六百八十二話 キャノン砲と、どっきりんこすーぱーデカルチャー

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>が外に拡がった直後――。

 ガードナーマリオルスがチューブで作った鎧戸から何回も衝撃音が響く。

 暗殺者の狙撃を鎧戸が防いだ音だ。


『ぬぬ、妾の出番が消された』

 

 沙の念話がヘッドフォン的に意識内に谺する。

 衝突音には鈍い音が混じっていた。

 光線ってより、質量の重い鋼鉄が混じる魔弾なのか?

 ヘルメの<精霊珠想>が防いでくれた時は鋼鉄の印象はなかったが、ヘルメの<精霊珠想>が優秀だからすぐに取り込んで衝撃が少なかったか。

 鎧戸は蕾状に部屋側へと出っ張る形。

 ガードナーマリオルスの胴体から出た細いチューブと鎧戸は繋がっている。

 鎧戸の素材はダイラント流体的な合成樹脂?

 液体金属が固まった感じで頑丈そうだ。

 

 左目から放出中のヘルメの<精霊珠想>はそのまま――。

 右手の<光魔ノ秘剣・マルア>のデュラートの秘剣を消去。


「見事だ、ガードナーマリオルス」

「ピピッ」

「にゃお」


 黒豹ロロも鳴いた。

 壁のオブジェと化したガードナーマリオルスを褒めたんだろう。

 そのガードナーマリオルスは頭部だけでクルクルと回る。

 

 しかし、チューブは外せるのか?

 

 俺は偵察用ドローンを意識。

 アクセルマギナと視界を共有中の偵察用ドローンを活かす。

 視界に映る暗殺者をズームアップ。

 すると、


「ゲッサー・コルサン型ではなく装備が多種多様な炭素系ナパーム生命体と推測。スキャン結果を表示しますか?」

「いや、いい」


 人工知能のアクセルマギナが解説。

 その暗殺者は杖にも見えるスナイパーライフルの魔銃を動かした。

 魔銃で硝子を割って窓枠を壊しつつカーテンを破る――。

 姿を晒した暗殺者は短い髪。

 アーモンド色の皮膚に碧眼の人族。

 碧眼の片方には魔力を含む片眼鏡を装備――。

 

 給仕の格好だが、その給仕服を脱ぎ捨てた。

 魔力を有した金属の胸当てと黒色の軽装。

 

 その暗殺者がいる魔塔と、俺たちの魔塔との距離は五百メートルを超えている。

 その暗殺者は、俺の操作する<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を凝視。


 暗殺者は片眼鏡と碧眼にも魔力を込めた。

 すると、スナイパーライフルが、ランチャー付きの銃口が太いアサルトライフルに変化した。

 武器の形を変化させることができる?

 金属系能力者でありつつ魔銃使いか。


 戦闘職業の可能性は無限にあるが、たぶんミスティ系統だ。

 金属系の能力を有した暗殺者は、その形を変えた魔銃の銃口を<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>に向ける。

 

 銃口から閃光が迸った。

 光線を連続的に放つ。


 光線の大本は光を帯びた魔弾か。

 光る魔弾は俺の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>に吸い込まれてから、やや遅れて鎧戸と衝突。

 ――外側から重低音が響く。

 

 衝撃で窓を塞いだガードナーマリオルスが作ってくれた鎧戸にひびが入った。


 ひびが入ったが、ま、時間は稼げるだろう。

 

 俺は<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を操作。

 暗殺者は、その俺の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>に向けて魔弾を連続的に撃って払おうとするが<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>は消えない。


 暗殺者に<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を喰らわせた。

 闇の世界に喰われたように姿が漆黒の空間に包まれた暗殺者。

 暗殺者が放っていた魔弾の攻撃はピタリと止む。


 刹那、背後の廊下から複数の魔素を検知――。


「うがぁ」

「きゃああ」

「すべてを殺せ――」


 剣戟の音。

 護衛と使用人たちの悲鳴も聞こえた。

 

「今の声はシバに侍女たち!」

「そんな、マーカスは……」

「沸騎士たちを出す。エヴァ、キサラ、クレイン、そこの出入り口を頼む」


 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを触る。

 黒色と赤色の魔界の糸のような魔線が床と付着。

 瞬く間に、その魔線が付着した床から赤色と黒色の蒸気的な煙がもくもくと昇った。


「ん、ゼメタス、アドモスの誕生する瞬間はひさしぶり」

「はい」

「少し覗くよ――」


 廊下を覗いたクレインだったが、咄嗟に頭を引く。

 直後、飛来した魔刃が、半円のアーチの縁と衝突した。

 縁を削って、その魔刃の一部は俺たちがいる部屋の内部で散った。


 鋭い視線を寄越したクレイン。

 

「――マーカスって言ったか?」

「はい」


 ドロシーとペレランドラは恐怖したような顔つき。


「死んでいた。今の攻撃といい、手練れがいるねぇ」

「え? マーカスが? ではシバは……」

「ん、囲まれた?」

「あぁ、夜になるタイミングを狙っていたようだねぇ」

「魔素を察知させない手強さだ。ここ以外の階層は敵に制圧されたかもな」


 俺がそう発言すると、クレインは頷いて、評議員ペレランドラに視線を向ける。

 

「評議員ペレランドラ、疑問はあるだろうが、わたしたちを信用してくれたと判断するよ?」


 そう告げたクレインは金色のトンファーを廊下側に伸ばす。

 その金色のトンファーに、廊下の先から飛来した魔刃が衝突――。

 

 火花が出て甲高い音が響いた。

 その金色のトンファーを引いたクレインは、金色のトンファーを俺たちに向けて、


「ひゅ~、威力のある魔刃だ。使い手は魔剣師の類いか?」

「だろうな」


 クレインは頷く。

 そして、評議員ペレランドラに対して、

 

「評議員ペレランドラ。これで、わたしたちの立場は理解しただろう?」

 

 評議員ペレランドラはクレインと皆に向けて、頷いた。

 そのまま顔色を青くしながら、

 

「……はい、お礼は」

「それはこの場を切り抜けてからで」

「お母様、命の恩人のシュウヤ様です」

「一粒種の大事な娘をありがとうございます」

「はい。ですが、まだ早い。こんな状況ですが、娘さんと一緒に切り抜けましょう」

「「はい!」」

 

 二人は元気の良い声だ。

 エヴァとクレインにキサラが優し気に微笑む。


 すると、黒色と赤色の煙を吸い込みつつ沸騎士たちが片膝を突いた状態で誕生。

 黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスは頭部を上げて、

 

「閣下ぁ、黒沸騎士ゼメタスですぞ!」

「赤沸騎士アドモス見参!」


 赤沸騎士アドモスと黒沸騎士ゼメタスは互いを見てから、俺を凝視。

 

「「何事も」

「「大河ハレゼレルを」」

「「静かに流れんとする閣下のため――」」

「我が心石に非ず――」

「私は転ずべからず――」


 沸騎士たちはそう叫びつつ自身の骨盾をぶつけ合った。

 

「「いざ、閣下のために散らん――」」


 ハモると、頭蓋骨の兜の節々から黒色と赤色の煙が迸る。

 格好いい。

 

「よう、相も変わらず渋い二人だ、ゼメタスとアドモス。で、早速仕事だ。ここは魔塔の一室。標高が高い階層だ。で、このドロシーと、その母の評議員ペレランドラを守ることが最重要任務。状況は背後の廊下に敵の集団。離れた魔塔からも遠距離攻撃を受けていたところだった」

「承知! 背後の敵の足止めですな!」

「我らは、なんなりと捨て駒になりまするぞ!」


 状況を即座に読む沸騎士たちは頼もしい。

 沸騎士たちはやられても魔界に帰るだけだからな。


「頼む」

「「ハッ!!」」

 

 沸騎士たちの気合い声が魔力の波紋として周囲に散った。

 すると、血文字が浮かぶ。


『ご主人様、伏兵が出現。空戦魔導師が率いる空魔法士隊です――規模は中隊規模』

『外も連動したか。で、大丈夫か?』

『外も連動? では、わたしが戦う部隊は陽動!?』


 ヴィーネはびっくりしたのか、血文字で素の感情を寄越す。

 

『落ち着け。こっちの敵は暗殺者の狙撃手。その暗殺者に<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を浴びせたから一旦は時間を稼いだが、背後から敵の魔素の集団だ』

『はい、済みません』

『で、そっちの状況は』

『わたしは魔塔を利用しつつ逆に急襲を実行。不意を突いて空魔法士隊を半壊させました。しかし、空戦魔導師から反撃を受けたので、陰に潜みつつ、今、連絡を行なっています』

『分かった。無理せず敵を倒せ。そして、更なる伏兵を想定しろ。敵指揮官が表に出ない用意周到なタイプなら逃げ道も用意しているはずだ。先の先を読め、敵側の視点で動け』

『はい! ヒューイの翼の機動力とラシェーナの腕輪にイザーローンを活かします』

『おう、あとで合流だ』

 

 敵の陽動部隊と戦うヴィーネとの血文字連絡を終えると、


「……驚きだよ。エヴァから聞いてはいたが……その魔界の上等兵士っぽい召喚兵はシュウヤの部下か」

「そうだ」

「左目から出た精霊様の一部といい……槍使いと知らなければ、大魔術師と勘違いするぞ」

「実際水系統なら無詠唱で念じることが可能だから、魔法使いでも通じるかな?」


 クレインは微笑みながらトンファーをくるっと掌の中で回す。


「その笑顔といい軽妙洒脱なシュウヤを見ると、自然と心が跳ねるねぇ……」


 一度クレインと戦ったから分かっているが。


 トンファーを回す仕種は一流。

 クレインの武芸者としての実力の高さが分かる。

 

 そして、前と少し色が違う乳房と脇腹の肌と密着した防護服のセンスも良い。

 トンファーを振った際に、その形の良い美乳の乳房が悩ましく揺れるのもいいねぇ。

 

 つい見てしまうがな。


 魅惑的な乳首さんの形がくっきりと分かるし。

 クレインは興奮しているのか、前よりも突起した乳首さんだ。


 クレインは俺の視線に気付いている。

 恥ずかしさと嬉しさを合わせもったような、笑窪が目立つ可愛げのある笑みを見せたクレイン。

 

 頬に紅がさす。

 体の皮膚も桜色に生き生きと上気した。

 

「そして、こんな囲まれた状況だが、足ることを知るシュウヤが傍にいるとワクワクしてくるんだから、まったく不思議な男だよ」

 

 俺を凝視しながらの指摘だ。

 瞳にも、特別な熱が籠もっていた。

 

「ん、シュウヤが傍にいるだけでドキドキする」


 エヴァがそう発言。

 クレインの発言に同意するように頷いているが、そのエヴァは不安そうだ。

 

 紫色の瞳をうるうるさせていた。


 クレイン・フェンロン。

 エヴァの先生は美人さんだ。

 俺もまんざらではないってことも知っているエヴァだからな。

 

 そんなエヴァを安心させるように視線を向けた。

 俺に微笑みを返すエヴァ。

 エヴァはとても優しい女性だ。


 刹那、俺の体の左側を覆う<精霊珠想>の液体ヘルメが反応。

 

 自らの<精霊珠想>の一部を切り離す形で、小さい環を宙空に無数に作った。

 

 それらの小さい環は、水のドーナッツにも見えた。

 イルカが空気で環を作って遊ぶ動きにも見える。

 

 皆の前で、その小さい環が弾けて散り、シャワーとなって皆に降りかかった瞬間――。


 皆の体の表面に水の膜が生成。

 その水の膜の中も<精霊珠想>と変わらない。

 

 七福神の衣装を着る闇蒼霊手ヴェニューたちが泳ぐ。

 妖精的なヴェニューたちの衣装は本当に様々で多種多様。

 

 <精霊珠想>から派生した《水幕ウォータースクリーン》系の能力か。

 その水精霊独自の特殊な《水幕ウォータースクリーン》が煌めく。

 深海に光が射して深海魚が七色に輝いたように極彩色があちこちに生まれて消える。

 

 そんな魔法とは呼べないかも知れない不思議と小宇宙感溢れる美しい液体ウォータースクリーンを纏う黒沸騎士ゼメタスが、星屑のマントを払うように骨盾を動かした。

 同じく星屑のマントを羽織る赤沸騎士アドモスも呼応――。

 赤黒い骨盾を、その黒沸騎士ゼメタスの黒々しい骨盾に衝突させた。

 

 盾と盾からドッとした重低音が響いた。

 音波的な魔力の波動が周囲に発生。


 右腕の一部のイモリザがピクッと反応。

 沸騎士たちの盾と盾が織り成す音波は、イモリザの歌と似た効果でもある?


 沸騎士たちとイモリザは、サイデイルで長く一緒に活動していた時期があったこともあるか。

 

「――閣下の新しいお仲間か! よろしくお頼み申す!!」

「――我らは閣下の魔界の尖兵でありまするぞ! ご友人の方々、今後ともよろしくお頼み申す!」

 

 気合いが溢れる大きな声だ。

 ヘルメの<精霊珠想>の力も加わった星屑のマントが強く輝く。

 

 同時に、


「さっきから響く連続した不気味な声はなんだ!?」

「連絡があったようにペレランドラ側に強力な助っ人が加わったようだな」


 そんな声が響く。

 敵の歩みが止まった。

 

 さすがは沸騎士たちの重厚感溢れる声。

 迫力のある声だけで、敵をびびらせた。


 俺と顔を見合わせたエヴァとキサラは微笑む。


 すると、その敵がいる廊下から、


「このまま外の連中の動きに合わせるが……どう考えても待ち伏せだよな」

「あぁ……死地かもしれねぇ」

「クルオル、止まるなよ。死地とか、今さらだろうが」

「そうだよぉ? チキチキバンバン、チキチキバンバンってねぇ?」

「あっぁぁ、カットマギーさん……す、すみません……」

「……アァ? なに青白い顔して、足を止めてんのさ。いまさっき紅蓮のマーカスの死に様を見ただろう? 君たちも、あんな風に死にたいのぅ? ならここで、そのまま足を止めているんだねぇ……僕が、敵の代わりに、クルオル君を、切り刻んであげるからさァ、ケケケ、チキチキバンバン、チキチキバンバンってねぇ……ケケケ」

「……ひぃ」

 

 そんな敵側の声が響く。

 なんだよ、チキチキバンバンって、こええぇ。


 一方、ドロシーと評議員ペレランドラは怯えていた。

 当たり前だが、沸騎士たちを間近で見たら驚くのは当然か。

 この厳つい魔界騎士の見た目と、迫力のある声だからな……。

 

 刹那、窓を塞ぐ鎧戸とチューブで繋がったままオブジェと化していたガードナーマリオルスが動く。

 丸い胴体を急回転させた。

 そのままチューブを捻り切って短くなったチューブを胴体に引き込みつつ着地するや否や――。


「ピピピッ」


 細いカメラからホログラム映像を部屋に投影。

 解像度の高いプロジェクター的なホログラムが展開。

 

 ホログラム映像は偵察用ドローンの視界の映像を流す。


 暗殺者がいる魔塔――。

 同時に俺たちがいるペレランドラの魔塔もホログラムに映る。

 

 いつ見ても、この映像はすこぶる面白い。


 俺は偵察用ドローンと視界を共有中だから、このホログラム映像は必要ないが、外の状況が分からない皆にとってはありがたい情報だろう。


「ん、外に輝く魔塔がいっぱい。あと、このシュウヤの<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>が凄く綺麗!」

「晩酌が可能な器だけではないんだねぇ」


 クレインはガードナーマリオルスの頭部にある小さいパラボラアンテナを、器として認識してしまったようだ。

 

 ま、冗談だとは思うが。


 そして、エヴァが指摘する俺の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の闇世界は、暗殺者のいる魔塔と俺たちの魔塔を繋ぐ架け橋となっていた。

 

 暗殺者の射撃は止まった状態。

 俺の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>は暗殺者に効いたと判断するが……暗殺者は魔眼を持つ。

 その魔眼か装備で<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を弾くか、対処するかもだ。

 もしくは他にも仲間がいて、<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を解除できる能力者がいるかもだ。


 亜神ゴルゴンチュラにも効いた<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>ではあるが……。

 亜神ゴルゴンチュラは弱った状態だった。


 だから噂に聞く【八指】とか【八本指】の暗殺者なら……。

 

 最高級の装備で、準備は万全状態のはず。

 俺の精神攻撃を突破してくる可能性は非常に高い。


 すると、ガードナーマリオルスのホログラム映像を見た、評議員ペレランドラが、


「これは現実? わたしの魔塔……隣の魔塔の一部を覆う魔力の幻影。水晶系アイテムや未来視のスキルなのでしょうか」

「お母様、魔道具の力で周囲の状況が理解できるようです。シュウヤさんのペットの能力かも知れません」


 俺は頷いて、

 

「ドロシーが近い。このガードナーマリオルスが映す能力は、距離の制限はあり、魔法絵師とも、また違いますが、遠距離の光景を時間差なく表示、投影することができる魔法的な能力。そして、外の光景を映し、このガードナーマリオルスに転送している魔機械の名は偵察用ドローン。姿は小さい蜂で、現在も――このように飛翔中。その小さい蜂を使役して、飛翔する蜂の視界を共有しているから、この外の光景を、ここに展開できている。と言えば、分かり易いですかね」


 そう説明。

 評議員ペレランドラは目を輝かせる。

 

「小さい蜂たちの操作。その視界の共有とは素晴らしい偵察能力!」

「はい、戦闘型デバイスとアクセルマギナに感謝、ガードナーマリオルスにも感謝です。そして、二人を守るとして……」


 俺はそう喋りつつキサラを見る。

 そのキサラは、俺に対して、少し頭を下げて、自身の胸元に手を当ててから、


「評議員ペレランドラ様、わたしの名はキサラ。二人はわたしとエヴァさんの間にきてください。そこに厳つい沸騎士たちもいますが、シュウヤ様は、あの沸騎士たちに、通路を守らせるつもりなのでしょう。ですから、わたしは二人の守りを優先します」

「「はい」」

 

 ドロシーと評議員ペレランドラは、エヴァとキサラの間に入る。


 そう説明したキサラは俺をチラッと見て微笑む。


 キサラの双眸の蒼い瞳は美しい。

 そのキサラに対してチュッと唇を動かした。

 

 キサラは衝撃を受けたように、瞬きを繰り返して胸を少し揺らす。

 ダモアヌンの魔槍を床に落として、胸元に手を当てていた。


 その様子を笑顔で見ていたクレインが、


「キサラが動揺するところは初めて見たが、大丈夫か?」


 キサラはダモアヌンの魔槍を拾って、

 

「――はい、大丈夫ですが? シュウヤ様は渡しませんよ?」

 

 笑顔で戦争する二人。


「ん、シュウヤはわたしの」

 

 もう一人いた。

 この三人ならドロシーと評議員ペレランドラを任せられる。

 しかし、廊下の魔素が気になった。


 沸騎士たちに、


「ゼメタスとアドモス、頼む」

「「はっ」」

 

 ゼメタスとアドモスは盾を構えながら廊下に出る。

 即座に飛来した魔刃が、その沸騎士たちの骨盾と衝突。

 

 が、骨盾は傷つかず。

 ヘルメの<精霊珠想>の特殊な《水幕ウォータースクリーン》が凹んだだけだ。

 ただ中身の闇蒼霊手ヴェニューの数体が消失。

 他の闇蒼霊手ヴェニューたちは巫女さん的な衣装に替わった。

 祈祷祭りを始めるヴェニューたち。


 失ったヴェニューたちに向けてのお祈り?

 

 <精霊珠想>の内部で繰り広げられる不思議な宇宙の世界を見ているだけで、戦いを忘れそうになった。

 すると、クレインが口笛を吹く。

 

「黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスか。重量感溢れる動きだねぇ」

「敵が出たぞ――」

「魔界の上等兵士だと?」

「魔法使い系の戦闘職業を持つ存在が敵側にいる!」


 敵は十人以上いる。

 刹那、部屋の鎧戸が吹き飛んだ――。


「――な!?」


 反射的に<血液加速ブラッディアクセル>――。

 凄まじい数の金属の破片が散った――。

 <精霊珠想>のヘルメから出た無数の手が飛来する破片を掴んで防ぐ。

 

 俺はキサラを胸元に抱いてエヴァの前に出ながら――『シュレ、出ろ――』と念じる。

 左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から桃色の魔力が蛸足を形成しながら迸る――。


 ヘルメの<精霊珠想>の液体と――。

 そのシュレの桃色の蛸足の魔力が――。

 飛来する残骸のすべてを防ぎきってくれた。


 相棒が守るガードナーマリオルスが投影する映像には――。


 魔導人形ウォーガノフ的な鎧を纏う暗殺者が浮いていた。

 俺の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を抜けたのか。


「あの暗殺者が装着している装備は魔導鎧……」

 

 クレインがそう呟く。

 キサラを離しつつ<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を、俺たちのいる階層に引き戻す。

 煙幕的な効果を狙っての<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>だが……。

 相手も特別な魔眼か、装備を持つ。

 あまり意味がないかもな。


 同時に偵察用ドローンの視界を意識。

 無数の摩天楼をバックに魔導人形ウォーガノフ的な重厚鎧を装着した暗殺者が浮かぶ。

 足下から魔力の粒子を放出して推進力を得ている。


 スラスターでもあるようだ。

 魔力を帯びたパワードスーツ的なもの。

 ごつい部分が多いからパワードアーマーか。


 刹那、ハーミットこと、ハートミットの言葉を想起した。


『それは第一世代の魔強化サイキック型Manned Maneuvering Unitの一つよ。皮は骨董品だけど、中身のパーツは、自慢じゃないけど、今も第一線級の素材として流用が可能。一級品の貿易素材になりえる代物よ。エレニウムストーン系技術を応用して作られた特殊アーマースーツといえば分かるかしら』


 エヴァの金属と骨が融合した部品っぽい部分もある。

 左手に先ほどのランチャー付きのアサルトライフルを持つ。

 右手には対戦車砲っぽい大砲を有した大剣があった。

 

 その対戦車砲的な大砲の先を俺たちに向ける。

 丸く大きな砲門だ。

 ――大砲を向けられる経験は、生まれて初めてだ。

 魔竜王の口から放たれた巨大な火球を彷彿として――背筋が寒くなった。

 その大砲から魔力を有した砲弾が射出――。

 ドゴォッと重低音が遅れて響くのが怖さを助長する。

 ――砲弾は俺たちのいる階層の下の階層に直撃した。

 ドドッ――と連続的な轟音が響き渡ると同時に地響きがして、鳥肌がたった。

 ――魔塔が揺れた。

 ――こわっ。全身に響く轟音で、心臓に悪い。


 しかしながら、幸いにして大剣を有した対戦車砲の狙いは正確ではなかった。

 俺の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>が、俺たちの位置を隠していたからか、暗殺者の精神力を削ったお陰で狙いがそれたか。


 だが、パワードアーマーを装着した暗殺者は対戦車砲的な大砲から砲弾を連発してくる――。

 強い揺れを何回も感じた刹那――。

 

 ――魔塔がガクッと傾いた。

 

「にゃ――」


 相棒は跳躍。

 胴体から翼を生やしつつ触手を天井に射す。

 俺とエヴァにも触手を絡ませた。

 キサラはダモアヌンの魔槍を跨ぎつつ飛翔――。


「「――きゃ」」


 ――<精霊珠想>を解除しつつ戦闘型デバイスにガードナーマリオルスを回収。

 ヘルメが左目に納まると同時に<鎖>を天井に射出。

 相棒の触手と、俺の<鎖>にぶら下がりつつ<導想魔手>を足場に体勢を保った。


「ひぃぁぁぁ」

「た、助けてぇぇ」

 

 叫ぶのは紫色の魔力に包まれている評議員ペレランドラとドロシー。

 その二人は叫んでから気を失う。

 相棒の触手がエヴァの片腕に絡んでいるし、そのエヴァも、紫色の魔力で、クレインと評議員ペレランドラとドロシーを覆っていた。


 相棒とエヴァが皆を救った。

 エヴァは紫色の魔力が包む緑皇鋼エメラルファイバーを展開させて防御膜を宙に張っている。


 自身は金属を消耗しているのか、骨の足を露出したまま魔導車椅子に座って浮いていた。


 一方、当然ながら、下の傾いたペレランドラの部屋はボロボロだ。

 俺たちがいた部屋の窓と鎧戸の破片といった瓦礫も落下中。

 天井も崩れて、埃が大量に降り注ぐ。


『そろそろ、妾の出番か』

『まだだ』


 沙と念話をしている最中にも、ベッド、ソファー、デスク、チェア、などが転がって、嘗て窓があったところで跳ねて外に落下。

 傾いた部屋の上部に展開中の<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を解除した。

 ドロシーたちに当たったらヤヴァいからな。

 その僅かな思考の間にも、内装は崩れに崩れる。


 キサラとエヴァと相棒は器用に近くにあったチェアとソファーの機動を避けた。

 酒に魔煙草に衣服が入った箪笥、宝石類に書類などの評議員ペレランドラの私物が散乱しながら下に滑り落ちる。


 外の宙空に様々なモノが落ちていく。

 達磨の人形とぷゆゆの人形があった。バンジーってか?

 

 しかし、魔塔の破壊を狙うとは……。


 廊下の仲間ごと、標的の評議員ペレランドラを潰すつもりか。

 魔導人形ウォーガノフのような重厚鎧を装着する暗殺者は近付いてきた。


 姫魔鬼武装を展開していたキサラが魔界四九三書の一つ、百鬼道を輝かせながら<魔謳>を披露。

 鴉たちを、その暗殺者に向かわせた。


 アサルトライフルから銃弾を連射して、鴉を撃ち抜く暗殺者は旋回軌道で距離を取る。


「凄まじい武器だね……しかも魔導鎧だ。【七戒】のマッドって名のある暗殺者か、アサシンクリード一家で有名な【チフホープ家】の魔導鎧なら動きは速いよ」

「ベニーが所属していた【七戒】か。そのチフホープ家ってのは、【八指】とか【八本指】?」

「【闇の枢軸会議】側に雇われているのならそうなのかも知れないが、チフホープ家は、暗殺に信条がある一家で、その一族。皆、暗殺者と聞く。その長男のマクスオブフェルトの名なら聞いたことがある。あの魔導鎧を装着した者がマスクオブフェルトかは、分からないがね。ただ、拳を用いたり、飛剣流の使い手で、手首に秘剣を埋め込んでいると聞いたから、違うとは思うが」


 エヴァの紫魔力が包むクレインが、暗殺者のことを指摘。

 しかし、ここでマクスオブフェルトの名を聞くとは。

 

 ドロシーとペレランドラは気を失っている。


 パワードアーマー的な魔導鎧を装着した暗殺者か。

 キサラの鴉たちをすべて打ち消したパワードアーマー的な魔導鎧を装着した暗殺者は、魔力の粒子を全身から発した。更に防御能力が高まったようだ。

 そして、魔塔を攻撃していた大砲に魔力をチャージでもしているのか、対戦車砲のような武器に魔力を集積させる。しかも、そのチャージが早い。


 その魔力を得た対戦車砲のような大砲から、砲弾を射出――。

 

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>が消えたから、今度の狙いは正確か。

 俺に魔力が内包している強力そうな砲弾が向かってきた。


 俺は魔槍杖バルドークを右手に出す。

 ――<魔狂吼閃>で砲弾ごと、あの暗殺者の切断を狙うか?

 いや、魔塔はたくさんある。横の攻撃はできるだけ避けるか。


 廊下側の背後の敵もいる。


 が、今はエヴァと一緒に守りを重視する。


『ヘルメ、<精霊珠想>だ――』

『はい、お任せください』


 ――再び左目から出た<精霊珠想>のヘルメ。

 ――<精霊珠想>の液体ヘルメから、無数の煌びやかなヘルメの手が出て砲弾を叩くように掴む。

 ――しかし、その煌びやかなヘルメの無数の手は砲弾の威力に負けるように散った。

 ――ヘルメの手の殆どが、液体の粒となって散る――。

 

 ――が、散った手の粒は霜的な吹雪に変化。

 ――一瞬で砲弾を凍らせることに成功するや否や――。

 ――その凍った砲弾を巨大な手が連なるバット状の<精霊珠想>で跳ね返した。


「「おお」」


 が、ゼロコンマ数秒の展開にも、速度が加速している暗殺者はあっさりと対応。

 大砲から砲弾を射出――。

 俺たちと暗殺者の間の宙空で閃光が迸った。


 その撃ち返した凍った砲弾を砲弾で相殺。


「相棒! フォド・ワン・ユニオンAFVを出す。下に転がらないように一時的に触手で押さえてくれ」

「にゃ~」

 

『ヘルメ、<精霊珠想>は解除だ。そのまま外に出て暗殺者を牽制。俺はフォド・ワン・ユニオンAFVを出す』

 

 <精霊珠想>だったヘルメの液体は俺の左目から出て一瞬で女体化。

 いつもの常闇の水精霊ヘルメとなる。

 

 俺はフォド・ワン・ユニオンAFVを出した――。

 <導想魔手>の真下だ。

 ペレランドラの魔塔の床に出したフォド・ワン・ユニオンAFV――。


 当然、斜面となった床を慣性で下る。

 が、装甲車は重いから床に車輪が少し嵌まって動きが鈍った。

 そのフォド・ワン・ユニオンAFVのガルウィングドアが開く――。

 タラップが斜面に引っ掛かり火花が散った。

 ガルウィングドアの鋼板の孔から外に飛び出たワイヤーが、ペレランドラの室内の壁に突き刺さる。

 しかし、フォド・ワン・ユニオンAFVは重いから壁に刺さったワイヤーは外れた。

 そのまま重力に引っ張られたフォド・ワン・ユニオンAFVは自身の重さで沈んだ床を巨大なタイヤが越えた。


 斜面を下る――。

 <導想魔手>と<鎖>で押さえるか。

 それか、<破邪霊樹ノ尾>で宙空に土台か、<闇の千手掌>をフォド・ワン・ユニオンAFVにぶち当てて浮かせるか――と思ったが――。


「ン、にゃ!」

 

 姿を少し大きくした神獣ロロディーヌが反応――。

 落下しそうなフォド・ワン・ユニオンAFVに無数の触手を絡ませた。


「おお」

「ロロちゃん凄い!」

「巨大な魔機械の戦車もだが――神獣さまさまだねぇ」


 神獣ロロディーヌは軽々とフォド・ワン・ユニオンAFVを持ち上げる。

 玩具でも扱うような感じだ。


 しかし、フォド・ワン・ユニオンAFVのガルウィングドアから出ていたワイヤーから放電した魔線が迸る。

 その放電がロロディーヌにぶつかった。


「ンン」

「ロロちゃんのお毛毛が!」

「にゃ~」


 黒毛が焦げたが、相棒は気にしていない。

 その放電していたワイヤーはガルウィングの孔に収斂、納まった。


「閣下、あの暗殺者はわたしが――」


 宙空に飛び出たヘルメだ。

 《氷槍アイシクルランサー》をパワードアーマーを装着する暗殺者に繰り出す。

 同時に右腕を氷剣に変えた。

 ヘルメは体から水飛沫を発しながら、パワードアーマーを装着する暗殺者に斬りかかった――。

 

 パワードアーマーを装着する暗殺者は足下から出したジェット的な魔力噴射で姿勢を制御しつつ《氷槍アイシクルランサー》を避けた。


 刹那――。

 暗殺者との間合いを零としたヘルメは、体を横回転させながら右腕の氷腕剣を暗殺者に振るう。


 暗殺者はアサルトライフルでヘルメの氷腕剣を受けたが、ヘルメの氷腕剣は鋭く、滑らかに切断されたアサルトライフルは爆発して散る。

 

 即座に離れたパワードアーマーを装着する暗殺者――。


 ヘルメから逃げるように飛翔。

 ヘルメも直ぐに追い掛けた。

 が、パワードアーマーからフレアのような追尾ミサイルが大量にヘルメに衝突。


「きゃぁぁぁ」


 ヘルメは液体を散らしつつフォド・ワン・ユニオンAFVに衝突。

 糞が、あの暗殺者――。


 俺は《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》と<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>をその暗殺者に繰り出した。

 が、重そうなパワードアーマーなのに動きが速い。

 

 すると、背後、もう斜め上だが、沸騎士たちの声が消えて魔素も消えた。


 沸騎士たちは倒されたか。

 その背後の廊下側、もう真上に近い形だが、そこから魔刃が飛来。

 ひょろい二剣流の魔剣師が繰り出してきた攻撃だ。


 キサラがダモアヌンの魔槍から放射状に展開したフィラメントで、その魔刃を弾く。


「アクセルマギナ、フォド・ワン・ユニオンAFVの操作の補助をある程度頼む――」

「はい」

 

 同時にフォド・ワン・ユニオンAFVの前方から出たワイヤーの群れとマシンガンの弾がパワードアーマーを装着する暗殺者に向かう。


 外を飛翔中のパワードアーマーを装着する暗殺者はシールドを生成――。

 そのワイヤーとマシンガンの弾をシールドで防御しながら距離を取った。

 

 そして、攻撃を受けたヘルメだったが、俺にアイコンタクト。

 大丈夫そうだ。

 

「――エヴァとヘルメ、キサラ、ロロ。装甲車の中に入る――」

「にゃおお~」

「ん」


 俺と相棒にエヴァがフォド・ワン・ユニオンAFVに乗り込む。

 キサラが「今、入ります――」と遅れて飛来。

 ダモアヌンの魔槍の孔に収斂するフィラメントが美しい。


「アクセルマギナ、出ろ」

「はい」

「今行きます――」


 ヘルメはパワードアーマーを装着する暗殺者に向けて氷槍アイシクルランサーを繰り出す。

 牽制してからフォド・ワン・ユニオンAFVに乗り込んできた。

 

 アクセルマギナが操縦席に着席。

 俺は、動き出したフォド・ワン・ユニオンAFVの後部から――。

 <鎖>を放つと同時に――。


『出番だ、<神剣・三叉法具サラテン>! あの廊下の先の者たちを貫いてこい――』


 左手から煌びやかな神剣サラテンが射出。

 俺の<鎖>が、飛来した魔刃をぶち抜くのを悠々自適に見ながら――。

 連続して飛来する魔刃を喰らうように飛翔する神剣サラテン。

 炎のような魔力を纏う神剣の上できらきら光る天女のような羽衣が似合うテンが舞う。


 彼女たちは重なり合うと光り輝く粒となった。

 軌跡を宙に残しつつ魔塔ごと部屋をぶち抜く沙・羅・貂の神剣サラテン。


 一気に魔塔の上部に残っていた魔素の気配が消失した。

 やはり<神剣・三叉法具サラテン>は凄まじく強い。


 ガルウィングドアが下りる。


『サラテンたち、崩壊した魔塔と宙空の戦いだ、向かってくる者は倒しきっていいが、無垢な存在は助けてやってくれ』

『器よ、任せよ!』

『俺たちはたぶん落下することになるが、ま、あとで合流しよう』

『了解じゃ!』


 そう沙に思念を送ると、クレインが、


「なんて戦いさね、わたしの出番がない――」

「ん、でも守った!」

「はい」


 そう言いながら、ヘルメとキサラとエヴァがハイタッチ。


「仕方ないさ、こんな環境で戦うことは滅多にないだろう」

「あぁ、戦車の内部といい、夢寐にも忘れないぐらいな、戦いさ」


 クレインの言葉に頷いた。

 そして、フォド・ワン・ユニオンAFVが初めてのエヴァに向け、

 

「エヴァ、まだ皆の防御は緩めず、そこの席に座ってくれ」

「ん、分かった。これが戦車、不思議――」

「あぁ、もっと安全な時に見せたかったが」

 

 と、俺は操縦席に着席。

 自動的に強化硝子のディスプレイの内部にARディスプレイが浮かぶ。

 相棒は黒猫の姿に戻って、俺の操縦席の前にあるインスツルメントパネルの上のダッシュボード的なスペースに座る。

 なにげに『ドラゴ・リリック』用のスペースもあるようだ。

 フィギュアが置く場所があるし、連動している?

 ま、詳しくはあと。


 そのままARディスプレイから外の様子を窺った。

 尻尾が上下左右に動いて可愛いが、今は外だ――。

 

 巨大なペレランドラの魔塔の斜面を下り中のフォド・ワン・ユニオンAFV。

 いまにも崩壊しそうな魔塔の窓硝子を割りながら一気に下っていた。

 ペレランドラの魔塔の内部にいた関係者は、既に敵対する闇ギルドの連中に殺されていたようだ。

 生きている反応は黒装束の連中と、その闇ギルドの連中ばかり。

 魔塔の窓から飛び出して崩落から免れている者は少ないが、空魔法士隊ではない闇ギルドの連中にも飛翔が可能な強者がいる。


 すると、

 

「――前方斜め上に標的が出現」

 

 俺たちを追うパワードアーマーを装着する暗殺者だ。

 魔塔の斜面を下るフォド・ワン・ユニオンAFV目掛けて、大砲から砲弾を放ち続けている。

 もうペレランドラの魔塔は穴だらけだ。


「アクセルマギナ、レーザーパルス180㎜キャノン砲、発射準備――」

「はい、直ぐにでも発射は可能!」


 ――操縦桿のミサイル発射ボタンが点滅。

 ディスプレイに映るマーカーがパワードアーマーを装着した暗殺者と重なる。


 レーザーパルス180㎜キャノン砲の砲塔が自動的に動く。

 ARディスプレイの標準がパワードアーマーを装着する暗殺者と合わさった瞬間、「ピーピーピー、ロック完了しました」と、アクセルマギナ風の機械音声がフォド・ワン・ユニオンAFVの内部に響く。


 エヴァは周囲を見回して、


「また声が響いた!」

「面白いが、けったいな魔機械の乗り物だねぇ」

「閣下のすーぱーみらくる鉄馬車あんど魔道具砲のましーん!」


 周囲に水飛沫を発しているヘルメの可笑しな発音に笑う。

 さて、狙いは完了。

 

「これを押したら発射だな?」


 人工知能のアクセルマギナにそう聞いた。


「はい!」

「よーし、標的の、あのパワードアーマーを装着した暗殺者にぶちかますぞ!」

「ん」

「閣下、がんばってください!」

「にゃごあぁ」


 相棒の前足の肉球と一緒に、操縦桿のミサイル発射ボタンを押し込んだ。


 レーザーパルス180㎜キャノン砲が火を噴く――。

 夜間に一条の白色光が迸る。

 ドッとした音と、フォド・ワン・ユニオンAFVの内部にも衝撃が伝わった。

 

 そして、パッと閃光を発したパワードアーマーを装着した暗殺者は轟音を発しながら爆発。


 暗殺者は木っ端微塵。

 

 直ぐにレーザーパルス180㎜キャノン砲の砲身の一部がフォド・ワン・ユニオンAFVの内部に引き込まれる。

 ボールタレットも弧を描く機動で位置を変化させた。

 そのレーザーパルス180㎜キャノン砲の砲身の横にカートリッジが自然と嵌まった。

 

 キャノン砲はレーザーだけではない?

 砲身の中にはレールでもある?

 電磁誘導で鋼鉄の弾を放ったのか?

 それだとレールガンっぽいが。

 単にエレニウムストーン系のエネルギー源かな。

 その両方だとしたら、レールガン系でもありレーザーパルス系でもあるってことか。

 

 大気圏で溶けないような巨大な鉄の塊を衛星軌道上から惑星の地表にぶちかますだけで凄まじい超兵器になるからな。


「――お胸がどっきりんこ!」


 ヘルメが発している水の環から飛び出たヴェニューがそう叫んだ。


「やった!」

「ん、凄い音に威力!」

「魔塔を貫ける威力だねぇ、遠くのほうまで砲弾は飛んだように見えたが……」

「閣下、まさにお胸がどっきりんこを超えた、どっきりんこすーぱーデカルチャーですね! わたしが苦戦した相手をあっさりと打ち破る、魔機械の大砲は素晴らしい!」

「おうよ。よーし、このまま斜めに傾いた魔塔を下るぞ――」


 が、ペレランドラの魔塔の崩壊が始まった。

 足下の魔塔も崩壊すると、当然、フォド・ワン・ユニオンAFVも落下。

 相棒のロロディーヌが俺の首と手に触手を絡めたまま浮いて、「ンン――」後ろ脚が左右に開いた。


 尻尾も持ち上がると、菊門を晒す。

 

 皆には、自動的にシートベルトが嵌まっていた。

 ヘルメは半分液体状態のまま浮いているからあまり意味がない。

 

 ドロシーと評議員ペレランドラはエヴァの紫魔力が包む。

 クレインも席に座って体に絡んだシートベルトを不思議そうに見ていた。


 皆の安全を把握してから……。

 冷静に、アクセルマギナに向け、

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