六百四十七話 誕生、<光魔ノ秘剣・マルア>

 アクセルマギナは動揺。

 双眸の中の不可思議な記号と数値がズレて困惑していることは丸わかり。


 だが、次はポケットからだ。


「これを――」

「ブローチ! トニライン家の独自勲章ですね。竜のマークが綺麗です」

「ハルホンク、先の竜鷲勲章と同じく頼む――」


 トニライン軍事栄誉勲章を竜頭金属甲ハルホンクの口に押し当てた。


「ングゥゥィィ――」


 一瞬でトニライン軍事栄誉勲章を吸い取るハルホンク。

 気泡が破れたようなポコッと音を立てて暗緑色の薄着の表面に竜のブローチが浮き上がる。


「あ、勲章が出ました! 模様が新しい? 綺麗で素敵です」


 ヴィーネが話したように白銀模様が新しく追加された。


「先の竜鷲とは形が違う勲章なのですね」

「オセベリア王国の勲章の一つではあると思うが、治める街や、貴族ごとに勲章は異なるようだな」


 ブローチの真上には竜の紋様も浮かんでいるし、ハルホンクから魔力も得た。


 竜鷲勲章の時にはなかったが、トニライン家のブローチは竜の形だけに、魔竜王の力を取り込んだハルホンクと相性がよかったのか?


 それとも造り手の職人との相性だろうか。


 アルゼの街を治める領主フレデリカは、ミオン・グローブスという名の優秀な魔金細工師が造ったと語っていたが。


「ングゥゥィィ、アジ、スコシ、アッタ……」


 味覚の概念は日本人っぽい?

 魔力は少しか。

 シャドウストライクとは違って不満そうなハルホンクだが、ちゃんと取り込んで独自のデザインも加えるセンスがある。


「――よし、ハルホンク、次はこれだ!」

「ングゥゥィィ、バッチコイ、ゾォイ!」


 ノリがいいハルちゃんに、ポケットから――。

 サラがプレゼントしてくれたフェニムルの紐腕輪を取り出した。

 ――別名サラの愛の紐腕輪。

 表面の紐が輝いて綺麗でお洒落だ。

 サラ曰く、これをプレゼントしたら、『紅虎の嵐に入ってくれるかも?』と考えていたらしいが……結局は、俺の<従者長眷属>に、大事な家族になった。


「喰えば、アイテムが壊れることはないだろう?」

「ングゥゥィィ!」


 いつものングゥゥィィだが『そうだ』という意味だと受け取った。

 フィニムルの紐腕輪をハルホンクの口に当てた。

 ハルホンクは一瞬で紐腕輪を吸い込む。


 そして、俺の腕にその、輝く紐の腕輪が生成。

 樹海にあるフェニムル村にはまだ行ったことがないが、サラが教えてくれた、薬作りが得意な神童の存在は少し気になる。


「さて、次は……」


 と、ヴィーネとジョディの視線が厳しい。

 手首からのサラの愛を感じたようだ。


 さっと意識して、そのサラの愛の紐腕輪をハルホンクに吸い込ませた。


「ングゥゥィィ、モットォォ」


 食いしん坊だ。


「ゴルゴダの革鎧服も喰っとくか? 仕舞うだけでもいいが――」

「――ングゥゥィィ! ゴッル、ゴッダァ」


 気に入った? ゴルゴダの革鎧服を口から吸い込んだが、喰ったのか、格納したのか分からない。

 まぁ、喰ったんだろう。渋いゴルゴタの革鎧の素材を活かせるようになる。マフラーのような赤い布は渋くてお気に入りだ。


「にゃお~」


 相棒も腹が減ったか?

 黒豹ロロの顔色を見るに、『食いしん坊なら負けないにゃ』という感じだ。


 空旅では色々と食べたようだが、相棒が好きなアレを出すか。

 食材袋からタッパーを取り出した。

 そう、アレとは黒豹ロロ用の餌だ。

 俺がカソジックとササミを元に、色々な調味料と隠し味に幻の木の実を使い、魔力という丹精を込めて調理した餌だ。


 ムクッと起きた黒豹ロロのまん丸な瞳と牙がヤヴァイ――。

 『かわいい、とか、言ってんじゃねぇ…』といったような不良気味なギラついた視線だ。


 黒猫ではなく、黒豹だから、やはり迫力がある。


「――ガルルゥ」

「ロロさんや、そのレアな獣声で急かすのは怖いから止めてくれ」

「にゃ」


 と、鳴いてから舌を出しては両前脚を前後させる。

 クレクレポーズの黒豹ロロさんだ。

 くっ、可愛い。


 よーし、保存箱のタッパーをあけて、トング付きの蓋を外す。


「ハルホンクじゃないが、たんと喰え喰え、螺旋のなんたら司るだ――」

「ングゥゥィィ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星……ゾォイ」


 ハルホンクからツッコミがくるとは思わなかった。

 と――ハルホンクに反応はせず、期待する相棒の足下にタッパーを置く。


「ンン――」


 喉声のみの返事。

 タッパーごと喰うように、餌に顔を突っ込む黒豹ロロさんだ。


「ンン、ソレ、オイシソゥ、ゾォイ」

「ンンン――」


 相棒は喉を震わせつつカソジックとササミをブレンドした餌を食べていく。

 むしゃむしゃと咀嚼する。

 お手製の餌は『愛情物語』と『ママクック』と似て美味しいペットフードのはず。


 黒豹ロロはカソジック料理が本当に好きだからなぁ。


「ふふ」


 神虎の箱を持っているヴィーネも嬉しそうだ。


「モットォォ、ウマィィ、ノ、喰ワセロォ、ゾォイ」

「んじゃ、次は……」


 と、アクセルマギナを見る。

 俺の視線を受けて、ビクッと小さい体を震わせるアクセルマギナ。


 軍人服が似合う美人さんだが挙動には硬い動きもあって面白い。

 すると、アクセルマギナは、『早くこの銀河を統一せねばなりません』といったように腕を振るうと、小さいガードナーマリオルスを前面に展開させた。


 立体的な映像のガードナーマリオルスだが、一瞬、銀河を渡る丸い戦艦に見えた。

 リアルだが、幻影だ。

 アクセサリーのような六腕のカイと似た人形。

 そして、チューブで握る独鈷魔槍を振るうガードナーマリオルス。


 円盤状の小さい頭部は可愛らしい。

 下の球体が、ガードナーマリオルスの胴体だと思うが、頭部の小さい円盤は、その球体胴体を掃除するように球体胴体を行き交う。

 湾曲に沿いつつ球体の表面を滑る機動は、まさに、球体用のお掃除ルンバだ。


 サッカーボールを掃除する専用の小型円盤掃除機にも見える。

 小さい帽子にも見える。

 その円盤頭部から小さいパラボラアンテナを出した。

 すると、パラボラアンテナと独鈷魔槍の先端から出た魔力の粒子が宙空で衝突。


 宙空で金属の加工でもしているのか?

 というぐらいに、バチバチとした派手な火花が散った。

 そんな火花を生む独鈷魔槍を持つチューブを動かすガードナーマリオルス。


 独鈷魔槍の先端から迸るエネルギー火花を使い宇宙文明の文字と数値を宙に描く。


 更に、自分の姿を描く?

 小さい自分の分身? 

 ガードナーマリオルスは兄弟が欲しいのか?

 それとも、仲間の魔機械が大量にいるってことを示しているのだろうか。

 石碑に描かれた絵にも感じたが……。

 しかし、小さい独鈷魔槍を筆代わりに利用するとは面白い。

 同時に独鈷魔槍は小さいから銀色の爪楊枝にも見えてしまう。


 小さい宇宙画家のガードナーマリオルスってか?


「ングゥゥィィ、ソレ、喰エル?」

「ピピピ――」


 動揺したアクセルマギナは、機械音を鳴らす。

 銀河騎士専用簡易ブリーザーも浮かぶ。

 コムリンクと簡易偏向シールド発生装置、などのアイテムも乱雑に浮かんでいた。

 アイテムボックスに入っていたアイコン類が、逆さま状態で乱雑に浮かんでは消えてをくり返す。


 続いて、将棋盤のようなホログラム投影装置も出現。


「ングゥゥィィ、イッパイ」


 ハルホンクの声が響くとアクセルマギナの動揺が激しくなった。

 汗のような油が表面を伝う。


 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルも浮かぶ。

 その多面球体クリスタルが点滅しつつ魔線を放つ。

 魔線は将棋盤と似たホログラム投影装置に伸びた。


 魔線は二体のフィギュアと付着。


 二つの魔線が繋がるホログラム投影装置の上では、多種多様のフィギュアたちが躍動。

 ガードナーマリオルスの周囲で『ドラゴ・リリック』のゲームが始まった。


 自動的に始まったが、これもキルベイン・ウォーカーが愛用した『ドラゴ・リリック』の性能というか能力というかスペックなんだろうか。


 単にアクセルマギナが混乱しただけか。


 躍動する多種多様のフィギュアの怪獣と戦士たちはリアルだ。

 将棋盤のようなホログラム投影装置に映る舞台は、何処かの古代遺跡っぽい。

 古代遺跡で戦っているのは、フィギュアで勿論レゴブロック的なミニチュアなんだが、アクセルマギナと同じく精巧で本当に生きているように動く。


 裸眼で現実と遜色のない解像度での立体視のゲームとか。


 凄すぎるし、面白い。


 そして、この立体視ゲームは将棋盤のように範囲が小さいからゲームの映像だと分かるが……。

 もし、巨大な魔機械を用いたホログラム投影装置で、立体視ゲームを実行した場合……。


 現実とゲーム世界の境目が難しくなりそうだ。

 ある意味強力な幻術魔法か。


 あ、だからこそのカレウドスコープ&遺産高神経レガシーハイナーブでもあるわけか。


 今は右目の側面部にある金属素子のアタッチメントをタッチして、カレウドスコープを起動していないが、起動した場合、俺の視力は上がるし、人を縁取ることも可能。

 フレーム視界の解像度と分解能の性能も凄まじい。

 もし、巨大なホログラム投影装置で地上か施設の舞台を偽装する罠があっても、俺の遺産高神経レガシーハイナーブとカレウドスコープがあれば、現実世界とゲームの境目の判別は可能と推測できる。


 少し安心しながら、『ドラゴ・リリック』でフィギュアが戦う様子を見学。

 戦うフィギュアの群れの中に、目立つ存在がある。

 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから出た二つの魔線と繋がっているから丸わかりだったが、その二つの魔線の主を凝視した。


 それは、四つ目のゼン・ゼアゼロさんとアオロ・トルーマーさんだ。


「ご主人様、不思議です!」

「アクセルマギナには色々と機能があるようだ」

「はい……未知。このようなモノは見たことがない。奇術師でもあるのですか?」


 そう聞くヴェハノは戦闘型デバイスの真上で展開されている『ドラゴ・リリック』を凝視している。

 俺が答える前に、


「我の主は摩訶不思議なアイテムも使いこなすのだ」


 ビアが、どや顔気味で答えてくれたから、いいや。


 ヴェハノちゃんに頷く。

 微笑むヴェハノちゃんは頬が朱に染まった。


 さて、そのヴェハノちゃんとイチャコラもいいが……。

 アクセルマギナが動揺する様子も気になったが……やはり将棋盤の上で展開するホログラム投影装置としての『ドラゴ・リリック』のほうが気になる。


 光線銃からビームを撃つ兵士。

 銀河帝国の兵士だろうか。

 ボウキャスターを装備した兵士もいる。

 エネルギーグレネードを<投擲>する兵士も。

 哨戒攻撃艇らしき乗り物からエネルギーを帯びた弾丸が射出。

 怪獣たちを倒しつつ遺跡の奥にあるだろうクリスタルがある方向に進撃している。


 『ドラゴ・リリック』のゲーム設定には色々とあるようだが……。


 これはオーピニングムービー的なノリか?


 今の『ドラゴ・リリック』は古代遺跡を舞台に大小様々な怪獣&銀河帝国の兵士と戦う銀河騎士マスターたちって構図のようだ。


 銀河帝国の兵士は、軍隊の防護服で仮面をかぶっているから素顔は分からない。

 その兵士が撃った光線をブレードで跳ね返す小さいアオロ・トルーマーさんと四つ目のゼン・ゼアゼロさん。あ、黄緑色の半魚人的な怪獣がゼン・ゼアゼロさんに迫る。

 ゼン・ゼアゼロさんは<超能力精神サイキックマインド>で半魚人的な怪獣を吹き飛ばしていた。吹き飛ばされた半魚人的な怪獣はホログラム投影装置の外に出たら消える。

 二人の銀河騎士マスターはクリスタルを守っている?

 あ、見知らぬ宇宙人っぽい女性の銀河騎士か不明だが、青緑色のブレードを持つ存在がいた。

 三つに枝分かれした尻尾的な長い頭部。

 長身で細身の人型種族で衣服には傷が多い。

 ソラリーではなく種族的に蛇人族ラミアのヴェハノに似ている。

 勿論、頭部と腹は違うが……。

 姿は美しい。

 喩えが悪いが、三つの長細い頭部は妖怪ぬらりひょん的といえばいいか。


 その頭部を持つ女性の銀河騎士か、超戦士は、ゼン・ゼアゼロさんとアオロ・トルーマーさんに向けて、片膝を地面に突けてから、何かを必死に伝えていた。


 ……低音の戦闘音楽が壮大さを感じさせる。

 あ、背後にミミズお化けのようなエイリアンクリーチャーが――。

 すかさず、小さいアオロ・トルーマーさんが宙空を回転しながら、女性の銀河騎士か超戦士を超えて、そのクリーチャーの下に飛び込む。

 宙空から着地にかけてブレる速度で振るわれた青緑色のブレードが、クリーチャーを細切れにしていた。


 小さいが、さすがは偉大な銀河騎士マスターだ。

 俺に一千世代にわたって継承されていた深い銀河騎士のコモンセンス智識を見せてくれた。

 あの<星想柳波導フォズニック・ウィーピングウィロウ>は使わないようだ。


 <超翼剣・間燕>を伝授してくれた方は……。

 いないのか。


『コゾウ――<超翼剣・間燕>ヲ伝授シテヤロウ』

『超翼ヲ、延バシ、間断ナク、銀河騎士ヲ、斬ル』


 と、あの時、俺に念話を寄越した黒髪の銀河騎士さん。

 日本人風の銀河騎士さんの幽体と重なって必殺技級の銀河剣術技<超翼剣・間燕>を覚えることができたが……この『ドラゴ・リリック』の中には見当たらない。


 『ドラゴ・リリック』の中で戦う銀河騎士はこの二人と、銀河騎士らしき女性が一人。

 魔線が繋がるのはゼン・ゼアゼロさんとアオロ・トルーマーさんのみ。


 <銀河騎士の絆>を覚えることができた時……。

 ゼン・ゼアゼロさんとアオロ・トルーマーさんが、粒子となって俺の体内に入ったからか?


 そして、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから出た魔線と、その二人の銀河騎士マスターのフィギュアは繋がっている。


 二人は操り人形にも見えるが、俺の<銀河騎士の絆>とフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルと<超能力精神サイキックマインド>が関係していると分かる。


 ということは……。

 <銀河騎士の絆>を活かせば、他の銀河騎士マスターたちと繋がることが可能って説は正しかったことになる。

 そして、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルを通じてキルベイン・ウォーカーが愛用した『ドラゴ・リリック』に、他の銀河騎士マスターを登場させることができるってことなのかな。


 このフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは、範囲内の宇宙にいる銀河騎士となり得るマインドを持つ存在を映し出すレーダー的な役割もあると聞いた。


 かなり重要なアイテム。


 え、と……これを持っていると、全銀河の怪しい組織から狙われるんじゃないか?

 ま、それもいいか。そして、『ドラゴ・リリック』はリアルな宇宙と<超能力精神サイキックマインド>と関係した宇宙規模のすげぇゲームなのか?


 アクセルマギナは、前にこれを愛用していたのはキルベイン・ウォーカーと教えてくれたが。

 愛用していたってことは実は制作者とか?

 銀河版のシキとか、コレクター?

 宇宙海賊、宇宙銀河商人、トラック野郎に、復活した頭が禿げている渋い艦長もいるのかもしれない。


 俺以外にも選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス的な、銀河騎士も存在するのかも知れない。


 そして、これらの重要なアイテム類を出したアクセルマギナは、絶賛混乱中。 

 なんでも喰いそうなハルホンクを誤魔化そうとしている?


「アクセルマギナ、動揺しないでも大丈夫だ。とりあえず六腕のカイと似た人形を取るから落ち着け」

「……ハイ」


 俺がそう告げるとアクセルマギナは双眸を目まぐるしく回転。

 アナグラム的な暗号の意味がありそうな不可思議な記号とズレていた数値を1.618に戻していた。


 ――早速、立体視から現実に取り出した六腕のカイと似た人形。


 ハルホンクは気ままに『あーん』と金属の牙が目立つ口を広げている。

 そんな竜頭金属甲ハルホンクちゃんの口に、その人形を押し当てた。


 瞬時にハルホンクは六腕のカイと似た人形を吸い込んだ。


「――ングゥゥィィ? ヘンナ、アジ、オイシイ、マリョク、スコシ、ゾォイ」


 人形は、魔力は少なくて変な味だったが、美味しいのか。

 そして、金属の口から、ポコッと音を出して、六腕のカイの人形を出したハルホンク。


 カイの顔らしきモノはあまり変化していないが……微妙に人形の衣装がハルホンクっぽく面白く変化していた。

 この辺りの変化は覇王ハルホンクという称号的な力を持つ故の、芸術の拘りなのか?


 そして、皇帝カイの人形を喰わせておいて、なんだが……。

 このカイと似た人形が今後役に立つことがあるのか疑問だ。

 グルドン帝国には、〝獣人に加味する者は人成らず者〟といった教えがあるように、皇帝カイとは考えが合いそうにもないから本格的にタイマン勝負となった時に役に立つかな?


 まぁ、東に行くのはハートミットがハーミットの名で活躍中の大海賊関係だな。

 ローデリア海と群島諸国サザナミ

 マジマーン、レイ・ジャック、姫との関係もある。

 陸の東は、ママニのことで何かあれば別だが、行くことはないだろう。


 今はハルホンクの腹の足しになればいい。


 次にハルホンクに喰わせるアイテムは……。

 『ドラゴ・リリック』内で暴れている牛と白熊に似た怪物のフィギュアを取れるかな?


 と、<超能力精神サイキックマインド>を意識しながら指を伸ばす――と、最初は怪物を素通りした指だったが――掴むことができた。

 『ドラゴ・リリック』内の戦闘で行き交うビームも、俺の指を通過していたが無事に怪物を掴むことができた。


「ご主人様、そのもう一つの異世界に触れられるのですね」


 ――面白い。怪物フィギュアを掴んだままホログラム投影装置の範囲から手を出した。

 取り出した怪物フィギュアは『ドラゴ・リリック』内では動いていたが、外に出すと動きを止めた。


 ヴィーネに頷きつつ、


「……あぁ、意識に力が必要だが」

『妾には分からぬ!』

「本当に不思議です……」


 ジョディの言葉に頷く。

 すると、『ドラゴ・リリック』内の牛白熊の怪物は消えた。


 取り出すとゲーム内のキャラクターは無くなるのか。

 試しに、掴んだ牛白熊のフィギュアを『ドラゴ・リリック』内に戻したらどうなるかな――。


 ――お? ゲーム内に復活した。

 んで、また牛白熊の怪物を取り出すと、『ドラゴ・リリック』内から牛白熊の怪物は消えた。

 試しに、牛白熊の怪物フィギュアの出し入れを早くする悪戯をくり返す。


 と、ゲーム内の速度が急激に変化したりして、白線があちこちに入り、雑音が増えてバグってきた。


「――るるうるがふぁげr亜空間リレーが……」


 アクセルマギナから変な声が。

 双眸が更にオカシクなって、あそこから変な汁が垂れたのか、太股から膝に液体が……。

 太股とスカートがジョビジョバに濡れてしまっていた。


 地肌とパンティが浮かぶ。

 少し、そそられるが紳士を貫く。


 ――うん、止めておこう。


 フィギュアの牛白熊の怪物を『ドラゴ・リリック』のゲーム内から取り出す。


「ハルホンク、次はこれだ」


 この牛白熊のフィギュアをハルホンクの広げた口に当てる――ハルホンクは一瞬で、牛白熊の怪物フィギュアを取り込んだ。


「ングゥゥィィ!!! 美味シィ! マリョク! ゾォイ」

「今の牛白熊の怪物を出せるか?」

「――ングゥゥィィ!」


 と竜頭金属甲ハルホンクは頭部の形を、牛白熊の怪物に変化させた。


「わぁぁ」

「ご主人様が白色の装備に変身を! 洗練された白銀の獣を連想させる装備に見えますが、その戦闘型デバイスには凄まじい性能があるようですね」

「我も欲しいぞ、格好いい装備である!」

「わたしの聖ギルド連盟風の衣装と同じ色合いです!!」


 皆が興奮して叫ぶ。


 魔竜王の蒼眼以外は、すべてが変わって、肩の一部がポールショルダー風の防具と化した。

 肩と脇腹の一部の衣装も変化。

 白い金属繊維の防御層と噴出孔を備えた溝がある骨と鋼を合成したような鎧が新しく装着されている。

 表面に牛白熊のマークがある。

 ベルトを含めると様変わりか。


『……力と魔力を得て素晴らしいですが、余計に温かくなりました……』

『ごめん、ヘルメ。これは防寒用装備ってことか』

『はい、気にせずに』


 熱さに敏感なヘルメだから気を付けたいが。

 牛白熊の怪物の能力は使えるな。


「ハルホンク、元に戻っていいぞ」

「ングゥゥィィ」


 一瞬で、牛白熊の頭部の金属甲から、肩の竜頭装甲ハルホンクに戻った。


「元に、でも、素敵……」

「うふ♪」


 俺の股間を凝視していたヴィーネとジョディだ。

 すると、


「ノド、カワイタ、ゾォイ、ノミモノ、ホシイ」


 ノドがあるようだ。


「魔力でいいか?」

「ングゥゥィィ、主、ノ、マリョク、ホシイ――」

「分かった、喰え、もとい、飲め――」


 ヘルメに魔力をあげるように防護服のハルホンクに魔力を通す――。

 肩の竜頭装甲ハルホンクが煌めいた。


「ングゥゥィィ、ウマイィィ、ツギ、ツギ、ウマィィノ、喰ワセロォ、ゾォイ」

「まだ足らないのか」


 と、アクセルマギナちゃんを見る。

 さっきの混沌から立ち直ったようだが、


「ピピピ……」


 アクセルマギナはまた動揺したようだ。

 機械音をまた響かせた。 

 アクセルマギナは双眸の回転が激しくなる。


 命の危険を感じているらしい。


「ングゥゥィィ、ソノ、ウデワ、クワナイ、主ィィ、ツギィィ、喰ワセロォ、ゾォイ」

「ワタシ、ヘイキ、アルカ?」


 ははは、面白いな、混乱したアクセルマギナ。

 なまった中国人風&ハルホンク風に喋るアクセルマギナだ。


 その混乱中のアクセルマギナには答えず、そのアクセルマギナの周囲に浮かぶアイテム類を見る。『ドラゴ・リリック』内から取り出すのは止めておこう。


 夢追い袋も詳細なアイコンの一つとして立体表示されている。


 他にも……。

 魔王の楽譜第三章。

 双子石。

 閻魔の奇岩。


 などのアイコンは、どれも小さいがリアルに詳細に描かれてある。

 改めて、アクセルマギナの凄さと……。

 これを造り上げたフーク・カレウド博士と開発チームを尊敬する。


 ガードナーマリオルスが映像として受信していただろうフーク・カレウド博士が襲われたシーンを思い出す。

 あの爆破された研究室には最新鋭の魔機械があったはずだ。

 そして、フーク・カレウド博士がいた部屋が爆発する前に研究室の分厚い壁を貫いた赤いブレード。

 あの赤いブレードの持ち主は銀河帝国側の銀河騎士マスターか?


 銀河帝国のセーモス卿。

 ハートミットが喋っていた名を、同時に想起する。

 ま、赤いブレードってだけで結びつけるのもな……。


 俺の血魔剣も赤いブレードみたいなもんだし。


 と、思考すると、アクセルマギナは混乱から立ち直ったようだ。


 いつもの宇宙的な背景を取り戻す。

 スカートを整える仕草をしてから、俺をキッと睨むと、


「エロマインドは禁止事項です! 黄金比バランスを崩さないように、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス!」

「なんで、エロマインドを知る!」 

「ふふ」


 ハートマークの演出がある、ウィンクを繰り出しては、笑顔が可愛いアクセルマギナ。


 次第に、アイコン類が整理整頓された。

 将棋盤と似たホログラム投影装置の上で展開していた『ドラゴ・リリック』も消えている。

 アクセルマギナの足下に転がる星々の残骸をガードナーマリオルスがチューブホースに吸い込んで掃除していた。


 細かい演出がついていて面白い。


「――んじゃ、夢追い袋から喰わせるアイテムを出すか。そういえば、ビア。もう一つ蛇人族ラミアに関するアイテムがあったよな。それも出しとこう。姥蛇ジィルの秘宝と違って、呪いは別段なかったはずだ」

「おおぉ、あれか! ホルテルマの蛇騎士長の封窯! リザードマンの首なら無数にある!」


 アイテム鑑定士のキズユル爺は……。

 東方の蛇人族ラミアに伝わる秘境スポーローポクロンの滝壺に少し漬けたあと、

 リザードマンの首を十供えれば……。

 ホルテルマ・ギヴィンカゲレレウ・トップルーン・スポーローポクロンという名の伝説の蛇騎士長が解放されるとか言っていた。


「あ、姥蛇ジィルが異様すぎて忘れていました」


 ヴィーネがそう発言。

 俺も頷いた。

 ある意味、姥蛇ジィルの呪いが強烈すぎた面もある。


「ホルテルマ・ギヴィンカゲレレウ・トップルーン・スポーローポクロン! スポーローポクロンの名からして、我の祖先だと思う。決闘は我が?」


 長い名前を正確に覚えているビアだ。

 蛇人族ラミアのスポーローポクロンか。

 ストローではなく、ちゃんと覚えているあたり、ビアは記憶力がいいのかもしれない。

 あ、しかし、決闘は、


「決闘は俺だろう?」

「ご主人様」

「主……」


 ヴィーネとビアは決闘をやりたそうな反応を寄越すが、俺も武闘派。


「ま、とりあえず、滝坪への案内はママニと合流してからだ。案内はビアに任せるとして、他のアイテムをハルホンクに喰わせるから、あとにしよう。呪いの品を火口に捨てるのもあとだ」

「承知」


 さて、夢追い袋の中身は……。


 ソグ・ミレグの体液はクナにあげた。

 荒神ソゼンの眼球もクナ。

 怪人ガイソルの肉もクナ。

 外魔都市の秘密はツアンと少しだけ外魔都市リンダバームの話をしたが、後々だ。


 紋章理派の器雲術書と魔導札・雷神ラ・ドオラは、クナとルマルディ&アルルカンの把神書に預けた形。


 だから、ハルホンクに喰わせるアイテムの候補は……。


 紫と黒の法衣のミスランの法衣。

 デュラートの秘剣。

 コツェンツアの魔槍。

 デルカウザーの魔除けアミュレット

 暁の墓碑の密使ア・ラオ・クー。

 髑髏の指輪。

 茨の冠。

 センティアの手。


 この八つかな。

 センティアの手は喰わせるってより、俺が試すことになりそうだが。


 それと、夢追い袋にないが……。

 ヴェロニカがアドゥムブラリに寄生させた紅月の傀儡兵を造った時の衣装も喰わせないと。


 月のマークと漆黒が基調の衣服とは、また違う。

 宵闇世界を覆う【残骸の月】のデザインでも良かったが、イメージ的に紅色を基調とした【天凜の月】と【血月布武】に【血星海月連盟】的な新衣裳もあるようだ。


 ま、全部ハルホンクに喰わせるか、ハルホンクの意識が、どの程度持つのか、眠ってすぐに目覚めるのか分からないが。


 そして、火口に投げ込む予定の姥蛇ジィルをハルホンクに喰わせたら……。

 肩の竜頭金属甲ハルホンクか、防護服に巨大な乳房三つと女性器が誕生?


 怖い物見たさなノリで、喰わせて反応を見たいのもあるが……。

 これは現実だ……時間は戻せない。


 止めておこう。

 しかも、ハルホンクは俺と合体しているわけで……乳房から麻薬なんて生み出したくないし、野郎な俺が巨大な女性器を獲得なんてもってのほかだ。

 そして、巨大なチンコを持つオークとゴブリンが群がってくるのは怖すぎる。

 群がるどころか刺さったままとかになるかも知れないとか悪夢すぎる。


 首筋の<夢闇祝>どころじゃねぇ。


 姥蛇ジィルの秘宝は絶対に!

 火口へと捨てる! 絶対にだ!

 正直、地下を放浪して遭遇したグランバや魔竜王にゼレナードと対峙した時より、恐怖を感じた。


「……ご主人様?」

「あなた様……」

「……主、珍しく息を荒くしているが、どうしたのだ?」

「……」


 ビアが持つガスノンドロロクンの剣を巻いていた黒い龍は柄頭に収斂。


「……シュウヤ様」

「気にするな……アイテムを選ぶことに慎重になっただけだ。皆、ちょい休憩な、ママニの威力偵察に協力していいぞ」

「ンン」


 餌を食い終わった相棒も見上げてきた。

 頭部を傾げ、『どうしたにゃ?』という顔だ。


「ご主人様の様子が、オカシイ。ですので、ここでしっかりと見ています」

「我もだ。主の双眸が、そこの小さい女と同じく蠢いて、変な汗を出していた。珍しい」

「あ、あの、わたしも」


 遠慮気味なヴェハノが可愛い。

 俺が笑みを意識すると、また、ぽぁぁと頬を赤く染めるヴェハノちゃん。


 細身の蛇人族ラミア

 スタイルがいいし尻尾で、その体を悩ましく隠して恥ずかしがる仕草もいい。


 すると、


「――ふん! 撤回だ。主、さっさと、その覇王ハルホンクに何か喰わせろ」


 嫉妬したビアも可愛い。

 鼻息を荒くしつつ長い舌を伸ばしては、早口で語る。


 んだが、少し安心した。


 視線を夢追い袋に戻す。

 無魔の手袋は、出さない。

 ……姥蛇ジィルの秘宝を触る時だけだ。

 んじゃ、まずは紫と黒の法衣を出して――。


「これを喰え――」


 竜頭金属甲ハルホンクの口にミスランの法衣を押し当てると、瞬く間に、ミスランの法衣を吸い込んだハルホンク。


 竜頭金属甲ハルホンクの金属の表面が輝く。

 紫と黒の魔力が行き交った。


「ングゥゥィィ、ウマイ、ゾォイ」


 素材に含まれた魔力の質が高かったようだ。

 ハルホンクの声の質が先ほどとは違う。


 シャドウストライクを超える美味しさなのか?


「ミスランの法衣を展開できるか?」

「――ングゥゥィィ」


 俺は一瞬で素っ裸。

 同時に肩の竜頭金属甲ハルホンクから瞬く間に、ミスランの法衣が展開。


「おおお」

『魔力が上がりました!』

「――ご主人様が、一流の魔術師に!」

「わぁ……凄い、一気に雰囲気が変わりました」

「ンン、にゃお~」

「【九紫院】に所属していた者が身につける法衣らしいが……この格好ならエルンストの魔法都市でも違和感はないかもな」


 見た目が変わると、魔法使いの気分となった。

 このまま、後衛の魔法使いとして一流を――。


「にゃご!」


 と、相棒からツッコミが来たから槍使いを基本として浮気はあまりしない。


「ふふ、先を見据えて、クナの転移陣のことを考えて、ハルホンクに喰わせたのですね」

「たまたま、だ」

「ングゥゥィィ、タマタマ、クワナイ」

「ハルホンク、冗談でも、そういう変なことを喋るな」

「――ングゥゥィィ」


 ハルホンクの声が嗤った感じだった。


「あはは」

「ふふ」

「はは」


 皆が笑う。

 が、この場で金玉を持つ男は俺だけか!?

 ……少し股間から寒気がしたが、相棒の荒い息が掛かっているだけだ。


「ンン、にゃ」


 と、普通に鳴いて上下の歯牙で音を「カチカチ」鳴らす黒豹ロロさん。

 ハルホンクの真似か?


 ……ふぅ。


 真顔に戻しつつ夢追い袋からデュラートの秘剣を出した。


『ぬぬぬ、秘剣とな!? ライバルか!?』


 沙が反応。

 まぁ、魔剣の類いで、交渉とかあったからな。


 デュラートの秘剣は反りが高い長剣。


 銀製に近い色合いで、見た目は美しい。

 刃文は胡蝶蘭? 柄のグリップは細い。


 模様も花柄だ……指を引っ掛けるのか不明だが……。

 窪みの仕掛けもある。


 剣を腕に差し込むとか、同化とかあったはず。

 危険な部類かもな。魔力は凄まじい。


「主、その美しい剣を喰わせるのか?」

「……デュラートの秘剣。まだ喰わせるかは、決めていない。魔力を込めれば、この剣と交渉が可能だったはず」


 キズユル爺は……。


 『この反りが高い長剣は階級は不明。強い反発の力を宿している……名はデュラートの秘剣。一見は魔界製じゃが、魔界八賢師ランウェンや魔界八賢師セデルグオ・セイルではない。作り手は不明じゃ。秘剣師デュラートが長年、片手に差し込んで、無数の戦場やら戦いで秘剣として使っていたところから付いた名のようじゃが……使い手が柄に魔力を込めると秘剣と交渉できるようじゃな。秘剣に認められれば腕と同化できるようじゃぞ……不気味じゃ。そして、長年、この剣と片腕を使い続け、修業を重ねれば、秘剣流の<秘剣・烈羽>から<陰・鳴秘>を覚えられるとある。まだまだあるようじゃが、秘密が多い剣じゃ!』


 と鑑定してくれた。


「では、交渉でしょうか」


 ヴィーネが聞いてきた。

 サラテンのような知能があるアイテムなら使えるかもしれないが……。


「そうだな。魔力を通してみる」

「はい」


 魔力をデュラートの秘剣に通す。

 と、銀色の剣の表面に薄い青紫色と、髪の毛的な紋様と、一緒に俺の魔力が剣に浸透。


 剣柄から薄らと魔界の文字が浮かぶ。

 魔・流・愛の三文字?


「ま、る、あ?」


 ――と発言した刹那――。

 デュラートの秘剣の柄から女性の髪の毛がドバッと出た。

 髪の毛は、俺の手と甲に絡む。


 ぐるぐると巻き付いてきた。

 同時に、俺の魔力を吸い取る、女性の髪。

 血も流してみたが、髪の毛は蒸発しないどころか、血も少し吸い取ると、蒸気のような赤い靄を発生させた。


 驚きだ。

 しかし、これは武器の能力か?


「にゃご?」


 相棒も驚いて、背中の毛を逆立てる。


『――閣下! 禍々しい魔力。髪の毛といい呪い系の動きかと、要注意。<精霊珠想>か、<仙丹法・鯰想>を用いますか?』


 と強気なヘルメだが、弱っている大事なヘルメだ。


『必要ない。ヘルメは安静にしててくれ。それに、俺の<血魔力>を吸い取っても平気な髪の毛だぞ?』

『はい、お優しい閣下。今は、我慢しますが……髪の持ち主は、光に耐性がある魔界の力を持つ存在。闇の精霊ちゃんは、閣下の光を受けて退散しつつ蒸発しましたが、その髪の毛には、別個の力が働いているようです』

『別個か。助言をありがとう』

『はい!』


 火口の気候で弱まってしまったヘルメだが、さすがは常闇の水精霊ヘルメだ。

 瞬時の分析は頼りになる。


「ご主人様の手に絡む女性の髪とは……」

「主!」

「あなた様。まるあ・・・という名と、魔界の武器のデュラートの秘剣には、逸話がありそうですね」

「……あるだろう。発言したら髪の毛が出たんだからな。見ての通り、髪の毛が、俺の手を覆ってデュラートの秘剣の柄に固定された。俺の<血魔力>を吸い取っても平気な髪の毛だ。固定グリップという武器としての機能かもしれない。ま、とりあえず、デュラートの秘剣にもう一度魔力を通してみる。展開次第では、戦うことになるかもしれないから、皆、準備をしておけ」

「にゃおおお」

「「はい」」


 少し多めに魔力を通すか――。

 その瞬間、髪の毛は柄に戻るどころか――。

 デュラートの秘剣の柄が破裂したような音を立てて柄が壊れた。


「ガルルルゥ――」


 相棒は獣声を発した。

 そして、背後で後退したヴェハノの前に移動した。

 良い子だ、この中で守るべき存在だと、すぐに理解する辺りは、やはり神獣ロロディーヌ。


 その僅かな間にも、デュラートの秘剣の壊れた柄から髪の毛が溢れ出る。

 そして、俺の手から自然と離れたデュラートの秘剣。


 飛翔して距離を取る。

 と、静止した。魔力の放出よりも柄から溢れ出ていく髪の毛のほうが大量で、異質すぎる。

 すると、銀色の剣を髪の毛が包む。


 パッと黒光りする閃光を生んだ。 

 黒い閃光は女性を模る。


 髪が長い異質な女性が現れた。

 女性は、背後に浮かぶデュラートの秘剣の柄から出ている血が付着した髪の毛と繋がっている。


 その女性は髪の毛が垂れて顔が見えない。

 薄紫色のワンピースを着ているし、足もあるから幽霊ってわけではないと思うが。

 だが、片腕の肘から下が無かった。

 肘の付け根部分から血が流れて骨の一部と髪の毛が大量に出ながら絡んでいた。


 その髪の毛は、背後のデュラートの秘剣の柄があったところから出続けている髪の毛と繋がっている。

 不気味だ……。


 まさに、ジャパニーズホラーに登場するような女性だ。

 顔は髪の毛が覆って見えないし。


 その細身の女性が頭部を左右に揺らしつつ、


「……あちきの大切な、デュラートは、どこぞ……ここはどこぞ?」


 と、喋った。

 あちきに、どこぞって、なまっているが……。


 ここは惑星セラ。

 と、いっても理解してくれなさそうだ。


 しかし、キズユル爺の鑑定に、女性が棲むとはなかった。

 ……これが秘剣としての秘密なのか?


 あ、キズユル爺の言葉に……。

 『秘剣師デュラートが長年、片手に差し込んで、無数の戦場やら戦いで秘剣として使っていたところから付いた名のようじゃが……』とあった。


 片手に差し込んで使う仕込みの秘剣。 

 この女性は片腕で、その片腕から出た骨と髪の毛は、デュラートの秘剣の柄と繋がっている。


 デュラートの秘剣と交渉とは、この片腕の女性と交渉しろってことなのか?


 ――竜頭金属甲ハルホンクの顎の牙が重なり音が鳴る。


「ングゥゥィィ、オマエ、主のマリョク、喰ッタ、何者ダ……」


 ハルホンクこそ何者だ。

 と、ツッコミを入れたいが、まぁ、それを言ったら身も蓋もない。


 まずは話をしようか。


「デュラートさんは、今、この場にいません。俺の名はシュウヤ。デュラートの秘剣というアイテムに魔力を通して、まるあと、言葉を発したら、髪の毛が出て、あなたが現れた次第です。あ、ここは、東マハハイム地方で、火山が連なる場所。リザードマンが無数いる危険地帯です」

「……シュウヤ? しらぬ、分からぬ……デュラートを返せ」


 聞き耳を持たないヤヴァい系か?


「……デュラートさんは、いないと言いましたが。そして、そのデュラートさんとは、どういう関係なのですか? あなたの名は、魔流愛(まるあ)でいいんでしょうか」

「あっぁぁああ――」


 と、いきなり髪の毛を飛ばしてきた。

 名前を聞いて怒った?


 すぐに<超能力精神サイキックマインド>で髪の毛を上方に吹き飛ばす。

 上方に散った髪の毛は紫色の魔力を発して霧散。


 デュラートの秘剣の前に立つ女性は髪の毛を寄越し続ける――。

 そして、ヴィーネとジョディが――。


「許せん――」

「万死、処断します――」


 二人は交差しながら髪の毛を切断しまくった。


「二人とも、本体は傷をつけるなよ」

「――はい」

「大丈夫です、しかし、あなたさま、このようなモノは――」


 と、サージュに絡む勢いのある髪の毛を、血を纏うヴィーネのガドリセスが斬る。

 ジョディはすぐに身を翻しつつサージュを振るって、ヴィーネに迫った髪の毛を両断した。


『器よ、妾に任せろ。あの糞生意気な髪の毛女を貫く』

『いや、交渉を続ける』

『ふん』


 剣のスキルを獲得できる可能性があるからな。

 できる限りは挑戦しようか。

 切羽詰まる状況でもない。余裕があるからこそだが……。


 とはいうが、女性が髪の毛を出し続けている状況。

 すると、ビアが、俺にアイコンタクト。


「……主、アレを使うぞ。その隙に挑戦するのだ」


 なるほど。

 ビア、いいセンスだ。


「おう、タイミングは任せた、アレを使ったら即座に退け、ヴィーネとジョディもビアが出たら退け」

「「はい」」


 その間に、魔闘術を全開。

 血魔力<血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。


 ビアがアイコンタクト。

 俺もアイコンタクト。


 ――ビアは前進する。

 素早くヴィーネとジョディは退いた。


「主――<麻痺蛇眼>」


 髪の毛の女は動きを止めた。

 髪の毛ごと体が弛緩して、背後のデュラートの秘剣ごと髪の毛の女は突っ伏すように倒れた。

 <麻痺蛇眼>を放ったビアと交代するように前に出た俺は突貫――。

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を発動。

 足下から出た夕闇の世界が狭い範囲を侵食する――。

 倒れた女の肘がない片方の腕を掴んだ瞬間――。

 <血道第四・開門>を意識。

 <光魔の王笏>に<霊血の泉>と<霊呪網鎖>をトリプル発動――。

 俺の掌から血を帯びた光鎖群が生まれ出る。

 光糸か、触手か、血と光を帯びた鎖の群れ――。

 それら、小さい光の群れは、血のルッシーが踊る妖精の産毛と化す。

 仄かな蛍光を発したルッシーを伴う豆電球の群れが――。

 新たな宿主を探すように女の肘から出ている髪の毛を侵食。


 デュラートの秘剣の柄にも、光を帯びた鎖の群れは、融けるように侵入。

 前と同じく……。

 暗夜に灯を得たような不安から安心へ移り変わる不思議な感覚を得た瞬間――。


 血と光粒子の鎖の触手たちを通じて女とデュラートの秘剣に魔力を吸い取られた。


 魔力を仙魔術以上に消費した。


 突っ伏していた女性の片腕の肘から出た骨の肘頭と、筋肉の肘筋と腕橈骨筋から血と骨と髪の毛が無数に誕生しては、その血と骨と髪の毛は絡み合いながらデュラートの秘剣の破損が目立つ柄の中央部へと絡まった。


 それらの絡まった血と骨と髪の毛は、デュラートの秘剣を引っ張るように、ゆらゆらとゆっくりと片腕に収斂。


 半分しかない腕に引き戻ったデュラートの秘剣。

 壊れた柄の外枠は分離し、宙に浮かぶ。


 女の腕の肘から出た骨の肘頭と筋肉の肘筋と腕橈骨筋は、俺の<霊血の泉>と<霊呪網鎖>が加わって再生速度が速まった。

 そうして、デュラートの秘剣と、その半分の腕は合体。肘の骨は、刀なら、なかご、と呼ぶ部位だ。人骨の一部は、肉と皮が再生せず露出中。

 その露出した人骨の表面には、髪の毛で、魔流愛と記されてある。


 そして、<麻痺蛇眼>が解けたのか。

 女性、名はたぶんマルアは、髪の毛が俺の<霊血の泉>と<霊呪網鎖>を浴びてオールバックになっていた。


 マルアはかなりの美人さんだ。


 片方の瞳には刀傷を受けた痕がある。

 隻眼の女性だったのか。

 そのマルアが、


「あぁぁぁ、あなたが、デュラートなの?」


 そう叫びつつ聞いてきた。

 刹那、腕の一部と女性の胸にルシヴァルの紋章樹が刻まれる。


 ※ピコーン※<光魔ノ秘剣・マルア>※スキル獲得※

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