二百四十一話 神話級アイテム&呪神テンガルン・ブブバ
今日は眷属たちと一緒にお出かけタイム。お宝鑑定の日だ。
迷宮都市ペルネーテの第一の円卓通りへ向かう。ここは相変わらず混雑している。
商人の売り子と冒険者の売り込みの声が耳に残った。
山法師を思わせる槍持ちの僧侶は武芸者っぽい。
江戸時代の火消しが持つような馬簾付きの馬印を掲げる
紅葉傘を肩に掛けて歩く女エルフの冒険者は美人だ。
繭、団子、仮面、十字架など様々な物を木の枝に吊した繭玉の飾り物のような物を細長い手で持つ巨漢の
そして、深編み傘を被った虚無僧の集団が通る。江戸時代や戦国時代を思わせる。
そこにシャリシャリと金属音が聞こえてきた。音の正体は、巨大亀に引きずられた木製馬車だった。横に諸折り戸が付く凝った造りの馬車だ。
御者は髭を顎に蓄えたドワーフ。馬車の窓まど中にいる方が見えた。
眼が五つある種族か。初めて見る? 髪は銀色。美しい顔を持つ種族だ。五つ目の女性は、厳しい表情を浮かべながら相席している首輪で繋がれたエルフの奴隷へ文句を言っているように見えた。そのドワーフが御者の馬車は先を行く。
布告場での公示人たちの声も煩い。
そんな混雑している第一の円卓通りを歩いて進む。
コレクターの小さい屋敷も視界に入れながら、
縦長のカフェのような内装は変わらない。
カウンターの向こう側に渋い店主がいる。
店主は姿勢を正しく保ちながらコーヒーカップを磨くように、魔道具の時計らしき物を拭いていた。本当に珈琲店を経営している渋いマスターに見えてくる。
しかし、凄腕のアイテム鑑定師だ。今も、その証拠というように、赤い瞳が蠢いている特異な布で魔道具を拭き続けていた。布から赤い瞳が浮かんでいるし、微量の魔力が発せられているから磨く効果を高める布なのだろうか。店主の仕種と周囲を見ながら、幅が小さい階段を下りて、店主へと挨拶。世間話は早々に切り上げた。アイテムボックスから白銀の宝箱を出し、店主にアイテムの鑑定を頼み、見てもらった。
「どれもこれも、素晴らしい宝物ばかり。これほどの宝箱が出現する階層とは……」
渋い店主は鑑定を行う度、感動に打ち震える様子を見せてきた。
どこで、この宝箱が取れたのか? は聞いてこなかった。
「それで、わたしの格闘武器はどんなの?」
レベッカは店主に質問。
数個のアイテムの鑑定を終えた店主は笑顔を返してから、いつもの渋い顔に戻り、
「えぇ、では、これからですね」
と、手に持っていた銀色に輝く刃を持つジャマダハル系の格闘武器をカウンター上に置く。
「
「わぁぁ、シュウヤ、聞いた?」
レベッカは身体全体でアピール。
スイッチオン状態。
白魚のような両手をカウンター机について、細い足をバタバタさせて興奮していた。
体勢を維持して振り返り、俺を見つめてくる。
その蒼い瞳は宝石のように輝きを放っていた。
嬉しそうな顔だ。子供みたい。
「……勿論、聞いたさ。素晴らしい武器。しかし、それを装備しながらのツッコミはなしな」
「えぇー、シュウヤなら死なないから大丈夫よっ」
冗談だと思うが、冗談に聞こえないから怖い。
答えるのも嫌なので、店主へ顔を向けて、
「それじゃ、次のアイテムをお願いします」
「はい、では、この魔力を放出している太刀を」
「あ、シュウヤ、見てっ、わたしの」
ユイは嬉しそうに細眉を上げ目の周りの眼輪筋も広げる。
そして、鼻から空気を胸いっぱいに吸い込んだようなハキハキとした顔を浮かべていた。
その黒い瞳からは、期待に溢れているという思いが感じられる。
……可愛い。
「見ているさ」
俺は笑顔を意識して話した。
そして、店主は皆の視線に応えるように太刀を触り、眼を細めながら語る。
「……
「……名前といい凄い効果。闇刃、風刃を纏う刀での二度三度分の斬撃効果。身体速度も上がるのね」
手数が増えるのか。ユイの剣撃はさらに磨かれるな。
「ユイ、ベイカラ神が齎してくれた太刀かもしれん」
カルードが小声で呟く。
その言葉に、渋い店主がチラッとカルードを見てからユイの顔も見ていた。
ベイカラの加護、関係者と推測されたかもな。
「うん」
店主はユイの美しい顏を見てから、にこやかな笑顔を浮かべると、次のアイテムを持つ。
「次は、魔力を伴う両刃の刀を」
「お、わたしのです」
カルードは渋めの表情。
だがどこか期待を寄せているような顔つきを見せる。
豊麗線がくっきりと浮かび、瞳も散大し、皺がある眼輪筋を少し伸ばすように広げていた。
「
鳳凰都市セイフォン?
アジア風の名前だから
ホウオウ……荒神、アズラ側VSホウオウ側と関係があったり?
「柄巻を握っている状態で、魔力をこの両刃の刀へ送りますと、属性に関係なくもう一つの幻の両刃の刀が出現するようです。そして、刀身が少し伸び、真なるモノを切り裂く効果が得られるようになるとか。更に持っているだけで、身体能力の底上げ効果もあります」
幻というだけはあるようだ。
「幻だけに、一対の両刃の刀だったのか」
「父さんのも中々じゃない?」
「あぁ、マイロードのお陰だ。そして、目的のために、この武器は力を発揮してくれるだろう」
カルードはユイと目を合わせて頷いている。
「あの目的ね、いつぐらいから本格的に?」
ユイには話したようだな、自らの夢を。
そのカルードは俺を見つめてから、
「……まだ先だ。古い伝手へ冒険者ギルドではない、高級飛脚ギルドの一つを使い手紙を出したが、距離が離れているので、まだ届かないだろう」
「父さんの古い伝手というと……ラスニュ派の死骸術師とか、【ロゼンの戒】の鴉とか?」
「その通り。サーマリア故、返事が来るのは遅くなると思うが」
「彼らも最大手の闇ギルドが潰れたから案外……」
ユイとカルードは見つめ合う。
彼女は父、カルードの夢を手伝いたいと言っていたな。
「どうだろうか、オセベリアと小競り合いが発生していると聞く。裏も表もロルジュ派が本格的に動き出したようだ」
「それじゃ、返事はダメそうじゃない。新メンバーは当分先?」
「……死骸術師のウガサキは誘いに乗るか怪しいが、鴉はわたしの誘いに乗ってくるだろう。彼女にハルフォニアにある屋敷の地下に隠してある戦闘服を回収してもらうように頼んでおいた。彼女の欲しかったものを提供する代わりだがな」
鴉という女の盗賊ギルドか、闇ギルド関係者を呼ぶようだ。
そういえば、カルードとユイはハルフォニアにある家がそのままなんだよな。
「父さんが戦場で身に着けていた古い鎧服ね。鴉が欲しがっていたものって、まさか……」
「そうだ。呪い島ゼデンに由来する古い小刀」
「あれかぁ。古くてもう武器としては使えないけど、美術品としての価値はあるとか前に聞いたけど……それで、鴉を呼び寄せるということからして、拠点はこの都市なの?」
「まだ未定だ。鴉と合流し彼女の情報網を駆使してからとなる。予想だが、違う都市へ向かうかもしれない」
カルードは人材探しの旅か。
「そっか。ギルドの名前は?」
「ふむ。考えているが……月光の槍、日月の天蓋、新月の残骸、血の開闢、
名前は色々と考えているようだ。
カルードは娘のユイと闇ギルドの話をしていく。
「……ゴホンッ、次の鑑定した品を説明してよろしいですか?」
店主が鋭い視線で聞いてきた。
「ええ、どうぞ」
「はい、では、この魔力を伴う赤鱗の長剣です」
「あ、わたしのですっ」
ヴィーネも期待の眼差しだ。
「
「凄い、豊富な機能を持った武器なのですね。気に入りました」
ヴィーネは頷きながら語る。
彼女は青白い皮膚なので赤が生える、似合いそう。
「次は、この白銀色の金属、
最後に、店主の本音がポロッと出ていた。
「ん、やった、凄い金属」
エヴァの言葉は短いが納得しているようだ。
「次は、この虹色の鋼です」
「わたしのね。詳しい名前はしらないけど、だいたい予想はつく」
「
「やっぱりね」
ミスティは鳶色の瞳を輝かせる。
エヴァと同様に納得していた。
「次は、この魔力を伴った白い槍……白銀の方天戟」
緊張感を生み出す店主。
「俺のですね……」
わくわくだ。
この微妙な間もたまらん。ダイ・ハード店主めっ。
「……こ、これは、凄まじい。
おぉ、魔人武王。そのフレーズは聞き覚えがある。
……ナロミヴァスが語っていた。
ここから南西の地、元イーゾン国、イーゾン山がある【迷宮都市イゾルガンデ】を利用していたとされる魔人武王ガンジス。
「未知の金属が使われ、出所は不明。魔力を浸透させると穂先が微細な振動を起こし、槍技の威力が増す効果が得られるようです」
微細な振動?
<刺突>、<闇穿>の威力が増すのか、いいね。
「そして、この纓の蒼毛の部位……旧神ギリメカラの蒼髪の一部を含め無数のモンスターの毛が合成されているようですね。更に、使い手の魔力をこの槍へ浸透させ纓を意識しますと、操作ができるようになるとか」
だからあの時、蒼毛が蠢いたのか。
「穂先のメンテナンスも不要、永遠に穂先は鋭い状態が維持されます。他にも大刀打の位置に何かの紋章がありますが、解析が、できない……この大刀打の四角い位置にある、
あの四角い大刀打か。紋章の力を解放するとか?
でも、旧神とはなんだろう。
荒神なら聞いたことがあるので分かるけど。
前に魔毒の女神ミセア様がそれらしいことを語っていたが……。
「いえ、まさに神槍なんですね。凄いのは分かりました。それで、旧神とは何ですか?」
さりげなく質問したが……。
何故か、ダイ・ハード店主は視線を鋭くし、双眸を光らせる。
『閣下、あの目から今まで感じていなかった魔力がっ』
『確かに……魔力操作技術は、かなりの域だな、この店主……』
「……さぁ? 遥か古代にはそんな神がいたのでしょう」
店主は誤魔化すが何かを知っている顔だ。
「……荒神、呪神とは、また違うと?」
俺の疑問に、店主は眉を中央に寄せて皺を重ねる。
双眸の瞳をギラつかせてきた。
「……さすが、紫の死神と云われている魔槍使い。他の冒険者とは、格が違いますな。因みにその呪神という言葉……何処でお知りになったのですかな?」
そう尋ねてくる店主は、何時もの店主の顔ではない。
片眼鏡は頭に嵌められた状態だが、双眸の目尻から耳元にかけて、特異な魔力紋が浮かんでいた。
何か、攻撃を仕掛けてきそうな気配だ。
『あれは何でしょうか。マギットの宝石に込められているのに近いですね。異質な魔力……』
常闇の水精霊ヘルメがそう分析していた。
「ご主人様に対して、なんという眼をっ」
ヴィーネは魔毒の女神ミセア様からの贈り物である翡翠の
「ちょっと、店主、どうしたのよ」
「ん、何か怒った?」
「魔力が異質ね。――この新しい刀の切れ味を試すのもいいかも」
ユイは冷静に語りながら、カウンターに置いてある鑑定済みの神鬼・霊風を取り、静かに刀を鞘から抜き放つと、剣先を店主へ向けた。
早速、使いこなしているのか、刀身に風の靄のようなモノが浮かんでいる。
「マイロードはわたしが守るっ」
「――皆、そういきり立つな。店主、店主だから話します。呪神という言葉、それは魔界の神から聞いた言葉なんです」
皆の気持ちを抑えてから、店主に言葉を投げかけた。
「……魔界ですか、コレクターのシキさんと同じ部類の方でもあると……納得です。呪神の説明をしますと、旧神と同じです。このマハハイム大陸に荒神が誕生する以前から住まう古の土着神たち……忘れ去られた神々とも、いわれていますね。因みに地域によって亜神、荒神、呪神としての力が根強く残っている地域もあるとか」
店主は目尻から耳にまで伸びていた魔力紋を目に戻し、元の状態に戻しながら語っていた。
「土着神ですか。もしかして土偶とかが祭られていたとか」
「はい、森の奥に祭壇があったりしますね」
そこで思い出す。
魔霧の渦森にあった、うち棄てられていた祭壇のことを。
女神像、土偶とは、呪神だったりして……。
幾つかにお祈りを捧げたからな、俺は……。
「……なるほど。でも、どうしてそんなに詳しいのでしょうか?」
「それは、呪神テンガルン・ブブバの力に、わたしの身体が蝕まれているからですよ……」
なんだって?
「店主は呪われている?」
「はい、若い頃に古い未知なるアイテムの鑑定に失敗しましてね。身体の一部に丸い赤色の印のようなものが……その印は、何か別の意思があるようで、ブブバ、ブブバ、bububa……と、名乗りだし……」
別の意思……あぁ、だからか。
この間、鑑定してもらった時の声。
腰から出た禍々しい魔力と一緒に聞こえた……あのブブバッという謎の声。
「……更には、もう一つの月が見え、言葉が違う、未知の世界と推測できる集合住宅に住まう人々の悪夢を見せるように……幸い、呪い封じ用のアイテムもあるので、その悪夢と印の拡大は収まりました」
悪夢の印と聞いて、一瞬首を擦る。
俺にも悪夢の女神ヴァーミナ様の印がある。
もし、<光闇の奔流>がなかったら、俺は悪夢の女神ヴァーミナ様の虜になっていた可能性があるということ。
それはそれで、違う運命として楽しめたかもしれないが。
あの女神様、美人だったし。
だが、店主の呪神は得体のしれない悪霊のような感じだから……。
「……そりゃ、怖いですね」
と、自分に置き換えながら店主に聞いていた。
「えぇ。ですが、忌みがあろうと、体力、精神、魔力、魔力操作技術も、この呪神の影響で格段に跳ね上がりましたので、前向きに捉えるようになりました」
ポジティブだ。店主の渋い表情が余計にカッコよく見えた。
さすがはダイ・ハード店主。
あ、もしかして、店主は呪神テンガルン・ブブバに認められた使徒?
単に被害者かもしれないけど。
「……そか」
感心しながら呟く。
「では、他の武器の説明をしていきます。この刃先が丸く太い模様入りの長剣は
エセル界?
ま、これはルビアにでもプレゼントするか。
「次は、緑色の金属の手斧、
ギミック系の武器ともいえる。
しかし、誰も斧は使ってないな。
俺が使えると思うが……売るか悩む。
新しい腕も増えたことだし、気分転換に斧を使ってみるのも面白いかもしれない。取っとくか。
「……次の品を説明しますが、よろしいですか?」
「ええ、はい、どうぞ」
「はい、では、この鋏がモチーフのような特殊な両刃武器ですが、
優秀そうな武器、<鬼喰い>とやらが気になる。
……保留だな。次は先端に炎を纏っているメイス。
ユニーク級、名は炎死のメイス。
魔力を込めると先端に炎のワイヤーめいた炎の茨が大量に巻き付く。見た目は、まさにゾンビドラマのボス、バイカーファッションのボスが持っていそうな殺人バットだ。
肩に担いでニヒルに笑いながら……使うのは……ダメだ。
縁起が悪い。仲間の死を呼びそうなので、売ろう。
これは店主に買ってもらう、売り決定。
「……続いては、防具の品。肩の金属防具にケープとフードが付いた暗緑色コートの防護服」
「俺のです」
店主は頷き、
「……これも、また装備者を選びますが、凄まじい。
肩の一部分だけか。暗緑色系の素材、分からないのか。
「暗緑色の厚革、襟、金具の留め金、袖のベルト、胸元にある模様もですか?」
「はい、何か連動しているとしか分からないです」
鑑定で分からないか。
「……そうですか。分かる、肩の金属甲とは?」
「暴喰いハルホンクの金属皮膚。魔界にて、覇王ハルホンクとも呼ばれたモノが凝縮したようなモノが込められた金属甲です……使い手、装備者の精神力を試す部類のギミックがあるようですが……詳しくは不明。呪いの品、極めて第一種に近い、第二種危険指定アイテムに分類されます」
いいね、精神力を試すギミックという、ワクワク感。
もしや意識があるアイテムか?
今度挑戦してみようか……。
上手くいくなら、このハルホンクのコートをメインの防具にしよう。
最近はずっと革服だったし。
「……黒革ブーツは
へぇ、魔界にもいろんな奴がいるんだな。
「続いては、紅色の羽と黒の羽を使った綾織りで製作されたような綺麗な上服とスカート」
「あ、わたしたちの」
「ん、気になる」
「羽が綺麗」
「はい、これは
店主が説明すると、
「
「ん、皆で着たらお揃いの服になっちゃうけど」
レベッカとエヴァが仲良く話していく。
「他の服と組み合わせることもできるから、その辺は大丈夫よ」
「ん、レベッカはお洒落さん、参考にする」
「ふふ、ありがと。今度、エヴァに似合うカワイイ服を揃えてあげるっ」
「薄いし、戦闘服にも応用ができそうね」
「この羽を取って、研究に利用できるかもしれない」
ユイとミスティもガールズトークに加わった。
店主は暫く黙って彼女たちの話を聞いていたが……。
溜め息を吐きながら、次のアイテムの説明を開始した。
「……では、次のアイテムの、白い甲殻の外套は、ユニーク級、名はゴッドトロールの外套です。白い甲殻の小手、白い甲殻のレザーアーマー、白い甲殻のブリガンダイン、白い甲殻のアーメット、白い甲殻の靴、全てがゴッドトロール製ですね。効果も皆同じで、身体能力と魔法防御能力を僅かに引き上げる効果があるようです」
微妙だが、フーかママニに全部あげるか。
「続いて、ガーターベルトの黒革の下着です。ユニーク級。名は、風仁王の下着。僅かに、身体能力の引き上げと身体を柔らかくする効果があり、消臭効果もあるようです」
「名前はアレだが、優秀な下着だな……」
身体を柔らかくか、柔軟性をあげるということか?
名前的に仁王が装着してそうだが、女性用下着だ。
「欲しい、シュウヤが好きそう」
ユイがぼそっと呟きながら熱を込めた視線で俺を見つめてくる。
カワイイ表情だ。
確かにユイが履いたら白い太腿がより映える。
魅力的だろうな……そして、近接戦で威力を発揮するだろう。
「く、わたしも欲しいぞ……」
ユイの黒い瞳を見つめていた俺の姿に気付いたヴィーネも、対抗心を燃やしたのか、素の感情を表に出して呟いてきた。
「匂い消しはいいわね。わたしも立候補するわ」
ミスティも欲しいらしい。
「ん、紫のタイツと一緒に履くっ」
「考えることは、皆、同じようね……」
エヴァとレベッカも続いた。
『わたしは要りません』
『ヘルメには必要ないか、もとが美しいからな』
『……嬉しい、閣下……』
視界の端に現れた小型ヘルメちゃんが、キスをしようと目を瞑っていた。
そんなヘルメはスルー。
「ん、じゃんけん?」
エヴァは勝つ気まんまんの顔を浮かべている。
また触って思考を読みながら行う気かな?
「もう負けないんだから」
「今度は勝つぞっ、この下着を着て、ご主人様に喜んでもらいたいのだっ」
ヴィーネは素の言葉を漏らしながら興奮。
じゃんけんの構えを取る。
「研究用と思ったけど、マスターの好み。これは負けられないわ……」
ミスティも鳶色の目を輝かせながら話す。
そして、<筆頭従者長>たちによるじゃんけん勝負が開始された。
たかが下着といえど、そこには負けられない戦いがあるらしい。
じゃんけんが行われていく。
◇◇◇◇
「やったぁ! 勝った」
じゃんけんの結果は珍しくエヴァが負けて、ユイが勝利。エヴァは思考を読むズルをしていなかったようだ。
「身体能力が上がり、身体を柔らかくする……」
「父さん? 刀の応用に使いたいのでしょうけど、わたしが履くんだから、触らないでよ?」
「分かっている。しかし、そのアイテムは武芸者、近接の戦闘者向き。そのガーターベルトを履いているから勝てた、という死闘があるかもしれぬ」
「うん。だから嬉しい」
カルードが地味に欲しがっているが、ガーターベルトの黒革下着だ。
いずれ、闇ギルドを率いる渋い中年男が、実はガーターベルトを愛用していると? そんな姿は想像したくないな。
ブリーフ、トランクス系なら分かるけど。
続いて、白い鏃の矢束、獣の皮を巻く金属弓を鑑定していく。
「白い鏃の矢束ですが、数は五十本、ユニーク級で、名はシシクの矢。効果は毒、刺さった個所を硬直させる効果があるようです。金属弓もユニーク級、名はハヴォークの弓。効果は矢を射出する度に風の精霊が味方をするとか。射出精度と威力を上げてくれるらしいです」
この弓と矢束はママニにあげよう。
次は羽付きの小さい靴か。
「靴は、
これはサイズ的に小さいからサザーにあげるかな、と考えていると、店主は生きた複眼が中央に嵌まっているホプロン型の魔盾を手に取っていた。
「次のアイテム、この盾は、
中々優秀だ。
このホプロン型の魔盾は
ポーションは見た目通りの品だった。
高級回復ポーション数個。
渋い店主は続いて、黒い指輪の説明へ移る。
「この黒い指輪は、ユニーク級、名前は黒魔殿の指輪。効果は魔力微上昇、魔力を僅かに溜められ、魔力回復と疲労回復を僅かに促します。銀の腕輪は普通のマジックアイテム、名前は銀魔の腕輪。魔力回復を僅かに促します」
指輪のあとは黒ベルト。
黒ベルトは魔法耐性が微上昇する。
バックルは小さい宝石が鏤められて幾何学模様が彫られてある。
続いて、
「この金糸はユニーク級、魔力を込めますと手袋の形になり防具にもなりますが、ゴールドタイタンというモンスターから抽出した頑丈な魔糸。糸として髪飾りにも使えます。茶色い布はユニーク級、インタールーダーというモンスターの魔糸から生成した布で、傷を受けた個所に巻き付けると、傷の治りが若干速くなる魔癒しの布です」
錦糸のあとは……。
ネックレスとイヤリングはユニーク級。
魔力を溜めることが可能なアイテムだった。
「これらは一応、おしゃれ用」
「魔力を溜めるイヤリングもいいですが、髪を纏めるのに金糸は使えそうです」
「ん、地味に重要」
「わたしも欲しいかも」
また、じゃんけんが始まった。
今度はエヴァが勝利。銀の腕輪を貰っていた。
「わたしはこれで十分。イヤリングとネックレスは各自で一個ずつ。ヴィーネ、ユイ、レベッカで残りを分けていい」
金糸はヴィーネ。
ユイは黒い指輪。
レベッカは茶色い布。
ベルト、ネックレス、イヤリング、はミスティを含めて全員で仲良く分けていた。
「このインクはユニーク級。名は魔秘インク。ある一定の魔力量に反応して、色が変わるという特殊なインクですね。貴族、王家に関わらず、秘密の連絡に用いられることが多いようです」
これは王子売りかな。ザガのとこに持っていくのもいいかも。
「この瓶は普通のマジックアイテム。聖鳥クンクルドの羽と、ある生物の脳髄液を用いて作られた聖なる美容液。塗ると、その部分の肌だけが、一定の間だけ、僅かに若返る効果があり、光属性の保護が得られるとか。最近人気の市販されている天使のベールと似ている商品ですね」
天使のベールは人気商品なんだ。
「わたしたちには微妙」
女性陣は頷く。そうだな、皆は光魔ルシヴァルの眷属なんだから。
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