百九十一話 凄腕の冒険者たち
休憩後に暫く進むと空間が広がった。
窪んだ箇所が多く通路より歩きにくい。
が、静寂で空気が澄んでいる。清々しい風もあった。
自然豊かな雑木林を歩く気分だ。微風を肌に感じながら上を見やると、光る蔓が大量に絡み付いた樹が天井を構成していた。その幹からしなやかな枝が伸びている。
蔓からは四角く膨れた明るい花袋が垂れていた。特殊な光源の花袋か。
風鈴のような印象で風情がある。迷宮はその花袋の光源もあって非常に明るい。
そこを先に進むのはカシム・リーラルト氏。
青腕宝団のリーダーだ。
そのカシムが、
「皆さま方! 準備は宜しいか?」
彼は猛々しい野太い声で叫んだ。
太い筋肉質な手に魔宝地図を握る。
樹の床へ魔宝地図を置いて、宝箱を出現させるようだ。
「隊長、俺たちの準備は完了だ」
青腕宝団の大柄な魔法絵師が叫ぶ。
手に持った額縁から巨大怪物を出現させた。
全身にランタンが生えている?
五メートル級を超えた巨大怪物だ。
四つの腕に四つの脚を持つ。
のそのそと樹木の床を踏みしめて歩く。
巨大怪物の効果か、青腕宝団の強者たちの身体はランタンと同じ白色光を纏う。
点滅していた。
ランタンの巨大怪物からフォースフィールド的な物が自動展開されているらしい。
「【フジクの誓い】のガ・ドロルファス。我らの準備は調った!!」
熊鎧を身に着けた屈強な
その瞬間、巨大獅子のように身体が巨大化。
身に着けている鎧は魔法鎧のようで身体にフィットした状態だ。
そして、獅子の身体の両手に持つ赤黒いブロードソードを掲げ、大きな口から衝撃破を周りへ放ち雄たけびのように吠えていた。
彼らのメンバーもリーダーに続いて、次々と獅子の身体を大きくさせる。
「【砂漠の天狼】ウィンです。いつでもどうぞー」
彼女は魔術師らしい。
近くで巨大獅子の冒険者が吠えた衝撃波を、魔力を纏った細い手を伸ばして、相殺していた。
編んだ繊細そうな白髪が細い彼女を象徴するかのように背中に伸びている。
髪は白いが若くて綺麗な女性だ。
髪質と揃えるためか、白を基調とした魔法印字が刻まれた魔術師ローブを着ている。
更に、その綺麗な魔術師の女性は大きい白狼系の使い魔を召喚。
そして、白の長い毛が生えた手を伸ばし、捩じられた杖を天へ掲げると、金色に輝く円形フィールド魔法を周囲に発生させた。
周りの女性メンバーたちも狼系の使い魔を召喚している。
天狼というクラン名通り、狼がメイン武器のようだ。
手も白毛が目立つし人族じゃないらしい。
「【
白鳥、鷹、鷲、鳥型の使い魔を召喚している女性グループ
「――我々も準備はできている」
黒髪の平たい顔族の男の【
紫の槌の武器はかなりのマジックウェポン、魔力内包量は凄まじい。
そんな彼の周りにいる美人奴隷たちも中々の強者と分かる。
腕に羽根を生やした弓を持った兎獣人。
色白の竜と似た鱗が目立つ
犬耳獣人の二剣持ちは素早そうだ。
人族の剣持ちと盾持ちが二人。
耳にピアスをしたエルフの槍持ちが一人。
目が四つある大型の丸盾を持つ背が高い女。
彼女たちは口々に準備は完了しました。
と、口上を述べていた。
「【草原の鷲団】のドリー。準備はできているわ――」
そう叫んでは、鷲弓を持ち掲げる美人な女性ドリー。
草原の鷲団のメンバーたちも動く。
段びらの巨大剣を掲げた大柄戦士。
盾と剣を構える俺が助けた戦士。
杖を掲げた魔法使いは、火系の支援魔法を円状に展開させる。
盗賊系の男はマジックアイテムと思われる粉薬を周辺にばら撒く。
彼らだけが、この中で至って普通の冒険者に感じた。
「俺たちもだ」
見たことがない光の糸の武器を両手から発生させた二人組の冒険者もいた。
両手の甲と指から伸びている光る糸の先端には、光る刃が備わっている。
光る刃の形はクナイ的だ。
糸の連なりはチェーンのような印象で、地球の武器で例えるなら、ボーラだろう。
光の刃の根元には、槍の口金、逆輪と銅金にあたる三角形の金具があり、そこには魔印が刻まれている。
そんなボーラのような光る糸の武器を扱っている二人は、長髪で目が異常に横に大きい。
衣服はアジア風の軽装だ。
逞しい体の一部に魔力が滲んだ白線の刺青が刻まれている。
それら白線は脈打つように魔力が循環していた。
かなりの強者と推測できる。
彼らの特殊なマジックウェポンの見た目と運用の仕方に……。
師匠が扱う無数の枝か糸のような導魔術を思い出す。
だが、腕輪と一体型の手甲部分から光糸を出しているから、俺が知る導魔術ではない。
そこで、声を上げずに魔力を練っていた人物に視線を向ける。
顔の下半分を黒マスクで隠す冒険者か。
「……」
ブラジャー系の革鎧。
胸の膨らみが素晴らしい、巨乳さんだ。
女冒険者さんか。
その巨乳さんの中央には炎を象った魔力漂うマークがある。
彼女は両手に炎を纏ったチャクラム系武器を持つ。
その武器を構えると――。
炎の精霊だと思われる分身体を幾つも周囲へ発生させている。
ヘルメとは違うが、似たようなものだろうか……。
近付けば、炎に巻き込まれそうだ。
「準備完了――」
そう合図を出したのは、踊っている女冒険者だ。
人型の炎の精霊を扱える女性とは違う。
女性冒険者は、六つの金属球を体の周囲に浮かしている。
エヴァのように念動力系スキルを持つ冒険者か……。
彼女の仲間はオーソドックスな面々だ。
彼女だけが異質なグループ。
俺はそんな周囲の強そうな冒険者の姿に圧倒されながら、
「どうぞー」
と、右手に持った魔槍杖を掲げつつカシム氏へ叫んでいた。
選ばれし眷属の<筆頭従者長>たちも了承の声を上げる。
カシム氏は周囲を見る。
他の冒険者たちの様子を確認する仕草はベテランの雰囲気がある。
その格好いい青腕宝団のリーダーは、最後に頷いた。
そして、魔宝地図を地面に置いた、瞬間――。
後光を発する
「白銀だっ、気を付けろっ!」
カシム氏は注意を皆に促しながら、バックステップを踏み距離を取る。
そして、手元で印らしきものを行うと、特殊な魔力を帯びた全身甲冑が自動展開され二つの魔力を帯びた刀が両手に握られていた。
「四層で白銀とは、幸先いいね、やるよっ」
「おうよっ」
冒険者が警戒の声を上げるたびに、多種多様なモンスターが続々と現れる。
守護者級と思われる四腕四足を持つ巨大赤黒怪物が一体――。
黒剣を口の先端に生やした巨大鰐が十数体――。
地面を這う黒い手が無数――。
巨蛇も数十体――。
巨蛇が現れて下で潰れている
「「うぉぉぉぉぉぉぉ」」
一気に激戦となった。
巨大赤黒怪物の守護者級に対抗するのは――。
青腕宝団の魔法絵師が生み出したランタンを体に纏う化け物だ。
怪獣対怪獣。
ラグビー競技のスクラムのようにがっぷり四つに組み合った怪獣同士。
巨蛇を一匹踏みつぶしながら、右へ転がっていく。
カシム氏は叫びながら――。
両手に握る刀を振り下げ巨蛇に止めを刺す。
近付く
くるくる体を駒のように扱い回転する刀の煌めきおも武器とする途轍もない斬撃を繰り出していた――。
一瞬で、
面白い見学はそこまでだった。
俺たちの方にも巨大鰐と
口から巨大剣を生やしている黒鰐は回転しながら突貫してきた。
「ん、
モンスターブックが頭に入っているエヴァの声が響く。
ユイ、ヴィーネは無難に横へ避けていた。
「こいつは貰うっ――」
俺は皆へ叫びながら、ユイとヴィーネが左右に避けている最中に、一本の槍のように真ん中を直進。
回転している
螺旋回転した紅矛の<闇穿>が鰐の黒剣を紙のように左右へ裂きながら突き抜ける。
続けて、コンマ数秒遅れ出現した壊槍グラドパルスが裂けた黒剣ごと、根元から巻き込んで壊すように
圧倒的な勢いで
――壊槍グラドパルスはなおも直進。
背後にいた
だが、まだまだ数は多い。
左辺にいる
ユイとヴィーネは近くにいた
ユイは
彼女は刀の角度を維持しながら左横へ移動。
そのタイミングで、ヴィーネが仕掛けた。
左に移動したユイへ気を取られている
「グガオォッ」
痛みからか、
そんな気を逸らした
そこに矢が飛んでくる。
「矢が来てるぞ、ヴィーネッ」
「――はいっ」
影の小人のような
黒い小人たちは蠢きながら、
そこに、エヴァを乗せた
エヴァも紫魔力を全身から放出させる。
魔導車椅子の車部分から緑の金属輪を発生させ、
緑の金属輪は、にょきっと鮫のヒレのように鰐皮の表面から顔を覗かしつつ回転しながら直進し、鰐の胴体を無残にも切り裂いていく。
エヴァの一片の慈悲をも感じさせない遠隔攻撃だ。
「エヴァ、すごい金属ね」
「んっ、ミスティのお陰で少し改良できた」
レベッカはエヴァを褒めながら手の上に出現させた複数の蒼炎弾を
鰐の背中から胴体にかけて蒼い炎が縁取る大穴を作り出し
更に、白魚のような手で赤黒い宝石が嵌まっている長杖を翳し、炎の壁をタイミングよく前線に発生させモンスターを孤立させ分散させる。
これで、各個撃破しやすくなった。
ヴィーネはユイから離れ翡翠の
遠距離から孤立している
「シャァァァァ」
「ブシャアァァ」
蛇の声だ。炎の壁を乗り越えてきた巨蛇の姿が見えた。
よし、俺も気張るか。
――<血道第三・開門>。
<
足の皮膚から血が噴き出すのが分かる。
魔竜王の甲付きグリーブが紅く黒っぽい色合いへと変化。
巨蛇たちのもとへ走り出す。
床から血煙が上がるほどに身体速度が増した俺は、走りながら紅斧刃の位置を調整。そのまま少し跳躍しながら魔槍杖を斜め上へ振り抜く。
突き出ていた蛇の喉下を切り裂いて着地し、背後へ振り向く。
視界に中衛の位置から蒼炎弾を放っているレベッカを急襲しようとしていた
すぐ様、その鰐へ向けて<鎖>を射出。
<鎖>はピアノ線が真っすぐ伸びたように
そして、絡ませていた<鎖>を消失させると同時に、魔槍杖を逆さ持ちに切り替え、竜魔石から発生させた
左右へ分かれる輪切りの個所から黒い血が撒き散る。
「シャァァァァ」
「シャァァ」
そこにまた口から長い舌を伸ばしている巨蛇たちの声が轟く。
レベッカが設置した炎の壁を潰すように出現した。
「――新しく出た巨蛇は、俺が倒すから他は任せるぞ」
一応、皆へ宣言。
「了解、蒼炎で小さい弓持ちを狙うわ」
「はいっ、皆のフォローへ回ります」
「閣下、お任せします」
「ん、任せて、ユイのフォローに回る」
「了解、このまま剣鰐の方を斬り捨てちゃうから」
選ばれし眷属たちの声を聞きながら、魔槍杖の金属棒を投げ槍の選手になったかのように持ち、構えた。
――狙いは巨蛇の頭。
全神経を活性化させるイメージで魔闘術を纏う。
紫の金属を握る指先にまで魔力を巡らせグリーブ越しだが、樹木の地面を踏みしめている両足の爪先にまで魔力を浸透させた。
そして、右手を引いてふんっと力強いモーションでスキル<投擲>を行う。
凄まじい速度で魔槍杖バルドークは進む。
回転する紅斧刃が風を裂き、紅色の流線の軌跡を宙に残していた。
紅矛が巨蛇の頭を捉えるとあっさりと豆腐を貫くように貫通して突き抜け、背後にいた巨蛇の胴体をも突き抜け、三体目の巨蛇の後部に深く突き刺さり、上下に揺れながら魔槍杖は止まる。
後部に刺さった巨蛇はまだ生きていた。
胴体を縮ませて魔槍杖を外そうと身体を震わせている。
あの魔槍杖は回収しないとな。魔脚で地面を強く蹴り走り出す。
頭を貫いた巨蛇が床へ倒れる横を通り抜けたところで、魔槍杖が後部に刺さっている巨蛇の頭部目掛けて、両手から<鎖>を射出。
<鎖>を頭部へ突き刺し巨蛇の内部へ侵入した<鎖>で巨蛇を仕留めるように内部をかき混ぜ絡ませてから、その伸びていた<鎖>を両手へ収斂。
動かなくなった巨蛇のもとへドロップキックをお見舞いするように両足で着地した俺は、魔槍杖の刺さっていた後部へ移動し、魔槍杖を引き抜く。
その引き抜いた魔槍杖に付着した血を払うように回転させてから周囲を確認した。
眷属たちはそれぞれ役割を全うしたようだ。
近くに居たモンスターは全て倒されている。
さて、状況は……怪獣対決をしていた右辺を見ると、もう守護者級のデカブツは倒されていた。
その周辺では、
白銀色の宝箱に視線を移すと、その周りではまだ大柄の
大柄の鬼たちと小さい影の手と戦う冒険者の中には、紫の槌を使う冒険者が含まれているが、俺が注目したのは二人組の光糸を巧みに扱いながら戦う凄腕冒険者たちの姿だった。
恐ろしいまでの速度でうねり踊る光糸は、鬼の急所らしき個所を的確に切り裂き、刺し貫く。
地面を這いずりながら近寄る影の手も蛇のような光の糸が薙ぎ泳ぎ、あっさりと蒸発させていた。
二人組の冒険者は手首を躍らせ、ダンスを踊るようにステップワープを踏む。
彼らが踊り舞う度に、鬼が地面に倒れ、影の手が蒸発するように消えていく。
確実にモンスターの数を減らしていた。
「ん、光斬糸を扱う冒険者」
「エヴァ、知っているのか?」
「先生が教えてくれた。一部の優秀な冒険者、武芸者の中には、糸を使う強者がいると。鋼糸、緑糸、銀糸、金糸、光糸、闇糸、色々種類があるらしい」
それを知っているエヴァの先生とやらが気になるな。
かなりの冒険者とみたが。
「やるじゃねぇか、そこの冒険者! ゼオンの光糸使いか? 俺も少し本気だすか!! ぬぉぉぉぉ、<邪・紫刃閃>――」
技名を尤もらしく叫んだのは、黒髪の平たい顔族。
得物の紫の槌を勢いよく垂直方向へ振り下げ、縦に一閃。
紫の衝撃波が疾風迅雷の如く、地面を切り裂きながら体格の大きい鬼へ向かう。
鬼は避けることもできずに紫の衝撃波を喰らった瞬間、全身から噴き出した紫刃が四方八方へ弾け飛び、鬼は四散した。
シャワーのような鮮血を周囲へ撒き散らす。
「――ご主人様、紫刃の扱いが上手くなってますね! さすがですっ」
「マナブさん、カッコイイ」
「ご主人様こそ、最強なる冒険者、皆が注目しています!」
「素敵でしたご主人様……」
「さすがはわたしのご主人様です」
「ふふふー、じゅんって来ちゃった」
傍にいる美人奴隷たちが連呼。
確かに、凄い技だ。
あの黒髪、同郷かもしれない。
だが、俺から絡むことはないだろう。
もし、同郷なら、ヒュリオクスに洗脳されていないことを望む。
カレウドスコープでのチェックはしなかった。
「ご主人様、どうかされましたか?」
魔石の回収を終えていたヴィーネが聞いてきた。
「ん、いや、さすがは一流処の冒険者なのだな。とね」
炎系のチャクラムを<投擲>しては影の手を蒸発させ、炎の精霊体モドキを突っ込まさせている女冒険者や、金属球を扱い鬼を手玉に取っている女冒険者の姿へちらりと視線を向けて、俺は話していた。
「……はい、あの金属球を扱っている冒険者は、エヴァと同じ系統の能力なのでしょうか」
「たぶんな」
「――ん、たぶん、でも導魔術系かもしれない。先生もレアな者は居るところは居るといってた」
そのエヴァを乗せている
「ん、ありがと、ロロちゃん」
「にゃおん」
「――あうっ」
そして、床からぬらりと現れていた影の手たちへ向けて、
口から出されている炎ブレスは細剣のような幅で、粒子エネルギー砲の如く、丸い螺旋状の形で真っすぐに放たれている。
凄い……あんな操作までできるようになっているのか。
範囲は極々小さいが、真ん中に威力が凝縮されているように見えるので、威力が高いかもしれない。
影の手たちがいた床の樹木が溶けるように燃えているし……。
「ロロ様……何という精巧なる炎なのでしょうっ」
「ロロちゃんっ、わたしより炎の扱いが上手なの? ショックッ」
「さすがはロロ様です。ですが、怖いのでわたしは逃げます」
ヘルメは液体になりながら、俺の左目に逃げてくる。
「ロロちゃん、影の手を全部燃やしちゃった」
ユイが感心しながら語る。
「ん、
「そんな名前なんだ。さすがはモンスター博士エヴァ」
「――ん、博士じゃない。本に乗ってた」
エヴァは魔導車椅子を変形させながら、俺の顔を見て話す。
紫の瞳は力強いが、頬には少し赤みがさしていた。
「あ、もう最後の鬼が倒されたみたい」
レベッカが指を差す。
宝箱の周辺で戦っていた全ての冒険者が集まってくる。
そして、青腕宝団のカシム氏が声を上げた。
「――諸君、これで、護衛依頼の大半は終えたことになる。倒したモンスターの素材、魔石は、各自で回収してくれたまえ。宝の回収を終え次第、帰還する」
「了解」
「リーダー、回収しちゃうよ~」
青腕宝団のメンバーに続いて、各冒険者クランたちからも安堵の声が響く。
「これで一先ずお仕舞いか。コレクター絡みは楽な依頼が多い」
「おうよ。皆が一流だからな。<咆哮打>も少なく済んだし、これほど楽なもんはない」
「そうですねぇ、コレクターはいいパトロンですからね。これからも仲良くしときたいところです」
「
「えぇ、勿論。【フジクの誓い】の方々もそうでしょう?」
獣人軍団と美人女集団の話し合いは続く。
「さぁーて、帰ったら豪遊かな?」
そこに間の抜けた声も聞こえてきた。
あの黒髪の平たい顔族だ。
「マナブ様、駄目ですよ! 貯金してお家を買う約束でしょう」
「ええー、みんなでさ、宿の部屋で酒池肉林パーティをやりたいじゃん」
「もう、また“あの”パーティですか?」
「……だったら、新しい奴隷でも買いに行こうかなぁ」
平たい顔族の彼は、口の端を釣り上げて風変わりな笑みを浮かべていた。
「ご主人様、エロ顔」
「カヨ、ここはご主人様の顔を見ている場合ではないのですっ、御止めしなければ……ライバルがまた増えます」
あの黒髪、俺の上をいくハーレムの主、相当な遊び人らしい。
すると、何かしらの恩寵を受けていると思われる、彼の魔眼と目が合った。
「……さっきも弾かれた。……あいつら何者だ?」
彼の魔眼らしき瞳の中では、金色の三角の魔法陣らしきモノが激しく回転を繰り返している。
「サチ、フミ、カヨ、ここで待ってろ。他もここで待機だ」
「「はい、ご主人様」」
奴隷たちは声を揃えて、主人に対して頭を下げていた。
黒髪の男は、俺を一瞥してから肩に紫色の槌を預け、歩み寄ってくる。
「ようっ、あんた名前は?」
気軽な調子で聞いてくる。
「どうも、名前はシュウヤです」
「……へぇ、俺の名前はマナブ。シュウヤか、その響き、もしかして……」
「あぁ……」
やはり、元日本人か。
彼は気軽な調子なので、普通に話すか。
「と、なると……俺が知る転移とは違うようだ……」
転移? マナブはそんなことを語る。
彼は転生ではないようだ。
「……ま、色々とあるんだろうよ。それで、マナブの背後にいるのは奴隷たちか?」
俺の言葉を受けて、彼は何かを考えるように視線を斜めに向ける。
そのまま少し生えた顎髭を、指で触る仕草を取っていた。
「……色々か、最初の仲間だと思ってた奴らに蛇蝎の如く嫌われてな……この迷宮都市ペルネーテに来るまでには……まさに“色々”とあったのさ……後ろの愛しい奴隷たちを集めるのには苦労したんだぜ?」
それがどうした?
と話そうとしたが、彼の機嫌を損なうのは得策ではないと判断。
適当に繕う。
「そうか、彼女たちは美人だな」
「おっ、分かるねぇ。シュウヤが連れているのも、俺の審美眼にかなう超がつく美人さんばかりだな……」
また魔眼の黄金色の三角形が蠢く。
『閣下、攻撃系ではないと判断できますが、確実に何かしらの魔眼ですね。魔力が濃密に蠢いています』
『あぁ』
ヘルメが指摘。
「……マナブ、その“目”で、あまり俺の従者たちを見ないでくれないか」
暗にエロい視線と魔眼は止めろと、意味を込めたつもりだ。
「……ふーん」
マナブは目を細めて、俺に視線を向け直した。
「なんだ?」
「コレクターの美人さん以外にも、シュウヤとその後ろの美人たちは、俺の魔眼を弾いたからさ、気になるんだよね。シュウヤに神意はあるのか?」
おっ、本音だ。
そこに、
「回収は終えたぞー、帰還する」
青腕宝団のリーダーの声だ。
「だ、そうだぞ」
視線で青腕宝団たちの様子を促す。
しんねりと首を横に向けるが、すぐに俺に向き直すマナブ。
「……弾いている理由は教えてくれないのか?」
「そんなこと知る訳がない。それじゃ聞くが、お前はどうして魔眼を持っている?」
「……それもそうか。今は初対面だしな。いずれまた会うかもしれないが、会わないかもしれない、じゃ」
マナブは語尾の最後に笑顔を作ると、俺の返事も聞かずに踵を返す。
彼は、背後で待っていた美人奴隷たちのもとへ去っていった。
「ご主人様、
そう話すヴィーネを先頭に、全員が不思議そうな表情を浮かべて寄ってきた。
「話したのは今が初だよ。挨拶しただけさ」
転移と話していた……彼の他にも転移者がいることは確実。
一見、若く奔放闊達な印象だが、魔眼の影響か何かで、透徹した知性を感じさせた。
だから、その内面は相当な経験をしているのかもしれない。
「わたしたちを見る目が怪しかったわ」
「ん、レベッカのことを凝視していた」
「ええ? エヴァのことを見つめてたのよ」
「両方でしょ、わたしにも視線を向けていたし」
レベッカ、エヴァ、ユイはそんなどうでもいいことを言い合っている。
ヴィーネは黙って俺のことを見ていた。
「さ、もう移動を始めているから、俺たちも帰ろう」
「うん」
「「了解」」
「はいっ」
一流どころの冒険者たちと共に広い空間から通路へ向かう。
通路には時々モンスターが湧くが順調に倒しながら水晶の塊が設置されている空間へ戻れた。
さぁ地上だ。
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