百七十六話 ユイの眷属化※
諧謔的なことは一斉せず……。
真面目にユイのことを説明して分かってくれた時には……。
夕方になっていた。
急ぎ料理を終わらせる。
そうして、食事の準備は完了した。
海岸線に沈む夕日を見ながら……。
ユイとカルードさんをキャンプファイヤーの席に招待。
飲んで食べての、宴会だ。「シュウヤのね、変な顔が面白いの!」「ん!」と、楽しい会話をしながら、「そうか?」とか言いながら、レベッカに変顔を繰り出す。レベッカは間近で俺の変顔を見て、口に含んでいた酒を噴いた。そんなこんなで、飲食を楽しむ。
固い野菜を奥歯で噛みきる仕草を見て、手伝いたくなった。
そして、「ンン」と鳴いてから、お腹をぽっこり膨らませつつ横座り。
焚火の近くで、まったり座りだ、可愛い。俺はそんな相棒の横に移動して、一緒に横になった。
相棒は、そんな俺の顔に尻尾を当ててくる。その尻尾を触ると、「ンン、にゃ~」と鳴いて、尻尾を引いて、俺のその掌の上に尻尾を乗せてくる。『わたしが触るんだ。相棒は尻尾を触るんにゃねぇ』といった感じだろうか。宴もたけなわになった。
俺は立ち上がり、
「正式に皆に紹介する、ユイとカルードさんだ」
皆が注目する中、ユイとカルードさんを紹介した。
「どうも、ユイです」
「ユイの父のカルードと申します」
そう頭を下げながら喋るユイとカルードさんに対して……。
俺たちが、何故ここに来たのか。
鏡の件と邪神の話に二人とも驚いていた。
俺が説明を終えると、ユイとカルードさんの話の出番となった。
枯れ木が轟々と燃えるキャンプファイヤーの音をBGMに……。
ユイとカルードさんの二人は、
「まずは、わたしの戦争話から……」
自分たちが置かれていた状況を説明。
カルードさんは自らの過去からヒュアトスの【暗部の右手】に関すること。
ユイは俺との出会いと別れを事細かく熱情を持って語る。
泣くユイを見ると、心が痛くなった。俺も自然と涙が流れた。
親子の呼吸での会話。
ユイは自分の感情を包み隠さず話す。
ヒュアトスとの絡みを知ったレベッカ、エヴァ、ヴィーネは目に涙を溜めて頷く。
皆、彼女の話を真剣な表情を浮かべて、聞き入っている。
「そして……隠れ家から父さんと逃げたの。でも森の中で囲まれて……絶体絶命って思った時、シュウヤが颯爽と登場して黒装束を着た【暗部の右手】の奴等を鎖で倒してくれた。だからすべて、シュウヤのお陰なの」
「……そうだったのね」
「ん、シュウヤ、さっきはごめんなさい」
「ご主人様はさすがです。本当に至高のお方」
「閣下、彼女の眷属化をお勧めします。優秀な暗殺者なのですから、選ばれし眷属である<筆頭従者長>と成れば閣下の戦力が増大することに繋がります」
常闇の水精霊ヘルメはユイの眷属化を勧めてくる。
そのヘルメさんだが、キャンプファイヤーの熱波が自分に来ないように、水のバリアを目の前に展開していた。
「眷属化? それはシュウヤの、さっきの血を分けるといった言葉と関係するの?」
ユイが疑問を呈してきた。この話が一番緊張する。
俺は血を分けた彼女たちへ視線を向けた。皆、頷いている。
〝話すべきだ〟と思っているようだ。
「関係する……」
「……聞かせてくれる?」
「わたしも聞いていいのだろうか」
カルードさんが遠慮がちに聞いてくる。
この際だ、ユイの父であるカルードさんにも聞いてもらおうか。
「構いません……俺は人族ではない。光魔ルシヴァル。魔族のヴァンパイア系の流れを汲む新種族。そして、仲間たち、俺の女たちは全員が納得して、選ばれし眷属の<筆頭従者長>として、俺の血を受け継いでいる者たちでもある。精霊のヘルメだけ、水だけに血も関係あるかもしれないが、俺と契約を結んだ特別な常闇の水精霊だ……」
「……そういうことなのね。魔族の血を僅かに引いているなら、わたしと同じ。もしかしてサーマリア王国出身なのかしら」
ユイの故郷を訊ねる言葉に、皆が一斉に頷く。
「それは気になる、一度もシュウヤは自分の出身のことを話してくれていない。田舎としか聞いていない」
「ん、確かに」
「皆さんに同意します。ご主人様のご出身とはどこでしょうか」
「閣下、わたしも聞いていませんが」
皆の視線が俺の全身を貫く。
……どうするよ。生い立ちと言っても……精神だけなら日本で三十年以上過ごしたが、神だと思われる得体の知れない何かに白い空間に拉致られ、キャラクターメイキングを行い、この世界に転生してから地下世界を一年経験して神獣ローゼスと出会って相棒の
辛い孤独な地下生活を省いたとしても……。
彼女らが、異世界の地球の出来事を理解できるか? 納得するだろうか?
まず無理だな。
神がなんとかと言っても、別の未知の違う宇宙のスケールの話をしても到底分かりそうもない。
まぁ、時間は無限にある。
適度にゆっくりと説明していけばいいか。
今は、オブラートに包みながら説明しよう。
「……実は俺の魂、精神は、こことはまったく違う世界で育まれてきたんだ。そして、数年前に、この世界へと、神の悪戯か分からないが、光魔ルシヴァルとして転生してきた。だから出身は異世界となる」
一瞬の静寂が空間に満ちる。
「――おぉぉぉ、素晴らしいぞ。次元を渡る神たる存在、神に愛される以上の存在でしたかっ!!」
ヴィーネは片膝を砂浜に突けて頭を下げてから、素の興奮した口調で語る。
やはり、ヘルメに近付いてきたような気がする。
「――閣下は次元を渡る神で在らせられたのですね。迷えるわたしたちを導いて下さり幸せであります。そして、光栄の至り」
常闇の水精霊ヘルメは頭を下げながら語る。
完全に土下座モードだ。
ヘルメは水のバリアを溶かしている状態。だから、キャンプファイヤーの火によって黝い皮膚が少し変形しているが、彼女は気にせずに平伏した状態を維持していた。
「え、精霊様が平伏している……あ、エヴァも車椅子から降りて緑色の鋼足を見せて屈んでいるし……シュウヤは本当に神様なの? 確かに、血の宗主様だし、尊敬しているし、愛しているし、いつも匂いを嗅いでいたいし、大好きだけど、どうしよう……わたし……」
レベッカは完全に動揺。一人だけおろおろ。
胸前で左右の人差し指の指先同士を合わせながら、もじもじと内股気味に身体を動かしている。
結局、ユイもカルードさんも、レベッカ以外の全員が片膝を砂浜に突けて、頭を下げていた。
あぁ……やばい、ヤヴァイ。
俺はこんな展開を狙って話したわけじゃないのに……。
……言わなきゃよかった。
「……待った。皆、勘違いするな。俺は本当に神じゃない。確かに、一般人でもないが、<不死能力>を持つヴァンパイアと同じだ」
「閣下なら、そうお話されると思っていましたので、表面上では納得しますが、閣下の存在は、わたしたちにとっては、神と同じなのですよ。それに、ヴィーネ、レベッカ、エヴァは閣下から直接、血を分けられた身。もう心の中では神以上の存在となっていることでしょう」
ヘルメさんは、そうおっしゃいますがね。
彼女は頭を上げて話すと、またすぐに平伏ポーズへ……。
はぁ……いつもスケベなことを考えている俺が神なわけないだろうが……。
故郷のことを上手く話そうとしただけなのに。
なんでこーなるの!?
「ヘルメ、ヴィーネ、レベッカ、エヴァ、俺は神じゃない。絶対に違う。なりたくもない。俺は男であり、女が大好きなエロな男なんだ。というか神になれるものなのか? 正直、分からないんだが」
必死に懇願すると気持ちが通じたのか、皆、ひれ伏すのをやめてくれた。
「それもそうね……どっちかというと……エロ神様かもしれない」
「ん、整った平たい顔の神」
うぐ、ぶぷっ。
レベッカとエヴァの然り気ない言葉に笑ってしまう。
「あはは、エヴァ、そりゃないだろう。だが、おもしろい……」
「ぷは、あははは、エヴァ……自信のある顔で、それをいうのは反則よっ。イケメンだけど変顔が面白いし!」
レベッカは抱腹絶倒の大笑い。
皆もくすくす笑いだす。
俺が神だかどうだかの空気は消し飛んでいた。
「はは、こりゃ一本取られたな」
「閣下は至高の御方であります」
常闇の水精霊ヘルメだけは笑わず、真面目な顔だ。
「ご主人様、笑ってしまい、すみません。ですが、神に愛される強き偉大な雄なのは変わりません」
ヴィーネもヘルメに続いて真面目な表情だ。
「ヘルメとヴィーネ。ありがとう」
「閣下……」
「ご主人様」
「うん、シュウヤはシュウヤよね」
「ん、シュウヤを愛するのは、変わりない」
レベッカとエヴァは笑顔で頷き合い、そう言ってくれた。
すると、ユイは立ち上がる。
俺の側に歩みよりながら、
「……シュウヤ、皆が納得したのはいいけど、当然、わたしも眷属に加えてくれるのよね?」
そんなことを語る。
すると、カルードさんが、すぐに頭を上げて、
「ユイッ、本気か! 人ではなくなるのだぞっ」
カルードさんの戒めの言葉だ。
これは当然だな。
人の理から外れようとしているんだ。
最初は絶対に反対するはず。
「父さん、わたし、本気だから……永遠に好きな人、愛している人といられるなんて夢みたい。それに、<ベイカラの瞳>を持つわたしにだって魔族の血が関わる。確実に普通の人じゃないわ」
可愛いユイと一緒にいられるのは嬉しい。
「……」
お父さんのカルードさんは厳しい表情を浮かべている。
が、俺とユイを交互に見て逡巡しては……。
浅く頷いていた。
頷く?
「父さん、ごめんね」
「いや、分かった。わたしもこの方に救われた身、お前がそういうなら父として納得しよう」
許すんかいっ。
「やった。ありがとう父さん」
「ふっ、シュウヤさん――娘を頼みます」
カルードさんは男前の笑顔だ。
ユイのことを託すように頭を下げてきた。
こうなったら本人が望めばの話しだが……。
このカルードさんも眷属にしちゃうか?
ユイを鍛えた元武人、元暗殺者で経験豊富。
<従者長>としてなら十分ありだ。
そんな思いで頷き、
「……えぇ、はい」
と、発言。
それよりも、今はユイの時間だ。
カルードさんから許可を得たし、早速、血を分ける。
「それじゃ、ユイ、準備はいいな?」
「うん」
ユイは頷いた。
「皆、少し離れていろ」
「はっ」
「わかった――でも、ユイ、がんばってね。最初は少し苦しくて辛いかもだけど、わたしたちも見守っているし、シュウヤのことを愛しているなら、彼を信じるのよ」
先輩のレベッカはユイの手を握りながら熱意を伝えようとしていた。
「レベッカ……うん、ありがとう。でも、貴女に負けないぐらい、彼のことは愛してるから大丈夫」
「ふんっ、わたしだって負けないわよ」
「はい、離れましょう。外からはどんな風に血の眷属としての、選ばれし眷属に変化するのか、凄く興味があります」
ヴィーネだ。
海の風が焚火の明かりに反射する銀髪を靡かせている。
一々、美しい。
「ん、ヴィーネに同意。あの苦しかった感覚は忘れられないけど、外からは見たことがない」
「ユイ、父さんはしっかりと見守っているからな。いやになったらすぐに止めるのだぞ?」
カルードさんは渋い表情を崩して、泣きそうな顔だ。
「……父さん、大丈夫よ。見ててね」
皆、それぞれに思うことがある。
そんな皆の様子が落ち着くまで、待った。
そして、俺とユイから一定の距離を保つ。
確認してからユイを見据えて<大真祖の宗系譜者>を発動。
――視界が、世界が闇に染まる。
キャンプファイヤーの火の明かりを完全に遮断した。
俺とユイだけを闇の次元フィールドが包む――<
同時に、俺の体から魔力と血が沸騰するように暴れ出す。
――血が蠢く感覚には慣れそうもない……。
魔力も消費される。
この間と同じ、胸の
心臓が早鐘のように高鳴る。
全身から血の熱波が溢れでた。
俺の血、魂の系譜たる血海がユイを足下から侵食する。
可愛らしい身体を瞬く間に紅く染め上げた。
ユイを選ばれし眷属の<筆頭従者長>に――。
俺の力を
ユイは怖がらず、視線もぶらさず、俺の瞳をまっすぐ捉えた。
――強い信頼の証拠。
その信頼してくれた彼女の顔に俺の血が覆いかぶさった。一瞬、ドキッとする。
特別な血がユイを包むと、無理に笑みを讃えた彼女は血球に包まれて宙に浮かぶ。
その姿はヴィーネ、レベッカ、エヴァと同様だ。
血の子宮ともいえる血球の中に漂うユイ……。
血の子宮はルシヴァルの紋章樹に変わる。
ルシヴァルの紋章樹の中には、既に十の大円と二十五の小円枝が出来上がっていた。
大円には、ヴィーネ、エヴァ、レベッカの古代文字が刻まれている。
そのルシヴァルの紋章樹がユイと重なると……。
彼女の心臓の位置から煌めく光が発生――。
血と混合した光が渦を巻きつつ宙へと飛び出した。
中空で銀河の渦を見せるように動く光と血の粒子たちが、何かの意思を持つようにユイの全身へ降りかかる。
彼女の身体に血が吸い込まれた。
ユイは眉間に皺を作り悶え苦しんでいた。
見たくないが、これは俺の仕事。
この瞬間は人としての最後の瞬間と言えるのかもしれない。
神の摂理に反し、因果律を歪めているのかもしれないが、俺は構わない。
ユイと、彼女たちと永遠に生きてゆくんだ。
俺たちの邪魔をする奴らは、神だろうが――。
『異世界を――突く』
俺の気概を受けたようにドクンと音が鳴ったユイは身を反らして、光魔ルシヴァルのすべての血を吸い込む。
瞬く間に、ルシヴァルの紋章樹の幹にある大円の一つにユイの古代文字が刻まれた。
その瞬間、闇の空間にユイは倒れた。
そして、闇の空間が除々に消えていく。
魔力を多大に消費し、痛みも味わったが……。
エヴァとレベッカの時よりはマシだ。
胃酸か胆汁染みた何かを口の中で味わいながらも、すぐに倒れたユイの下に駆け寄った。
「――ユイッ」
彼女を抱きかかえる。
ユイは起きていた。
「……ん、わたし、変わった?」
「たぶんな――」
血を操作して右手首から出血させる。
その瞬間――ユイは瞳の虹彩が朱色と白色で渦巻く。
<ベイカラの瞳>とはまた違う。
朱色と白色が縁取る虹彩が、六芒星の魔法陣のように変質する。
同時に、目の周りに血管が浮き出ていた。
更に、目尻から無数の細かな白い紋様が飛び出す。
そららの紋様と重なるように、皮膚の表面に浮いた血管が小さい白蛇の如く蠢く。
ユイの新しい力か?
「吸っていいぞ」
「うん」
彼女は吸血鬼となった証拠に口から犬歯を伸ばす。
俺のアイテムボックスと掌の間にある、右手首の隙間へと顔を埋めるように噛み付いた。
血を一気に吸い上げてくる。
「おい、一気に血を吸うな」
「あぁぁ――」
強引に彼女の頭を持ち、引き離す。
ユイは目尻から白い紋様を皮膚の表面に幾条も走らせている。
恍惚そうな表情を浮かべて……。
小さい唇についた血をいやらしく舌で舐め取っていた。
頬にまで到達している白い紋様たちか。
白い紋様は<ベイカラの瞳>と関係があるのかもしれない。
「美味しいっ、シュウヤ、わたし吸血鬼になったのね」
「あぁ、だが、血の欲求を抑えられないようだな……」
ヴィーネは我慢できていた。
エヴァとレベッカは試してないから分からないが、個人差があるようだ。
「もっと頂戴、シュウヤの血、濃い雄の匂いがたまらないの。飲んでるだけで、嬉しくて愛を感じて、全身が震えちゃうぐらいに感じちゃう……切ないの……」
「……ユイが、変わってしまった?」
見ていたユイの父のカルードが呟いていた。
「こらっ、ユイ、シュウヤの血を飲むなんて、ずるいわよっ。わたしだってほしいのに」
「ん、シュウヤ、わたしにも飲ませてくれる?」
「ご主人様、ご褒美をください……」
選ばれし眷属の<筆頭従者長>たちが俺に群がってきた。
ユイが吸った牙の跡はもう癒えていたが、僅かな血の滴りを皆で争って舐めあっている。
それを見ていたカルードさんは、何とも言えない表情を浮かべていた。
常闇の水精霊ヘルメは、うんうんと頷いて遠巻きに納得を示す。
<筆頭従者長>が増えて喜んでいるらしい。
だが、ユイの血に対する行動に不安がよぎる。
「お前たち、待て――ユイ、本当の話、血の欲求は抑えられるのか?」
俺はユイ以外を振り払い、ユイの瞳を真剣な顔つきで見る。
彼女の瞳はもう元の普通の黒色に戻っていた。
「うん。今なら大丈夫」
「そうか――」
再度、出血させる。
「……ふふ。衝動はあるけど抑えられる。大丈夫よ。怪物になっちゃったかと心配した?」
「心配させるなよ……」
「ごめんね。でもね、シュウヤの血は、尊敬、崇高、神聖、といった気持ちを凌駕する想いを感じさせるの」
彼女の表情は真剣だ。
「そうか、今度また吸わせてやるさ」
「うん」
「あと、ヴァンパイア系の<血魔力>についてやらなきゃならないことがあるが、それは、また今度だな。今はカルードさんへ何か言ったほうがいいと思う……」
心配そうにユイを見ているカルードさん。
「あ、父さん、わたし、大丈夫だからね?」
「……本当か? 血を求める時の顔は怖かったぞ……」
「だって、初めての血はシュウヤの血が良かったから……驚かせたのならごめんなさい」
「いや、お前が元気ならそれでいいんだ」
カルードさんは父らしく微笑む。
彼も誘ってみるか。
「カルードさん、貴方も俺の眷属になりたいですか?」
「何ですとっ!」
男だから別に断わられてもいい。
それに男だから<筆頭従者長>ではなく<従者長>だ。
「……今すぐとは言いません。ユイのように<筆頭従者長>ではなく<従者長>としてなら眷属化は可能です」
「……考えさせてもらいます」
即答しないあたり、さすがは元武人。
「父さん、やったじゃない。わたしと同じとはいかないけど、永遠の命を得られるのよ?」
「あぁ、それはそうだが……」
カルードさんは額に手を当て考えていく。
「閣下、素晴らしい判断です。話を聞くに、彼は戦場で活躍した武人。身に纏う魔闘術も手練れクラス。そして、優秀な暗殺者でもあったユイを育てた。<従者長>として閣下のルシヴァル親衛隊を組織し、直の護衛長、または、闇ギルドの幹部として、或いは、配下を複数持たせて別動隊を指揮させるのもいいでしょう。いずれにしても将来、閣下の優秀な手駒となるはずです」
常闇の水精霊ヘルメが参謀長のように鷹揚に語る。
手駒か。悪い組織のボスのようだ。
まぁ闇ギルドのボスなんだが。
「ヘルメ、的確な言葉だ」
「はっ」
それじゃ、悪の組織らしく暗躍しますかね……。
「……ユイ、カルードさん、ヒュアトスからの追手はまだあると思いますか?」
「ある」
ユイは短く即答。
「ユイの言葉通り、わたしも追手が来る可能性は高いと思われます。豊富な部下を持つとはいえ……今回の件で、ヒュアトス様は多数の部下を失いましたからね」
「父さん、もうあんな奴に様をつけるのは止めて」
「これは癖だ。次からは呼び捨てにする」
あるなら、潰すか。
「……それじゃ、王都ハルフォニアへ乗り込んで、サーマリア王国の侯爵ヒュアトスを殺し、【暗部の右手】とやらを殲滅しようかと思いますが、どうです? 乗りますか?」
俺の言葉を聞いていた皆が近くに集まってくる。
「そ、そんなことが可能なのですか?」
「シュウヤ、本気なの?」
「本気の提案だ。ユイはもう俺の血を分けた女。<筆頭従者長>が一人。ユイの敵は俺の敵となる」
「――シュウヤッ」
ユイは飛ぶようにして抱きついてくる。
昔懐かしい、小柄な体だ。
お尻を、手のひらで、むぎゅっとしてあげた。
「ご主人様にくっつきすぎですっ――」
ヴィーネが強引にユイの体を離していた。
「次はわたしっ――シュウヤッ」
レベッカが飛びついてくる。
――が、癖で爪先半回転を実行。
華麗に、レベッカを躱す。
彼女は金色の髪を大きく揺らして盛大にコケていた。
「あぁぁー! ユイにだけ何回もハグして、わたしは駄目なの? むかつくぅ――」
レベッカは全身に蒼炎を灯した瞬間、そんなことを叫ぶ――と、爆発的な加速で俺に突進――。
ぐおっと、肩タックル的な抱き締めを腹に喰らう。
俺は砂浜に転倒してしまう。
「……レベッカ、それは強烈すぎる」
「ご、ごめんね。感情と身体能力の力加減が難しいの……」
「いや、まぁ、レベッカの気持ちは嬉しいし、小柄の柔らかい感触も好きだぞ。金色の髪もいい匂いだし……」
「ふふ、シュウヤ……」
レベッカは蒼炎を瞳に宿しながら積極的に俺の唇を奪ってきた。
「あぁー、ご主人様とレベッカがキスをっ」
「ん、ずるいっ」
「にゃお」
エヴァとヴィーネが必死な顔を浮かべて近寄ってきた。
皆で俺の体を抱き締め大会。
正面の取り合いで彼女たちは軽い喧嘩を始めてしまう……。
結局一人一人へ濃厚なキスをしたら収まった。
「……わたしには、必要ないですから」
それは、カルードさんの言葉だ。
彼は何故か紅く頬を染めて、後ろに退きながら話している。
渋くてカッコイイが、所詮は野郎の中年だ。
それに、お父さんにキスをする訳がないだろう。
「ふふ、父さん、馬鹿ねぇ、そんな顔をしないでよ。シュウヤは男には興味がないから大丈夫だって」
「……少し残念だが、それは分かる。だが、あまりにも接吻、キスの嵐で……混乱してしまった」
残念が気がかりだが、それはしょうがあるまい。
俺にはキス研究会という、おっぱい研究会と双璧を成す、御技があるのだからな。
「そんなことより、お父さん、いや、カルードさん、ユイも、一旦、休憩してからになりますが、王都までの道案内を頼みますよ」
「うん、任せて」
「わかりました」
そこから少し一人になるからついてくるなと、周りへ軽く命令を行い、夜の砂浜を歩いていく。
能力を確認しとこ。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:22
称号:水神ノ超仗者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業: 魔槍血鎖師
筋力22.9敏捷23.5体力21.2魔力25.9→22.9器用21.0精神28.2→25.2運11.3
状態:平穏
魔力、精神の値がかなり減っている。
合計四人の選ばれし眷属である<筆頭従者長>を誕生させたからな。
「にゃお」
肩に乗ってくると頬に頭を擦りつけてくる。
「ロロ、明日の朝には王都に乗り込むぞ、お前の大きくなる力が必要だ」
「にゃ」
「よし、ロロ、少し降りてろ」
「ンン」
目に留まった砂浜に転がった平べったい石を拾う。
そして、<夜目>を発動しつつ波打つ海へ投げた。
<投擲>効果か。
海の波は弾け散る。
波に穴を開けて海を貫いていた。
直ぐに波は無くなったが。
少し、予想と違うが、これはこれで遊びになる――。
どんどん意味もなく投げ続けていく。
「ご主人様、さっきから音が凄いですが……」
「シュウヤ、何、この音は」
「ん、石を投げているの?」
「閣下、遠くのモンスターを倒しているのですね、さすがです」
ヘルメが指摘した通り――。
海には何かが漂って血が浮いていた。
「……本当だ。見て、あそこ。血の海になってるし、死骸が何十と浮かんで、変な大きい魚も集まってる」
レベッカは蒼炎を灯した目を浮かべて語る。
彼女の目には<夜目>的な暗視効果もあるのだろうか。
あれ、ユイがいないが!
全員が貝殻の水着を着ているじゃないですか!
こりゃ、光球を発生させて、明るい光でも見ないとな。
「レベッカ、遠くが見えているの? あ、見えた。これも光魔ルシヴァルの力?」
「そうなのかな。あっ、エヴァ、目が紫色に光ってる」
「ん、暗闇を見ようとするとそうなるみたい」
「わたしは元がダークエルフなので当然、見えています」
俺は猛烈に感動、興奮。
鼻息を荒らげながら、海岸線を眺める彼女たちへと、
「なぁ……皆、水着を着てくれたんだな……」
「うんっ、シュウヤが喜ぶかなーと、わたしが皆に提案したのよ?」
レベッカは偉いでしょ?
というように腰に白魚のような手を当て、胸を張る。
丘のような曲線はないが、僅かに膨らんだ胸は愛おしい。
金色の髪も綺麗だし、美しい姿だ。
それに、俺のことを喜ばせようとしてくれる心は可愛すぎる……。
「ん……」
エヴァは嬌羞を帯びた微笑を浮かべて、悩ましい腰を捻る。
その際に、爆乳が揺れていた……。
貝殻が小さく見える……。
魔導車椅子をセグウェイタイプに変更して、砂浜を振動もなく移動していくが、そのタワワな乳は微妙に揺れた。
前にも味わったが、やはり、直に揺らしたい。
「ご主人様……」
ヴィーネも大きい美乳だ。
当然の如く貝殻が小さい。
銀の光沢を帯びた長髪が海風に揺れて靡く。
光球の明かりに髪が反射し綺麗に輝いていた。
「閣下のために、わたしも着ました」
ヘルメのプロポーションも抜群だ。
黝い葉と蒼い葉の皮膚の色合いが抑えられている。
柔らかそうな双丘メロン・ダイナマイティーを隠せない貝殻の水着が目立つ。
口元を隠すように動かされた指先には、竜の鱗のようにつやつやしていそうな丸い爪が見えている。
自然と口が動いていた。
「皆、一緒に走ろう」
「え?」
「走るのですか?」
鼻血を出しながら語る。
「そうだ。一緒に走ろう」
「ん、へんなシュウヤ。鼻から血がでてるし」
「いいから、一緒に走ろう」
「も、もう、何か変よ? 目が血走っているし、大丈夫?」
レベッカは目を細めて可愛らしく睨みながら、見上げてくるが構わない。
「一緒に走ろう」
「ん、可笑しいけど、走るのね? わたしは車椅子だけど」
「構わん、走るぞ――」
興奮した俺は走りながら、いつぞやに、妄想したように笑いながら振り返る。
後ろから貝殻の水着を着た美女たちが乳を揺らして走ってくる。
レベッカの乳に関してはあえて触れない。
幸せなひと時だ……夢のよう。
「あー、シュウヤ、前を見て」
「ん、ぶつかる、シュウヤ完全に興奮してる」
「――ぐあっ」
俺は警告を受けるが、大きな木に衝突してしまった。
巨大な椰子の実が上から落ちてきて、更に痛みを味わう。
「ぷっ、シュウヤはやっぱり、エロ神ね」
「ん、えっちい神」
「閣下、大丈夫ですか?」
「ご主人様、珍しく気が動転されていましたね……」
ヴィーネとヘルメが俺の手と肩を抱えて起こしてくれた。
「ありがと。すまんな、少し暴走した……夢だったんだ。美女たち、貝殻の水着を着た美女たちと一緒に砂浜を走るのが……」
「なるほど、ご主人様がオカシクなられた訳が分かりました。夢を叶えられたのですね。わたしも心が満たされて幸せです……」
「ん、シュウヤが夢を叶えた、わたしも嬉しい」
「変な夢だけど、シュウヤ……わたしの水着でも嬉しいの?」
素晴らしい腋を持つレベッカが暗に胸がないことを示しながら話す。
「当たり前じゃないか、お前も俺の好きな女だ。あとでいっぱい可愛がってやる」
「あぅ……」
「ん、わたしもお願い」
「おう、エヴァも車椅子ごと抱き締めてやるさ」
「ふふっ、そんなことしたら魔導車椅子が壊れちゃうからだめ」
そんな可愛いことを話すエヴァの側へ魔脚で近寄る。
セグウェイに乗るエヴァの体を引き寄せ抱き締めてから……エヴァの耳に、
「――だったらエヴァを壊しちゃうかな」
優しく語ると、エヴァは顔を真っ赤に染める。
「ご主人様っ、何を壊すのですか?」
「ん、ふふっ、ヴィーネよりも、わたしがいいって」
「――本当ですか?」
ヴィーネは血相を変えて俺に詰め寄ってきた。
「エヴァ、からかうな。エヴァを壊しちゃうぞって言ったんだよ」
「まぁ……閣下、わたしも激しくお願いします」
「そうだったのですか。ご主人様、わたしも忘れられないほどの特別な〝おしおき〟をお願いしますね」
おしおきか。
最初は変なことはせずに、海へ泳ぎに行って遊んだりしたあと……。
黒猫ロロディーヌが呆れるほどの彼女たちとの激しい夜となるが……。
途中でユイに、わたしには水着がないの?
と乱入を受ける。
続いて、貝殻水着とアイテムボックスのポーチをユイにプレゼントするという、一波乱がありながらも何事もなく……。
そのユイも激しい情事に混ざり濃密な夜を過ごしていった。
彼女たちは眷属化し身体能力が増しているが、宗主たる俺に敵う訳もなく……。
ヘルメも含めて全員が早々にダウン。
俺は独りで、朝を迎えることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます