二百二話 幕間ミア

 シュウヤさんと別れたあと……。

 ある名前に変えて、乗合馬車に乗り蒼穹そうきゅうを仰ぎながらホルカーバムを出発した。


 坦道から街道の曲がり道を通る。

 ラド峠から砂漠地方へ向かう冒険者、旅人、商隊とすれ違った。

 モンスターや盗賊に襲われることもなく、晴雨だけを繰り返して無事に迷宮都市ペルネーテの北側に到着した。

 

 大きな石門を通り都市に入ったところで馬車の音が止まる。


「ついたぞ」


 と、御者の声が響いた。

 乗合馬車は止まる。

 他の客たちと一緒に馬車から降りて都市の様子を見ていった。


 北側は貴族街が近い。

 気品を持った王侯貴族のような衣服を着た人々が多い。

 前と流行が違うのかしら、都会だから流行の移り変わりが激しい。

 洗練された女性らしい衣装ばかりで少し憧れちゃうな。

 あ、化粧の品質も変わったようね……。

 冒険者の方々の装備品も品があるし、魔力の質が高い。

 六大トップクランのメンバーもいるのかしら、一軍、二軍、三軍の中規模や小規模のクランもいるようだからね。

 ホルカーバムとは何もかもが違う。あ、ここが貴族街だから?

 さすがは迷宮都市。

 あ、星の形をした小物と金具は見たことない!

 お洒落……ホルカーバムとは流行も違う。

 

 今も、周りから視線を集めるほどの美貌を持つ、深窓の令嬢らしき人が隣を通った。


 憧れちゃうな。

 でも、わたしは、わたしの道がある。

 

 夢の続きをがんばる。

 この大都市で冒険者になるんだ。


 この気持ちにさせてくれたのは、ある人のお陰。

 けど、正直言えば、仇はまだ生きているので憎しみは溢れてくる……。


 でも、あの人との会話も同時に思い出す。

 

 赤心を吐露してくれた数々の言葉は……。

 憎しみに染まって……狂いそうなわたしの考えを、心を、悪に染まる前に洗い流してくれた。

 わたしを叱咤激励し、心を癒やし前向きに生きることを教えてくれた人。

 

 ……ありがとう。


 もう一度、この言葉をあの人に言いたい。

 でも、わたしは強くない……。

 もっと強くなって冒険者として成功してから恩人に会いたいっ。


 ――だから、これからが大事。人生の再挑戦。


 冒険者として頑張ろう。



 ◇◇◇◇



 暫くして、昔の学友だったデイジーと再会することができた。

 幸いデイジーもパーティを募集中だったので、剣士のデイジーと一緒に〝初心の酒場〟というクラン、パーティが集う酒場で、飾り旗の青と緑の印を立ててから通うこと数日……。


 妙な音色に乗った踊り子たちの様子を見ていると、



「わたしは、ネームス」

「今日もパーティは無理か」

「わ、たしは、ネームス」

「だよなぁ、ここじゃモガ族は少ない……」

「わたしはネームス……」

「いいんだよ。お前が居れば、大概の仕事は楽にこなせるしな」


 隣から見たことのない種族の鋼木巨人と小さい鳥種族の声が聞こえてきた。

 あの巨人が心地悪そうに座る椅子……潰れそうだけど、大丈夫なの?

 座ってても見たら分かる巨人さんは、珍しい種族だと思うけど、彼らも冒険者なのかしら……。


 巨人さん、無念無想の面持ちだけど、双眸にある眼……不思議、水晶の眼なのね。


 その時、


「お嬢さん方、パーティ募集か?」


 わたしたちに野太い声の主から誘いの声が掛かった。


「はい」

「よかったら一緒に組まないか?」


 酒場で出されていた鯣の匂いが口から漂ってきたけど指摘はしない。


「ぜひ、宜しくお願いしますっ」


 デイジーが先に返事をしていた。

 そこから野太い声の主から、俺たちのパーティメンバーだ。

 と、軽快に紹介を受けて話し合う。


 最初に声を掛けてくれた人の名はゴメスさんで団長。

 パーティ名は【戦神の拳】で、強そうなイメージ。

 大柄の男性で前衛戦士。

 特別な杭武器を腕に装着しているから、きっと強いと思う。


 前衛は〝俺に任せろ〟と自慢気に杭武器を伸ばして、語っているし、印象的。


 豪快な性格なのかな?

 仲間に対する態度が柔らかい。

 顔は強いけど、意外に思いやりがあるのかもしれない。


 ドワーフ的な雰囲気を持つといったほうがいいのかな。

 メンバーにはジオという軽戦士の男性と、シェイラという魔法使いの女性もいた。


 隣で、


「誰も俺たちとは組みたがらねぇ。ま、昔から二人組だ。なぁ? ネームスよっ。最強の二人組なんだからなァ」

「わたしは、ネームスッ」


 と、騒いでいる小さい鳥種族と鋼木巨人には悪いけど、【戦神の拳】のパーティメンバーたちと、気付けば、スムーズに話し合いを終えていた。


 わたしたちは正式に友と一緒に【戦神の拳】入りを果たす。

 その日のうちに迷宮へ挑むことに。


 そして、いきなり結果を残した!


 ふふ、この分ならシュウヤさんにいつか……。


 ◇◇◇◇


 最近は【戦神の拳】と共に、迷宮への挑戦を繰り返している毎日。

 当初の一人暮らしは想像以上に大変で生活不如意だったけれど……。

 【戦神の拳】と一緒に迷宮の三階層~五階層でのモンスター狩りは順調に進むことができた。

 魔石と素材の依頼が大量にこなせるように。


 順調にお金も貯まるようになってきたから、嬉しいな。

 今日は迷宮から帰ってきてからのお休みの日。


 だから、お金も貯まったことだし……。

 友人と一緒に魔法書の値段を調べようと学生の時によく通った魔法街へ向かうことにした。

 けど、デイジーから急な用事ができたの、と、言われて……。

 一緒に出掛ける予定だったのに……トホホと、断られてしまう。


 彼氏がいるとは聞いていないのだけど……。

 わたしだけで行くことになった。


 少し愚痴的なことを考えながら魔法街に到着し、どの店に入ろうかと悩んでいると、


 『アイラ、アイラ、会いたい、アイラ』


 突然、魔法街の通りを歩いている最中、そんな声が、頭の中に響く。

 ……『どういうこと?』わたしは混乱。

 何かの精神攻撃を受けたと思ったから――。

 辺りを急いで見回したけど……通りのエルフの魔術師系の方は何もしていない。

 

 近くの鱗皮膚の鱗人カラムニアンの魔剣士らしい方も、わたしの顔を見ただけで素通り。


 行き交う人々の誰にも魔法を放った気配はない……。

 気のせい?

 ……一歩、二歩と足を進めた。

 そして、ある店の前を通ると、また、


 『アイラ、アイラ、会いたい、アイラ』


 さっきよりも強い声が頭に響く。

 うううう……この店から?

 

 わたし、オカシクなっちゃったの?

 心に訴えるような声に導かれて、白骨が集められて建立されたような特殊な屋根を持つ魔道具店に入ってみることに……。


 扉を押して店内に入ると、また、声が聞こえてきた。


 これは……偶然ではない。

 頭がオカシクなった訳でもない。


 何かが語りかけて来ているんだ。


 自分自身へ必死に言い聞かせながら、不思議な声に導かれ摩訶不思議な物が売られている店内を探索していくと、店の隅っこで、頭に響いていた声が止まる。

 その場で売られている棚に陳列された商品を見ていった。


 この売られているアイテムのどれかから声が? 


 あ、怪しいのがある。埃塗れな状態で、折れた半分の杖。

 折れた杖は壺の中に化粧用の魔法の筆と一緒に売られていた。


 魔法筆と一緒に売られている呪われた商品? 

 でもそんな商品を普通に売る訳がないわよね……。


 頭に響く声に影響されたのか分からないけど、魔法筆を左右へ退かして、自然と折れた杖を手に取り、店の主人のもとへ運んでいた。


 店主は変なお爺さんだった。

 嗄れた鳥声のフンピッピーとかいう変な喋り……。


 少し驚いたけど、その可笑しな店主のお爺さんは、折れた魔杖だったからか、


「安くしてやるぞい~」


 と、顎から滝のように伸びている白い御髭を細い手で伸ばしながら語り、凄く安い値段で売ってくれた。


 一応、その際に火属性の魔法書も調べていく。

 火属性の上級魔法書炎熱波エンファルヒートは高かった……。


 稼げるようになったけど、まだまだ、今の稼ぎでは買えない。

 強さと同じ、地道にコツコツ努力して貯金しないとね。


 結局、魔法書は一冊も買わずに、不思議な折れた杖を買ったのみ。


 でも、この折れた杖……。

 わたしの新しい名前に反応するなんて、どう考えてもおかしい。

 調べたほうがいい……最近パーティの活動を終えると、何回か図書館には通っていたので、アイラに関することなら何冊かあったのは覚えている。


 あまり知られていないが、学園の図書館は一般向けに無料で開放されているから便利。


 学校へ向かう通りを歩いていく。

 この通りを通ると学生だった頃を思い出す……そんな並木道を通り、灰色の背の高い壁に囲われた魔法学院ロンベルジュに出た。

 壁には何か魔法が掛かった訳じゃないけど、その分厚い壁はいつ見ても迫力がある。生徒の誰かが刻んだ落書きが虚勢を張っているようにも見えた。


 大きな門を潜り、図書館へお邪魔する。

 寂寞と似た静かな雰囲気は嫌いじゃない。

 わたしの背丈の倍はある背の高い本棚が並ぶところで、服を着た学生たちに混ざって本を探していった。


 ……身の毛もよだつ旧神アウロンゾ、アブラナム系神話、荒神の大乱、呪神デ・ガと簫然たる荒野に住む怪物八足デ・ガとの関連性、冒険者ケイティ・ロンバートの改魔眼、伝説の十四階層踏破者たち【クラブ・アイス】の行方不明事件、異端者ガルモデウス、シャファの思想、職の神レフォトの愛、猖獗しょうけつたる隣人、狭間ヴェイルの魔穴、ロード・オブ・ウィンドを封じた老人パイセル、神界の使徒ル・ジェンガ・ブーの一族、大洋を渡る航海術、砂漠の巨大怪物、措辞の匠、高級戦闘奴隷の運用、闘技奴隷から黄昏騎士へ成ったホヘイトス、砂漠都市ゴザートの地下水研究論文、魔界へ繋がる傷場、ベンラック闘鶏大会名簿、黒犬傭兵団、素寒貧のトッド、魔穴に棲む魔犬ミンゴゥ、闘鶏に強いトンラ鳥の育て方、彼女の寡聞、草莽の中にひなびる無名の士、善人にも悪人にも雨が降る、慈しむディーラ、魔軍夜行と食、ライメスの琺瑯ほうろう、霊薬液の作り方、魔人千年帝国ハザーンの野望、紺碧こんぺきの百魔族……。


 色々興味深いタイトルの本がある。

 褪色たいしょくが著しい本もあるけど、先人から教えを祖述するためにある大切な本たち。いつもこの段階で迷ってしまう。


 でも、今日探しているのは違う本。


 あ、よく知っている本を見つけた。

 鬼神な強さを誇る優しき虎と、狭間ヴェイルに捕らわれた魔人騎士ヴェルゼイとアイラの恋。


 この二冊は本当に大好き。指でタイトルをなぞっていく。

 これは探している本ではないけれど……幼い時から何回も読んだ本。当時の友も思い出す。大切な思い出の本たち。


 本の色合いも好き、いつも視界に入ると動きを止めて見つめてしまう。


 わたしの過去と共に焼けてしまった本たち……でも、同時に、わたしに新しい息吹を与えてくれた大切な本たちでもある。


 と、勝手に偉そうなことを考えているけど、焼けてしまった記憶に蓋をするように、勝手に魔女アイラの名前を名乗っているだけ……。


 アイラは不思議と好きな名前でもあった。

 伝説の魔女の名前でもあるけど、気に入っている。


 そんなことを考えながら目的の本を探していく……アイラの真実、魔女アイラ、ヴェルゼイを救いに魔界へ入ったアイラ、等々……。


 あった。魔杖ビラールと使い魔グウの物語。

 分厚い本だけど、手を伸ばして取る。


 重い。でも、今日の目的はこの重い本。

 脇に重い本を抱えて、机と椅子がある場所へ向かう。

 泰然たいぜんと、空いた席に座る。

 分厚い装丁された本を机の上に置いて、ドキドキしながら本を開いた。


 臍下丹田せいかたんでんに力を入れるような気持ちで、アイラの使った魔杖ビラールと使い魔グウの物語を読んでいく……。


 使い魔グウは、魔界に住む巨人。

 巨人が初めてアイラに使われた時、召喚した彼女の指示には従わず天邪鬼な巨人だったなんて知らなかった。他の本には書いてなかったわ……。


 アイラはそんな使い魔を可愛く思い永らく使い続けながら歩き続け、人族、魔族、種族、関係なく、友を作りながら各地へ旅を続けていた。


 この辺りの物語はよく知っている。

 ヴェルゼイとの出会いはそんな旅を続けた彼女が魔人帝国の兵士たちに追われたところからなのよね。追われていた彼女を救ったのが、ヴェルゼイ。


 そこから自然と彼と恋仲になる……。

 だけど、幸せはずっとは続かない。


 魔の血を受け継ぐヴェルゼイが魔界の神々に気に入られてしまい……使徒から勧誘されて魔界に引き寄せられてしまう。


 そのヴェルゼイは、神界の戦士と争うことに。

 神界の戦士を無事に撃退。

 

 だけど、そのヴェルゼイに魔人帝国の魔術師クンダが奇襲攻撃をしかけた。

 弱っていたヴェルゼイは、クンダから未知の魔法を浴びてしまった影響で、次元の狭間ヴェイルに捕らわれてしまった。


 ヴェイルとは、魔界セブドラとの境界。

 神界セウロスの境界とも噂がある、次元の狭間ヴェイル


 そんなヴェルゼイを救うためにアイラは魔法の杖を使用。


 アイラは、その魔法の杖から召喚した使い魔グウの力で魔界セブドラの傷場からその狭間ヴェイル側へと侵入ができた。


 しかし、魔法の杖の力を使い果たした。

 使い魔の源だった、その魔杖ビラールが折れてしまう。

 

 その瞬間、使い魔グウは消えてしまった。

 でも、お陰でアイラは狭間ヴェイルでヴェルゼイと会えた。

 ヴェルゼイの救出に成功はした。

 けど、アイラは何かの衝撃で、魔界セブドラ側へと、折れた半分の杖と同時に弾き出されてしまった。


 そして、狭間ヴェイルに残ったままかと思われた、その折れた半分の魔杖ビラールは地上に放り出された。


 そして、わたしがこの間……。

 偶然、手に入れたこの折れた魔杖……。

 先に小さい丸い頭部のような形があるし、精緻な描写があるわけではないけど記述にそっくり。


 今も杖に魔力を込めると、アイラ、アイラと語りかけてくる。


『アイラ、アイラ、おいらのことを調べているのかい?』


 と、頭へ直接、語り掛けてくる……。

 図書館の中だけど、この不思議な声は誰にも聞こえていない。

 わたしだけに聞こえる特別な声なのかもしれない。


 この折れた杖のことは……今所属している【戦神の拳】のパーティメンバーたちにも、気がいいゴメス団長、友人にも話していない……突然、頭の中に声が聞こえて、お伽噺とぎばなしの使い魔が話しかけてくるなんて、気が触れたと思われるのが必定。誰にも言えない。


 新しいマジックアイテムで使い魔とかなら可能性はあるけど。

 折れた杖だし……。


 そこに、 


「エルッ、ミレイたちは勝ち抜けた。レイたちは負けた。わたしたちの模擬戦は五日後。どうするの、作戦とか」

「ミア、落ち着いて、大丈夫。他山の石作戦は練ってある。見る?」

「うん」


 あの子の名前、ミアなんだ……昔のわたしと同じ名前。

 蓋をしていたつもりだったけど……あっさり破られた。

 記憶の底の深い溝に埋もれていた……名前が、鮮明に脳裏に浮かぶ。


 興味が出たので、二人の生徒の顔をじっくりと見つめていく。


 二人とも顔が小さい。

 高級磁器のような皮膚を持つ美人さん。

 どうやら、チーム戦と個人戦の武闘会に出るようね。

 卒業はしなかったけど、わたしも経験がある。いつもの行事。


「あら、あなたたちもここに来ていたのね」


 とび色の瞳を持つ女性もきた。

 頭にお洒落なバンダナが巻かれている。

 細身で綺麗な人……。


「あ、ミスティ先生~」

「先生、こないだ引っ越しとか話していたけど、もう作業は終わったの?」

「もうとっくに終わってるわよ」


 先生なんだ。ミスティが名前なのね。


「それより貴女たちだけなの? 他のパーティメンバーは?」

「まずは、パーティの頭脳であるエルが作戦を練ってから、皆に話そうって、ね?」

「うん、勝つために」


 ミアとエルは互いにうなづいている。

 パーティの中心メンバーなのかも。


「そ、作戦は重要よね。エルなら正鵠せいこくを射るように、いい考えも浮かぶでしょう」

「うん、先生と組んでいた時もエルは秀才ぶりを発揮していたので、期待できますよ~」

「あの時ねぇ……ミアも優秀な魔法の腕を持つけど、エルはそれ以上だった」

「先生、地味に気にしていることをハッキリいうんだから……」


 ミア、清新な雰囲気だし、昔のわたしと同じ名前だから少し親近感を覚えちゃう。

 魔法が得意なのね。


「あら、ミアも優秀よ? 迷宮で結果を残す学生は少ないんだから。それに切磋琢磨せっさたくまして頑張っているのは、わたしがよーく知っているからね」

「やったァ、嬉しいー。あ、そうだ。先生ぃ~パーティを組んでいたよしみで採点を高くしてくれるぅ?」

「……そんなことをする訳ないでしょ。作戦が上手くいくよう願っているだけ。わたしは魔導人形ウォーガノフの資料があるとこに行くからね……」


 あの先生、名残惜しい表情を浮かべているけど、掣肘せいちゅうを加えるような先生じゃないのね。

 若いし新人の講師の方かしら。魔導人形ウォーガノフの研究者だとすると、頭も良さそう。


「……マスター、シュウヤのために」


 え? その去り際の小さい声の一言に、思わず座っていた椅子を後ろに倒し立ち上がっていた。

 ミアさんとエルさんを含めた読書をしていた方々から視線が集まり、目立ってしまう。 

 ミスティさんはそんな音は気にせず、本棚が並ぶ奥の方へ歩いていく。


 もしかして……あの綺麗な女性、シュウヤさんと知り合い? 

 恩人であるシュウヤさんが闇ギルド【梟の牙】を潰したのは知っている……。


 冒険者生活をしながら情報を集めているうちに、槍使いと黒猫、の名は聳動しょうどうしながら聞いていた。


 シュウヤさんに会いたい。

 会って、家族、【ガイアの天秤】の仲間たちの仇を取ってくれたお礼を言いたい……。

 ありがとうございます。と、ちゃんと……顔を見て……。

 けど、わたしは、まだ……独り立ちできるほど、強くなっていない。

 たゆまず努力してパーティでそれなりに火球魔法、炎魔法で役に立っていると自負はしているけど……。


 アイラに関する折れた魔杖を持っているだけで、寸毫すんごうも変化していない。


 だから、はっきりと強くなったと胸を張って言えるようになってから会いに行きたい。

 〝小さなジャスティス〟に懸けて捜すと偉そうに宣言したけど、まだ、シュウヤさんのジャスティスには追い付けないよ……。


 僅かな寂寥せきりょう感を胸の中に抱きながら図書館をあとにする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る