二百四十六話 ツアンの過去と暴喰いハルホンク
指のイモリザからツアンになってもらった。
ツアンは貫頭衣を着ている。皮膚の表面はある程度、弄れるようだ。
そのツアンはラジオ体操をするように、体を動かしている。
体の節々を一通り確認しているのかな。
「……旦那、身体が自由だ」
「見れば分かる」
「あぁ、不思議だ。最近はずっと眠ったような感覚だったからな」
ツアンはそう言いながら、自らの腕を伸ばし指先を見ている。
腕回りの筋肉は意外に引き締まって見えた。
「眠った感覚か」
「外の感覚を味わわせてくれないんだよ。イモリザが……」
「そこは我慢しろ。特に俺の腕、指状態の時はな?」
「そ、それは当然だ。旦那は俺の、いや、俺たちの<光邪ノ使者>様なんだからな」
何か少し焦ったような口調だ。
イモリザ&ピュリンの脳内会話で何かあったのかもしれないな。
ま、そこはプライベートだ。突っ込むのは避けておこう。
「それで、ツアン、お前の過去が聞きたいんだが」
「過去……」
ツアンは、呟きながら切り傷がある削れた片眉をピクリと反応させている。
「話せる範囲でいい」
「了解した……旦那ならなんでも話せるさ。出身は【外魔都市リンダバーム】という【宗教国家ヘスリファート】の一都市だ。結構大きい都市でもある」
「宗教国家ヘスリファートか……」
ルビアを助けた村……。
俺が水神アクレシス様とコンタクトを取ったフォルトナ街もヘスリファート圏内だった。
膝に矢が刺さってしまった冒険者ザジがいた国。
ザジはまだあそこにいるんだろうか。
「……旦那、宗教国家に来たことがあるのか?」
「あるぞ、【ベルトザム村】と【フォルトナ街】、その東の【アーカムネリス聖王国】、更にその東にある【旧ベファリッツ帝国】大森林地帯【サデュラの森】にも行ったな」
「旦那……」
「なんだよ」
「いやマジで、凄いなと、俺からしたら<光邪ノ使者>様だから、すげぇんだけど……だってよ、聖王国の東に広がる【魔境の大森林】といえば、聖戦の原因である有名な【魔界の裂け目】がある場所だろ? そこから魔族たちがうじゃうじゃと現れて……軍団規模のどうしようもない魔族たちの場所……よくそんなところへ……」
ツアンからしたら驚きらしい。
「まあな、ある目的のために一直線だったからなぁ。偉い速度で駆け抜けた旅というか冒険だった」
「目的のためか、どんな目的だったんです?」
「今、ここに居ないが、ロロディーヌ、
「あぁ、あの強烈な黒猫ちゃんですかい、納得です……と、また突然、頭の中から……声が……」
そう話すツアンは、出っ歯で渋い男なんだが……。
頭の中で聞こえる主人格イモリザとの会話中だと、目が寄り目になる。
その顔は妙に面白い。イモリザが何か言っているらしいが……。
「……え、うん、あ? あぁ、そうだな」
とイモリザたちと脳内で会話している最中に、一人で喋っている。
その少しおかしく見えるツアンに、
「なんだって?」
と、聞くと、ツアンはより目を直して、
「……イモリザが、芋虫の時、喰われるかも。と怖かったんですー。とか言ってきた」
「芋虫か、少し話が脱線したが、ツアンの若い頃、過去の話を頼む」
「若い頃……教皇庁三課外苑局に所属していた教会騎士だったんだ」
「第三課か、迷宮管理局とか第八課魔族殲滅機関とかあるようだが」
「その通り。俺の故郷の外魔都市リンダバームに、別れた妻が住んでいるはず、あいつは今でも幸せに暮らしているだろうか……」
ツアンの表情に切ない感情が見え隠れする。
「その別れた妻の名は?」
「ビビアン」
ビビアンか。
彼の顔に会いたい文字が浮き出ているように、感じられた。
「……妻に会いたいなら、まだまだ先だと思うが、【リンダバーム】とやらへ向かうか?」
「え? いいのか?」
ツアンはパッと表情を明るくする。
「あぁ、構わんよ。オークションあと、旅のついでの感覚。だいぶ後になると思うが……」
「それでいいさ! 故郷か……遠くからでもいいから、一度だけ妻の姿を見たかったんだ」
……別れても好きな人という感覚だろうか?
「そのビビアンは、歌手とか女優か?」
「美人だが、そんな教皇が好むような劇団には入ってないさ。元妻ビビアンは幼馴染みでな? 自慢じゃないが凄い美人だった。そして、一緒に育ち将来を誓い合った仲。俺が教会騎士に出世すると、凄く喜んでくれてなぁ、あの頃が一番幸せだったよ……」
あの頃……。
「しかし、仕事で家を離れることが多くなり、すれ違いが起きてな……」
ツアンは顔色を悪くしながら口を動かす。
「……喧嘩して、ビビアンと別れることに……その影響か、この顔の傷から分かるように教会騎士の仕事である魔族との争いで失敗して大怪我を負ったんだ。命は幸いにも……目尻か、頬に聖なる印を持つ高位な神聖教会の方の癒やしの魔法によって救われた。が、その怪我を理由に……教会騎士を引退。皆に合わす顔もないので、逃げるように故郷を離れ……いつしか【ゴルディクス大砂漠】の旅へ出ていた。教都、砂漠都市、点在する小さいオアシス村を経由しながら、ビリマネグ商会、血骨仙女、砂漠の盗族団【
そこから、この南マハハイムの都市を巡る長い旅の話を聞いていく。
一通り聞いたところで、八課の
「……八課の
……へぇ。恐怖、テラー騎士という感じだ。
その三人だけで大量にモンスターを屠ったと。
恐怖と狂気だけに、狂騎士を超える実力を持つのは確実か。
「……そっか、話をありがと」
「……教会騎士といえば、旦那も教会騎士顔負けの光の槍を使うらしいな? イモリザが凄いんですっ。光槍の魔法を無詠唱で使われるのですよ! と、念話が……」
また、目が寄り目になる。放っておこう。
次は鑑定してもらった鎧服のコートを試す。
右手首にアイテムボックスの表面を凝視。
中心は、時計の文字盤を覆うような風防ガラス。
回りは、太陽のプロミネンス的なマークの飾りが縁取っている。
そのアイテムボックスから――。
ハルホンクの暗緑色コートと黒い革のアーゼンのブーツを取り出した。
黒い革のアーゼンのブーツを履く――。
と、足首の革がシュッと自然に締まる。
おぉ……素晴らしい。この間の訓練の時もスムーズだったが、なんて優秀なブーツなんだ。
自動的に足の大きさと合わせてフィットしてくるなんて。
そして、本当にブーツを履くだけで、身体能力が上がったと分かる。
これから末永くお世話になりそうだ。
次は、この暗緑色コート。
魔界で暴喰いハルホンク、覇王ハルホンクと呼ばれていたモノが、装備者の精神力を試すらしいが……はたして、俺の場合……どんな感じになるのか。
期待と不安が綯交ぜになりながらも革服の上から、そのハルホンクのコートへ腕を通す。
暗い緑色の布の襞を優しく伸ばしながら身に着けてみた直後――。
俺の魔力が、そのハルホンクのコートの内側から吸われた。
続いて、ハルホンクコートの右肩だけにある防具の金属甲に亀裂が入る。
亀裂から閃光が迸ると、ハードディスクが回転するかのような音が響いた。
更に、金属甲の亀裂から野菜のモヤシ的な形の小さい金属が大量に持ち上がる。
それらの線状の小さい金属の群れは、それぞれ意識があるように蠢いて、アコーディオンの蛇腹を弾くように蠢きながら形を変えていく。
不思議な造形を繰り返してはチベットの密教楽器的な、ティンシャの音を響かせる。
形は小型の鬼か、小人の金属生命体となった。
更に、聞き取れない音頭も鳴った。
それらの小人の金属生命体らしきモノは、足下の亀裂が激しい金属甲に両手を当てる。
と、金属甲を窪むと、小人の金属生命体は、その金属甲を叩き出す。
金属甲は形を変えた。
小人の金属生命体は、金属甲の加工を始めていく。
鍛冶屋か錬金術師の力があるのか、小人の金属生命体は……。
金属の小人とは、一種の精霊みたいなものか?
ヘルメなら何か分かるかも知れないが……。
金属甲から半透明な魔力が波が出た。
更に金属甲の亀裂が消える。小人の金属生命体も金属甲の中に引き込まれて消えた。
魔力の波は、幾重にも重なって斜光も生み出しながらハルホンクのコートの表面を伝い流れる。
ハルホンクのコート全体に魔力の波が広がると、魔力の波は外に漏れず、コートだけを覆う。
コートはピカピカと意志があるように光る。
特殊なメッキ的な溶液でコーティングを受けたようになった。
襟の表面に白色と金色が混じる枝に、銀色の葉が生まれた。
更に枝に血色の花が咲く。
そして、金属甲の亀裂が消えると蠢いて隆線を保った竜の頭部を模った。
竜の顔か。
小人の金属生命体は、この金属甲に吸収されたようだ。
しかし、ハルホンクの竜頭金属甲か……。
竜は、ザガが作った的な精巧な作りだ。
眼窩は穴に見えるが、その穴の眼窩が蛇のように見える。
下瞼も隈的な彫りが表現されていた。
すると、その肩防具の金属甲の竜頭の口が動く。
「……ングゥゥィィ……アタラシキ者ノゥ、魔力ゥ、ウマイィ、ゾォイ」
風船から空気が抜けるような奇妙な声質で語り掛けてきた……。
「旦那、奇妙なもんを……」
この現象を見ていたツアン。
ピュリン、イモリザとの脳内会話を切り上げたのか、俺のコート姿を見つめてくる。
ん? 彼は両手に逆手持ちで刀身が光るククリ刃のような剣を持っていた。
ツアンの新しい武器? ナイフの波紋は<霊呪網鎖>から発生していた無数の光糸のようなモノが刻まれてある。
そのツアンへ向けて手を伸ばし、大丈夫だと頷いてから、肩の竜頭へ視線を向けた。
「……新しき者? 確かに俺は新しくコートを着た者だ。魔力を吸われたが、お前はハルホンクか?」
「……ングゥゥィィ……ソウダ。喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル。深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク! デェェアァル……ングゥゥィィ。アタラシキ者ヨ。ソナタノ魔力デ、我ハ、ヒサシブリィ、ニ、目覚メタ、ゾォイ」
やはりコイツに魔力を吸われたのか。
精神力を試すとは、魔力を吸うことなのか?
「久しぶりに目覚めたハルホンク。なぜ、俺の魔力を吸った?」
「……ングゥゥィィ、我ノ主ニ、フサワシイカ、シラベルタメダ、ゾォイ」
主か。
「それで結果は?」
「……ングゥゥィィ……マダダァ。マダタリナイィィ。我ニ、喰ワセロォ……ゾォイ」
「喰わせろとは、何を喰うんだ?」
「……ングゥゥィィ……魔ダァ。魔物、肉ィ、金属ゥ、一ツ、二ツゥ、沢山ゥィィ、我ニ喰ワセロォ。喰ワセロォ……ングゥゥィィ……ソシタラ、我ェ、アタラシキ者ヲ、主ト、ミトメル……ソシテ、最期ノ儀式ヲ、オコナウ……ゾォイ」
俺を主として認めて全てを委ねるか。しかし、何を喰わせよう……。
と、考えていると、ハルホンクが両眼をネオンサインのように煌めかせる。
「ングゥゥィィ……近ク、感ジルゥ、竜ノモノゥ、喰ワセロォ……ゾィ」
近く? 竜というと、胸ベルトにある魔竜王の蒼眼か?
コートの下に装着していた胸ベルトのポケットの一つから蒼眼を取り出す。
「ングゥゥィィ……ソレ、喰イタイ」
これか……持っているだけで、水属性の力を上げる物。
魔力を込めると氷の魔法を発生させてくれる優れ物でもある。
どうするか。喰わせるか?
「……これをお前に食べさせたとして、何か変わるのか?」
「ングゥゥィィ……カワル、カワル」
……迷う。かなり貴重な物だ。しかし、ハルホンクは神話級のアイテム。
その神話級のコートが魔竜王の蒼眼を取り込みパワーを得るならそれもありか。
そして、俺は槍使い、魔法使いではない。うん、あっさりと答えは出た。
少し笑いながら、
「……よし、ハルホンク。これを与えよう」
「ングゥゥィィ……ゾォイ」
竜頭の口部位らしきところへ、蒼眼を押し当てた、瞬間――。
押し当てていた蒼眼が、ポコッと音を立て、沈み込むように吸収された。
蒼眼を吸収した竜頭は蠢く。
先ほどよりも強く両眼を煌めかせてくる。
そして、片眼の位置に……にょきにょきと蒼眼が浮き出てきた。
今、与えたばかりの魔竜王の蒼眼だ。ハルホンクの新しい目になったのか。
片目のブルーアイズ、土耳古玉のような夏を感じさせる空色の眼。
「ングゥゥィィ……ウマウマァァ、ダガァァ、マダダァ、マダァ、喰ワセロォ、ゾォイ」
「……まだ足らないのか」
そうだ。ブーさんから貰った神界武具
魔力を二の腕に沈み込んで嵌まっている腕輪へ送る。
そして“腕輪よ外れろ”と意識。
その瞬間、二の腕と同化していた斑色の腕輪がブレスレットの如く腕から離れ浮かぶ。
離れ浮かんだ二つの斑色の腕輪はコートの内側を通り、掌の中に戻っていた。
壊れた
昔、これをミスティへ見せることも考えたが……。
ま、いいか。こいつに喰わせてみよう。
「……これをあげよう」
「ングゥゥィィ……」
また、竜頭の口部位に二つの斑模様のブレスレットを当てていく。
その瞬間、魔竜王の蒼眼と同じく、吸い込まれていく。
「グゴォォォェェェェェ……クソマズイ……」
マズイらしい。邪神により穢されて壊れたとはいえ、元は、神界の武器だからな……。
変な呻き声を発生させているけど、吐き出すことはしなかった。
そして、二の腕が円状に
二の腕を囲うように、布が丸く環状に膨らむと、その膨らんだ暗緑色の布の表面に、襟元と同じ白銀色の枝が現れた。
白銀色の枝は、膨らんだ布の表面を縁取って描かれる。
まるで、新しい光輪を腕に作るように描かれていった。
……暴食という名は伊達じゃないようだ。
試しに、魔力を送ってみるか……。
環状に膨らんだ二の腕の位置を視界に捉える。
この、白銀の枝が連なる環の絵に対しピンポイントで魔力を送ってみるか。
魔力を送った瞬間――。
膨らんでいる白銀色の枝模様が水晶の粉を撒いたかのように光り輝いた。
更に、白銀模様の二の腕の位置にまで、長袖が畳まれながら引き上げられていく。
コートが半袖の形状に変化した。
と思ったら、二の腕の白銀色の枝模様の環から、斑色の環が現れる。
そして、瞬時に、下方の手首にまで幾つも連なった環状の筒形防具となった。
前と同じ光輪。色が斑色のままだが防具の光輪だ。
少し違う。前は俺の両腕と同化していた形だったが、今度は、このハルホンクのコートの腕に同化した形だ。
「ングゥゥィィ……チガウゥ、モットォォ、ウマィィノ、喰ワセロォ、ゾォイ」
壊れた
「……少し待て」
二の腕を意識して、「戻れ」というと、二の腕の白銀色の枝模様が輝く。
両手首まであった斑色の環腕輪を吸い上げて消失させると同時に暗緑色の布が両手首まで伸びていた。切り替えが自由か。この辺は前と変わらない。
便利だ。さて、食わせるのを探す……。
どうするか……。と、部屋を見渡す。
「ングゥゥィィ……アレダ、アレ、竜ノ、モノ……」
リビングから移動させていた修理予定の魔竜王製の紫鎧が視界に入る。
下の板の間の床には、切り裂かれたイリアスの外套も置かれてあった。
ハルホンクは蒼眼を吸収したから……確かに、あの紫鎧も喰うだろう。
……ザガ&ボンの魔竜王鎧、数々の激闘を潜り抜けてきた鎧。
邪神シテアトップの一部との戦いで傷ついてしまった鎧。
思い出深い、紫色のスケイルメイル鎧が置かれてあるところまで移動し、指で触っていく……。
切り裂かれた痕が……綺麗にざっくりと分かれている。
神の一撃らしく凄まじい切れ味だったのだろう。
尖っている角の傷痕を指でなぞっていく。指の表面が切れてしまいそうだ……。
さて……この鎧は修理予定だったが……。
この紫鎧をハルホンクへ喰わせて、古代竜の力を取り込むのも面白いかもしれない。
その前に、この床に置いてある薄灰色の切り裂かれた外套を喰わせてみるか。
外套を掴むと、
「ングゥゥィィ……紫ノ、ゼンブ、喰イタイ」
「いや、まずはこれからだ。喰え――」
掴んでいる外套を、ハルホンクの竜頭を象った右肩の金属甲へ押し当てる。
その瞬間、イリアスの外套は掃除機で吸い取られるように中央の灰色の布が凹むと、風船から空気が吐き出されるような異音を立てながら凄まじい勢いで、竜頭の中へ吸い込まれていく
あっという間に外套がなくなった。
「ングゥゥィィ……コレ、混乱スル……ウマイノ中ニ、スコシ、マズイ、ノ、混ジッテルッ、ペッ――」
ハルホンクは文句を言いながら、何かを、吐き出していた。
吐き出された物は、白い粘液がこびりついた十字架と本のような黒光りする糸で刺繍された知恵の神イリアスの紋章部位だった。
それ以外は吸収したらしい。
暗緑色の左の胸元に銀ヴォルクを象った小さいマークが浮かんでいた。
あの粘液は銀ヴォルクか? エヴァが死にそうになった恐竜型モンスター。
昔、ザガは、銀ヴォルクがこの外套の素材と語っていたのは覚えている。
「ングゥゥィィ……ツギ、ゼンブ、喰イタイ」
「待ってろ」
お望み通り、竜の意匠が目立つリアブレイズ、小手、椀甲、裂かれた紫の大腿甲、脛甲と合体した紫グリーブを肩の竜金属の口部位へ次々と吸収させていった。
「ングゥゥィィ……マンゾクゥゥ。ングゥゥィィ……マンゾクゥゥゥ……」
肩のハルホンク君、アへ顔か?
「コレホドノゥ、マリョク……アフレル。神気ヲ感ジタ、マリョク。幾星霜、ナイ。ハジメテ……我ノ主ィィ。ミトメル。最期ノ儀式、オコナウ!」
竜頭の金属甲は、最期と語るように、今日一番眩しく輝く。
すると、竜頭の金属が口を広げると、その口へ繋がっている暗緑色コート防護服を吸い込んでいった。
マジで? 自らも喰うのか。
やがて、全てのコートの布を、光り輝いている肩の竜頭金属甲は吸い上げてしまった。
右肩の竜頭金属のみ。後は下に着ていた革服と胸ベルトのみの恰好となる。
「ングゥゥィィ、最期ダ! 我ヲ、喰エ。ソコカラガ、ホンバンダ」
「まて、お前を俺が食えだと?」
「ソウダ。アタラシキ者」
光っている金属を喰えか……迷う。
一連の出来事を、ただ驚いて見ているツアンへチラッと、視線を向けるが、彼は腕を左右に揺らして、俺に聞かないでくださいみたいなジェスチャーを取る。
「ングゥゥィィ、ハヤク、喰エ」
店主が第二種の呪いがどうとか言っていたな。
しかし、これも流れか。仕方ない食うとする。
肩の光っている竜頭の金属甲を触ってみた。
感触は金属だが……これを喰って大丈夫なのか?
しかも、喰ってからが、本番とか……コイツは話していた。
左手の指で、その金属を摘まんでみると、軽い。ビスケットにも見える。
そのまま人差し指と親指で挟んだ竜頭の金属甲を口へ運び、ええい、ままよっと、噛んでみた。
え? おっ? 豆、レッドキドニーのような感覚。
意外と柔らかい……しかも、和風サラダのような味わいで、甘いし。
何で甘いんだよ。とツッコミを入れたくなるが、どんどんと喰っていった。
全てを喰いあげた瞬間、視界が暗転。
深い沼の底へ引き込まれる夢現の境に沈んでいくような疑似感覚に包まれた。
生暖かい風を身に感じると、唐突にその感覚は止まる。
そして、周りが、墨絵の世界のような場所? となっていた。
こりゃなんだ。幻覚の茸を喰ったような感じか?
足元も墨の線が風に揺られて流れていく。感触はないが墨の川のようだ。
試しに、その墨絵世界の中を歩いてみる……。
少し進むと、小さい銀色の粒が落ちてきた。
きらきらと雪が舞い落ちるようだ。幻想的で綺麗……。
少し感動して景色を眺めるように宙空を見つめていると、突然、目の前に薄ぼんやりとした、提灯の光を思わせる明かりが浮かんでいた。
なんだろう、何処から発生したんだ? 朧気な提灯の光だ。
明かりに触ろうと指を伸ばすが、その朧気な明かりは、俺の指を避けるように三日月の形へ変形を遂げてから、くるりっと下回転。
三日月が下側にニコニコマークの笑う口のような形になった。
そして、三日月型の中央下に膨らむように大きな口と、三日月の左と右の離れた位置にポコッと小気味よい音を立てながら、卓球のピンポン玉サイズの眼球が生まれ出た。
一対のお揃いの出目金だが、人の眼。俺を見つめてくる。
大きな口がもごもごと動き、
「暴喰いを喰ったんだな……」
お化け風ともいえる三日月は、妙な輝きを発しながら話しかけてきた。
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