四百十五話 キッシュの眷属化※
村に戻るや否や、すぐにキッシュに報告。
その場で血を大量に消費して政務室内でキッシュを<筆頭従者長>に迎え入れた。
気を失ったキッシュ。
すぐさま彼女の下に滑るように駆け寄り――膝を貸して寄りそった。
ラシュさんも天井から見ている。
幽霊の彼女としての視線は怒っているのか悲しんでいるのか分からない。
ただ、いつも楽し気にしていた雰囲気じゃないことは確かだ。
だが、今は生きているキッシュのほうが大事。
膝枕の上に寝ているキッシュ……。
頬を小さく刻む蜂の刺青も眠っているように見える。
その頬は仄かに紅い。
労るように頬をさわった。
今は司令長官の職を休んでいいんだ。
ゆっくりと眠れ……友よ。
お前が眷属となっても友なのは変わらないんだからな。
『いや、わたしは皆とは戻らない。ヒノ村に立ち寄りたい。それに、魔竜王を倒したのだ。故郷があった場所へ戻り、墓を建て、倒したことを皆に、家族に……報告したい』
あの時の彼女の言葉が脳裏に浮かぶ。
お前は故郷を……身寄りのない子供たちを受け入れてサイデイル村として再建した。
ヘカトレイルからこの村の場所までの道のりを考えたら……。
アッリとタークという子供にしては戦える人材もいたようだが、守るべき存在が複数いる中でのヒノ村経由の移動は……相当な大冒険だったはずだ。
まぁヴァライダス蠱宮で初めて会った時もキッシュは子供たちを連れていたからな。
戦う経験は豊富にあったようだから、そんな大冒険という感じではなかったのかもしれないが。
そして、その村の皆を守るために……。
【蜂式ノ具】を奪った地底神ロルガの討伐を含めてルシヴァルとしての強さを手に入れようと、俺の眷属入りを強く望んだことはよく分かっている。
キッシュ……。
お前の先祖や家族を大事にしようとする優しい心根と、騎士として君主としての模範のような生き方を実践して頑張る姿を見ていると……。
俺は凄く誇らしい気分になるんだ。
これはまだ面と向かって言ったことはないが……。
お前は俺の中で頑張り屋さんの偉大な騎士であり憧れの友なんだぞ?
だからこそ眷属化の話をしなかった思いがある。
しかし、もう眷属化は終わった。
この件を友人のチェリが知ったら……。
『わたしとの相談もなしに決めるなんて!』
とか、何とか言って怒られそうだが……。
ヘカトレイルに向かう際は、【天凛の月】の事務所に向かいチェリにも会わないとな。
血長耳の幹部、風のレドンドとも話をしなくては。
少し気が重いが、シャルドネとも会わないと……。
キッシュから『女侯爵との交渉を頼む』と言われたからな……オセベリアとサーマリアの紛争に関してもあるし、ギルド関係でエリスにも会ったほうがいいかな。
クナの店もチェックだ。
もう無くなっていると思うが……あの頑丈な扉を簡単に壊せるとは思えない。
長考したところで、キッシュの寝顔を拝見。
まだキッシュは気持ちよさそうに寝ている。
鼻をツンツンと、人差し指で優しく触るが、起きない。
さて、キッシュが起きるまでの間を利用だ。
ステータスの確認でもしようか。
キッシュの綺麗な薄緑色の髪を撫でつつ背中を壁に預けながら……。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:22
称号:覇槍ノ魔雄new
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍血鎖師:白炎の仙手使い
筋力26.3→26.7敏捷27.6→27.8体力23.8→24魔力29.3→28器用24.7→25.2精神30.7→29.2運11.5→11.0
状態:普通
魔力と精神はやはり下がったな。
これは仕方がない。
キッシュの眷属化に加えて色々とあったし。
双剣の魔神ソールの加護を持つ魔人ハーシクという種族の魔界騎士シュヘリアを新たな眷属ルシヴァルの光魔騎士として受けいれたからな……戦闘職業は<血双魔騎士>だが。
その黄色の魔剣を扱う彼女の胸元に<魔心ノ双剣>をぶち込んだ。
それに伴い<光闇ノ奔流>やら<大真祖の宗系譜者>の主要なスキルの他に合計四つのスキルが融合し<光魔の王笏>も獲得した。
<魔雄ノ飛動>も獲得したし魔界の神の一柱悪夢の女神ヴァーミナも認めてくれた。
ヴァーミナ様のおっぱい、いや、あの槍は印象深い。
あの白銀の湖を彷彿とさせる魔槍ハイ・グラシャラスは非常に魅力的だった。
さらには、ルシヴァルの紋章樹精霊ルッシー(仮)の誕生。
血を消費しながら<血道第四・開門>と<霊血の泉>も獲得したから、神界戦士と神官を殺しての吸収もあったとはいえ、この減り具合は納得だ。
そのルッシー(仮)だが……。
名前も正式に決めないとな。
ルッシー(仮)、イエシュ(仮)、オシリーヌ(仮)と候補はあるが……。
イグルードの記憶もないようだし……。
このままルッシーということにしちゃうか。
よーし、ルシヴァルの精霊orルッシーにしよう。
さて、次は新しい称号を調べる。
<覇槍ノ魔雄>をタッチ。
※覇槍ノ魔雄※
※セブドラ、セラ、問わず、覇王の資質と魔君を超えた魔雄の器を持つ槍使いの称号※
※魅了畏怖と神感現象楽進、全ての能力微上昇、成長補正+※
覇王の資質。
これは覇王ハルホンクを食べた因果も関係あると分かる。
魅了畏怖が少し意味不明だったので、タッチ。
※魅了畏怖※
※魅了の魔眼を超えたモノ。通称<夜王の瞳>を内包※
※魔雄の魔力を強く感じ取った場合、その感じ取った相手に対して、畏怖と混乱を与える場合が希にある※
称号でスキルみたいな効果があるのか。
次はスキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>:<霊呪網鎖>:<水車剣>:<闇の千手掌>:<牙衝>:<精霊珠想>:<水穿>:<水月暗穿>:<仙丹法・鯰想>:<水雅・魔連穿>:<白炎仙手>:<紅蓮嵐穿>:<雷水豪閃>new:<魔狂吼閃>new
恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適応>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>new:<光魔の王笏>new:<血道第四・開門>new:<霊血の泉>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
最初は<雷水豪閃>をチェック。
※雷水豪閃※
※<水神の呼び声>に連動した豪槍流技術系統:極位薙ぎ払い系亜種※
※雷属性武器が必須。豪槍流・水神流・水槍流・仙魔術の他、全武術の高水準の応用が要求される※注※エクストラスキル<脳魔脊髄革命>がある場合能力加算※
水神様、感謝します。
呪神のココ様もついでに感謝。
次は<魔狂吼閃>だ。
※魔狂吼閃※
※魔竜王槍流技術系統:上位薙ぎ払い系亜種※
※<魔槍技>に分類、魔槍杖バルドーク専用<吼閃>系に連なるスキル※
※下地に豪槍流技術が求められる。発動条件に全能力高水準及び<魔雄ノ飛動>が必須※
※魔槍杖バルドークが吸収してきた魔素や魂が威力に影響、使い手の精神(魂)、魔力なども威力に影響あり※
これもバルドーク専用か。ただの薙ぎ払い系じゃないな。
魔竜王バルドークだけでなく怪獣やら邪神シテアトップの幻影が飛び出すのは驚いた。
武器を振るった時に出現する幻影といえば……。
そう、トフィンガの鳴き斧だが……実戦にも使ってあげないとなぁ。
忘れてなきゃだが、いつかは使うとしよう。
そんじゃ――次だ。
<魔雄ノ飛動>をタッチ。
※魔雄ノ飛動※
※槍武術系統上昇、武術全般微上昇、君主としての器※
ほう、さらに君主としての器の部分をタッチ。
※〝魔軍夜行〟を、ただ一人生き延びた伝説の魔槍騎士デラハ・ヴェルゼイが最初に獲得※
※魔英雄シャビ・マハークと同じ槍ノ強者であり<魔獣の心>、<獣ノ心>などの獣と心を通わせるようなスキルと魔界騎士を配下に持ったうえで魔君を超えた支配者の器を持つ者だけが初めて獲得できるスキル※
へぇ、続きが出た。
デラハ・ヴェルゼイか。
<魔槍闇士>という戦闘職業を獲得したときも、彼の名前があった。
運命神アシュラーじゃないが……。
何か、俺と運命的なモノがあるんだろうか。
そして、支配者の器を持つ者か。
無意識に指が動く、更にステータスを連打。
上上下下、BAだめか。
ファミコンで有名だった「ドラえもん」のマイクを使って、ジャイアンの歌が炸裂したように!
「俺の<脳魔脊髄革命>よ、革命を起こせ! ――出ろや!」
ズキッと頭部が激しく痛むと――。
視界が揺らぐ血の視界に……だが、
※魔雄ノ飛動※
※槍武術系統上昇、武術全般微上昇、君主としての器※
new※あらゆる魔力系スキルに連動し<血魔力>に強く反応する※
new※強い剛志の証しでもある、魔界セブドラの諸将や逸材が持つ場合が多い※
新しいnewがステータスに出た。
すげぇが、鼻と目から血も出たし、頭が痛い……。
しかも、なかなか痛みが引かない。
<脳魔脊髄革命>に負担をかけすぎたかな……。
まぁいい、不死身だ。ある程度の無理は効く。
次だ――。
※光魔の王笏※
※<ルシヴァルの紋章樹>から派生※
※称号<覇槍ノ魔雄>を得ることが条件の一つ※
※光と闇を知る魔雄※
※血の眷属の宗主の因果律を超えた証明※
※光魔ルシヴァルの王としての資格の一つ※
※取り込んだ<大真祖の宗系譜者>が強まった証明でもある※
※多大な精神力を必要とするが、選ばれし眷属の<筆頭従者長>は二十人まで可能※
※<従者長>は二十五人まで眷族化が可能。<光魔の王笏>効果で、眷族となった直後の眷族者は、今までの経験に加えた独自の進化したスキルが獲得し易くなる※
光魔ルシヴァルの王の資格の一つか。
他にも王の資格に見合うスキルがあるんだろうか。
そして、選ばれし眷属の<筆頭従者長>の数は二十人まで可能か。
<従者長>も増えた感覚があったが、増えていなかった。
タッチしても、これ以上は無理か……。
いや、諦めない。
「――<脳魔脊髄革命>!」
叫んでもだめか。いや、脳と心臓に、体の奥、心の内奥から水と血を感じる。
――んお、また揺らぐ――。
※光魔の王笏※
new※光闇の魔雄と宗主の因果律を超えた証し※
new※血の眷属たちの光魔ルシヴァルの王の資格の一つ※
new※<従者開発>※<光闇ノ奔流>※<光邪ノ使徒>※<大真祖の宗系譜者>の四種スキル必須※
new※<ルシヴァルの紋章樹>から派生し称号<覇槍ノ魔雄>が必須※
new※<霊血の泉>により運を失うが<大真祖の宗系譜者>が強化※眷属たちの能力を大幅に引き上げる※
おぉ……。
その次は……これも変わらないかな。
ま、一応タッチ。
※<血道第四・開門>※
※光魔ルシヴァル血魔力時空属性系※
※血道の道は険しいが、血を吸い込み続け、血道に関するスキルを使い続けることで先が見えるだろう※
連打しても出ないし、叫んでも無理だった。
さすがに頭痛の連続は負担が大きすぎたか?
俺の頭部が破裂したら再生するのか試して……いや、怖い。
最後はこれか、<霊血の泉>をタッチ。
※霊血の泉※
※<霊槍血鎖師>及び光魔ルシヴァル血魔力時空属性系<血道第四・開門>により覚えた特殊独自スキル※
※ルシヴァル神殿がある範囲内でだけ本人の周囲に聖域と化す霊気を帯びた血湖の作成が可能。霊気漂う聖域内は、眷属たちの能力がより活性化。初期段階において既にルシヴァルの紋章樹精霊と連携が可能となる※注※さらなる発展の兆しあり※
※聖域では、あらゆる事象がルシヴァルの眷属たちに有利に運ぶ※
へぇ、注の部分を連打しても何もでず。
最後の部分を連続連打のタッチング!
すると、
※<光魔の王笏>の効果。自らの運を犠牲にしたお陰で聖域の力となった、のじゃ※
※呪神ココッブルゥンドズゥの呪い※
……そういうことか。
のじゃ、呪神ココッブルゥンドズゥ様だな。
◇◇◇◇
しばらくして、瞑っていた瞼が開く。
キッシュが起きた。
「こ、これが、眷属化か」
薄緑色の瞳を揺らしながら語るキッシュ。
長耳にある緑色の宝石のピアスはいつ見ても可愛らしい。
「そうだ。一先ず、これを渡しておこう」
皆と同じように起き上がったキッシュに〝処女刃〟の腕輪を手渡す。
そこから、選ばれし眷属の<筆頭従者長>として戦闘職業とスキルの獲得を得て、急成長を遂げたキッシュは興奮したように自分の掌を見ながら会話を続けた。
興奮したキッシュを抑えるように<血魔力>に関する説明も開始。
処女刃の内側には折り畳まれて格納されている鋭い刃が内包されている腕輪だ。
腕輪のスイッチを入れると、内側に格納されているサメ歯牙のような刃がドッと出て、それらが二の腕の肉に突き刺さるという……Мっけ溢れる腕輪だ。
と、ヴェロっ子が語ってくれたことを思い出しながら先生口調で説明していた。
次に<血魔力>の訓練は裸になるからと……。
キッシュを抱っこしながら俺の家に素早く<導想魔手>を使いながら移動。
鼻をつくシトラス系の香りを楽しみながら……。
キッシュを抱えながら家の屋根に着地した。
ぷゆゆが屋根の軒にぶら下がって遊んでいる。
鼻息が荒くなって、興奮している?
意味不明な小熊だ。
キッシュと共に屋根から二階に続く出窓から家に入った。
俺は即座に<邪王の樹>を意識。
二階の端を拡張。
眷属用の二階、三階と部屋を無数に作りながら素早く改装を施した。
外から小熊太郎のぷゆゆが、変なぷゆゆ声を響かせてくる。
そうして、改装した大部屋に入ったキッシュ。
ひな壇の上には、お風呂も可能な巨大桶が鎮座。
モデルは地下都市にあった巨大な鉄窯風呂。
その桶の中へと足を踏み入れたキッシュは勿論……裸だ。
いつも見ているとはいえ……悩ましい姿だ。
長い緑色の髪が背中を隠す。
ヘルメは勿論「素晴らしいお尻ちゃんです」と、期待通りの言葉を発してくれた。
続いて、
「ヘルメ、遮蔽用の水幕を頼む」
「はい」
精霊ヘルメに広々とした二階の壁がない部分を隠すように、遮蔽用の水幕を作ってもらった。
すると、
「これを嵌めて、痛みを我慢するのだな」
「そうだ。皆、経験済み。痛いが我慢してくれ」
「ふふ、戦いに比べれば些細なものさ」
キッシュは笑みを浮かべながらそう語る。
処女刃による血の訓練を開始した。
俺はヘルメの幕に血を流して煌びやかな血のカーテンを作る。
見学に来たムーとサナさんとヒナさんは血の匂いとそのカーテンの美しさに驚いていた。
当然、オークたちも驚いた。
大きい鼻をひくひくと動かしては、目一杯、双眸を拡げている。
そんなソロボとクエマはオーク八大神と思われる名前をいくつか囁くように語り出す。
その瞬間、自らの両膝で二階の床を突いて両手を組んでから大仏に祈るように拝み始めてしまった。
クエマのパンティは黄色の布だったが、あまり見ない。
……紳士だからな。
そして、ぷゆゆが興奮して叫び、ラシュさんが蜂を纏いながら家に乱入。
――血のカーテンに近寄っていくと、こわごわと杖をカーテンに伸ばす。
ミニチュア恐竜の先端で血のカーテンを突こうとしていた。
杖の先端の周りに漂う蝶々と羽虫は血のカーテンが近付くと逃げるように一気に飛散した。
それを見た小熊太郎こと、ぷゆゆは「ぷゆ!?」と何故? とでも言うように警戒し、逆に
そのぷゆゆは、
怖がっているかと思いきや
というか、ぷゆゆに首はあるのか?
毛むくじゃらで見えない。
だから、小さい頭の下に尻尾が付いただけと、いったほうが正しいか。
「ぷゆゆちゃん~、キッシュさんの裸は見ちゃだめですよ~」
と、一階の居間に戻っていたサナさんの言葉だ。
「ぷゆ~」
と、上から、声を上げた小熊太郎のぷゆゆ。
トコトコと人形のような足を前後させて、歩く。
全身の毛をふんわりと浮かせるように降りていた。
一階のサナさんは居間のテーブルを囲む丸椅子に座っていた皆と合流し、ヒナさんとリデルの隣にある真新しい座布団に座った。
ドココ製の新調された座布団だ。
その柔らかさと布地について語り合っていたヒナとリデルは笑みを向ける。
サナさんとヒナさんは、どうやらリデルとバング婆から言葉を教えてもらうようだ。
インクと羽根ペンらしき道具が台の上に並んでいる。
卓球台の近くのテーブルの向かい側に座っていたエヴァとレベッカを見た。
仲がいい二人は、オレオのような菓子とパンをむしゃむしゃと食べているバング婆に、前にもらった木札の効果について質問している。
ハイグリアはテーブルの上に乗った
訓練場の中心のルシヴァルの紋章樹に住む精霊ルッシーについて側付きでもあるリョクラインと真剣な顔付きで話を続けていた。
その神姫様のハイグリアに対し、リョクラインは数回頷いて、真剣に答えていたが……
「にゃあ、にゃお~」
そう鳴いた
と、言うようにリョクラインは相棒に抱きつこうとした。
が、
背を伸ばすような避け方で、絶妙すぎる。
「月の双神……」
ハイグリアは構わず、真剣に話を続けた。
回りがうるさくなったから、ハイグリアたちの会話の内容は分からない。
そんな古代狼族の二人だが……。
時折、近くでヌコ人形と魔造虎の人形を使い遊んでいるシェイルの様子を確認していた。
ダオンはいない。
「このリンゴのもちもちしたお菓子が美味しい~。シェイルさんもあーんして~」
日本語でそう話をしたヒナさんは、ほっぺに両手を当ててから、シェイルにお菓子をあげていく。
人形遊びを止めた片眼のシェイルは意味が分かっていないのか「ジョディ?」と呟いてから笑みを浮かべるだけでお菓子は食べなかった。シェイルの崩れた体の一部からは、赤紫色の蝶々が儚く散っている。
「シュウヤ~。キッシュさんは順調そう?」
「大丈夫だよ」
と二階の隙間から皆の様子を覗きながら、レベッカの声に答えた。
キッシュは一階で、楽しそうににぎわっている皆の様子が途中で気になったようだったが、血の訓練を続けてもらった。
◇◇◇◇
そんなこんなで<血道第一・開門>を獲得したキッシュ。
これで正式に選ばれし眷属の<筆頭従者長>となった。
血文字もその場で確認、『シュウヤ、わたしは家族になった。凄く嬉しいぞ、そして、友には感謝しかない』と、照れることを告げてきたから、変顔をわざと作って誤魔化した。
キッシュは優しく微笑んでから、他の眷属たちに挨拶のメール的な血文字を送っていた。
ヴィーネ、ヴェロニカ、ミスティ、ユイ、カルード、メル、ベネットたちから次々と祝福の血文字がキッシュの周囲に浮かぶ。血の喝采にも見えた。
……キッシュたちとカルードの会話が気になる。
が、俺は一階に戻った。
「んじゃ、<白炎仙手>で上手くいくか自信はないが、シェイルの回復に挑戦しようか。外に放置してあるキゼレグが入っている銀箱も運ぶ」
お菓子を摘まんでいたエヴァとレベッカに向けて、そう話をした。
亜神ゴルゴンチュラのカスが集まって集合した卵石とジョディのアンチモンのような白い宝石はポケットの中だ。
「ん、了解! 挑戦する。シェイルが可哀想」
「うん、そうよね。シュウヤと契約した時の彼女たちの様子を思い出したら……亜神のゴル蝶々が復活しちゃうかもしれないけど……」
「ん、シュウヤがいる」
「わたしも亜神復活のリスクは聞いている。が、シュウヤの判断を信じよう」
「そうね、信じる」
「そうだ。蒼炎の女神、いや、拳の継承者よ。わたしたちも外に出よう! それに、ダオンの警邏隊たちと交代の時間だ」
ダオンさんが率いる古代狼族の中隊はサイデイル村に常駐する兵士と化した。
まぁ、キッシュにシュへリアと紅虎の嵐を交えた話し合いで、軍の再編とか陸軍とか色々と話をしていたようだし、当然か。
「おう。ついてこいと言わず、悪いなハイグリア」
「分かってる、気にするナ!」
ハイグリアは犬歯をキラーンと輝かせてサムズアップ。
古代狼族の故郷では、世話になると思うが、亜神の卵を弄ってからだな。
「にゃ?」
そのサムズアップに反応した
ハイグリアの爪が綺麗な親指に向けて、
「ロロも行くぞ」
「ンン、にゃお」
肩に来た
優しく突いて小鼻の湿り具合を確認して遊んでから、シェイルの手を握る。
「閣下~、わたしも行きます~」
「おうよ、来いや~」
と、意味もなく声を高めた。
ヘルメをシュパッと左目に納めてから、居間から玄関口に向かう。
「――シュウヤ、その魔軍夜行ノ槍業、腰にぶら下げておくの?」
「あぁ、暇な時に見られるかなと」
「……『呪いの品の第二種危険指定アイテム類と同類ですね』とかのスロザの店主の言葉が脳裏に浮かぶんだけど……」
「5点だな」
「何が5点なのよ、卓球勝負?」
「モノマネだよ。レベッカ君。こう迫力ある感じの……ブブバッ!」
「0点ね」
「にゃんお~」
皆は黙っていたが、
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