二百八十三話 小型オービタル

 

 ムクたちと別れてから、森の中を駆けていた。

 左手の手首から<鎖>を左斜め上の樹木の幹へ伸ばし突き刺しアンカーにして、すぐにその<鎖>を左手首に引き戻して、身体を突き刺した樹木へ運ぶ。


 次に右手首から<鎖>を右斜め上の樹木へ伸ばす。

 交互に<鎖>を伸ばし引き戻しながらスムーズに森を掛けていく。


 移動中、ムラサメブレードの鋼の柄巻きを口に咥えながらガトランスフォームに着替えていた。

 咥えていた柄巻きを腰に差した直後。


 歪なハンガーのようなモンスターと遭遇。


 ハンガー? と疑問に思った矢先、そのハンガーが変質しながら飛び掛かってきた。

 ――ハンガーと似たモノの体が三百六十度に拡がる。表面には無数の鋭い歯牙がビッシリと生えていた。その鮫の歯牙と似たモノを表面に生み出した大きな口のような怪物が、俺を飲み込もうとしてくる。


 気色悪――と、怪物目掛け無意識レベルで<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を発動。


 掌先から怒涛の勢いで<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>が飛び出ていく。


 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>が怪物の歯牙と衝突する度にプチプチプチという牙が潰れた音とは思えないリズミカルな音を響かせてきた。

 

 怪物は硬いが、背後の樹へと<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>が運ぶ。

 怪物はタフか、魔素も多い。最終的に異質な歯牙で俺を喰らおうとしてきた怪物は<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>によって幹に磔となった。


 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を止めて<導想魔手>を足場にしながら――。

 

 磔の怪物へと、そのまま犬歯を尖らせた。


 ――鮫牙の怪物だろうと差別はしない。

 磔にした怪物に噛み付いた。<吸魂>を行い血と魂を頂く……。


 体が僅かに光った。

 怪物は干からびて大魔石を残して散った。


 素早く大魔石を拾い血文字で「血獣隊」たちへ連絡を行う。


『閣下、今――』

 血獣隊と、ロロの下へ駆けていく。



 ◇◇◇◇



 俺は零八小隊こと、血獣隊との狩りを終えて、魔石を数えているママニたちの様子を見ていた。


「……これで二百五十、六個です」


 これで大魔石は千個を超えたな。

 たっぷりと魔石が入った袋が数個、目の前に置かれた。


「ご主人様、大魔石がそんなに必要なんですね」

「そうだ。これで小型オービタルを解放するんだ――」


 ガトランスフォームと繋がった状態のアイテムボックスを皆に見せる。


「時々、御使用されている光神ルロディスの御力。光の鉄杖を出してきた不思議なアイテムボックスですね」


 フーの言葉だ。

 彼女の言葉に、皆、同意するように沈黙しながらアイテムボックスを見つめてくる。

 ……彼女たちは、光神ルロディスのアイテムだと思っているらしい。


「不思議なアイテムボックスだが……光神は関係ない」

「光の攻撃が関係ないのですか。不思議です。そして、『おーびたる』を解放ですか」

「あの光の魔光線は、てっきり……」

「ボクもずっとご主人様は光神ルロディス様と関係があると思っていました」


 皆の話すように、胸に光十字のマークがある。

 エクストラスキル<光の授印>により齎されたモノが……。

 だから、関係はあるとは思う。


「ン、にゃ」


 黒猫ロロがサザーの小さい足に頭を衝突させている。

 サザーは膝カックンを受けたように、可愛くよろめいて、「あぅ」と小声を出していた。


 その様子に微笑みながら、


「それじゃ、解放する」


 皆に宣言。集めていた大魔石を合わせて、◆マークのアイテムボックスに大魔石を納めていく。


 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン:完了。

 報酬:格納庫+100:小型オービタル解放。

 ――――――――――――――――――――――――――─


 再度、光の粒子が発生するのか? と思ったら違った。アイテムボックスの縁のプロミネンスの飾りを淡い光が時計回りのように巡っているだけ……地味だ。


 ガトランスフォームは漆黒の黒繊維を活かした戦闘ユニフォームだったが、小型オービタルとは……

 と、アイテムボックスの表面の時計でいう風防硝子を凝視していると、縁を回る光の速度が上昇していく。


 そのぐるぐると回る速度が急激に速まると、最後には、その光が上に飛び出してきた。


 ――カジノのルーレットから飛び出た球に見えた、が、俺の頭部を抜けた白銀の光。

 そのまま頭部の近辺で爆発したように白銀光が散った。眩しい――ダイヤモンドダストのような冷たさを感じた。


 不思議な光の散り方……。

 そして、散った粒が、今度は内向きに衝突し合って小さな花火を起こしてきた。

 眩しいが、綺麗……しかし、なんともいえない儚さがある。バンッバンッと微かな音を大気に残して消滅していく。


「わぁ……綺麗」

「ンン」


 黒猫ロロも小さい花火、小さいビッグバンへ、猫パンチを当てようと、空へ伸ばすが届かない。 


「新・デボンチッチ!?」

「これは、精霊様の御業?」

『わたしは何もしてません』


 小型のヘルメが視界の端に登場。


『……ヘルメ、左目にいる状態では、外に聞こえないぞ。外へ出るか?』

『いえ、いいです』


 小型のヘルメの念話が終わると同時に、最後の対消滅が終わると、目の前に近未来型バイクが出現していた。


 凄い。いきなりか。まさか、小型オービタルがバイクだとは思わなかった。

 前輪と後輪のタイヤが大きい。摩擦ドラムブレーキらしき物もホイールの横にある。

 フロントフォークの形も渋い。

 全体的にウェザリングが施された白銀メタリック調の色合いで、洗練されたフォルム。

 鋼鉄製だと思われる操縦桿の握り手も左右にあり、操縦桿の中央にディスプレイも備わっていた。


 ロードスター系の座りやすそうな光沢のある黒色の革の座椅子。フロントカウルとアンダーカウルはスケルトンの部分が多く、中のフレームとエンジンの一部は見えている。

 丸いエンジンから連なるシャープな排気ノゾルが幾つもあり、マフラーの一部と繋がる造りか。後部には四つの小型のスラスターらしき物もあった。

 カウルとオイルフィラープラグの細い溝の中を魔力の光が何かのエネルギーを示すように魔力の光が循環していた……渋い。


 これは、あれか?

『ピーキー過ぎてお前には無理だよ』とか言わないとダメか?


「これが、おーびたる……」


 サザーは自分の倍はあるオービタルの姿を見て、圧倒されているような表情を浮かべた。


「ン、にゃ、にゃあ」


 びびりながら、目を細めて猫パンチをノズルへ当てている黒猫ロロさん。

 爪は伸びていなかったので安心。


「ロロ、新しい魔獣の仲間だと思え、大丈夫だ」

「にゃあ」


 黒猫ロロは俺の言葉と表情を見て、安心したようで、猫パンチを止めていた。


「……滑らかな魔鋼が使われているような気もしますが……今まで、見たことがありません」 

「……選ばれし眷族の<筆頭従者長>が一人、ミスティ様ならば、金属の解析ができるかもですね」


 ママニが呟き、フーなりに分析していた。


「……おーびたる、面妖すぐる!」


 ビアは驚いて、変な言葉を喋っていた。 


『はい! 面妖です、魔力を伴った未知な魔道具です!』


 ま、気持ちはよく分かるけど。ヘルメも同意しているし。


「すぐる? 長い舌が巻き付いて噛んでいるぞ」


 と、ツッコミを入れながら、そのオービタルを触ると、アイテムボックスの水晶体が連動しているのか、表面にある水晶体からレーザーが照射された。


 腕の上に簡易の小型画面ディスプレイが作られる。

 小型画面ディスプレイは点滅していた。


 その小さい画面には、


 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 ――音声認識可能。

 ――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫可動中。

 ――遺産神経レガシーナーブ確認。

 ――カレウドスコープ連携確認。

 ――船体リンクシステム……エラー確認できず。

 ――ナ・パーム統合軍惑星同盟衛星連動……エラー確認できず。

 ――敵性帝国軍衛星……エラー確認できず。

 ――小型オービタル起動を確認。ガトランスナンバーを登録実行します。

 ――正式フォド・ワン・ガトランスと認定……オービタルにもう一度触れてください。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 指示されたので、右目横のアタッチメントを触れてカレウドスコープを起動。

 フレーム表示された視界に、小型オービタルはハッキリと光で縁取られていた。


 よし、触ってみようか。

 ドキドキしながら、オービタルに触ってみる。


 指先が座席に触れた瞬間、操縦桿が変形しながら手前にずれてきた。

 その操縦桿は、俺の掌部にあるリパルサー的な部位と合わさる形となってる。

 一々、カッコイイ……座席の幅が少し狭くなるが、座席の縁を緑光が縁取っていた。

 その下にあるエンジンパーツと思われるブロックが少し横にせり出してくる。


 これは足が乗せられるところでもあるのかな。


 ジャイロセンサーらしき技術も入っているのか、バイクは倒れる気配がない。 

 乗ってみるか。


「……これはたぶん、乗り物だ」


 と、言ってから黒座席の上に跨がって乗り込み、操縦桿を握る。

 その瞬間、操縦桿からアクセルとブレーキと思われる長方形の金属が伸びてきた。

 これを押し込めばアクセルかな。 


 しかし、握った感じ……ハンドル操作が楽だと感覚で分かる。

 ステアリング機能も内蔵か。ガトランスフォームと連動しているのは確かだ。


 馬獅子の黒猫ロロディーヌとは違い、スキルではないが……まさに人馬一体。


 そして、中央部の簡易ディスプレイが、カレウドスコープと連携。

 独自の立体型ディスプレイとなっていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 ――フォド・ワン・ガトランス専用オービタルシステム

 ――遺産神経レガシーナーブ確認。

 ――カレウドスコープ連携確認。

 ――フークカレウド博士・アイランド・アクセルマギナ……簡易AI確認できず。

 ――船体リンクシステム……エラー確認できず。

 ――ナ・パーム統合軍惑星同盟衛星連動……エラー確認できず。

 ――敵性帝国軍衛星……エラー確認できず。 

 ――簡易ライト……確認。

 ――擬似システム……確認。

 ――攻撃オプション……エラー確認できず

 ――リテプ反動システム……確認。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 その簡易ライトを意識すると、前方が明るくなる。


「ごしゅさま! 前方の形が変わり、明かりがっ」

「面妖なっ! 目のようなものがあるぞっ! 魔眼か!?」

「ン、にゃんお」

「やはり、光神の!」

「明かりの無属性魔法ですか?」


 魔法使い系であるフーが冷静に話している。

 そして、宵闇の水精霊ヘルメが小型状態で現れた。


『……原理が分かりませんが、魔力が至るところに内包されているのが、分かります』

『乗り物の魔道具と思えばいい』

『なるほど、簡易単独馬車。前と後ろに車輪のようなモノもあるようですからね』


 空中を平泳ぎしながらオービタルの操縦桿の上に移動してくるヘルメ。

 そのヘルメを無視して、フーへ顔を向けた。


「フーが正解だ。明かりを生み出す魔道具が内蔵されてある」


 攻撃オプションを意識しても作動はしない。

 次に、擬似システムを意識した。

 その途端、バイクの回りに灰色の靄が生まれでる。


「なんと、消えたぞっ」

「ンン、にゃああ?」

「え!?」

「姿を消した?」

「……ご主人様は、きっと不可視インヴィジビリティの魔道具を作動させたのでしょう。その証拠に地面を見てください。草の形が凹んでいます」

「あ、本当だ」

「フー……冷静だな」


 ママニは白髭をピクピク動かしながら話している。此方側だと、灰色の視界でフィルター越しのような映像だが、向こう側では透明に見えるらしい。


 擬似システムは姿を消す効果があるようだ。

 特異なフィールド魔法か、光学迷彩か、蛸のように背景と同化させているのかな?


 黒猫ロロが触手を伸ばしてぶつけてきた。

 しかし、物理障壁効果も備わっているのか、触手を弾いている。


「……にゃぁ」

「ルシヴァルの眷属になった効果でしょうか。物事を冷静に見られるようになりました」

「それはあるかもしれないが、わたしの場合は、違った方向に進化したようだ」

「血のオーラと血を伴った巨大化、血獣ですね?」

「そうだ。本能の血が滾るようになった、虎獣人ラゼールの特異体としての血が関係しているのだろう」

「ボクはあまり変わらないかも、全体的に速く強くなっただけかな」

「我もだ」

「ビアは、早口が余計に速くなった気がする」


 そんな会話を聞きながら、擬似システムを解除。


「その通り。姿を隠す効果、この小型オービタルを普通の視界から隠せる効果があるらしい」


 精霊の眼、赤外線、魔察眼だと分かるかもしれないが。


「やはりそうでしたか」

「凄い効果を持つ乗り物です」


 次はリテプ反動システムを意識。

 その途端、前輪と後輪のタイヤが変形し球体に変わりバイクが少しだけ宙に浮かぶ。


 反重力装置か? 


「おぉぉ、浮いている!」

「にゃぁ、にゃん」

「わぁ……前の方、不思議な明かりで点滅しています」

「魔力を僅かに放出させているようですね」


 そこでリテプ反動システムを解除。

 前輪と後輪は元の形に戻る。


 アイテムボックスもチェック。


  ◆:エレニウム総蓄量:1002→2346

 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン大:1500:未完了

 報酬:格納庫+150:偵察用ドローン:解放

 必要なエレニウムストーン大:3000:未完了

 報酬:格納庫+200:アクセルマギナ:解放

 必要なエレニウムストーン大:5000:未完了

 報酬:格納庫+300:フォド・ワン・プリズムバッチ:解放

 ―――――――――――――――――――――――――――


 プリズムバッチ? 証しみたいなものか。

 インベントリを調べる。


 ◆:人型マーク:格納:記録

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムインベントリ 68/390→490


 ちゃんと増えている。

 よーし、ここは森林だけど……構わない。

 試してやろうじゃないか……このオービタルというマシンの性能をっ! 


 わくわくする。


 その前に格納できるか試す。

 この近未来バイクの小型オービタルを……片手で持ち上げる。


 白銀の宝箱より軽い。

 無事にアイテムボックスの中に入った。


「消えた!?」

「すぐに出す」


 皆、吃驚していたが、アイテムボックスに仕舞ったばかりの小型オービタルを取り出す。


「「おぉ」」


 ママニを筆頭にまた驚く。

 何故か、拍手をしている。


 宙に浮かんだ時よりリアクションがあるのは何故だ。


「ロロ、来い」

「ン、にゃ――」


 黒猫ロロは腿の上に乗ってくると、黒い座椅子の先頭に移動。

 そのまま、少し上にある操縦桿の中心にあるディスプレイへ向けて片足を伸ばす。


 すると、そのディスプレイに肉球のマークが生まれでていた。

 時空属性確認とか表示されているし、細かい……さすがに猫用のゴーグルは出現しなかったが。 


 ゴーグルが出れば完璧だったが、ロロの肉球パワーは宇宙にも通じるということ。


「……それじゃ、オービタルを動かしてみる。血文字で連絡するから後で合流な」

「「はいっ」」


 <従者長>たちの声と顔を見て頷く。

 操縦桿から分裂するように現れているアクセル部位を、前進を意識しながら押し込んだ。


 その直後、オービタルは前進を開始した。

 ハンドルを少し曲げると、迂回。いいねぇ……。

 音が静かだ。エンジン音は風の音のような感じ。


「ロロ、速度を上げるつもりだ。そのままそこに居るか、それとも神獣でついてくるか、どうする?」


 俺の太股の間、股間の前の黒座椅子の先頭に座る黒猫ロロは、目一杯、後ろに倒れるように顔を見上げてくる。

 逆さま視線のロロさん。


「ンン、にゃにゃおん」


 『ここがいいニャ』という感じに鳴いていた。


 触手を俺の腰回りに絡ませてくる。

 ロロは一緒にドライブをしたいということだろう。


「一緒にいくか」

「にゃぁ」


 ロロの了承を得たところで、速度を上げる意識をしながら操縦桿の指先にあるアクセルを押し込む。

 心地よい重さを身に感じながら、一気に加速。

 まだリテプ反動システムは使わない。 


 ――小型オービタルは進む。

 木々が邪魔に思えたが、地面を縫うように移動していく。


 独自のプロテクション効果もあるのか、木々を跳ね飛ばすし、向かい風も微々たるもの。滑らかな曲線のフレームがあるし、フルウェアリング効果かもしれない。


 普通のバイクのように動かしているが、前輪のタイヤから地面を擦る音があまり聞こえない。不思議だ。タイヤも普通ではないようだ。


 ドラムブレーキ機構も普通のブレーキとは異なる効果もあるのか?

 

 このディスプレイもスコープと連動した立体簡易地図が表示されているから便利だ。すると、赤いマークがその立体地図に出現した。

 魔素の反応もある。出現した赤マークは移動してきた。俺を追ってきたようだ。

 しかも、このオービタルの速度についてくる。

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