三百三十六話 幕間ノーラ

 

 ◇◆◇◆



 路地を歩きながらシュウヤのことを考えていた。

 わたしを抱こうとしなかった。

 妹、家族への想いを察してくれていたのか、黙って相槌をしながら話を聞くだけ……。

 ついには「ショックも受けて疲れただろう? そろそろ寝よう」と微笑みを交えながら話をして、ベランダから外に出て行こうとした。


 紳士の態度を崩さないシュウヤの背中を見て胸が切なくなる。


 やっぱりシュウヤが好き!

 と再認識しながら立ち去ろうとしているシュウヤの背中へ抱きつくように暗緑色の袖を掴んでいた。

 胸の高鳴りの音を口から吐き出すように「出て行かないで……」と小さな声でお願いをしていた。

 そのまま裾からシュウヤの腕をぎゅっと握り直して腕を引っ張り寝台の上に誘導してから恥ずかしいけど……正直に「男は知らないの……」と彼を見ながら弱音を吐くように告白。シュウヤに笑われたけど、それはいやな笑いではなかった。

 彼らしい……すっきりとした顔。

 『そんなことは構わないさ』と心の声が聞こえる表情だった。


 そうして、初めてだったこともあり赤子をなでるように抱かれていく。

 でも、途中から男の逞しさを感じさせる勢いとなった。

 激しくも優しくもある絶妙な動き……。

 二つの手が別の生き物のようにも感じさせる。


 シュウヤ曰く、「トクガワイエヤスも学んでいたと言われる妙技だ」と、わけわからないことを呟いていた。


 けれど、妙技の部分には納得。


 男の人は、初めてだったのに快楽を何回も感じてしまった。

 あんなに気持ちいいことがあるなんて、知らなかった。

 好きな人だからこその結果なのだろうけど生まれて初めて……さらに「ここはどうだ?」と、急に優しい甘い言葉を耳元で囁いたと思ったら、緩急をつけるようなゆっくりと密着した振動する攻めに移行していた。


 その瞬間、わたしは大きな声を上げて身を悶えてしまった。


 そんな表情を見ていてくれたのか、わたしをリードしながら休憩へとちゃんと誘導してくれる。

 そして、休んでいる些細な間も、わたしを労る視線が、その黒い瞳がたまらなかった。


 夜色の瞳……不思議とずっと見つめていたくなる。

 こんな素敵な彼の側にずっといられたら、どんな生活になるのだろう……。



 そうして、素敵な、生涯忘れそうもない、彼との甘い生活を考えさせられるぐらい強烈で中毒性の高い一夜は過ぎていった。


 ううん、甘いだけじゃない。

 生きる活力を得たような気がする。

 妹が生きている、会える、といった喜びだけではなくて、別個に生きている女、人として、正式に認めてくれたような特別な精神力を伴った元気がもらえた気がする。


 わたしの心に点々と付着した血の雨滴を洗い流してくれるような感覚。


 これもシュウヤの種族ルシヴァルとしての力なのかもしれない。

 吸血鬼から新しく進化した種族と語っていたけど。


 でも、そんな種族が誕生していたことが驚きよ……。

 闇と光が融合した吸血鬼なんて……。

 天と地がひっくり返るほどのできごと、前代未聞。

 初めて聞いた時は凄く混乱した。

 光が効かない吸血鬼……聖者の刻印を胸に宿すルシヴァル。


 オッペーハイマン地方にも小さい教会はあったので、司祭様からよく話を聞かされていた。


 それにエーグバイン家の宝物庫の一部である古い書架には、代々のエーグバイン家に所属していたヴァンパイアハンターたちが内外から吸血鬼対策の一環として、本草学から神意学のあらゆる書物を幾千と蒐集した貴重なコレクションがあった。


 中には何故集めたのか分からない禍々しい魔力が漂っているミイラと魔造書もあったけど。


 アイテムも含めて貴重なのは、古びた木箱に入った旧神新書と荒神大戦。

 革装丁の分厚いマハハイム神話とハーベスト神話。

 鬼神キサラメの怪書、不屈獅子の塔の地図、巫蠱道書、ソロモン異獣偏、古都市ムサカの怪奇伝、古くて読めない荒神と呪神図譜、血文魔石王電、ココッブルゥンドズゥの小石環、埃及転生、夢瓶、邪竜ガドリセス降臨書、魔界アゾリン公と魔傀儡ホーク、山わろ神記、血骨仙女の衣、地底神トロドとの密約書、ヴェヌロンの書のレプリカ、魔界ナイトメア侯爵の思想体系、夢魔世界の手引書、吸血妖魅考、偉大なるホウオウホノリウス、怪奇学の冥字鉄、赤竜大帝、魔道と血道世界の道、狂眼トグマの移動術、ケムラ・リドウ著のアブラナムの秘鍵書、そして、古い神聖書も中にあった。


 その神聖書に登場する光の御子様、聖王様の証拠となるマークを胸に宿しているシュウヤ。


 生まれ変わり伝説の生きる証拠。


 宗教国家の教皇様も、この事実を知れば何かしらの勅令が下されるはずよ。


 シュウヤは、一度、宗教国家と聖王国に行ったことがあるらしいけど。

 魔族殲滅機関ディスオルテの監視網をどうやって切り抜けたのかしら。

 ルシヴァルという種族を知ったら黙っていないと思うけど……ま、宗教国家も都市ごとに特色があるし、アンデッドに聖戦もあるから田舎の地方だと忙しくて監視どころの話ではないのかもしれないわね。


 でも、本当に探していた妹がヴァンパイアと化していたなんてシュウヤではなかったら、到底信じられない話よ。

 もうわたしの十代目としての仕事は……。

 あぁ……だめね、シュウヤに元気づけられたってのに。

 まずは妹から直接考えを聞かないと。


 ヴァンパイアといえど、実の妹なんだから……。

 シュウヤは気まずい顔を浮かべながら分派がどうとか、言っていたけど、始祖の十二支族家系図に乗るようなヴァンパイアの従者になったのかしら?


 でも、八代目と九代目が、これを聞いたら『お前も消毒対象だな……血の汚物は燃えるがいい! フハハハハ』と言ってわたしも襲われそう。


 ……怖い。

 魔族殲滅機関ディスオルテのエリートのような感じだし、絶対にアンジェ、妹には会わせられない。

 シュウヤの場合は、どんなことになるか想像もできない。


『光の吸血鬼だと? 不審な黒髪めが! 我がエーグバイン家の者に手を出したこと後悔させてやろう!』


 と、十字の鉄びしで投擲した。九代目は何も言わずに光群蜂と糸喰いを使って攻撃しそう……。


 といったように当初は、どうしよう。どうしようとエーグバイン家、オッペーハイマン地方のことハンター図、家族、妹のことも重なり様々なことが脳内を駆け巡り、狼狽えてしまった。


 吸血鬼ハンターとして生きる指針を見失ってしまったような気持ちだった。

 シュウヤと話をして、なんとか落ち着いたけど。

 少し動揺が続いていた。シュウヤは、そんなわたしの状態をちゃんと見てくれた。


 本当に優しい男……。

 妹のことや吸血鬼ヴァンパイアのことを一瞬でも忘れさせてくれた。

 抱かれていくうちに、自然と弱い心は霧散していた。と、言った方が正しいのかもしれない。シュウヤは自然体だから、特に意識はしてないようだったけど。

 とにかく、わたしの心は凄く凄く癒やされた。


 面と向かって言えなかったけど……ありがとう。

 でも、シュウヤが話をしていた……会いたい人物って、どんな女性なんだろう。


『女性は好きだ、気に入った女のためなら俺になりにがんばるさ、今のようにな?』


 まったく飾らない態度で、平然と笑いながら、語っていた。

 わたしに対しても優しくしていたから、相当、もてるのだろうと想像がつく。


 他にも『槍、武、いや、俺に生きる目的をくれた師匠に会いに戻るつもりなんだ』とも風槍流の小難しい体重移動から筋肉と握り手を意識した技術系の事柄を、夢中になって説明してくれたけど、よく解らなかった。でも、その顔付きは、光と闇を持つ特殊なルシヴァルという種というより、ただの趣味、好きなことに夢中になっている人族の男にしか見えなかった、可愛かった。


 その時、胸がキュンとしちゃったのだけど……。

 わざとだとしたら策士ね……。


 さーて、シュウヤに影響を受けた訳じゃないけど、わたしはやりかけの仕事を片付けなきゃね、妹が吸血鬼ヴァンパイアでも、今はまだ吸血鬼ハンター。

 この仕事を整理してからペルネーテに向かう。


 冒険者ギルドに移動し、樹海エリア東部から南にかけて、多数出没するとされているモンスター退治の依頼を選び受けていた。



 ◇◇◇◇



 他の冒険者たちのキャンプエリアが点在する比較的安全な轍がついた道を歩く。

 小雨が蜘蛛の糸のように感じる中を轍がなくなり、本格的な森の内部に足を踏み入れた。


 獣道、背の高い樹木が並ぶ【樹海】から続く森林地帯だ。

 早速、小隊規模のゴブリンと遭遇。

 背中に手を回し聖剣グリュドボルグを引き抜きざまに、ゴブリンを両断。

 二匹、三匹と、枝葉を斬るようにゴブリンを対処した。


 ゴブリンの種類はテルカに分類する眉毛が太いタイプ。

 この眉毛が素材になるんだから不思議よね、と採取をしてから森の内部、<感応>の反応がまだある奥へ向かう。


 すると、見知った旗印とランプの光を見つけた。


 あれは冒険者クラン【戦神】の印。

 偶然、この辺りでキャンプをしていたのね。

 雨も降って、もう夜半過ぎだし、お邪魔しよう。


 と、数張りある設営テントの場所へ、かけよっていった。


「――竜殺しのガルナレフさん。こんばんは、ご無沙汰しています」


 ガルナレフさんに挨拶。

 数ヶ月前にオセベリア王国と冒険者ギルドが主体となった魔竜王討伐戦で活躍した戦士団のリーダーだ。


 ドワーフばかりが多いけど、他にもエルフと人族たちも居る。

 合同パーティらしい。


「おぉ、美人な吸血鬼ハンターのノーラじゃないか! この間、皆で追いかけ結局……取り逃がしたA級、いやS級クラスの吸血鬼はどうした?」


 う、忘れていたのに……思い出しちゃった。

 ヴァルマスク家とはまた違う漆黒の髪を持つ吸血鬼。

 多数の冒険者とわたしを含めた吸血鬼ハンターたちで追い詰めたはずの相手だった。


 光系攻撃を巧みに避ける体術と魔法技術に、環状の魔武具を巧みに使いこなす吸血鬼。

 相当な高祖系吸血鬼だと思うのだけど……。

 ベンラックの方に逃げられてしまった。


 いや、逃げたというより、誘導している感じだった。


「……結局、無駄足だったわ、樹海に独自の結界があるのか、狼との対決か、わからないけど追いつけなかった」

「お前さんが倒せないクラスの吸血鬼が相手だったのか。どうりで手強いはず……ん? すると、ここの近くにもそのような吸血鬼が居るのか?」

「この間は特殊よ。だから今回の吸血鬼は違う相手だと思う」

「ぬぬ、夜間対策をせねばならんか」


 ガルナレフさんは周囲を見渡す。


「その方がいい。聖水はある?」

「未使用が二瓶、聖鳥クンクルドの羽とアッガルマの蜜もある。蜜も多少は効くからな」


 ガルナレフさんは腰ベルトに連なるサックから、素早く瓶を取り出し見せてきた。

 道具を出す動きが鍛冶屋職人のように年季を感じさせる。手慣れた動きだった。


「……それなら、緊急時にも対処は可能ね」

「魔素の感知、風の探知をかい潜ってくる吸血鬼は厄介だ」

「今回の合同パーティのメンバーに聖職者系の戦闘職を持つ人は?」


 周りのメンバーはあまり変わりがないようだけど。


「二人居るが、ノーラが必要なほどの高祖吸血鬼と戦った経験はない。だから、ここにノーラが加わってくれるのならありがたいのだが……」

「キャンプを利用しているので、手伝いたいけど、今日は夜までということで、お願い」

「そんな願いをせんでも、知り合いの冒険者同士じゃないか。暗黙の了解だろう。その上、ここは混沌とした現場だからな。だが、ノーラは朝までか……残念だ」

「えぇ、今回は依頼を受けたモンスターもあるから別に狙っている吸血鬼もいるし……明るくなり次第出発します。すいません」

「かまわんさ、昔、命を救ってくれた相手だ。自由に端の空きテントを利用するといい。夜までの対吸血鬼保証となれば俺たちも好都合だしな?」

「お礼に聖水一個でいい?」

「がはは、美人な癖に気配りが相変わらず効く女だ。しかし、その面で、男、相棒はできないのか?」


 ガルナレフさんに悪意はないとわかるけど、失礼よ。

 冒険者の女が、貴族女のような対応を求めても仕方がないのだけど……。

 貴族の女のように優しく扱ってくれたシュウヤと一緒だったから調子が狂っちゃう……。


「……個人的なことはだめよ? 聖剣があることを忘れないで」

「……すまん、セビのことを思い出した。さ、そこの空いている平幕で休むといい」


 ガルナレフさんは、急に焦ったような笑みを浮かべ頬が震えていた。


 セビとは、前にわたしに厭らしいことをしようとして絡んできた男の名だ。

 ことの顛末はガルナレフさんの表情からわかると思う。


 そんな表情を浮かべているガルナレフさんだけど、魔竜王戦でも活躍したドワーフ戦士団を率いる英雄だ。その英雄が、休める場所を提供してくれるんだから、丁寧に頭を下げて空きテントへ移動した。


 まだ夜が明けてないけど、テントから出た。

 見張り役の方に挨拶。


「理力、理力、その背中の両手剣、対吸血鬼特攻か?」

「……はい」


 盲目の女子? だけど、武器の特性を見抜くなんて……。

 彼女の双眸の位置は、高級そうな魔力を帯びた布で隠されているけど、実は見えている?

 それとも、目ではなく<心眼>系の特殊スキル持ち?

 単に、鑑定系、魔力探査が有能なのかしら?

 そんな彼女が、見張り役をしているらしい。少し興味を持ったけど……。


「……では、失礼」

「じゃあな」


 盲目女性の背後から突然現れる大柄男。弓系の武具を腹に抱えている。

 <隠身>のスキル? 

 大柄なわりに魔素を周囲に出さない質の高さを持つのね。


 凄腕のコンビかしら?

 あまりこの辺では見たことないから流れの傭兵か、賞金稼ぎか。

 そんなことを考えながら、この場を離れた。


 轍がついていない雑草、ムクの葉、メメントの葉が茂る森を進む。

 斜め後方に見えていた野営の焚き火が小さくなり、やがて見えなくなった。

 そのまま周囲を警戒。

 吸血鬼ヴァンパイアの反応があった南へ足を向ける。

 しばらくして森を進むと――吸血鬼ヴァンパイアの臭いを<感応>で感じ取った。

 でも、地面からメメント草が生えて進みにくい。

 多少強引にその葉を切りながら、血の臭いを放っているところを目指す――。

 このエイラムの樹の枝分かれした大きい葉の先からの反応よ!

 枝が剣のように左へ伸びている場所の奥から強い反応。


 そのタイミングで、隠蔽技術を応用した歩法を意識。

 更に、エーグバイン家直伝、<十字の歩み>を重ねて使う。

 暗がりで不気味な宝物庫の中にあった「霊芝秘説の脚技」を読んで勉強したかいがある。「ノーラ姉、こんな暗がりに一人で平気?」とアンジェに聞かれたっけ。


 昔を思い出しながらハンターらしく気配を消す。


 これで、従者を従えている高祖吸血鬼ヴァンパイアでも奇襲が可能。

 臭いをまき散らす吸血鬼ヴァンパイア、覚悟しなさい!

 まずは銀光蜘蛛で動き止め、聖剣で仕留めてやるんだから!

 と、意気込んで走っていく。

 すると、鉄が擦れて、硬質な石が削れる音が響いてくる。

 標的の吸血鬼ヴァンパイアが戦っている?

 わたしの他に追跡者が居たとでもいうの?

 と、疑問に思いながら茶色の葉が茂る樹木の下を駆けていた。


 やがて、樹木たちが不自然に倒れている場所に出る。

 そこでは足下の葉と岩を、すべて刈り取る勢いで、吸血鬼と狼女が戦っていた。


 両手からレイピアのような銀爪を幾つも伸ばしている狼女。

 口からも可愛らしい牙が伸びていた。

 吸血鬼の歯に見えると、本人に話をしたら怒られるかも。


 そして、手の拳から伸びている銀爪だけが武器じゃないようね、足先の爪も尖り伸びている。

 その足を生かした魔闘術系の技術は高い。

 雌とは思えない、足跡が残るぐらいの力強い踏み込みからの蹴り。


 歩幅の活動域が広い。

 

 殴るような蹴りを繰り出す動きは、虎獣人ラゼール豹獣人セバーカを彷彿させる。

 そして、揺れている銀色の髪は……獣人とは思えない繊細そうな細毛なので、少し羨ましい。


 凄く綺麗。顔も美人女性に見える。

 でも、胴体の鎧の隙間から古代狼族の証拠としての銀色の毛が飛び出ていた。

 乳房の大きさからして、気品を感じるのは気のせいかしら?

 古代狼族も色々とタイプがあるらしいから、もしかしたら位の高い古代狼族かもしれない。


 そんな古代狼族は人族も襲う。

 要注意だけど、わたしの標的は吸血鬼ヴァンパイア

 その吸血鬼ヴァンパイアが右手に持つ魔剣は内に沿って刀身の半分だけが青色に輝いている。

 左手には黄土色の直剣の魔剣を持つ。


 吸血鬼ヴァンパイアは二剣流の使い手。

 二振りの魔剣を扱う吸血鬼ヴァンパイアと戦っている古代狼族の女は、数本の銀爪を剣のように扱っている。吸血鬼ヴァンパイアと古代狼族は睨み合ってから急接近し近接の間合いで衝突し剣と爪をぶつけ合う、往なし、互いの下段蹴りが衝突してはまた間合いを保った。


 再び、正面から魔剣と銀爪が切り結ぶ。

 銀爪と二振りの魔剣から激しい硬質音と火花が生まれ出た。

 互いに間合いの感覚が合うようね、顔を衝突させるような紙一重の距離で打ち合っていく。

 

 と、吸血鬼ヴァンパイアが虚を突く動作を巧みに繰り出した。

 沿った魔剣を古代狼族の女の耳元を削ぐ。

 掠った? と思いきや古代狼族の女は正中線をズラす。

 体幹を軸に連続と横に回る回転避けを行った。

 

 吸血鬼ヴァンパイアの魔剣をリズム良く避けていく。

 吸血鬼ヴァンパイアの魔剣は虚空を斬り、近くの枝を斬っていた。

 細枝は煌めきを残し、地面に落ちていく。

 古代狼族の女は本当の踊り子のように足先を斜め前方にいる吸血鬼ヴァンパイアに向けての反撃。

 避け動作の動きと合う二段中段蹴りを吸血鬼ヴァンパイアの胴に繰り出していた。


 吸血鬼ヴァンパイアは片頬を上げる笑みを浮かべながら後退――。

 強烈そうな二段蹴りを避けると、背後の樹の幹に古代狼族の女の蹴りが衝突し樹は内に湾曲してから折れていた。……凄い力、幹に複数の穴がある。足から伸びた爪かしら。

 古代狼族の蹴りのスキル?

 でも速度は吸血鬼ヴァンパイア方が上ね。

 ううん、魔剣を避けていたから拮抗している?

 周りの状況をもう一度把握していく……地中を這うような根っこは凹み折れている。

 岩場は両断されて二つの岩となり切断された草花が宙を舞っている。

 臓物をまき散らした状態の小動物の死骸も散乱していた。

 地面から悲鳴が聞こえてきそうなぐらいな状況。

 吸血鬼ヴァンパイアと古代狼族の女との戦いは長く続いていたようね。

 好都合な状況、でも、あまり付け入る隙がない。

 二人とも、わたしの存在に気付いていないからチャンスといえるけど……。



 ◇◆◇◆

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