四百三十七話 カレウドスコープ起動
「シュウヤ、あの種族は確かに珍しい。だが、ぷゆゆではない」
そうは言うが……。
「ぷゆゆにしか見えない……」
『ぷゆゆちゃんたちが、古代狼族たちと話をしてます!』
ヘルメもぷゆゆにしか見えないらしい。
「珍しい
へぇ。ハイグリアは動物博士のような口調で説明してくれた。
そういえば……ハイグリアがぷゆゆを初めて見た時も。
『くるくる毛の
昔ハイグリアが警告していた。
身内の争いとはね古代狼族に伝わるホラー系のお話かな。
神獣の飛行形態の時に彼女は喋っていた。
しかし、そのソンゾル族か。テルポット族たちの言葉はやや早口だ。
一瞬、アドゥムブラリが棲む紅玉環を見る。
元上流階級の魔侯爵君アドゥムブラリを思い出した。ぷゆゆと同じく性別不明。
小熊のような見た目で可愛い『テディベア』と似た樹海獣人たちはアドゥムブラリ的に早口だ。そんな可愛いぬいぐるみのような樹海獣人たちは、皆一生懸命に、
「あの魔族たちは倒したのか?」
「しらんぞぉ、しらんぞぉ、わしはあの甘いお菓子が食べたいのだ!」
「くせぇ、屁をかますな」
「おいらはモンスターを倒す!」
「えぇぇ、プクプクはまだ剣を覚えたばかりじゃないか、小さいでやっと握れるようになった状態で百迷宮に挑むとか、俺たちは大人しく大道芸を磨くべきだ」
「魚料理の名店トグサ・マドドドーンの店に行こうぜぇ」
「焼き魚の名店なら、トグサの名店よりもポドレンの釣り師の穴蔵のほう美味しいのだ!」
古代狼族とドワーフたちに向けて喋りまくっている。
近くの
樹海獣人系たちは活気にあふれた通りを横断していった。
すると、小さいポニーに乗った樹海獣人がいた、思わず注視――。
可愛い……小さい頭部にすっぽりと嵌まるようにミニチュアのカウボーイハットを被る。着ている服も高品質で小熊のくせに生意気だ。インナーは魔力を内包した銀色の鎖帷子を覗かせている。そして、小熊系の証拠といわんばかりに、鎖帷子の穴が多いというわけではないと思うが、毛むくじゃらの毛が飛び出ていた。鎖帷子の間をすり抜けるほど、小熊太郎系の樹海獣人たちの毛は異常に細いのだろうか。
もじゃもじゃの毛、実は鎧は必要なく、あの、もじゃじゃの体毛には特別な防御効果があったりするのかも知れない。鎖帷子の上から羽織る革の服はインディアン風のジャケット。胸に親指ほどの骨製の釦が並ぶ。左胸には鳥の羽根飾りもある。
右肩には、魚のワッペンと鹿の頭を突き刺した腕章もある。
背中には釣り竿。やけに細かい意匠が施された腰の革ベルト。その腰の横に剣ではなく爪楊枝のような木の枝を差している。襟がやけに高い。だからか。余計に生意気そうな印象を抱かせる。これは、まぁ、俺の主観だから仕方がない。
樹海獣人たちは首が短いというかほとんどないからな……。
勝手に納得しつつ。頭部のカウボーイハットが似合う樹海獣人の観察を続けた。
衣装は全体的に洗練されている。
しかし、馬子にも衣裳。やはり、ぷゆゆにしか見えない。
「ンンン、にゃ~」
樹海獣人ではなく、その樹海獣人が乗っているポニー系の魔獣に挨拶。
ポニーの頭部が動く。顎先で宙に円を描くと――「ヒヒィーン」と馬のように嘶いた。
『ふふ、お尻ちゃんチェックの時間ですね。お尻愛の挨拶は、永久に不滅です!』
左目に棲まう常闇の水精霊ヘルメちゃんが反応。
幻影のまま小さい指をポニーの尻を指す。
ポニーは、そのお知り合いは、お尻愛を実践するように
だから、ポニーと俺が勝手に判断しただけで、実際は犬系の種族ってことか?
と推測した。
「――ドラオウ! 黒豹に挨拶するのか?」
……喋った。
小熊太郎が喋った!
驚きだ。ここ、最近のできごとで一番の驚きかもしれない。
正直、ルッシーより驚いた。
あのリップシンクの動きで理解できる言語を放つとは……。
本当に小熊太郎の〝ぷゆゆ〟ではないらしい……。
俺のエクストラスキル<翻訳即是>がちゃんと働いた。
地下で聞いたようなニュアンスだ。ドワーフ語だろうか。
そして『クララが立った!』ではないが毛むくじゃらの樹海獣人は、軽快な戦士風の所作を見せて、ドラオウと呼んでいたポニーの上に立つ。
小さいカウボーイハットが似合う。
馬具の
しかし、背の低い種族が鞍の上に立っているが、その鞍は腰ベルトと同じタンのような革だから衝撃だ。
立派な馬装備だから余計にシュールさをアピールしている。それでいて爺さん系のしゃがれた声、この爺さん、いや、爺さんではないのかもしれない。声がアレなだけで若者なのかもしれない。
これが、ソンゾルかテルポットという樹海獣人さん。ということだろう。
そのポニー系魔獣と
そうして互いの臭いを嗅いだ両者は満足したように鳴き合ってから離れた。
「ドラオウよ。お前さんが挨拶するとはな! よし、このまま買い物に向かう。プックの実とトンラ鳥の卵を買うのだ! 人気のミカレも欲しいが……ほれ、はよう動け!」
と、騎乗した樹海獣人は小さい足をばたばたと動かす。
ドラオウは
カウボーイハットが似合う樹海獣人が騎乗する茶色のポニー系魔獣は、にぎわいを見せる商店街に向かう。
お尻、太股の位置に、白い斑点のような可愛いマークがあった。
「今の種族は、ソンゾルだ! と思う」
ハイグリアが教えてくれた。
「姫、あれはテルポット族かと。指の数が四本、銜のロープを持つ手の親指が大きかったです」
「そ、そうか。シュウヤ。わたしも間違えるほど似ているから、ぷゆゆと勘違いする気持ちはよく分かるぞ」
と、謎の自信を持つハイグリア。
「お、おう」
と、ハイグリアとリョクラインに向けて俺は返事した。
すると、
「ンンン――」
先ほどのドラオウことポニー系魔獣を追いかけてはいない。
その川辺に沿うように、ところせましと屋台に幕があるテントと露店が並んでいた。
刺繍が入った半透明の天幕と横幕もある。
肉を切り、その肉をタレにつけて焼く作業の様子が、ぼんやりと窺えた。
面白い……。
ここからでも様子が見える。
天幕から淡い色彩の光が、テント内を明るく照らしていた。
ランプの灯りもアクセントになっている。
天幕と横幕の幅は長く奥行きもあった。
三間はあるかもしれない。軒高の天幕を支える四脚の樹木も棟を結ぶようにランプがロープからぶら下がっていた。
その幕の店の奥にあった煙突の部分に幕はない。
半透明の幕とか。
その
さっきと同じ弓なりだ。
太股からふさふさした黒毛を見せていた。
ま、半透明な幕も気になるが、やはり料理だろう。
ヘカトレイルの露店で買った鍋系の料理は美味かったからな。
それに神獣だ。
嗅覚も普通ではないし、匂いを嗅いで料理の味が期待できると判断したんだろう。
食いしん坊な神獣ちゃんだから、確かな保証はないが……。
と、考えながら、
「ちょいと見学する」
と、ハイグリアたちに告げてから、周囲を見ていった。
頑丈な手押し車を押す古代狼族たち。
羊飼いの古代狼族。
金の斧を肩に置いて足取りが重いドワーフ。
馬銜とくつわにロープを売る露店商の
投げ縄選手権とか騒いでいる。
銜で行う競技か?
囚人護送車を引っ張る魔獣たちを操作する古代狼族の兵士。
囚人はオークの兵士たちか。
近くの建物の壁には色々な拷問器具の絵が描かれた木片が貼られてあった。
男の騎士が矜持で強さを見せたり女の騎士が華々しさを魅せたりと、そればかりが戦争ではないからな。
戦争は悲惨だ。
人はあっけなく死ぬ。 強者も弱者も死ぬ時は死ぬ。
圧倒的強者は違ってくるが……。
『悲しいけどこれ戦争なのよね』
と言う感じだろうか。
囚われ運ばれていくオークたちの絶望染みた表情を見ると……。
敵を倒し、報酬を得る人族を含む俺たちの正義を考えさせられる。
ま、それが分かっていても、考えても仕方がないか。
今を生きているんだから……。
近くには赤ん坊を抱きながら歩く古代狼族の女性。
目に敵意に近い黒い光を宿した古代狼族の男性。
憎々しい感じの口調を飛ばしてくる古代狼族の青年。
文人墨客の雰囲気を出して、書画を書く古代狼族の老人とドワーフの若者。
無骨な顔を持つ
彼らは総じて俺を注視。
ぎょっとした表情と態度を取って、驚く。
が、ハイグリアの厳しい視線を受けて、知らぬ存ぜぬといったような惚けた表情で通り過ぎていった。
ま、これは仕方ない。この地域に人族はいない。
偽装している優秀な奴は居ると思うが。
少なくとも、今、見える範囲にはいない。
死蝶人のジョディは人族に見えるが、帽子を深くかぶっているからバレてない。
というか、俺は人族の見た目だから、注目を浴びている……。
なんか、恥ずかしい。
様々な視線は気にしないように……。
周囲の喧騒を見ていく。
慌ただしいラッシュアワー的だ。
傭兵的なドワーフの戦士集団もいる。
古代狼族たちと一緒に仲良く歩く動物、いや、
そして、巨躯の
海坊主的な姿の古代狼族が殴り合いの喧嘩を始めた。
樹海獣人たちと、兎人族の美人さんと……え?
肉付きのいい手は……。
アゾーラ?
似ている。
腕だけではなく全体像がアゾーラっぽい。
が、連れている動物は白熊ではない。
ゴリラ風?
厳ついモンスターのペットを連れていた。
その近くには、美人な兎人族。
ん?
あれは……。
……弓を持った兎人族は、暗弓のレネか?
【梟の牙】……幹部だった。俺が逃がしてやった……隣にいる美人な兎人族も気になる。
流れ的に妹さんか?
そんな兎人族の集団は、喧嘩をしている
肩に何かの腕章があったような気がしたが……。
レネだとしたら、妹さんと合流できたってことなのか?
塔烈中立都市セナアプアを本拠地にしている、あの白鯨の血長耳が、みすみす取り逃がすとは思えない。
セナアプアでは【血月布武】の名はかなりの知名度だと思うし。
だが、まぁ、レザライサもエセル界行きの切符を持つ集団の盟主だ。
忙しいかな。エセル界の冒険もあるだろうし……。
色々な権益を巡る評議員たちの争いを背景とした……。
闇ギルドの争いに加えて自身の暗殺話から、魔薬密売に絡む商組合との争い、人魚肉を巡る争いから、商船と海賊に関することまで……。
評議員たちが運営する空魔法士隊を率いる空戦魔導師も絡んだ壮大で濃密な話を、ハッスルを楽しんだ時に聞いたからなぁ。
さらに、西の帝国での工作&かたき討ちもある。
メリチェグ、クリドスス、レドンド、ファス、療養中の乱剣キューレル、といった超が付く優秀な人材を抱えていても、先の影翼旅団との争いでノウン、ツイン兄弟たちといった人材を失い過ぎたからな。
それに、もう闇ギルド【梟の牙】は存在しない。
だから、個人のレネという存在に、構っていられるほど余裕はないか。
というか……本当に元【梟の牙】の幹部だったレネだとしたら……。
そのレネと妹さんが巧みに白鯨の血長耳の追っ手を躱して逃走を続けていけるだけの能力を持つか、或いは、同種族の手助けをする仲間が居るのかもしれない。今の兎人族の集団とか……。
と、思考を続けていると近くを通った子供を連れた古代狼族たちが、
「黒髪の見たことのないのが、いる~~!」
「あ、だめよ。トハル!」
母の忠告を無視して、近づいてきた子供の古代狼族。
「よっ、お母さんが心配しているぞ?」
と、笑顔を意識して、腕を伸ばす。
お母さんのところへ戻れといったニュアンスを示してあげた。
「黒髪が喋った! でも、緑の見たことない服がかっこいいー」
「ありがとな」
子供の古代狼族は笑顔でお母さんのところに戻っていった。
その古代狼族の家族の会話が聞こえてくる。
「ねぇ、ぱぱー、神像広場の祭りに行きたい~」
「祭りか、催しだな」
「昨日からやってるわね。アーゼン鳥の焼き鳥をただで分けてくれるそうよ」
「焼き鳥もいいが、フン先生の門下生たちの踊りは一見の価値があるとか」
「あ、そうそう。チュンさんも同じこと喋っていた」
「うむ。狼将のアゼラヌ様とオウリア様が結果を残したようだからな。ドルセル様が傷を負って戻ってきた祝いの儀式も兼ねているらしい」
へぇ、一部の狼将たちが帰ってきているようだ。
ドルセルは、黒の貴公子と魔界騎士だったデルハウトと衝突していた相手か。
今のデルハウトは俺の眷属、光魔の騎士が一人。
シュヘリアと共にキッシュの補佐についてもらっている。
そこで、
両前足を汚していそうだ。
何してんだ? おしっこでもする気か。
そんな疑問を持ちながら、ハイグリアたちに振り向き、
「……ロロが気になる店を見つけたようだ。俺も店の料理が気になるから、行かないか?」
ハイグリアは俺の言葉を聞いてから、青と緑が織りなす巨大な壁が続く都市の方に頭部を向けていた。
憂鬱そうな表情を浮かべる。
そして、
「屋台か……」
と、呟いて、リョクラインたちとダオンさんを見て、アイコンタクトを行い頷いていた。
「……はい、では、我々は
リョクラインは妹さんに、先に行けと指示を出すように顎先をクイッと動かしている。
頭を下げて、俺にウィンクをしてきた狼娘ちゃんこと、妹さんは小走りで街道を走っていった。
あの後ろ姿、だれかにそっくり。
あぁ、思い出した。エヴァの家族だ。リリィの背中と似ている。
「……シュウヤさんに周囲から視線が集まっている状況もある。そして、姫が見事に狼将ザクセルの仇を取ったことを大狼幹部会に報告しなければ」
「はい、十二支族ヴァルマスク家の直系筋に当たる<従者長>を倒したことは功績です。狼月肩章の授与は確実でしょう」
「……名声が高まることは確実。大狼幹部会の場において発言権が増すことは確実だ」
「はい! ザクセル様の棺の儀式も行われる運びとなるはずです。そして、神像広場での報告も、あっ」
そこでリョクラインはしまったと口を隠す。
ダオンさんは頭部を左右に軽く振る。
それは『いいんだ』というようなイケメンらしい表情だ。
そして、十字傷が目立つ、その頭部を斜め上に向けた。
狼月都市の中心に視線を向け、涼し気な表情を浮かべてから、
「……カエムのことも報告しないとな……家族にも」
その瞬間、一粒、二粒と、涙を流すダオンさん。
双眸を充血させた男泣きだ。
俺も少しうるっときた。
……そういえば、ナメクジ女こと、樹魔妖術師を必殺の<闇穿・魔壊槍>で倒した時、その樹魔妖術師に囚われていた古代狼族たちがいたんだよな。
死んでしまった……古代狼族の女性……。
あの時、ダオンさんは凄く悲しんでいた……。
すると、リョクラインが、
「カエムさんも――」
と、ダオンさんを慰めようとしていた言葉を、ハイグリアが腕を彼女の前に出して遮っていた。
ボーイッシュな銀髪を揺らすハイグリアは、可愛いが、男っぽさがある。
「はい、すみません」
リョクラインは謝っていた。
「……いや、俺こそ。涙を見せてしまい情けない。故郷に無事に戻れて、あいつの匂いが、な……」
また泣いていくダオンさん。
「……は、い」
ダオンさんの涙とその言葉を、心で感じたリョクラインも涙を流す。
ハイグリアも泣いていた。
ハイグリアは片膝を地に突けるように態勢を低くしながら
ハイグリアは立ち上がり、ダオンさんを強く睨む。
睨みにはある種の愛情があった。
「――ダオン。ザクセル・ハイゲルフの件、わたしの報告は後回しでいい。カエムの家族とお前の家族の下に戻れ。幽刻の谷で奮闘しているビドルヌも、そう言うはずだ」
「しかし……」
「これは命令だ」
「はい」
ダオンさんは片膝を突けて頭を下げて了承していた。
「姫の屋敷にも報告を……」
「俺も戻ろう。神姫直系の、姫様の強さを知っているとはいえ、季節が変わるほどの単独行動だったからな……」
立ち上がったダオンさんはリョクラインに頷きながら話をしていたが気まずそうな表情となっていた、泣いていた表情とは違う。そのダオンさんはハイグリアを伺うような視線を向けると、ハイグリアは急に姿勢を正し、青ざめた表情に変化していく。青い瞳孔が散大し収縮を繰り返す。
先ほどまで神姫としての雰囲気を醸し出していたが、サイデイル村でも見たことがない。なんとも弱々しい様子だ、ハイグリアには屋敷に何か帰りたくない理由があるようだ。
「唯一のご家族であるヒヨリミ様も心配しておられるはず。最優先で報告を」
「はい」
ハイグリアの表情を受けたダオンさんの表情にも少し翳りがあった。
リョクラインは短い返事だが、あえて語るまいといったような反応を示す。リョクラインとダオンさんはそう話すと頷き合ってから、俺を見つめてくる。
「では、シュウヤさん、一隊を引き連れて屋根回廊に先に戻ります」
「分かった。俺は少し散策しながら買い物をするかもしれない。だから、またあとで」
「はい。狼月都市は中もありますから、楽しんでいってください」
「姫様を頼みます」
リョクラインとダオンさんはそう語ると、
「おまえたち行くぞ」
「「はい!」」
古代狼族の若い兵士たちに指示を出しては、ハイグリアに会釈をしてから離れた。
その途中で後脚を滑らせながら華麗にターン。
先ほど穴を掘った地面にまた戻り、地面を掻く。
何かミミズ系の虫でも見つけたか?
「……んじゃ、ジョディとハイグリア、ロロが何か地面に穴を掘り出しているから止めに行くぞ」
「うん、美味しい店を教えてやろう」
そう語るハイグリアは元気な感じに戻ったが、憂鬱な雰囲気はある。
そこに、ぷゆゆ系の樹海獣人たちが、通りの真ん中を偉そうにトコトコと歩いていくのを、視界に捉えた。
『……ぷゆゆちゃんの種族ではないのですね。でも可愛らしくて好きな種族です』
『確かに、妙に可愛いんだよな。短い足を揃えて謎の行進をしているし……わしゃわしゃとあの毛を弄りたい』
と、ヘルメの念話に応えながら、沈黙していたジョディを見る。
ジョディの見た目は人族かエルフに近い。
衣服も、先ほどと少し変わっている。
なしうち烏帽子を深くかぶり、ほどよい形の乳房をアピールする白色の衣服を着ていた。
「ジョディ、あそこの屋台には肉があるようだ、一緒に食べよう」
「はい、あなた様」
頭を下げたジョディの回りに白色の蛾が舞った。
一瞬、辺りを歩く方々から視線を受けた。
が、注目はあまりされず。ジョディは深くかぶっていた帽子を消去。
綺麗な短い髪を露出しつつ通りを歩いた。
「――トリトンの樹木を売るよー」
「レシュンの酒はどうすかぁー」
といった芬々たる香気を放つ商人たちの声が響く。
半透明な幕ではないが、横幕に個性豊かな屋号的なマークがある。
獣人系と分かるマークだ。そんな屋台と露店とテントが織りなす狼月都市の情緒豊かな街並みを楽しみつつ歩いていった。
ハイグリアとジョディも互いに、この地域の話を始めた。
俺は――右目の横に備わる備わる
――カレウドスコープを起動。
「頬の十字型の金属が自動的に卍型に!」
ジョディが反応。
俺は頷くと、有視界にフレーム表示が出現――。
一瞬青白くなったが、それは一瞬で終了。視力が上がる。
解像度が高くなったかな。より鮮明となった。
……頭部に蟲を宿す者がいないかと……三角形のカーソルで、歩く人々をチェック。ランダムにスキャンを続けた。
え? ここで人族? 気になった人物を注視――。
スキャンした。
――――――――――――――――
炭素系ナパーム生命体α1e###9
脳波:正常
身体:異常
性別:??
総筋力値:103
エレニウム総合値:18324
武器:あり
――――――――――――――――
げ、いた。頭に寄生はされていないようだが、左の片腕から肩が蟲と一体化している……後ろ姿だと、外套で判断がしにくい。短い髪。体格は普通か、細見。男か女か分からない。見た目的に剣士か。細身で大剣を扱うようだ。
戦士系の外套……透けているから分からないが、獣人だろうか?
しかし、脳は普通。まさか……魔槍グドルルを扱っていたパクス。そのパクスの体と邪神ヒュリオクスの眷属ガバルだった触手体は融合していた、その眷属ガバルことパクスが語っていたマガイモノ?
ヒュリオクスの眷属かもしれないが……皆に話すか。
とりあえず、左目に宿るヘルメに報告。
『ヘルメ、邪神ヒュリオクスの眷属か、それに分類するマガイモノがいた』
『え? どこですか!』
精霊ヘルメも分からないか。
『そこだ』
『えっと……』
通りは賑わっているからな。
今も通りすがりの……荒々しい隻眼の
腰には近接用武器の骨と鋼製の曲刀を差している。
魔力を宿す柄巻にはボタンらしきモノがあるから、追加の刃がありそうだ。樹海を生き抜くための仕掛け武器かもな。
それとも百迷宮に挑むような獣人の一人なのかもしれない。
『何だと! 器よ、突き刺し、貫き、血を満たせ』
『サラテュンさま! いい歌デシュ!』
イターシャの訛りは可愛いが、今はサラテンの一家は無視だ。
しかし、この狼月都市も色々とありそうだな……。
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