五百七十四話 蛸野郎のキュイズナー
俺を乗せたロロディーヌの突進に気づく
大量に自身の体から魔素を発しながら頭蓋骨の杖を掲げた。
「ベレエラを倒した槍使いめが……」
そう喋ったキュイズナーは、頭蓋骨の杖の角度を変える。
すると、その杖から砂が噴出。
砂は液体金属のように蠢くと、双頭の蛇を模った。
その二つの蛇頭たちは口を拡げ、その口から、これまた大量の砂を吐き出す。
「グアァァァァ――」
咆哮。口の前方の空間を撓ませ歪ませる。
魔力砂の影響か?
『相棒、警戒――』
俺の気持ちと連動する神獣ロロディーヌ。
飛翔してきた魔力砂は弾丸としての力もある。
俺たちが通り抜けた背後の、建物ごと仲間の怪物たちを蜂の巣にした。
魔力砂は砂でしかない、しかし、威力がある分浴びたら全身が細々とした穴だらけになりそうだ。
そして、その砂は防御能力でもあるように、蛸頭の周囲を回り出す。
蛸頭には烏賊のような耳も生えている。
お返しに相棒も、
「ニャゴァァァァ」
盛大な炎を返したが、魔力砂が何層もの壁を作り、相棒の炎の拡がりを防ぐ。
神獣の火炎をここまで完璧に防ぐのか。
と、思ったら、魔力砂の一部が剥がれて穴が空いていた。
キュイズナーは火炎のダメージを喰らう。
防護服が燃えて灰色の皮膚が爛れた。
しかし、瞬く間に自動回復。
「ロロ、今は回避に専念しろ、下もまだまだ数が多い」
「にゃ~」
右に旋回機動を取りつつ様子を窺う。
刹那、頭蓋骨の杖を持つキュイズナーの左後方に居た、地底神ロルガが、
「ルゲマルデンが魔法防御をし損じるとは、凄まじい火炎よ」
と、ロルガが部下のキュイズナーの名を出しつつ、闇の炎を身に纏う蜂たちを飛翔させてきた。
飛翔している相棒は、迅速に触手を展開。
次々と闇の炎を身に纏う蜂たちを貫く。
俺も<鎖>と《
《
<
闇の炎を身に纏う蜂たちをすべて撃破。
戦闘機がフレアを放つように、パッと赤黒い火花を出して散る闇の炎を身に纏う蜂。
「……避けつつ触手に魔法連撃……生意気な動きぞ……妾が、血名を授けた眷属ガルロを屠った未知なるモノと褒めるべきか……」
威圧感のある声が響く。
天凛堂の戦いはやはり覚えているよな。
そのロルガは腰掛けていた椅子から立ち上がる。
闇の炎を身に纏う蜂を周囲に生み出した。
魔力砂を射出してきたキュイズナーこと、ルゲマルデンが、
「ロルガ様の眷属を打ち破ったモノ。グンドァンの手合いではなかったのですね」
そう語りつつ、旋回中の俺たちに頭蓋骨の杖を向けてくる。
その頭蓋骨の杖から出現中の砂状の双頭の蛇も、俺たちを睨みつけてきた。
砂状の双頭の蛇は目付きが怖い。
すると、別の魔力砂が塵状のままルゲマルデンの周囲に漂う。
そのロルガの部下のルゲマルデンの喋る言語の質は、羊頭の巨漢大怪物の槍使いレターゲスと同じ発音。
「ルゲマルデン。壁に棲み着いた奴らではない……」
地底神ロルガがそう喋る。
壁に棲み着いた奴ら?
この独立都市フェーンに乗り込む際に、壁に文化圏を構築していた種族たちのことか?
そのルゲマルデンは、蛸のような頭部の口から無数の歯が付いた小さい触手たちを出して、
「では、我らとは違う他の世界からの来訪者?」
と、ロルガに対して、触手から奇妙な音を出して話をしていた。
何気に、蛸野郎の言葉は正解だ。
俺は転生者、転移者、来訪者、STRANGERだ。
「……ありえるだろう。この妾が支配する独立都市に攻め入る気概と、それを実行できる胆力を持つものぞ」
「はい、我の前でも堂々とした戦いぶりです」
「ふむ、妾の闇炎結界を打ち破る強い光を宿していた神獣も使役しておる。
「……光神教徒アビリムのような存在でありながら闇の眷属の力を持つ……では、災厄で自ら滅びた支配層エンティラマの子孫であると?」
そう地底神ロルガに聞く蛸魔術師のルゲマルデン。
災厄で自ら滅びた支配層エンティラマとは、初耳だ。
暁の帝国、エデンの果実、光神教徒アビリムは聞いたことがある。
ロルガは……鷹揚な態度で頷いた。
ゆったりとした雰囲気を醸し出すロルガ。
腰元の長い腕たちを持ち上げて、動かした。
指先で、ピアノでも弾くように上下に指を動かすと……。
その指先から小さい魔力の波が幾つも生み出された。
しかも、その魔力の波から、闇の炎を纏った蜂たちが次々と誕生。
それらの闇の炎を纏った蜂は、ルゲマルデンが作り出した空間の歪みを避けつつ飛翔していた。
もう、見ただけで分かる……。
こいつらヤヴァイ。
ゼレナード&アドホック級か?
実力を把握するのは魔察眼だけでは不可能だが、ある程度分かる。
カレウドスコープを起動――。
「……そうだ。魔のアーティファクトを幾つも造り上げたブロッセン氏族、闇渦の……ライマゼイ。森の転生神ゴッデスの使徒かもしれぬ。いや、地下を放浪してはいないか。暁ならば皇帝ハミルトンの血筋の可能性もある。証拠に、向こうで暴れている雷属性を扱う魔造生物たちがいる」
地底神ロルガはそう語りながら、戦場を指さす。
アーレイとヒュレミの魔造虎のことだろう。
その瞬間、地底神ロルガの額の魔宝石から、赤黒い太陽の魔力が溢れ出た。
赤黒い環状の金属が無数に重なった冠をロルガは装備。
額に魔力筋も幾つか誕生した。
カレウドスコープの数値がぶれてバグる。
数値も変化するが、ほとんど不明な文字群だ。
ルゲマルデンのほうも分かりやすいが、桁は違う。
カレウドスコープを解除。
「……光闇の魔槍使い。素早い神獣と雷属性の魔造生物を使役し、眷属たちを従えた存在」
「地上を破壊した災厄の……暁の帝国の秘蔵された力が扱えるのならば、侮れません……」
暁の帝国の関係者と俺たちを勘違いしているようだ。
その会話中にも、ロルガの額を注視。
蜂式ノ具を取り込んだであろう魔宝石を守るための、あの赤黒い環状の兜と予測。
ルゲマルデンは地底神ロルガの新しい形態を見て崇高な態度を取る。
宙空に居ながら頭を下げていた。
そして、おもむろに、蛸のような頭部を持ち上げると、神獣ロロディーヌか俺に向けて視線を寄越す。
すると、下から魔法の矢が迫った。
「ンン――」
相棒が翼の角度を変え加速――。
一瞬、その相棒は、口から小さい炎を出していた。
下に向けて炎を繰り出そうとするが、下は下で乱戦に近い。
ヘルメも戦っている。
誤爆が怖い。
「ロロ、今は我慢だ」
「ンン」
『した』『なかま』『つおい』『あめだま』『けむけむ』『みな』『まもる!』『にく』『たべる』『まもる』『さざ』『あそぶ』『さざ』『まもる』
怪物を倒して食べて、仲間を守りたいんだな。
首に付着している触手から温かい気持ちを伝えてくる相棒。
俺は相棒の後頭部を撫でた。
下にもまだ厄介な敵がいるようだが、問題は、この空中にいる二人だ。
ルゲマルデンは、魔眼的な力を使っている。
地底神ロルガの大眷属ってことか。
ヘルメとの会話が脳裏に過る。
キュイズナーも成長すると……。
そのルゲマルデンは、重低音のような声音を吐きながら、俺たちを凝視してきた。
そこで速度を加速したロロディーヌ。
また、下から迫った連続的に飛翔してくる粘液弾をささっと素早く避けた。
下の怪物は、腕の先端を分裂させていた奴らだ。
分裂した中央にある蛸の穴というか、肛門から、気色悪い粘液弾を出している。
レファ的に言えば〝うんこっと〟ミサイルだ。
最初にも思ったが、あんなのは喰らいたくない。
そういえば、下の奴とは正反対だが、亜神キゼレグも……。
腕をイギリスで「miss willmott's ghost」と呼ばれることのある銀花のような形にしては、綺麗な攻撃を繰り出していた。
相棒は器用に回転しながら粘液弾を避けていく。
しつこいから、下に出向いて先に一掃するか?
と思ったが、のっぺらぼう的な怪物たちは、すぐに氷の彫刻と化した。
ヘルメのナイスな氷槍の攻撃だ。
更に、リサナ&沸騎士の重低音を響かせる物理攻撃が、のっぺらぼう部隊と魔法の矢を繰り出していた植物の肌を持つ肉種怪物たちを駆逐していく。
そして、のっぺらぼう部隊の攻撃を避けつつ確実に各個撃破していたアーレイ&ヒュレミ。
だがしかし、植物の肌を持つ肉種怪物に捕まって大虎たちは動けなくなった。
すぐに沸騎士たちが駆け寄っていく。
ゼメタスとアドモスの、
「悪式・骨……」
「ソンリッサ~がぁぁ」
とかなんとか、叫び声と技名が色々と響いてきた。
ここらでは聞き取りにくい。
たぶん、難しい技名だ。
要するに、シールドバッシュからの骨剣の袈裟斬りで、大虎コンビは事なきを得る。
「――悪式・頭突き割り」
最後のゼメタスの気合いの入った頭突き攻撃は聞こえた。
肉腫怪物の頭部がヘッドスライディング機動のゼメタスに粉砕される光景は凄まじい。
助けられた
だが、四つ目のムカデ怪人は光槍を両断せしめた実力がある。
多腕を扱う技術も非常に高く素早い。
魔刀で大虎コンビにダメージを喰らわせては、フォローに入った沸騎士さえも往なす。
大虎コンビは傷だらけだ。
しかし、ユイとヴィーネとハンカイが合流。
そのユイたちが居た前衛戦線はモンスターの死骸だらけだった。
ユイとヴィーネとハンカイは接近戦のスペシャリストでもある。
魔刀を扱うムカデ怪人もかなり強いと思うが、滅多斬りにあった。
神鬼・霊風に邪竜剣ガドリセスに金剛樹の斧の連携武術。
スライム状に戻って逃げ出した、のっぺらぼう怪物も居る。
星屑のマントが似合う沸騎士コンビが、アーレイ&ヒュレミに飛び乗って、颯爽と突進。
スライムとなっていたのっぺらぼう怪物たちを踏みつけ潰しつつ戦場を掛けていく。
スライムを蒸発させるように倒していた。
近寄る肉腫怪物の頭部ごと胸元を抉る骨剣とシールドバッシュ。
思わず、目を擦る。魔界騎士とはあんな感じなのでは? と。
だがしかし、市街地戦のような場所で地形は悪い。
すぐに反撃を喰らう沸騎士&大虎コンビたち。
「閣下ァァァァァ」
「ニャア」
「ニャオォ」
と、情けない声を出して転倒していた。地面に転びつつも怪物を仕留めるあたりはさすがだ。
そして、立ち上がり、「魔界がなんたら、覇王――」とか、吼えている。
その暴れ具合に怪物たちを呼び寄せたのか、クエマとソロボにバーレンティンたちも合流するように、沸騎士たちとユイとヴィーネにハンカイと合流。
ビアと蜘蛛娘アキがいい連携で仕留めるのを見てから、レベッカたちを確認。
建物から下りようとしているが、高台で城のような感じになっている。
下からの攻撃に対処しやすく、上からなら迎撃も楽だし、空からの攻撃も対処はしやすいか。
ロゼバトフとトーリが下りて奮闘してから大蝙蝠に変身し建物の屋根に戻る。
ヒット&アウェイ戦術を繰り出していた。
まぁ大丈夫だろう。
再び、沸騎士たちを見る。
荒々しい突貫から突破口を開き、盾を振るって仲間の機動空間を確保する。
乱戦はゼメタスとアドモスの強さが目立つ形だ。
……さて、俺たちも、あのルゲマルデンと地底神ロルガに向か――。
と、いかんせん――、また避けた。
下からの飛び道具も多いが、ルゲマルデンを見る。
ルゲマルデンの頭蓋骨の杖と、砂状の双頭の蛇は、空間を歪ませる力もある。
そして、魔力砂は飛び道具の攻撃と防御層も構築できる。
空間の歪みに蓄積しつつある魔力溜まりも気になるが、守りが堅い。
ロルガの闇の炎を纏う蜂もあるから中々厄介だ。
だが、なんとかしねぇと。
――相棒は旋回。下は眷属たちに任せるとして……。
あまり隙がないが、とりあえず、また、両手の<鎖>を射出。
「チッ……」
「ロルガ様!」
ロルガは闇炎の蜂たちを操作。
ルゲマルデンは双頭の砂蛇が発した魔力砂で防御層を構築。
闇炎の蜂を無数に屠る<鎖>だったが、途中で闇の炎が纏わり付いて止まる。
魔力砂のほうも貫けず<鎖>は止まった。
<鎖>はすぐに消した。
ロロディーヌに乗っている俺を睨むロルガ。
急に弱気になったのか、身震いしてから、
「妾に通じる光の攻撃に……妾の、妾の眷属たちが押されておる」
と、発言。
我とか妾とか声の性質も変わるが、内部にもう一体の精神が潜むのか?
気のせいかな。
「ロルガ様、あやつらを逆に利用しましょうぞ。砂神セプトーンの荒ぶる心と双蛇神の力で捕らえましょう」
「……いや、捕らえることなど不可能であろう」
「そうでしょうか……ここは地底神ロルガ様の領域。我らの力も強まります」
「ふむ……ならばやってみようぞ、妾も用意する――」
酔狂な奴らだ。
俺を捕まえたいらしい。
地底神ロルガは、そう語ると、額の兜が覆う魔宝石から、また、赤黒い魔力を出す。
その一部の赤黒い魔力の塊はグワワワンといった重低音を発生させた。
音が鳴り響くと、その出た塊は闇色の巨大な蜂に変化。
蜂は、複眼に背中と翅も大きい。
その巨大な蜂の表面を長細い手が撫でると、蜂は闇の炎を纏った。
そして、肝心の魂の黄金道を確認。
消えかかっている魂の黄金道は、切れている。
その切れ端のような先端はヒラヒラとした動きで、ロルガの頭部を追い掛けるように動く。
魂の黄金道は、故郷でもある聖域に帰りたいと思っているのか?
魂としての作用が、蜂式ノ具に向かっているのかもしれない。
だが、それを頭部に取り込んだロルガ。
あの額にある魔宝石の中に蜂式ノ具は格納されている?
なら、魔宝石を奪えば……。
その直後、ルゲマルデンは頭蓋骨の杖を振るう。
魔力砂が集積。
瞬く間に刃を生成するとエヴァが扱う金属刃のような群れが飛んできた。
飛翔するロロディーヌは速度を上げ、その魔力砂が作り上げた刃を避ける。
追尾はなかった――。
だが、壁と激突したような音が響いてきた。
飛翔しつつ旋回ついでに、相棒の横の――。
視界の端を確認。
ルゲマルデンが放った魔力の刃は、都市を囲う巨大な壁と衝突した。
紫色の魔力が噴き上がっている。
そのルゲマルデンは宙を飛翔しながら、ロルガの下から離れて、俺たちを追尾してくる。
防御能力もあるし、攻撃にも転用が可能な魔砂を扱う大魔術師。
やはり、無難に、水で固めて直殴りかな。
と、思考した瞬間、ルゲマルデンはスキルめいたモノを発動させる。
増幅した魔力を体から発した。
更に、
「双蛇神ジェシアルバよ……奴らを、暗き混沌の世に閉じ込める、アーミテージせよ」
詠唱?
歪んだ空間が反応し、穴に変化。
小さい穴だが、宇宙空間のような黒いモノを覗かせる。
次元の穴なのか?
その次元を越えたような小さい穴から人の頭部が出た。
しかも、その頭部は、砂でできた小さい笛を口に咥えている。
笛吹き怪人だ――。
聞いたことのない砂笛の音を鳴らしながら出現。
あの蛸野郎のキュイズナー。
ただの大魔術師ではねぇな。
やはり、当初考えていた通り、ヤヴァイ奴だった。
砂笛の奇妙な音に警戒した相棒――。
触手を変化させて自身の耳を塞ぐ。
ついでに、俺の両耳も触手耳栓で塞いでくれた。
俺の首と顎の一部を覆う<霊血装・ルシヴァル>。
そのガスマスク形状の防具を、不満そうに肉球で叩いてくる相棒。
相棒的に、ガスマスクの形状は好きじゃないらしい。
たぶん、俺の頬に頭部を寄せる際に邪魔な装備としか認識していないんだろう。
「<霊盤キーン>」
笛怪人は音波を繰り出してくる。
音波は環の形に変わりながら、俺たちに向かってきた。
ドーナッツのような形で、物質化したモノだ。
あれで、俺たちを捕まえるつもりなのか。
双蛇神の力か?
が、あんなのは喰らわない。
《
ドーナッツの環を切断して対処した。
笛怪人に向かう《
ルゲマルデンは俺たちを見据えたまま、頭蓋骨の杖を荒々しく振るう。
すると、砂状の双頭の竜は自身の砂ごと、その頭蓋骨の杖の中へと引き込まれて消えた。
結構な魔力を消費するようだな。
一方、砂笛を吹く怪人はそのままだ。
その砂笛を吹く怪人を注視。
頭部は人とゴブリンを合わせたような形。
歪な四本腕から無数に生えた指で、形状がリアルタイムに変化する小さい砂笛を操作している。
そんな異質な笛を吹く怪人は薄汚れた包帯の衣を身に付けている。
その包帯の間から色彩豊かな眼球の群れが覗く。
体に複数の眼球を宿しているのか。
あの辺の姿は少しだけ、ナズ・オン将軍に近い。
しかし、そのナズ・オン系の唇を主体とした臭い息を吐く種族は見当たらない。
ドミネーターたちと激戦を繰り広げているレドームは四本腕で肉腫。
ということは、かなりレアな魔神帝国の将軍だったのか?
それより、ルゲマルデンが呼び出した笛吹き怪人だ。
俺と相棒の周りに紫電のような軌跡が生まれ散っている。
バチバチといった不協和音も響く。
相棒が俺の耳を塞いでも聞こえてきた。
侵食を受けそうな感じだが……。
自身の触手で耳を塞いでいる相棒も大丈夫だろう。
神獣の魔力か、精神力か、光魔ルシヴァルの力か、血魔剣の力か、不明だが――。
鐘の音は鳴っていないが……。
あの笛は徐々にダメージを蓄積するタイプかもしれない。
先に対処する。
俺たちは前進――。
笛の音を強める怪人は目が血走る。
音波の形状を魔力刃に変えて、それを凄まじい速度で、飛翔させてきた――。
不快な音と、魔力刃を見た相棒は、
「ンンン、にゃごぁぁぁ」
ビームのような火炎を吐く。
俺も<
ライフル弾のような夕闇の杭。
大きさは、人の腕ほどの氷矢。
俺の得意とする攻撃たちが、笛を奏でる怪人に向かう。
同時に右手が握る王牌十字槍ヴェクサードに魔力を送った。
右手から魔風のようなモノを感じたが、右手は見ない。
その瞬間、相棒の炎が、笛を奏でる怪人の胴体をあっさり貫く。
怪人が扱う笛ごと炭化させた。
背後に居たルゲマルデンは魔力を消費しているのか、動きが鈍かった。
神獣の炎は、その頭蓋骨の杖を持つルゲマルデンに向かう。
「――密界と双蛇神の使い手が!?」
ルゲマルデンは頭蓋骨の杖から、積層型の魔法陣を出した。
上下に分厚い魔法陣。
笛を吹く怪人を倒した相棒の炎を、斜め上へと弾く。
俺の<
やるな――だが、相手は俺たちだ。
「ンン」
加速したロロディーヌ。
その
四方に魔法陣を瞬時に生み出した。
魔力砂はもう出せないようだ。
リスクある召喚に力を使いすぎたかな。
ルゲマルデン自身は、右に逃げようとする。
追う――俺を乗せた相棒は右に向かう。
加速した相棒の勢いを、王牌十字槍ヴェクサードに乗せる。
そのまま、ルゲマルデンの積層型魔法陣に向けて、右手ごと矛と化す<水穿>を繰り出す。
右斜めに突き出る王牌十字槍ヴェクサードの水を纏う杭は、魔法陣を貫く。
ルゲマルデンは防ごうと、頭蓋骨の杖の柄を動かす。
だが、間に合わない。
水の杭は、頭蓋骨の杖の柄を滑りながら、ルゲマルデンの胸に吸い込まれた。
ずにゅりとした感触は柔らかい。
その瞬間、相棒の右半身から触手群が、その胸を穿ったルゲマルデンへと伸びた。
そのルゲマルデンの体に無数の触手骨剣が突き刺さる。
ドドドドドッと重低音が響く。
「グェァァ」
痛覚もある蛸頭のルゲマルデン。
そして、再生能力を有している。
俺が先ほど倒したキュイズナーより、確実にタフだ。
銀と紫が混ざる血を辺りに噴出させつつ頭蓋骨の杖を上下に振るう。
相棒の触手骨剣を払うルゲマルデン。
そして、七割がた回復したルゲマルデンは体に青白い魔法鎧を纏う。
更に、小さい魔法陣を周囲に生成していく。
その間に、右手の王牌十字槍ヴェクサードを引く。
王牌十字槍ヴェクサードの矛に触れた魔法鎧の部位と、小さい魔法陣の一部は消えていた。
その王牌十字槍ヴェクサードを上に投げる。
フリーハンドになった右手に魔槍杖バルドークを召喚。
慣性で落ちてくる王牌十字槍ヴェクサードを、<
イモリザは使わない。
相棒も触手を体に収斂。
ルゲマルデンは、頭蓋骨の杖を回転させると、円の魔法陣を宙に作る。
事前に作った小さい魔法陣と連携した、細い魔弾を射出してきた。
それら魔弾が、俺たちに迫るが、魔槍杖バルドークを回転させて防ぐ。
ロルガからも炎を纏う闇の蜂が迫る。
《
続いて<
ロルガの追撃をすべて払うと、ルゲマルデンは、
「……捕まえることは不可能か」
と呟く。
まだ、俺たちを捕らえるつもりなのか。
余裕だな……まぁ、このタフネスだ。
当然か。
蛸の頭部の口から魔息を吐きつつ蛇のような形の触手を、その口から吐き出してきた。
続いて、<水穿>で貫いた傷の内部から回復途中の内臓を武器にしたのか、とぐろを巻くように、内臓触手を伸ばしてきた。
そのタイミングで――。
「ンン、にゃ~」
と鳴いたロロディーヌが触手骨剣を巨大化。
大剣のような骨剣となると、ルゲマルデンが繰り出した攻撃をすべてたたき落とした。
「ナイスだ! 相棒!」
ロロディーヌに掛け声を発してから左手に神槍ガンジスを召喚。
「ンン――」
気持ちを汲み取った相棒は速度を加速させた。
同時に、火炎ビームを出し、地底神ロルガを牽制しつつ、ルゲマルデンに向かう。
蛸頭とその上半身が視界を占める。
間合いを詰めたところで――左手の神槍ガンジスを突き出した。
右手の魔槍杖はフェイク。
間髪を容れず<導想魔手>が握る王牌十字槍ヴェクサードも合わせる。
三槍流の布石を実行しつつ――。
二槍流<魔連・神獣槍翔穿>を発動――。
「な!?」
ルゲマルデンが再度、出していた魔弾を方天戟はぶち抜く。
そのまま、神槍ガンジスの方天戟は頭蓋骨の杖を捉えた。
けら口に備わる蒼纓を揺らしつつ魔力を得ている方天戟は振動しながら頭蓋骨の杖を貫き粉砕した。
振動している神槍ガンジスは、驚くルゲマルデンの蛸頭をぶち抜く。
四散する銀色の血と脳漿らしき肉片と頭蓋骨。
天誅といった鮮烈な連撃突きだ。
続いて、王牌十字槍ヴェクサードの矛が、ルゲマルデンの右胸を穿つ。
意識を蒼い纓に向けた刹那、神槍ガンジスの蒼色の槍纓たちが刃物と化した。
だが、ルゲマルデンは生きている。
頭部と胴体が穿たれても、魔法陣の鎧のようなモノをそこら中に発生させた。
銀色の血もすぐに、肉、骨、魔法陣と、零コンマ数秒で変化を遂げていく。
ヴァンパイアロード並みのタフさだ。
そんな再生しようと肉腫が蠢くルゲマルデンの体を、神槍ガンジスの蒼色の纓たちが、更に切り刻む。
しかし、ここは空中。
ランスチャージ系のスキルを実行した直後。
直進していた相棒はルゲマルデンと離れた。
そのタイミングで、左手の神槍ガンジスを消去。
そこに、
「チッ――」
ロルガのフォローが来る。
直進していた相棒は身を捻り、闇の炎を纏う闇蜂を避けた。
そのロルガに向けて触手骨剣を繰り出す。
「相棒、ロルガはひとまず、任せた。先にこいつをやる」
「にゃご」
俺は身を捻りつつロロディーヌから離れた。
「妾に矛を向けたことを後悔させてやろう」
「にゃごぁ」
ロルガの声と
後方宙返りを行いつつ<導想魔手>を足場に利用。
俺は機動を不規則に変えつつ、魔弾を射出させているルゲマルデンとの距離を宙空から詰めた。
視界が移り変わる。
ついでに生活魔法の水を撒いた。
掌握察と魔察眼を意識しながら魔力の気配と感覚を強める。
周囲の攻撃網を把握した直後――。
ルゲマルデンとの槍圏内に入った。
左手の掌でルゲマルデンを潰すイメージを持ちつつ神槍ガンジスを再召喚。
――迅速に<双豪閃>を発動した。
体が独楽のように回る。
他から見たら神槍ガンジスの双月の矛は回転する独楽から出た刃にも見えるだろう。
その方天画戟にも似た神槍ガンジスの矛がルゲマルデンの左肩から胸元を抉った。
続いて、反対の手が握る魔槍杖バルドークの嵐雲矛が、ルゲマルデンの左脇腹から下腹部を抉り取る。
同じく<導想魔手>が握る王牌十字槍ヴェクサードの杭も、ルゲマルデンに向かった。
王牌十字槍ヴェクサードの杭が、魔法陣鎧を粉砕。
再生しつつあった肉腫塊を豪快に叩き潰した。
三つの穂先の軌跡を宙に生む回転連続斬り。
体を独楽の如く回転しつつ斬る技、ユイの<舞斬>風か。
または、風槍流の『朧崩し・改』にも通じる技。
だが、豪槍流の範疇。
練度の高い<豪閃>を軸とした<双豪閃>を連続的に喰らわせていった。
銀と紫の血飛沫が四方に弾け飛ぶ。
ルゲマルデンの体という体は、再生が間に合わず、瞬時に潰れていった――。
舞い散る銀と紫の血を吸い寄せつつ、両手から神槍と魔槍杖を消す。
そして、両手から<鎖型・滅印>を発動――。
細かな肉片を、梵字が宿る<鎖>という<鎖>が打ち抜いていく。
その流れから、<鎖>を消去し、念のため<血鎖の饗宴>を発動――。
ルゲマルデンの残りかすの肉片ごと、血という血を血鎖たちは喰らう。
まさに、滅殺。
即座に<導想魔手>が握っていた王牌十字槍ヴェクサードを右手に持ち替えた。
「ンン、にゃおおおおお~」
ロロディーヌの喜ぶ声だ。
<血鎖の饗宴>から避難&地底神ロルガに牽制攻撃を仕掛けていたロロディーヌ。
相棒は華麗に炎を吐いてロルガに防御を意識させてから、ターン飛行。
くるっと回転しながらの硬質化させた尻尾で、地底神ロルガの闇の炎を纏う巨大な蜂を吹き飛ばしてから、俺の下に戻ってきた。
その戻ってくる相棒へ向かう。
<導想魔手>を蹴って飛翔していく。
「ンン」
神獣ロロディーヌの背中に飛び乗った。
「……神獣使いめが、妾の大眷属が一人ルゲマルデンを……」
地底神ロルガは凶悪な面で俺を見ながら片腕を上げた。
その片腕の裾から闇の炎を纏う蜂の幼虫を無数に生み出す。
幼虫たちはガルロが持っていたような大剣に、ぐにょりと音を立てて変化。
え? 突如、目の前にその大剣が転移してくる。
俺は<血道第三・開門>を意識――。
<
槍で受けることはできず、身を逸らしても、その大剣の刃を避けきれないが、
転移か?
ロルガはスカート状に変化させている細い腕たちをしゅるしゅると左右に展開している。
まだ、奥の手がありそうだ。
俺も<
そして、第三の腕もミレイヴァルも……アドゥムブラリもだ……。
そのタイミングで<
<血鎖の饗宴>を片足から出して防御を意識。
血魔剣も使うか……と思考した直後、王牌十字槍ヴェクサードが震える。
王牌十字槍ヴェクサードの柄の十字部分が蠢く。
その柄から、半分だけの天道虫の幻影が浮かぶ。
更に、奇妙な生物にも見える半分だけの天道虫は、骨と樹のような蠢いた柄に消える。
すると、柄の中心から植物の芽が出た。
芽はガラサスの蟲のように蠢くと、俺の握る手に、その植物の芽が、突き刺さった。
痛いが……俺の血を吸っている?
そして、血を吸った植物の芽から新しい血ぬれた枝が少し出た。
その枝の先からランプの精のように出現した幻影が……。
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