百九十話 魔宝地図護衛と血鎖甲冑
◇◆◇◆
八剣神王第三位とルシヴァルの宗主が武術対決をしているのと同時刻……。
とある歓楽街にある古びた屋敷の会議室にて、慌てふためくやさぐれた男たちがいた。
「おい、屋敷が囲まれたぞ……」
「【月の残骸】か。どうしてここが!」
「入口から音が聞こえなくなった……」
「チッ、もう仲間たちはやられたのか、数は集結しつつあったのに……」
すると、会議室の入口を塞いでいた大きな絵衝立が黒いモノで引き裂かれた。
「――あなたたちが、残党の主な奴らね」
引き裂いたのは蜂蜜色の髪を持つ女だ。
蜂蜜色の髪には赤いヘアピンが留まっている。
その髪は艶めかしい思いを男たちに抱かせる。
蜂蜜色と黄金色を思わせる髪が揺らいで鼻筋の高い鼻を擦る。
彼女は長細い指で、その髪を退かすと、微かに細い顎を傾けて、ふふっと微笑む。
笑みとしての眼輪筋の動きの妙が、茶色の瞳を、より不思議と魅惑的に見せていた。
そんな女性は、黒革を何枚も特殊な金系と銀糸で縫い合わせた鎧と服を着ている。
スカートの布の切れ端を揺らすように、蜂蜜色の髪を揺らしつつ――。
バレエで言うデヴェロッペの動きで足が真上に向かう。
スラリと伸びた細い足首。
その美しい滑らかな踵から黒い閃光が迸る――。
と、黒い閃光を活かすように踵落としを実行する蜂蜜髪の女。
踵から出た黒い翼にも見える魔力の刃で、大きな絵衝立を引き裂いた。
魔との繋がりを示す蜂蜜髪の彼女は――。
冷たい微笑を浮かべる。
と、そのスラリと伸びた足を使い、二つに分かれた絵衝立の残骸を横へと蹴り飛ばす。
そこに、甲高い少女の声が響く。
「――メル~。表の雑魚は全部、血を吸いつくして倒したー」
「ヴェロニカ、ご苦労様」
ヴェロニカと呼ばれた少女は口元が真っ赤な血色に染まっていた。
小さい彼女もメルと同じ色合いの黒革鎧を装備している。
「あたいは弓を射るだけの簡単な仕事だったよ」
その声は、四角い顔を持つ
ヴェロニカの背後のエルフだ。
エラが張ったような顎が特徴的で、美人ではないが、意外に男たちには人気があった。
ヴェロニカとメルと同じくエルフの彼女も黒革鎧を装備。
細い手には新品の弓を握る。
メルは仲間たちの言葉を聞きながら、室内で唖然としながら此方を見続けている男たちを睨み続けていた。
「……さて、ここは完全にわたしたちが制圧した。あとは、貴方たち次第よ……もし、抵抗するなら、皆殺し。下るなら貴方たちが知る情報を洗いざらい話すことを条件に、命だけは、奪わないと約束してあげる。うふ♪」
そう優しくも冷たくもある女独特の口調を聞いた男たちは、顔を見合わせる。
会議室に満ちていた殺気が行き場を失い萎んでいくのが見えるようであった。
そして、彼らは持っていた武器を床に投げ捨て始める。
【月の残骸】の副長メルは満足そうに微笑を浮かべる。
と、投降した彼らに近付いていった。
◇◆◇◆
<
速度を増した状態での魔剣ビートゥは牽制。
右手に握った
<刺突>から、間を空けず――<闇穿>を連続で撃ち放つ。
「なっ――」
さすがはレーヴェ。
驚きながらも三つの目を目まぐるしく動かして、スキルを使った高速二連矛撃を受けきった。
レーヴェは師匠と同じく<
三つの腕と足剣で、俺の攻撃を巧みに防ぐ――。
更に、反撃のノコギリ刃を伸ばしてきた――。
が、師匠よりは速度が遅い――。
俺は首を捻って迫ったノコギリ刃を避けた。
頬をかすめて、傷ができたが――構わず視線でフェイントを送る。
そして、レーヴェの腕を狙う。
俺の槍の突きを防ぐために伸びた腕だ。
小手を奪う感覚で、腰から捻り出す<刺突>を繰り出した。
「げぇ、なんて速さ――」
レーヴェの右の上腕を穿つことに成功――。
魔剣ビートゥを離しつつの左手の拳による打撃の牽制をしつつ右手を引く。
目眩ましをしながら引いた魔槍杖で、再び、レーヴェの足を狙う。
「――ぐぁ」
レーヴェの黒コートごと右足をも穿った。
胸、下腹部を狙って串刺しにすることもできたが――。
彼の首に穂先の紅矛の先端を当てた状態で――。
寸止めを行う。
二十秒が過ぎ去るとスキルが切れた。
「――ぐあぁ、参った、降参です」
レーヴェは苦悶の表情を浮かべながら降参を宣言。
武器を石畳に落とす。
そして、膝を折るように地面に膝頭をつけた。
腕を震わせつつ胸ベルトからポーションを取る。
ポーション瓶の蓋を口で咥えて開けた。
負傷した個所へポーションの液体を振り撒く。
「……二位や一位はもっと強いのか?」
ポーションによって傷が回復していく様子を見ながら聞いていた。
「……槍のほうは分からないですが……剣王二位のフグリハならいい勝負となる自信はあります。ですが、一位のゼン・サイゴウは強いですね。わたしのように奇を衒った〝切り札〟のようなことはしない。絶剣流、紅の大太刀を扱う強者です。わたしの場合は切り札を出させたことがないとも、言えますが……」
上には上がいるんだな。
「そっか、怪我の具合はどう? 回復魔法があるけど」
「問題ないですな。高級ポーションなので、それに……」
レーヴェは戦いの際に見せていた技を使った。
魔剣の柄から赤い魔力枝が蠢き毛深い両腕を覆う。
傷を完全に癒していた。
なるほど、凄い回復力だ……。
「その身体を回復する魔剣、便利そうだ」
「えぇ、シュウヤさんも同じだと思われますが、これがあるからこそ……わたしは強くなった」
「曰くつきの魔剣? やはり迷宮産なのかな?」
青白い刀身を持つ魔剣に視線を送る。
「いえ、これは迷宮産ではないんですよ。サーマリア伝承に伝わるオズヴァルト&ヒミカという一対の魔王級魔族の名がつく魔剣なんです」
「へぇ、どっかで聞いたような気もする」
「サーマリア伝承シリーズはかなり有名ですからな。どこかで聞いたのでしょう。必ず一対の魔王級魔族の名がつくセット武器。確か八個ほど確認されているとか」
「八個も……」
俺が呟くと、レーヴェは
そして、彼は清々しい顔を浮かべて三つ目を俺に向けてくる。
「……シュウヤ殿、お相手、ありがとうございました――」
「こちらこそ――ありがとうございました」
突然、礼儀正しく頭を下げてきたので、反射的に敬語モードで返礼をしていた。
俺が頭を上げると、レーヴェが口を開く。
「……シュウヤ殿の槍武術からは偉大な歴史を感じました……風槍流を基礎としつつも独自なモノへ昇華を果たしたと推測しますが、貴方の基礎を作った師匠はどなたなのですか?」
俺の槍から師匠の歴史を見出したか。
やはり強者だな、この
そして、あの巻き角の偉大なる顔を思い出した。
心が引き締まる思いだ……敬語で話しておこう。
「……アキレス師匠です。偉大なる槍マスターですね」
「そうですか。聞いたことはないですが、さぞや立派な方なのでしょう」
師匠が冒険者をしていたのは、何百年も前だからな。
そりゃ知らないか。
「はい。師匠のことは凄く尊敬しています……俺に槍の基礎を教え、様々なことを教えてくれた……この世界で生きることを教えてくれた大恩人です」
本心を思わず話していた……。
レーヴェは三つの目を潤ませると、頷く。
「素晴らしい……胸を打つ言葉ですね。信頼関係が伝わってくるような思いを感じました」
「はは、少し恥ずかしいです」
「いえいえ、わたしも……生き別れた師匠の姿を思い出しましたよ……さて、そろそろ帰るとしますが、槍の強者であるシュウヤ殿とはご近所の付き合いもありますが、これからも特別に仲良くしたい思いです。ですので、先ほどの戦闘中のように気軽に話してください」
「わかった、俺も気軽にシュウヤと呼んでくれ」
「了解した。シュウヤ、それでは」
と、
背中に装着されている二つの魔剣を見せながら大門へ歩き、外へ出ていった。
「……ご主人様、血の匂いがっ」
「……御怪我をっ」
ヴィーネとメイドたちが血相を変えて走り寄ってくる。
ユイとカルードは真剣勝負を続けていて、俺の戦いは見に来なかった。
「大丈夫だ。彼は中々の強さだった、剣術が奇抜すぎて盗めなかったが……」
「ご主人様に手傷を負わせるほどですからね、分かります」
「これをお飲みになりますか?」
メイドのアンナがゴブレットを差し出してくる。
「お、ありがと」
気が利くメイドのアンナに礼をいってから紅茶を飲む。
そのままリビングに戻り、この日は、ヴィーネとヘルメに癒されながら過ごしていく。
◇◇◇◇
次の日、今日は皆とは別行動。
外套も付けずに軽装ルックで
目的地は迷宮都市ペルネーテの東。
ハイム川を越えた先にある森林地帯の中に
地面に降りてから、
「ロロ、俺の実験を見ているか、それか、この辺で自由に狩りを楽しんできてもいいぞ」
「ンン、にゃおん」
ロロらしく、狩りを選ぶか。
まずは周囲を掌握察で確認。
モンスターらしき魔素の気配、人の気配はポツポツと感じるが、近寄ってくる魔素はなし。
よし、ここでいいだろう。
革服の上下を脱いで、素っ裸に。
原野に帰り、原住民の裸族として俺は生きる。違う、実験を開始だ。
<血道第一・開門>で全身から血を放出。
<血鎖の饗宴>を発動した。
こないだと同じ要領で、インナー服、コスチューム。
凶戦士鎧をイメージ。血鎖の鎧を完成させた。
少し血鎖を伸ばそうと意識すると、無数の血鎖が意識した箇所へ伸びて地面に突き刺さる。
これ、確実にこないだより進化している。
ただ……前が少し見にくいのがネックか。
ま、いいか、掘り出そう。無数の血鎖を地面に向け、土を掘り出していく。
あっという間に大穴ができていた。
そこで、ヘルメットの鍔を下ろすように血鎖で目を覆い視界が塞がるが、一気に全身ドリルをイメージしながら大穴へ頭から突っ込んでみた。
音が凄い、モグラのように、土の中を掘り進んでいるのが分かる。
下降し、深く深く潜っていく。
圧力にも耐えられることはこれで実証された。
そこで、方向を上向かせるイメージで上昇。
あっという間に、噴火するように周囲へ掘ってきた土を撒き散らしながら地上に出ることができた。
そこで、血鎖を消す。
俺が出てきた地中の場所には、大穴があり、潜り始めた場所からはかなり離れていた。
実験は成功と言ってもいいだろう。
ただし、方向感覚が微妙でかなり難しい。
あっ、そうだ! ディメンションスキャンを使えるようにすればいいんだ。
右目のアタッチメントを触り、カレウドスコープを起動。
視界に青い高解像度フレームが追加された。
更にアイテムボックスの表面にある水晶体を触りディメンションスキャンを起動させる。
高解像度視界の右上にミニマップ的な物が追加された。
カーソルを合わせるようにミニマップを意識すると拡大。
血鎖で視界を覆うが、フレームの映像とミニマップの視界は確保されている。
いいぞ、これで再度、海底二万里の旅へ。
おぉぉ~、土の世界でも方向が分かる、分かる。楽しい――上下左右にネモ艦長が操縦する特殊な潜水艦にでもなったような気分で土の世界を突き進んだ。
楽しんでいると、急に土を掘る音が変わった。
どうやらハイム川の中へ出てしまったらしい。
視界にある周囲の地図には、普通の魚に、魚のようなモンスターの反応がある。
血鎖を操作して顔を解放、素の視界を解放した。
水が目に染みるが、構わない。
やはり川底、ハイム川の中だった。
血鎖を操作してスキューバダイビングで使うような足ひれのフィンを二つ足先に作り、水を蹴り、上昇を促す。
トビウオのように勢い良く水面から飛び出た。
全身の血鎖鎧を消失させる。ついでだ、このまま素っ裸で泳ごうっと。
クロール、平泳ぎ、バタフライ、潜水、ハイム川に流れる水と友になった気分で縦横無尽に泳いでいく。
あはははっ、楽しいぃ――超、気持ちいいっ。
わざわざ、海にいかなくてもここで水泳は楽しめた。
体を回転、泳ぐのを止めて……ぷかぷかと川面に背中を預けながら漂う。
ブルースカイな空を眺めた。
これで土に埋まっていると推測する鏡の回収の目途は立ったと言える。
レベル五の魔宝地図護衛依頼をこなして冒険者ランクをBランクに昇進させたら……。
一つ、二つの鏡を回収する旅に出るのもいいかもしれない。
ま、鏡の回収はおいおいだな。
さて、狩りを楽しんでいるロロのもとに帰るか。
◇◇◇◇
数日後。
ハンニバルに紹介されたレベル五、四階層の魔宝地図の護衛依頼のために、奴隷を抜いたイノセントアームズの一部のメンバーを連れて【魔宝地図発掘協会】前に来ていた。
もう既に、多数の冒険者たちが集結している。
<従者長>カルード率いる高級戦闘奴隷たちには魔石収集を頼んだ。
ミスティは講師の仕事と本格的な引っ越し作業のため、ここにはいない。
「ご主人様、六大トップクランの面々です」
多士済々たるメンバーが並んでいるのが分かる。
「こないだ助けた
レベッカが知っていた。
「はい。ですがあまり見かけたことのない屈強な方々も多いようです」
ヴィーネも指摘する。
クラン、パーティの名前からして確かに強そうなメンバーばかり。
「ん、あそこの男、シュウヤのことを凝視している」
「本当だ。あ、わたしのことも見てきた。同じ、黒髪だから?」
エヴァとユイが指摘したのは
確かに睨むように俺を観察しては、俺の連れた美人たちを見つめてきている。
目には魔力を溜め、ん、瞳の色彩が錦色に輝き、三つの三角形らしき形へ変化して、回転していた。
何かしらの恩寵を受けた魔眼?
あの黒髪に、背が俺と同じぐらいで、日本的な平たい顔立ち……。
モンスターの牙が、ところどころに目立つ黒革鎧を全身に着込み、紫色の重そうな両手持ち系の大型ハンマーと見られる物を背中に背負っているようだ。
目に魔力を留めているし、全身の魔力操作はスムーズ。
魔闘術はかなりのレベルと判断。
彼の連れているパーティメンバーも同様に優秀だ。
そして、美人の奴隷たちばかりときたもんだ。
だが、月の前に灯という奴だ。
選ばれし眷属の<
「――Aランクの魔宝地図護衛の依頼を受けた御集まりの皆さん、わたしが依頼主のコレクターです。魔宝地図はもう青腕宝団のカシム氏に渡してありますので、皆さん、素早い仕事を頼みますよ。ではカシムさん、宜しく」
静かな口調だが、透き通るように響いた女性の依頼人の声。
艶然とした表情も良かった。
「……はい。では、青腕宝団のリーダーの、カシム・リーラルトだ。今回は六名の少数精鋭で依頼に参加した。よろしく頼む。場所は四階層、樹海エリアの
青腕宝団のリーダー、カシム氏が大きな声で宣言。
「「おう」」
「はいっ」
「
「行きましょう」
「いつでもいいぞー、青腕ぇ」
全部で五十人は超える一流処の冒険者たちは口々に気合いの声を出す。
だが、俺は美人な依頼人の方へ首ったけ状態。
彼女は、黒曜石のようなセミロングな髪に、額には魔力が内包されている大きな黒水晶のサークレットを着けている。
サークレットの下の額の中央には、六芒星模様の赤い印を覗かせていた。
話していた雰囲気通り、夏だというのに涼し気な表情だ。炯々とした黒い瞳からは深い知性を感じられた。鼻筋も高い。薄い桃色に輝く肌は特別な化粧品か。
小さいルージュ色の唇がセクシーだ。
ハンニバルが話していたように、美人な大人の女性。
傍に控えている女性の召使いも綺麗な角持ちの女性。
師匠と同じ種族だと思われる。
あ、何気にゴルディーバの種族は山脈地帯を下りてから、初か?
ヘカトレイル、ホルカーバムには居なかった。
「……では、進みましょう。我々、青腕宝団が先導します」
カシム氏が号令をかけると、青色の装備を着ている集団が後に続く。
その数は六人。
ずっと前に迷宮の出入り口付近で見かけた人数より数が少ないのは、今回の依頼が楽だからだろう。
他の冒険者たちも青色装備を身に着けている集団の背後から歩いていく。
俺たちも続いて迷宮の入口へ向かった。
「こんなにいるなら、楽できそうだ」
歩きながらヘルメや皆に話しかけた。
「閣下、ここは閣下のご威光を広めるチャンスかと思われます。強引に力でねじ伏せ、彼らの尻をびびらせてあげましょう」
ヘルメは至って真面目な顔で語る。
「ご主人様、精霊様に賛成致します」
「精霊様、お尻が好きなのね……」
「ん、精霊様、時々分からないことをいう」
「だから、わたしたちの尻にもこないだ……」
「「……」」
ユイの言葉に皆、顔を紅く染めてしまい黙ってしまった。
「……どうしたのですか? 閣下を支える選ばれし眷属の<筆頭従者長>ともあろう方々が、そのように元気のない態度ではいけませんよ」
常闇の水精霊ヘルメは、にこやかな表情を浮かべ、長い睫毛が目立つ切れ長の瞳で皆を見ながら語る。
「ヘルメ、彼女たちは大丈夫だ。行くぞ」
「はい」
沢山の冒険者たちと共に水晶体を使い四階層へ飛ぶ。
誰も取り残されることなく、何回かワープを繰り返し、全員が四階層の水晶体に到着した。
左右と後ろには通路がない。
幅広の鬱蒼とした木々が茂る森に囲われた幅が異常に広い通路が前方に続いているだけ。
囲う森の木々からは光が発せられているので明るかった。
三階層の一部にも似たような通路があったが、広いし微妙に色合いと木々の形が違う……。
冒険者の集団は幅広の通路を進む。
先頭の集団はモンスターと戦っているのか騒がしくなっていた。
相手は
二刀を持つ青腕宝団のリーダーは剣魂を込めた叫びを発しながら、
あのリーダーが舞うように動かしている刀。
特殊な魔刀、魔剣なのは間違いないな。
青腕宝団のメンバーたちはゴミを掃除するかのように
「依頼を受けたが、この分だと、俺たちは回収できそうもないな」
「ん」
エヴァが揺れる地面に苦戦しながら、頷いて返事をしてきた。
「エヴァ、地面が安定するまで、ロロの上に乗って移動するか?」
「にゃお」
肩で休んでいた
触手を使い、エヴァが乗る魔導車椅子ごと、馬獅子の背中の上に運んであげていた。
「ロロちゃん、シュウヤもありがとう」
「にゃ」
エヴァは天使の微笑を浮かべてから、下へ身体を屈めて背中の黒毛を撫でてあげていた。
「わぁ、エヴァ、特等席ね」
「ん、ロロちゃん、偉い」
ユイは
「……こんにちは、こないだは助けて頂きましてありがとうございました」
どよめいている冒険者の中から、挨拶してきた女性がいた。
背が高い弓持ちの女性。
背後には数人の見たことのある冒険者たちを伴っている。
確か六大トップクランの
「……はい、ご無沙汰です。苦しんでいた方は?」
「後ろにいますよ」
ドリーさんが指を差すと、戦士の方は笑顔を向けてきて頭を下げてきた。
「よかった、元気そうで」
「えぇ本当に。……ところで、今しがた、大きくなった黒い獣は凄いですね」
「はい。自慢の相棒ですから」
「……なるほど、獣使い、超獣魔使い、あるいは特殊な魔調教師、
「いえいえ、スキルじゃないんですよ。愛という言葉を――」
尻からズゴッとした音が響く。
調子に乗って変なことを話そうとした時、いきなりのツッコミが来た。
いてぇぇ、酷いっ、レベッカにお尻を蹴られた。
蒼い炎が灯る足蹴りで、しかも、鎧なしの革服だ。
かなりの衝撃が尻にきたよ。
「――ごめんなさい、ドリーさん。ここからはリーダーに代わって、わたしが話すわ」
レベッカは強引に前にでて、俺に下がるように腕をふりふりする。
「え、えぇ、はい」
ドリーさんは若干、引いたような顔を浮かべていた。
全く、親父にも蹴られたことないのに……。
ま、いいや、ドリーさんとレベッカは笑顔で交流をしながら先を歩く。
精霊ヘルメは俺が突っ込みを受けても怒らなかった。
「閣下のお尻……」
精霊のはずの彼女は、ボソッと、呟き、変な笑顔を浮かべてヤヴァイことを想像している……。
ヴィーネの方をみると、当然です、という感じの銀の瞳で目を細めていた。
美人を口説いていたと思ったのか。
ヴィーネまでぇ、ショック。
そんなフザケタ調子で、進んでいると、前方から魔素の群れを感じ取る。
前方は激戦となっている。
当然、俺たちにも数十匹の
ユイが一番早く対処。
暗殺剣の使い手らしい、黒い疾風ともいえる疾走をしながらの居合いと見られる所作で、加速しながら特殊刀を抜き払い白刃がキラリと光る一太刀での薙ぎ払いを行い、大きい
黒装束系の真新しい黒革コスチュームに、構えた下半身の白い太腿が生える。
相変わらず、良い白桃のようなムチムチの太腿だ。
「ユイ、負けませんよっ」
続けてヴィーネが、緑の光を放つ蛇剣を抜きながら、ユイの近くにいた
そこから青白い残像を残すように自ら回転しながら、反対の方向にいた
ユイが三体目の
ヴィーネはさすがだ。近接もそつなくこなす。
「塵ども、平伏しなさいっ――」
ヘルメが空中に浮かびながら叫び声を上げる。
全身から水飛沫を発生させつつ氷雨のような無数の氷礫を繰り出す。
雨霰と氷礫を
氷礫を喰らった
残りの
ストレート気味の蒼炎を纏う右手の拳だ。
頭蓋骨が粉砕された
レベッカの武術は素人だが、凄い威力だ。
本格的に武術を習ったらかなりの強者になるかもしれない。
たまたま近くでおしゃべりをしていた草原の鷲の代表者のドリーさん。
彼女も巧みな弓の技術で、
レベッカをフォロー。
エヴァは黒馬より少し大きいロロディーヌに乗りながら魔法を詠唱。
複数の土槍を一度に
そんな魔法を唱えたエヴァを背中に乗せていた相棒はエヴァが放つ魔法攻撃の邪魔をしないように、触手を展開しつつ、そのエヴァを守るために少し体を退く戦いを見せる。
俺は強襲前衛であるユイを越えて前進。
足止めされた
右で冒険者に対して攻撃している
走りながら<鎖>を伸ばした。
太い鎌腕で冒険者を攻撃していた
よし、後は左だ。
動きを止めている
槍の間合いに入ったところで、走る威力を加えた魔槍杖の<刺突>を横腹へ突き出した。
鉄のような硬い物体を突き破る感触が、魔槍杖を握る右手の掌に伝わる。
更に、魔脚を使い――木の床面を焦がす勢いで蹴り、跳躍を行う。
全身の筋肉を軋ませ身を捻る回転を行いながら、一気にゴムが弾けるように身体を解放させる<豪閃>の薙ぎ払いを発動した。
魔槍杖の薙ぎ払いにより、
床面にも紅斧刃が到達して床が燃えていた。
二つの大きい肉塊の断面からは、鋼が溶解したかのような真っ赤に燃える爛れた肉片が落ちている。
もしかして……脳裏にある言葉が過った時。
「シュウヤ、これ、
明るい顔の多いレベッカが普段あまり見せない、青ざめた顔色を浮かべて話していた。
「――はは、お前のせいじゃないよ。これはたまたまだ。それに、いいじゃないか、楽しもうぜ。ほら、あそこで紫の槌を振るい活躍している
「でも……」
「何度も言わせるな。お前のせいじゃない――」
笑顔で話しながら、群がってきた
「うん」
「シュウヤのいう通りよ、レベッカ――」
「――そうです。ご主人様が側にいるのですから関係ありません」
ヴィーネとユイが互いに背中を預けながら、
互いの隙を無くすように
レベッカは中衛のポジションを選び、両手から蒼炎弾を発生させては、前衛の役割をこなしているヴィーネとユイのフォローに回る。
後方からは、エヴァの放った土槍と、ヘルメの放った氷槍が飛来し、
俺も《
そうして、複数のモンスターを倒しに倒す。
通路が死体で埋まり壁が見えなくなったところで、湧きが収まった。
夥しい量のモンスターの血液が樹板の凹凸を埋めるように小さい血溜まりを形成。
鉄分の臭み、アンモニア臭……。
肉の焦げる匂いが……満遍なく充満。
数時間の連続戦闘だから当然か。
ふぅ……終わったか。これが
凄まじい湧き方、ここの通路の作りが特殊なのも関係があるのかもしれない。
横幅が広くモンスターが出現した樹木の壁には、大きな穴や隙間が沢山ある。
ま、血の補給にもなった。
ヘルメも血を大量にストックしたし、いい経験だ。
そして、冒険者たちは全員無傷。
誰一人として周りで傷を受けた冒険者はいなかった。
さすがは一流処……。
皆、余裕顔。
魔煙草を口に咥えながら……。
「肩慣らしには丁度いい運動だ」
とか何とか言って談笑しているグループもある。
厭戦気運は、皆無。
やはり、気概からして一流処だ。
そこで、前線で活躍していた二刀を持つ冒険者が視界に入る。
華麗な剣舞を見せていた青腕宝団のリーダーだ。
「――各自、ここで少し休憩を行おう。ついでにモンスター討伐依頼を受けているパーティ、クランは自由に回収をおこなって構わない。経験豊富なので分かっているとは思うが、一応リーダーとして忠告する。節度ある行動を取り、
どっと周りの冒険者たちから笑い声が起きる。
青腕宝団のリーダーは冗談のつもりで話していたらしい。
「青腕の奴ら、笑わせてくれる」
「なにが乱交だ」
「おうよ」
「がはは、んなことは分かっているが、ルーキーみてぇなことをくっちゃべってるんじゃねぇよっ」
「あはは、節度ある行動か。どんな皮肉だ」
冒険者たちは口々に笑顔を浮かべ、笑いながら行動していた。
俺たちも自分で倒したモンスターの討伐証拠、素材、魔石を回収。
「シュウヤさん、イノセントアームズを含めて、戦闘を見てましたが、素晴らしい動きですね」
回収を終えて軽く、皆で談笑していると、弓持ちのドリーさんが話しかけてきた。
「ありがとう。皆、優秀ですから」
「はい、そうなのでしょう。わたしたちより殲滅速度が速く、特にシュウヤさんはリーダーらしく、周りのフォローまで行う冷静な動き、驚きですよ」
「はは、そう褒められると、照れてしまいますから、そこまでにしてください」
「――そうよ、ドリーさん。シュウヤはすぐ口説こうとするから、あまり近くに来ない方がいいわ」
小柄なレベッカがドリーさんと俺の間に割り込んでくる。
「シュウヤ、さっきのわたしが放った新しい剣術技、見た?」
ユイが俺の腕に抱き着きながら話してくる。
「みたみた、あれ、居合いのような奴だよな。瞬発力と切れ味を生かした、素晴らしい技だと思う」
「ふふっ、ありがとう、ちゃんと見ててくれたのね」
「勿論だ。白い太腿も綺麗だった」
「ご主人様っ、わたしの身のこなしは……」
「ちゃんと見てたさ。蹴りを使い袈裟斬りを行っていた」
「ふふっ、嬉しいですっ」
ユイが抱き着いている反対側の腕にヴィーネが抱き着いていた。
「……シュウヤさんは
話の腰を折られたドリーさんは悲しげな表情を浮かべる。
……女たちの戦争に敗れて身を退いてしまった。
「閣下、氷の……」
「ん、シュウヤ、後ろから魔法を……」
「にゃ、にゃん、にゃにゃーお……」
「蒼炎弾こそ、敵を吹き飛ばしていたわっ」
黒い雌猫を加えた彼女たちの話を聞いてあげていると、休憩は終わる。
そして、魔宝地図の宝の場所に冒険者たちは到着した。
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