬼と魔造書ごと、空戦魔導師の肩を薙ぐと、一閃のガドリセスが空戦魔導師の首を薙ぐ。

 続いて、左回し蹴りが空戦魔導師の脇腹にヒット。


 頭部と分かれた空戦魔導師の血塗れた死体が落下していく。


『よく戦ってくれたヴィーネ。撤収でいい』

『ご主人様、見ていてくれたのですね。しかし、敵指揮官を守るように、撤収する動きが下の街に見られます。そして、他の魔法士隊から追跡を受けると思いますが』

『俺たちのほうが目立つから構わない。来たら、俺が直に戦う』

『分かりました――周囲を見つつ撤収します』


 視線を巡らせつつ、人差し指で簡潔に血文字を書くヴィーネを偵察用ドローンが映す。

 そのヴィーネは飛翔しながら、俺たちを探す。


『しかし、ペレランドラの魔塔は崩れて、ご主人様はどちらに? 宙空を漂う偵察用ドローンは幾つか発見できましたが――』


 ヴィーネに分かり易く幾つかの偵察用ドローンを操作。


『今の操作は、ご主人様ですよね』

『そうだ。この偵察用ドローンで、フォド・ワン・ユニオンAFVに誘導しよう。だが俺たちは三角州の北に移動する』

『距離が離れたら、偵察用ドローンは』

『墜落するから<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を実行しよう。ま、追跡には大砲の音もあるからヴィーネならすぐに分かるだろう』

『分かりました。偵察用ドローンの方向、三角州の北に向かいます――』

『おう』

 

 すると、


『器よ、壊れた建物も破壊していいんだな?』

『頼む』

『ふふ、頼まれた!』


 <神剣・三叉法具サラテン>が凄まじい速度で崩壊する魔塔を貫き細かく切断。

 一気に落下する魔塔の残骸が減ったことが分かった。


 凄まじく血に飢えたところもあるが、優しいところもある<神剣・三叉法具サラテン>だ。

 その思いのまま、


『<神剣・三叉法具サラテン>、俺たちは移動する、戻ってこい』

『まだ完全に壊してないぞ』

『どっちにしろすべては無理だろう。ヴィーネを見つけたらフォローしてくれ』

『ふむ、了解した』


 沙と念話を行ってから、皆に向けて、


「んじゃ、キャノン砲をまた撃つ」

「ん」

「はい」

「了解さね、ドガッと一発!」

「おうよ、いってみようか! ドカッと一発♪」

「ん、ドカッと一発♪」

「ンンン、にゃ~♪」

「どかどか~♪ 行ってみよう~♪」

「と、一発ではない~が!!」


 と、歌うような発音から、もう一度、操縦桿のミサイルボタンを押す。

 ――レーザーパルス180㎜キャノン砲を発射。

 何回も――「ドカッと! 撃つ!」連続して、「また、撃つ!」、「にゃおおお」――「ん、撃った♪」――「この、ドカッと一発♪ の衝撃はくせになる?」、「ふふ、ドカッと一発は、何か上や横に引っ張られるような……」――「閣下、ドカッと一発のたびに、キサラちゃんのおっぱいちゃんが揺れてます!」――「ヘルメのおっぱいも水飛沫を発しているがな」


 と、キャノン砲を放ち続けた。

 

 共有していた偵察用ドローンの視界が消える。

 ――塔烈中立都市セナアプアの北側に出たかな。


「――俺と相棒は外に出る」

「シュウヤ様、わたしも外で」

「了解。アクセルマギナ、ヘルメ、エヴァ、クレインはこのフォド・ワン・ユニオンAFVの中でドロシーと評議員ペレランドラを頼む」

「ん」

「俺が外から<邪王の樹>で宙空に装甲車用の樹の道を作るから、アクセルマギナはフォド・ワン・ユニオンAFVの操縦を頼む。ひとまず北に避難しようか。敵の追撃がきたら迎え撃つ」

「ん、分かった。けど、シュウヤもポーション飲んだほうがいい」

「立ちくらみとか、胃がねじ曲がる感覚を受けたら即座に飲む。それか、<邪王の樹>を中断する」

「ん、シュウヤ、がんばって」


 エヴァの紫色の魔力が俺の頬を撫でた。

 紫色の瞳と、俺の頬を撫でてくれた紫色の魔力からエヴァの愛の気持ちが伝わる。


「エヴァ……」

「分かりました!」


 キサラの気合いが溢れる声は珍しい。

 アイマスクも少しズレていた。可愛い。


「ジャックポポスがあれば戦えたんだが」

「ん、先生、わたしの<念動力>があれば、たぶん空中戦闘は可能」

「エヴァ、その紫色の魔力も、それなりに魔力を消費するからこその、さっきのポーションだったんだろう?」

「うん」

「なら、ここで大人しくしてるさ。この大砲で浮かぶという奇天烈な発想に頭が混乱しているが、評議員、評議会の連中はしつこいからねぇ、わたしの出番もあるかもだ」

「いつでも外に出られるようにな、三角州の北はレフテン王国とサーマリア王国が争っていた領土の中間だと思う。境界線は詳しく知らないが」

「ん、両国の戦は既に止まったけど激戦区だった影響で盗賊も多いはず」

「はい」

「了解さ。もっと北だが、アキレスとの思い出の地かねぇ。ま、この戦車を見たら、そんな盗賊も、まず逃げると思うがね」

「はは、たしかに、そうかもな。んじゃ、次の衝撃で少し浮いた瞬間に、キサラ、外に出ようか」

「はい――」

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