五百六十八話 レベッカは魔法絵師
レベッカとエヴァはアイテムボックスから飲み物とお菓子を皆に配っていた。
ママニが「わたしももらった」と呟き、サザーが「あ、リデルからもらったやつですね!」と興奮している。
和気藹々だ。
トーリとイセスが話をして、ロゼバトフの筋肉をエヴァとレベッカが指摘。
バーレンティンとヴィーネは笑顔を交えながら濃厚な殺し合いの話をしていた。
地下のダークエルフ社会、魔導貴族の戦いをよく知る者同士の会話だ。
ユイとサザーは武器を交換して、お互いの武器の比較をしている。
剣士らしい。
ソロボとクエマはビアと不思議な会話をしていた。
ビアの知る
やや違うような感じだが、会話が成立している。そこから、地球のことを思い出した。
ヘブライ語と日本語が似ているって聞いたことある。
メソポタミア文明、シュメール文明の元は古代の縄文文化と通じていたとも、笠置山のペトログラフは有名。岩に刻まれている古代文字は『イルガガ』と発音すると覚えていた。〝水を我らにと祈る〟という意味。他にも、岩に刻まれていた神代文字やペトログラフは神社に残っているところがあった。だからこそ、甲骨文字から漢字への変遷は日本から説もある。契丹古伝などの資料もあるぐらいだからな。
あの時代は中国、朝鮮、日本は結構流通があったはずだ、四国の剣山や諏訪の守屋山などに、古代のユダヤ人が来ていた話も有名だった。
似たような言語があるのは、どの世界も同じか。
と、古代のロマンを思い出しながら、皆の表情を見ていると、親睦が深まった気がした。
すると、レベッカが、
「シュウヤにも」
「ありがとう」
レベッカから、小さいパイ菓子をもらう。
どうやらリデルからもらっていたようだ。
「あーん?」
「ん、だめ」
「ご主人様、どうぞ」
「いや、普通にたべるから……」
と、皆が一斉にパイを寄越してきたから……。
無難に避けながら、パイを食べていく。
フルーツは桃? と舌の熱で溶けると、熟れたアボカドとバニラ風味が口に溢れた。
風味とフルーツの中から、半透明な鎖たちのような小さい粒たちが弾けとぶ。
炭酸ではない、一瞬、甘さが強まった。
しかし、その甘さが……どこかの異世界に吸収されるように、急に失った。
代わりにさっぱり感が増えた。――新食感。
エヴァとヴィーネは俺の顔を凝視。
味の感想の期待をしているようだが……。
俺は『ミスター味っ子』ではないぞ。
にしても、美味い。甘さ控えめの、さっぱりとした味。
パイ生地はパサパサしていない、ほどよい水分で、柔らかい。
そのパイ生地から、さっぱり感を増すように、ハーブ系の匂いが漂った。
……へぇ。
「美味しいでしょ~」
「あぁ、美味い!」
親指でバッチグーを作る。
「ん、リデルもトン爺と亜神夫婦から料理を教わっていると言ってた」
「パイも絶品だが、素材だろう」
「果樹園のフルーツが神秘的な味よね。亜神夫婦が秘密にしていたフルーツ。名前は〝ゴルとキゼの愛の恵み〟とからしい」
「そ、そうか」
と、動揺してしまった。
ガイア様とサデュラ様の凄まじいエッチシーンは覚えている。
だから、あまり深くは聞かない。魔煙草で気分を落ち着かせるか。
と、脳裏にちらつきながら……周囲を見ていく。
形の変わった岩。無数の粘液がこびりついた岩壁。
虫たちが宙を泳いで小魚の群れのように捕食者のモンスターから逃げていく。
噴火口と似た孔から紫色の魔力が噴き出ていた。
皆も、臥遊(がゆう)。
あまり味わえない景色。
そんな地下景色をおかずに菓子と喋りと飲み物を楽しんでいく。
サザーも楽しげだ。ロロディーヌの触手で頭部を撫でられていく。
耳を少し引っ張られてくすぐりを受けたサザー。
彼女のおどけた顔を見ていると、アラハが助かってよかったと思いつつ、油断をしてしまう。いかん、とキストリン爺の紙片をチェック――。
描かれた地図と周囲の地形を見比べていく。
相棒が飛翔中ってのもあるが……。
印のようなマークが無数にある以外、分からない。
魔力を紙片に送ると、微かな魔力の反応が紙片から感じた。
しかしこれといって紙片に変化はない。魔宝地図が好きなレベッカに頼むか。
「レベッカ、この地図どう思う?」
と、聞くと、レベッカは紙片に記された簡易的な地図を睨むように見て、
「ふふ、シュウヤ、これはね……」
そう発言しながら、外の岩と熱水噴出口のような魔力線が出ている地下世界とキストリンの紙片を見比べて、俺を見る。キリッとした表情を浮かべていた。
エヴァがすぐに反応。
「ん、レベッカ、地図が分かるの?」
「だとしたら凄いですね。わたしは解読できません」
尊敬の眼差しを向けるエヴァ。
自信有り気なレベッカの表情を見てヴィーネも期待を寄せる発言。
皆もレベッカを注視した。レベッカは腰に両手を当てて胸を張る。
「ふふふ、ごめん、実は、まったく分からない!」
と語るレベッカ。エヴァとヴィーネは『やはり』と微笑む。
皆は少し転けていた。話を聞いていた相棒が傾いたせいもある。
俺はジッとレベッカを見てから、
「だと思った。少しは期待したんだが」
そう笑みを含んだニュアンスで告げる。
とレベッカは微笑みを浮かべ返し……。
悩ましい仕草で、白魚のような細い指を紙片に伸ばす。
細い指に蒼炎が点く。
「……ごめん、これが面白いと思ったんだ」
「面白い?」
「うん、この点がね、顔に見えたの――」
微かな蒼炎が灯る細い指先は紙片に触れる。
キストリンの紙片は燃えない。
「顔?」
「見てて」
蒼色の炎が包む細い指。その指の腹で紙片をなぞる。
魔力操作が巧みなこともあるが、蒼炎のコントロールは絶妙だ。
紙片に蒼炎が付着していく。紙片に、蒼炎が点を彩る……。
あれ? 人の顔らしき陰影が紙片に生み出された。
「本当だ。顔っぽい」
「ん、本当!」
結構、精巧。女性の顔だろうか。
「やはり、絵の才能があるな」
「ふふ、ありがと。ハンカイさん。ただ、印たちを蒼炎でマークしていっただけなんだけど」
謙遜したレベッカが語る。
「これもルシヴァルの力か」
「わたしはネームス」
モガ&ネームスの言葉の後、キサラが、
「やはり、蒼炎神の加護がある黒魔女教団の高手のアーソン・イブヒンの力と少し似ている」
レベッカの親戚のことを告げた。
「アーソンも蒼炎の形を変えることが可能だったのか」
「いえ、レベッカが扱う蒼炎のような自由さはないです」
「あ、キサラとジュカさんも槍使いか、だとすると……」
「槍も扱えましたが、八式銀魔拳鍔グオンが主力。その拳に嵌める武器に蒼炎を纏ってました。八式拳鍔を使わずとも、蒼炎拳と蒼炎貫手は強力無比。しかし、素手の拳や貫手で蒼炎を使った場合は……火傷のリスクがあったようです」
八式銀魔拳鍔グオン。
ナックルダスター的、メリケンサック類の強そうな武器か。
キサラの言葉を聞いたレベッカはジャハールを見る。
ユイは自身の腰に差してある魔刀を見た。
ユイは神鬼・霊風を主力に使っているが、腰にアゼロス&ヴァサージがある。
トレンチナイフのように拳を保護したり、その拳を武器にできたりするナックルガードが付いた魔刀だ。
エヴァは頷いて、俺を見る。素直に可愛い。
そのエヴァからキストリンの爺が残した紙片を見る。
「へぇ、火傷のリスクがないし、蒼炎が付着しても紙片が燃えることもない。そんな蒼炎を操作できるレベッカの蒼炎は特別か。蒼炎の槍といい前にも思ったが、魔法の額縁が扱えなくても自由自在に蒼炎を描けるイメージ力こそ……魔法絵師としての才能の片鱗なのかもしれないな」
俺の言葉を聞いたレベッカは少し身体を震わせて、微笑みながら涙ぐむ。
「はい、蒼炎に触れながらも燃やさないことも可能とは不思議です。ルシヴァルの血筋と相互作用の結果でしょう」
キサラの言葉に皆が頷く。
そして、涙を片手で拭いたレベッカは、形の変わった古の
「……地下で拾ったのも古の
「はい」
ヴィーネは頷くと……。
レベッカの隣に居たサザーも、
「レベッカお姉様は特別な額縁を必要としない魔法絵師!」
甲高い声で発言。
その声を聞いたレベッカはパッと花が咲いたような凄く嬉しそうな表情を浮かべる。
幼い頃からの彼女の憧れの戦闘職業だからな。
とは言うが、最近は小柄拳法家の蒼炎継承者ちゃんだ。
「もう、サザーちゃん! 可愛いんだから!」
レベッカにサザーは頭部の毛を、もしゃもしゃと弄られていく。
笑顔のサザーもレベッカの膝のあたりに頬を寄せて抱きついていた。
二人とも小柄だから人形同士が抱き合って見える。
そんな様子を見て微笑むママニが、
「もしかすると、レベッカ様専用の魔法額縁がどこかにある?」
そう、皆に問いかけるように喋った。
スゥンさんが、
「現時点では必要ないようにも思えますが、ありえますな」
「<
バーレンティンもそう同意していた。
ロゼバトフが、
「失われし八宝以外にも様々なアイテムはある。地上も地下も広大。可能性を否定するほうがオカシイって奴だ」
その失われし八宝は前にも少し聞いた。
俺も大柄のロゼバトフの意見に頷いてから、イケメンの友の顔を思いつつ、
「ラファエルが扱う魂王の額縁とか?」
「あれはモンスターを格納できるアイテムボックスのような感じでしょう」
「ん、ユンちゃんだっけ、魂王の額縁の中に入ったまま。あ、ぷゆゆがいつの間に入っていたら面白い?」
と、エヴァが発言。
「はは、ありえる。追い掛けていたしな」
「そうね、玩具の姿の不思議なぷゆゆも見てみたい気が……」
芸術性の高い『アルチンボルト』風のぷゆゆか。
見たら、牛乳を吹く自信がある。
んだが、浮世絵風のほうも面白いかもと想像。
「しかし……素晴らしい女性の絵だ。レベッカは<筆頭従者長>なだけはある」
ヴィーネがそう感想を漏らした直後――。
俺が持ったキストリンの紙片に変化が起きる。
レベッカが描いていた点の蒼炎が一カ所に集結。
「え? わたしはしていない」
レベッカが頭を振るう。
キストリン爺が残した元々記されている文字も薄まった。
すると、紙片の表面に蒼炎の文字が浮かぶ。
同時に、『ドドッ』『ドドッ』『ドドッ』と無数の楽器が組み合わさったような……。
オーケストラ風の重低音が文字から鳴り響く。
『蒼炎神エアリアルの力を受け継ぐ者と光属性の者たちよ』
『異獣玉の欠片の反応を示す、この道を、辿るのだ……』
浮いていた蒼炎の文字は淡い色合いを宙に放って消えた。
すると、キストリン爺の紙片から蒼い魔力と薄暗い緑の魔力波が生まれた。
その二つの魔力波は、外の宙空へと波を打つように流れていく。
二つの魔力の波は、宙空で合わさり蒼色に統一された。
儚い風の音に変わった蒼色の道。
それは宙に新しい道でも作るように蒼い軌跡を描きつつ左の奥へ奥へと向かっていく。
魂の黄金道と同じ方向だ。蒼色の道は俺たちを誘っている?
レベッカに向けて、目力で語るように……。
「この道を辿ろう、蒼炎神エアリアルの力を受け継ぐ者よ」
「うんって、冗談なのか冗談ではないのか分からない変な顔を浮かべて告げないでよ」
確かに目元に力を入れていたから、変な顔か。
「ん、レベッカの蒼炎に反応したから、合ってる」
「うん。シュウヤは光属性もあるし、閃光のミレイヴァルに聖槍もあるし」
「でも、異獣玉?」
「失われし八宝ではないようだが」
バーレンティンがそう告げた。
顎に人差し指を置きながら、蒼炎の文字を見ているユイが、
「異獣といえば、異獣ドミネーター?」
と、皆に聞いていた。
「キストリン爺の文字と関係するから、たぶんね」
「はい。蒼色の道の先は、キストリン爺が力尽きた場所と推測できます。そのドミネーターが異獣玉と関係するか分かりませんが」
ヴィーネの言葉に頷く。
「よし、魂の黄金道と同じ方向だし、蒼い魔力の道もついでに追うとしようか――」
俺は背中のふさふさした相棒の黒毛たちを撫でながら後頭部に移動。
一対の触手手綱を掴む。
先端が、俺の首をくすぐってきたが、構わず握りを詰め寄る。
――相棒の気持ちと共有。<神獣止水・翔>は大切な絆。
と、俺たちの会話を聞いていた神獣ロロディーヌは既に蒼い魔力を追っていた。
加速しながら左側の壁際を飛行していく――。
崖が上下に連なって重なった地下世界を突き進む。
断崖絶壁の崖となった。
魂の黄金道と蒼い魔力の道が、崖から落ちるように下に続く。
落ちていくようにも見える魔力道だが……。
大瀑布もないが崖の形が巨大な馬蹄形をしているから、カナダのナイアガラの滝のようにも見える。
偶然だが、エブエの故郷も〝戦馬谷の大滝〟だったな。
「吸血王! この先は魔獣馬蹄の絶壁。大動脈層でもかなり大きい空間になります。グランバの大回廊にも通じた道もありますので、警戒を!」
バーレンティンから忠告を受けた。
そのバーレンティンを含めて、皆に触手と黒毛たちが絡んでいく。
相棒の操縦席が少し形を変えたように、その崖を急降下――。
ひゅううっと風を感じた。
飛翔している相棒から出ている魔力波を打ち破るぐらいな、強烈な向かい風が出ているようだ。
グライダーの滑空より急角度だからな。下は暗闇世界。
端から、俯瞰から、俺たちのことを見たら、どんな風に見えているんだろう。
巨大な地底空間に吸い込まれる一匹の鴉とかに見えているんだろうか。
相棒は巨大な神獣の姿だが……。
ここはそんな相棒でさえも埋没してしまうほど、巨大な地底空間だ……。
ヴィーネたちが遭遇した大鳳竜アビリセン。
まだ出会ったことはないが……超弩級の生物たちが棲息するに似合う環境だ。
そういえば、邪界の二十階層でも、大怪獣同士が争っていた。
そんなことを考えながら飛翔を続けた。
魂の黄金道と蒼い魔力の道か。
魂の黄金道が街道。
蒼い魔力は、その街道を進む旅人のような印象を受けた。
崖から拳が突き出たような岩の群れが前方に現れ始めた。
加速中だが、パチンコの玉にでもなった気分だ。
岩やら魔力弾やら近付く物を避けて飛翔する。
崖の凹凸に気を付けながらの飛行。
飛んでいるから重力の感覚はない。
下降って感じではないな――。
と、急に、傾斜がなだらかな坂となった。
速度を落とす――地面が見えてきた。
背後から悲鳴が聞こえた。
Gを感じたようだ。
この大動脈層は九十度に湾曲しているっぽい。
斜め前方へと続いている。
方向を変えつつ大動脈層の先の洞窟を見た。
――天井は高いまま。
――相棒は速度を更に落とした。
当然、速度が落ちれば危険も増す。
天井に棲んでいたモンスターが攻撃を仕掛けてきたが――。
その天井の岩ごとモンスターを破壊しながら天井に四肢をつけて着地。
――震動が激しい。
そして、当然、逆さま状態――。
俺たち全員に触手が絡まっているから落ちはしないが……。
髪の毛が垂れていく。
「ん、目的地?」
「いや、まだだ」
「ここどこなんだろう」
「フェーン独立都市はもう近いはず」
バーレンティンがサザーに答えていた。
バニラとシトラスが混ざったいい香りが漂う。
ヴィーネだ。
銀色の長髪が垂れていた。
その髪をたくし上げてポニーテールを素早く作っている。
その瞬間、神獣ロロディーヌは長耳ごと、大翼を真横に拡大させた。
「ンン――」
喉声を発して天井を蹴る。
宙に飛び立つと、宙返りしつつ、そのままバレルロールを実行。
――凄まじい機動だ。
「きゃぁ」
「うひょあぁ」
「な、なんじゃぁ」
「うひゃぁ」
「わたしは、ネームス」
「ぬぉぉ」
と、バーレンティンたちが奇声を上げる。
ロロディーヌは気にせず両翼を少し畳んでコンドルのように飛行していく。
――大動脈層の巨大洞窟の奥に宙を進む。
――魂の黄金道と蒼い魔力道が続く道を辿って回転機動。
「凄い加速~」
「地下もかなり進んだわね~冒険って楽しい!」
レベッカが二の腕に小さい瘤を作りつつ発言していた。
地下冒険か。
地下の空旅って感じもするが。
ま、地下冒険だな……。
「ンン、にゃ~」
相棒も同意した。
◇◇◇◇
やがて、地底にホームズンの兵士たちが増える。
多脚ブレードを持つ達磨兵。
バーレンティンの報告通り、フェーン独立都市に近づいているのか。
俺は後頭部の操縦席を少し傾けた。皆が居る背中側に移動。
そのままエヴァとハイタッチ。
「ん、シュウヤ、操縦とフォローに指揮をがんばった!」
と、抱きついてきたエヴァ。
エヴァの匂いを嗅ぐように彼女を優しく包んだ。
続いて、ヴィーネとレベッカともハイタッチ。
サザーも混ざろうとしたが、ママニとビアに捕まっていた。
モガは足に触手が絡まり宙にぶら下がって悲鳴を上げている。
「わたしは、ネームスぅ」
ネームスにもロロディーヌの触手が派手に全身に絡みついている。
盛り上がった背中の一部に磔にされていた。
ロロ的にくすぐっているような感じだろう。
ネームスはくすぐったいのか、声がいつもと少し違っていた。
それを見たソロボとクエマにハンカイも笑う。
さて……和んだところで……。
周囲を見ていく。
ここはもう完全に魔神帝国の領域かな。
その種族ホームズンの兵士たちは、蜘蛛系のモンスターと戦っていた。
「主様、あの蜘蛛系モンスターですが、わたしと違います。魔鍾馗の眷属とも違います」
メイドキャップを片手で押さえて、下を見ている蜘蛛娘アキが語る。
複眼から小さいハニカム構造の魔法陣が発動していた。
「あのモンスターは、蜘蛛王ライオガの子孫。デロウビンの蜘蛛種センビカンセスとラメラカンセスの血脈ではない?」
俺の言葉を聞いたアキは頭部を上げる。
鋭そうな歯牙から唾を垂らしていた蜘蛛娘アキ。
鎧スカートの内側の巨大ブルマのような部分から多脚を出している。
その蜘蛛娘アキは、疑問風に頭部を傾げた。
「?? わかりません」
「俺の<蜘蛛王の微因子>は知っているよな?」
「……あ、それは、はい。主様の血肉も……じゅる」
蜘蛛娘アキは興奮したのか、口から血を垂らし、鋏角亜門の手の牙を小刻みに揺らす。
「まだ合体はしない」
「主様……」
肩を落とす蜘蛛娘アキ。
第三の腕のイモリザも居るからなぁ。
第四の蜘蛛腕となって四槍流を本格的に目指せるかもしれないが。
導想魔手を合わせれば、五槍流とか。
そのことは告げずに、
「デロウビンの記憶は薄いんだっけ」
「はい、記憶は戦争の時ぐらいしかないです。わたしがライオガの子孫だということは分かります」
アキは、口から、じゅると音を立て、大きい血の粒を垂らす。
多脚からルシヴァルの紋章が入った魔紋を宙に生み出していた。
警戒したハンカイが睨みを強めて、金剛樹の斧を握りしめている。
「ん、ハンカイさん、大丈夫」
「分かっている」
蜘蛛娘アキの顔は美しい女性だが……。
口と上半身から血を垂らし、鋏角亜門は鋭いと分かる。
多脚の表面から魔紋を宙に向けて出している姿だ。
俺も少し怖いし。
ハンカイが警戒する気持ちは理解できた。
その蜘蛛娘アキに向けて、
「アキ、下の蜘蛛たちを吸収したいだろうが、今は先を急ぐ。そろそろ地下都市だ」
「はい!」
雰囲気を一変させる蜘蛛娘アキ。
メイドキャップを押さえるように敬礼する仕草はコミカルだ。
俺は後頭部に戻る。
ロロディーヌは蒼い魔力道と魂の黄金道を飛翔していく。
すると、蒼い魔力道が、急に曲がる右下に続いている。
ホームズンたちも右の洞窟に向かっているのが見える。
俺たちも右下を進むか。
「ロロ、黄金道より、右の蒼い魔力道を先に見る」
「ンン」
相棒は旋回。
地下にホームズンの兵隊たちが多数ひしめいていた。
罠か? いや、兵士たちが集まっている先に穴がある。
穴の中に蒼い魔力道が続いていた。
穴の形がどうも変だ。
下側がホームズンの骨の塊?
その骨が形成している穴に突入していくホームズン系の兵士。
幅は少しある……が、ホームズンだ。
ただでさえ、多くある足が刃物で回転しているから、穴をスムーズに進むのは厳しいだろう。
……同士討ちも激しそうなホームズンだ。
「あの、穴に向かうとして、急襲するか」
「うん」
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