二百八十四話 異世界ツーリング
立体簡易地図に表示されている赤いマークは少数。
森林地帯なので、ここでリテプ反動システムを意識。
前輪と後輪のタイヤが変化を球体状に変化と遂げると、小型オービタルは浮かび上がる。
宙に浮かんだ小型オービタルは樹木の間を縫うように移動を開始した。
このオービタルを使った移動……最高だっ。
すこぶる気持ちいい――。
操作しながら木々を通り抜ける行為が、凄く楽しい。
座椅子の先端に居座る
少しだけ
一通り満足させてあげてから、アクセルを少し強めた。
急加速した途端、屋久杉を彷彿とさせる巨大樹木にぶつかりそうになったけど、小型オービタルに内臓してあるレーダーが障害物を認識しているらしく自動的に樹木を避ける機動を取ってくれた。
――偉いぞオービタル!
と、気をよくしてから、肝心の赤マークの主たちを確認しようと、背後を確認。
丁度よく、追ってきたモノが木々の間から姿を見せた。
それは灰色の馬型魔獣に乗った三つ眼の邪族たち。
魔獣に鎧が着せられているので、東ローマ、ビザンツ帝国のカタフラクトを連想させる。
『あの魔獣と乗っている者たちの身なりは確りしています。装備の質から先ほどの集落とは関係がないようですね』
『そのようだ。魔力を感じさせる物を多数身に着けている。エリートクラス、邪界導師のキレを思い出す』
『戦いますか? お尻に杭を』
『いや、彼らも凄く速いけど……』
俺が乗る小型オービタルの方が速い。
邪族の姿は、樹木の陰に沈むように小さくなっていく。
立体簡易地図にある赤いマークも消えた。
『俺たちに追いつけないだろうし、無視だ』
『はい』
最初だけ速かったようだ。まぁ生きた魔獣だからなぁ。
優秀そうな魔獣に見えたが、流石に限界があるだろう。
ロロのような神獣なら……余裕で追い抜かれて、触手に捕まり、このオービタルも破壊されちゃいそうだけど。
……背後を追ってきた者たちは忘れよう。
オービタルのアクセルを操作、加速を楽しんでいく。
「にゃあぁぁ」
さっきに続いて
「ンン、にゃおん、にゃぁ」
ハンドルの真ん中にあるディスプレイの上に両前足を乗っけて、鳴いている。
首の両端から、可愛らしいお豆型触手を左右へ広げていた。
裏にある小さい肉球が風を泳いでいるように見える。
そんな可愛いロロの頭を撫でながら森林地帯を進んでいると、突如、視界が開けた。
立体簡易地図もリアルタイムに移り変わる。
なだらかなに傾斜している丘のような空間。
僅かに風を感じる……いいねぇ。
このまま、少しだけ未知な二十階層、邪界ヘルローネの旅を続けよう――異世界ツーリングだ。
丘が連なった波のような地形の場所を通過。
カンガルーが上半身で左右に裂けたような頭が二つあるモンスターの群れが犀の頭部を持った馬型魔獣群れと多数交尾し合っている大乱交の場面に遭遇。
むあーんとした変な匂いが漂ってきた。
大自然の営みの光景にロロが反応してしまう。
触手で再現しようとしていたので止めさせた。
教育上よくないと判断。
俺はアクセルを強めこの場所をスルー。
続いて、熊のようなモンスターと巨大なゴクラクチョウが戦っている場面もスルー。
箒のような多足と胴体に五つの眼が蠢き手がない奇怪モンスターと、巻き毛の綺麗な魔獣が、巨大蜘蛛たちと戦う場面も、華麗にスルー。
巨大キリギリスと月の形をした岩の群れが衝突し、何故か岩が爆発しながら戦うところもスルー。
緑の霧を吐き出している口が臭そうな怪しい植物型モンスターと、三つ眼邪族の集団が戦うところは少し戦いを見たが、無難にスルー。
手長の足なし怪物と、足長で手無しの怪物が、胴体同士のぶつけ合いを続けているという、謎の衝突を繰り返している場面をスルー。
馬獅子型のロロディーヌに少し似た魔獣の集団が走っているところをスルー……は出来なかった。
「ンン、にゃあああぁ」
ポポブムの首下を触手で叩くように小型オービタルの座椅子の下辺りを触手で叩き出す。
しょうがない。
うるさかったのもあり、
俺はオービタルのステアリングを操作。
一匹の野生の魔獣の後部へ寄せてあげた。
オービタルは静かなので、魔獣も気づかない。
匂いを嗅がれた魔獣はびっくりしてオービタルに気付くと、急いで離れていく。
そんな調子で、旅を続けた。
当ても無く丘を越え、草原、荒野を突き進む。
一際高い丘が見えたので、その丘に向かうかな。
岩が散乱している丘の下を進み、斜め上へ向かう。
すいすいっと鼻歌を歌うようにリテプシステムで空中に浮いている状態の小型オービタルは楽に坂を進む。
お? 頂上付近に小さい彫像がある遺跡らしき場所を発見。
小型オービタルを、その彫像の場所へ寄せてから止めた。
オービタルに乗った状態で、彫像を凝視していく。
像は、一対の三つ眼の邪族の彫像。
二つの象に挟まれる形で、白玉石が中央に飾られている。
その白玉石から多大な魔力を感じた。
外には魔力は漏れていない。
この白玉石……。
何時ぞやの、ラグニ村の白菫色の水晶を思い出す。
『閣下、これはラグニ村でデイダンの怪物を封じていた水晶に似ています』
『俺もそう思っていた』
『ふふ、閣下のことですから、触るのでしょう? 気をつけてくださいね』
『大丈夫なことは分かってる癖に』
精霊ヘルメも俺の行動を読むようになってきた。
さて、触る前に小型オービタルから降りる。
そして、この辺りの風景を楽しもうと……。
視線を巡らせていった。
左辺は湿っぽい雰囲気……残雪をとかし拡大させたような怪しい邪悪めいた白霧が一面に立ち込めていた。
小川もある。あの水、色が少し違う?
水面の流れといい、霧とは違い色合いが美しい……。
『閣下、邪悪そうな霧も気になりますが、あの水は何でしょう』
『水の精霊ヘルメちゃんも気になるか』
『はい』
水、俺なら飲んでも平気だと思うし、後で、丘を降りて岸へ向かい……綺麗な川の水面へ手を伸ばして触れてみようかな。
そんなメルヘンチックなことを考えながら右を見た。
左手の霧が濃い場所と違い……平らな草花が茂る場所だ。
少し起伏があるけど平原のような感じ【邪神ノ丘】の周りにあった平原を思い浮かべる。
あそこには、グニグニの牛と違うモンスターたちで溢れているかもしれない。
「……水は後でチェックしよう。今は、この白玉石を優先する。試しに魔力を送ってみようか」
『……はい』
視界に浮かぶ小型ヘルメさん、お尻をぷるぷると小刻みに揺らしている。
白玉石に触るという行為のドキドキ感が、精霊な彼女にまた新しいインスピレーションを生ませているのかもしれない。
邪界ヘルローネにおける
ヘルメのお尻を見ながら、白玉石を触った。
感触はザラザラしている。
少し窪みがあるのか?
白玉石の表面にあった窪みに、掌を合わせてみた。
その途端、魔力を吸われ、地響きが轟いてくる。
音は地下か?
と、思ったら手の下にある白玉石が真っ二つに分かれる。
邪族の彫像も重石を引きずる擦れる音を立てて、左右へ自動的にずれていった。
左右へずれると、真ん中に門のような縦穴が誕生。
縦穴というより斜め下か……兎に角、人が通れるくらいの大きな穴が出来た。
「にゃ?」
オービタルから降りていた
『閣下を誘う罠かもしれません』
『どうだろう。何処かの邪族の神聖な場所か、古代遺跡かもしれない』
『古代遺跡……閣下、分かります! この穴に入るのですね』
『おうよ。いつものことだ』
「ロロ、入るぞ」
「にゃ――」
前足を胸元に仕舞う香箱スタイルで座り休んでいた。
俺はその
傾斜はあまりないけど、自然と早歩きになるぐらいは……下へ傾いている洞窟。
床の色は肌色……横壁は狭い。
天井は奥に降るほど窪んでいて、何かの骨が連なっているような形だ。
その曲線と窪みが作る骨の光景から、巨人の喉を連想させた。
空気はひんやりと乾燥している。
そして、からしの匂いが、何故か漂ってきた。
鼻を擦りながら、降りていくと……狭い横壁に絵が現れ始める。
墨の絵の具らしきもので、古代人が描いたようなシルエットの絵。
ティラノサウルスのような恐竜の絵。
大きい牛、これはグニグニの絵だ。
多種多様な怪物たちの絵。
他にも邪族と思われる人型たち……。
壁画を見ながら階段を下るように駆け足で地下に降り立った。
……ここは忘れられた遺跡、聖堂、墓地か? 不気味な静寂が満ちていた。
……ギザギザの傷が目立つ壁から続く高い天井は丸い形だ。下から受けた光により、満月のような青白い光を反射させている。
凄く雰囲気がある。が、不自然に、黒い影のようなモノもあった。
その天井からの青白い光が俺に落ちてくるので、手に青色の影が落ちていた。
そして、壁のギザギザ……最初は傷かと思ったけど、よく見たら、装飾だった。
三つ眼種族の女性たちが悲しんでいる造形が施されている。
三つ眼の女性たちを覆う形で波のような彫像が、迫り出す形で存在していた。
しかし、天井は高いなぁ。
ここは結構な地下らしい。俺は小人になった気分だ。
地下空間の中央を見ると、一段だけ高い壇がある。
そこの上に怪しい光を放っている白玉が浮いていた。
白玉から天井へ向けて一条の光が差している。
その間にある宙に舞う埃が、キラキラと光を反射して綺麗な銀粉に見えていた。
天井から反射した青白い光も混ざり、幻想的な空間となっている。
そんな綺麗な光景を作り出している大本は、怪しい白玉だ。
白玉の真下の床は、白色で魔法陣が描かれてある。
影のような薄い黒煙が、その魔法陣からゆらゆらと浮かび上がっていた。
その瞬間、天井を覆っていた黒い影のようなものが一斉に引いて中央の魔法陣の中へ納まっていく。
床に刻まれている魔法陣の形は、ラグニ村で見たのに少し似ている。
そして、魔法陣から続く左右へ道というか、窪んだ導線があり、その窪んだ線の先にあったのが、歪な断頭台だった。
少し高台に断頭台があるので、こっち大本か。
こりゃ……遺跡というより生贄の祭壇かよ。
断頭台の下は古い血の跡が残っている。
魔法陣と繋がった導線にも血が流れた跡があった。
魔法陣の中にある白玉……。
上にあった俺の魔力を吸ってぱっくりと分裂した白玉と同じ形のようだけど……怪しい。
『閣下、白玉から魔力強く感じます。気をつけてください』
『分かっている、魔槍杖は出しておく』
右手に魔槍を召喚してから、魔法陣に近付く。
ロロは肩に居る。床に下りて戦闘態勢になっていないので、あまり警戒していないようだ。
そんな事を考えながら、壇にある階段を上がり魔法陣に足を踏み入れた。
表面にあった影のような薄い黒煙は俺が踏み入れても……特に何も起きてない。
独特のにゅるりとした感覚はあった。
「――我に近付くな、穢れた稀人」
と、思ったら白玉から声が響いてきた。
二つに割れたソーセージ型の唇らしきモノが、白玉の表面に出来ている。
あの白玉、材質は粘土のように柔らかいのかもしれない。
「……申し訳ないです。もう近付きません」
失礼なことをしたようなので、白玉さんに謝った。
「――稀人、何のようでここに来た? 我に命を捧げにきた訳ではあるまい? それに何故、結界で弾かれない?」
結界か?
「単に好奇心です。この魔法陣は結界でしたか、確かに弾かれていませんね」
魔法陣の中で腕を泳がせる。
「……異質な稀人。我に触るなよ?」
「そう言われると、触りたくなるのが人情というもの」
「触ってくれるな……我には役目があるのだ。そして、もうじき生贄たち来る。早々に立ち去るがいい」
生贄を欲する邪悪な精霊? 神?
「……役目とは?」
「大地を穢す白き霧の侵食を抑えるのが役目だ」
もしかして、左辺に広がっていた霧の事か?
「あの霧を……」
「そうだ。立ち去れ」
「にゃお」
「小さい黒獣も立ち去るがいい」
重要な仕事のようだ。
余計なことはせずに立ち去るか。
「分かりました。それでは」
翻して小さい階段を降りる。
「……」
『閣下、触るかと思いました』
『正直触りたいけど、白玉は攻撃してきた訳じゃない。実際に、丘上から白き霧を見たし、あの色が変わった川も関係があるかもしれない』
『ありえますね。毒、侵食と語っていたように、本当に白い霧を抑えているのでしょう』
『うん。生贄が必要というのが……気に掛かるが……』
命を犠牲にするのは許せん! とかはないな。
女性が犠牲になるのは……嫌だけど。
嘘とは思えない雰囲気があった。ロロも怒らなかったし、本当の話かもしれない。
ヘルメと話しながら丘上に戻ってきた。
俺が外に出ると、左右に分かれた白玉が自然とくっ付く。
左右に移動していた邪族の彫像も元に戻り、俺が触る前に見た光景を取り戻していた。
それじゃ<従者長>たちと合流して地上へ帰還かな。
と思ったが、平原から土煙が立ち上っているのが見えた。
その煙の下から姿を見せたのは……頭部に眩い銀色の角を生やしたティラノサウルスに似たモンスターの集団。
恐竜は口から唾を垂らして夢中になっている。
何かを追い掛けている?
その恐竜に追いかけられている馬車も見えた。
馬系の魔獣は疲れているのか倒れそう……。
馬車はこっちに向かってきている助けるか。
『閣下、あの馬車を助けるつもりですね』
『半分正解だ』
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