二百三十四話 光邪ノ使徒

 あれはリリザの肉だったモノたち。

 クロイツの巨大魔法槍の爆発によりバラバラにされた肉たちが一つに纏まった。

 リリザは変身を行う。と、高級戦闘奴隷のママニは語っていた。

 予想通りメタモルフォーゼ的な再生能力を持っていたか。再生の過程が二十階層の守護者級のソレより極端に鈍く遅いようだが、着実に再生中だ。


 あ――そうだ。突飛な閃きが脳内を駆け巡る。

 魔槍杖バルドークを消す。黒豹ロロの渋い獣顔に笑顔を向けて、


「……ロロ、少し実験を行うから見ていて」

「にゃ」


 相棒から視線を外す。足に魔力を溜めた魔脚でリリザの肉塊へと素早く移動した。


 左手でカルタ叩きを行うように、その蠢いているリリザの肉塊を掴み取る。

 リリザの肉塊の感触は、コンニャクを崩したような感じだった。


 この変身途中の敵を鷲掴み……。

 普通なら肉塊の挙動に驚いたリアクションを取り、様子を見ることが正解だろう。

 が、俺は普通ではない。気まぐれロマンティックな、光魔ルシヴァルだ。


 さて、問題の、この蠢くイモムシを連想させるリリザの肉塊。

 サバイバルで貴重なタンパク質を補給するかのように、この魔力が内包された肉塊イモムシへ噛みついて、魂を吸うのもいいとは思う……。


 しかし、邪教、神、使徒、化物たちが集まり狂宴を行った締めだ。

 ただ魂を吸って、この混沌とした狂宴に終止符を打つのは勿体ない……。


 今、このタイミングだからこそできる最高の実験を行おう。


 光系スキルを試す。<霊呪網鎖>を発動させた。

 その瞬間、リリザの肉塊を掴んでいる掌の表面から光鎖群が生まれ出る。


 沢山、千は超えているだろうか……。

 この手から発生中の光糸の触手鎖の群……。

 光糸は別の生き物か? 妖精の産毛にも見える。

 仄かな蛍光灯の明かりを発した豆電球のようにも見えた。


 そうして、俺の掌から出た<霊呪網鎖>の光粒子の触手鎖たちが、新たな宿主を探すように蠢く。そして、リリザの肉塊の中へと融けるように侵入するや、得体のしれない濃密な魔力を感じた。

 それは暗夜に灯を得たような不安から安心へと移り変わる不思議な感覚――。

 と、そんな感覚を得た直後――。

 

 俺の魔力が光粒子の鎖触手たちを通じて、そのリリザの肉塊の中へ吸い取られた――。


 だるい――魔力を仙魔術以上に消費した……。


 更に、不思議な音が肉塊から鳴り響く。

 同時にリリザだった肉塊に光の網紋が刻まれた。


 ※ピコーン※称号:邪神の使徒の一部ヲ略奪セシ者※を獲得※ 

 ※称号:混沌ノ邪王※と※邪神の使徒の一部ヲ略奪セシ者※が統合サレ変化します※

 ※称号:光邪ノ使者※を獲得。

 ※ピコーン※<光邪ノ使徒>※恒久スキル獲得※ 

 ※霊呪鎖士の条件が満たされました※

 ※霊光槍使いの条件が満たされました※

 ※戦闘職業クラスアップ※

 ※<霊呪鎖士>と<霊光槍使い>が融合し<光霊槍呪鎖師>へとクラスアップ※

 ※戦闘職業クラスアップ※

 ※<邪槍樹血鎖師>と<光霊槍呪鎖師>が融合し<霊槍血鎖師>へとクラスアップ※


 おぉ……称号とスキルを獲得して、戦闘職業が変わった。


 しかし、魔力の減り方が尋常ではない。久しぶりの感覚だ。

 重い鉄球が何十個と胃袋の中に入り、強引に胃下垂にでもなったかのような、ズシリとした重さを胃の奥に味わった。

 

 そのお陰か……。

 俺の魔力を吸い取ったリリザの再生途中の肉塊とは、沸騎士たちを超えた特別な繋がりを感じた。


 <光邪ノ使徒>のスキルを得たから<召喚術>とはまた違うようだ。

 

 その光の網紋が刻まれた再生途中のリリザの肉塊を目の前へ放った。


 光るリリザの肉塊は、空中で静止――。

 いや、微かに動く。音もまだ鳴った。


 打楽器を思わせる小さい低音……。

 そのリリザだった肉塊は打楽器的な音を響かせつつ……。


 ゆらゆらと陽炎のような魔力を発生させた。

 その打楽器の音程に合わせて、肉塊が膨張と収縮を繰り返した。

 

 それは悪魔と悪魔が合体するように――。

 むくむく、ぐにゅぐにゅ、と変化は続く。

 打楽器の音と連動した心臓の音と脈打つ音のようなモノが連鎖して鳴り響いた。


 リリザだった肉塊は、骨のない軟体動物の的に蠑螈いもりが腸を出したように大きく成長した瞬間――。


 別の意識を持つように人の形を形成。


 すると、その人の形の肉塊の狭間から暗い光が縞をなして迸る――。

 刹那、<光邪ノ使徒>の意味がある光の網紋が刻まれた人の形をした肉塊から逃げ出すように、にゅるりと右側へと飛び出た。

 

 ――分裂!?

 左側に残る<光邪ノ使徒>の意味の光の網紋が刻まれた肉塊のほうは、小さく縮みつつ人を模る。


 一方、右側の闇色の肉塊のほうは、まだ蠢いていた。


 左側の小さい人型は、黄金色の髪と薄青い瞳を持つ女性の姿となった。


 額には線状の入れ墨が目元まで繋がっている。

 小柄で可愛らしい三角形の細顎。

 首筋から鎖骨にかけてのラインも美しい。


 お椀型の美乳が揺れていた。


 括れた腰に、お尻があり……え? 骨の尻尾が生えていた。

 臀部も勿論見えていたが、尻尾の方に視線を集中させていく。


 顔といい小柄で可愛らしいが、骨の尻尾とは……。

 なんという種族なのだろうか。


 だが、怯えているのか、撲たれた犬のような表情だ。


「……わたしはピュリン、裏切りにあったの。仲間の冒険者が……」


 ヴァイオリンの弦のように哀しげに震える声で名乗ってきた。

 彼女の名前はピュリンか。


 と、また急に、ぐにょりと顔を崩して変形……うはぁ、今度は男?


 ツーブロック的な短髪でどこかエキゾチック。眉は切り傷を負った痕があった。

 えび茶色の瞳で見つめてくる。

 整った方の顔だが、やすりで研いだような前歯を持つ。

 顎髭を生やし、右頬下に眉と同じような傷がある。


 首から胸にかけても傷痕があるので、なにか過去に大怪我を負った証拠だろう。

 しかし、股間からはイチモツが……一瞬で、脳内モザイクを施す。


「……俺はツアン。元教会騎士で、元闇ギルド夕闇の……ん、ここは、何処だ、黒髪の男と黒い獣? 確か、俺は……巨大な歯牙群に喰われ……」


 イチモツ野郎じゃなくて、ツアンだと? 元教会騎士で狂騎士の【夕闇の目】に所属していたのか。

 また顔と姿が変形していくと、そのまま、最初と同じ、銀色の縺れ巻き髪の浅黒い肌を持つ女になっていた。


 よく見たら浅黒いというか、ミルクココアの肌かもしれない。


 一方、右側の暗闇肉塊はもっと数多くの姿を見せる。

 箍が外れたスロットマシンのように、妖怪が腕を交差して顔を変えるように、アクの強いどぎつい顔、涼し気な顔へ、不可解に不気味に顔の造形を変えていく。

 何倍速もの早送りで映像を再生しているかのように、顔を変えながら言葉を話すので、その顔は判別できない。

 時々、顔じゃない、蓋が空いた巨大麻袋のような形にもなっていた。


 中身は中魔石、大魔石、魔道具などが入っている? 

 あ、十天邪像らしき鍵もあるじゃないか。


 また人型へ変わると、顔を変えていく。


 その奇天烈な動きを、きゅるると古いテープ音が鳴るように止めると、最終的に銀髪の浅黒い肌を持つ女の姿に戻っていた。


 左と右、二人、そっくり同じリリザが生まれ出る。


 分裂したのは正解だったようだ。

 右側の闇色の肉塊から誕生した銀髪女リリザが、


「……え、何? 何でそこにわたし・・・がいるの? もしかして、吸った一部が取られた? どういうこと!」


 と、頭上に疑問符と感嘆符を連続的に作りながら叫ぶ。

 左側の銀髪女も頭部に疑問符を作りつつ、


「吸ったというより、分裂が正しいわ。ね? 使者様♪」


 そう流し目で語る。

 俺を使者様と呼ぶリリザか?


「なんで、同じ意識が二つ、同じ姿になるのよ!」


 右側の銀髪女リリザはヒステリーを起こしたように黒爪を左側の銀髪女リリザへ伸ばす。


「あら」


 左側の銀髪女リリザも黒爪を伸ばし、中空で黒爪同士が激しく衝突。

 黒爪は相殺されていた。しかし、全く同じ黒爪ではない。

 色合い的に左の黒爪の表面に光が混ざっている。

 他にも類似していない点があった。額の位置に、俺の<鎖の因子>のマークの簡易バージョン的な印が刻まれてある? 

 悩ましい腰元にも提灯から薄い光が漏れているような淡い色合いを示す、大きな<鎖の因子>の入れ墨模様が刻まれていた。


「……そ、そんな……その光のマークは」

「その通り、わたしは使者様のモノ♪」


 左側の銀髪女はうっとりとした表情で俺を見つめてくると、その場でピアノでも弾くような腕の操作を行い、骨魚のようなものを召喚した。


 その骨魚の上にお尻を乗せてひょっこりと座る。

 因みに胸は中々のサイズ。

 敢えて見ないようにしていたが、味方となると凝視してしまう……蕾の部分が光を帯びているのは新しい……。


 おっぱい委員会が……我慢した。


「<魔骨魚>まで! 邪神ニクルス様の第三使徒はわたしなのに!」


 リリザの強烈な甲高い否定声だ。

 しかし、聞き捨てならねぇ。邪神ニクルスの使徒だったのかよ。


 そして、一応、違うと分かるが、新しく誕生した光を帯びるリリザへ顔を向け、


「……邪神の使徒だと? お前もか?」


 と、聞く。


「もう違います。身も心も完全に使者様のモノ家来になったの♪」

「そんなの! 認めない――」


 邪神ニクルスの第三使徒リリザは悲鳴に似た声質で、叫ぶ。


 銀髪を太い一本の杭状へ変化させる。

 対面しているもう一人の自分の姿、光を帯びたリリザの胸を貫こうと、その銀杭の髪を伸ばしていた。

 <魔骨魚>という骨魚に乗る光を帯びたリリザはスイスイと骨魚に宙を泳がせつつ銀髪の杭の攻撃を避けた。


 あの魚に乗れば速度は上がるようだ。

 バイク的な感覚? 一度乗ってみたい気もする。


「にゃお?」


 黙って見ていた黒豹ロロも不思議な鳴き声で鳴く。

 『同じのが居るニャ』的な感じか? それとも『骨魚食べたいニャ』か?


 黒豹のロロディーヌと俺が見守る中、二人のリリザ同士の争いが激化。

 その様子を見ながら軽く振り返る。


 <光邪ノ使徒>という恒久スキルも獲得したように、実験は成功したらしい。

 光を帯びたリリザは完全なる部下になったと分かる。


 邪神の使徒であるリリザの魂へ光の楔が撃ち込まれたから?

 と、仮定すると、あの蠢いた肉塊状態、変性途中のメタモルフォーゼの最中だったからこそ<霊呪網鎖>が成功したと仮定できる。


 <霊呪網鎖>は知能の低いモンスター限定、洗脳、支配下が可能なスキル。

 邪神の使徒リリザが変身を完了していた場合は、無理だったかもしれない。

 もとから頭が悪そうなので、効いたかもしれないが……。


 だが、それは、もしの世界だ。


 実際に邪神の使徒リリザの魂を引き裂いたか、分裂を促したのは、確実。

 蠢いていた肉塊、暗闇の閃光を伴っていた方が大きかったから<霊呪網鎖>で変化を促したのは……邪神の使徒の極一部かもしれないが。


 とにかく支配下におくことに成功だ。


 要するに、吸収と似たような感じで邪神ニクルスとやらから、第三使徒の一部を奪い取ったようなもんか。


 そんなことを思考しながらも、二人のリリザの戦いは続いていた。

 黒爪、銀髪、腕を分裂させて、ごちゃごちゃと触手同士を衝突させて叩き合って潰し合っている。


 味方の<光邪ノ使徒>であるリリザの方は、変身した数も少ないし残っている肉塊も小さかったが……邪神ニクルスのリリザと能力的にあまり変わらないようだ。

 もしかしたら、俺の魔力が流れたせいか? 


 だから、光のリリザは魂的な力がなくても、その内実力は増しているのかもしれない。


 そのタイミングで、右辺の壇上に居るヘルメの姿を視界に捉えた。

 常闇の水精霊らしく金髪女性を守るために、水の檻を発生させている。

 命令通り着実な行動を取っている、そんな精霊の彼女だが、不思議そうに、こちらの様子を眺めていた。


 確かに彼女の気持ちは分かる。

 突然、銀髪女が分裂して戦うという、未知との遭遇だからな。


 『そのままで、大丈夫だぞ』と意識を込めて、黝と蒼葉の特殊皮膚を持つ常闇の水精霊ヘルメさんへアイコンタクトをしてから、リリザVSリリザへ視線を向けなおす。


 さて。新しく誕生した<光邪ノ使徒>であるリリザの方へ加勢するか。


 右手に愛用の魔槍杖を再召喚。


 魔槍杖の紅矛と紅斧刃の心地よい重さを掌に感じながら、互角に戦うリリザの片方、<光邪ノ使徒>ではない敵のリリザを睨みつける。


「ロロ、火炎はなし、やるぞ――」

「にゃご」


 相棒へ語り掛けてから、敵側のリリザへ魔脚で間合いを詰めた。

 至近距離から<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を発動。


「ぎゃっ――」


 邪神ニクルスの第三使徒リリザの足甲部分に光槍が突き刺り地面と繋がった。

 本当に動きは鈍い。

 彼女は銀髪の形を変えて、光槍を防ごうとはしていたが、間に合わず。

 突き刺さった光槍の後部はいつものように分裂しイソギンチャクのように蠢き光の網へ進化する。


 リリザの足甲を覆う光の網が展開された。

 片足の動きを封じる形だ。


「ナイスです~」


 <光邪ノ使徒>である新しく仲間になったリリザが、喜びの声をあげながら浅黒い肌ココアミルク肌を煌めかせるように側転移動。


 だが、側転する速度が遅く、鈍い。

 <光邪ノ使徒>リリザの所作は……華麗とは言い難い。


 そんな光邪ノ使徒は回転終わりに鈍い重い制動を見せながらおもむろに両腕を真っすぐ邪神ニクルスのリリザへ向けている。


 その腕先には黒爪が生え揃い、指が綺麗に揃っていた。


 台車に乗せられた連撃ロケットミサイルを発射するかのように、十本の指から生える黒爪を邪神の使徒リリザの方へ向ける。


 そして、一気に黒爪を射出していた。

 身体は鈍いが、光を帯びた十本の黒爪は速い。


 真っすぐと伸びた黒爪が、リリザの胴体にずにゅりと鈍い音を立てながら深々と侵入し、肉を喰らうかのような音を響かせながら、背中へ突き抜けていた。


「――こんな攻撃は痛くないわ、足のが痛い!」


 邪神の使徒リリザは強がっている言葉だが、本当に痛くないらしい。

 彼女にとって、足に刺さっている光槍の方が痛いようだ。

 続いて、黒豹ロロディーヌがリリザに向かう。

 駆ける相棒は片足を振るい、前爪でリリザの膝を切り裂きつつ、リリザの横を駆け抜けた。


「――このにゃんこ!」


 邪神の使徒リリザは黒豹ロロディーヌの姿を追った。


 ――チャンス。

 魔脚で、リリザとの間合いを一瞬で詰める。

 地面を潰すような踏み込みから――。

 丹田に溜めた魔力を右腕に送るように腰と右腕を連動させる。


 リリザは気付いていない。


「再生してやるんだから――」


 そんな声を発したリリザの首を狙う。

 魔槍杖バルドークを握る右腕で風を孕むように右腕を突き出した。

 魔槍杖バルドークの紅矛の<刺突>がリリザの喉元を喰らう――。

 

 螺旋の紅矛が、気を取られたリリザの喉元を穿った。

 第三使徒リリザの頭部が宙を舞う。

 

「――え?」


 驚きの声が遅れて響く。


「距離を取れ」


 俺は厳しい表情で<光邪ノ使徒>リリザへ指示を出す。


「はい、使者様♪」

「ンン、にゃあ~」


 黒豹ロロは既に離れている。

 そして、コンマ何秒も掛けず、左手を頭上へ翳し<鎖>を射出した。

 頭上に舞っている邪神の使徒リリザへ<鎖>は伸びていく。

 <鎖>を微妙に柔らかく操作して、生首の下へ向かわせる。


 クロイツのように頭部を爆発させたりはしない。

 慎重に外科出術を行うように、首下を浅く貫くだけにした。


 続いて右手が握る魔槍杖バルドークを消去。

 そして、<第一関門>こと〈血道第一・開門〉で体の血を操作――右腕の表面からワザと出血を促す。


 <血鎖の饗宴>を発動させた――。

 

 肌から濃密な<血魔力>が膨れ上がる。

 毛細血管のような無数の血の煙的な<血魔力>が一瞬で、俺の右腕を覆った。


 右腕の革の服は一瞬で細切れだ。

 この革鎧服は、メイドたちが特別に用意してくれた『ゴルゴダの革鎧服』という名だ。


 素材の主力は、モンスターのゴルゴダの皮と内臓に鋼は忘れたが、硬さと柔らかさを併せ持つ特殊革鎧服。


 防具としてかなり優秀なセット用品。

 お気に入りだったが、仕方ない。


 それに『ゴルゴダの革鎧服』は予備も豊富だ。


 右腕の血鎖の群はオーラ風に<導魔術>で無数の蛇たちを造り上げたように血鎖が蠢いていた。


 その右手から発している血鎖の群を――。

 頭部がないリリザの体へ向かわせた。


 リリザの体だったモノは、体から肉槍の触手を無数に生み出した。


 それらの肉槍で俺の<血鎖の饗宴>に抵抗か。

 そのすべてが――。


「無駄無駄無駄無駄! 無駄ァ――」


 怒声が血鎖の群の勢いを加速させつつ、<血鎖の饗宴>がリリザの肉槍の触手を捕食するように貫きまくる。


 リリザの体だったモノは一瞬で穴だらけ。


 血鎖の嵐に巻き込まれた。


 そのリリザの肉と骨が潰れつつ破壊。その肉と骨は溶けるように消失していった。

 

 一部の肉だったモノから大魔石と中魔石が溢れ落ちるやアイテムまで落ちてきた。


 植物の種、長細い骨針、黒色と百日紅の鼈甲が合わさったような悪魔の尻尾……。

 黄金の口と鼻の位置が大きく空いているマスク。

 胸元に黒曜石で天使のような象嵌が施されたコルセット鎧。


 黒布の前掛けだけなので、両腰とお尻が見えるような鎧の服だ。


 更に、ブレスレットと一体型の筒型腕防具ヴァンブレイズ

 金色で縁どられてある漆黒のローブ。

 岩の心臓? 双子大虎の置物。

 二重の腰ベルト、そのベルトには骸骨飾り、銀の飾り鋲がついた魔力漂う装丁本が吊り下がっている。


 様々なアイテム類が落ちていく。

 それらを壊さないように注意した。


 そして、十天邪像らしきモノも落ちていくのを視界に捉える。


「ぐうううう、何よぉぉぉ――」


 頭部だけとなった邪神ニクルスの第三使徒リリザが虚しく声を発している。


 頭部だけで抵抗しようと頭部の銀髪たちを首下へ伸ばし、浅く刺さっている<鎖>を取ろうとしていた。


 銀髪たちの動きは蛇のように見える。

 まるでギリシャ神話に登場するメデューサだ。


 しかし、銀髪一本一本の細かな蛇絡み攻撃を受けても<鎖>はびくともしない。

 銀髪に絡まれても頑丈な<鎖>を左手首の<鎖の因子>のマークに収斂させた。


 リリザの生首に刺さった<鎖>が一気に引き戻る。

 <鎖>を消すと同時に、リリザの銀髪を、左手の掌で、掴む。

 そのままリリザの頭を持ち上げた。


 リリザの双眸と視線を合わせる。

 普通なら、瞳孔は恐怖で散大するはずだ。が、リリザは使徒であり化物か。


 動じていない。

 単に、恐怖心が欠如している?


「……よう、体のほうは血鎖で完全破壊したが、リリザは、頭部だけでも生きていられるんだな?」

「ふんっ」


 俺の問いには答えないリリザ。

 リリザは、首に刺さる<鎖>を外そうと銀髪を操作していたが、今度は、俺の左手に標的を変えて銀髪を動かしていた。

 そこで右手から流れている血鎖の一部を、俺の左手を攻撃しようとしていた銀髪へ向かわせて対処する。


 銀髪と血鎖が衝突すると、血鎖は、火山と衝突したように銀髪は蒸発した。

 独特の臭いを発生させた銀髪は儚く消えていくのみ。


「……抵抗は無駄だと思うぞ。で、確認するが、お前は邪神ニクルスの使徒であり、そして、俺の戦闘奴隷たち虎獣人ラゼールを喰おうと、戦った化物だよな?」


 生首の邪神の使徒リリザを睨みつける。


「……」


 睨んだまま。答えないか。


「使者様、その通りです。過去の記憶は僅かにですが……残っていますので」


 代わりに味方の<光邪ノ使徒>であるリリザが質問に答えてくれた。

 記憶が少し残っているのか。


「チッ、分裂したまがい物がっ、余計なことを……」


 邪神の第三使徒リリザは唾を飛ばすように言葉を吐く。


 だったら<光邪ノ使徒>から覚えている範囲を聞けばいいや。

 この弱った邪神の使徒側リリザから、過去話は聞けそうもない。


 それじゃ消えてもらおうか、俺の糧として……。

 そのまま無慈悲に、邪神の使徒リリザの頭部へキスではなく噛み付きを行った。


 血はあまりないが吸い上げる。

 恐怖の悲鳴をあげない。

 

 たとえ恐怖心が欠如していようが、そこは尊敬できる。


 ――去らば、頭だけとなった邪神の使徒。

 ――<吸魂>を意識。


 そのまま魂を吸い取った瞬間、干からびて骸骨になり光を帯びながらも頭部は消失した。


 同時に、スカッとした爽快感を味わいながら体が眩い光で覆われる。

 いつもと違い……血が少し滾る感覚も得た、濃厚な魔力を獲得したと分かる。


 これは邪神の使徒が大量の魂を吸っていたお陰だろうか?

 だが、スキル、称号を獲得していないように邪神シテアトップの一部を吸収した時には及ばないようだ。

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