百九十六話 甲冑怪人な槍使い、自ら槍となる

 鏡の件を<筆頭従者長>たちに説明。

 因みに、ヴェロニカはカズンたちと合流するために家から出ている。

 ヘルメは俺の左目に入り、スタンバイ状態。


 一面:迷宮都市ペルネーテにある俺の屋敷の部屋に設置してある鏡。

 二面:何処かの浅い海底にある鏡。

 三面:【ヘスリファート国】の【ベルトザム】村の教会の地下にある鏡。

 四面:遠き北西、荒野が広がる【サーディア荒野】の魔女の住処。

 五面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 六面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 七面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 八面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 九面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 十面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 十一面:ヴィーネの故郷、地下都市ダウメザランの倉庫にある鏡。

 十二面:空島にある鏡。

 十三面:何処かの大貴族か、大商人か、商人の家に設置された鏡。

 十四面:雪が降る地域の何処かの鏡。

 一五面:大きな瀑布的な滝がある崖上か岩山にある鏡。

 十六面:迷宮都市ペルネーテの迷宮五階層にある邪像部屋の中にある鏡。

 十七面:不気味な心臓、内臓が収められた黒い額縁がある。時が止まっているような部屋にある鏡。

 十八面:暗い倉庫、宝物庫のようなところにある鏡。

 十九面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 二十面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 二十一面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 二十二面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 二十三面:土色、真っ黒の視界、埋まった鏡。

 二十四面:鏡が無いのか、あるいは条件があるのか、ゲート魔法が起動せず。


 まずは五面からだな。


 二十四面体トラペゾヘドロンを取り出し、五面をなぞり、真っ黒い土が見えるゲートを起動させた。


 そして、その場で、皮服を脱ぎ素っ裸になる。


「ご主人様……」


 皆、ヴィーネを含めてうっとりとした表情を浮かべた。

 一人、野郎が混ざっているが、指摘はしない。


 <夜目>を起動し、右目のアタッチメントを触り、カレウドスコープを起動。

 アイテムボックスの表面の硝子の半球を触る。

 

 ディメンションスキャンも起動させた。

 青い解像度が増したフレームの視界に……。


 ミニマップ的な物が追加。


 <血道第一・開門>を意識し、全身から血を放出。

 <血道第二・開門>である<血鎖の饗宴>を発動。


 よし、血鎖を操作だ。

 インナー服を意識しつつの……。

 コスチュームのデザインは、狂戦士風をイメージ……。

 全身に血鎖を纏う。


 瞬く間に、この間と同じような血鎖の鎧を完成させた。


「……その血鎖甲冑で、土の中にあるであろう鏡の中へ突入するのね」

「そうだ」


 <筆頭従者長>たちは顔色が優れない。

 それは俺が凶悪そうな鎧を身に纏った訳ではないと、分かる。


「ご主人様、少し心配です……もし、ご主人様が帰ってこれなかったら、わたしたちはどうすれば良いのでしょう……」

「ん、ヴィーネの言葉の通り。わたしは反対」


 ヴィーネとエヴァは反対か。


「マイロード、それは危険なのでは……」

「ちゃんと土に潜る実験をしたらしいけど、不安ね」


 カルードは反対し、ミスティは不安がる。


「わたしも反対。だけど、シュウヤは実行すると説明した時は、絶対にやるから、皆、あきらめた方がいいわよ」


 レベッカも反対だが、しょうがないと言った感じだ。


『閣下、わたしも実は反対です。ですが、永遠に閉じ込められたとしても、わたしが常にいますから寂しい思いはさせません』


 ヘルメは良い精霊ちゃんだ。


「レベッカ、そういうけど、もしシュウヤが戻ってこれなかったら、どうするのよ……土の中に閉じ込められちゃう可能性があるなんて……」


 ユイは泣きそうな面だ。


「ユイ、それに皆、俺は必ず戻ってくる。色々と探検をしちゃうかもしれないから時間は掛かるかもしれないが……そこは趣味の面もあるから理解してくれると嬉しい」

「えぇー」

「だめよっ」

「ん――」


 ユイ、レベッカ、エヴァが即座にかぶりを振って髪を揺らす。


「ご主人様、ご無事にゲートが使える状態となったら、すぐに、こっちの鏡から戻ってきてくださいね。そして、わたしたちと合流してから、再び探検の旅に出ましょう」

「ん、ヴィーネの意見に賛成」

「尤もな意見ね、さすがは元ダークエルフ」


 ミスティも同意している。


「そうね、色々と探検できるなら、ゲートも使えるはずだし。あ、もしかして、シュウヤ? まさか、浮気をしたいがためにそんなことを……」


 レベッカが訝しむような視線を作りながら、歩いてくる。

 その瞳と拳には蒼炎が纏っていた。


「これっぽっちもそんなことは考えてない。よく考えてみろ、俺の左目にはヘルメが宿っているんだぞ」

「あ、そっか……でも精霊様とずっと一緒じゃない! ずるいわよっ」

『レベッカの気持ちも理解できますが、わたしは離れるつもりはありません。閣下と共に生きます』


 小さい姿で視界に現れたヘルメは、レベッカの顔を指さしながら話している。


『分かってるさ』


 俺は笑いながら、


「……俺のことを信じて待つ、と言ってくれる気概のあるいい女。<筆頭従者長>たちには……いないのか……」


 その瞬間、<筆頭従者長>の彼女たちは、顔色を変えた。

 びびっと背中に電気でも喰らったように背筋を伸ばす。

 

 エヴァは紫色の瞳を見開いているから可愛い。


「ご主人様、このヴィーネ! 信じて待つことに、まったくもって、異存はございません!」

「ん、シュウヤを待つ!」

「糞、糞、糞、わ、わたしは最初から、マスターを信じていたしぃー? 研究を続けるわ」

「うぅ、シュウヤ、ずるいわよ、そんなことを言ったら……待つ、わよ」

「素直に刀の技術でも磨きながら、闇ギルドの作戦に参加して、シュウヤの帰りを待つ」


 掌を返し、意見を直ぐに変える可愛い<筆頭従者長>たち。


「にゃおん」

「ロロ、今回はお留守番な?」

「ンン、にゃ、にゃ、にゃ、にゃー」


 黒猫ロロはいつもと違う鳴き方だ。

 触手を伸ばそうとしてくれたが、途中で止めていた。


 俺の今の装備は血鎖で形成した厳つい血鎖甲冑だからな。


「ロロ。血鎖を少し開けるから――いいぞ、ほら」


 血鎖甲冑を操作して、顔から首元を剥がしていく。

 黒猫ロロは、途中で止めていた触手の先端を動かした。


 俺の頬へ触手の先端をくっ付けてくると、気持ちを伝えてくる。


『寂しい』『離れる』『だめ』『狩り』『遊ぶ』『寂しい』『遊んで』


「ロロ、帰ってきたら沢山遊んでやるから今回は我慢だ。バルミントのことは頼んだぞ」

「ん、にゃお」


 黒猫ロロは触手を離す。

 了承したらしい。


「お前たち、闇ギルドの戦いでメルたちが苦戦していたら、助けてやってくれよ。ま、選ばれし眷属であるお前たちなら遊ぶ程度で片付くと思うが」

「うん、任せといて。蒼弾で吹き飛ばしてやるんだから」


 レベッカは蒼炎を腕に纏いながら語る。

 隣のヴィーネは、銀色の虹彩を血色に染めつつ、


「ご主人様、わたしはここでご主人様の帰りを待っています!」


 と、宣言。


「研究と、講師の仕事があるから無理かも。ユイとカルードさんの金属製品を修理するぐらいかしら」

「ん、シュウヤがいうなら、彼女たちを助けてあげる」


 糞は言わないがミスティらしく語り、エヴァも紫の魔力を放出しながら話す。


「ふふっ、元暗殺者に任せなさい」

「マイロード。ユイをフォローしつつ、副長と相談しながら事を進めます」


 ユイとカルードは、闇ギルドの仕事に手慣れている。

 敵対する相手が可哀想かもしれない。


 そんな頼もしい彼女たちへ微笑みながら、


「よし、鏡を確保したら、一旦、血文字で知らせるとして、行ってくる」


 バイザーを閉じるように、血鎖の冑を操作。

 有視界は塞がる。

 俺の視界はディメンションスキャンの簡易マップと三次元的なフレームのみ。

 

 ロボットの中から操縦している気分だ。


「シュウヤ、必ず帰ってくるのよ!」


 レベッカの甲高い声が響く中、鋼鉄の鎧を着たスーパーヒーロー気分の俺は――。

 五番目のゲートへ突っ込んでいく。

 重いという感覚はないが、身動きが取れない。


 が……直ぐに全身の血鎖甲冑から飛び出た無数の細かい血鎖群を操作して――。

 やっと前に進み出した。


 ディメンションスキャンは、俺以外の反応を示さない。

 まずは鏡の周りを掘っていく。


 細かく血鎖を操作。


 鏡を壊さないように注意しながら――。

 目の前にある土を分解するように壊し壊し破壊破壊!


 掘った土を横へ横へ潰すように横の土の層へずらし運んでいく。


 小一時間、土を壊し、砂を壊し、土と砂を運ぶ作業を繰り返した。

 これは時間が掛かる、やり方を変えよう。


 血鎖の一部の群れをショベルカーのような形に変化させた。

 一気に上方へ向かわせる。

 巨大な穴を作りながら、上へ上へと大量の土砂を運び、小さい海底トンネルをつくるように――。

 

 大量の血鎖で周りをコンクリートで固めるような形を維持していく。


 何十トン、何百トン、と圧力が掛かっているはずだが……。

 直接的に重さは感じない。

 血鎖の先が、突き抜けた感覚を得たところで――。


 運んでいた土を一斉に外へ吐き出してやった。


 これで楽に土が運べる。


 自動コンベアのように血鎖により土砂が運ばれていくのを……待つのみ。


 ついでに鏡の周りも、掘り進めて、ちょっとした血鎖で囲んだ空間を作ることに成功。

 

 パレデスの五番目の鏡はこれで、確保だな。


 土の圧力がなくなったその鏡の上部から、二十四面体トラペゾヘドロンが外れて、俺のもとに漂ってきた。


 よし、二十四面体トラペゾヘドロンを掴む。

 右手の掌に血鎖によるエアポケットを作るように二十四面体トラペゾヘドロンを内包させて、仕舞う。

 そして、回転を止めた無数の血鎖を足先から出した。


 掘り出した鏡に血鎖を巻き付けていく。

 紅色へと鏡を染め上げてから……。


 上に運ぶ準備を調えた。


 そうして、真上へ突き抜けた血鎖を利用――。

 血鎖で輪を作る。


 そこへ甲冑の足を引っ掛けてから、一気にターザン気分で上方へ俺を運ぶ。


『閣下、鏡を無事に運べていますね』


 足から繋がる血鎖が絡む鏡は、周囲の土にぶつかりながらも運べている。


『壊れなきゃ、なんとかなりそうだ』

『はい。しかし、土の精霊を超えるように、土を破壊することが可能な、血鎖甲冑とは凄まじいです』


 小さい姿のヘルメは途中から、青ざめた表情を浮かべている。


『この血鎖甲冑から発生している無数の小さいミクロの血鎖に螺旋回転中に触れたら精霊とて大変なことになるのは想像がつく』

『はい……』


 常闇の水精霊とて、水をも壊しかねないと思っているようだ。

 確かに……そんなイメージを浮かべるのも分かる。


『……怖がるな。ヘルメが人型になっている時はあまり使わないと思うし』

『はい、怖いですが、閣下を信じています』


 ヘルメと念話しながら進んでいると、土から飛び出て、空間へ出た。

 バイザー部分の血鎖を操作し、素の視界を確保。


 <夜目>を発動中なので分かるが、真っ暗な空間だ。


 肌がじんわりと蒸されるような熱を感じたが……。

 ここが地下空洞なのは間違いないだろう。

 温泉か、マグマの地熱効果か。 

 マーフィーの法則じゃないが、少し嫌な予感。

 魔素の気配はポツポツと上下左右の遠い至るところから感じる。


 回収した鏡も、ちゃんと血鎖ベルトコンベアに運ばれて穴から出てきた。


 鏡に絡んでいた血鎖を解放。

 その鏡が壊れていないかと、凝視――。


 ひび割れた個所はなし!

 よーし、大丈夫そうだ。

 額縁に擦れた跡が残るのみ。


 実際に使えるか、確認。


 掌の隙間に仕舞っておいた二十四面体トラペゾヘドロンを掌の表面上に出す。

 両手の指を纏う血鎖を消去。


 二十四面体トラペゾヘドロンの五面に刻まれた幾何学模様の溝の印を――。

 スマホでも弄るように親指でなぞり発動させた――。


 折りたたまれた光がゲートを形作る。

 そして、目の前にある発掘したパレデスの鏡が光った。


 ゲート先の光景には俺が映る。


 やった! 起動した。

 新しく出現したゲートへ入る。


 今、発掘したばかりの五番目の鏡から外に出れた。


 いつものように鏡の上部に嵌まっていた二十四面体トラペゾヘドロンが外れた。


 俺の頭の回りを周回する二十四面体トラペゾヘドロン

 

 二十四面体トラペゾヘドロンを褒めるように掴んだ。


『閣下、おめでとうございます。五番目の鏡を回収ですね』

『おう、あっさりと成功だ』


 ヘルメと念話しながら――。

 五番目の鏡と二十四面体トラペゾヘドロンをアイテムボックスの中へ仕舞った。

 一応、目途がついたので、彼女たちにメッセージを送る。


『五番目の鏡は回収した。だが、探索するので帰りは遅くなる』


 一斉に<筆頭従者長>たちへ血文字メッセージを送った。

 カルードには送らなかった。


『もう回収したの? なるべく早く帰ってきてね。そうじゃないと、ロロちゃんを独り占めしちゃうんだから』


 レベッカからはこんな言葉が返ってくる。


『ご主人様、素早いですね。信じて待っているので探索をお楽しみください。ご主人様を一番に愛する<筆頭従者長>より』


 さすがは、ヴィーネ。

 一番の<筆頭従者長>である。


『ん、速い。シュウヤ、探索頑張って、応援する』


 エヴァの天使の微笑が脳裏に浮かぶ。


『もう回収したんだ。なら帰ってきてよ……そして、一緒に敵対する闇ギルドをやっつけよう』


 ユイ……帰ったら抱きしめてやろう。

 闇ギルド潰しも楽しそうだ。


『探索を楽しんでね。あ、この血文字は面白いわ……研究のためにスケッチをするから連絡を密にお願い。後、見知らぬ魔力を帯びた金属、鉱石類があったら持ってきてほしいな』


 ミスティは、研究者らしい言葉を返す。


 そこで、ヘルメへ念話を送る。


『……さて、皆には一応連絡したし、この辺を探索しようか』

『はいっ』


 今、探索スイッチがオン状態なのだ。

 冒険、地底旅行を久々に味わってやろう。


 魔素の反応があった場所へ急ぐ。

 二つの手首から<鎖>と全身から血鎖を放出。

 洞窟の端、天井へ多数の<鎖>たちを突き刺しアンカーを利用するように<鎖>を収斂して楽に高速移動を行った。


 魔素の反応の主が見えた。巨大モンスターだな。

 岩竜といえる、多脚を持つ巨大怪物。


 俺が中空を素早く移動しているのを察知したのか、四つの眼を持つ岩竜は大きい顔を上げ、黒色と赤色の牙が生える口を広げる。


「ギュオオオォォォ――」


 警戒の咆哮をあげた。


『閣下、わたしも外に出てフォローしますか?』

『いや、必要ない』


 二つの<鎖>を岩竜の顔面へ向けて射出し、あっさりと硬そうな額を貫く。


「グギャアアアァァァ」


 真っすぐ竜の頭へ伸びている二つの<鎖>がレーザーサイトのように見えてくる。

 そのレーザーサイトな<鎖>を両手の因子マークへ収斂しながら、血鎖甲冑の兜から足先までの全身の形を巨大な槍の穂先をイメージして変化をさせる。


 そのまま一本の血鎖槍と化したと思われる俺の姿。

 超電磁スピ〇のように、自ら超絶した螺旋回転を起こしながら宙を突き進む。


 普通の<鎖>に誘導される形でコンマ数秒と掛からず、血鎖の槍となった俺は、岩竜の頭へ直撃していた。


 手応えなく突き抜け、大きい胴体の中へ侵入。

 まるでコンニャクの中を掘り進むように岩竜の胴体を一直線に貫くと、血鎖の先端が地面に到達。

 蠢く血鎖の一部を、オーラや煙が立ち昇るかのように、全身から放出しながら、片膝を地へつけて着地していた。


 その瞬間、岩竜だった肉塊が血塗れ状態でこちら側へ倒れてきたので、傾く岩竜の死骸を血鎖で刺し貫き、絡めて、横へ投げ飛ばす。

 投げた死骸から血が雨のように降り注いできた。

 ――丁度良い。

 血をだいぶ消費していたので、口を広げ、竜の血のシャワーを飲み込んで補給していく。

 巨大な死骸がぶつかった岩壁は衝撃で揺れていた。

 あの死骸には、魔石とかないだろうし……でも岩の竜みたいなモンスターだから素材は金になるのかな。

 ま、いいか。


『凄まじい……』


 ヘルメが呟くが、念話は返さず。


 頭上の斜め上にある高い壁へ<鎖>を射出。

 岩肌に<鎖>を突き刺し固定してから、少し<鎖>を引っ張り、強度を確認。


 十分と確認したところで、左手の因子マークへ<鎖>を収斂する。

 高い横壁に到着。

 天井の岩肌へ左肩から伸ばした血鎖を射出し、天蓋の一部を壊すように貫き固定させて、身体を安定させた。


 横壁に足をつけた状態で、高いところから空洞の先を眺めていく。


 ……この空洞は上下左右にかなり広いようだ。

 俺がかつて、地下を放浪したところと繋がっているのかもしれない。


 遠くにマグマのような真っ赤な液体……溶岩流らしきものが流れているのが見える。

 熱の発生源はあれか? 

 それに、俺が今倒したのと同じ種類の岩竜たちの姿もポツポツと見かけることができた。疎らに生息しているようだ。


『ヘルメ、目を貸せ』

『はいっ』


 視界に現れたヘルメを掴む。


『ァッ』


 ヘルメが消えると同時にサーモグラフィーの視界になる。

 遠くの方に、岩竜とは違う細かな赤い反応が無数にあった。

 何かが集まっているのか? 分からないがあそこを目指すか。


 しかし、視線にチラつく……マグマは、これでもかというほどに真っ赤だ。

 岩肌は黒いので、その対比が凄まじい。

 あのマグマに入ったら、俺でも溶けちゃうかもしれない。 

 血鎖で完全に身体を覆えば溶けることもないと思うが、溶けちゃうと、さすがに再生は無理かもしれない。

 だが血が蒸発したとしても、俺は……普通じゃない光魔ルシヴァルの真祖だ。血の水蒸気になろうが、塵になろうが、復活できそうな気もする。


 そういった未知の体験なので……。


 正直言えば、蒸発し復活する気分には少しだけ興味があるが、そんな痛くて怖い実験はしない。


 さて、この岩肌を走りながら進むか。


 血鎖甲冑を少し変化させる。

 夏服バージョンを意識し半袖に変え、足裏に無数の細かい鈎爪スパイクを生やす。


 その血鎖スパイクを生やした足裏で、岩壁に触れてみた。

 ずにゅりとした、良い感じに癖になりそうな嵌まり込む感触を得る。


 そのまま重力を無視したように壁を走っていく。

 足裏に生えた鈎爪状の細かな血鎖たちは、ちゃんと岩肌を貫いて引っ掛かるので、落ちることはなかった。


 少し壁を走った先には、モンスターとは違う蝙蝠のような鳥たちがいたが、突然の怪物甲冑野郎の登場に吃驚したようで、一斉に糞を放ちながら飛び去っていく。


 うん。これはしょうがないと思う。

 壁を走る、異質な血鎖甲冑の怪人の登場だからな……。

 だれであろうとビビる。


 そして、マグマ地帯を通り過ぎ、岩竜たちの空洞エリアを抜けていく。


『閣下、楽しそうです』

『うん、何か足裏に生えるスパイクの感触がさ、健康サンダルじゃないけど、気持ちいいんだ。壁を走るのも新鮮で面白い』

『確かに、楽しそうですっ。でも、わたしには無理ですね……』

『まぁいいじゃないか、俺の左目という特等席で見れているんだから』

『はいっ』


 ヘルメと呑気に念話しながら、岩壁マラソンを楽しむ。 

 そこに、多数ある魔素の反応と、サーモグラフィーの反応の主たちが見えてきた。何かと、戦っている?

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