六百四話 新しい独鈷魔槍と槍修行
◇◆◇◆
ここは古都市ムサカ。
別名、豹文都市ムサカとも呼ばれている。
オセべリア王国とサーマリア王国の激戦地。
オセベリア王国は、本格的な開戦の前から竜魔騎兵団と第三グリフォン部隊がムサカ領に進出し、サーマリアのグリフォン隊と陸軍に海軍を隊長クラスの力量差が顕著に出る形で叩くことに成功していた。
シャルドネの指令の下、第三青鉄騎士団を率いる軍団長が開戦を宣言。空と陸の電撃作戦を展開させムサカ西部に橋頭堡を作ると、そこを足掛かりに、魔竜王殺しの英雄率いるグリフォン部隊がムサカを越えて城郭都市レフハーゲンにまで一気に侵攻し快進撃を続けた。
更にオセベリア王国第三青鉄騎士団の主力歩兵部隊と海軍工作隊がサーマリア海軍の散発的な反撃にあいつつもムサカ領内に幾つもの橋頭堡を築くことに成功。
ムサカ西岸とその支流にある橋頭堡からオセベリア王国の主力歩兵部隊は上陸し、ヘカトレイル領からの輸送も確立させると、古都市ムサカを含めた周辺領を支配下に置いた。
しかし、サーマリア王国も黙ってはいなかった。
サーマリア王国のグリフォン隊と海軍、陸軍の一部が夜間に古都市ムサカに侵攻する。
サーマリア王国の王太子ソーグブライトが指示する一隊がオセベリア王国のムサカ~ヘカトレイル間の補給路を断つことに成功すると、勝利に酔い油断していたムサカの駐留部隊の青鉄騎士団は大打撃を受けた。この奇襲によって城郭都市レフハーゲンまで進撃していたオセベリア王国竜魔騎兵団の一部はムサカに引き返すことになる。
戻ったオセベリアのグリフォン隊とサーマリアのグリフォン隊との空中戦は激戦を極めた。
英雄が率いるオセベリアのグリフォン隊は屈強、彼女が率いる小隊は誰一人として失わずオセベリア王国は空戦を有利に運ぶ。しかし、補給路を断たれたオセベリア王国はじり貧となり英雄が率いたグリフォン部隊も餌の確保に無理が生じて撤退を余儀なくされた。
程なくしてサーマリア王国はムサカの南部の奪還に成功する。
万全の戦略を取ることで有名なオセベリア王国の女侯爵シャルドネ・フォン・アナハイム。
彼女も、この状況に甘んじていたわけではない。
予め仕込んでおいた傭兵集団コンサッドテンなどの獣人混成の成り上がり部隊を展開させた。
地下遺跡を利用する伏兵の攪乱戦術を用いてサーマリア王国陸上部隊に挟撃と急襲を繰り返しサーマリア陸軍を疲弊させる。オセベリア王国の陸軍の補給が整うと対騎兵用のファランクス部隊が用意され盛り返した。
こうして、古都市ムサカは二国に両断を受ける形で拮抗状態へと移行していく。
しかし、シャルドネにとって屈辱的な結果だ。
サーマリアの古都市ムサカ奪還作戦で、要となるはずだったサーマリア海軍特殊ヘンラー隊の一部が動かせなかったことが戦略家として優秀な彼女を悩ませる結果となっていた。
まさに千慮一失。
内実は、サーマリア王国の王太子ソーグブライトが裏と表で同時に動いたことが大きい。
さすがに、王から勘当を受け、うつけ者と評されたソーグブライトが動くとは思ってもみなかった女侯爵シャルドネだった。ヒュアトス亡きサーマリアを舐めていたとも言える。
そのソーグブライドは優秀な配下を連れて秘密裏に北上。
レフテン王国の機密局を掌握しつつある内戦で奮闘していた姫ネレイスカリと会合を行う。
平和を望むネレイスカリにとっても渡りに綱。両者の都合が一致した結果、その北のレフテン王国と不可侵条約を結ぶことに成功したソーグブライトは、自らが率いた中隊で、オセベリア王国の補給線を分断し、古都市ムサカの戦場に参戦。ソーグブライトの配下の兵不厭詐を知る軍師アドルフ・タカノが用いたハッカペリター騎兵隊の運用と三兵戦術が機能し大規模な戦果を残す。
この王太子ソーグブライトが活躍したことにより、不可侵条約の効力は、より強まった。
他にも、塔烈都市セナアプアの評議員たち。
塔烈都市セナアプアの裏社会を牛耳る【白鯨の血長耳】。
サーマリア王国公爵の配下の【ロゼンの戒】と、その公爵筋の軍産複合体。
キーラ・ホセライの【御九星集団】。
【錬金王ライバダ】他、【闇の八巨星】の八指。
城郭都市レフハーゲンの豪商五指の【ミリオン会】と【不滅タークマリア】。
などの関係者が多数暗躍しつつ漁夫の利を狙う要因が重なった結果でもあった。
そして、秘密の多い海軍特殊ヘンラー隊分隊長マジマーンと【七戒】の一部を率いているベニー・ストレインが国ではなく闇ギルドの【天凜の月】に下るという前代未聞の影響も、少なからず、この戦争に影響を与えていた。
結果、オセベリア王国の一部の高級官僚やシャルドネと繋がりのあった破壊工作依頼を受けていた【七戒】幹部との連絡に支障をきたし、アズラ海賊団とビヨルッド大海賊団にグレデナス大海賊団の一部の幹部を雇い入れたサーマリア海軍が躍進。シャルドネが絡むビヨルッド大海賊団の幹部暗殺の件が漏れたことにも起因する。
王都ハルフォニアと繋がる東部ハイム川の地の利を生かす形で、そのままハイム川の東部から繋がるローデリア海の制海権の一部はサーマリア王国が握ることになった。
現在はムサカの南西部【豹文刃岩】を中心にゲリラ戦が展開されている。
威力偵察の任務を帯びた両国の小隊が、その【豹文刃岩】と【塔雷岩場】の近辺で小競り合いを続けていた。
そして、現在の塔雷岩場。
物見矢倉が建つ元宿屋スモンジの廃墟に――。
空から突入しようとする頭巾をかぶった者がいた。
頭巾をかぶった貫頭衣を着た者は回転し、下降を始める。
貫頭衣が捲れて、足がないことを晒した。
その代わりに、裾辺りから無数の魔線を出していく。
廃墟となった元宿屋の屋根を――。
その物理属性の高い鋼の質を持つ魔線の群れを用いて破壊しながら着地。
頭巾をかぶる者が、
「ただいま、ゲンザブロウ」
と、挨拶。
ゲンザブロウと呼ばれた者は、両手から四角い立方体を出して、その四角い立方体で、建物の崩壊を防いでいた。
四角い立方体は、見る角度によって、ただの直方体にも見える。
が、巨大な質量の崩壊しそうな建物を防いでいるのは見事だ。
ゲンザブロウ・ミカミは、立方体を使って建物の位置をずらす。
崩壊を防ぎきってから、その両手から立方体を消去した。
ゲンザブロウ・ミカミはオセベリアの軍服を叩いて埃を飛ばす。
おもむろに指の腹で眼鏡を押す。
体裁を整えてから、
「……アイ。派手な帰還は止せと言ったはずだが……」
と、発言しつつ足がない女性を睨む。
アイと呼ばれた足がない女性は頭巾を外した。
その女性の唇はカサカサに乾き、襞は魔力の紐で結ばれて、唇は塞がれた状態だ。
アイは、自らの、その上下の唇を結ぶ魔力の紐を操作。
魔力の紐を外した。
乾ききった唇を動かし、その唇から血を流しながら、
「敵を呼ぶ」
と、不気味な声を発した。
「挑発か。陽動作戦中だからいいが、今後は勝手に動くなよ?」
「分かった」
「……敵も素直に来るか微妙だがな」
「遠くに騎兵がいた」
「ハッカペリター騎兵隊か? さすがに瓦礫の多い都市の中では軽騎兵でも運用は難しいはずだが」
「魔法使いたちも一緒」
「……はぁ、普通のゲリラ戦とは、いかないか」
「サーマリアの騎兵を潰せばシャルドネ様も喜ぶ」
「それよりも、ここの確保だ。塔雷岩場の周辺を落とせば、ご満足してくださるはず」
ミカミがそう発言。
アイも乾いた唇から糸を伸ばし、笑う。
「シャルドネ様は、ここの地下に歴史があるとか言ってた」
「豹文文明の秘められた歴史。実は
「? 歴史は分からない」
「俺もだ。そもそもがオークションで買われた存在だからな」
「うん」
「遠い西の歴史なら、ある程度は教わったが……あの邪神に魅入られたアイツは……」
「邪神って? そんな神様は聞いたことがない」
「邪界ヘルローネって異世界があるのさ、魔界やら神界やら、この世は色々とあるんだよ。俺が知る女好きな屑野郎は、今ごろどうしているのやら」
「……知らなかった。神さま同士が戦うの?」
「いや、使徒とか眷属だ。ペルネーテが主戦場だが……魔族も知らないのか?」
「皆、同じ人外と思ってた」
「ははは、それはそうだな。が、人外は人族に紛れて、どこにでもいる」
「うん。ここにも! 下にも、たっくさん怪物がいる」
アイは突然、元気な口調で、地下と自身の顔に指を差す。
ミカミは、その声と態度に驚いて、瞳を散大させていた。
が、頭部を振るって眼鏡の位置を直す仕種を取りながら……。
「そうだな。俺も人外と、そう変わらない」
と、喋りつつ頷いていた。
「でも、シャルドネ様はわたしのことを気に入ったって言ってくれた」
「……よかったな」
ミカミがそう伝えると、アイは笑みの眉を開く。
アイは周囲を見て、
「……敵がこない。鬼蟲の巣と魔白金王プレムの鉱脈層も見つかったから帰る?」
「そうするか」
刹那――。
アイは視線を鋭くさせた。
視線を右に向けた。
ミカミもすぐに気付く。
アイが見る、右、距離にして、約三百メートル先にレンブラント大広間がある。
武人レンブラントが腹を切った場所で有名なところだ。
そこをオセベリア王国とサーマリア王国の二つの仕事で雇われた小隊が進んでいた。
「アイの索敵は広いからな。で、敵か? 味方か? ま、ここに来るなら……敵だな」
「分からない……どちらの旗もない」
「きな臭い任務を帯びた連中か」
◇◆◇◆
フィナプルスの夜会から浮かぶ油絵を見て、
「……そうか」
手を取り合う反目した種族たち。
平和を勝ち取ったんだな……よかった。
「……魔術書の中とはいえ、一つの世界を救ったんだ。俺はお前を尊敬するぞ」
アルルカンの把神書がそう発言。
笑みを意識するが、なんとも言えない気持ちを抱く。
自然と閉じたフィナプルスの夜会を拾う。
表紙から盛り上がって目立つ半球が輝く。
この魔界四九三書に魔力を込めたら、魔女フィナプルスが現れる。と、予想は付くが、今はいい。
「シュウヤ、大丈夫よね」
皆、不安そうだ。
彼女たちの表情を見たら、どんな状況だったか、心配していたのが分かった。
俺は頷いてから、フィナプルスの夜会をアイテムボックスに仕舞う。
すぐに、皆にフィナプルスの夜会で経験したことを報告した。
そして、クナから逆絵魔ノ霓を用いたこと。
その逆絵魔ノ霓と我傍の霊法武器に、片腕を差し出したユイへと、ヘルメに、皆が一致協力して魔力を送ってフィナプルスの夜会に干渉し続けていたことを聞く。
俺は改めて、皆に心からの礼をした。
とくにユイに。
準備していたとはいえ、コンマ数秒の間の判断力はさすがだ。
「シュウヤ、真顔よ? 恥ずかしいでしょう」
「ですが、ご主人様らしい。そして、ユイの迅速な行動は称賛に値します、ご主人様も強くそう考えているからこその顔ですよ」
ヴィーネの言葉に頷く。
「ん、愛されてると分かるから嬉しい」
「そうですね。しかし、奇怪フィナプルスを倒した光景は、さぞ圧巻でしたでしょう。わたしもその戦いに貢献したかった」
「わたしも閣下の戦いに参加するべきでした。左目に入ることもできず……」
「ヘルメ、その気持ちだけで十分だ。サラテンたちが活躍したからな」
「……閣下」
『当然である! 器よ、妾たちの貴重さが分かったであろう。シークレットウェポンこそが、最強であると!!』
『であるか?』
『な、なぜ、否定をしない!』
『いや、流れで……』
そのまま、皆とフィナプルスの夜会の中で経験した話をしていく。
続いて、キッシュを含めた、ここに居ない眷属たちにも血文字で報告。
暫しの談笑。
「ん、シュウヤ。その霊宝武器をどうするの?」
エヴァが独鈷を指摘。
この霊宝武器か。
帰還してから、ずっと俺の頭上で浮いている。
少しうっとうしい。
「この、霊宝に触れたクナは死にそうになったとか言ってたよな。さっきのように本の世界に取り込まれるのは勘弁だぞ」
「魔界四九三書のようなアイテムではないです。わたしにそのような反応をしたのは、魔族クシャナーンに対する拒否反応でしょう。そして、我傍の魔封じの力として、フィナプルスの夜会に干渉していたように、使い手としてシュウヤ様に呼応し靡いていると認識しました」
そう指摘するクナ。
「そっか」
「少なくとも、霊宝が動くのは、初めて見る現象です」
「なら握って試すか。その前に――」
王牌十字槍ヴェクサードを見てから右腕に嵌まる
ルマルディさんにも視線を向ける。
応えて微笑むルマルディさん。
綺麗な女性だ。
が、空極という称号を持つ凄腕の空戦魔導師。
そんな一流の魔導師の横を漂うアルルカンの把神書。
小声で何かをルマルディさんに告げている。
当たり前だが、仲が良い。ルマルディさんとアルルカンは家族的な雰囲気だ。
俺とロロディーヌのような関係性だろう。
そして、魔界四九三書の内部では、あのアルルカンの把神書に色々と世話になった。
ありがとう、把神書。
未だに、その把神書がどんな意味か分からないが……アルルカンの語る言葉の節々から様々な経験と機知を感じることができたし、正直、心に響いた。
話の内容も面白くて好意を持った。
そのアルルカンとルマルディさんは大事なブレスレットを俺にくれた。
いや、俺を信じて、ブレスレットを預けたと言ったほうが正しいか。
ルマルディさんもセナアプアの勢力と争いがあると聞いた。
力が落ちたままだと不安なはずだ。
だから、俺が【天凜の月】の総長であることや……【白鯨の血長耳】のレザライサと同盟関係であることを説明しつつ頃合いを見て
んだが、今は、霊宝武器とやらを確かめる。
皆に向けて、
「一応、警戒――」
と、発言してから――。
古びた独鈷を触り握る。
――魔力を古びた独鈷の内部から感じた。
定石通り、魔力を通す。
相棒が反応して黒豹と化していた。
鼻をくんくんと、動かしていた。
紅色と黒色が織りなす虹彩は、独鈷を凝視。
匂いが気になる?
「ロロ、心配しないでも大丈夫なはず」
「ンン」
相棒の喉声が響くと――。
俺の魔力に古びた独鈷も反応した。
金属の表面に亀裂が入る。
更に、右の親指の爪のネイルアート風の竜紋が反応。
バルミントとの契約の証しが光った。
「ん、反応した」
「ンン、にゃあ~」
相棒が反応した理由か。
「それ、バルちゃんとの契約の証し、よね?」
「……竜が関係する? 霊宝武器の汚れが落ちたわけではないですね」
「ミイラの我傍も反応している!」
「本当! 双眸に光が灯った……」
親指の反応も気になるが……。
独鈷の表面の金属が剥がれ落ちていく。
真新しい銀色の金属となった独鈷。
螺旋模様のルシヴァルの紋章樹と俺の親指と同じ竜紋が刻まれている。
美しい飾りだ。可愛いバルミントの姿を思い出す。
親指の竜紋を意識しつつ魔力を、その銀に輝く独鈷に込めると――。
先端と後端の金属から、これまた真新しい銀色の金属柄が伸びて矛が出た。
瞬く間に、両端に矛があるダブルブレード的な槍となる。
大きさは神槍ガンジスとそう変わりない。
大刀打に竜の鱗でできた飾りがあった。
「――おお」
「魔封じの力の宿る竜? 魔槍に変化?」
「魔封じの力を宿した聖竜独鈷槍となるのか? 見た目は独鈷魔槍だが――」
新しい独鈷の魔槍を試す――。
竜繋がりってわけじゃないが、
頭巾ありの半袖衣装にスパッと衣装変え。
一瞬、素っ裸となるが、皆は何も言わないはずだ。
いや、一名、いや、二名、俺の股間を凝視していた金色の髪の女性と精霊がいたが――。
構わない。訓練を実行だ。
押すッ――。
と、気合いを入れるように腕を胸元でクロス。
「閣下のあそこは、いつみてもご立派!」
と、膝から崩れそうになったが、自重した。
裸になって、パチパチパンチは、これも自重した。
そして、新しい独鈷魔槍を捻り回す。
突きから払い――右に回し左に回す――。
背中に回した右手が握る独鈷魔槍を、左手に移して、また右手に移す。
右手の表面で回りに回る独鈷魔槍、その独鈷魔槍を扱う右手を胸前に運ぶ。
そのまま独鈷魔槍と右手でペンマジックを行うように回転させていく――。
同時に手首を捻り、独鈷魔槍を手首に移動させて、その手首の上で独鈷魔槍をくるくると回転させていった。
フライパンを返すように手首を動かし、滑らかに手の甲へ独鈷魔槍の柄を運ぶ――。
暫し、駒のように回転を続けていく独鈷魔槍を眺めた……。
回転する独鈷魔槍は自らの意思を示すように――。
煌びやかな魔力の波動を発していく。
<血魔力>も混ぜつつ、武術の訓練を続けた。
「……いつにもまして、槍の扱いが巧くなってない?」
「ん、しゅっしゅって速い――槍武王?」
「はい……魅了されます」
「……動きが速すぎるけど、さっき、ちんちんが……」
ルマルディさんが、そう小声で発言。
その際、アルルカンの把神書が本を開いて、変な形の魚を出す。
顔を真っ赤にしたルマルディさんに、叩かれる把神書。
俺は気にせず、槍の訓練を続けた。
「素晴らしい槍の技術」
風槍流は崩さず、キサラとミレイヴァルの槍の技術を参考にしつつ――。
持ち手の指の一つ一つと触れる独鈷魔槍に意識を傾ける。
何事も修業――。
「……洗練された風槍流に<血魔力>と魔人武術を取り込んだ天魔女功の槍武術も混じってます。ところどころに、力強さのある魔力の波動もありますね。あ、今の、槍のぶれた機動は見たことがない……新しい技術の応用でしょうか……霊宝武器の穂先を試そうとしていると分かりますが、槍と対話しているようにも……本当に素晴らしいですね……」
<血魔力>と魔闘術が絡む全身の筋肉を柔軟に扱う――。
<血穿>や<血穿・炎狼牙>は撃たないが血鎖でもなく血の研究もする。
「血? 植物の枝の幻影も見えました」
アルデル師匠は足下に影狼を――。
「今は、血の狼が薄らと……地底神討伐の時に獲得したスキルの影響でしょうか」
ヴィーネがそう呟いた。
「そういえば、新しいスキルを獲得したと仰ってました。怪蟲がどうとか」
「ん、言ってた。ムカデとか……」
「いってたいってた! 大本はそのキストリン爺の墓でもあった槍でしょう? 気色悪いからスルーしてたけど、シュウヤは嬉しそうに語ってたわね。でも、あ、血の狼を出した。父さんは虎を出してたから、影響もあるのかな。わぁ~ちゃんとした狼になった! 槍に合わせてる? 凄い!」
「お? 気付かなかった、が、スキル化はまだだ――」
「へぇ、それでスキル化はまだなんだ、でも、こうやって、目の前で成長を感じさせてくれると……なんだか、わたしまで、むずむずと、わくわくしてくる!」
ユイは小躍りしながらその場で跳躍。
王牌十字槍ヴェクサードと俺を見て血の狼を分析していた。
ヴィーネも、俺と王牌十字槍ヴェクサードを見比べるように、
「王牌十字槍ヴェクサードを使わずとも、他の槍に影響を与えている?」
と、話をしていた。
あまり意識してなかったが、地底神ロルガを倒したからな――。
確実に成長はしているだろう。
「ンン――」
はは、楽しげな
ゴルディーバの訓練やペルネーテの訓練を思い出した。
「あ、爪先半回転! でも、キサラが言うように本当に凄いとしか。新しい武器は勝手が違ってくるはずだけど、一瞬で、武器の重さのバランスを見極めたように、霊宝武器を扱っているし……」
「はい、見るごとに武術が増す稀有な才能。同じ槍を扱う者として、尊敬と嫉妬を覚えます」
キサラは正直だ。
ダモアヌンの魔槍を握る手に力が入ってた。
模擬戦がしたくなったのかもな。
昔はよく、サイデイルの庭で一緒にがんばったからなぁ――。
その皆に向けて、
「――見極めたってより、これは感覚だ――重さは、神槍ガンジスと魔槍グドルルの間ぐらいかな。魔槍杖バルドークのほうが重い――」
と、両手で独鈷魔槍を素早く回転させていく。
そして、俺自身の動きを止めた。
相棒の尻尾を切らないように、独鈷魔槍の動きを止める。
床に後端を刺した。
「ンン」
相棒は黒猫の姿に戻った。
新しい独鈷魔槍の矛と大刀打辺りの銀色の具に、小さい鼻先を向ける。
くんくんと、匂いを嗅いでいた。
そのまま、大刀打に、頬から耳を擦るように匂いつけ作業に入る。
竜の鱗が気になるのか。
たんに、新しい槍は自分のものにゃ。といったアピールか。
「ふふ」
「ロロちゃん、勢い余って穂先に頬を当てないでよ?」
「にゃ~」
と、擦りつけ作業を止めた
トコトコと俺の足下にくる。
アーゼンのブーツの甲に両前脚を乗せて、片足で、トントンと、甲を叩いた。
頭部を上向かせる相棒。
「どうした? 休むか?」
「にゃ」
と、微かな鳴き声を発すると、首も甲に乗せて休みだした。
尻尾も丸めて腹の内側に仕舞う。
「可愛いんだから! あ、シュウヤ、動いちゃだめよ」
「俺は置物か!」
「ふふ、冗談だけど、動かせる?」
ユイは勝ち誇ったような表情だ。
確かに相棒の可愛い姿を見たら……動かせない。
「……少しの間だけだ」
「ん、シュウヤ、動いたら爆発しちゃうからダメ」
「はは、エヴァ、分かりやすい嘘をつかなくても、しばらく動くつもりはないから」
「ん、ロロちゃん眠りそう」
本当に、微睡みを楽しむように
「んで、今後だが、カルードたちがヘカトレイルに来るのはまだ先だろう?」
「うん、船ごと転移できるわけじゃないからね」
「ん、戦争の影響で西のハイム川を使った黄金通路は混み合ってる」
「そっか、なら、その間に、ヘカトレイルの観光をするか?」
「ん、する!」
「デートね」
「はい、シュウヤ様についていきます」
暫し、皆とまったりとした会話を続けた。
◇◇◇◇
相棒の首を掴み、肩に乗せる。
「あ、動かしちゃった」
「さすがに、な?」
「にゃ」
と、頭巾の中に潜る相棒。
「我傍も反応していたけど、動かないわね」
「ん、わたしが語りかけても無理だった」
「はい、この前も言いましたが、魂はかろうじて残っているだけですから、目覚めて語り出しても、何をやり出すか、怖いです」
クナから怖いとか。
ミイラの我傍と会話ができたら楽しそうだが、エヴァの能力で語りかけても応えないなら、コミュニケーションは無理そう。
そして、その我傍の武器。この独鈷魔槍だが……。
アイテムボックスに入れてみれば、アイテム名は分かるが、
「クナ、この霊宝武器、独鈷魔槍に名はあるのか?」
と、聞く。
「分かりません」
「その、どっこ魔槍って名前はシュウヤが?」
「そうだよ。この武器をしばらく使うかもしれない」
独鈷魔槍に魔力をもう一度込めると、矛が出たまま柄が縮む。
縮んだ部分は折り畳まれつつ中心部が窪むと、その窪みの中へと柄が逆三角錐を作りながら格納された。
「へぇ、元の大きさに戻った」
更に、もう一度魔力を込めると、また、独鈷魔槍の両端から銀の柄と矛が伸びる。
「切り替えが可能な武器なのね」
「そのようだ」
と、短くした独鈷魔槍を腰に差す。
血魔剣と魔軍夜行ノ槍業に閃光のミレイヴァルが並ぶ腰元だ。
「では、ヘカトレイルに戻る前にこちらに……」
クナに案内されて、オカオさんとヒョアンさんと合流した。
そういえば、【天凜の月】に入ったんだったな。
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