二百七十二話 魔人殺しの闇弾

  

 ロロディーヌから離れて宙空に出る。

 神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを一旦手元から消去。

 そのまま闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトを触った。


 沸騎士たちを召喚しながら落下中――。

 光線的な、光の糸の攻撃が地上から迫る。


 頭部を傾け、その略して光糸の攻撃を避けようとした。

 が、痛ッ、光糸は速く、頬を掠って皮膚が大きく裂けた。

 ――頬から伝った血が耳朶を叩く。

 再び下から光糸が迫るが構わず、左右の手に魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを再召喚。

 痛みを魔槍杖バルドークに乗せるように右下から左上へと振るい上げ、目の前に迫っていた光糸を紅斧刃で両断――。

 この光糸を射出してくる存在は人族っぽい敵。


 その敵に向けて左手を翳した。


 飛び道具なら飛び道具――。

 左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出する。

 斜め下に直進する<鎖>は銃から発射された弾丸の如く直進し、光糸を貫いた。その<鎖>は光糸を射出していた人物の腕と頭部をぶち抜くことに成功。


 ――ヘッドショットが決まる。

 <鎖>が伸びきった状態で地面に着地。


 降りた場所は……。

 洞窟の入り口から少し離れた右の端だ。


 巨人の口を連想させるような洞窟を見ると、


「沸騎士ゼメタス、今ここに! 雑魚は私たちにお任せを!」

「沸騎士アドモス、我らに滅殺の指示を」


 沸騎士たちが地面に誕生していた。 

 伸びた<鎖>を消去しつつ、その沸騎士たちに、


「見ての通り、囲まれた状況だ。判断は任せると言いたいがサジハリの赤竜に近付かないように大きいから尻尾などの攻撃に巻きこまれたら大ダメージは確定だ」

「「ハイッ」」


 さて、俺の狙いは、バッタ型の脚に上半身が人のモンスターを狙うか。バッタ型のモンスターは左右の長い腕があり、歪な骨槍を、その手に持っていた。


「先に動くぞ――」


 先駆けを競い合う沸騎士たちの不意を突く。


「「あぁ、閣下が先に!!」」

「アドモス、閣下に遅れるな!」

「――ぬぅ、負けん、ゼメタス! 閣下の盾!!」

「おう、閣下の盾は私たちの務め!」



 沸騎士たちの気合を入れる言葉は無視するように駆けた。

 前傾姿勢で突貫――狙いのモンスターとの間合いを潰す――。


 その時、ロロディーヌが右斜め前方の端に映る。

 両前足で突くように大型ゴブリンを押し倒していた。


 爪が大型ゴブリンの胸に突き刺さっている。

 さすが、神獣ロロ! が、褒めてはいられない――。

 目の前にバッタ型の多脚が迫った――攻撃モーションに移る。

 魔槍杖バルドークの柄の握りを前にずらす。

 短く握りを変えた魔槍杖バルドークを左へ振るう――。

 穂先で扇の線を宙に描くように振り抜いた――。

 バッタ型の脚を紅斧刃で捉えた――。

 軽い感触だ。そのまま光魔ルシヴァルの力で数本の脚を一気に刈り取った。

 脚を失ったバッタ型モンスターは、


「うぎゃぁ」


 と、叫び声をあげて体勢を崩す。

 続けて、左手の神槍ガンジスで<刺突>を繰り出した。

 狙いは上半身――。

 螺旋回転している方天戟の矛が人型の上半身を穿つ。


 すぐに神槍ガンジスを引く。

 血飛沫が出るが、その血はすぐにもらう――。

 バッタ型の上半身に丸い穴を作った。


「げぇ」


 血を吐くが、無視。

 俺は引いて戻した右手の魔槍杖を再度――。

 脚がバッタで上半身が人型のその境目に<刺突>をぶち込む。

 紅矛が上半身の一部をくり抜き――。

 紅斧刃が周りの肉をミキサーの如く削り取る。

 その瞬間、最初の<刺突>でできた大穴の横から大きな切れ目が入った。


 その切れ目から人型の胴体が千切れ飛んでいく。

 派手にバッタ型を倒した。


 しかし、その瞬間の隙を狙っていたのか、二つの腕が伸びきった状態の俺に対し、勢いよく群がってくる大型ゴブリンと長剣を持つ人。

 いや、人ではなかった。

 額の端から二つの角を生やしているので魔族だろう。 


 俺は爪先を軸に身体を回転させる。

 群がってきた大型ゴブリンたちが繰り出してきた斬撃を鼻先で避けていった。


 避けながら第三の腕を意識。

 俺の脇腹にある新しい右下腕だ。

 その腕に握るムラサメブレードを扱う。


 ブゥンと、音を立てる眩い青緑色に光る刀身を宙に八の字でも作るように振るい、身に迫る矛と剣を弾き溶かしていく。


 魔槍杖と神槍を握る伸びきった両腕を元に戻しながらの、身体を駒のように扱う回転避けとなった。


 移り変わる視界の中――もう一度、魔族の姿を確認。

 見た目は何処かの軍隊だけど、やはり人ではない。

 と、確認してから、素早く側転し腕の力のみで跳躍――。


 近くに居た大型ゴブリンの頭部へドロップキックを行うように身体を移動させた。

 勿論、両足のアーゼンのブーツの裏でゴブリンの頭部を踏みつけ潰す。


 そのまま、潰れたゴブリンの頭部を足場にして斜め上へ跳躍を行った。


「――宙だっ」

「上だ、突き刺せ」

「ギォ! ギャッ」

「ギャギャッ」

「いや、着地際を狙え!」


 敵の声が聞こえる最中、身を捻り宙に舞うのと同時に、右腕に握っている魔槍杖バルドークと左腕に握っている神槍ガンジスで一つの大円の月を宙に描くようにぐるりと二つの槍を振るう。


 魔槍杖の紅矛と神槍の月矛が月を描き重なり合った瞬間。


「ぎゃああああ」


 敵が叫び声をあげて、ばたばたと周囲から音が響く。

 そう、矛と刃で月を描く軌道に居た大型ゴブリンと長剣を持った魔族たちの死骸が地面に落ちる音だ。


 俺に対して群がっていたモンスター……。

 その大半が、綺麗な輪切りの状態で上下に切断された箇所から勢いよく血を噴出させた状態で地面に倒れている。


 この圧倒的な血の噴出劇に戦場の空気が一変。


 周りのモンスターは動きを止めた。

 俺は<血道第一・開門>を意識。

 血の噴出劇から血の吸収劇へ移り変わる。

 静かな音だが、確かな血を吸う音が戦場を支配。


 蠢く血の群れが……俺の身に宿っていく光景は、敵も味方も魅了するらしい。サジハリも動きを止めていた。

 そこからは――。

 まさに血のスポットライトを浴びた俺の独擅場と化した。

 正確には、サジハリが入り口付近で奮闘し、沸騎士たち、ロロディーヌが居るので独擅場ではないが……。


 バッタの下半身に人型の上半身を持つモンスター。

 武器、防具を備えた大型ゴブリンのモンスター。

 飛びぬけて背が高く、縦に割れている頭部と腕が四つの歪なモンスター。


 波状槌型の兵器と鎖で体が繋がって、その重そうな波状槌型の兵器を運んでいる頭部が豚で胴体が黒いゴリラのモンスター。


 軍隊を思わせる徽章が付いた革鎧とマントを羽織った長剣を持つ人型たち。


 同じマントを羽織る杖を持った人型。

 光る糸を腕から放出してサジハリに攻撃している人型。


 これらの外にいたモンスターと人型に――。

 魔槍杖バルドークで突いて、払い、弾き、柄で殴る。

 穂先で足を引っ掛け転ばせてはストンピングで頭部を潰す。

 横に回転しながら魔槍杖バルドークで<豪閃>斬撃を振るう。

 続けて、爪先半回転を行いながらの魔槍杖バルドークを振るって、紅斧刃の普通の斬撃でゴリラのモンスターの足を斬り、転ばせる。

 素早く魔槍杖バルドークを畳む機動で持ち上げてから――柄を掌の中で滑らせるように魔槍杖バルドークを下げた。


 竜魔石でゴリラの下腹部ごと股間を潰す。

 刹那、俺に向かってくる周囲の攻撃を察知、その魔槍杖バルドークを前に傾け、柄に片足を突けての魔槍杖バルドークを踏み台にして、前転――体を捻りながらの踵落としで前方のバッタの骨槍を弾き、宙空回し蹴りで、そのバッタの下部の人型を蹴り飛ばす。


 魔槍杖バルドークに<鎖>を絡めて、その<鎖>を魔槍杖バルドークを振り回し、<鎖>と魔槍杖バルドークの柄と穂先で、周囲のモンスターたちを薙ぎ倒しまくった。


 やがて、数が極端に減ったモンスター軍隊から指揮官らしい魔族の男が現れ、近付いてくる。


「――我等ハザーンの軍属を……異質で下等な人族めが!」


 偉ぶる人物の額には、羊の巻角がある。

 ゴルディーバ族の巻角とは異なる。

 悪魔のような角だ。

 灰色と黒色が混ざった鋼鉄の鎧を装備。

 脇腹の溝の隙間から液体らしいモノが出ていた。


 液体は指揮官の周りに、多数浮いている。


 それはシャボン玉のようにように見えた。

 存在感を示す液体かシャボン玉。


 特殊能力……あきらかに他と違う。

 腰に抜き身の細剣もぶら下がっている。

 あの細身の剣が主力の武器だろう。

 いや、実は、周りの液体群のほうが主力の武具なのだろうか……。


「ガルルゥゥ」

「ロロ、今は抑えろ。俺が対処する」


 黒豹のロロディーヌは気持ちを抑えてくれた。

 良い子な黒豹ロロは可愛い。

 その相棒は視線を魔族へと向けている。


 きっと、獣らしくにらんでいるだろう。


 あいつの言葉はまったく聞いたことのない言語だが理解はできる。


 だから相手に合わせるとして……。

 第三の腕が持つ鋼の柄巻を腰に差し戻しながら、


「俺は槍使いです。そういう貴方はハザーンの軍属? とおっしゃっていますが、それは国でしょうか?」

「!? ハザーン語を……理解しているのか?」

「はい、理解できますね」

「ハザーン語を理解して千年帝国ハザーンを知らぬとは……そんな意味不明な下等民族如きに……我ら、方面軍の後詰めの大半を……」

「……シュウヤカガリ、やらないのならば、わたしがそいつをやるが……」


 人型に戻っていたサジハリさんが語る。

 サジハリは赤鱗から変化させたであろう赤黒い長剣を握っていた。 

 柄と柄巻の部分は歪で、柄巻の頭は細まりつつも∞の文字を作るような孔があった。


 かなりお洒落な、その赤黒い長剣を肩に担いだ状態で近寄ってくる。


 長剣というか、魔剣か。


 そして、サジハリの肩が魔剣から垂れた血により染まっていた。

 あの魔剣で多数のモンスターを斬り伏せたんだろう。


 そんなサジハリの足下には、バルミントがいた。

 そのバルは成長している?


 小型だが姿は少し変化していた。

 血色が縁取る鱗が妙にカッコイイ。


 バルの姿から予想すると、高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニアのサジハリと経験、魔力を共有しているのかな? 

 足の爪に血がついているし、バルも戦ったようだ。


 そんなバルの姿に満足しながら、俺は気になったゲート魔法のことを伝える。


「……少し待ってくれ。こいつらが使っていたゲート魔法? もう消えたが、環の形をした魔法が気になるんだ」

「あれはハザーン独自の魔法だ。集団転移が可能な魔法。しかし、迷宮の中ではなく、地表のこういった森や開けた地上でしか見たことがない。だから使い勝手は悪い魔法だろう」

「へぇ」


 俺とサジハリの会話を聞いていた魔人の男は、ただ黙っていたわけではない。

 全身から放出している黒い液体を操作し、幅広な帯の形から擬似的なカーテンを作り出すと目の前に展開させている。


 あれで身を守るのか? 

 剣が主力だと思うが……カウンタータイプか。

 身を守る擬似的なカーテンは少し透けているので、魔人の顔が見える。


 瞳の色合いは、暗い海の底を連想させる。

 光の届かない深海魚の眼球と言えばいいか……。


 が、その表情から、気持ちの余裕を感じさせた。


 腕に自信があるようだ。


「……下等民族で、無知な三つ腕の槍使いは、古竜族の部下か」


 魔人は擬似的なカーテン越しに、貶してきた。


「部下ではない。名はシュウヤだ。で、貴方の名は?」

「……魔人帝国ハザーン第十五辺境方面軍軍団長ギュントガン・アッテンボロウ。いざ参る!」


 魔人帝国ハザーンか。


 口上と共にゆらゆら揺れていた薄いカーテンから、スパイク状の物体が生まれ出る。


 黒光りするスパイクを放ってきた。

 波のような動きで無数のスパイクが向かってくる。


 俺は魔脚で地を蹴り、跳躍。

 目の前に迫ったスパイクを避けた。

 地面にスパイクが衝突し土煙が舞い上がる。


 サジハリも小型竜バルを抱えて空へ舞い上がり遠距離攻撃を避けていた。

 ロロディーヌは後方へ跳躍してから飛び跳ねるように横周りへ駆けている。


 ロロは魔人ギュントガンの背後から隙を窺うようだ。


「――シュウヤカガリ、任せるぞ」

「――ガォッガォ」


 飛んでいる俺に向かってサジハリが『早く倒せ』と急かすようにしゃべってくる。

 そんなサジハリに抱えられているバルも俺に話し掛けていた。


 バルには悪いが……。

 豊満なおっぱいに挟まれているバルの後頭部が羨ましい。

 首を可愛らしく曲げる仕草でおっぱいが揺れている。

 後頭部にある一対のおっぱいに挟まれる感触、あれは――と、薀蓄を考えた瞬間、下からスパイク状ではない黒い帯が伸びてきた。


 ――急遽、<導想魔手>を足場に使い、下から伸びてきた黒い帯を避けていく。


 おっぱいの薀蓄を考えさせてくれない敵の遠距離攻撃だ。


 気を取り直し、


「――任された。サジハリ、バルを頼む。ここは俺がやろう」

「訳の分からない言葉を! 我に下等な言葉を聞かせるな!」


 上空にいる俺たちを睨むギュントガン。


 彼は、魔人、魔族種族のプライドからか、俺とサジハリが話している言語が気に食わないらしい。


 角といい悪魔のような奴には似合いの死を用意しようか。


 クソな悪魔は滅するのみ。


 魔人ギュントガンは操っていた帯を引き戻し、一つの黒光りするカーテンのようなモノの中に納めていく。


 今度はそのカーテンが一つに丸まる。

 黒い岩のように巨大化した。

 随分と柔軟性のある能力だ。


「こんな辺境の迷宮核戦で、我の<黒怨金属レギオロス>が本格的に使わされるとはな……」


 魔族は意外だな、と、自分の能力名を話している。

 まぁ、確かに凄い能力だ。

 液体金属?

 意思が伝わる特別な金属を操る魔法かスキルか。


 魔人ギュントガンは液体金属の一塊を惚れ惚れするように見つめている。

 ナルシスト?

 途端、その塊から無数の黒色の歪な槍を生み出すと、それらの槍を俺に射出してくる。


 スキルか魔法か判断できないが――。

 さきほどのスパイクとは質が違う。

 それに凄まじい速度――疾い技だ。

 <鎖>で防御の盾を生成するのは諦めた。

 <導想魔手>の歪な魔力の手を、空中の足場にして飛ぶように身に迫った黒い槍を避けていく。


 更に<血液加速ブラッディアクセル>を発動。

 発動させた瞬間、足の皮膚から血が漏れアーゼンのブーツの黒革を血色に染め上げていた。

 その状態で――<導想魔手>を蹴る。

 素早く黒い槍を避ける――が、間に合わず。


 痛ッ――頬、耳まで削がれたようだ。

 ハルホンクも削られる。血と紫の火花が散った。

 俺が今までいた空中の位置を次々と黒い槍が通り過ぎていく。


「素早い……血を操り身体速度を増す能力か……そして、ハザーン語を話すとなると、我らと同じ祖を持つ魔人なのか? 裏切りのハザーン人か? だが、軍団長クラスとなると……行方知れずの、まさか、な……」


 相手は俺の考察を勝手に行っている。

 あの槍、追尾性能はない。しかし、無尽蔵のようなので弾切れの気配がないから厄介だ。


 お?


 そこに、魔人の反対側から静かに黒い触手が動いているのが見えた。

 ロロディーヌの攻撃だ。地上で灌木の一部に隠れるように魔族の背後に移動していたらしい。


 完全に不意を突いた形だ。


 全身から孔雀を彷彿させる動きで、鞭のごとく伸びている触手の先端から骨剣が伸びている。


 こりゃ決まったか。

 魔族の背中へ突き刺さるかと思われた。


 ところが、その触手骨剣の全てが完璧に防がれている。


 魔族の周りに漂う液体金属の塊が急に横へ伸びて、その魔族の背後を守っていた。


 触手から突出している白銀色の骨剣が、液体金属の塊に衝突して跳ね返る光景から、小魚の群れに見えてくる。


「……無駄だ」


 余裕の魔族の言葉とは裏腹に、その魔族の身体から魔力がドッと溢れる。

 その魔力により空気が熱く、重くなったようにさえ感じた。

 ……軍団長か。他の雑魚とは全く違う。


 邪神の使徒ともまた違うが強い……。


 顔も渋いし。


 ロロも負けじと触手骨剣を伸ばし攻撃していくが、液体金属の表面を僅かに撓ませるのみ。


 その黒い液体金属に穴は空けられず。

 あの液体金属の動き……角持ち魔族が意識せずとも自動的に防御してくれるようだ。 


「にゃごぉぉ」


 触手の攻撃が無駄だと悟ったロロディーヌは悔しそうな声をあげながら、触手を収斂させて魔族の周りを走っていく。

 それに釣られた魔族ギュントガンが、


「獣風情が、我のエクストラスキル<黒怨金属レギオロス>に傷を!!」


 怒声をあげたギュントガン。

 周りにその<黒怨金属レギオロス>を展開させた状態でロロディーヌを追い掛けながら黒い槍を放出。

 ロロディーヌも四肢に力を入れて神獣の速度で走っているので、当然、その黒い槍の狙いは大きく外れているが、しかし、傷? あの黒い液体金属の表面に傷があるようには見えないが……。


 あのギュントガンの魔族は、スキルで作った金属だから表面の傷が分かるぐらいに微細な傷も把握できるのかな?


 まぁいい、俺も反撃といこうか。


 あの疾風迅雷を思わせる黒槍の中を掻い潜る――。


 体に幾つか傷を作りながらも――。

 魔槍杖バルドークで、あの液体金属をぶち抜けるかどうかを試すのもまた一興だが……ここは、ロロがせっかくフォローして時間稼ぎをしてくれている間だけでも、別のことを試すことにする。


 その前に<血液加速ブラッディアクセル>を解除。


 久々に、あの魔法を使おう。

 スペシャルな魔法で絶対防御を思わせる<黒怨金属レギオロス>をぶち抜いてやる。


 そう決意を込めて魔力を腕から指先へ送り、指先に込めて、魔法陣を描く――。


 魔力消費は最大。

 仙魔術を超える消費量なので覚悟が必要だ。

 範囲と連射性は完全に捨てる。一回のみ。

 その代わり、中央に特化した大口径のマグナム弾、大好きなスミス&ウェッソンを連想。

 魔法の基本はイメージだ。今回は造形も拘ってみよう。

 日本語も書きながら現時点で最大級の魔力を込めて、魔法陣を構築して組み上げていった。


 小規模だが、濃密な魔力が内包された闇の炎を感じさせる改良型の古代魔法陣が完成。


 闇の炎に縁取られた魔法陣が独自の意識があるようにゆらりゆらりと宙を漂う。


 前回、一部とはいえ邪神シテアトップをも貫いた<古代魔法>の改良型だ。


 あの魔人の魔族ギュントガンが扱うエクストラスキルとて無事では済まないはず。


 まずは……ペンを回転させるように魔槍杖バルドークを回転させる。

 そこから魔槍杖バルドークの竜魔石を角魔族へ向けた。


「おい、ギュントガン!」

「なん――」


 相手に振り向く間も与えない。

 竜魔石へ魔力を送り隠し剣氷の爪を発動させながら、


 初級:水属性の《氷弾フリーズブレット》。

 中級:水属性の《氷矢フリーズアロー》。


 続けざまに、無詠唱で魔法を無数に念じて斜め下へ固定砲台になったかの如く飛ばす。

 太い氷の如意棒を感じさせる両手剣の隠し剣氷の爪、無数のピュアドロップ型の《氷弾フリーズブレット》、《氷矢フリーズアロー》が、魔族ギュントガンに向かった。


 ギュントガンが操る扇状に展開された<黒怨金属レギオロス>に、魔法群と隠し剣氷の爪が衝突。

 《氷弾フリーズブレット》の連弾は<黒怨金属レギオロス>の中に沈み込むように消えていく。

 幅が両手剣の隠し剣氷の爪も激しい音を立てて衝突。

 <黒怨金属レギオロス>を凹ませていたが、貫けなかった。


「魔法か? 効かぬ、そんなものは効かぬぞ、槍使い・・・とやら――」


 ギュントガン・アッテンボロウさんは魔族らしい愉悦の表情を作り嘲笑しながら語っていた。

 皮肉っているつもりか。

 ま、あの顔がどうなるか……見ものだな。


 両手を無手に戻しながら、

 《氷弾フリーズブレット》に混ぜる形で《魔人殺しの闇弾ジョーカースレイヤー・マグナム》を発動させた。


 ぐぉ……魔力が瞬時に無くなる感覚、胃が重く捩れる。

 ……胆汁か胃酸か分からん汁が口に溢れた。

 同時に、小規模魔法陣から現れたのはスミス&ウェッソンM29に似ている銃。


 ところどころに歪な小さい岩が飛び出た世紀末仕様……、

 まるで悪魔が使うような特製のマグナム銃だ。


 その闇のマグナム銃を掴む。

 かなり重い……。


「……これは嘗て、世界一強力な拳銃と呼ばれたモノだ」


 相手は意味が分からないだろうが、がんばって狙いを絞り引き金をひく――。


 反動と魔力のマズルブラストを発生させながら放たれた闇の弾丸は凄まじい勢いで加速――。


 無数の《氷弾フリーズブレット》に混ざる形で突き進む。

 空間が一直線に引き裂かれるように飛翔していく。


 引き金を引いた直後、重い銃は儚く掌から消える。


「……物量で攻める気か、失望したぞ。所詮は――」


 嗤い喋るギュントガン・アッテンボロウさんの眉間にマグナム弾が吸い込まれた瞬間、その頭部が爆発していた。


 そう、見事に魔人ギュントガンは引っ掛かった。


 ――悪魔に似合いの死を、アーメンってか?


 どっかの神父になった気分だ。


 《氷弾フリーズブレット》の形も《魔人殺しの闇弾ジョーカースレイヤー・マグナム》と同じ形に変えていたからな……。


 色は無理だったが、多重に重ねれば判断は不可能との推測は大成功だ。そして、《魔人殺しの闇弾ジョーカースレイヤー・マグナム》だけが、ギュントガンのエクストラスキルの<黒怨金属レギオロス>を突き抜けていた。 


 しかし、性格はアレだが、その防御能力だけは特筆すべき相手だった。

 その倒れたギュントガンの体を確認しようと近くに着地する。


 懐を探ろうか。

 ハザーンの軍団長なら何か……そこに、


「軍団長がぁぁ――」


 ――副官か? 

 女の魔族らしき者が単独で走り寄ってきた。


 俺の喉を突こうと剣先を伸ばしてくる。

 角ありの美人だ。


 しかし、ここは戦場、残念だが……。


 避ける必要もない。全ての腕に槍を召喚。

 同時に<導想魔手>も発動――。

 歪な魔力の手で腰からムラサメブレードを引き抜く。


 次の瞬間、魔槍杖バルドークを振り下げた。


 紅斧刃の上部で、その女魔族が繰り出した剣先を叩き落とす――。

 更に左手が握る神槍ガンジスと右下腕に持つ魔槍グドルルで――。


 二連<刺突>を女魔族の腹と胸にドドッと喰らわせた。

 体が仰け反った女魔族は吹き飛んだ。


 続けざま、足に魔力を溜めて<血液加速ブラッディアクセル>と合わせた爆発的な加速で前進――。


 二連<刺突>で二つの孔が剥き出しの上半身を見せている女魔族との間合いを零とした刹那、腰を捻り――。

 <導想魔手>が握るムラサメブレードを振るった。

 ムラサメブレードの刃を魔族の首へと吸い込ませる。

 一瞬で、ムラサメブレードに触れた首は蒸発するようにシュパッと消えた。女魔族の頭部が空を舞う。


 頭部を失った女魔族の胴体は、そのまま二連<刺突>の威力で吹き飛んでいった。


 そこに一部始終を見学していた黒豹ロロ、サジハリ、傷だらけの沸騎士たちが集まってくる。


「ン、にゃお~~ん」


 相棒は黒豹としては大きめの頭部を俺の太股に衝突させる。

 甘えてきた。


「見事な戦いだった」

「ガォッガォ!」


 サジハリとバルも話してきた。


「閣下ァ、魔界騎士を超える閣下ァァ」

「――お見事でしたぞ。あの魔道具のような魔法はいったい……」


 沸騎士のテンションは相変わらずだ。

 そして、姿はボロボロ。でも成長している証拠かな?

 あれだけの敵の数と質の中、ボロボロで死にそうな感じだけど魔界に帰らず残っているのだから。


 感心しながら、新しい魔法を説明していく。


「……新しい必殺技みたいなもんだ」

「「おぉ」」

「ところで、お前たち、消耗が激しいようだから魔界に帰還しろ」

「わかりました」

「はい、ではいって参ります」


 沸騎士たちは素直に消えていく。

 そこでサジハリへ視線を移す。 


「……外の部隊はこれで倒しきったかな?」

「どうだろうねぇ……まだチラホラと魔力を感じる。だから、バルを連れて周辺を見てくるよ」

「ガォォッ」


 バルも『頑張るガオ』といったように吼える。


「了解。俺はあの迷宮へ突入しよう。中に入っていったモンスターを裏から潰していく」


 軍団長の懐はいいや。

 忘れてなきゃ後で見てみよう。


「わかった。女魔術師を間違っても殺さないようにな」

「見た目はどんな姿なんだ?」

「ローブ姿だ。ローブの下はあまりこの辺では見たことのない服を着ている時もあったねぇ……そして、前にもいったように髪は黒。肌は今のわたしに近い、白みのある肌色だ」


 イメージは日本人。


「肌は俺と近いんだな。んじゃ、後で合流ということで。ロロ、洞窟戦だ。見たところ幅は広いが、突っ込むぞ」

「にゃああ」 

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