五百九十二話 アルルカンの把神書
クナの店に繋がる扉も頑丈で特別だ。
その扉からトン、トン、トントントンと音が響く。
指で扉を叩いて、こちらの反応を窺っている?
モールス信号のような音だ。掌握察の技術と魔察眼で、その扉を叩く人物のシルエットを感じ見た。クナの店に続くこの扉は特別。魔力探査を妨害するが……俺の魔察眼と掌握察の技術もそれなりにある。掌握察で、扉向こうの魔力が、人の形と分かった。
かなり繊細な魔力操作技術の持ち主。魔術師系の人物と予想。
「友好的な方でしょうか」
キサラはダモアヌンの魔槍を短く持ちながら語る。頷きながら、
「たぶん、だとしても、警戒はしよう」
初見は様子を見るタイプ。理性的な相手と予想はできる。
「はい」
「で、クナ、本当に扉の向こうの存在は鑑定人オカオさんと贋作屋ヒョアンさんではないんだよな?」
「はい。二人とは〝闇のリスト〟専用の隠し部屋で落ち合う予定でした」
「そっか……」
扉の向こうの存在は見知らぬ人物か。
「いきなり攻撃を受けるかもしれない。が、会ってみたい。皆、いいかな?」
「構いません」
「了解しました」
キサラとヴィーネが即答。
「いいけど、その魔界の書物は仕舞ったほうが無難」
<ベイカラの瞳>を発動したユイは、俺から見えるのは横顔のみだが、その顎と耳元のラインが美しい。ユイは神鬼・霊風を抜いて構えている。
血を纏う左足の爪先と、神鬼・霊風の切っ先を、扉の先へと向けていた。
扉を開けた途端、突き技で、相手の喉元を貫くイメージだろう。
「向こう側の存在は、そのフィナプルスの夜会が目当てでしょうか」
ヴィーネもそう発言。
「タイミング的に、可能性は高いな」
「ん、そこの扉の鍵は?」
「俺が持っている。あ、クナ、開けないでいい」
扉を開けようとしたクナに忠告。
「はい」
と頷いたクナは、俺と眷属たちに目配せしつつ、後退。
「向こう側が、魔法タイプの敵だとしても、ここは狭い……」
ヴィーネはユイと目を合わせ頷き合う。光魔ルシヴァルの剣術姉妹。
前衛コンビの実力は高い。
ガドリセスの柄に指を当てていたヴィーネが、
「……少し下がります」
ヴィーネはユイに前衛を任せるつもりのようだ。
そのヴィーネとユイにも視線を向けて、
「俺が開ける。いきなり襲い掛かってきたら、その初撃は俺が受け持とう。その後は頼む。だから二人とも少し下がれ」
「……うん」
「はい」
痛いのは嫌だが、皆に傷は与えたくない。
それに俺には
装備は
すると、子猫姿の相棒が「ンン」と鳴いて、俺の足下に降りた。
エジプト座りで、きょとんとしている。頑丈な扉をジッと見つめていた。
扉に対して爪研ぎはしない。相棒も状況は理解している。
そんな相棒を見て過去の出来事を思い出した。
それはペルネーテの【迷宮の宿り月】での思い出。
二階の部屋から渡り廊下に出た時かな。相棒は、廊下から続く一階に向かう階段の手摺りを滑って降りていた。尻が焦げ付くって感じだったが。
その先に降りた
あの宿屋の玄関口には、まだ
可愛い思い出だよな、と今の
「ヘルメ――」
瞬時に左目から出た液体のヘルメ。
着水すると、小さい相棒を跨ぐ形で、美しい常闇の水精霊ヘルメが現れた。
「――閣下、防御&攻撃はお任せを」
「ンン、にゃ~」
「ぁぅん、はぅ……」
首から出た触手の先端は丸いお豆型。
その触手で、ヘルメの大事なところをツンツク突いたらしい。
ヘルメは「マリリン・モンロー」の有名なポーズを取る。
両手で衣の股間を押さえると……顔を真っ赤に染めて全身から水飛沫を発生させる。膝から崩れそうになった。右手に握る王牌十字槍ヴェクサードを地面に刺し、
「……開けるぞ」
と宣言。体勢を整えたヘルメを見て、微笑みながら、クナの鍵束の中にある一つの鍵を取る。
「了解~」
「はい」
「どうぞ、翡翠の
「ん、ロロちゃん! そこには悪戯しちゃだめ」
「にゃ~」
「ん、あぅ」
と、後ろに下がった相棒はエヴァの膝の上に乗って抱きついたようだ。
俺は気にせず、いや、気になるが、エヴァのほうは見ない。
扉の鍵穴に鍵を挿入し回す――ガチャッと小気味いい音が響いた。
「開けるからな~」
と言いながら、扉の取っ手を握り扉を開ける。
その先に立っていたのは、金髪のスタイル抜群の女性魔術師。
レベッカのような蒼色の左目と金色の右目のヘテロクロミア。
金色の右目のほうは、魔眼か。虹彩は毛細血管のようだ。
その小さい筋たちは輝く魔法の文字。
魔眼の極狭い範囲は魔力によって、空間の圧縮を受けているように湾曲していた。
すると、
「おぃぃ、こいつら、俺の鑑定を弾くぞ……しかも、蒼色の女は……」
魔眼を持つ女性の声ではない。その女性魔術師は魔眼を発動させたまま、驚いたような表情を浮かべると「え……」驚いて眉をひそめた。
「アルルカンの鑑定を弾くのね……」
同時に女性魔術師の肩に掛かっていた革紐が持ち上がった。
その革紐の先端にある分厚い魔術書が、その魔術師の眼前にゆらりと浮かぶ。
女性魔術師を守るつもりらしい。
一見はショルダーバッグ風だが、分厚い魔術書。
その浮いている魔術書から無数の魔線が噴出――。
女性魔術師のほうは、瞳が散大収縮しつつ一歩、二歩と後退。
手前の魔術書から出た魔線は触手のように蠢く。
魔術書は圧力を持った魔力を内包している。
魔術書の内部に、シュレゴス・ロード的な、何かが潜んでいる印象だ。
女性魔術師の背格好はヴィーネとヘルメに近い。
衣裳の模様は塔をモチーフにしているのか?
軍隊か? あ、シャルドネが新設した部隊とか?
地下オークションで優秀な戦闘奴隷を買っていた。
だが、あの時には居なかった。新しいメンバーでも雇った?
まずは挨拶。
「どうも……初めまして、シュウヤといいます」
「にゃ」
「こいつは相棒。名はロロディーヌ。愛称はロロ。ペット&使い魔でもあります。隣の女性はヘルメ。精霊です」
「こんにちはです、女魔術師と魔術書ちゃん」
とヘルメは挨拶。
「……こんにちは、え? 精霊様!?」
「そうか。道理で……しかし、意識のある人に変身が可能な精霊とは恐れ入る……種族特性の魔法を……」
そう喋るのは分厚い魔術書。低い声でエコーが掛かっている。
「閣下のお力と、水神アクレシス様の奇跡ですよ」
「……」
「にゃ~」
金髪の女魔術師は、足下で挨拶した神獣ロロディーヌを見る。
「……猫ちゃん……可愛い」
確かに可愛い相棒。
挨拶した片足を下ろして、また反対の片足を上げる。
『こっちのあしうらのほうが、ほうじゅんで、いいにくきゅうなのにゃ~』
とか、肉球判子を自慢する仕草だろうか。
「ン、にゃ~」
と
と、金髪の女性の体中から張り詰めていたようなモノが霧散した。
魔眼の効果だったのか、ヘテロクロミアではなくなる。
双眸は蒼色。耳は普通の長さだから人族かな。
角はないかな、しかし、スタイルがいい。
巨乳ってほどでもないが、豊かな胸。
細い腰もくびれて、足もすらりと長く細い足首が悩ましい。
ヴィーネとヘルメに近い。太股らへんの衣装が、妙にエロい。
クナのような妖艶な雰囲気もある。
そして、男のハートを自然と掴むように、にっこりと笑う金髪の女性。
ところが、
「おい、ルマルディ! 気を抜くな!」
分厚い魔術書が喋った。しかも、低音でエコーが掛かっている。
アドゥムブラリ系か?
「……無理、この可愛さよ? 黒猫ちゃんが、わたしに挨拶してくれるのって生まれて初めてだし、しかも、肉球を見せて……あぁぁ、今も……」
魔術書が喋るとか驚きだが……。
女性魔術師の名はルマルディさんか。
金色の髪も綺麗だし魅力的だ。分厚い魔術書は動く。
「――あぁぁ、その猫魔獣の見た目の可愛さに惑わされるな……俺の鑑定を弾く者たちが多い……少し見えた女の槍使いも強者だ……気を付けろ」
分厚い魔術書は、渋い声で、警戒を促す。
だが、ルマルディさんの気持ちは分かる。
普遍的に小さい子猫は可愛いからな。
すると、警戒していた眷属たちから微笑みの声が漏れる。
背後の皆は、武器を仕舞ったようだ。
「気持ちは分かる」
と俺と同じことを考えていたユイが発言。
「シュウヤ様、喋る魔術書です……珍しい。危険かもしれません」
鑑定を受けたキサラは警戒している。
分厚い魔術書は、ルマルディさんに俺たちのことを警戒を促しているし、当然か。
分厚い魔術書の四隅はゴシック調の金属。
表面の中心には、小さい曼荼羅魔法陣の模様がある。
その魔法陣の中心に、魔力の点があり、その一点に魔力が密集している。
中心の内部は、凄まじい質の魔力が、ぎゅうぎゅうに詰まった状態。
細かな魔力同士が反発しているのか?
魔力同士が引き合っているのか?
その小さい曼荼羅魔法陣から放射状に出た魔力の網。
それらが折り重なって分厚い魔術書を構成しているようにも見えた。
魔線が密集した<導想魔手>と同じ?
しかし、一見は中世風の魔術書……。
俺の魔察眼では解析は不可能だと思ったほうが妥当。
なにしろ、意識のある魔術書だ。
あらゆる偽装魔術と結界を、自然に展開しているのかもしれない。
その偽装魔術か不明な魔法を身に纏う魔術書の表紙に――。
突然、片目が出現。片目は、俺を睨む――こえぇぇぇ鳥肌が立つ……。
あれ、片目は消えた……とりあえず、彼女はルマルディと呼ばれていたが。
名前を聞くとしよう。
「……名前はルマルディさんですね」
「そうよ。わたしの名はルマルディ。空戦魔道師の一人だった。この喋る魔術書はアルルカンの把神書」
渋い声の、分厚い魔術書の名は、アルルカンの把神書か。
把神書ってなんだろう。神クラス?
アドゥムブラリは、魔界では、魔侯爵級とか呼ばれていたようだが……。
亜神とか、荒神とか、旧神に属する神々のことだろうか……。
その魔術書のことは指摘せず、
「……どうして、ここに?」
と聞きながら、ルマルディさんの背後を確認。
クナの店の様子は、アイテム類はないが、棚はちゃんと並んで掃除も行き届いている。
すると、手前のルマルディさんが、
「アルルカンが、魔書に反応したから興味を持ったの」
フィナプルスの夜会のことか。
「魔書?」
「あぁ、わたしたちは略して言っているだけ。未知の魔法が記された魔術書か、禁忌の魔造書か、珍しい魔術書とアルルカンが喋っていたのよ」
「その喋るアルルカンの把神書は、珍しい魔術書を探知できる力があるのですね」
「そう。でも……」
と視線を巡らせる。
「その珍しい魔術書は……」
ルマルディさんは鋭い視線を寄越しつつ、語る。
「さぁ……」
と誤魔化した。
ルマルディさんにフィナプルスの夜会を見せた場合はどうなるかな?
「……お前が魔書を隠したんだろう。分かっているぞ……
アルルカンの把神書は判断力がいい。地面に刺さっている風に見える王牌十字槍ヴェクサードを、独特の言い回しで、俺の武器と判断したようだ。右腕にあるアイテムボックスを把握したか。
「アルルカン、そう警戒しないの……」
「警戒するに決まっている。こいつは確実に、今までの空戦魔導師を超えた実力を持つ強者の一人。意識のある精霊を従えている存在だぞ」
「……うん。シュウヤさんと言ったわね。アルルカンが、こう喋っているのは動揺しているからなの、わたしは貴方と争う気はない。ただ、先も言ったように珍しい魔術書に興味を抱いただけだから、見せたくないのなら見せなくていい」
分厚いアルルカンは、さておき……このルマルディさんは、いい人っぽい。
「……そうですか」
俺は皆に目配せしてから、
「珍しい魔術書は、貴女の反応があったので仕舞いました。見たいだけなら、丁度調べようと思っていたところですから、見ますか?」
「え? 見せてくれるの?」
「争う気がない。その言葉が真実ならばの話です」
「本当よ。でも、わたしも……」
とルマルディさんは背後を気にする。
「ルマルディ! オセベリア王国に紛れ込むつもりか!」
クナの店の外から声が響く。
「……追われている?」
外の魔素の気配は多くなった。
「そう。追っ手はかなり潰したんだけど……まさかオセベリア王国の都市に堂々と侵入するとは……アルルカン、準備は大丈夫かしら」
「大丈夫だ。しかし、外の連中に加えて、このシュウヤと精霊と強者たちに……異質な黒猫が、敵となった場合は……俺でも厳しいぞ」
俺たちから襲うことはない。
「アルルカンさん。ご安心を、ルマルディさんの背中を狙ったりはしませんから」
アルルカンの把神書は、のっそりと、上向く。
魔力の漏れ方が、非常に怪しい。
「……本当だな?」
不気味なアルルカンの把神書が、聞いてきた。そのアルルカンの把神書を凝視しながら……。
「水神アクレシス様に誓おう。ルマルディさんとアルルカンの把神書が、俺たちを攻撃しない限りは、攻撃をしないと」
少しだけ気恥ずかしいが、体育祭で宣言する気分で喋った。
アルルカンの把神書は頷くように、四角い魔術書を傾けると、
「……分かった。信用しよう」
「ンン、にゃお~」
と相棒は鳴くと、瞬く間に黒豹の姿に変身。
「……え? 変身?」
「だから言っただろう。異質だと……もしや黒豹は幻獣か神獣の類いか……」
アルルカンの把神書がそう語る。
隠しても予想しているだろうし、真実を語る。
「その通り。ロロディーヌは神獣です」
「ンン」
相棒は後脚で首元を掻く。触手を使わずに。黒毛が少し散った。後脚で首を掻くたびに、同じタイミングで、その触手の先端から骨剣が、にょきにょき、と出入りする。
面白い。幻獣を宿したアーレイとヒュレミもポケットに居るが、今は出さない。
「シュウヤさんは魔槍使いなだけでなく、神獣と精霊様を使役する能力者でもあるってことか。戦闘職業を予測するのは不可能」
「……ルマルディ……シュウヤの言葉が、嘘ではないことを祈るしかない状況だぞ……外の人数は多い」
当たり前だが、アルルカンの把神書は掌握察系の技術も高いようだ。
さすがはインテリジェンスアイテム。
「外の気配は多いですし、さすがにオセべリアの衛兵隊と軍隊も気付くかと思います。シュウヤ様の許可次第ですが、皆で転移陣に入りますか? そして、転移する前に、再び、この特別な扉に鍵を掛ければ、ルマルディさんの追っ手も撒けると思いますよ。仮に、扉が破られたとしても、転移の魔法陣も弄って偽装を施します。罠のほうに誘導することも可能。紋章魔法陣
と妖艶なクナが発言。
「……転移陣……そこの魔法陣のこと?」
と金色の髪のルマルディさんが、エヴァたちの側にある魔法陣を指摘した。
「そうだ。俺たちはそこの転移陣に入る前に魔法書を調べようとしていた」
「そうでしたか、なら、お願いできるかしら。さすがに連戦はキツイ」
「……ルマルディ」
「アルルカン。心配しないの、今も自ら言ったでしょう、信用するしかないと……」
「それはそうだが……」
アルルカンの把神書の表紙には、先ほど出現させた目のようなモノは出現させていないが……俺と相棒を、凝視でもするように、ゆらりと動く。
「わたしたちを襲う気なら、もうとっくに戦いに移行しているはずよ」
「……それもそうか……俺もセナアプアで毒されたな」
「ふふ」
今のやりとりを見ていると、ルマルディさんとアルルカンの把神書は、相棒同士なのかもしれない。
「なら、信用を得た。ということでクナ。転移陣に入ろうか。皆もいいかな」
「ん、行こう」
「はい」
「にゃ、にゃ、にゃ~」
相棒は触手をエヴァとユイに向けていた。
「この肉球ちゃんを押すと、爪のような、小さい骨剣が出る!」
「ん、ロロちゃん、爪の形も変えられる!」
「にゃ~」
とあまりにユイから肉球ボタンを押された、お返しか。
ユイの頭部が、その
「あぅ~髪型がぁ~」
「ふふ」
エヴァは満面の笑顔。にぎにぎと、黒豆のような触手を握っていた。
一方、冷静なヴィーネは、
「外の敵はだれなのでしょう」
と指摘。隣のキサラも頷く。
ダモアヌンの魔槍の端をクナの店の外側に向けている。
ルマルディさんを見ると、
「セナアプナの空魔法士隊と空戦魔道師たちだと思う。それもかなりの強者が率いている部隊と予測できる。オセベリアに干渉するつもりもあるみたいだから」
「塔烈中立都市セナアプアとか呼ばれている都市だよな、三角州にある」
「そう」
「サーマリアと戦争中だが、レフテン王国でさえ切り崩すことに、躍起なオセベリア王国の侯爵が治めているヘカトレイルだぞ。そんな都市に、中隊かそれ以上の部隊を、堂々と派遣するとは、オセベリアに喧嘩を売る形にも見える……」
評議員たちが持つ空戦魔導師。エセル界の権益を巡る戦いだけでなく、色々と争っている話は、レザライサから聞いたことは覚えている。セナアプアを伏魔殿ならぬ魔窟と評していた。ルマルディさんと血長耳の関係性が気になる。
敵対関係だったら、それは追い追いか。
「わたしも、抑止力を期待して潜り込んだのだけど、追っ手の上層部は、オセベリア王国の軍隊なんて、気にしていないようね」
国と揉めても平気か。
それだけに中立を保てる自信と力と秘密がセナアプアにあるということだろう。
しかし、ルマルディさんとアルルカンの把神書は何をしたんだ?
気になるが……この扉は頑丈だ。
シャルドネも、クナが経営していた店だからこそ、敢えて残したと推測。
あの性格だと『関わるな』と、サメさんとキーキさんに止められたかな?
「分かった。無駄な争いは避ける。転移陣に入ってひとまず、避難しようか。ルマルディさんも中にどうぞ」
「ありがとう、冷静で凄く助かるよ」
「……シュウヤよ、信じているぞ」
ルマルディさんとアルルカンの把神書がそう語る。
ルマルディさんは扉を潜り入ってきた。
金色の髪が靡くルマルディさん。
右の首筋に小さいホクロがあった。項といい魅力的だ……。
そのことは指摘せず、
「……おう、じゃ、皆は先に魔法陣に入って転移してくれ。クナ、フィナプルスの夜会はあとだ。で、注意事項はあるか?」
「注意事項はあります。先にわたしが転移してきますので、暫し、お待ちを」
クナは転移陣に入ると消えたがパッと魔法陣が光った瞬間、クナが魔法陣の上に現れる。
「皆様、ただいまです」
「注意事項とは、先に転移した理由か」
「はい、時空属性以外の方が転移しますと、爆発する仕掛けがありました。もう解除したので、大丈夫です」
「え?」
「ん、本当、クナ?」
「はい」
「……解除……シュウヤ様、クナさんは、大丈夫ですよね」
「大丈夫なはず」
「キサラさん、不安ならここに残りますか?」
「いえ、入ります」
「ん――」
優しいエヴァが転移陣に入って消えると瞬く間に転移して戻ってくる。
「大丈夫。クナはあくどい部分が多い。けど、もうわたしたちは仲間で家族――」
にっこりと笑みを浮かべているエヴァが宣言。
クナの言葉が信用できると自ら体をはって示していた。
「エヴァちゃん……」
感動したように涙目になるクナ。
エヴァは再び魔法陣を使い、転移。
「いまさらよね、じゃ先に入るから――」
ユイが転移する魔法陣に足を踏み入れる。
「そうですよね、クナさん。ごめんなさい」
「いえ、その気持ちこそシュウヤ様のためになります」
「はい、では、わたしも先に」
キサラも魔法陣に入り転移。
相棒にもアイコンタクトを送り、頷く。
「ンン――」
黒豹のロロディーヌも転移陣に入り消えた。
「クナも、ヘルメもヴィーネも先に転移してくれ」
「「はい」」
その間に、クナの店の扉を閉めた。再び鍵も掛ける。
すると、
『ふん、アルルカンは、妾を見たらどうなるか!』
『我を見たら攻撃を受けると予測できる』
シュレゴス・ロードは蛸の足だしな。
『大主さま、綺麗なサラテュンさまは、そろそろ出番と考えてまヒュ!』
サラテンと、左腕に棲む者たちが、そんな思念を寄越す。
『まだ交渉段階。ヘルメでさえ動揺した相手だ。沙には悪いが、まだ出さないと思っておけ』
『なぬぅぅ、そもそも、妾にキッスを寄越さないことが気にくわん! そして、そして、早く早く、特別な、むふふ体験アンビリバボーの
『まだだ』
『ぐぬぬぬ。『御剣導技』の訓練はいいのかえ?』
『……この間も言っていたな。『御剣導技』とは剣技か?』
『その通り』
『……それは気になる』
『そうであろう……『神仙燕書』や『神淵残巻』の奥義書が密かに眠っているだろう場所も教えるぞえ、遠いがな』
『奥義書か。それはありがたい。沙は、俺の剣の師匠になりたいのか?』
『器は妾専用の器ぞ! 妾が、師匠になるのは当然の流れというもの。そ、それにだ、風槍流に対する思いが、妾にも伝わってくる……羨ましいのだ』
念話で照れるとは思わなかった。
『……』
その瞬間、腰の魔軍夜行ノ槍業が蠢く。
悪魔模様の立体的な珠玉から魔力が溢れ出る。
ルグファントの八怪卿が騒いだか。
魔界八槍卿の魔槍使いたち。(仮)の新しい槍の師匠たち。
皆、不満そうだ。
『……器よ、腰の魔軍夜行ノ槍業の奇っ怪な者共に槍技を教わるよりも、妾たちが教える『御剣導技』のほうを先に学ぶのじゃ! これは、剣だけではない。偉大な仙人に通じる武術の技なのだからな、槍技もあるのだぞ』
『へぇ、剣と付くから、剣だけかと思ったら、それは嬉しいな。しかし、沙。悪いが、俺はいずれイーゾン山脈にある八大墳墓に向かう。この魔軍夜行ノ槍業に棲まう八怪卿が一人、飛怪槍のグラドって名の爺さんと約束したんだ。他にも七人居る。合計八人の槍の師匠との条件でもある魔人武王と呼ぶべき者たちと戦うことになるかもしれないが……約束した』
『なんだと! 律儀な器め! 〝天地の霊気〟も扱えるようになるというのに』
天地の霊気。神界の技か。
『まぁそう怒るな。八怪卿から魔槍を学んだら、沙・羅・貂から武術を学ぶことはできないとか。違う門派は駄目じゃ! とか、下らない仕来りはないんだろう?』
『そんなものはない。あと物真似は零点じゃ』
『なら沙・羅・貂から『御剣導技』を学ばせてもらおう。『神仙燕書』とかも探そうじゃないか。俺はキッシュのためサイデイルに拠点を作ることに協力はしたが、本来の俺は、風来坊。精霊樹もあるし重要な拠点だが、俺に枕する場所なんてないんだからな。常に修業は続く、ラ・ケラーダの精神だ』
『……そ、そうか。時折、妾をドキッとさせる念話を寄越す器よな……サイデイルと子供たちのため、眷属たちのための行動だが……ラ・ケラーダが分からぬが、本来は枕する場所がないとは……常に他者を思いやる心を持つ器らしい、風雅な器らしい言葉でもあるのじゃ……まさに〝己達せんと欲して人を達せしむ〟』
トン爺の受け売りか?
『風雅か? そんなつもりは微塵もない。昔から変わらずだ。アキレス師匠の風槍流や古代狼族のアルデル師匠から影狼流を教わったように、俺なりに尊敬を込めて武術を学ぶ。ただ、影狼流は正式なスキルとして体現化ができなかった……』
『血穿の新しいスキルを獲得したではないか』
『あぁ、<血穿・炎狼牙>か』
『そのスキルこそ、古代狼族の影狼流の意思が宿るスキルである。短い戦いで獲得できたことが誉れぞ。妾の器なだけはある』
『……ありがとう。武術の成長も大事だが、綺麗な沙・羅・貂を傍でじっくりと楽しみたい思いもある』
と念話をしながら、サラテンの沙に魔力を送った。
『――ぁ、ぁん、急に魔力を……ぐぬぬ、不意打ちエロ魔力突きとは! しかも、妾だけにエロい魔力を送るとは器用な器じゃ! よぉぉし、我慢しよう!』
『大主さま、沙様が、鼻血と股間から厭らしい血を! 羅様と貂様がァァァァァ』
何故かイターシャの悲鳴が左腕から響く。
左腕の内部から剣戟音が響いたような気もする……。
左の掌にある<サラテンの秘術>の運命線のような傷から血が流れ出るし……。
『主! 我もほしい』
『いいが少しだぞ』
とシュレゴス・ロードの魔印がここぞとばかりにその血を吸う。
が、当に微々たる血しか吸わないシュレゴス・ロード、血の流れは続くが無難に念話をシャットアウト。するとクナの店から、
「この店の跡らしき場所が怪しい」
「入れ、侯爵の軍隊が来ようと地上の軍なぞ蹴散らせばいい」
「グリフォン隊が来たら、そうは言ってられないだろうが」
「戦争中だ。ここには来ない」
「来たとしても逃げればいい」
声が響いてきた。クナの店がまた荒らされるかな。
しかし、物々しい連中か。この扉は頑丈でクナは特別と語っていた。
だが……追跡者たちを率いる人物は優秀かもしれない。
壊してくるかもだ。ということで、俺もさっさと転移をするか。
「ご主人様、左腕から血が……」
ヴィーネだ。待っていてくれた。
「大丈夫、転移陣に入っていいぞ」
「いえ、ご主人様と一緒に入ります」
「分かった」
ヴィーネは俺の左腕を労るように触り、恍惚的な表情に変化させると、俺の血を吸ってきた。そして、細い指を俺の指に絡ませてくる。指の肌と関節からヴィーネの熱を感じた。
「……その握りが好きだな?」
「はい、わたしとご主人様の繋がりを意味する握りです」
ダークエルフの言葉にも何かありそうな語りよう。
ヴィーネは、恋人握りで俺の手をぎゅっと握る。
幸せそうな表情だ……頬を俺の胸元に当てて、寄り添ってくれた。
そして、
「ご主人様……」
「なんだ?」
「……」
俺の唇を物欲しそうにチラッと見たヴィーネ。目を瞑っていた。
キスを望むヴィーネは素直に可愛い。
自然と紫色の唇に……俺は唇を重ねていた。紫色の唇の襞を唇で労りつつも、強引に伸ばすようにヴィーネの唇と唾を吸う強いキスをする。
同時に<血魔力>を操作して血を送ると、
「――ん」
鼻息を荒げ、興奮したのか、俺の唇を噛む勢いで血と唾を吸う。
己の熱い気持ちを伝えるように抱きついて来るが、ヴィーネは感じたのか、体が震えると弛緩し倒れそうになった。そのヴィーネの愛しい背中を片手で支えながら唇を優しく離す「……」ヴィーネの唇から繋がる唾の糸がエロい。
潤んだ瞳で切なそうに見てきた。
そんなヴィーネの唾の糸と唾をヴィーネの体に浴びせるように鎖骨に唇を付けた。
「……ぁん」
喘ぎ声を発したヴィーネは体が上向く。
薄目で俺を見つめてきた。
「いやなら止めるぞ」
「や、止めるな! お願いします……」
素に戻っていたヴィーネだ。鎖骨の表面は硬いがいい。
そのまま唇で悪戯をするわけではないが……。
ヴィーネの胸の上部を唇で、くすぐるように移動させていく。
「あぁ……」
感じたヴィーネは体中から熱気が出た。おっぱいも柔らかい。
鎧衣服を強引にずらし、乳房をすべて出す。
ぽろろろん、と音はしないが、ニューぽよよん会が誕生した。
ヴィーネの心臓が高鳴っていると分かる。
天に刺さるように、きゅっと立つ乳首。
美しいヴィーネの乳首の錠前のような割れた窪みが可愛い。
そのピンク色の乳首に歯を当てると、
「あん……ご主人様」
ぎゅっと乳首と乳房が震える。
「あぁ……立っていられなくなります……」
切ない表情のヴィーネは、頬と首筋を斑に朱に染めていく、。
長いお耳を指で突いてから、
「あぅ」
「立っていなくていい、俺にすべてを預けろ」
「……はぃ」
青白い胸の色合いにも、朱色が混ざる。
ヴィーネは両手を俺の首に回して体を弛緩させた。
再び見つめ合ってからキスをくり返す。体ごと胸を押し付けてきたヴィーネを堪能。
バニラの香りを楽しみつつヴィーネを強く抱いてから……皆に遅れて、王牌十字槍ヴェクサードを掴みつつ、そのヴィーネと共に転移魔法陣に入った。
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