五百七十三話 独立都市フェーンの戦い

 

 ロロディーヌの扇状の火炎が吹き荒れる。

 左の魔力波と巨大腕の触手を焼却処分とした。


 右の魔力波はロロディーヌの触手群がぶち抜く。

 魔力波は霧散。

 魔力波を潰した相棒の触手群は直進し眼球群を出していた巨大腕の触手を貫いた。

 しかし、貫かれた巨大腕の触手は蔓が蠢くように、ロロディーヌの触手に絡みつく。


「にゃご!?」


 と『びっくりにゃ』風に声を発した相棒。

 絡みつく巨大腕の触手に引っ張られ体が傾いた。


 相棒の姿はステルスモードだが大柄には変わりない。

 その相棒を引っ張る力を持つ巨大腕の触手は力がある。


 ――が、相手は俺たちだ。

 一瞬で戦場を想定。

 集団戦になると予想――。


『ヘルメ出ろ――』

『はい』


 左目からヘルメが出る。

 その零コンマ数秒の間――。

 皆が一斉にロロディーヌから離れた。

 同時に相棒の触手に絡む巨大腕の触手をその皆が攻撃――。


 正確無比な連続攻撃が巨大腕ごと、触手を粉砕。


 そこに、


「ピュァァァン――」


 宙空からセヴィスケルの群れが近寄ってくる。

 大柄のグリフォンだ。

 またはヒポグラフと形容する形の大魔獣。


 セヴィスケルたちは闇色の刃を全身から繰り出す。

 黒い雨が赤黒い空間を侵食するように暗くした。


 相棒はすぐさま巨大な神獣の姿に戻し――。


「にゃごぁぁぁ」


 と、声を発してから紅蓮の炎を吹く。

 扇状に吹き荒れる紅蓮の波頭は闇刃の群れを飲み込んだ。


 ヘルメは俺に抱きつく。

 彼女は液体の半身でマントの形状を取りつつ俺の右肩から右半身を包んでいた。


 液体マントの揺らめきが小さい波を常に起こしている膜にも見える。


 そんな小さい海とも呼べるヘルメを纏った俺。

 そのヘルメは半分の胴体で俺の背中を抱きしめる。

 首筋にかかる彼女の息が俺の煩悩を刺激した。


 液体マントでもあるヘルメはハルホンクの意匠を新しく作りながら靡く。

 水飛沫を出す群青色と蒼のコントラストだ。

 天然のマイナスイオンを肌に感じた。


 その直後、セヴィスケルをも飲み込んだ衝撃の熱風が前髪を揺らす。

 しかし、まだまだ敵は多い。

 独立都市フェーンの戦いは激戦となりそうだ。


「ひぃ……」


 ヘルメの微かな悲鳴が俺の右半身を震わせる。

 <精霊珠想>を使ったわけじゃないが、俺の半身を覆ったマントの形が変化。

 ただ、背中の感触はイイ!

 やはり半身は素晴らしい女性の姿だ。


 膨よかな片方の胸が俺の背中を気持ちよくさせる。


 しかし、常闇の水精霊ヘルメは地底神ロルガが現れつつある現状より神獣ロロディーヌの炎のほうが怖いらしい。


 その畏怖が物語るように。

 神級の威力を発揮する紅蓮の炎。

 セヴィスケル本隊の大半を飲み込む。

 都市の一部を破壊した。


 儀式やら生活やら……。

 俺たちに攻撃を繰り出そうとしていた無数の魑魅魍魎たち。

 奴らは何も反撃をしなかったわけじゃないが……。

 その大半の行動は徒労に終わる。


 しかし、中には、魔法の霧、植物の魔法陣、肉種の魔法陣、楕円系の武具から三日月状の大魔刃を出して防ぐ強者たちもいた。


 その中で――。

 強烈な印象を持った魔術師タイプを注視。

 蛸頭の人型。

 大柄のキュイズナー。


 両腕に、頭蓋骨が備わる杖を持つ。

 魔力操作が巧み。

 外に放出していない魔力からしてあれは危険。

 ヤヴァイ奴だ。


 ヴィーネの光線の矢を防ぐ。

 わらわらとスライム状の怪物たちに大柄の獅子の頭部と蛇頭を持つ怪物たちも出現。


 スライム状の怪物は人型に変身。

 のっぺらぼう風の姿。

 腕を向けてくる。

 その腕の先端が卍状に分裂。

 腕の裂かれた中心の小穴から粘液を射出してきた。


 あんなのは受けたくない。

 <導想魔手>を蹴って宙へと回避――。

 遠距離攻撃を避けながら、怪物たちの背後を視認。


 あいつは、もっとヤヴァイ。


 闇炎神殿の上。

 標的の地底神ロルガが出現していた。

 赤黒い太陽のエネルギーを頭上に取り込んだ。


 赤黒い色の後光を得た地底神ロルガの額には魔法石が嵌まっている。


 髪の毛のようなモノで双眸を隠していた。


 リナベルが突き刺した傷のような跡は……。

 ここからでは判別できない。


 ま、地底の〝神〟だ。


 ガルロと戦った天凜堂の戦いから時間は経っているし神話ミソロジー級の武器に刺されても回復はするだろう。


 その地底神ロルガの両腕は異常に長い。

 これまた長い両足は一見普通。


 巨大な門にあった飾りとは思えないほどリアルだった絵柄と同じだ。


 腰から太股にかけて無数の細長い腕がある。

 悩ましく動く腕たちは千手観音像を彷彿とさせた。

 ゼレナードのイカ脚を思い出すが、あれとは別。


 その地底神ロルガ。

 俺に対して異常に長い腕を向けている。


 指先からビームでも出すのか?

 身構えたが……。

 闇の炎を纏う蜂の巨大モニュメントが溶けた。


 巨大な椅子となる。

 壁にあった巨大な門と飾りが似た作り。

 闇の蜂が無数に漂う。


 まさかな……?


 その巨大な椅子に腰掛ける地底神ロルガ。

 浅黒いパンティを見せて、足を組む。


 周囲の側近たちに指示でも出しているのか、何もなし。


 スライム状の粘液の攻撃が増えたぐらいか。


「閣下、お任せを、新しい武器ももうすぐ使えます――」


 ヘルメの十八番が飛んでいく。

 水飛沫を翼のように展開しながら俺から離れていくヘルメだ。

 そのヘルメに向け、粘液を避けつつ、


「――おう、新しい武器か、鍛冶屋風のヴェニューが作っていた奴かな?」


 と、語りかけたが、ヘルメは答えず。

 その瞬間にも、スライム状の怪物たちを凍らせる攻撃を繰り出していた。


 その氷柱が地面に生えていく光景を視界に捉えつつ<導想魔手>を使う――。

 歪な魔力の手<導想魔手>を蹴り飛翔。


「にゃご~」


 黒豹の相棒が屋根を伝い走っている。

 屋根の上に居た怪物たちの体を触手群がぶち抜く。

 ロロディーヌは跳躍しながら、回転し、孔雀が拡げたように触手網を展開した。


 異形の仮面の怪物たちは左右に分裂して逃げるが、相棒は凄まじい数の怪物を一気に屠る。

 一方、俺に向けての攻撃は止まらない。


 やはり、ここは敵の都市の心臓部。

 異形の仮面たちを含めて、肉腫怪人やら、わらわらと数が多い。


 攻撃が集中してきた。

 怪物たちは俺が脅威だと分かるのか?


 が、丁度いい。

 反転、跳躍、ムーンサルト、前転、側転を行う。

 酸、霧、魔法の矢、肉腫触手、眼球弾、魔法弾の攻撃を避けていく。


 宙をめくるめく視界が上下反転。

 この視界が移り変わることは慣れている。

 即座に、無事な建物、道、樹木のような岩、朽ちた神殿、下に続く怪しい階段、氷槍に散る怪物、神獣ロロに喰われているセヴィスケル、アシュラムに潰された一つ眼怪物、クエマとソロボが発狂し、それに呼応して悲鳴を上げている怪物たち、奇声を発してママニたちに向けて突貫中の仮面の異形怪物たち、などに加えて地形を把握。


 そして、俺の近くの怪物どもに向け――。

 <魔闘術>を操作しつつ生活魔法の水を撒きながら緩急を付けてから。


 ――左手から<鎖>を発動。

 続けて右手からも<鎖>を発動。

 押ス! と自らに気合いを入れながら――。


 <魔闘術の心得>を基本とする。


 そう〝二丁拳銃な<鎖>たち〟だ。


 ――<鎖型・滅印>を意識。

 両手を最小の動作で動かす。

 梵字が宿る<鎖>が躍動する。


 攻防一体の<鎖>格闘武術。

 近付く怪物ども目掛け――。


 ――お前も。

 ――そこのお前も。

 ――お前も。

 ――怪物の額に――胴体に――多脚に――多腕に――多頭に――。

 怪物の体という体に滅印を刻み込んでいく。


 続いて仮面を左右に裂きつつ迫る仮面異形の怪物が繰り出してきた霧を側転で避ける。

 即座に地面を蹴り<導想魔手>で体を支えつつ、体勢を整えた。

 左の半仮面を視認――。

 左の半仮面の端から肉腫のような触手が伸びて、宙空を離れ飛ぶ右の半仮面と繋がった。

 その左仮面と右仮面の繋がる肉腫が互いに引き合うところへ前傾姿勢で向かう。

 同時に跳躍――。

 背筋に力を込めて体幹を軸に魔力の配分を操作しつつ王牌十字槍ヴェクサードを振り上げた。

 <豪閃>を発動――。

 我流だが、力の豪槍流を意識した王牌十字槍ヴェクサードを振り下ろす。

 仮面異形が、合体する寸前に、王牌十字槍ヴェクサードの矛が仮面異形を捉え潰す――。


 王牌十字槍ヴェクサードは、そのまま地面に突き刺さる。

 新しい十字墓を作ったところで、視界に迫る肉種怪物――。

 その肉種怪物は腹が左右に開くと、そこから歯牙が連なった鎖状の内臓群を飛ばしてきた。

 迫る歯牙を、視認しながら肩の竜頭金属甲ハルホンクに魔力を込めた。

 肩の魔竜王の蒼眼から氷刃を飛ばす。


 氷の刃で幾つか歯牙を相殺。

 左腕を半袖状態に移行しつつ、その左腕の表面から血を噴出させる。

 すぐさま<血鎖の饗宴>を発動――。

 肉腫怪物に、血という血の螺旋する血鎖の群れを喰らわせた。

 数体の肉腫怪物を一瞬で連続的に屠る。

 血飛沫を吸収――魔法弾が左から迫った。

 その魔法弾を<血鎖の饗宴>で消去。

 血の鎖を操作しながら<邪王の樹>を意識。

 邪界製の樹の礫を、その魔法弾を出してきたキュイズナーに向かわせる――。

 キュイズナーは礫を魔法弾で難なく相殺。

 が、その隙に俺はそのキュイズナーに近付いた。


 眼前に人族と同じような靴を履くキュイズナーを確認しつつ――。

 その細っこい股間から腹を抉る<水月暗穿>のトレースキックをぶち当てた。

 キュイズナーは〝く〟の字の体勢で浮かぶ。


 蹴りで浮かせてから、暗穿の部分をキャンセルするように魔闘術の配分を変える。

 爪先でターン。

 同時に《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を上に向け発動。

 <邪王の樹>の樹の礫も、頭上に浮かぶキュイズナーに喰らわせていく。

 だが、キュイズナーは再生能力を有していた。

 そのキュイズナーは魔法陣を生成。

 《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を幾つか相殺してきた。

 が、動きは魔術師だ、鈍い。

 俺は王牌十字槍ヴェクサードを握りながら跳躍――再生しようと動きを鈍くしたキュイズナーを<導想魔手>が掴む。


 キュイズナーは蛸頭から魔力波と生み出した魔法陣で、《導想魔手》に抵抗をしてくるが構わず――。

 その細い体と蛸頭を歪な魔力の手導想魔手で握り潰す。

 体が潰れた魔術師のキュイズナーから銀色の水銀が大量に噴出した。

 <導想魔手>を消すと、潰れたキュイズナーだった肉塊が落ちていく。

 

「ベレエラァ!」


 頭蓋骨の杖を持つロルガの側近と思われるキュイズナーが叫ぶ。

 俺は潰したキュイズナーがまき散らした銀色の血を吸い寄せた。


 あれ? 味はなぜかリンゴ味だった。

 ま、美味しいし魔力をかなり得た。


 続けざまに《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を発動。


 慣性で落ちながら、怪物たちを魔法で狙う。

 同時に身を捻りつつ回転。


 今度は、下から魔法の矢が飛んできた。

 回転しつつ、新しく作った<導想魔手>を蹴って、人の腕ほどの大きさのある魔法の矢を避ける。


 魔法の矢を射出してきたのは……。

 吸盤が付いた足を壁に付着させている植物の肌を持つ肉種怪物。


 そいつに<鎖>を向かわせる。

 が、魔力の波動のようなモノで宙空で<鎖>がストップ――。

 なんだ? 超能力か?

 植物の肌から金色の粉が噴き出していた。


 その粉から魔力の線が無数に上下左右に飛び散っている。

 魔察眼を強く意識――。

 粉と魔力線の正体が見えた。

 薄い魔力が覆う幻影の眼球を有した魔法陣が無数にリアルタイムで生まれている。


 牽制の《氷矢フリーズアロー》と《氷弾フリーズブリット》を放つ――。

 が、途中で二つの牽制魔法は霧散。

 ――チッ。魔法特化か。

 <鎖>を消去しつつ血を操作<血鎖の饗宴>を発動し、植物の肌を持つ肉種怪物へと、伸ばしていくが、これまた、血鎖も途中で止まった。


 ――マジかよ。

 直接、ぶち抜くか――。

 降下した直後、俺の背後のやや斜めの位置に発動した<導想魔手>を強く蹴る――。

 下に突進。

 眼前に魔法の矢が、頭部を傾けるが、耳を掠る。

 左腕に矢が刺さるが、構わねぇ――。


 右手が握る王牌十字槍ヴェクサードを突き出した。

 風を纏う不気味な光を宿す杭の<刺突>が、その植物の肌が変形していた肉腫怪物の心臓を捉えた。

 植物の肌を持つ肉種怪物は、胸元に水晶のコアのようなモノを有していた。


 それが貫かれると、一瞬で、植物の肌を持つ肉種怪物は溶け消える。


 俺はすぐに壁を蹴って反転。

 背後の魔素たちに向け、貫手で突く動作を繰り出しつつ翻った。


 その怪物たちは一つ眼の怪人。


 俺は指先の先端から――。

 人の大きさほどの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を生成――。


 五つの光槍は宙を直進し、一つ目の怪人の、その単眼を撃ち抜くヘッドショット。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>はそのまま、多数の怪物を貫いていく。


 やはり光属性だ。

 苦手とする怪物が多い。

 が、途中で斬られる光槍もあった。


 それは四つ眼を持つムカデ怪人。

 多腕で魔刀を操るムカデ怪人だ。


 素早い奴も居る……。 

 俺は横に回転しつつ魔法の矢を避ける。


 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を繰り出す。

 闇杭の連射だ――視界の空間から突如現れていく<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>に反応するのは難しい。瞬く間に、魔法の矢を出していた射手の肉種怪物を蜂の巣にする。


 確実に遠距離から怪物たちを倒していく。

 魔力の気配を断ち、把握し難い射手の肉種怪物は、有視界に捉えるたびに、素早く間合いを詰めて、王牌十字槍ヴェクサードの槍で殴るように潰し処分。


 跳躍――。

 建物の背後に隠れていた剣士タイプの四本腕を持つゴブリン型を《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》で建物の壁ごと射貫き倒す。

 同時に周囲の戦況を把握しようとした。


 そこに、掌握察の反応が足下に引っ掛かる。

 ――巨大な魔素が足下だ。


 古びた神殿だ。

 その屋根に着地。


 硬い石棺タイプの神殿か?

 その直後――。

 その硬い屋根を突き破ってきた骨刃が連なる魔槍。


 ――やはり。

 右足を引き、半身の姿勢で、その魔槍を避けようとした。

 下から迫る魔槍は、意外に速い――。

 ならばと、骨刃を味わうように<霊血装・ルシヴァル>を発動し、頭部を傾けた、首を刺し貫かんとする骨刃をガスマスク状の防御層が弾きつつ下を見る。


 ――火花で視界が眩しい。


 そして、頬に複数の骨の屑が突き刺さる。

 痛いが我慢。


 屋根の一部を破壊した骨刃の魔槍は下に退いていく。


 人が通れるほどの穴が空いたが、母屋のような石材類は丈夫のようだ。


 下の怪物は羊頭を持ち、両肩に蛇頭を生やす。

 黒を基調としたオレンジ色の筋が綺麗な渋い鎧を着込む。


 鎧の幅からして、胸元は分厚い。

 筋骨隆々の巨漢タイプ。


 巨漢大怪物だ。


 腕は四本。

 四本の腕で、魔槍を持つ。


 魔素をかなり大量に内包している。

 強敵、敵の幹部クラスと認識。


 その槍使いの巨漢大怪物は羊頭を俺に向けた。

 三つの魔眼を持つようだ。


「ウヌ? マグルか! グンドァンの手合いの者か?!」

「なんだ? 好色漢ドンファンか? しらねぇよ」

「マグルの言葉は知らぬが、我は槍使いレターゲス」


 名を名乗るとは珍しいのか?

 発音を真似て、


「俺はグンドァンの手合いじゃねぇ、シュウヤだ――」

「!?」


 そう発言。

 その驚く巨漢の大怪物目掛け――魔闘術を全開。

 コンマ数秒も掛けず。

 王牌十字槍ヴェクサードを左手に移す。


 穴から急降下。

 王牌十字槍ヴェクサードの矛が巨漢大怪物に向かう。


 見上げている巨漢大怪物は反応。


 ギョロリと蠢く三つの魔眼。

 王牌十字槍ヴェクサードの矛を三つの魔眼で注視。


 その瞬間――血魔力<血道第三・開門>。

 血液加速ブラッディアクセルを発動。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚――


 魔槍杖を握る右手を捻り出す<紅蓮嵐穿>を発動した――。


 丹田から噴き出る魔力。

 血魔力も右手から出す。

 爆発させる勢いの魔力と血を、魔槍杖が吸った。


 そして、魔槍杖専用としての技を誇るように、紅色の閃光を纏う魔槍杖バルドークは咆哮――。


 反応が遅れた巨漢大怪物は武器を掲げた。

 その骨魔槍ごと、紅色の嵐雲の矛は、大怪物の羊の頭部をぶち抜く。そのまま、嵐雲の矛は巨漢の胴体を両断しながら床をも貫き都市の土に突き刺さった。


 その衝撃波が大怪物の肉片を吹き飛ばしていく。

 建物の床の一部を破壊。

 内装も剥がれていった。


 落ちてくる瓦礫を<鎖>と《氷刃フリーズソード》で破壊しつつ周囲の血飛沫を吸い取る。

 その地面を蹴って崩壊していく建物から外に出た。


 すぐさま標的の巨大な魔素を把握。


 宙に浮かぶ巨大な椅子。

 そこに座り続けている地底神ロルガを見る。


 が、周囲から魔法の矢が迫る。

 左手の王牌十字槍ヴェクサードで防ぎつつ、場所を変えた。

 相棒の姿を視認。


 ――アイコンタクト。

 再び地底神ロルガを見やる。


「生意気な定命どもが、我の眷属たちを、しかし、ここまでどうやって、そもそもが、なぜ、闇炎の結界を打ち破れるのだ?」


 口調は怒っているようだが、冷静なのか?

 と、建物の壁が見えたところで、相棒の気配を感じた。


「にゃお~」


 傍に来たロロディーヌ。

 黒豹タイプだ。

 触手に無数の怪物たちの臓物がストックされていた。


 色とりどりな臓物肉団子……。

 見た目はアレだが、黒豹ロロにはごちそうだ。

 今もその触手骨剣に連なった臓物肉団子を器用に食べていく。


 その食いっぷりは屋台の焼き鳥を食べる黒豹さんのようだ。


「ロロ、ロルガに近付くとして、敵も多い。ここで沸騎士を出しておく」

「ンン」


 食べている黒豹ロロは触手を展開。

 遠距離攻撃を弾いていた。

 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを触る。

 いつものように、魔力の糸たちが、地面に付着。

 ふつふつと煙が立ちのぼる。

 沸騎士たちが現れる間にリサナを取り出した。

 魔力を送った波群瓢箪を地面に置く。


「――シュウヤ様!」


 リサナがすぐに波群瓢箪から生まれ出る。

 ホルターネックのキャミが似合う姿だ。


「よ、リサナ、状況はこんなだが――」


 半身が透けたリサナを見てから<鎖>を伸ばし大盾を生成。

 その<鎖>の大盾を壁代わりにする。


「分かりました――」


 錆色の魔力を纏うリサナ。

 カタツムリと蛞蝓の幻影も出現。

 バロック風の音楽を奏でながら跳び上がるリサナ。


「閣下ァ、ゼメタスがここに!」

「アドモスが、参上!」

「よ、前方から迫る怪物たちが敵だ」


 そう沸騎士たちに話をしながら、黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミを出す。


 魔造虎の猫人形たちに魔力を込める。

 即座に生まれ出た黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミは俺の足下で回り出して、足に頭を突けてくる。


「二匹とも、仲間と連携して怪物たちを倒せ」

「ニャア」

「ニャオ」


 アーレイとヒュレミはすぐに<鎖>の壁から出ると、巨大な虎となって駆けていく。


 魔力を纏う二匹は幻獣の力を発動したのか、アーレイとヒュレミの間に雷を纏ったレッサーパンダを誕生させている。

 威嚇した可愛いレッサーパンダに触れた怪物は爆発炎上。


「……わたしたちも前進だ。進もうぞ!」

「おう、あの肉のピモモモンのような魔族は我が仕留める!」

「否、先手はわたしだ!」

「否、否ァァァ――名剣・赤骨濁の先手はもらったァァァ<骨砕き>――」


 と、重低音溢れる魔界の重騎士コンビ、いや魔界の魔武士コンビが肉壁のような体を持つ怪物を仕留めていく。


 宙に上がったリサナは標的を見つけたのか、急降下。

 波群瓢箪で、沸騎士たちがピモモモンと呼んでいた魔獣人型の頭部を踏み潰す。

 頭部から背中に派生していた肉腫の触手たちが一斉に萎れていく。


 閃光のミレイヴァルも出すかな。

 と思いながら、少し余裕ができたから<鎖>を消去。


 走りながら「相棒――」と呼ぶ。


「にゃ」


 走り寄ってきた相棒は雰囲気から体を大きくさせた。

 黒豹タイプは崩さずに、スケールを大きくした黒豹に変身。

 俺はその変身した黒豹の背中に飛び乗った。


「ンンン」


 相棒は鳴きながら壁に向かい、その建物の壁を壊しながら高く跳躍。


「周囲を把握する」


 触手手綱を片手で握りながら周囲を見る。

 キサラがダモアヌンの魔槍を振るって怪人たちを屠っているところを確認。


 左側を旋回するロロディーヌ。


 紫魔力が見える。

 エヴァだ。

 側にモガ&ネームスたちが居る。

 エヴァたちと同じ建物の屋根に着地していたようだな。


 魔導車椅子に座っているエヴァ。

 白皇鋼ホワイトタングーンの刃群を操作。


 それら刃物群で周囲の怪物たちを一掃。

 建物ごと破壊したが、建物は幾つか残る。


 安全圏を至る所に作っていた。


 レベッカはエヴァの隣。

 グーフォンの魔杖からロロディーヌ並みとは言わないが、大規模な火炎を出して、建物に群がってきた怪物を燃やす。

 彼女の得意な蒼炎のほうは、膜となった。


 蒼炎の膜はエヴァの死角を潰す。

 エヴァの操る紫魔力の出し入れ口がついたエヴァ専用蒼炎バリアか。


 エヴァを守りつつ、エヴァの動きを把握した蒼炎の膜には、エヴァに似合う黒ウサギの絵があった。

 可愛いが芸術性を帯びたイラストだ。

 レベッカの多彩さに感銘を受けた。


 しかも、エヴァの機動の動線を描くように、蒼炎の一部を変化させつつ、その蒼炎の膜の端から長い砲弾のような、矛状の蒼炎弾を作ると、その蒼炎弾を幾つも繰り出していた。


 その砲弾めいた蒼炎弾は、魔導車椅子に座っているエヴァの付近から出ているから、エヴァが戦車のように見えてしまった。

 ネームスが吼えるような動作をしていて『エヴァの柔らか戦車は強いおー』と野太い声が聞こえたような気がした。


 レベッカの蒼炎弾は的確に肉種系の怪物を捉える。


 すると、向かいの建物に纏わり付いていたスライム状の建物が、変形。

 巨大ゴーレムを彷彿とさせる怪物に変身した。

 その巨大ゴーレム怪物の頭部と股間を黒ウサギ蒼炎弾はあっさり貫く。

 蒼炎弾が地面に着弾。

 衝撃波を伴う蒼炎は、その周囲の瓦礫と怪物たちを燃焼させながら吹き飛ばす。

 樹木の建物は少ないのか、魔法の抵抗があるのか、蒼炎が燃え拡がることはなかった。


 一方、建物に隠れている怪物に向けて氷刃を出すトーリ。

 大柄のロゼバトフは身構えエヴァの前に立つ。

 エヴァは大丈夫と紫魔力でロゼバトフを横に退かしていた。


 サザーとイセスはドミネーターの背後を追う。

 走るイセスはゴレアックブレイドを発動。


 モガが叫んでいるが、彼女たちは動きが速い。

 イセスとサザーが追うのはドミネーター。


 ドミネーターは、屋根の端から跳躍し、地面に着地。

 蒼炎弾と白皇鋼ホワイトタングーンの刃群が作る安全圏を利用するように駆けていく。


 異獣ドミネーターは速い。

 黒獣バージョンだ。


 獣に変身している彼女の標的は、勿論、レドームだろう。

 他にも儀式活動に励んでいたキュイズナーが群がる。

 蒼炎弾と白皇鋼ホワイトタングーンの刃群を対処してきた。


 都市の防衛を司る奴らか。


 レドームとやらも地面を蹴った。 

 ドミネーターに接近していく。


 サザーがドミネーターに追いつく。

 そのサザーはドミネーターとイセスより足が速い。


 小柄獣人ノイルランナーだってこともあるが、やはりジャージャーの靴の効果で浮いているからな。


 そして、抜き身の水の妖精の双子剣で、レドームを突こうと、間合いを詰めるサザー。


 レドームの四剣のうちの二剣が、そのサザーの眉間に向かう。

 が、サザーは華麗に身を捻る。

 そこに白皇鋼ホワイトタングーンの刃群がレドームに向かう。レドームは残りの二剣を回転させて、後退。

 白皇鋼ホワイトタングーンの刃群を防ぐ。


 その隙に身を捻って避けたサザー。

 水の妖精の双子剣の刃が煌めいた。


 二振りの剣を振り抜いたサザーはレドームの背後に着地すると、横にステップしながら片膝で地面を突きながら回転して、周囲を確認。


 軽やかな機動の剣法だ。

 飛剣流技術系統の一種だろう。


 同時にレドームの背後から小麦色の血が迸る。


 サザーの回転斬りが決まったんだろう。


 あの魔剣は切れ味がいい。

 名はイスパー&セルドィンの魔剣だったかな。


 そこに異獣ドミネーターが、レドームに襲い掛かる。

 ダメージを負ったレドームだったが、異獣ドミネーターの牙が突き出た歯を避けていた。

 モガも少し遅れて参戦、レドームの部下らしき怪物を袈裟斬りに斬る剣王モガ。


 一方、バーレンティンたちは……左側。

 多腕に眼球を宿した怪物たちと戦っていた。

 神社の鳥居風の小さい門があった場所だ。


 眼球が備わる多腕の形は魔獣と人が合わさった作り。

 全身と同じ黄色と黒毛のような羽毛が生えている。


 ビアが最前線に立ち、魔眼で、その怪物の動きを止める。

 ママニがそれらの怪物へとアシュラムで遠距離攻撃を加えた。

 バーレンティンとキースに蜘蛛娘アキもビアを中心に前線に躍りでる。


 動きを止めた怪物を潰すママニのアシュラム。

 バーレンティンが骨喰厳次郎を一閃。

 魔刃の遠距離攻撃が、正面の仮面だけの異形な怪物たちを両断。


 魔刃は地面に線状の傷を作り止まった。


 キースは、円盤武器のアシュラムと交代するように、右斜めに突出しながら、魔刀を振るう。

 蜘蛛娘アキは、左斜めから、黒光りする鋏角を斜めに振るい、怪物を両断。


 鋏角亜門は鋭い刃となっていた。

 女体化している両腕も剣と化している。


 そして、小さい紫色の唇から糸を吐いた。


 ビアの魔眼が効かない&効果が薄い相手を、的確に、その糸が捉えて動きを封じていく。

 キースとバーレンティンが連携。

 バーレンティンが、骨喰厳次郎の柄頭を蹴る。

 紫の刃から不気味な魔力を発した骨喰厳次郎は直進。


 同時に左手と左腕に絡みつくような血の刃を発生させる。

 その血の刃を周囲にドッと鈍い音を立て発する。

 ショットガン的なモノで怪物たちを吹き飛ばした。


 一方、直進していた骨喰厳次郎は怪物たちを貫いていく。

 更には途中で、弧を描く骨喰厳次郎。

 動きを止めていた怪物の首を刎ねていた。


 バーレンティンは、


「<流鏑馬>」


 そう呟きながらブーメラン軌道で戻る骨喰厳次郎を片手で掴む。

 そして、胸元に小さい魔弩を生成。

 魔矢を反対の方向に射出し、発狂し合っていて混乱しているクエマとソロボをフォロー。


 ダークエルフらしい銀髪が靡く。

 魔力で変わるのか、髪に金色が混じった。


 キースは<血魔力>を纏いつつ魔刀を振るう。

 更に、細かな<血魔力>が周囲に散っていく――。

 一瞬、俺からは見えなくなった。

 キースの血の霧雨のような技か?


 魔刀を振るうたびに、視界が晴れる。

 小さい範囲だが、血の雨が降り注いでいた。


 血の雨は硬い。

 怪物たちの体は蜂の巣状態になった。


 魔刀を基軸にしているから、エヴァの金属の刃の簡易版って感じだがユイの神鬼・霊風で斬った痕にも見える。


 そのユイは、前方だ。

 ハンカイと金属の鳥と連携しつつヴィーネを守る。

 翡翠の蛇弓バジュラで魔術師キュイズナーを射貫いていたヴィーネの傍だ。

 ユイとハンカイはヴィーネの傍に寄ってきたキュイズナーたちを斬り伏せていった。

 ハンカイのほうは金剛樹の斧だから、潰し倒している状況だが、キュイズナーの精神波的なモノが怖いのか、あまり前に出ない。


 フォローに向かわない――。

 俺を乗せて飛翔する相棒に向けて、魔弾を正確に撃ってくる魔術師のキュイズナーを狙う。


 頭蓋骨の杖持ちの奴だ。


「相棒、ロルガの右側に向かう! あの杖持ちのキュイズナーを仕留めたら、座ってパンチラをかましてきた地底神ロルガとご対面といこうか」

「にゃぉぉぉぉ」

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