六百四十四話 細身の蛇人族が扱う流星錘

 イモリザは俺の首筋をペロッと舐めてから右腕に移動。

 しかし、アクセルマギナと格闘。黄金芋虫ゴールドセキュリオンの体から、黄金の粒子を吐き出していくが、アクセルマギナは立体映像だ。

 意味がない。

 それは放っておくとして、下の蛇人族ラミアを助けるにしても、懸念がある。


「――ビア、あの細身の蛇人族ラミアの戦いに乱入して平気か?」

蛇人族ラミアの戦士の信念に傷を付けることになるかもしれぬ」


 やはり、部族の誇りはあるか。


「誇りと信念を持つ蛇人族ラミアの文化か」

「うむ。ソゾクバ区とソドクバ区とファルドス区の出身ならば、ありえる……」


 ビアはエボビア区出身だった。

 蛇人族ラミア虎獣人ラゼールとはまた違う文化。

 ……なら戦っている蛇人族ラミアを尊重して戦いを少し見るか?


 んだが、俺にも俺の、〝小さなジャスティス〟がある。

 助ける準備だけはしておこうか――と、下を見た。


 細身の蛇人族ラミアは巨大石像の足下の間を行き来して戦う。

 背後の小さい祭壇を守っている?


『ぬぬぬ、血の匂いだけではない、心がザワつく……』


 サラテンの沙が動揺?


 沙は、祭壇に反応したのか?

 何か大切な物があるんだろうか。 


 そんな細身の蛇人族ラミアを囲うリザードマンの数は増えていく。


 リザードマンの頭部は鰐。

 体格はゴブリンの大型っぽい。


 細身の蛇人族ラミアは、そのリザードマンに向けて鉄球を備えた柄を振るう。

 左手が握る蒼色の流星錘。

 右手が握る黄色の流星錘。

 

 モーニングスター系の武器か。

 鉄球の表面に先端が鋭いスパイクが付く。

 スパイク付きの鉄球をぶら下げる鎖は柄頭に吸い込まれるように戻る。

 細身の蛇人族ラミアは、両手を広げて、その片方ずつの流星錘を掲げた。

 柄と柄の間に張った鎖で、リザードマンが繰り出した槍を受け持つ。


 ――流星錘の鎖とリザードマンの槍穂先が衝突し擦れた部位から激しい火花が散った。


 そんな火花散る鎖の中央で組み合わさる二つの鉄球はスパイク同士が腰掛け蟻継ぎに変化して重なり合っていた。

 その巨大な一つの鉄球に火花が当たって眩しい。

 細身の蛇人族ラミアは、そのまま両手が握る流星錘を下げた。

 槍を流星錘の鎖で押さえ込む気か。

 流星錘の鎖が絡んだ槍を握るリザードマンは、鎖の押さえ込みを受けて細身の蛇人族ラミアの懐に飛び込むように突っ伏した直後――細身の蛇人族ラミアは膝蹴り――。

 いや、下腹の鱗蹴りを敢行――。

 前のめりの体勢のリザードマンは頭部に膝蹴りを喰らったように仰け反った。

 と、リザードマンの頭部は真っ二つ。

 細身の蛇人族ラミアの下っ腹から重なった鱗状の刃が飛び出ていた。

 ――シークレットウェポンか?


「ぬぬ? 暗部の技とは……裏ヴェハノ区の一族か?」


 ビアは知っているようだ。暗部か。

 確かに、細身の蛇人族ラミアが着ているのは、黒と紫の忍者装束風。

 その細身の蛇人族ラミアが握る流星錘に魔力が灯る。

 腰掛け蟻継ぎで繋がった鉄球は分離。

 流星錘の柄頭から出た鎖と繋がる二つの鉄球に戻った。

 

 流星錘の鉄球をぶら下げつつ細身の蛇人族ラミアは右側に移動しながら片方の流星錘を振るう――。

 

 流星錘の柄頭と鉄球を繋ぐ鎖がピンと張る――。

 一直線に伸びた鎖の先に付く鉄球は勢いよくリザードマンに向かった。


 ――反応が遅れたリザードマンは頭部に鉄球を喰らう。

 頭部を潰した鉄球は繋がれた鎖に引かれて、血肉を撒き散らしつつ流星錘の柄頭へと鎖ごと引き込まれた。

 

 流星錘の柄頭の鎖と繋がる鉄球はブラブラとぶら下がる。

 今は、やや弛緩した鎖と繋がってブラブラと揺れた鉄球だが、あの柄頭に鎖が引き戻る機動力からしても、鎖の反動を活かせるし、鎖と鉄球は魔力も増減しているから威力があると分かる。


 相棒が触手を収斂させる機動を想起。

 古い掃除機の電源コードを内部に引く機動だ。

 

 要するに、流星錘の柄頭から伸びる鎖は伸縮が可能か。


 そして、蛇腹を活かす歩き方は蛇人族ラミアのビアと似ているが、似ているだけで移動速度は段違いだ。

 重厚なビアとは対極の軽戦士バージョンの蛇人族ラミアが、彼女ということだろう。

 蛇腹の鱗と鱗の溝と鱗の重なり合う鱗の鎧部分がビアと違う?

 さっきの膝染みた鱗状の刃といい、鱗の中に鱗が格納できるようだし、体内の魔力操作と連動した魔闘術系の技術と連動しているようだ。


 そんな体の蛇腹は細くて腰もくびれている。

 細身だがムチムチ感もあるし、少しエロく見えた。

 細身の蛇人族ラミアは、再び、流星錘を握る細い腕を振るう。 

 魔闘術が巧みで細い腕の筋肉が一瞬膨張していた。

 その反対側に送った鉄球をリザードマンに衝突させる。

 リザードマンは巧みに大きな盾で細身の蛇人族ラミアが放った鉄球を防ぐ。


 しかし、重い鉄球の威力は殺せない――。

 

 盾が鉄球の威力に負けて窪む。

 鉄球は歪んだ盾ごとリザードマンの鎧を凹ませて胴体深くまで食い込む。


「ウゲェァァ」


 リザードマンは強烈な悲鳴を上げた。

 苦悶の表情を浮かべつつ体から血を噴出させて倒れる。

 

 刹那、流星錘を華麗に扱う細身の蛇人族ラミアに、剣を持ったリザードマンが斬りかかる。

 細身の蛇人族ラミアは、体勢を低くしながら、その斬り込みを鼻先で避けた。

 忍者服とかぶる鱗鎧を掠めた剣の刃から火花が散る。

 そんな火花ごと吹き飛ばすように細身の蛇人族ラミアは、もう片方の流星錘を斬りかかってきたリザードマンに振るった――流星錘の柄頭と鎖で繋がる鉄球は、リザードマンの剣をへし折ると、その頭部をも破壊。


 その間に盾持ちのリザードマンの胴体を潰した鉄球が片方の流星錘の柄頭に戻った。

 そのまま回転しながら元の石像の間に戻る細身の蛇人族ラミア


 両手に持つ流星錘を構える。

 片方の流星錘から垂れた鉄球から血が滴り落ちていた。

 蛇人族ラミア独特の流星錘を活かす格闘術かな。

 構えがさまになっていて格好いい。


 そんな細身の蛇人族ラミアの横から――。

 巨大シミターを握ったリザードマンが迫る。

 一瞬――<鎖>で助けようと思ったが、余計なお世話だった。

 細身の蛇人族ラミアは冷静に魔闘術を整える。

 蛇の腹の筋肉が一瞬膨張すると、蛇の腹で地面を叩く。

 と、軽業師のような機動力で体を駒のように回転。

 リザードマンが振るった巨大シミターの刃を華麗に避けると、回転しながら長い太い尻尾を鞭のように振るい巨大シミターを扱ったリザードマンの足を払って転倒させた。続いて、細身の蛇人族ラミアは自身の伸びた尻尾を体に巻き寄せるように身を翻しつつ流星錘を振るう。

 

 身を翻した回転力を乗せた流星錘の鉄球が、転んだリザードマンの頭部目掛けて突進し、見事、リザードマンの頭部を派手に捉えた。

 鰐の頭部は大きいから破裂具合が激しい。


「――あの鉄球武器は知らぬが、回転尻尾攻撃は<尻尾連舞>に間違いない!」

「知り合いか?」

「裏ヴェハノ区の一族に知り合いなぞ、おらぬ。が、ヴェハノ区は表も裏も戦争で結果を残してきた一族。そして、あの尻尾攻撃は知っている」


 ビアがそう語ると、シャドウストライクを握る手に力を入れていた。


「あなた様?」


 ジョディは俺を見る。

 そのアイコンタクトの意味は『介入しますか?』の問いだろう。

 俺は『まだだ』と意思を込めて顎を微かに左右に動かした。


 そのジョディの<光魔の銀糸>にぶら下がっているママニも、


蛇人族ラミアは他種族を嫌う傾向が高い。人族と虎獣人ラゼールには奴隷商人も多いですから」


 と、気まずそうに語った。

 ママニとビアは高級戦闘奴隷だったからな。

 そして、俺の見た目は人族だ。

 ジョディの見た目も人族に極めて近い。

 そのジョディも飛翔を続けながら頷く。

 聖ギルド連盟からもらった和風衣裳が似合うジョディ。

 裾から出た<光魔の銀糸>が靡く。

 白色の蛾がジョディの周囲を舞う。


 もう一人のジョディを白色の蛾がぼんやりと作っているようで美しい。

 が、見蕩れる前に、


「――どっちにしろ、危なくなったら助けよう」

「「はい!」」


 皆の笑顔を見てから頷く。

 内心、相棒とヴィーネはまだかな? と考えつつ下を見る。

 

 リザードマンの数は多い――。

 細身の蛇人族ラミアの左右と背後からリザードマンの集団が迫った。

 投げ縄の攻撃を浴びた細身の蛇人族ラミア


 動きが鈍ったところに、背中と脇腹に槍が刺さってしまった。 

 鎧の一部がはだける。

 出血も激しい、鱗の皮膚が捲れて血肉を晒した。


 ダメージを負った細身の蛇人族ラミアは、血を吐きながら咆哮――。

 脇腹に刺さった二つの槍を、細い肘と、流星錘の柄頭の丸い部位を衝突させてへし折る。

 細身の蛇人族ラミアは凄まじい形相を浮かべながら背中に槍が刺さったままの細い体を回す。


 背後で、その槍を握るリザードマンは揺さぶられた。

 即座に細身の蛇人族ラミアは長い尻尾でリザードマンの足を払い転倒させると、続けて、片手に握る流星錘を振るって鉄球を転んだリザードマンの頭部に向かわせた。


 鉄球でリザードマンの頭部を破壊。

 細身の蛇人族ラミアは背中に槍が刺さったまま体を回転。

 背中に刺さった槍の柄を棍棒代わりに、右側から迫ったリザードマンへと、その槍の柄を衝突させた。

 ドッとした音が響いたように、リザードマンを柄で吹き飛ばすことに成功。

 

 しかし、細身の蛇人族ラミアの背中に刺さっていた槍の傷は拡大してしまう。

 ビアのような筋肉の鎧はないと思うが……。

 細身の蛇人族ラミアは構わないようだ。

 血濡れた背中は痛々しい。

 龍のような入れ墨の魔力が強まっている。

 回復力は高いようだが、<麻痺蛇眼>的な能力はないようだ。


「あの背中の痣は! 秘境に棲まうガスノンドロロクン一族か?」

「……あの蛇人族ラミアの一族を見たことがあるのか」

「噂だけだ。大蛇龍ガスノンドロロクンを信奉する裏ヴェハノ区の暗殺集団。あの龍の入れ墨、ガスノンドロロクンの一族に違いない」

「ほぅ、そのガスなんたら一族の蛇人族ラミアに加勢しようか」

「承知――キショエエエエエエエエ!」


 ――ビアは吼えた。

 ビアは蛇人族ラミアとしての巨体の体に絡むジョディの<光魔の銀糸>を強引に剥がすように<血魔力>を体に展開していた。


「あぅ! ビア、今、離します」


 ジョディが慌てて<光魔の銀糸>を解除。

 すると、リザードマンを含めて、流星錘を持つ細身の蛇人族ラミアを俺たちを見上げる。


 細身の蛇人族ラミアは宙に浮かぶ俺たちという異質な存在を見て驚愕。


 細身の蛇人族ラミアの顔は美人さんだ。

 落下中のビアに負けていない。


 そして、胸元は三つのロケットおっぱいらしき形で膨らんでいる。

 細身の蛇人族ラミアは黒っぽい衣装だが――。

 おっぱいロマン派協会会長のぽよよん会の知見から、彼女の乳房の大きさは遠くからでも予想はできた。


 カレウドスコープを用いずとも分かる。

 おっぱいセンサーの眼力も進化していると判断。


 ま、おっぱいを注視するためにカレウドスコープを用いる銀河騎士は、エロマインドを持つ俺以外にいないと思うが……すると、ふと、


 『……実に素晴らしい生きた<超能力精神サイキックマインド>じゃ……深いライトのマインドと深いダークのマインドもある……この黄金比バランス選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの<光闇の奔流>なのじゃな……』


 と、銀河騎士マスターのアオロ・トルーマーさんの思念が脳内に谺する。

 叱られた気分となった。

 が、俺は俺だ。

 俺の黄金比バランスとも言えるエロマインドは変わらない。


 <銀河騎士の絆>の中に棲まう銀河騎士マスターたちの中に、美人さんの銀河騎士の師匠マスターがいるかもだしな……さて――肝心のビアの様子を把握しようか。


 リザードマンの密集地帯に下りたビアは無双状態。


 咆哮しながらシャムシールの黒剣シャドウストライクをド派手に振るった。

 袈裟斬りから逆袈裟斬りで複数のリザードマンを斬り伏せる。

 続いて、長い舌が巻き付くように振り上げたシャドウストライクで、手前のリザードマンの股間から頭部までを下から両断。

 その際に、<血魔力>と稲妻のような魔力がシャドウストライクから迸る――。

 

 迸った魔力粒子の軌跡が――。

 どういう訳か、巨大石像の足下の間にある祭壇に向かった。


 巨大石像の祭壇がビアの魔力を吸い込んだ?

 謎だが、ビアは<蛇薔薇斬り>は用いずか。

 そして、聞いてはないが、ビアは雷属性を持つのか?


 そのビアは大柄だ。着地の制動は俺たちに比べたら重い。

 が、その重戦車、重騎士らしい巨大な尻尾を振るって、周囲に剣の圏を作ると――。


「<麻痺蛇眼>――」

 

 ビアがスキルを発動。

 ビアの挑発で動きを止めていたリザードマンを含め、細身の蛇人族ラミアまで動きを止めた。


 ―― <麻痺蛇眼>の力は凄い。

 ほぼすべてのリザードマンたちが動きを止めた。

 いや、奥のリザードマンは動いている。

 奥のリザードマンは精神力が高い指揮官か?

 <麻痺蛇眼>の影響範囲外か。 

 んだが、素直に、ビアの光魔ルシヴァルの<従者長>としての成長を感じさせる。 


 心強い家族の活躍を見て、嬉しく思った。


 刹那、俺は魔槍杖バルドークを右手に召喚――。

 左手に魔槍グドルルを召喚しながら――。


 ――中級:水属性|氷矢《フリーズアロー》を数十発発動。

 雨霰とリザードマンに降り注ぐ《氷矢フリーズアロー》。


『――閣下の《氷矢フリーズアロー》は、わたしの氷槍アイシクルランサーを超えた速度です!』

『おう』

『このまま、たくさんいる、火の精霊ちゃんを退散させちゃいましょう!』


 いつもより更に小さい妖精のようなヘルメちゃんだ。

 極めて小さい針の先から、ぴゅっぴゅっぴゅっとこれまた小さい粒を出している。


 俺は彼女の思念には応えず、皆に、


「先に行く――」


 そう宣言しつつ<導想魔手>を蹴って宙空を駆けた。

 《氷矢フリーズアロー》で撃ち抜いていないリザードマンたちは左側に多い。

 その左側に向かった――。

 そして、巨大石像の側に近付けば近付くほど、火口が近いと分かる。

 肌がヒリヒリとする熱を感じた。

 ヘルメが嫌がるわけだ――。


 【独立地下火山都市デビルズマウンテン】よりも熱がある――。


 さて、<麻痺蛇眼>で、まだ動きを止めているリザードマンを狙うとしよう。

 ――腰を左に捻りつつ力の魔槍杖バルドークを意識。

 下のリザードマンの頭部に向けて魔槍杖を振り下ろした。

 リザードマンの頭部を嵐雲の穂先が粉砕――。

 その体をも潰すように両断した。


 岩石を喰らう魔竜王の如く地面をも砕く嵐雲の形をした魔槍杖バルドークの穂先――。


 周囲に火を纏った礫が散った。

 ババッババッと音を立てて礫を全身に喰らう――。


 痛いし、熱い!

 火傷を負ったが構わない――。


 着地際の勢いを左腕に載せるイメージで左手で握る魔槍グドルルを振るう。

 オレンジ色の薙刀の穂先の<豪閃>から火が噴いた。

 

 ――本当にオレンジの刃から火柱を伴った女性が生まれ出た。

 火柱の女性は見たことがない。

 

 グドルルの炎の刃となって扇状に展開。


『――うぅぅぅ! 閣下の浮気者!!』

『うぅ、器のモテモテがぁ!』


 小さい常闇の水精霊ヘルメと左手の運命線に棲まうサラテンの沙がイジケタ。


『しらんがな――』


 そう思念を返す間に――。

 火炎烈風となった炎の刃は、近くのリザードマンを輪切り。

 更に背後のリザードマンたちは燃え上がる。

 

「ヒギャァァァァ」

「ゲェ――」


 そんな悲鳴の声はすぐに止む。

 ビアの袈裟斬りからの連続斬りが決まる。

 そして、返した刃の湾曲したシャムシールの黒剣シャドウストライクの一閃が右側のリザードマンに決まる。

 続いて、ビアのフォローに出たママニが<投擲>した大型円盤武器アシュラムが、リザードマンの頭部を潰す。


「な、なんという……」


 そう呟く声は細身の蛇人族ラミア

 が、その声は震えるように止まった。


 ジョディの活躍を見たらそうなる。

 サージュ乱舞だ。

 華麗に歩いたと思ったら、リザードマンの首が飛ぶ。

 続けて、パッと姿が消えたと思ったら左側に転移したジョディは大きな鎌の刃を振るう。

 瞬く魔に複数のリザードマンの胴体が輪切り状態。


 上半身だけとなったリザードマンたちは悲鳴を発しながら四方に飛ぶ。

 血飛沫をあちこちに作りながら前進するジョディ。

 そして、逃げたリザードマンを<光魔の銀糸>で捕まえて押さえると、間合いを一瞬で零とする。

 地面を裂くように振り抜かれたサージュが、リザードマンの下腹部ごと頭部を両断。

 

 他のリザードマン軍団は恐慌状態。

 

「ジョディ、今は追わないでいい」

「はい――」


 ジョディはすぐに飛翔しながら戻ってきた。

 俺は助けた細身の蛇人族ラミアに振り向く。


 交渉……喋ろうとしたが、ビアに任せるか。


 アイコンタクトを受けたビアは蛇の舌を自慢するようにヒュルヒュルと伸ばす。

 そして、縦長の首を上下させてゆっくりと数回頷いた。


 一歩前に出たビア。

 細身の蛇人族ラミアは、後退。

 用心しているんだろう。

 

 そのまま、荒い息遣いで俺たちを見定めるように視線を巡らせていた。

 ビアは『落ち着け』と語るように笑顔を見せて、


「――我の名は、ビア。過去の名はグリヌオク・エヴィロデ・エボビア・スポーローポクロン。そなたの名を聞こう」


 と名乗る。

 細身の蛇人族ラミアはビアを凝視。

 瞳孔が散大しては収縮。驚いていると分かる。


「……わたしの名はドッパパル・アゴロンデ・ヴェハノ・ガスノンドロロクンだ。しかし、スポーローポクロンだと? エボビア区の住民は全滅したはず……」


 言語は蛇人族ラミア語だ。

 名は長すぎるから、ドッパか、ヴェハノにするか。

 

 すると、ビアは頷いて、


「その通り、戦争によって家族が引き裂かれた。我は人族に捕まり、恥を晒しつつも生き延びたのだ」


 その瞬間――。

 ヴェハノこと、細身の蛇人族ラミアは俺を凝視。

 凶悪な殺気を目に込めて睨んできた。

 体から湯気を出すように魔力を放出させる。

 先ほどよりも魔闘術が活性化している? 


 更に、背中からゆらりとした龍の紋様が浮かぶ。

 ――こえぇぇ。

 <麻痺蛇眼>を喰らわせてくるような勢い。

 更に、蛇の腹の一部を硬化させた。

 鎧の一部を変化させる。

 だから、機動力が上がったように見えたのか。

 蛇人族ラミアといっても、やはり、ビアとは違う。


 そのヴェハノは、手に持つ流星錘を握る力が強まった。

 流星錘も魔力が行き交う、特別な武器か。伝説レジェンド級か、ユニーク級か……。

 いや、魔力だけで判断はできない。

 

 神話ミソロジー級もありえるか。


 ……そのヴェハノは唇を震わせながら、


「……だから、グルドン帝国の手先になったのか?」

「勘違いするな。グルドン帝国が、手先のリザードマンをゴミのように潰すのは分かるが、蛇人族ラミアを助けるか? こうして話をするか?」

「悪かった。そこの人族のお方はグルドン帝国の者ではないのだな……」


 そう語るヴェハノは安心するように全身が弛緩する。

 よかった。ビアの説得は成功か。


「……どうも初めまして、名はシュウヤです。助けたことが余計な世話だったら謝ります」


 ヴェハノは武器を腰に差して仕舞うと、両手を広げてから、一礼。

 そして、


「とんでもない。こちらこそ無礼であった。見ず知らずの相手を慮ることのできる武人シュウヤよ。正式に謝罪を申し込む――」


 そう語ると、両手で三つのおっぱいを触って一礼。

 忍者風の装束は破れていた。

 鎖帷子とブラジャーが合体したワンピース下着が包む三つの乳房さんが覗く。

 

 おっぱいさんは、揺れて揺れての、ぽよよん会を起こしていた。

 が、ロケットおっぱいの形は把握はしたが、凝視はしない。

 俺も頭を下げて、礼を返した。


 すぐに、視線を上げてヴェハノさんを見る。

 おっぱい委員会or研究会&おっぱいロマン派協会会長として、ある種の刺激を受けたが……。

 ダイナマイト・ファミリーもといダイナマイティフライングボディアタックができるビアさんのおっぱいを知るから、胸元は凝視せず、美人さんの表情をチェック。


 口元に切り傷があるが、美形だ。


「……そうですか、それでヴェハノさんとお呼びしても?」

「……」


 ヤバ、沈黙しつつ睨みが強まった。

 

 丁寧に接したつもりだったが、さんずけ&名前の勝手な省略だ、マズったか。

 そのまま、鋭い視線でビアを凝視するヴェハノさん。


 ビアは少し前進しながら胸を張る。

 そして、長い蛇のような舌を宙空にシュルルルと伸ばして、


「シュウヤ様は、我の大切な主人である!! そなた、ドッパパル・アゴロンデ・ヴェハノ・ガスノンドロロクンを救った存在でも、あるのだぞ!」


 ドーン!

 といった効果音は鳴らないが、ビアの背後から効果音が鳴ったような印象を抱かせる強烈な声だった。

 細身の蛇人族ラミアのヴェハノさんもびびった。


 体をビクッとさせつつ、


「……わ、分かった」


 と、呟いて、俺をジッと見てから、


「……シュウヤ様。名はヴェハノでいい」

「いいんですか?」

「いい、部族の面子は捨てている。もう蛇人族ラミアの故郷はリザードマンとグルドン帝国に破壊されて失って久しい……リザードマンの首領どもと人族めが……だが、人族とはいえ、わたしの命はシュウヤ様に救われたことに変わりない……この大蛇人族ラミアの石像の足の間に眠る秘宝も守ることができた」


 秘宝か。

 大蛇人族ラミアの石像の間にある祭壇の中にビアの魔力は吸い込まれていたが……。


「その秘宝とは?」


 俺の問いに、ヴェハノは視線を鋭くさせると、


「……なぜ、知りたがる」


 と、訝しんできた。


「我も元々は蛇人族ラミアぞ! 秘宝は大事である。奪うことなどしない!」


 ビアの強烈な言葉で、ビクッとしたヴェハノ。


「……元々?」

「うむ! 光魔ルシヴァルである! 我はその一族の<従者長>であるのだ! 主はその頭領、偉大な光魔ルシヴァルの宗主様であるのだ。人族ではない」

「え?」

「そうだよ。遅れたが、俺は光魔ルシヴァルって種族。見た目は人族だが、ヴァンパイアとのハーフでもある。血を扱うそういう種族ってことだ」

「……ふむ。あれほどの強さを持つ実力者だ。種族も特別なのだな。理解した」

「そこの秘宝のことを教えてくれるかな」

「わたしの一族の秘宝だ。名は大蛇龍ガスノンドロロクンの剣――」


 ヴェハノはそう呟く。


『グヌヌ、器と似た匂いが強まった』

『どこからだ』

『そこのガスなんたらが言った、左の巨大な蛇人族ラミアの石像の下からだ!』

『俺と似た匂い? サラテンが反応するとは魔界の敵か?』

『神界と魔界に関わるような匂いと言えばいいか……妾の神剣の心がザワつく』

『大蛇龍の剣なだけにか?』

『そうだ! ライバルならば滅しよう』


 ツンなサラテンの沙の念話はシャットアウト。


「へぇ、大蛇龍ガスノンドロロクン……」


 舌が絡みそうになったが、がんばった。

 しかし、どんな剣なんだろうか、気になる。

 俺は続けて、


「リザードマンの襲来の原因はその秘宝?」

「どうだろうか。リザードマンはこの辺りに無数に棲息する。わたしは各地を転戦中に、この故郷の近くに戻る形になって、戦い続けていると……一族に伝わる<ガスノンドロロクンの目覚め>が反応した。その反応を追うと、大蛇人族ラミアの石像に着いたのだ。すると、足下に小さい祭壇が誕生した。これは何かある。と、思ったところで、リザードマンが大量に襲来したところをシュウヤ様に救われたのだ……」

「偶然か。助けることができてよかった。で、俺の名はシュウヤでいいから」

「分かった」


 ヴェハノは笑顔を浮かべる。

 蛇人族ラミアでも美形だからいいね。

 すると、デボンチッチが急に周囲に湧く。

 

 ――地響きも鳴る。

 同時に大蛇人族ラミアの石像の足下の地面が蠢いて祭壇が広がった。

 底が円形に窪みつつ面積が広がった。

 中央の地面が盛り上がる。


『――急に水の精霊ちゃんが増えました』


 更に窪んだ周囲から水が溢れて泉が形成。

 そして、盛り上がった地面の天辺から地面に突き刺さった状態の幅広の長剣が生えた。


『泉に、長剣と黒い龍? 魔力が大量に!』


 ヘルメが思念を寄越したように……。

 泉の中央に生えた幅広の長剣と黒い龍らしきモノから魔力が迸っていた。


 幅広の剣には黒い龍が巻き付いている。


『デボンチッチといい、魔力の源は長剣と黒い龍か?』

『はい……』

 

 その黒い龍は頭部を上げて、


「……定命の者たち、我は見ていた。我を奪おうとする鰐の首魁と人族の屑共を、善くぞ退治してくれた。礼を言おう。そして、魔力もオイシカッタ」


 エコーが掛かって不気味だが、威厳がある。


「あなたは……」


 そう俺は黒い龍に対して尋ねていた。


「我は、八大龍王が一柱。ガスノンドロロクン」

『ふん、器に近付くな、謎の龍剣めが! 貂と羅が何か言うとるがしらんがな――』


 沙・羅・貂は、サラテン同士で喧嘩しているようだが……。

 とりあえず、目の前の大蛇龍ガスノンドロロクンを注視。

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