六百五話 戻ったぞ、ヘカトレイル!

 闇のリストだった鑑定屋オカオさんと贋作屋ヒョアンさんはさっそく膝で地面を突く。


「総長!」

「総長様」

「堅苦しい挨拶は不要」


 と、俺は話をしながら二人に握手を強要。皆と談笑していく。夢追い袋の中身をオカオさんに見てもらおうと思ったが、メルとの話もあるから、今度でいい。

 と、待っていた二人に悪いが、メルと合流した際にまた会うことになった。



 ◇◇◇◇



 腰にある夢追い袋と王牌十字槍ヴェクサードをアイテムボックスに仕舞う。

 ヘルメを左目に納めた。


 俺たちはクナの誘導を受けて魔迷宮の一階に転移。


「きゃ……」


 ルマルディさんは<夜目>系のスキルがないらしく、驚いて、抱きついてきた。

 俺は半袖衣装の薄着だ。ルマルディさんのダイナミックな胸の膨らみが、その薄着と直の肌にダイレクトに伝わって、にんまりとする。

 転移した先は、※いしのなかにいる※というぐらいに真っ暗だったからな、驚く気持ちは分かる。

 が、その瞬間――殺気を感じた。

 その殺気の主は暗闇に浮かぶ真っ白い双眸……。


 そう。それは隣のユイさんだった。少し安心は、できない。

 ユイは<ベイカラの瞳>を発動させて、俺とルマルディさんを凝視していた。

 すぐにルマルディさんの両肩を持ち、彼女から離れた。


「しゅ、シュウヤさん、ありがとう」

「いいさ」


 <無影歩>が取り込んだ<暗者適応>に<夜目>の効果は抜群だ。

 眷属たちは白い目で見るが、気にしない。


 すると、クナが、月霊樹の大杖を掲げる。

 全身から魔力を放出した。


「では、<魔吸大法>を行います――」


 そう語ると、紐のような魔線の群れと繋がる朱雀ノ星宿を頭上に浮かばせる。

 あの朱雀ノ星宿という魔法書は羽根のように軽い。

 クナは、月霊樹の大杖と、朱雀ノ星宿を使うようだ。

 そのままオーガズムを感じたように体を悩ましく震わせる。

 腰にぶら下がる逆絵魔ノ霓という名前の小さい額縁のアイテムは使わない。

 あの腰の逆絵魔ノ霓は、白色の貴婦人討伐作戦とフィナプルスの夜会の時に役に立った。


 皆の魔力を包括的に扱うことのできる極めて重要なアイテムだ。


 勿論、スキルあっての代物だが、その腰の逆絵魔ノ霓を使わないクナは……月霊樹の大杖と朱雀ノ星宿の効果で、俺たち以外の、周囲の魔力を体内に吸収。


 掲げた月霊樹の大杖も魔力を吸収している。

 その月霊樹の大杖の先端が、俄に閃光を放った瞬間――。


 前と左右の壁が蠢く。その蠢いた壁の内部から地響きが聞こえた。

 すると、蠢いた壁が、細かく分裂してブロック体となった。

 ブロック体は、左右の壁の中へと、障子を格納するように消失。

 瞬く間に、隘路のような迷宮を構成していた壁が直線的な通路に様変わり。

 アルルカンの把神書が「ひゅ~」といった口笛を鳴らす。


 アルルカンは、前と同じく、クナの高レベルの魔法技術に感心したようだ。


「完了、昔と変わらない~♪ わたしの分身体はこの通路を使わなかったようですね」

「ここって、魔迷宮の一階だよな」

「はい、冒険者たちが多い通路の一部に繋がっています。魔迷宮の一部を改造した名残ですよ」


 クナは迷宮の管理者ではないのに改造ができることが凄い。


「迷宮を操作してもサビードは気付かないのか?」

「今、中にいれば気付くかもしれません。しかし、過去に許可を頂いた際に、改造を施した転移魔法陣の利用ですから、まず、バレることはないかと」

「管理者が?」

「はい。この魔迷宮は広い。更に言えば時間が経ちすぎて、至るところに綻びがある。わたしの魔力と関係した仕掛けも至る所に設置してある。幸い、分身体も、今の部分は、手が出なかったようです。分身体も魔法に関してだけは優秀でしたから弄られていてもオカシクはなかったのですが。まぁ、わたしでさえ苦労する。この迷宮機構は複雑極まっているのでご理解いただけかと……ですから、管理者のサビードも、まず、気付かないと思います」

「管理者といってもすべてを把握しているわけではないんだな」

「はい」

「魔迷宮では、闇神様の力が強まるとかは?」

「下層に行けば狭間ヴェイルも弱まりますから、当然、強まります」

「直に魔界とは繋がってないんだろう?」

「勿論、しかし、七魔将の中には、傷場ができてしまう可能性のある……危険極まりない魔界に通じるための手段を研究している者もいますよ」

「その七魔将の名は?」

「七魔将リフル。強欲のリフルと呼ばれています。闇神様以外にも、欲望の王ザンスインも信奉していると噂がありますが、さすがに噂でしょう」

「へぇ……話したことはある?」

「サビードと話をしていたのを見たことがあるだけです。じかにはないです」

「そっか、この魔迷宮についての質問もある。今、大丈夫か?」

「なんなりと」

「前に、冒険者たちの魂と魔力を吸い取るためと聞いたが、闇神リヴォグラフにちゃんと送れる物なのか?」

「はい、さすがに狭間ヴェイルを越える際に、大半を失います。しかし、それでも、取り込んだ魂と魔力は魔界セブドラの闇神リヴォグラフ様へと捧げることができるのです。ここは、一種の巨大魔神具と同じ。複雑極まりないという言葉に意味を込めたつもりです」


 と、語るが……。

 エルンスト大学に通うような魔法学生じゃない。

 魔法書をすんなり理解できているのは、スキルのお陰だからなぁ。


 まぁ古代の魔法書『黒き塊』に関しては、蘊蓄は多少なりに語れるが……。

 そのことは告げずに、


「……ゼレナードの施設にあった、あの巨大な魔神具と同じか。もしかして、そのゼレナードの地下施設にあったような、人族を怪物兵士に転化させる施設とか、ここの迷宮にはあるのか?」

「人族を怪物に変えるのは……錬成を極めてもかなり難しい。魔迷宮は、餌としての人族を呼び込むことに特化した迷宮。あのハンカイを捕らえて、魔宝石と一体化しているような特別な体を利用していたように……そして、無数の魂と魔力を魔界に送ることが、最重要課題。逆に、貴重な魂や魔力の消費を促す研究は魔迷宮ではあまり行われません」


 そう言うが、否定はしないから、在るところには在るということだろう。


「そっか、クナ。ありがとう、勉強になったよ」

「ウフフ、嬉しい……褒められた……あぁ……」

 

 恍惚とした顔色に変化したクナ。

 何もしていないのに、感じてその場でナヨってしまった。

 しかし、管理者の立場というか……。


「俺は、サビードと会っている。あのサビードなら、俺たちの存在に気付きそうだが」


 ふらふらと立ち上がったクナが、俺に抱きついてくると、また震えて崩れるが、エヴァが支えてあげていた。


「……エヴァちゃん、ありがとう」

「ん、クナ。これも」


 と、クナの濡れた下半身に布をかぶせていた。

 そのクナはふらつきながら、熱を帯びた視線を俺に向け、


「……仮にサビード・ケンツィルがシュウヤ様の魔力に気付いていたとしても、攻撃はしないと思いますよ。シュウヤ様を、自身の味方として呼び込むため必死になるぐらいでしょう」


 そう語るクナは唇を窄めて、唇だけの投げキッスを寄越すと、身を翻す。

 そのまま先の通路を皆で進む。


 少し歩いたところで、ルマルディさんに、


「俺たちはこのままヘカトレイルに戻りますが、アルルカンの把神書と一緒に来ますか?」

「はい。追っ手も帰還しているはず。シュウヤさんともっと話がしたい」

「俺もです」


 側を歩く金髪の美女のルマルディさんは微笑む。

 彼女はスタイルが抜群だ。


 と、あまり凝視はしない。


 俺は血文字でサラ、ベリーズ、ルシェル、ブッチと会話を行う。

 宙に浮かぶ血の文字は便利。


 5Gを超えた時空属性があるルシヴァル用のSNSを利用していく。


 <従者長>の紅虎の嵐は、ドミドーン博士とミエさんを守りつつ樹海の旧神ゴ・ラードの遺跡とサイデイルを繋ぐための地図作りと、分泌吸の匂手フェロモンズタッチも各地で実行中。


 そして、助太刀をした古代狼族の小隊との関係は続いていた。


 ハイグリアからもらった鍵爪の効果は、普通の通行手形よりも効果が高いことにも起因すると思うが、その古代狼族の小隊の中に、狼将の親族がいたらしく……親族の古代狼族の兵士とサラたちは仲良くなったと報告を受ける。


 そして、狼将が守る【幽刻の谷】の砦に案内を受けて、砦の大広間で酒盛り大会に発展。

 ブッチが、古代狼族の女兵士とイチャイチャを始めて、地図作りどころではなくなったと、更にサラとルシェルが血獣隊のママニとも連絡を取り合ったことも聞く。


 ベリーズからは個人的に会いたいとか熱い告白めいた血文字が出ては、ヴィーネとユイに、その血文字ごと両断される。


 血文字って切れるのか。

 と、二人には言えない。

 皆の表情を見て、怖くなったから無難に血文字を続けた。

 アルルカンの把神書と相棒が変な声を出していたが、無視。


 サラとルシェルにママニから、旧神ゴ・ラード対策を優先させたい博士派と、西の樹怪王軍団対策を優先させたいサイデイル重視派が血文字で喧嘩をしたことを知った。

 が、その喧嘩は一時的だった。

 元々<従者長>としての力を試すためもあったサラたちは、根本のサイデイルの守りを優先すべきと、意見を纏める。

  

 血獣隊と連絡を取りながらソプラ&レネと合流することになった。

 一端、地図作り&遺跡調査を中断し、帰還を決める。

 シュヘリアたちが討伐&探索に出た水晶池のこともあるだろうからな。


 そのままソプラ&レネの優秀な機動力を有した弓部隊と連携を取りつつサイデイルの西の出城に集まることが決まった。


 オフィーリアも、そのサイデイルの西の防衛に加わりたい。

 と、続いて、ツラヌキ団の小柄獣人ノイルランナーたちもキッシュに直談判。


 俺としては辛いことが続いた彼女たちには、戦いから一線を退いてほしかったが……。

 キッシュとの血文字のやりとりでは、そのことは告げず。

 彼女たちの判断に任せた。


 墓掘り人たちは、女王キッシュの傍で軍師兼料理人のトン爺と一緒に話し合い。

 そこに、警邏から【光魔の騎士】の将軍デルハウトが帰還。

 更に、モガ&ネームス、バング婆、ハンカイ、エブエ、異獣ドミネーター、ソロボ&クエマも話に加わった。ソロボ&クエマは内容はあまり理解できてないと思うが……。


 軍議によって、墓掘り人たちはサイデイルの防衛隊に入ることになった。


 指揮系統はキッシュとデルハウトに従うのみが、共通認識。

 今後は俺のパーティーに加わるメンバーも出るはず。


 だから、今はまだ、その認識でいい。


 レベッカから、もう一人の光魔の騎士、将軍シュヘリアが、ラファエルたちを連れて水晶池から帰還したと、その水晶池から少し離れた樹海の窪地で、樹海王の軍勢と戦ったと報告を受ける。


 その戦いに勝利したシュヘリアたちは、軍議に間に合わず逸品居で休憩。

 その逸品居では、亜神夫婦から特別な料理を皆が振る舞われたと。

 レベッカが興奮しながら美味しそうな料理を解説する報告を寄越す。

 そして、ドナガンとゴルっちの共作も出たと。

 種と粉の謎めいた力の結晶と呼ばれた、今まで、見たことのない渦を巻いたフルーツを食べさせてもらった。と、自慢してきた。サイデイルに戻った時に見てみたい。

 そして、ラファエル、エマサッド、ダブルフェイス、エルザと一緒に楽しく酒を飲んだこと、アリスとナナは、フルーツジュースを飲んだことの報告を受ける。その際、俺たちの動向をレベッカがラファエルたちに伝えてくれた。アリスとナナの子供組は、ラファエルの魂王の額縁の玩具絵画のショーを楽しみ、ナーマさんからも、古いオセベリアの南部に伝わるお伽噺を聞かせてもらっていた。


『わたしもそのお伽噺を楽しんだ。古い魔道具で切ない恋人同士に繋がるお話だったんだ。……胸がきゅんってなったから、シュウヤにも聞かせてあげたいな』


 と、乙女なレベッカからの血文字SNSだ。


 そのレベッカはウェイトレス風のジョディと一緒に元気になったナーマさんを連れてサイデイルの城下町を案内。そのナーマさんは、『サイデイルで魔道具店を開きたい』とかで、キッシュから許可を得た。


 鑑定屋のオカオさんにも興味を抱いていたようで、聞いてくれと頼まれたが、そのオカオさんの仕事ぶりは冒険者ギルドでの仕事しか知らないから、レベッカのほうが商売に関しては得意だろうと、血文字を振っておいた。


 そして、蜘蛛娘アキが口と後部から出した糸を使って特別な衣服をナーマさんと、サナさん&ヒナさんにプレゼントしたとも報告を受ける。


『そのサナさんとヒナさんのことだけど、言葉がまだ完全じゃないのよね』


 サナさんとヒナさんは、異世界日本出身。

 翻訳スキルもない。

 南マハハイム共通語を勉強中の身だ。

 日本語の通訳ができる存在は異獣ドミネーターしかいない状況だからな。

 俺もそうだが、その異獣ドミネーターは彼女たちの専属のお守りではない。

 異世界日本組の二人は、まだまだ皆とコミュニケーションを取れていない。

 その分、生活が大変と分かるが、まぁ、少しずつ言語習得に努めてくれればいい。


 だから、身振り手振りのたどたどしい共通語で、サイデイルの戦いについて質問を受けたレベッカ。

 しかし、その共通語は、クエマ&ソロボのオーク語が混じった言語になっていたらしく……。

 レベッカとナーマさんは混乱。

 あまり意思疎通ができなかったようだ。


『たぶん、防衛隊に参加したい、戦いたいってことだと思う』


 と、レベッカは彼女たちのジェスチャーから気持ちを推察。

 サイデイル防衛隊か、さすがになぁ。


 戦争が激しい異世界日本出身の魔術師で戦魔ノ英傑の、音なしの又兵衛を出せるとはいえ……女子高生の年齢だ。戦争への参加は賛成できない。


 ダンジョンマスターとなったスズミヤ・アケミさんのような、生きるために戦うしかない状況ならいざ知らず、サイデイルの防衛は盤石に近い。

 戦魔ノ英傑を使えないヒナさんも戦えるからといって、コミュニケーションも取れない中、無理に二人を戦いに参加させるほど、女王キッシュもアホじゃないだろう。


 聞くところによると、十二名家が所有する兵器のような立場だった魔術師が彼女たちだ。

 平和なサイデイルの環境で、語学の勉強の毎日は退屈なのかもしれない……。


 しかし、転生直後の他の日本人たちの命を考えれば、命があるだけでもな……。

 はっきりいって、外は地獄に近い。

 都市の中でさえ何があるか……。

 前にも彼女たちに話をしたが、焦る必要はないんだからな。

 ゆっくりと訓練をしながら慣れてほしいもんだ。


 そうして、血文字のコミュニケーションを終える。

 俺たちは魔迷宮の狩りに向かう冒険者たちに混ざった。


 狩りに向かう冒険者たちの様子を見て……。

 冒険者に成り立ての頃を思い出す。

 クナに騙される前にヴァライダス蟲宮を探索したっけ。


 キッシュとの出会いと、魔竜王討伐と……。

 戻ったぞ、ヘカトレイル! I'm Backだ。

 との思いを胸に抱きながら、転移魔法陣に入る。


 ヘカトレイルの冒険者ギルドに無事に転移――。

 冒険者ギルドは、がやがやと相変わらずの騒がしさ。

 他の冒険者の邪魔にならないように転移陣から出た。

 前と変わらない板の間。その床を踏みながら……。


 ――おっぱい受付嬢の姿を探す。

 ……彼女の名を聞きたいところだ。


 受付は混雑している。ここからでは見えない。

 どこも冒険者だらけだ。

 肩に乗せた相棒の体重を感じながら、皆を連れて冒険者ギルド内を歩く。


「――懐かしい」


 天井の明かりを見ながら、そう発言。

 刹那、視界に現れた小型ヘルメとヴェニューたち。

 上のほうを、スイスイと、平泳ぎしながら、


『ここが、閣下の……』


 と思念を寄越す。

 そのままヴェニューたちを伴いながら消えていく。


「ん、シュウヤの初めての冒険者ギルド」

「そうだ。ここが俺の冒険者としての出発点」

「聞いている以上に人が多い。あ、でも、依頼が貼られたボードの前は案外空いています」


 キサラは、ヤゼカポスの短剣の柄を触りながら周囲を探っていた。

 そのキサラは百鬼道の魔導書の力で、短い丈のシフトドレス系の魔導服に変身している。


「キサラは久しく冒険者ギルドを見ていないよな。昔とはそう大差ない?」

「……はい。たぶん。ゴルディクス大砂漠地方では、仕事の依頼などは冒険者も酒場がメインでしたから」

「そっか。よし、俺も冒険者だ。久しぶりに、依頼を見よう」


 AランクからSランクのボード前に移動。

 ここはさすがに冒険者の数が少ない。


 そして、皆、強者ばかりと予想。

 と、近くに見知った者が……。


 俺は、皆に向けて、


「知り合いだ、挨拶する」

「ん」

「え……」


 ルマルディさんはヴィーネの背後に隠れた。

 アルルカンの把神書は俺の肩の相棒の背後に移動している。


「誰でしょう、あ」


 ヴィーネは気付いた。


『あの強者のエルフ、閣下と約束をした方ですね』

『そうだ』


 ヘルメに同意。


「血長耳か」


 と、ユイの言葉に頷く。

 皆を連れながら、そのエルフの近くに向かう。

 長髪の隻眼エルフは俺に気付くと、


「おお、シュウヤさん!」

「どうも、レドンドさん」


 魔力の備わった眼帯よりも、額から顎まで一直線の縦の傷は目立つ。

 紺と白を基調とした防護服。

 天凜堂の戦いの時の甲冑ではない。

 前のまま、丸みを帯びたオフタートルの襟に、両肩が無防備な服。

 右胸にある小型の白鯨の紋章は変わらない。

 インナー系の特殊繊維服。

 下腹部は筋肉のシックスパックを晒している。

 背中に吊るした剣帯から腰の横に出た柄がメイン武器。


 風の力を宿した反った三日月刀だろう。


 そのレドンドさんは、皆を見て、


「……【天凜の月】の会合でもあるのですか?」

「似たような感じですよ。今日はひさしぶりに冒険者ギルドにきたので、依頼でも見ようと」

「もしや、いつぞやの、地下探索の約束のことを覚えていてくれたのですかな」

「勿論、覚えています」


 レドンドさんの前にある依頼紙を見る。


 依頼主:六面六足のエレファント・ゴオダ商会。

 依頼内容:Sランク:マハハイム山脈地下【古エルフの大回廊】の探索。

 応募期間:無期限。

 討伐対象:問わず。

 生息地域:問わず。

 報酬:地下地図と討伐モンスター素材に発見したアイテム類。実力者を求む:前金で白金貨二十枚。

 討伐証拠:なし。

 注意事項:地下故、命知らずのかたを求む。

 備考:危険。地図作りのメンバー募集中。


「依頼のメンバーはどうですか?」

「三人集まりましたが、まだ足りません。レフテン王国のほうがメンバーは集まりやすいとは思いますが、血長耳のメンバーとしての活動もありますので」

「そうですか」

「シュウヤさん、どうです? 一緒に」

「そうですね……。色々と仕事がありますので、それが、終わってからでよければ、東の探索もあるので」

「東の探索が終わり次第、この依頼を受けてくれるので?」

「はい。なんなら、今、この依頼を受けておくだけ、受けましょうか」

「おおおお、ありがとう! シュウヤさんが加わってくれれば……こ、これは急ぎ、盟主にも連絡すべき事象です。いやぁ嬉しいですな……」


 と、渋くダンディーなレドンドさんが喜んでくれた。


「ん、ひさしぶりに冒険者依頼?」


 俺がエヴァに返事をする前に、相棒が、


「にゃお~」


 と、右前足を上げてエヴァに返事をした。


「ふふ」

「そう。約束したからな」

「わぁ~面白そうね、父さんに相談して、シュウヤの冒険者組に入れてもらおうかな」

「ん、わたしはいく!」

「地下……長くなりそうですね」


 クナは遠慮したいようだが。

 皆の顔色は違う。


「当然、いきます。ダモアヌンの魔槍とわたしはシュウヤ様の矛!」

「ご主人様、東の探索とは、シェイルの魔宝石ですか?」

「そうなる」


 すると、ルマルディさんも、


「……ベファリッツ大帝国の遺跡探索ですね。マハハイム山脈地下からエルフの皇都へ繋がると云われている古エルフの大回廊……シュウヤさんはこれを受けるのですか?」

「そうだよ。俺は冒険者でもある」

「冒険者……」


 ルマルディさんはアルルカンの把神書をチラッと見て、俺を見る。


「ルマルディ。何を遠慮する。シュウヤに付いていくならさっさと気持ちを表せ」

「あ、あ、うん、シュウヤさんが行くなら、わたしもついていきたい」

「いいよ。ルマルディさんは、冒険者登録をしてあるのかな? 空戦魔導師ってそもそもが軍隊的な存在だから無理とかありそうだ」


 その瞬間――レドンドさんから殺気が出る。

 ルマルディさんを凝視。


「……ま、まさか、空極か……」

「そう。セナアプアではお世話さま。でも、もうわたしはあの頃のような【円空】の空戦魔導師ではないし、その【円空】とも、揉めたんだ。塔烈都市セナアプアから追われる立場なの」

「……盟主と互角以上に戦った貴女が、追われる立場とは、何をしでかしたんですか」

「よくあることよ、身内に悪人がいたってだけ」

「……それは評議員ヒューゴ・クアレスマか」

「そう。ま、大本はドイガルガ上院評議員よ」

「ピサード大商会の裏か、【闇の八巨星】からサーマリアの公爵やらと色々と関わる奴だ」

「……レドンドさん、彼女は俺の大事な友で、好きな女性だ。喧嘩をしたらどうなるか分かるな?」

「勿論、喧嘩なんて売りません」


 レドンドさんはそう言うが、ルマルディさんを虎視。

 そのルマルディさんはレドンドさんには目もくれず、俺を凝視。


「……シュウヤさん」


 頬を朱色に染めて、動揺するルマルディさんだ。

 可愛い。


「ルマルディさん、俺がいる限りは追っ手から守るよ。それと、気持ちを返す意味はないが……いつ何時戦いになるか分からない。力が落ちたままでは不安だろうし、この同極の心格子ブレスレットは、ルマルディさんが持っていたほうがいいと思うが」

「それはそうですが、アルルカンの把神書を扱えるのですよ?」

「ルマルディ、わからねぇのか。シュウヤは、お前のことが気に入っているんだよ。まったく、処女で長く恋をしてねぇから、下手をこく」


 アルルカンの把神書がそう語った瞬間、ルマルディさんは眉宇を傾け、怒った。

 素早くアルルカンの把神書を掴む。


「処女、で悪かったわね! アルルカン――折り曲げられたい?」

「う、わ、悪かったから……は、離して」


 と、驚く。

 意外に身体能力があるルマルディさんだった。


「あ、これは冗談ですから――」


 俺が驚いていると、すぐにアルルカンの把神書を離すルマルディさん。

 両手を背中に回して依頼の紙を見る振りをしながら、俺をチラチラと何回も見ている。


 可愛い。


 その瞬間、ヴィーネとユイが、俺の腕を掴んで抓ってきた。


「ご主人様、依頼を受けるならさっさと受けて、外に行きましょうか!」

「ん、賛成」

「そうね、シュウヤと知り合ったラビウス爺の彫像を見たいかな~」

「シュウヤ様がよくアイテムボックスから出される食事も気になります」

「にゃ~」


 相棒がキサラに同意するように肩をぽんぽんと叩く。


「分かった分かった。ではレドンドさん、依頼を受けてきますから、用事が済んだら、またここにくればいいですか?」

「あ、できればですが、血長耳のヘカトレイル支部に来ていただきたい」

「了解しました。といいたいですが、支部の場所は皆に聞かないと分かりませんが」

「では、すぐにでも案内しますが、お仕事のほうは大丈夫ですかな」

「はい、大丈夫です」

「では、行きましょうか。ヘカトレイルの支部にご案内しますよ。支部長のクリドススも居るかもです。その際に依頼を受けた三人の冒険者を紹介しましょう」

「お願いします」


 俺はその場で、皆に目配せ。

 速やかに冒険者ギルドの受付に向かう。


 と、丁度、冒険者ギルドが空きだした。

 そして、受付台の前にすんなりと移動する。


 そこで、おっぱい受付嬢と視線があった。


「ああああ~!」


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