六百二十五話 クレイン・フェンロンの秘められた血筋

「はい。<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人です」

「耳が長い。ハーフエルフ?」

「昔はハーフエルフだと思っていましたが、実はハイエルフという種の末裔らしいです」

「何? 永久なるハイエルフの血脈なのか!」

「はい」

「驚いた、本当なのか?」

「ん、本当」

「証拠と呼べるか分かりませんが――」


 レベッカは白魚のような指先に蒼炎を点す。

 宙空でピアノでも弾くように指先を動かしつつ様々な形の蒼炎を描いていった。


 闇のリストのヒストアンを思い出した。


 細い蒼炎は蛇が蜷局を巻くように渦を作る。

 渦はすぐに粒子状となって消えていく。

 最後に残った小さい蒼炎は、俺の鼻先にくる。


 目の前で蜷局(とぐろ)を巻いた。


「にゃお」


 と、相棒が下から猫パンチ。 

 これはレベッカに、ボケを求められている?

 ジロッとレベッカと、蒼炎の蜷局を見て、


「うんちか?」

「ちがうから!」


 と、本当に違った。

 蒼炎は小さい龍となる。


 その小さい龍は、墨汁が水に溶けるように儚く消えた。


「蒼炎の操作か。精霊ではないのだろう?」

「違う」

「なら蒼炎神の加護か。だとしたらハイエルフの証拠」

「はい」

「驚きです。暁の時代を遡るハイエルフの血脈が未だに続いていたとは……失礼をお詫び致します、レベッカ様――」


 と、仰々しく会釈するクレイン先生。


「クレイン先生、どういう?」


 エヴァの問いに、にやりとするクレイン先生。


「わたしはベファリッツ大帝国の古貴族フェンロンの出なのさ」

「ん、先生のことは少し調べたけど、ハイエルフとはなかった。何か関係が?」

「ハイエルフの血が入っているかは不明だが、フェンロンの高貴な一族としての名と歴史は、それなりにあるからねぇ。だが、くだらない過去話ばかりだったろう?」

「ん、そんなことない。でも先生は、どうしてレベッカを様と?」

「あぁ、わたしはベファリッツ大帝国皇帝の血筋の家系なのさ」

「え? 皇帝?」


 皆、驚く。


「知らなかった。本には書いてなかった」

「当たり前さ。皇帝の庶子。皇帝直属のインペリアルガードたちによって、わたしの存在は長いことベファリッツ大帝国内部では秘匿されていた。極秘中の極秘。だから知らなくて当然。記録も残っていないはず。帝都は爆発して、今は【魔境の大森林】と化しているからねぇ」

「驚きです。古代エルフの皇帝の血筋がまだ生きているとは……」


 キサラも驚く。


「皇帝……クレイン先生が?」

「ベファリッツの皇帝の家系……まさか、エメンタル大帝の血筋の生き残り?」


 ヴィーネの問いに、頷くクレイン先生。


「そうなる、古貴族フェンロンの端くれさ」


 そして、ヴィーネはレベッカを見て、改めて、体がぶるっと震えていた。

 レベッカはヴィーネの態度を見て『なんでよ?』というように眉を動かす。


 ヴィーネはすぐにクレイン先生に視線を向けて、


「……血長耳とも繋がりが? レザライサと……」

「あぁ、ある。当時は娘よりも、ガルファやメリチェグだな。嘗てはわたしを担ごうと必死だったさ。ま、現在は仕事の関係で、娘のレザライサとの付き合いもそれなりにある」

「……だからセナアプアに」

「セナアプアに流れついたのは偶然だ。その血長耳とは、過去を含めて色々・・と世話になっているだけだね。そういったように、わたしの血筋はエルフでも特別。それ特有の能力もある。だからこそ、当時でさえ超貴重なハイエルフの血脈を持つレベッカ様は凄い存在となるのさ。皇帝の血筋ではないが、珍重されてたことは確かだ」


 レベッカは人差し指を自身の鼻に当てた。

『わたしが?』といった顔を浮かべていた。


「ンン、にゃ――」


 相棒はそんなレベッカの足に猫パンチ。


「ん、先生の謎が多かった理由……」

「そうさね。神秘的だったろう?」

「ん」

「はは、自慢ではないが、装備も伝説レジェンド神話ミソロジー級に、秘宝と言えるアイテムも持つから無数の諸勢力に狙われる理由でもあるのさ……だからこそ何度も言うが、ハイエルフの血脈がまだ続いていたことに驚く」


 と、クレイン先生の注視を受けるレベッカ。

 レベッカはあたふたして、視線を巡らせてから、


「……というか、注目されても困るんだけど……」

「正式な名前を教えてくれないだろうか、レベッカ様……」

「……えっと、様は、や、止めてほしいかな。普通にレベッカと呼んで」

「了解した。レベッカ」


 畏まったクレイン先生の態度だ。

 レベッカは、きょとんとして、同じく畏まる。


 こういうところは、凄く可愛いレベッカだ。

 そのレベッカは、


「はい。えっと……イブヒン。レベッカ・イブヒンです」


 イブヒンの名を聞いたクレイン先生は……。

 疑問符を頭部に浮かべるような面を見せた。


「イブヒン……聞いたことがあるようなないような……すまない」

「いえ。父さんの名はヒート。炎が得意な魔術師でした。冒険者としてペルネーテで活動していたんです」

「わたしも一時期ペルネーテで過ごしていたさ。しかし、ヒートか、知らないねぇ。魔術師でべファリッツ大帝国の生き残りだとすると……魔術師隊の【炎狼】の部隊だろうか……または【砂漠狐】か。或いは陸軍の【月陽の魔風鬼】か、【白鯨の血長耳】ではないし【玲猟の矛】か……あの頃は、右往左往で戦国乱世だったからな……すまない」

「いえ、とんでもない……」

「しかし、まさに、縁という他に言葉が見当たりません」


 と、ヴィーネが俺と手を繋ぎながら語る。

 恋人握りだ。そして、寄りかかってくれた。

 やっこいお胸様を俺の右腕に当ててくれる。


 一見、冷たさがあるヴィーネだが……。

 こういう、優しさと包容力がたまらない……。


「あぁ」


 と、自然に言葉が漏れた。


「ハイエルフのレベッカを眷属にした光魔ルシヴァルとは、吸血鬼系の亜種、いや、新種族か」


 クレイン先生はそう発言。


「はい。そうなります」

「なるほど、異常にもてる理由も、その吸血鬼系の力か」


 と、俺とヴィーネを見て溜め息を吐いた。

 ユイにも視線を向ける。


「……わたしは、もう知っているでしょう」

「あぁ、キスしまくっていたからな」


 その瞬間、エヴァを含めた地上組の表情が凍り付く。


「ん」

「あなた様……」

「なにぃ」

「……ご主人様?」


 ヴィーネの俺の手を握る手の力が強まった。


「え」

「……キスを……」


 と、全員が俺を凝視。

 ルマルディとキサラは自身の唇に指を当て、俺の唇を凝視。


 それはそれでエッチぃ視線だ。

 ジョディはキサラの指の動きを真似して、自身の唇に指を当てる。

 しまいには、唇で、その指をしゃぶりだした、エロい。


 ユイは知らんぷりするように神鬼・霊風の鞘をチェック。

 レベッカはそのユイを小突いていた。

 俺の手を離したヴィーネも、やや遅れてユイを小突く。


 エヴァは紫の瞳で俺を凝視。

 ムッとしたが、すぐにニコッとする。

 可愛い。


「にゃお?」


 と、流れに乗る黒猫ロロさん。

 ユイの足に猫パンチ。

 すぐにレベッカが、その相棒の尻尾を掴んで悪戯。

 悪戯を受けた相棒は『にゃご』と声を上げるように速やかなフックをレベッカの脹ら脛に当てていた。


 クレイン先生は、肩を落として、


「はぁ……ということは……」


 と、諦め口調で喋りつつユイとじゃれるヴィーネを見た。


 そのクレイン先生の視線に気付いたヴィーネは胸を張る。

 冷然としながらも静かに頷いてから、


「その予想は的中です。ご主人様の最初の<筆頭従者長選ばれし眷属>が、わたしです。……皇女様、お見知りおきを」


 と、皆に向けて宣言するように語る。

 しかし、皇女様か。


「皇女は止してくれ。で、さっきのモリモンの里やらの、会話を耳にしていたが、ダークエルフなんだな?」

「はい」


 クレイン先生はヴィーネの短い返事を聞いて、驚きつつ口笛を吹く。

 そして、ジョディを見る。


「浮いているし、足は尖った形状、一見は人族のようだが、人族ではないのか」

「……はい。名は、ジョディです。あなた様こと、シュウヤ様とわたしは愛し合う仲。そして、わたしは筆頭従者長ではないですが、同じ光魔ルシヴァルの眷属。光魔ノ蝶徒の一人」

「……ジョディさん。とてつもない強さを感じるが……」

「ふふ、ありがとう。この鎌を得意としてます――」


 と、大きな鎌のサージュを見せた。

 そのまま宙空に、鎌の刃で円を描く。


 ジョディの周囲に白色の蛾が舞った。

 空間を切り取るような大きな鎌の刃の軌跡を見て、クレイン先生は唾を飲む。

 焦ったように、エヴァに視線を向けた。


「ん」


 大丈夫と頷くエヴァ。

 クレイン先生は経験豊富だ。


 ジョディの死蝶人だった頃の本質的な部分を見抜いたか?

 そのクレイン先生は気を取り直すように……強い溜め息を吐きつつキサラを見た。


 キサラは頷く。

 目元を覆う黒マスクが似合う。


 そのマスク越しの蒼い双眸は強まった。

 静かに足を動かすキサラ。


 姫魔鬼武装の兜の砂漠鴉ノ型に変化はしない。

 キサラは、横に歩きつつ……隣のジョディと頷き合う。

 ジョディは速やかに退きながら、サージュを仕舞った。


 二人は微笑む。

 短い仕草だが、戦場で連携しつつサーマリア軍と傭兵相手に凄まじい戦いを起こしていたことは、容易に想起できた。


 そのキサラは、数珠から小さい鴉たちを生む。

 百鬼道の謳でも歌うのか? 


 と思ったら――。

 キサラは太極拳風に両腕を動かす。

 円運動か、両手で、宙空に満月を描く。

 ぐるりぐるりと両腕を回し歩き進む。


 魔力を宿す両手から薄い瓣のような魔力が散る。

 柔らかさと強さのある武の舞。

 その歩法は「陸上遊泳」と譬えることができるだろう。


 魔手太陰肺経の流れを組む体術か。

 修道女服に近い衣装。

 その衣装の上から、羽織るように身に着けている魔法衣が煌めいた。


 と、構えを取ってから、拱手風に両手の指を組み合わせる。


 頭部を下げて、


「――四天魔女キサラといいます」


 と、挨拶。

 綺麗だ……。


「美しいキサラさん。わたしはクレインだ」

「はい」


 キサラは、微笑みつつ……。

 黒紫色の口紅が目立つ唇から、魔の息を発する。


 刹那、ダモアヌンの魔槍を振るった――。

 魔人武術と天魔女流の妙技――。


 腰にぶら下がる百鬼道が揺れてスカート衣装がはためく。

 太股とガーターベルトが少し見えた。


 柄の中心にある孔から放射線状に出る魔力線。

 それら魔力線の一つ一つが滑らかな機動で蠢き揺らぐ。


 フィラメント状に輝くさまは、いつ見ても美しい。

 煌めく髑髏模様の穂先も目立つ。

 魔界セブドラの神の一柱であるメファーラ様の加護は健在だ。


 ――<刺突>系の突き技から薙ぎ払い――。


 白い肌が目立つ細い手首。

 その右手から左手にダモアヌンの魔槍の持ち手を変えた。 


 あれは、風槍流『枝崩れ』に近い技術。

 左手の<刺突>系の連続した突き技から――。

 右手で左手を下から叩くように、柄を掌で持ち上げた。


 ダモアヌンの魔槍を縦回転させつつ自身も横に回転をしながら前進。

 また、右手にダモアヌンの魔槍を持ち替えてから、<刺突>――。


 格好いい……。

 一本の槍のごとく突き出した右手が握るダモアヌンの魔槍から、汗のような魔力の粒子が迸る――。


 キサラがすこぶる綺麗だ。

 そのダモアヌンの魔槍を手前に戻しつつ急回転。

 体を駒のように回しつつダモアヌンの魔槍を縦回転させていく。


 同時に穂先近くの柄孔に、フィラメントを収束させた。


 衣装も全身を覆う修道服から――。

 魔女風の豊かな乳さんが目立つノースリーブの衣装に変化。


 縦回転させたダモアヌンの魔槍の後端で地面を突く。

 そのダモアヌンの魔槍の柄を両手で握ったまま柄の周りをぐるっと一回転。

 ポールダンス的な動きに移行。

 魅了される……。


 ――素晴らしい体術。

 ――素晴らしいおっぱい。

 ――素晴らしい細い腰。

 ――素晴らしい黒パンティ!


 周囲のコンサッドテンの獣人兵士たちが歓声をあげるほどだ。

 キサラは華麗に両足で着地して動きを止めた。


 クレイン先生も拍手。

 エヴァも、レベッカも、皆が拍手――。


「槍使い。素晴らしい技術」

「ありがとうございます。希少戦闘職の天魔女槍師です」

「聞いたことがない戦闘職業だねぇ。四天魔女、独自の流れを組む武術」

「はい。そして、黒魔女教団の救世主である光と闇の運び手ダモアヌンブリンガーのシュウヤ様をお慕いしています」


 と、力強く宣言した。


「……四天魔女とはゴルディクス大砂漠の黒魔女教団だな」

「黒魔女教団をご存じでしたか」

「知っている。黒魔女教団は連綿とした古い宗教集団の一つ。定かではないが、ベファリッツ大帝国よりも古いと聞いている。ゴルディクス大砂漠に古代ドワーフたちと髑髏武人ダモアヌンに連なる一族たちの伝説があると……犀湖都市の近くに、その伝説に纏わる黒魔女教団の総本山があるとか、秘境とも」

「その通り」


 キサラは尊敬の眼差しでクレイン先生を見る。

 すると、リズさんが、


「わたしはあまり知らない、大嵐があるとか?」

「大嵐とワームの影響で人々が移動し都市が変化する。当時の古貴族の支配階級でも、その都度争いとなった話は有名だった」


 当たり前だが、クレイン先生は、ゴルディクス大砂漠について結構詳しい。

 キサラは頷く。


 そのキサラが、


「クレインさんの古貴族はゴルディクス大砂漠を支配していたことが?」

「いや、わたしは政から排除された庶子の一人。内戦に巻き込まれた形で、幾つかのオアシスに点在する都市を知っていただけ。ベファリッツ大帝国の終わりかけの頃さ」

「ん、キサラから聞いたことがあるけど、先生からも聞きたい」

「了解。当時もエルフだけでなく先住民族と人族の国の諸勢力たちが、犀湖などの水の資源に魔真珠と魔金細工術を巡って争っていたのさ。硝子の魔加工技術も有名だったねぇ、古の星白石ネピュアハイシェントとベファリッツの愛の宝石も」


 すると、レベッカが一歩前に出た。


「あ、わたしの古の星白石ネピュアハイシェント――シュウヤが持ってた」


 レベッカが古の星白石ネピュアハイシェントを見せる。天道虫の親子が揃った特別な飾りがある。


 キサラも、


「その古の星白石ネピュアハイシェントにはわたしも繋がります」

「うん、キサラとわたしも縁がある」

「はい。同じ蒼炎神の加護があるレベッカさんの親戚。八式拳鍔の使い手の黒魔女教団の高手のアーソン・イブヒンから稽古を受けました。『古の星白石ネピュアハイシェントを溶かす相手はお前の望む相手と心得よ』との言葉も。そして、わたしが身に付けていた、その古の星白石ネピュアハイシェントを溶かした相手がシュウヤ様……」


 キサラは頬を朱に染めて語る。

 そのレベッカとキサラを見た、クレイン先生は驚く。


「ンン、にゃ、にゃお~」


 と、起きた黒猫ロロが連続で鳴くと、俺の足下にきた。


「【天凜の月】の盟主でありながら黒魔女教団の救世主、ハイエルフにエヴァとわたしか……凄まじい偶然……いや、必然なのか。神々の黄昏……運命神アシュラーも関わっているのかい?」

「どうでしょうか……」


 <アシュラーの系譜>を持つカザネでさえ、俺を調べることはあまりできなかった。


 クレイン先生は深い溜め息を吐く。

 そして、ルマルディを見て、


「はい、当然、わたしもシュウヤさんが好き……」


 と、頬を赤らめたルマルディ。


「……【アルルカンの使い手】の空極のルマルディ。お前も、【天凜の月】の盟主の女なのか」


 なぜか、クレイン先生は諦め口調だ。


「……」


 ルマルディは不安そうに俺を見る。

 俺は頷いた。


「はい」


 と、返事を聞いたクレイン先生は俺を凝視。

 溜め息をまた強く吐くと……ルマルディに、


「……炎邪魔塔から出た炎邪セガルドは、本当にルマルディが倒したのか?」

「そう。正確には、アルルカンの把神書と一緒に倒した」

「そうだ。俺がいるからこそのルマルディだ。銀死金死、お前もシュウヤと繋がっていたことが驚きだ」

「……アルルカンの把神書。わたしも驚きばかりで、失禁しそうだ」


 と、クレイン先生はアルルカンの把神書の表紙を見て、微笑む。

 新しい猫の肉球マークが気になった?


「疑問なら、証拠の炎邪宝珠の破片を見る?」

「いや、いい。しかし、ピサード大商会に喧嘩を売るとはねぇ。背後の【闇の八巨星】が追うぞ? それだけでなく、すべての評議員たちを敵に回したことになると思うが……ま、だからこそ【天凜の月】の盟主の近くにいるってことでもあるのか」


 そう話をするクレイン先生。

 ルマルディは、


「半分正解です。しかし、銀死金死のほうこそ。オセベリアとサーマリアの東部戦線に不吉な怪鳥が出現した。との噂は貴女の仕業でしょう? 敵と謎の多いフェンロン・・・・・の皇女様?」


 クレイン先生は片方の眉をピクリと動かす。

 視線を鋭くさせて、


「その皇女は止めろ、空極。もう滅びた国だ」

「はい。他にも【魔塔アッセルバインド】も貴女が原因でピサード大商会と揉めた。と」


 クレイン先生はハハッと、ばつが悪そうに笑う。


「……確かに、ドイガルガ上院評議員とな?」


 と、チラッとリズさんを見た。

 リズさんは顎をクイッと動かして『気にするな』的なニュアンスのアイコンタクト。


「……会長といい、わたしが巻き込んだ形が多い。すまないね」

「別にいいよ。仕事が増えて金を得たし、今回は、逆に銀死金死に救われた。それに銀死金死を追う奴らが悪い! その一角でもあるドイガルガを含めた糞評議員たちは、とくに、ウザいからねぇ。会長も恨み顔を浮かべながら、その評議員たちの仕事を渡してくるし」


 リズさんとクレイン先生は頷き合う。

 そのクレイン先生が、


「……そう言ってくれるのはありがたい。しかし、わたしは、空極が語るように、謎の多いフェンロン・・・・・だ。大本の【闇の枢軸会議】に【闇の八巨星】と長~く、揉めているからねぇ」

「そのドイガルガ上院評議員とは、わたしも揉めた」


 ルマルディがそう発言。


「ってことは炎邪セガルドが暴走したのは、あいつらが原因なのか」

「はい」

「はぁ……オカシイとは思っていたんだ。〝空極〟の一角の、あの・・ルマルディが、評議員ヒューゴは置いといて、空魔法士隊の【円空】の仲間を捨ててまで、暴走するはずがないとね」


 クレイン先生はそう発言しながら、ルマルディを凝視。

 ルマルディは憂い顔となる。


「【円空】の皆には、悪いと思ってますが、あのままでは……」


 リズさんも、


「あれほどの戦いだ。裏に深い理由があったんだろうとは思っていた。上と下に分かれているセナアプアも魔窟だからな……わたしも色々とあるし」


 セナアプアの情勢か。

 血長耳が裏社会を牛耳っているとは聞いているが……。

 それは表向きで裏は裏でとてつもない戦いが繰り広げられているんだろう。


 と、なんとなく想像した。

 そこで、クナが用意してくれた我傍の部屋を思い出す。


 エセル界の品を得ていたクナ。

 その取り引きをしていた、リズさんとクレイン先生が所属する【魔塔アッセルバインド】に向けて、


「【魔塔アッセルバインド】は、クナと、どういった繋がりが?」

「【天凜の月】は、クナとも通じているのか! というか、死んだと聞いたが……」

「シュウヤ殿。クナとは、あの暗黒のクナだよね?」


 クレイン先生とリズさんは、驚きつつ聞いてくる。


「そうだ。実は、【天凜の月】のメンバー。俺と直に契約をした眷属の一人でもある。現在は、サイデイルの魔術師長と呼ぶべき立場だろうか」

「サイデイル? しかし、あの、クナが配下だと?」

「……信じられないんだけど、ルマルディ?」


 リズさんがルマルディに聞いている。


「空極の名にかけて、本当よ。クナが命を張って、シュウヤさんを助けようと必死だった。シュウヤさんや、皆に、多大な貢献をしていた。この目で近くでしっかりと見た」


 フィナプルスの夜会の時か。

 ユイは深く頷く。

 ジョディは無言。

 ヴィーネも、エヴァも。レベッカは俺を睨む。


 ヤヴェ……。

 サイデイルで、モガが、打ち上げ花火と化した事変を思い出す。

 俺が冷や汗を掻いていると、アルルカンの把神書が、


「――その通りだ。フィナプルスの夜会では貴重な経験を得られたが、クナとユイがいなかったら、俺はこの場にいないだろう……しかし、あのフィナプルスの夜会という異世界も貴重な体験だった。時が経つごとに美しい世界だと認識を改めたしな。空に棚引く雲、美しい自然が営む陸と海の光景……ゼオナを解放できたことは感極まる。あのまま、あの世界で生きるのも悪くなかったが……」


 と、アルルカンの把神書が哀愁を漂わせながら渋い口調で語る。

 クレイン先生が口笛を吹く。


「……相当なことがあったんだねぇ」

「はい。フィナプルスの夜会という魔界四九三書の極めて危険な魔術書の使役に成功したシュウヤさん。その使役に多大な貢献をしたクナさんは、凄い魔法使いです。魔術師と魔法使いの戦闘職業をいったい幾つ持つのか……ちぐはぐさはありますが、魔力と精神力は大魔術師アークメイジ級かと……」


 ルマルディが、クナをそう評した。


「……怪しいとは思っていたが、大魔術師アークメイジとはねぇ。魔術総武会と関わりもありそうだ」

「アキエ・エニグマとなら喋ったことがある」


 リズさんがそう発言。

 魔術総武会か。

 風のレドンドたちとパーティを組む予定のテルコ・アマテラスも関わりがあるとか。


 そのことは告げず、独鈷魔槍を触りつつ、


「そのクナだが、フィナプルスの夜会以外にも、彼女のお陰で、この腰にぶらさげている霊宝武器を手に入れることができた」


 と語る。

 この独鈷魔槍のお陰で、魔界八槍卿の一人、塔魂魔槍のセイオクスの望みが一つ叶った。


「あなた様の新しい武器は素敵……」


 ジョディの声が気持ちいい。


 塔魂魔槍譜の一部の秘伝書を学ぶことができた。


 大本の魔軍夜行ノ槍業が絡むとは思わなかったな。

 魔軍夜行ノ槍業に棲まう八人の師匠たち……。

 出会いは、忘れない。


 連続した心臓の鼓動音。

 八本の魔槍が、この魔軍夜行ノ槍業から轟いた。

 心臓の鼓動音としての重低音の歌声。


 われら、八大、八強、八怪、魔界八槍卿の魔槍使い。

 われら、八鬼、八魔、八雄、魔界八槍卿の魔槍使い。


 われら、魔城ルグファントの八怪卿の魔槍使い。

 われら、かつての異形の魔城の守り手!

 われら、唯一無二の魔界八怪卿なり!


 復讐の怨嗟に燃え滾る、異形の魔城の守り手!


 われら、ルグファントの八怪卿なり!

 われら、魔界八槍卿の魔槍使いなり!


 そんな魔軍夜行ノ槍業に棲まう八人の歌を想起していると、


「……その模様が綺麗な武器が霊宝か」

神話ミソロジー級? 秘宝のような聖櫃アーク?」


 と、クレイン先生とリズさんが聞いてくる。


 独鈷魔槍の見た目は綺麗だからな。

 ルシヴァルの紋章樹と俺の親指と同じ竜紋。


 俺はバルミントを思い出しつつ、


「貴重なことに変わりは無いと思うが、その辺りはアイテム鑑定士に見てもらわないとな。少なくとも、この独鈷魔槍は、竜の鱗と関係し、聖なる力があるのか、何かしらの封印を破ることもできる」


 と、語った。

 武器は持たず<刺突>の型を繰り出す。


『ふふ』


 俺のポーズが気に入ったのか、小型ヘルメが微笑んだ。


「<刺突>か。しかし、封印を破るとは……シュウヤはアイテムの蒐集家でもあるのかい? その銀色の十字架とチェーンも特殊なアイテムなんだろう?」


 クレイン先生は、閃光のミレイヴァルも気になっていたようだ。


「そうだ。さすがはエヴァの師匠」

「……こりゃ絶対、会長に報告する案件だわ!」


 リズさんが興奮気味に宣言。


「しかし、あとでどやされる?」

「あぁ、アイとゲンザブロウの命を狙ってしまった形……【天凜の月】の盟主殿。今、この場に、その二人はいないが……謝っておこう。すまなかった。そして、シュウヤ殿に改めて、感謝を……」

「恐縮するから謝らないでくれ。こうして仲良くなったんだ。望み通りカリィとの戦いも促してみる。そして、クレイン先生との約束も」

「……武人の顔つきだねぇ、槍使い。嬉しいよ。あと、先生ではなくクレインでいい」

「分かった、クレイン」


 と、言うと、クレインは頬に朱が生まれる。

 すると、エヴァは全身から紫色の魔力を発しながら、「ん、シュウヤ――」と、俺の腕を取る。


 エヴァは、俺とクレインを見比べるように視線を巡らせた。

 そのエヴァの小さい唇が、動く。


「先生と……戦う約束」

「そうだ」

「先生、シュウヤは強い」

「分かっている。ただ、わたしも自慢ではないが色々と経験しているからねぇ」

「ん……先生の顔つきが怖い。本気の武人の顔……」

「ははは。血が滾るって奴さ」


 エヴァは不安そうだが、俺は頷く。

 エヴァは分かってくれたのか、頷いてから、手を離す。


 魔導車椅子をくるっと回して、クレインと俺を見て、


「分かった。わたしも見る」


 と、宣言。


「にゃ――」


 黒猫ロロはエヴァの太股の上にジャンプした。

 くるくると回って丸くなる。


「ん、ロロちゃん」

「ンン」


 返事は、喉声と尻尾でエヴァの足を叩くのみ。

 ゴロゴロと喉を鳴らしてきた。


「戦う前に、【天凜の月】としては【魔塔アッセルバインド】と正式な交渉をしたい。血長耳とも仲が悪くないように思えますし、互いに共通項が多い。ということで、今度、セナアプアにお邪魔するときは、会長さんというトップの方にご挨拶したいですが、セッティングは可能でしょうか」

「可能だ」

「うん」

「先生、それって、わたしたちと同じ敵がいるってこと?」

「そうなる」


 クレインに続いて、リズさんも、


「おおまかな一人は、ドイガルガ上院評議員。ピサード大商会にバーナンソー商会もある。【闇の枢軸会議】にその中核の【闇の八巨星】が使う【八本指】に【テーバロンテの償い】も関わる」


 すべてが繋がる。

 狼月都市ハーレイアに侵入した幻獣ハンターの裏にはドイガルガを含めた奴らが蠢いていたことになる。

 ハイグリアがバーナンソー商会を追ったようだが……。


 大本のドイガルガ上院評議員にたどり付けたかどうか。

 バーナンソー商会は色々なところに金をばらまいているだろうから、ハイグリアも右往左往してそうだ。


「……空戦魔導師の虚空のラスアピッドも」


 ルマルディが、そう空戦魔導師の名を告げた。


「そいつが率いる空魔法士隊【空闇手】もだな。そして、もっとも厄介なのが【八本指】。その一人の槍使いマルコスが邪魔だ」


 と、発言。八本指に槍使いマルコスってのがいるのか。

 強いなら戦いたい相手だ。


「その【八本指】は、あまり知りませんが、空戦魔導師のラスアピッドは強いです」

「それはそうだが、空極。お前は、レザライサと揉めたと聞いたが?」


 と、リズさんは、ルマルディだけでなく、俺にも意見を求めるように聞いてくる。


「【血長耳】とルマルディが揉めたことは知ってる。が、もうルマルディは【天凜の月】の仲間だ」

「ありがとう、シュウヤさん」


 ルマルディの愛の視線は嬉しい。

 が、この場の女性陣は気に食わないようだ。

 とくに、リズさんが、イラっとしたような面で、


「へぇ、レザライサとタイマンを張った冷徹な空極が、女の顔か……」

「……【流剣】? 喧嘩を売っている?」


 ルマルディの声質が変わったような印象を受けた。


「――ようよう、流剣! ルマルディはシュウヤにぞっこんだ。お前も銀死金死と同じく大事なルマルディのライバルになるつもりなら、俺が相手してやるぞ! 美人だからチュッとしちゃうからな!」

「……けったいな喋る魔術書に惚れられても困るのだけど……わたしの特別なスキルを味わってみる?」


 リズさんの言動と袖が怪しく煌めいたのを見たアルルカンの把神書。

 焦ったように頁を揺らす。


「――惚れてねぇ! が、神獣ぅぅぅ」


 と、奇声を上げつつエヴァの太股の上に座る相棒のもとに向かう。


「ンン、にゃお」


 相棒は肉球パンチ。

 アルルカンの把神書も黒猫ロロの動きに慣れたのか、頁が開く。


「ぬぁ!」


 黒猫ロロの猫パンチを、開いた頁で受け止めていた。

 やるじゃないか、把神書。


「グハハ、神獣よ、甘い」

「ンン――」


 だがしかし、相棒の頁が受け止めた片足から爪が出る。


 その黒猫ロロは、


「にゃご」


 と、鳴いて『甘いのどっちにゃ』と語るような面を浮かべた。

 頁を、その爪で切りつつ――。


 もう片方の前足で、アルルカンの把神書の表紙にフックを喰らわせた。


「――うひゃぁぁ」


 逃げるアルルカンの把神書。


「にゃおお」


 エヴァの太股から離れて、アルルカンの把神書を楽しそうに追う相棒。

 エヴァは優し気に見ている。

 コンサッドテンの陣地にいる虎獣人ラゼール豹獣人セバーカの強者たちが驚いた。


 一緒に走り出す。

 なんか戦争ではなく運動会になりそうな雰囲気だ。

 リズさんは、今の様子を見て


「……失礼した、冗談だ。喧嘩は売らないから」


 と、視線をクレインに戻す。


「はは、しかし、面白いねぇ。【天凜の月】の盟主の下に、こうも色々な強者たちが集まっているとは……」

「そういう銀死金死の貴女もね。魔窟の強者の一人」


 ルマルディがそう発言。

 クレインは照れるような仕草を取る。


「ハハ……」


 靨が可愛い。

 そのクレインもお返しと言わんばかりに、


「しかし……派手な大立ち回りで暴れて迷想不敗ペイオーグの追撃を受けたとか。そんな現状を【円空】の隊員たちは知っているのか?」


 との問いを受けたルマルディは表情を暗くした。


「知らないはずです。それに、もう【円空】は抜けた」

「抜けたか。一方的に?」

「……はぃ。元仲間と先輩に後輩たちには、顔向けできない部分はあります。ですが、もう、ヒューゴ・クアレスマの命令なんて聞きたくないですから。あと、そのセナアプアの下界には帰りました……しかし、さすがに上界には行けません……」

「そっか。これ以上は辛そうだから止しとく」

「……大丈夫ですよ。もう、シュウヤさんの傍で活動すると決めましたから」

「この戦場にいる時点でな?」


 と、補足。

 皆は頷く。


「……ありがとう」

「あの戦いを生き延びた理由か……アルルカンの把神書がいるとはいえ、数が数。他の空極と、空戦魔導師たちを相手に、生きていることが不思議だからね」

「はい、追われていたわたしを、救ってくれたのはシュウヤさん。そして、見ず知らずの、わたしを受け入れてくれた……」


 そのルマルディの告白めいた言葉を聞いたクレインは、目を細めて、数回頷く。

 そして、ルマルディではなく、俺に視線を向けつつ……。


「……ドイガルガ上院評議員の勢力は巨大だが……」


 と聞いてくる。


「【天凜の月】として、その勢力と戦う覚悟があるのか? と言いたい?」

「そうだ」


 リズさんも、


「虚空のラスアピッドと【闇の八巨星】が好んで使う八本指の暗殺者は、皆強い。他の評議員が持つ魔法士隊や空戦魔導師も手強い奴が多い」


 と、また指先でクロスを作る。

 俺も真似をして、指先で同じクロス。

 神に祈るようなポーズを作ってから、怒りを滲ませつつ、


「……クナやらナロミヴァスにヒヨリミ様の言葉を思い出すと、【闇の枢軸会議】の【闇の八巨星】とやらは、手広く手を出しているようだと分かる。ま、何本指だろうが、敵対するなら、その指を一つ一つ折っていくのみ」


 と、発言。


「ははは、豪快だねぇ。侠心の男」

「……うん、痺れる。くらくらするほど、男気があるし、まいったね」


 リズさんの視線に熱が篭もっていると分かる。

 すると、ルマルディが、


「ドイガルガを含めた評議員たちは腐ったサイカが多いので、気をつけてください」


 と、発言した。

 サイカか、懐かしい。蜜柑だな。

 その刹那――。


 アルルカンの把神書の変な奇声が轟く。

 黒猫ロロを守ろうとして絡む豹獣人セバーカの一人と喧嘩を始めた。


「もう!」


 と、怒ったルマルディ。


「では、皆さん、失礼します――。わたしに恥をかかせるつもりなの!」


 とルマルディは馬鹿ん書アルルカンを追いかけていった。

 それを見ていたエヴァたちは笑う。


 クレインは笑わずに、俺を見ては、またユイたちを見て……。

 過呼吸気味に溜め息を吐く。

 クレインは、ゆっくりとおもむろに俺を見据えた。


「しかし、女にモテすぎだろう……」


 そう発言しながら、腰に差した銀色のトンファーと金色のトンファーの柄に手を触れる。

 そして、ん? 股間を見て、


「……絶倫なのか?」

「ん!」


 その一言で、俺は片膝を落として、転けそうになった。


 が、踏みとどまった。

 と言うか、エヴァは一人だけ、強く頷いている。

 皆の反応は苦笑顔だ。

 クレインは、エヴァの表情を見て、


「……分かっているが、あえて、きく。エヴァ、本当に幸せなのだな?」

「ん!」

「そうかい! 温かいが、強烈な強さと自信のある笑み。女の顔でもある」


 と、俺を見る。

 クレインは怒っていない。

 エヴァの本気の顔を知っているようだな。


 そのクレインは、エヴァを見て、


「……しかし、リリィもよく許したね?」

「最初はわたしの知らないところで、シュウヤを倒しにかかった」

「あはは、あの子らしい。ディーの店も大丈夫なんだな?」

「ん、いっぱい素材が手に入った。シュウヤも新作料理のレシピを教えてくれた」

「そうか、レシピも……ふーん」


 と、俺に親しみのある視線を寄越すクレイン先生。

 すると、エヴァはクレイン先生と俺の間に入った。


「――ん、先生の顔が変。ダメ! シュウヤはわたしの! 恋人、家族。大事な人!」

「そう言うが、わたしも女さ」

「ん……」


 エヴァは少し怒ったのか、全身から魔力が出る。

 エスパーのように浮いていた。


 黒髪が、ゆらりゆらりと揺れるさまは、綺麗だ。


「あはは、そう泣きそうな顔をするな。しかし……エヴァ、改めて、見ると……外の魔素に干渉するような紫色の魔力といい……光魔ルシヴァルの種族特性か、何かかい?」

「ん、そう。あらゆることが成長した」


 すると――。

 エヴァの背後に浮かぶ魔導車椅子がコンパクト化しつつ液体金属化。

 更に、その液体金属がエヴァの足を追う――。

 液体金属はエヴァの剥き出しの骨に吸い寄せられて自動的に金属足となった。


 クレインは口笛を吹く。


「金属の足を活かす、蹴り技も多彩になっていそうだ」

「ん」

「さて、エヴァ。悪いが退いてくれ。エヴァが本気で認めた男を、わたしなりに調べさせてもらう」


 クレイン先生はそう語りながらエヴァから離れた。

 リズさんにも目配せ、


「久しぶりに銀死金死の本気を見ようかな……」


 と、リズさんも離れた。

 微笑むクレイン。

 腰の金具を外し、片手でトンファーの柄を触る。


 もう片方の手で、髪の毛を流す。

 美人さんだけに映える……。

 雲の間から射した陽が髪を照らす。

 金色と朱色の髪が煌めいて見えた。

 ややメッシュが入っている。

 そして、西部劇のガンマン的なポーズだ。


 クレインは、戦う場所はそこでいいか? 的な視線を寄越した。

 俺は頷く。


「……約束は約束。【天凜の月】の盟主、シュウヤ。男に二言はないだろう?」

「おう」


 独鈷魔槍を右手に握った。

 魔力を通す。

 親指の竜紋を意識しつつ魔力を独鈷魔槍に込める――。

 先端と後端の金属から真新しい銀色の金属柄が伸びて矛が出た。

 ダブルブレードの槍だ。


 左手と左足を前に出しての半身の姿勢。

 風槍流の構えを取った。


「いいねぇ。見覚えがある伝法。しかし、それで不意を突けたろうに」

「あぁ、これでも武を知る槍使いだからな」

「それは、いつでも不意をつける妙技を持つという自信の表れか」


 その刹那――アキレス師匠の姿と言葉を思い出す。

 『そうだ。もっと自信を持て。もう、わしが教えることは最後の仙魔術のみなのだ』


 師匠……。


「そうだ」

「ふ」


 クレインは微笑む。


 エヴァはクレインと俺を交互に見て、パチパチと瞬きをくり返す。

 すぐに魔導車椅子を生成し、座ると、ヴィーネたちの傍に向かった。


「シュウヤ様の槍使いとしての妙技を!」

「あなた様、ここで待機します!」

「ご主人様とクレインの戦い。見守りましょう」

「ん」

「お菓子とジュースは用意した」

「さすが、レベッカ。用意がいい。わたしにもちょうだい」

「うん」

「あの、大丈夫なのですか?」

「分からないわ。でも、あの二人を止められる?」

「……ですね」


 ユイの声に反応したルマルディの声が響く。


 俺と対峙するクレイン……。

 目が笑っていない。魔闘術が活性化していると分かる。

 ……凄いプレッシャーだ。


 思わず、唾をゴクッと飲み込んでから頷く。


「――シュウヤ、がんばって」

「……少しショックさね。わたしにはないのかい」

「……ん」


 エヴァは頷くと俺の後方に魔導車椅子を移動させていく。


「なんだろうか。淋しさがある……」

「俺が言うのも、なんだが、エヴァも女ってことだ」

「ふ――」


 と、速い。

 クレインは銀色のトンファーを真っ直ぐ突き出してきた。

 え? この動き――風槍流の<刺突>?

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