五百三話 神獣の炎と闇の千手掌

 肉食獣モードとなった黒豹ロロ

 ゼレナードに向け紅蓮の炎を吐いた――。


 ゼレナードは瞬時にスカートの肉布団を捲る。

 イカの外套膜がいとうまくのような感じだ。

 ぐにょりっと音がなるように捲り上がった。

 露出した下半身は人の足が集合した気色悪い多脚。


 そのイカを彷彿する気色悪い人の足を、筆のように扱うと白色の魔法陣を幾つも構築したゼレナード。


 だが、足下に展開した白色の魔法陣は紅蓮の炎に触れるや否や消失。

 神獣ロロディーヌが口から吐いた紅蓮の炎の威力は火炎放射器をゆうに超える。

 ――神獣らしい紅蓮の炎。

 肉布団もとい、外套膜のようなモノで身体を覆った大柄のゼレナードを飲み込みながら部屋中に浸透していく。


 ガラス部屋だった内部は灼熱地獄と化した。

 まだ少し下に残っていたガラスも溶けていく。

 ――俺にも熱波が来た。

 眉毛がじりじりとする。ハルホンクは長袖バージョン。


 前髪だけではなく裾と襟が揺れる。

 前髪が溶けるのじゃないかと心配するぐらいの熱だ。

 胸元に熱風が当たる……。


『熱いです……』


 左目に宿るヘルメも怯えた気持ちを伝えてきた。

 確かに凄まじい熱だ。

 しかし、足下に広がる<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>は漆黒の闇。

 相対的に宙を行き交う神獣の炎は夜空を舞う炎の鳥のように見えて非常に美しかった。


 尾を伸ばしたフェニックスのような……。

 そんな不死鳥を彷彿とする神獣の炎は内壁を溶かし地下の空間を拡大するように広がった。

 神獣の炎は奥の虚空の彼方へと消えていく。


 周囲からくすぶった熱を感じるが相棒の炎は収まった。

 しかし、その熱のお陰で地下の崩落は止まる。洞窟のような空洞が新しくできていた。

 熱にくすぶっている空洞から熱波が飛来。

 ふと、古代狼族の地下を紅蓮の炎で土砂を溶かした相棒の行動を思い出す。

 神獣としての神の息吹と呼ぶべき偉大な炎は凄い、その黒豹ロロは炎を吐くのを止めた。


 そして、百目血鬼が吹き飛んだ方角には炎を向けていない。

 相棒はちゃんと周囲の状況を把握している。

 コントロールした神獣の炎だ。


『凄まじい炎よの……』


 古めかしい言葉だが、怖がっていると分かる。

 楽天家という感じのサラテンも恐怖を覚えたようだ。

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の影響を受けているのかもしれない。なわけないか。

 だが、ゼレナードこと白色の貴婦人は凄まじい熱を受けても生きている。

 見た目で分かるが子供とこのゼレナードは相棒の炎を耐え抜いたようだ。


 事前にスカート状の外套膜で身体を覆い防御態勢を整えていたからな。

 神獣の炎を喰らっても、ある程度は防ぐだろうと思っていた。


 上半身を守っていた外套膜。

 大気圏突入時にも耐えられそうな分厚い外套膜は薄くなって一部が溶けている。

 その溶けた一部の外套膜はぐつぐつと煮えるような音を立てていた。


 ――焼け焦げた肉系の異臭がする。

 外套膜の内部に炎が巡りダメージを受けていたんだろう。

 頭部を覆っていた白布は溶け皮膚と一体化している。


 しかし、不思議と髪や頭部はほぼ無傷だった。

 それだけ優秀な肉の防御だったということだが……。

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の上に漂う白色の貴婦人を観察していく……。


 ミディアムな白色の髪は綺麗だ。

 細い眉毛も白色。

 流し目のゼレナードは鋭い眼光を向けてくる。

 赤と黄緑の魔眼だ。

 やや高い鼻に小さい唇。

 魅力的な口紅が映える。

 顎は細い……トータルで見れば凄く美形な顔だ。


 ……溶けた白布が皮膚に張り付いているが……。

 まさか、白布の下に美人の顔が隠れているとは思わなかった……。


 肩の上にあった椅子に腰掛けていた子供の方も生きている。

 百目血鬼とどめちきの硬貨の混ざった魔刃を受けた跡は消えていた。


 硬貨も相棒の炎の息で溶けたんだろう。

 その子供が座っていた椅子は熱で造形が変わっている。

 衝撃を与えれば崩れそうだ。


「……ロロ、こいつはしぶとい。協力して仕留めるぞ」

「にゃおおお」


 黒豹ロロは元気のいい鳴き声を上げた。

 頭部の一部が、熱でただれている子供が黒豹ロロを凝視する。


「……スサマジイ熱ダッタ……炎神ノ加護ガアルノカ?」


 白色の貴婦人も黒豹ロロを見て、


「ありそう……わたしの防御を燃焼するなんて、普通じゃない。皇級を超えて神級かも」

「モシヤ、魔神アラヌス、ノ、魔獣カ?」

「セブドラ系ではないと思うわよ。加護といえば、炎神エンフリートの炎教団ラエアルの飼っている幻獣? もしくは、古代狼族の秘宝を追ってきた関係者だとしたら神狼ハーレイア系かもね」


 秘宝を追う関係者か。

 白色の貴婦人ことゼレナードは、月狼環ノ槍を見て推測したのか?


「ソノヨウナ魔獣を従エル魔術師ガ、相手カ」

「えぇ、気を付けて対処しましょう。賢者の石も残りは僅かだし、ハンゼの器に納まっている魔力も多大に消費してしまった……」


 少し興味を持つ会話だ。

 が、俺は<血道第三・開門>を意識――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。

 同時に<血鎖の饗宴>を繰り出す――。


 左手首から飛び出る血鎖――狙いはゼレナードだ。

 <闇の次元血鎖ダーク・ディメンションチェーン>はまだ使わない。


 血鎖は<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の暗闇世界を突き進む。

 大柄のゼレナードは血鎖の軌道を把握しているようにニヤリと嗤う。


 嗤ったゼレナードは自分の足下に白色の紋章魔法陣を生み出した。

 刹那、加速したゼレナードは移動する――血鎖を余裕の間で避けていく。


 ――ブースト効果か。


 肉布団を失って身軽になったのか?

 イカのような八本の足と二本の手が増えている分、速度が増している?


 今の姿の方が抵抗が増えて遅くなるような気もするが……。

 あの足と手がブーストを促しているのか。

 造形が一つ一つ異なっている、形は、体内に取り込んだ力の象徴か?

 深海のダイオウイカのような巨大な片目を有する足もある。


 ゼレナードは素早い機動で微かに転移をくり返す。

 その度に、深海魚のような生物にも見える足たちが煌めく。

 だからって、水棲動物ってわけではないことが不思議だ。


 大柄だし、喩えるならダイダラボッチ風か? 


「水と闇の属性を極めた魔術師のようね」


 多脚を持つゼレナードは俺に興味を持ったようだ。

 頭部は美形なだけに、少し動揺する。

 ……既に精神波を繰り出しているのかもしれない。


 そんなことを喋りつつ血鎖を巧妙な動きで避けていく――。

 消えては現れるという転移を実行した。

 その移動距離は短いが再出現のタイミングを巧妙に変えている。

 絶妙な避けの技術。

 時空属性の魔法使いだからこその妙技。

 

 転移の戦闘における戦術の一つか。

 転移武闘術とかもあるのかもしれないな……。


 参考にしたいが、転移術は知らないし、今はダメだ。

 俺にだって、ヴァーミナの使徒であったナロミヴァス戦という経験がある。

 大柄といえば巨人の異常な強さだったシュミハザーとも戦った。

 だから、ある程度は予測が可能。

 ……とはいえ、イグルードのようなモノを、あの子供以外にも備えているかもしれない。


 魔法陣なら魔法陣でと対抗した訳ではないが、動き回るゼレナードを狙う――。

 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を発動。


 水の魔法陣を形成した。

 凍った刃たちが、その水系の魔法陣から滲み出ると、凍った刃は縦と横に重なり合う。

 氷の画一化した巨大な網目模様が形成されると、その氷の網がゼレナードを追う。


 血鎖の軌跡と氷の網が重なる光景は綺麗だった。


 そんな《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》だったが、ゼレナードが生み出した小型の魔法陣と衝突をくり返し、あっさりと打ち消された。

 白色の貴婦人ことゼレナードは優秀な魔法使い系だ。


 俺の魔力と精神力のある紋章魔法とて、防ぐのは当然だろう――。

 その卓越した魔法技術に尊敬の念を抱く。


 だが、これは樹海地域の全体をかけた戦いだ。

 ……キッシュではなく、ぷゆゆの顔を思い浮かべてしまった。


 そんなぷゆゆの幻想を打ち砕くように、魔力を大量に消費する――<闇の千手掌>を発動した。

 闇杭の群れが瞬時に組み合い巨大な掌となる。


 巨大な闇の掌底を、素早い機動で避ける白色の貴婦人へと向かわせた――。


「え?」


 白色の貴婦人こと、ゼレナードは驚く。

 <闇の千手掌>は、小さい<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>と違って大仏さんの掌のような造形。

 闇と物理属性の巨大な掌の一撃だ。

 俺の紋章魔法と血鎖を避け続けていた白色の貴婦人は大柄だ、避けられる訳がない。ところが白色の貴婦人ことゼレナードは左手を翳し防御に入った。


 ゼレナードの左の掌には魔宝石のような形の石が嵌まっている。

 その左手と魔宝石から凄まじい魔力が放出されていた。

 <闇の千手掌>と、そのゼレナードの左手が衝突――。

 ドガッとした鈍い音、強烈な銅鑼めいた重低音が轟く。


 避けるのではなく、左腕一本で受けたゼレナード。

 <闇の千手掌>を防いだゼレナードの左手には積層型の魔法陣が生まれ出ていた。

 闇属性という相性の良さがあったとしても、物理属性の威力は強大なはずだが……。


 だからこそ見事な防御型魔法陣の性能ということか。

 魔宝石を宿す左の手の内で、俺の大技、<闇の千手掌>を防ぐことに成功している。

 今も、左手ごと盾と化すような積層した不気味な紋章魔法陣を使い見事に防いでいた。 


「くぅ、<古代魔法>系? なんて重さ……それにこの闇の技術はかなり高度なんだと……」


 ゼレナードが語る。

 白髪が衝撃波で揺れているさまは、少し美しい。

 下半身は異質極まりないが。

 しかし、防いだ衝撃波と<闇の千手掌>からこぼれた闇杭の連撃を受けているせいで、子供が座っていた椅子は木っ端みじんと化した。


 ゼレナードから離れた子供は、小さい体から凄まじい魔力の波を発しながら宙を移動していた。

 子供に見合わない凄まじい魔力は太い波となってゼレナードと繋がった。


 子供の方にも掌に嵌まっている魔宝石がある。

 幼い手に魔力が集積していく。

 宙から魔力を吸い上げている?

 この<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の中でも機能する力を持つ子供か。

 その手の周りの宙空に、魔力痕のような軌跡が幾つも生まれ出ていく。


 ゼレナードといい、あのハンカイのように手に嵌まっている魔宝石が、賢者の石って奴か?

 一方、その子供の下で、俺の<闇の千手掌>の直撃を左手で防いでいたゼレナード。

 

 血鎖も分厚い白色の紋章魔法陣で止めている。

 血鎖を消去。

 

 このまま力で押さえ込むか?

 <闇の千手掌>を引いて、もう一度、あの巨大な掌<闇の千手掌>でぶん殴ることも想定したが――。

 俺も一応は魔法を知っている――。

 あるスキル・・・・・を発動しつつ、中級:水属性の《氷矢フリーズアロー》と連続で無数に発射した。


『凄い量です……』


 《氷矢フリーズアロー》の物量はヘルメも驚いたか。

 感嘆したような思念が心地いい。


 人の腕程の大きさはある《氷矢フリーズアロー》の群れがゼレナードに向かう。

 確かにヘルメが言ったように、この《氷矢フリーズアロー》は普通の量ではない。

 宙を埋め尽くすぐらいの量だ。

 ゼレナードは左手で<闇の千手掌>を押さえながら双眸を煌めかせる。

 連続的に赤色と黄緑色の瞳が煌めく。魔眼の力を使ったか?

 紋の模様と瞳が前後左右に目まぐるしく蠢いた。 

 刹那、魔眼と連動した白色の紋章魔法陣を、巧みに、宙に幾つも生み出した。

 次の瞬間、白色の紋章魔法陣は、《氷矢フリーズアロー》を捕らえるように正確に相殺してきた。

 魔力を活かした物量だが、防がれたか、ま、当然だな。

 最初の質の高い《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》もあっさりと対応してきた相手だ。


 ゼレナードは、ヘルメを超えるような雨霰とした《氷矢フリーズアロー》を対処していく。

 が、単に物量を生かした攻撃ではないことに気付いていない。


 そう、俺の<導想魔手あるスキル>には気付かない――。

 歪な魔力の手は拳の形だ。

 その拳の<導想魔手>がゼレナードの右半身を捕らえる。


「!? ひぎゃァ――」


 <導想魔手>の拳を右半身に受けたゼレナード。

 <闇の千手掌>を押さえていた左腕がずれた。

 左腕を覆っていた白色の紋章魔法陣も、大仏の巨大な掌のような重さがありそうな威力には耐えきれず、朽ちるように消える。

 ゼレナードの左手も<闇の千手掌>に押し潰され血肉を撒き散らした。

 魔力を失った左手の掌から石のようなモノが散っていく。

 不意打ちを喰らわせた<導想魔手>は消去。

 そして、巨大な掌<闇の千手掌>を相殺したのならゼレナードも本望だったと思うが、相殺ではないからな――。

 消えていない<闇の千手掌>の巨大な掌底はゼレナードの側頭部と左側の胴体を捉えた。


 もろに巨大な掌底を喰らうゼレナード。


「げァァァァ」


 脳が揺れたどころではないだろうゼレナードは激烈な悲鳴を上げた。

 右から<導想魔手>の拳を振るい、サンドイッチの万力風の挟撃を試みてもよかったが……しなかった。

 ゼレナードの曲がった胴体はきりもみ回転を続け地面に激しく衝突した。

 だが、イカ足を巧みに使う。

 夕闇の世界をそのイカ足で蹴るというか滑るように体勢を直そうとした。


 ゼレナードは側頭部から胴体にかけて掌底の傷痕が残っているが、回復が速いな。


 そこに、


『サラテン、出番だ』

『やっとかぁぁ――』


 左手から直進する神剣サラテン。

 ゼレナードは反応した。

 しかし、ゼレナードの胸元に展開した白色の魔法陣を貫くサラテン――。

 そのまま転移して避けたゼレナード目掛け、急反転するサラテンの機動。


 神剣なだけに神速の域でゼレナードに向かう。

 ゼレナードも血と骨が混じっている不気味な左手で対応するが、サラテンはゼレナードの脇腹を抉った。


 そのまま勢い余ったサラテンは『ヌハハハ、美味い血ぞ――』といいながら黒豹ロロの炎が作り上げた洞窟の壁面に突き刺さる。


 ……そう、彼女が刺さった部分は貫けない岩だった。

 黒豹ロロの炎で溶けなかった部分に、見事に突き刺さってゆっさゆっさと揺れている。


『ヌヌヌ……』


 神々の残骸に当たったらしい。

 

 そんなサラテンは後回しだ。

 ジョディの首に懐いたイターシャが見たら、何かを話しかけていたと思うが――。


 脇腹を抉られたゼレナードは胸元の金属部位と繋がる銀チェーンのマジックアイテムを使う。

 即座に体を回復していく。

 ポーションよりも速い。

 

 流れるような動作で、白色の魔法陣を展開すると、無数の刃を俺に向けてきた。


『閣下――』

『いや、<精霊珠想>はまだだ。<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>があるとはいえ、紋章と化すリスクをヘルメに負わせられない』

『閣下……お胸がどっきりんこを超えちゃいますよ?』


 ……ヘルメの思念の意味は、胸がドキドキして愛している気持ちが溢れ出てきますよ、か?


 そんな思念には応えず<血鎖の饗宴>で盾を作り無数の刃を弾いていく。

 だからといって接近戦を止めたわけではない。

 <血液加速ブラッディアクセル>を生かす。

 前進しながら月狼環ノ槍を<投擲>――。


 ゼレナードは飛翔してくる月狼環ノ槍を見て、不気味な左手で受けようとした。

 だが、右手に出現させた骨剣で対応した。

 

 右手の骨剣で月狼環ノ槍の穂先を外側へ押し出すように骨剣を当てながら後退し跳躍するゼレナード。

 月狼環ノ槍の勢いを殺すように右側へ骨剣を回し、月狼環ノ槍ごと骨剣で円錐を描くように回転させていく。

 

 投げた月狼環ノ槍を器用に手前で、ぐるぐる回すとはな。

 剣術もできるのか。

 そのまま月狼環ノ槍を外側に押し出しながら骨剣をくるくると回し着地すると、同時に月狼環ノ槍を外へと弾いた。


 ――地面に突き刺さる月狼環ノ槍。

 <投擲>は失敗したが、狙い通り――前進していた俺は跳躍しながら、その突き刺さった月狼環ノ槍を掴むと、月狼環ノ槍を鉄棒に見立て利用しながら空中回転回し蹴り――を行った。


「――チッ、魔人武術!?」


 そう喋るゼレナードは骨剣を盾代わり。

 俺の蹴りを骨剣で防ぎながらも驚いているゼレナード。

 そのまま、蹴りの回転を続けながら掴んでいた月狼環ノ槍を使う――。

 

 左足からの踏み込みから腰の回転力を右腕と月狼環ノ槍に乗せるがままの<刺突>を繰り出した。


 一の槍の突きを見たゼレナードは、殺気を感じたか、退く。

 一見、シンプルだが、同時に魔力を月狼環ノ槍に込めている。

 大刀の金属の環の幾つが衝突し、嬉しそうに音を鳴らす。


 次の瞬間、幻狼が月狼環ノ槍の大刀から出現。

 次々に 月狼環ノ槍の穂先から幻狼が出現していく。

 複数の幻狼が<刺突>の加速を得たようにゼレナードに噛み付いていく、体に喰らい付く様子は凄まじい。


「く、突きかと思いきや、幻獣?」


 幻狼の群れに白色の紋章魔法陣を身代わりといったように当てながら、身を捻り逃げるゼレナード。

 そこに飛び膝蹴りと見せかけた前蹴りをゼレナードの胸元に向けた。


 ゼレナードは身を捻ったが、間に合わず、


「げぇ――」


 足裏の感触は軟らかい。

 が、血を纏う蹴りをゼレナードの肩口に喰らわせた。


 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>にぶつかりながら跳ね返り壁に衝突したゼレナード。


 そんな血を撒き散らしながら転がるゼレナードに容赦なく黒豹ロロが炎を吹く。

 魔力消費の多い<闇の千手掌>を解除した。

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