百九十七話 ハフマリダ教団
あいつらは何だ? 頭が蛸で人型の怪物?
蛸怪物とドワーフとは違う小さい種族たちが戦っている。
『あの怪物は奇妙です。二つの腕と足は人族と同じですが、口と手先から触手を伸ばし、その触手を使い、小さい種族たちの頭を侵食しているように見えます。あ、また、侵食して、手駒化しているようです』
確かに、奇妙だ。
あの蛸怪物は、洗脳タイプか。
もしや、邪神ヒュリオクスと繋がった系統の奴らか?
怪物は二体だけだが、小さい種族たちは苦戦している。
『あの怪物、良い人物には見えないよね?』
『判断できませんが、邪神ヒュリオクスに連なる者かもしれません。それか魔界に連なる者の可能性も……』
ようするに、分からないか。
女性なら助けたい。美人なら尚良し。
この際だから、小人たちの顔をよく見るか……
アイテムボックスからビームライフルを取り出しスコープを覗いて構える。
望遠鏡を利用するようにズームアップされたフレーム表示の視界で、戦う小人種族たちの様子を見ていった。
全員が、頭には黒フードをかぶる。
口を黒布で隠す。
上半身は黒色の革のブリガンディンかな?
判断が難しい。
下半身には黒色の革のキュイス。
半長靴。
顔はどうやら人族とドワーフに近い構造のようだが……。
口を隠す黒色の布から顎髭が飛び出ている小人さんもいる。
女性はいないのか……。
お、いるじゃないか。
金色の眉毛に青い瞳。
薄青のアイラインがいい。
口を隠す黒色の布で、下半分の顔が隠れているから判断は難しいが……。
顎は細いから女性だろう。
鎧は銀色の薄いハーフプレート。
両肩と二の腕にかけて、黒色と銀色が混ざる革の腕防具を装着している。
腰には黒ベルトに付けられた小袋が備わり、ソケットに納められた多数の投げナイフを覗かせていた。
確実に、身軽な戦士系だろう。
彼女は回転宙がえりを行いながら、短剣の<投擲>を行い、蛸人型の怪物へ的中させている。
見事な投擲術だ。
短剣が刺さった蛸人間は、怒りの双眸を光らせて、触手の腕に握られた剣を伸ばし剣突を小さい彼女へ伸ばしているが、細い手に握られた
黄色い残光の跡が宙に残る。
蛸人型と対決している小人集団は、黒をベースとした集団だから、どこかの国の兵士か、集団なのかもしれない。
しかし、また一人倒れ、二人倒れ、三人目が怪物の口から伸ばされた触手により頭が覆われ侵食されると、眼が虚ろになり、洗脳されたのか、怪物たち側に回り、仲間だった小人集団と対決している。
綺麗な子がいるから、助ける理由はできた。
さて、ここからスナイプして終わらせてもな。
魔槍杖で一撃を加えたい。
スコープを利用したビームライフルをアイテムボックスに仕舞う。
『ヘルメ、姿を現せ、抱っこしてやる』
『はいっ』
嬉しそうに声を高めるヘルメ。
左目から小さく放出すると、俺に抱きつきながら現れた。
そのまま、彼女の腰へ手を回し、抱きしめる。
巨乳の感触が直接腕に当たり、気持ちいい。
「閣下、ここは少し熱いですね、わたしには嫌なところです」
元気なく話すヘルメだが、その顔を間近で拝見。
艶のあるキューティクルが保たれた長い睫毛がくるりと上に巻き、セクシーな印象を深くさせる。
その下にある瞳の蒼、黝、黒の色彩コントラストが実に美しい……。
「……なら、俺の中に入る?」
「いえ、せっかくですから閣下と共に戦います」
「よし、なら、あの小人たちを助ける。一人、綺麗な子を見つけたからな」
「ふふっ、閣下らしい」
「だろう? それじゃ行くぞ、蛸の人型が相手だ、洗脳されている小人は無視」
「はい」
ヘルメを腰に抱え夏服バージョンの血鎖甲冑はそのままの状態で、<鎖>と血鎖を使いながら戦いの現場へ飛ぶように向かう。
戦場となっている場所の上空に到着した。
「左の蛸は俺がいく」
「では、右奥はわたしが」
空中で頷き合うと、ヘルメを離す。
即座に中級:水属性の《
続いて両手首から二つの<鎖>を同時に発動。
ついさっきのように、自ら血槍になることはしない。
二つの<鎖>は
蛸人型は魔法に反応したのか、空間を歪曲させる結界らしき物を頭上に展開する。
へぇ、凄く迅い反応。
だが、二つの<鎖>は歪曲させた結界を耳障りな音もなく難なく突き破り、蛸人型の頭から胴体足先までを、綺麗に貫いた。
鎖の先端が地面深くまで嵌り込む。
遅れて人の腕程のサイズの《
<光条の鎖槍>は使わず、<導想魔手>を発動。
歪な魔力の手の足場を空中に作り、その魔力の手を強く蹴る――蛸人型モンスター目掛けて宙を駆け、空中から急降下しながら魔槍杖を振り下げる。
重力を生かす紅斧刃が、凍った肉塊だった頭部を溶かすように破壊しながら胴体を通り抜けていく。
完全に蛸頭だったモノを両断し、倒し、着地。
直ぐに視線をヘルメの方へ向ける。
丁度、蛸人型の全身が魔法により、氷漬けにされているところだった。
ヘルメは右手に持った氷剣を右から左へ瞬時に動かし、凍って動けない蛸頭の頸を裂くように一閃した。
切られた蛸頭の首が、頭上高く飛ぶ。
「――おぉぉ、キュイズナーが倒されたぞおぉぉ」
「おぉぉぉぉ」
小人たちが喜びの雄たけびをあげて、叫ぶ。
あの蛸人型はキュイズナーとかいう名なのか。
そして、操られていた小人たちも、地面に倒れていく。
あれは助かるのだろうか。
武器を仕舞い、様子を見ていると、
そして、俺の顔を見た小人たちは、口を震わせて硬直していた。
「……マグルなのか?」
「我々はマグルに助けられただと?」
「――マグルと変な女だっ」
「……どうしてここにマグルがっ」
「隊長、こいつは顔が平たい、敵ですか?」
「馬鹿っ、キュイズナーを倒した者が敵な訳ないだろうがっ、わたしたちはマグルに助けられたのだ……」
お、隊長とは、さっき俺が見つけた、女の子じゃないか。
「な、なんと……」
「ぐぬぬ」
「凄腕マグルか」
「よもや、地底深くでマグルに会うとは……ハフマリダ様と天蓋様も不思議なことをする」
「初めて見たよ、マグル……」
「……俺もだ。ダークエルフの姿なら見たことあるが」
戦っていた小人たちは集まってくる。
ここは挨拶した方が良さそうだ。
「こんにちは、俺の名前はシュウヤといいます」
「なんとっ、マグルがノーム語を話したぞ?」
「おぉ、俺たちと同じ発音だ」
騒がしくなってきた。
彼らはノームか。
「――お前たち静かにしろっ」
女の小人隊長さんが指示を飛ばすと、シーンと静かになる。
「シュウヤさん、わたしの名はアム。わたしたちハフマリダ教団を、魔神帝国のキュイズナーからお救い頂きまして、ありがとうございます」
魔神帝国……あ、ヴィーネがなんか言ってたな、地下の国の一つか。
「……いえいえ、さっきのモンスターはキュイズナーというのですね」
そう聞くと、アムこと、小人隊長さんは驚きを顔に浮かべる。
だが、表情は読み取りにくい。
彼女を含めた小人たちの口元は、黒布で隠されているからだ。
黒布は薄い白の螺旋模様で縁取られていた。
魔力も感じるので特殊な防護品かもしれない。
「……そうです。キュイズナーを知らないのですか?」
「知らないです。ここに来たのは偶然、通り掛かっただけですから」
「……ここで、旅を……」
ノームの隊長さんは、またしても驚き、目を大きく広げる。
倒れていた仲間を介抱していたノームたちも含めて、全員が、俺の言葉を聞いて、驚き、ヒソヒソ会話を始めていた。
「えぇ、アムさん、何かオカシイですか?」
「ホブエリートゴブリン、ハイオーク、戦獄ウグラ、地竜、火竜、亀鮫、袋鬼、白岩鬼、グランバ、業火竜、闇竜、
ここは熱波の大空洞という地名なのか。
道理で少し蒸し暑い。
「では、貴女たちはこの熱波の大空洞で、何を?」
「我々はハフマリダ教団。わたしは本部ハフマリダ教団を率いる団長アム・アリザと言います」
アム・アリザさんか。
「【独立地下都市ファーザン・ドウム】のハフマリダ教団精霊右派のカネリー氏へ親書を渡し終え、ここから東方にある【独立地下火山都市デビルズマウンテン】の上界都市にあるハフマリダ教団の本部へ帰還する途中でした」
まったく未知の地下都市名だ。
ハフマリダ教団とは何だろう。
ヴィーネなら知っているかもしれない。
あ、だが、彼女はダークエルフか。
他の共同体と彼らは戦争をしている可能性もあるから危険かもしれない。
仲間を呼ぶのは、まだ、様子を見てからにしよう。
「……そのハフマリダとは何なのですか?」
「なんと、マグル故か……」
「ハフマリダ様をしらねぇのか」
「マグルとは、一見強くとも、無知が多いのかもしれぬな」
そんな事言っても知る訳がない。
「――失礼なっ、閣下に対する口がなっていませんよっ!」
やべぇ、ヘルメが切れた。
「な、なんだー、聞き取り難い声の主が、怒っているらしいぞ」
「ひぃあっ、全身から水を噴き出しているっ」
「不思議なマグルだ。言葉が分かりにくいし、形も微妙に大柄な男と違う」
周りの小人たちはヘルメの怒った態度にたじろぎながらも、口々に文句を話している。
「ヘルメ、彼らはマグルを知らないし、俺たちも、
「はい、失礼しました……」
忠告を受け入れたヘルメは全身の葉っぱ皮膚を萎ませるようして、俺の背後に移動して大人しくなる。
そこで、女隊長アムへ顔を向けた。
「……マグル故と言いますが、その通りです。俺たちは、地上、貴女たちがいう蓋上の世界に住んでいるマグルです。旅をしていると言っても、知らないことが多いのですから」
「……はい、そうなのでしょう。部下が失礼なことを言いました。ハフマリダとは我らノームの偉大なるご先祖様の御一人とされる存在であり、我が教団の女神たる存在なのです」
なるほど。
ノーム社会において、太陽とは何だ? と聞いていたようなもんだな。
そりゃ、無知蒙昧だ。
「そうでしたか、こちらこそ失礼なことを訊いていました。すみません」
「いえ、気になさらずに。それで、シュウヤさんたちは何処へ旅をしていたのですか?」
適当に誤魔化すか。
「……当てもなく放浪といった感じでしょうか。日々研鑽を行いながら、未知の穴という穴が繋がる地下世界を旅し、未知なるアイテムの探求を目指す。そして、世界の美人を調べ、愛とは何ぞや? という偉大なる言葉をモットーにしている世界屈指の【特殊探検団・陸奥五朗丸】とは、聞いたことがないですか?」
「……世界屈指の特殊探検団ムツゴロウ……」
アムさんは俺のむちゃくちゃで適当な言葉を聞いて、呟いては、困惑顔を浮かべて、訝しむ目で見つめてくる。
うん。俺も完全に怪しいと思う。
適当も適当、むつごろうまる。
こうなったら、地下で見知らぬ動物を抱きしめる気の良いおじいさんを目指すか……或いは、無手の拳法家を……。
暫く、沈黙し、逡巡しているアムさん。
「……なるほど。では、シュウヤさん、【独立地下火山都市デビルズマウンテン】まで護衛を頼めないでしょうか」
「隊長っ、このムツゴロウ探検団を率いる怪しいマグルを、護衛とはっ! 正気とは思えませんっ」
若いノームが吠える。
彼は両手に斧の柄を握っていた。
「ゼムトは煩いっ。もうこれ以上、誰も死なせたくないのだ。たとえ、魔神だろうと、グランバだろうと、マグルだろうと、味方になるのならば協力を頼むべきなのだっ」
「……隊長、そこまで……すみません、余計なことでした」
「分かったぜ」
「死んでしまった奴らの分もちゃんと仕事をしないとな」
ノームの隊員たちは履いていた半長靴の足で一斉に床を踏み鳴らし、剣腹で小さい盾を叩いている。
アム隊長は、ノームの隊員たちを説得したようだが……。
「護衛ですか……」
少し、考える素振りを見せる。
「勿論、都市についたら、報酬として、鳳凰角の粉末、ベルバキュのコアをお譲りいたしましょう」
「え、アム隊長、貴重なベルバキュのコアを出す気らしい」
「
「あぁ、隊長を口説いていた、オリークの旦那だ」
「俺はしらねぇぞ……」
結構な代物をくれるらしい。
この際だ、護衛を手伝うか。
「ヘルメ、手伝おうと思うけど、どう思う?」
「はい、閣下のその目は“楽しんで”おられる目。わたしも賛成です」
さすがは長い付き合いなだけはある。
「と、いうことで、アムさん、護衛を引き受けよう」
「おお、よかった。ありがとう。シュウヤさん、頼みましたよ」
「俺のことは“さん”ぬきで良いよ」
「わかりました、シュウヤ。わたしも、ただのアムで」
そこで、アムは微笑む。
顎のラインと頬の筋肉が微妙に動いたのは、黒布越しでも分かった。
「了解した。アム」
「はい、行きましょう、こちらです」
アムが歩き始めると、小人集団のハフマリダ教団の一団は進み出す。
洗脳されていた小人は回復していた。
彼らは走るように歩くが、歩幅が小さいので、俺の歩くペースと変わらない。
そんな道中、モンスターはかなりの頻度で現れてきた。
また、左から、無数の魔素反応だ。
「左か」
「はい」
ヘルメが反応して振り向き頷く。
「シュウヤ、左から戦獄ウグラが数十体くるようです。警戒を」
アムの警戒声が響く。
「分かっている。アム、護衛らしく俺たちが先陣を切るからな」
「……わかりました。ゼムト、キルバイス、ダキュ、聞きましたね、我々はフォローに回りますよ」
「了解」
「分かっていますっ」
「おうよ、隊長の側にいればいいんだな!」
指示を聞いたノームの隊員たちは動かない。
俺とヘルメは、魔素反応を示した左へ向かった。
戦獄ウグラが岩陰から現れる。
黄色とゴキブリのような黒い甲羅皮膚、恐竜のような相貌を持つ。
二つの手、二足歩行。
手と足は普通だが、頭の一部と胴体が普通ではなかった。
「ノーム、クウ! ノーム、女、クウ! ゲッフュゲッフュ!」
「ノーム、クウ! ノーム、女、ウマウマァー ゲッフュゲッフュ!」
頭の後部から腹下までが、左右に割れるように裂けている。
真ん中の裂けている場所が、大きな縦の口らしい。
裂けている唇の縁からは、肋骨のような黄色い歯牙が無数に生え、その歯の隙間から独特の声と、ハミング音を響かせていた。
「ノーム女、ウマウマァー ゲッフュゲッフュ!」
奇妙なモンスターだ。
一応、魔槍杖を右手に出現させて、突っ込んでいく。
左手からヘルメが続いた。
「ノーム、チガウ?!」
「チガウ、女!クウ! 男、ニク、マズイ」
「ゲッフュゲッフュ! 男ォォ、マズイ、チンミスキッ」
「女、ガ、イィッ、ゲッフュゲッフュ! 腹ヘッタ! クウッ」
「オレサマ、オマエ、マルカジリィィ、ゲッフュゲッフュ!」
キモイ声をあげている戦獄ウグラたちは、キモイ言葉を発している。
「サシサシッ、ツンツン、ゴー、ゲッフュゲッフュ――」
「サシサシッ、ツンゴー、ツンゴ――」
更に、走る俺に向かって、二体の戦獄ウグラが奇妙な音を発しながら胸から生える歯牙を触手のように伸ばしてきた。
こいつら遠距離型だったのか。両手から<鎖>を射出して対応。
銃弾のように伸びる鎖の
「サシッ、ウゲェェェェ!」
「ゲェェェェ、イタイィィィ」
そのまま悲鳴をあげている二体の戦獄ウグラの全身を突き刺し、縫いながら鎖を巻きつけてやった。
最終的に、二つを合体させて丸く圧縮された肉壁槌が出来上がる。
巨大なフットマンズ・フレイル。
巨大なモーニングスターと言える。
そのまま高く跳躍し、その肉壁ハンマーを縦横無尽に振り回す。
他の戦獄ウグラたちへ肉壁ハンマーを衝突させ、頭をぺチャンコに潰し、下から弧を描く軌道で股間と思われる部位を狙い、ちゃんと潰す。
「――アヒャッフュ――」
変な断末魔の悲鳴をあげているが、気にせず、吹き飛ばしていく。
魔槍杖を消し右手から射出していた<鎖>を消し、もう一度<鎖>を射出した。
こっちの<鎖>はヘルメのフォローへ回す。
右手から伸びた鎖は宙に弧を描くようにぐるりと曲がりながら、三体の戦獄ウグラの胸元を貫き倒す。
「――閣下、ありがとうございます」
「構わん、数が多いからな――」
「はいっ」
ヘルメは声高に返事をすると、水飛沫を足下から発生させながら、跳躍を行う。
左右へ広げた腕先に魔力を溜め、円形の氷繭を作成していた。
そして、その両手の氷繭から戦獄ウグラたちが屯している広範囲へ向けて、氷礫の雨を降らしていく。
「クェェェ――」
「女ァァ、クエェナイ……」
戦獄ウグラたちは全身に氷礫を喰らいあちこちが凍ったようで動きが鈍くなる。
裂けた胸からの歯牙の触手も伸びてこなくなり、後は、俺の巨大なモーニングスターで仕留めるだけとなった。
次々と潰していたが、上から潰すのに飽きたので、モーニングスターは一旦消す。
そして、二つの鎖を左右斜めへ伸ばし、
「お前らに頭部は要らないだろう? 一気に終わらせる――」
伸びきった左右の鎖を、疾風迅雷の速度で中央へ交差させる。
一瞬で、凄まじい速度で鎖に挟まれた全ての戦獄ウグラたちは、断末魔の悲鳴もあげられず、胸の半分が真一文字に引き裂かれていた。
「……初めて見ました、鎖にこんな使い方があるのですね」
常闇の水精霊ヘルメが、モデル歩きをしながら話しかけてきた。
「あぁ、ふとした思いつきだ。ハンマーも、モグラ叩きゲームをやっている気分で楽しいんだけどな」
「モグラたたきゲーム?」
「いや、まぁ、何事も楽しむことが大切だなということだよ……」
師匠の受け売りだが。
「――シュウヤっ、凄まじい戦闘でした」
「――マグル、つえぇぇ、キュイズナーを楽に斃せるはずだ」
「何なんだ、二人だけで、全ての戦獄ウグラを倒してしまったぞ……」
「ムツゴロウ探検団っ、恐るべしっ」
「隊長っ、シュウヤさんを是非、我が隊の特攻隊長にっ」
「アム隊長っ、俺もパパムの意見に賛成だっ、マグルのシュウヤさんを、いや、シュウヤ様を特攻隊長にしようっ、そうすれば、ダークエルフ、はぐれドワーフの軍閥、魔神帝国にも対抗できるぞ」
ハフマリダ教団の兵士たちは、口々にそんなことを語り、興奮していた。
一人、様づけで呼んでいたが気にはしない。
「ゼムトは本当に調子が良い、さっきとは正反対の態度ですよ? でも、シュウヤの英雄のような戦いを見れば、そうなるのは仕方がありません。正直、わたしも感動すら覚えました、きっとこれはハフマリダ様の御導きでしょう」
アムは懐から木彫りの人形を取り出し、お祈りを始めていた。
その行動に、皆が一斉に膝を地に突けてアムと同じお祈りを始めている。
信心深い。ハフマリダ教団という名なだけはあるようだ。
その後はあまり出しゃばることはせず。
適度に、ハフマリダ教団に良い顔をさせながら、アムたちと協力して熱波の大空洞の旅を続けた。
◇◇◇◇
鍾乳洞的な複数の岩場が散乱した場所へ出た時。
掌握察で複数の魔素を探知した。
「また、モンスターだ。警戒。左前方と、右後ろ奥の岩場の陰」
皆へ索敵通りの情報を知らせてから、魔槍杖を出現させた。
「分かりました。シュウヤの声は聞こえましたねっ」
アムたちも戦闘態勢を取ると、同時に、下半身から多数の茨を生やした眼球モンスターが襲い掛かってきた。
正面の小さい下半身から茨触手を伸ばしてきた眼球モンスター。
俺は先頭に立ち突進。頬に茨触手により切り傷を負うが構わずに、眼球の色彩を潰すイメージで、岩を踏みつぶす踏み込みから魔槍杖を伸ばす――紅矛で眼球モンスターを貫いた。
その貫いた眼球モンスターの小さい下半身に生えている茨の触手を髪の毛を掴むように左手で掴む。
そして、無理やり、横へ引き千切り違う眼球モンスターへ<投擲>してやった。
ぶちょっとした音を立て、眼球モンスター同士で衝突。
ヘルメは液体化。
岩場が多い個所を抜けて眼球モンスターたちの背後へ向かうのが見えた。
よし、俺に敵を集中させるように、ここから脱しよう。
「ぬおおおおお――」
岩場から脱するように眼球モンスターが群れている場所へ吶喊していく。
その行動に脅威と思ったのか眼球モンスターたちが、眼球の瞳孔部分から光線を撃ち放ってきた。
魔脚を使い、左、右、と移動を繰り返す素早いフットワークで放たれた光線を躱しながら左手首をスナップし<鎖>を射出。
光線を撃ってきた眼球モンスターを鎖で貫く。
絶命を確かめる間もなく、岩場の隙間を這うように前進した。
その瞬間<隠身>スキルを発動していたと思われる岩陰に隠れていた眼球モンスターが、闇槍らしき魔法を近距離から放ってきた。
ぬぉ――急ぎ爪先を軸とした回転を行い、黒刃の槍を首筋に血筋を作るぐらいのギリギリで避けながら、魔槍の竜魔石を左から右上斜めに振り抜いて、カウンター気味にその隠れた闇槍を放った眼球モンスターへ衝突させ破壊した。
更に、後方に移動していたヘルメが広範囲に渡り、氷礫の魔法を撃ち放つ。
眼球モンスターたちは、尻があるか判別できないが、背後を突かれて、動きが鈍る。
氷礫を喰らった眼球モンスターが、ヘルメに対抗しようと背後を振り向いた瞬間、アムの斬撃で一刀両断にされ、次々とハフマリダ教団の兵士たちが眼球モンスターを仕留めていく。
乱戦気味になったタイミングを見て、俺は後方支援に回った。
魔槍杖の後端、竜魔石へ魔力を送り
初級:水属性の《
中級:水属性の《
の魔法を、無詠唱で唱える。
確実に各個撃破するように眼球モンスターを遠距離から倒していった。
近くの眼球モンスターには
暫くして、岩場に現れた眼球モンスターの群れを全て、殲滅することができた。
「隊長、もう全ての亜種アービターを倒しました。凄いです」
「被害もなく、茨のアービターをこれほど速く倒せたのは……初めてですね」
隊長のアムは、部下の報告を聞いて、笑顔を浮かべながら持っていた武器を仕舞っていた。
「シュウヤさんの存在が大きい」
「そうだな、凄腕マグルだ」
「隊長が気に入る訳だ、こりゃ、俺もほれちゃうよ」
「トム姉さんが吠えたぞっ」
「チム、オマエが相手してやれよ」
「いやだ、俺の尻は硬いんでね、お断りだ。それに、隊長の笑顔が好きだからな」
隊員たちは喜んでいる。
そんな調子で、眼球モンスターを倒してからも地下の旅は続く。
睡蓮のような植物が浮かぶ窪んだ大きい泉の地域では、ヘルメが喜んで水浴びを行い、踊りながら水飛沫を発生。
グラマーなおっぱいを揺らし、水面上に浮かんでは独特のポーズを取っていた。
更には、一回転、二回転、と美しい水飛沫を発生させながら後転。
そして、華麗に前転を繰り返し、元の位置に戻りながら美しい足を背後へ持ち上げて、その足先を両手で持ちながら今度は横回転を行う。
ビールマンスピンを湖面の上で披露。
えぇ、股間凝視サブリミナル委員会を緊急発動させましたとも……。
精霊ヘルメは実に楽しそうにスケート選手のように踊る。
その様子を楽しみ、目の保養を行っていたが……途中から水棲昆虫の大きい化け物が邪魔するように登場したので、ノームの隊員たちと一致協力し、昆虫を倒すことにした。
水棲昆虫を倒しきり、泉が血の湖に変化したところで、湖畔の近くにて休憩を行う。
すると……隊長のアムが近寄ってきた。
「シュウヤは魔槍使いの極みですね」
目を輝かせて語る。
アムさんは頭のローブを脱いで、口元から黒布を首元へ下げていた。
アッシュブロンドの巻き髪で、三つ編みが耳裏に通されている。
その耳の形もノーム独自の形と思われる可愛い縦長の小耳だ。
鼻筋も小さく桃色の綺麗な唇を持つ。
黒布マスクで見えなかった輪郭は細く三角形だ。
顔は完全なる美人さんだ。
「……ありがとう、戦闘には自信がある」
笑顔で返す。
「ヘルメさんも素晴らしい魔法技術ですね。マグルとは皆、素晴らしい魔導戦士であり、お話に出てくる魔界騎士を超えるような強さを持つのでしょうか?」
アムさんは真剣な表情で話す。魔界騎士のたとえが分からないが。
「他にも強いのは無数にいると思いますが、俺とヘルメは、少し違う存在と言えるかもしれません」
「やはり、一握りの選ばれし者たちは、マグルとて存在するのですね」
そのフレーズは聞いたことがある。
地下世界とて、あまりマグル世界と変わらないようだ。
「微妙に違うと思いますが、神に選ばれし者ですか?」
「えぇ、そうです。わたしとて、偉大なる祖先ハフマリダに選ばれし者、狩者、刀剣術者、潜在者を経た覚醒者の見習いですが、教団の教えを受け継ぐ者です」
刀剣術は納得がいく。
彼女の動きは素早い近接技がメインだった。
<投擲>の技もかなりあったが。
「……そうでしたか」
「はい、戦いを見てましたが、シュウヤは独自の槍術だけでなく秘術の技法もマスターしているのですね。伝説では、ドワーフの偉大なる祖先パドック様も不思議な槍術をマスターしていたらしいですよ」
パドック様か。
この、なんか厳つい名前の響きは……聞いたことがあるぞ。
「……そうなんですか、槍には少しうるさいですから、その話には興味があります」
「ふふ、これから向かう都市には、わたしの友であるドワーフもいますから、ぜひ、話をしてください。彼は槍ではなく斧がメインですが」
「へぇ、斧ですか、楽しみです」
アムとは少し仲良くなれた気がした。
そうして旅をしながら、血文字で<筆頭従者長>たちと個別に連絡を取り、近況を教え合ったりして過ごし数日後……。
ついに、【独立地下火山都市デビルズマウンテン】が存在する場所へ近付いたと思われる兆候が見えてきた。
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