百四十三話 女司祭の最期
剣才ハリアンか。
確かに他の女ダークエルフと違う。
一際、身体能力が高い動きを見せる。
その剣才ハリアンはポーションのような液体を部下であろう朱色防護服を着る女ダークエルフたちに掛けられている。
回復魔法も唱えていた。
水系統の癒し魔法なのか、シャワーのような水が気を失っているハリアンに掛かる。
ヴィーネは治療を受けている女ダークエルフのハリアンを睨み続ける。
ハリアンは彼女にとって仇の一族であり、その首謀者の一人だ。
彼女に任せるか。
「ヴィーネ。こいつらは任せた」
「はいっ」
ヴィーネは直ぐに弓と矢筒を床へ捨て置く。
淀みのない所作で、シャキンっと心地好い金属音を立てながら腰に差してあった黒蛇の刀剣と銀剣を引き抜いた。
そのまま前傾姿勢を保ち、地面に倒れているハリアンと介抱しているダークエルフのもとへ走り出す。
介抱しているダークエルフの一人が立ち上がり長剣を構えてヴィーネを突き刺そうと伸ばすが、ヴィーネは青白い身体を僅かに傾けダークエルフの長剣の突きを鼻先一寸で躱す。
ヴィーネは反撃の
ダークエルフの胸を銀剣で突き刺す。
だが、突きが浅いと判断したのかヴィーネは片方の肩を落とし前に踏み込む。
技めいた言葉を放ちながら黒蛇で袈裟斬りを実行。
黒い斬撃がダークエルフの頸椎を切裂く。
突きと斬撃のコンビネーションの剣技であっさりとダークエルフの首を斬り落とした。
それを愕然とした様子で見ていた残りの二人の女ダークエルフたちはハリアンの介抱を止める。
罵る言葉を叫びながら、倒れているハリアンを庇うように立つ。
「――そこを退け!!」
ヴィーネの鬼気迫る言葉と動き。
右手に持った黒蛇を左下から右上へ掬い上げるように、敵の長剣を弾くと、流れるように左手に握られた銀剣で、敵ダークエルフの胴体を真横へ斬り裂いた勢いを利用して体を横回転させる。
そこに背後に回っていたもう一人の女ダークエルフが直刀剣でヴィーネの背後を狙う。
ヴィーネは右横へ回転し避けると背中に迫った剣突を躱す。
そのまま後方宙返り一回ひねりで、ダークエルフの頭上を越えながら黒蛇を振り下ろしていた。
頭を半分斬られた女ダークエルフは脳の断面図を見せながら倒れていく。
その倒れゆく顔は緑色に変色していた。
黒蛇の毒効果だろう。
ヴィーネは体操選手のように地面に着地。
赤革のグラディエーターブーツで地に降り立つと、
「血には血だ! 私の、いや、一族の者たちの無念を受けるがいい!」
と、叫ぶ。
ハリアンがヴィーネの存在に気が付いたのか、急いで逃げるように両手で土を掻き回しながら、匍匐前進を行い出す。
ヴィーネはその逃げようとしている、ハリアンの背中を赤革ブーツの底で踏みつけていた。
「どこにもいかせん! わたしは、元【第十二魔導貴族アズマイル家】次女だったヴィーネだ。家族を潰した報いを受けるがいい――」
ヴィーネはそう名乗ると、ハリアンの背中へ“黒蛇”を突き立てる。
「ウゲェッ! ヒィアァァ――」
背中を刺されたハリアンは身を反らし、震わせて、叫ぶ。
「姉様のっ、母様のっ! 妹たちのっ!!!」
何回も黒蛇を背中に突き刺していた。
朱色の防具服が切り裂かれ背中の肉がぐちゃぐちゃに潰れ頭は原型が無くなっている。
動かぬ屍になっても、まだヴィーネは突き刺し続けていた。
「おぃ、ヴィーネ」
「ハァハァハァ……はぃ」
興奮しているヴィーネの顔は疲れた顔に見えた。
「もうよせ、な?」
「はい」
彼女は呆然としていたが、俺の言葉に目力を取り戻す。
首を縦に動かして、小さく頷く。彼女は持っていた銀鋼の長剣と黒蛇の血を払うと、腰にある鞘へ剣を仕舞い、落していた弓を拾い矢筒から矢を数本取り出して、何事も無かったように周囲を窺っていた。
俺も周りを見ていく。
すると、
「にゃ」
馬獅子型だった黒猫が、軽く鳴いて、黒豹型の中型サイズへ姿を変身させていた。
ロロは俺の足元近くに戻ってくる。
「頑張ったな」
嬉しそうにごろごろと喉声を鳴らし、黒長い尻尾を足へ絡めてくる。
「はは、今はよせい」
黒豹と戯れながらも警戒は緩めない。
視線を上げて、きょろきょろと見回していく。
左は瓦礫が多い。
周囲には元大屋敷だった瓦礫と倒したダークエルフの死骸が転がっているだけか、と思ったが、離れた右の壁近くから戦闘音が聞こえてくる。
それは二体の沸騎士と精霊ヘルメがダークエルフたちと戦っている現場だった。
あそこ以外は……ほぼ倒しきったようだ。
「ご主人様、あそこで戦っている異形なるモノたちは……」
ヴィーネがそう質問してきた。
「あぁ、あれは俺の配下の者たちだ。後で紹介しよう」
「……なんと、あの者たちを……了解しました」
ヴィーネはまた驚き瞳を散大させて、口を広げた状態になっていた。
暫く茫然としていたが、独り勝手に納得したかのように何回も首を縦に動かしては頷き、いつもの冷静な顔へ戻っていく。
美人顔だ。
その瞬間、左の遠くの方から音が響く。
瓦礫が嵩張っていた箇所からの崩れる音だ。
魔素もそこから反応を示す。
その瓦礫の下からダークエルフの朱色防護を着る集団が現れた。
肩甲付きの黒い鎖帷子系を身につけている奴らも複数混じっている。
「まだ、生き残りはそれなりにいるようだ」
「はい。そのようで――」
現れたダークエルフたちは武器を手にすると口々に叫び合う。
彼女らは俺たちを見つけると、憎しみを込めた罵詈雑言を吐き捨てながら一斉に向かってきた。
少し距離があるが……狂騒顔で走ってくる。
ヴィーネはそれら走ってくる敵を冷徹に見据えて、弓矢を射出。
遠距離から――次々と射抜いていく。
俺も魔法で仕留めようかなと思ったが、
「ンンン、にゃお」
俺とヴィーネを守るように進み立つ。
火炎ブレス?
違った。宙に触手を六本浮かせ、敵が近付くのを待っているようだ。
そこに、
「ご主人様、敵の数が多いので、エクストラスキルを解放します。よろしいですか?」
「いいぞ。ロロ、ヴィーネが何かするようだ。距離があるので大丈夫と思うが、一応、俺の側に来ていろ」
「にゃ」
ヴィーネのエクストラスキル。何気に見るのは初か?
どんな効果になるんだろ。楽しみ。
背後ではなくヴィーネの右斜め前に移動して、彼女の顔を拝見した。
「ここにいても大丈夫だよな?」
「はい」
彼女は笑顔でそう言うと、銀仮面を脱ぎ、銀髪の上に帽子をかぶるように乗せている。
右頬には綺麗な銀色蝶々が輝いているのが見えた。
その輝いてる銀蝶がある頬へ青白い指先が触れると、細指が銀色に煌き頬から手の甲へ蝶々が移っていた。
銀蝶が移った手を大事そうに胸前に持っていき、反対の手と銀蝶が輝く手を合わせて指の隙間なく両手を組む。
銀色の輝きが一段と増して反対の手も輝き出し、両手の全てが煌き出す。
その光輝く手を離し、親指と人差し指を立て残りの指は内側に纏めた。
同時に、両手の輝きが小さい銀の粒に変わっていく。
更に、
掌を組み合わせる印を作るごとに、魔力が強まり銀の粒たちが両手の甲部分に集合し、銀色の小さい蝶々が生まれて出ては、両手を覆い銀繭となっていた。
その行動に、俺は一瞬だが、過去の日本のことを思い出す。
ラグビーの五郎丸。
忍者漫画の印。
密教の印。
だが、ヴィーネが手印を解放した瞬間。
そんな脳裏に浮かぶイメージはすぐに吹っ飛んでいた。
銀の繭だった掌に一点の夜が現れたと思ったら、ヴィーネはその夜を切り裂くように、両手を左右へ離す。
その瞬間、銀色蝶々、無数の銀の斑蛾たちが暗き空へ舞っていた。
綺麗。蝶々の群れが美しい。
その美しい無数の銀蝶々からは、細やかな銀粒子の鱗粉が、雨のように走ってくるダークエルフたちへ降り注いでいく。
銀の鱗粉や蝶々がダークエルフたちの顔や手の皮膚に触れると、彼らはいきなり豹変。
叫び、笑い、怒り、踊り、頭を押さえては猪突猛進に走り出し、ぶつかり合って衝突し合っていた。
完全に錯乱、混乱状態。
誰一人として、俺たちに向かってきたダークエルフはいなかった。
もう既に、地に倒れて動かない者もいる。
その強烈なエクストラスキルを使用したヴィーネは、その場の地面に崩れるように座り込んでいた。
彼女は大量に汗を掻いたのか、長い銀髪が悩ましく頬に貼り付いている。
青白い顔が、更に青くなったように疲れた顔を見せていた。
そのままゆっくりとした動作で、自らの顔にある銀の蝶々を隠すように、銀仮面を被せている。
疲れて立てないほど、魔力を消費するようだ。
アイテムボックスからポーションを取り出す。
「ヴィーネ、大丈夫か? これでも飲んでおけ」
「あ、これは……?」
「ポーションだよ。気にせずに飲め、まだここは戦場だ」
「はっ、ありがとうございます」
ポーションを飲むと幾分か回復したようで、笑顔を見せる。空瓶を返してきた。
いらないけど、それを掴み胸ポケットに仕舞う。
「さて――」
混乱を起こしているダークエルフたちへ顔を向ける。
まだ生きているのが多い。
始末しなきゃな。
魔法でやるか。
「……わたしが殺ります」
ヴィーネは
「――待て、俺が纏めて殺る。ヴィーネはまだ休憩だ。周囲警戒を頼む」
「……はぃ」
ヴィーネは少し膝を揺らして地面に座る。
やはりかなり疲れてるようだ。
「ロロ、ヴィーネを守れ」
「にゃおん」
ヴィーネが地面に座るのを見届けてから、<導想魔手>を使い跳躍しながら空中を移動。
混乱しているダークエルフたちの斜め上の宙に来た。
――さっさと終わらすか。
水属性の言語魔法。
覚えている最高クラス魔法。
前よりも魔力を込めてイメージを強く。
“列氷の竜牙”を強く想像。
ダークエルフたちを見据えて、腕を伸ばす……
――《
その刹那、腕先から“氷龍の頭”を象った列氷が発生。
氷龍の顎が上下に広がりうなり声を上げて飛翔する。
氷龍の尾ひれが靡く度に蒼い軌跡が宙空に残り、冷たい空気がかなり離れた位置にいる俺にも感じられた。
氷竜の上顎と下顎から生え揃った氷牙で噛みつくようにダークエルフたちへ衝突。
その衝撃は周囲の瓦礫を吹き飛ばし、列氷吹雪の波となって円状に広がっていた。
列氷の柱がダークエルフたちの墓標のようだ。
真っ白い造形となって凍り固まるか、列氷に突き刺さって死んでいた。
魔法の範囲内だけ、雪国のよう。
外周りは吹き飛んだ瓦礫群とダークエルフの死骸で、ぐちゃぐちゃだ。
上手くいった。
と思ったら、動いてるダークエルフを発見。
その場で、<
光条の線が弧を描きながら、逃げようとしていたダークエルフの背中に突き刺さる。
更に、刺さっている光槍の後方部が螺旋分裂し、蜘蛛の巣のような光網ネットが作られると、その光網ネットがダークエルフの背中を越えて広がった。
背中に深々と光槍が刺さった状態で光網に捕らわれて身動きが取れないダークエルフ。
あのままでも死ぬと思うが、一応。
《
イメージした氷の形状はティアドロップ型のライフル銃弾。
魔法の氷弾は動けないダークエルフの頭蓋を粉砕。
良し、命中。
<導想魔手>を足場に使い、
ヴィーネは肩を震わせながら片膝を地面につき、頭を下げて待っていた。
いつもの
「さすがは、強き雄。凄まじき水属性魔法です。感動で打ち震えています……」
はは、大袈裟だなぁーっと言おうとしたけど、止めとこ。
ヴィーネの目は熱を帯びて少し潤んでいる……真剣な面だ。
話を変えよ。
「……あぁ、それより、ヴィーネの身体は大丈夫か? さっきのエクストラスキルは魔力を多大に消費するようだけど」
「はい。ポーションのお陰で徐々に回復しました。もう平気です」
彼女にあげたのは即回復というタイプではなく、徐々に魔力が回復するタイプのポーションだったようだ。
クナが持っていた奴だから純度がばらばらなのかも。
「そっか。良かった」
ヴィーネの顔色を見て回復具合を確認してると、生き残りのダークエルフたちと戦っていた常闇の水精霊ヘルメと沸騎士たちが俺たちのところへ戻ってきた。
彼らは俺の目の前で、急ストップ。
同時に片膝を地面につく体勢となる。
片膝をついてる沸騎士たちは傷だらけだ。
胸の硬そうな黒鎧と赤鎧の一部が欠けて穴も空き、矢が複数刺さっていた。
ボロボロ。
一方で、ヘルメは無傷。
「よっ、ごくろうさん。ヘルメはさすがに無傷か。だが、沸騎士ゼメタスとアドモスはかなり傷つけられたな……」
「にゃ、ンン、にゃ、にゃん」
想像するに、骨太郎、骨吉、だらしないにゃ、つかえないにゃ? とかかな。
「……閣下、わたしが沸騎士たちを魔法で支援しながら互いに協力して、敵を殲滅していました。沸騎士たちはだいぶ攻撃を受けていましたが……」
常闇の水精霊ヘルメは戦況を軽く説明してくれた。
彼女は全身の蒼い葉と黝の葉っぱの皮膚を風でウェーブを起こしたように動かすと、長髪も同様に波を受けたように揺らぎ始めている。
そのまま、ぼろぼろになっている沸騎士たちを流し目で見つめていた。
「はっ、面目なく……」
「次こそは無傷で戦い終えましょうぞ」
ゼメタスとアドモスの顔は迫力のあるゴツイ骨兜だ。
その骨兜の表情からは感情は読み取れないが悔しそうに重低音を響かせながら話している。
肩にいる
さて、
「……分かった。それで、沸騎士たちとヘルメよ。紹介しとこう。そこで跪いている銀髪はダークエルフだ。彼女は俺の奴隷だったが、今は従者であり仲間だ。仲良くしてやってくれ、よろしくな」
「「ははっ、御心のままに――」」
「畏まりました」
「にゃおん」
沸騎士は声を揃えて重低音で了承。
ヘルメも頭を下げて、了承。
「皆様、弱輩ながら、ご主人様の配下である末席に加わることになりました。名前はヴィーネと申します。種族はダークエルフです。矮小な身ではありますが、ご主人様を支えて少しでも役に立ちたい思いであります。これからもご指導ご鞭撻くださいますようにお願いいたします」
ヴィーネは部下たちへ深々と頭を下げる。
ちゃんと自己紹介をしていた。
「宜しく頼むぞ、青肌のヴィーネ殿、我の名はゼメタス。黒沸騎士だ」
「宜しく頼む、ヴィーネ殿、我はアドモス。同じく赤沸騎士である」
「……いつも見てましたよ。わたしは常闇の水精霊ヘルメです。閣下に失礼が無きように」
「にゃ、ンン、にゃおん」
常闇の水精霊ヘルメは若干睨みを見せてヴィーネを見ていたが、少し間を置いて、納得したのか流し目に変わりヴィーネの全身をチェックするように見つめている。
ドヤ顔だし、また、先輩ぶっているのだろう。
「……では紹介は済んだな。ここはまだ戦場だ。三女の剣才ハリアンは殺ったが、まだ親玉の司祭家長であるフェレミン・ダオ・ランギバード、長女の鬼才トメリア、次女の魔人ガミリたちの死体を見ていない。多分、最初の古代魔法を直接喰らい死んでいるか、建物の崩壊に巻き込まれて死んでいると思うが、もしかしたら、三女のように古代魔法で死なずに生き残っているかもしれない」
「はい、では見回りますか?」
「そうしよう――」
周りを見渡しながら、ヴィーネに同意する。
「この、ゼメタスにご命令を」
「アドモスにご指示を」
「閣下、お供します」
「沸騎士たちは損傷激しいから、一度、魔界へ帰れ。ヘルメ、ヴィーネ、少し歩くぞ」
命令した途端、沸騎士たちは何も言わずに、頭を下げて消えていく。
「はいっ」
「閣下についていきます」
彼女たちと一緒に、肩に
掌握察も行った。
下にある瓦礫を魔法や魔槍杖で吹き飛ばしながら進む。
瓦礫を吹き飛ばしながら大屋敷の中心部があった辺りを捜索して、数分後。
――下から魔素の反応があった。
それも複数だ。
「ここの下に幾つか反応がある」
「確かに、反応があります。沈んで確かめてきますか?」
「そうだな。見てきて」
常闇の水精霊ヘルメは一瞬で水状態になると瓦礫の隙間から沈み込んでいく。
ここの瓦礫は建物の上層部があった箇所だ。
位置的にもしかしたら……司祭が暮らすとこだったりして。
「……ヘルメ様は精霊様なのですね」
ヴィーネは液体化したヘルメが沈み込んだ場所を凝視している。
突然に水になり地面に消えたのに驚いたようだ。
「そうだ。常闇の水精霊。闇と水の眷族であり、俺の魔力を糧に生きている精霊だ。多分、あんな精霊は他にはいないと思う」
「……」
ヴィーネは沈黙した。
こないだ過去話を話していた時に見せていたような難しい顔を浮かべて長考していた。
「……ヴィーネ、聞いているか?」
「は、はい。すみません」
「また何か考えていただろう? 言ってみ」
半笑いの顔を浮かべて、ヴィーネの顔を見た。
「はい。ご主人様はわたしたちの言語も理解しているようでした……本当にマグルなのですか?」
ヴィーネはぎこちない笑顔で聞いてくる。
やはり、そう思うのは当然と言えよう。
俺は普通のマグル、人族じゃない。
人族とヴァンパイア系の流れを組む、光魔ルシヴァルだ。
まぁ、彼女だからこそ、闇の一面をわざと見せつけたのだけど。
「……知りたい?」
「当然です」
「ンン、にゃ」
だよねぇ。
勇気を出して言っちゃうか。
これで離れるのならば、それもまた受け入れる。
「……そうだよ。正直、嫌われるのは怖いが……ヴィーネの想像通り、俺は普通のマグル、人族じゃない。勿論、この姿を形どってるからにはマグルの血も入っているが……俺は違う種族だ。人族と魔族ヴァンパイアの流れを組む、ダンピールに近い、血の摂取が求められる、光魔ルシヴァル。という新種族だ」
「な、なんとっ」
ヴィーネは、またその場で身体を震わせて片膝を突く。
そして、ゆっくりと顔をあげて、俺を見つめてきた。
おぉ、恐怖の顔色ではない。少し安心した。
右上半分を隠す銀仮面を被っていても、その左半分の顔色で少しは感情の判別はできる。
それは恐怖ではなく、眼輪筋を弛緩させた、熱を帯びた情熱を感じさせる顔付き。
「ご主人様に改めて忠誠を……」
目が潤んでいるし。今日二回目だぞ。
と、軽く冗談のツッコミを入れようと思ったけど、止めといた。
彼女は真剣に感情を表に出している。
その思いを考えると、凄く嬉しい。
けど、俺が濁を飲んだことについても聞いておこう。
「……俺を嫌わないのか? 今のように虐殺、嗜虐を好む。血を吸う怪物だぞ? 怖くないのか?」
「わたしを信頼して下さり、仇の一族の殲滅を叶えようとしてくれる優しきご主人様を嫌うなど絶対に起こりえません。赤ん坊の血で耳元が朱に染まろうとも、全魔導貴族が、敵に回ろうとも、御側でお仕えをしたい思いです」
良かった。彼女の本心だろう。
何気に、敵と戦っている時よりも緊張した。
「……ヴィーネみたいな美人にそこまで思われたら嬉しいね」
調子に乗り、指先でヴィーネの頬に少し添えた。
触れるか触れないかの優しく、そっと。
「ぁ、はぃ……」
ヴィーネは頬を赤くして可愛く反応した。
彼女は目を瞑りながら、俺の指先に猫が頬を擦るように顔を寄せてくる。
う、ちょいエロ。
このまま、指を舐めろ、とか? 言っちゃったらどうだろう?
そのエロい妄想をした瞬間、股間の下からのツッコミ。
もとい、瓦礫の下から音が響く。
ヘルメが消えていった真下からだ。
音は大きくなると、瓦礫が吹っ飛び、穴ができていた。
そこからニュルリと水状態のヘルメが現れて瓦礫の上に戻ってくると、人型の姿へ戻っていく。
「にゃお――」
「ロロ、まだ中に入るなよ」
注意をしていると、黝と蒼皮膚を持つ人型女性の姿に戻った精霊ヘルメが口を開く。
「……閣下、瓦礫の下には、まだ複数の生き残りがいます」
「やはり、まだいたか。人数は?」
「大型の怪物が五体。人型の数は少なく五人。人型は皆、怪我を負っているようです。そのうちの一人は大きい魔力を身体に内包している女ダークエルフでした」
大型怪物が五体? 人型の魔力が大きいのは司祭か?
だったら大当たりかな。
「良くやった。ヘルメ。後で、ご褒美だ」
「はっ、ありがとうございます」
ヘルメは笑顔を浮かべて、頬の色を紅くさせている。
「ヴィーネ、聞いていた通りだ。大型の怪物が気になるが、やはり、ここの瓦礫の下は大屋敷の中心部だったようだ。怪我を負っているとはいえ多大な魔力を持つダークエルフ。司祭の可能性が高いぞ」
「はい。司祭家長フェレミン・ダオ・ランギバードだと思われます。しかし、大型の怪物とは、もしや……」
ヴィーネは心当たりがあるようだ。
「どうした? 怪物が何なのか知っているのか?」
「はい、高位ランクの司祭には神から与えられた恩寵があり、特別な魔具や魔神具を用いて、モンスターと下民男のダークエルフを掛け合わせて使用する、秘魔術が使えるようになるとか、噂を聞いたことがあります……」
うへぇ、モンスターと合体かよ。
「どんなモンスターか、攻撃や何をしてくるか分かるか?」
「いえ、全く想像がつきません。今まで、高位魔導貴族を追い詰めたことは、ありませんでしたので」
「閣下、下半身に蠍と上半身に蟷螂が合わさった異形なる怪物です」
そうか、ヘルメは見てきたんだな。
蠍と蟷螂……想像すると、二本の鎌か、複数の脚による攻撃か。
「なるほど、蠍と蟷螂か。……念のため、俺が先頭を行く。後からヴィーネ、ヘルメ、ロロ、で降りてこい。この穴から行くぞ」
「はいっ」
「お任せを」
「にゃお」
穴は瓦礫が積み重なり疑似階段のようになっていた。
大きい彫像も崩れて重なって階段状になっている。
細かな埃が舞う中、瓦礫の階段を降りていく。
ここがどういう場所だったのか、だいたい分かってきた……。
魔素の反応も近くなる。
元は巨大ホールだった?
シャンデリアだった物や、崩れた色付きの壁跡、大きい崩れた彫像からして、巨大な謁見会場的なところだったようだ。
やはり、元は天井高い巨大ホールか。
ここから地下の地面まで三十メートルはありそうだ。
その地下空間にはヘルメが言ってた通り、大型の怪物が屯していた。
下半身が蠍で上半身が蟷螂。
真ん中の胴体辺りにはダークエルフの顔だけが飛び出ていた。
姿はヘルメとヴィーネが言ってた通り、モンスターとダークエルフを掛け合わせた怪物だ。
それら大柄怪物の数体が、巨大体格を生かすように我が物顔で、瓦礫により閉じ込められた地下空間を歩き回っていた。
怪物たちは蟷螂の二本腕の刃を使い瓦礫を斬るように退かしている。
あの刃は強烈そう。
硬そうな瓦礫をバターのように切っている。
ただ、彼らは闇雲に暴れている訳ではなさそうだ。
瓦礫を退かしてるとこを見ると、命令を受けて通路を復旧させようと働いているのか?
だけど、あの右隅の凹みにいる一匹の大柄怪物は動いていないな。
あ、そこに女ダークエルフたちがいるのか……。
その動かずにいる大柄怪物の下には女ダークエルフたちが身を守るように纏まっていた。
あの右隅に行くとして、手前にいる大柄怪物たちが邪魔だな。
そこで振り返り、
「ロロ、ヘルメ、ヴィーネ、まずは、動き回っている四匹の大型怪物を殺る。手前で瓦礫を切っている奴は俺が仕留める。右と左にはロロ、ヘルメ、ヴィーネが当たれ」
指でのジェスチャーを加えて指示を出す。
「わかりました」
「にゃ」
「はい」
すぐに瓦礫の山から飛び降りた。
まずはあの手前にいる怪物だ。
落下してる最中に、左手を怪物へ掲げて<鎖>を撃ち放った。
鎖は怪物の頭目掛けて、宙を直進。
鎖は、蟷螂の頭部を難なく貫くと、とぐろを巻くように怪物の上半身を貫き刺しながら巻き付かせていく。
しかし、怪物は頭部を鎖に貫かれても生きていた。
上半身に巻き付く鎖の呪縛から逃れようと鎌腕の刃を上下左右に振るうように使い、巻き付く鎖を切ろうとしている。
だが、鎖はそんな怪物の刃では傷も付かずに、怪物の上半身を一気にキツく締め付けていく。
落下中に怪物へ巻き付かせている鎖を左手の因子マークの中へ収斂し鎖を引き寄せる勢いを利用――。
その間に、筋肉を意識。
身体を半身背中側へ捻りながら魔槍杖を右斜め上段へ構えると一気に、怪物へ近付いていく。
槍の間合いに入った瞬間、鎖を消失させた。
そこで、落下する重力も味方につけた魔槍を振り下ろす<豪閃>を放つ。
大型の怪物は叩きつけの紅斧刃の<豪閃>をまともに喰らい右肩が凹むように左右へ引き裂かれ下半身の臀部まで紅斧刃は到達した。
引き裂かれた胴体からは豪華な生花のように割かれた五臓六腑の青花が咲き乱れている。
「ゲェェッ!」
胴体付近にあった男ダークエルフの頭部も引き裂かれた瞬間に、断末魔の悲鳴をあげる。
魔槍杖を振り抜いて着地。
大柄怪物が地面に倒れドスンっと衝撃音が響く。
他の大柄怪物たちが一斉に振り向いてきた。
そのタイミングで、ヴィーネの弓矢、ロロの触手骨剣、ヘルメの無数なる氷槍が、左にいた大柄怪物に多段ヒット。
連続で遠隔攻撃を受けた続けた大柄怪物は早々と地面に倒れて大音量を響かせる。
残りの大柄怪物たちは蠍足を節操なしに動かしながら右隅の方へ逃げ右隅で元から動いていなかった怪物と合流していた。
合計三体の大柄怪物が壁を作るように怪我をした女ダークエルフたちを守る体勢になっている。
その守られている女ダークエルフたちを注視。
中心にいるのが女司祭フェレミンだろう。
蛇の模様を象った兜を被り、司祭が着るようなローブ系の服を着ている。
だが、血だらけだ。
頭や腹に怪我を負っているようだ。
右手にある長い杖で身体を支えるように立ちながら、俺たち侵入者を睨んでいる。
他の朱色防護服を着ているダークエルフたちも同様に怪我を負っているようだ。
敵は怪我人を抱えている以上、前には出てきそうにない。
集団で前進して、相手にプレッシャーを与えるか。
仲間の皆に知らせよ。
「――敵は守勢に入ったようだ。来い」
「ンン、にゃおん」
すぐにロロが反応。
その場で馬獅子型タイプへ変身すると、ヘルメとヴィーネを置いてけぼりにして、俺の側に寄ってきた。
「ロロ様っ、速い――」
「――今、行きます」
二人は
「見ての通り、あそこに敵は集合してる。少し近付くぞ」
「はい」
「閣下、敵のお尻頭たちを殲滅させましょう」
「ンン、にゃ」
ヘルメとヴィーネは敵集団を見ると、それぞれ返事をしていた。
「きゃっ、ロロ様っ」
「ンン、にゃお、にゃ」
何を言っているか分からないが『臭くないニャ』的なことか?
フレーメン反応は起こしていないので多分そうだろう。
その様子に微笑んでから先頭に立ち歩き出す。
右にロロディーヌ、左後方にヘルメ、右の後方からヴィーネがついてきた。
「――それ以上近付くなっ、お前たちは何者だ?」
朱色防護服を着ている女ダークエルフの一人が叫ぶ。
彼女は頭から血を流し、片腕が包帯で巻かれてあった。
俺は言われた通りにその場で止まり、笑顔を浮かべて対応。
「何者か、か。俺はこの通りの男だが?」
「なっ!? マ、マグル……」
「マ、マグルの男だと……」
「本当だ、耳が短い、顔が平たいぞっ」
顔を確認した司祭を含めて五人いる女ダークエルフたちは、ざわつき出す。
「マグルマグルと煩いな。そうだよ。俺の見た目はマグルの男だ。それで気になるのだけど、やっぱり、真ん中にいるのが女司祭? 貴女の名前はフェレミンか?」
「無礼なっ! マグル風情がっ――」
頭から血を流している女ダークエルフが凶悪そうな顔を浮かべて叫ぶ。
俺の言葉が逆鱗に触れたようだ。
武器を構え持つと向かってきた。
「ミズレッ――駄目です」
司祭らしき女が言葉で制止させようとするが、ミズレと呼ばれた女ダークエルフは無視して直進。
大柄怪物たちの間を走り前屈みの姿勢から両手に持つ直刀剣で、俺の胸元を突き刺そうとしてきた。
俺は歩きながら無造作で《
ティアドロップ型を形成している氷の弾丸は女ダークエルフの足の甲に貫く。
「――ぐっ、ま、魔法だと?」
彼女は転ばずに前屈みの前傾姿勢を崩すのみ。
だが、動きは止めた。
そこで俺も前傾姿勢を取り、吠えて吶喊。
瞬く間に間合いを潰し、槍の間合いから魔槍を捻り突く<闇穿>を発動させた。
――<刺突>を超えた闇属性を纏う槍技。
勢い良く螺旋の動きで突かれた魔槍杖の紅矛はミズレの胸にぶち当たると、上半身が捻り取られたように凄まじい回転で胴体が千切れ、吹き飛ぶ。
吹き飛んだ上半身の一部は後ろにいた大柄怪物にぶつかり臓物が散らばっていた。
無残にも脊髄を露出させている下半身から血が迸り力なく倒れていく。
<闇穿>……凄い威力だ。
「さてっ――。残りの、怪物を含めて全員で俺に掛かってくるか?」
地面に倒れたダークエルフの下半身を横へ蹴り飛ばしながら、魔槍を肩に抱え持ち、挑発めいたことを言ってやった。
「……」
女司祭も含めての全員が、今の戦闘を見て、驚愕している。
壁のように守っていた大柄怪物でさえ、恐怖を感じたのか、少し後ろに後退していた。
「聞こえているよな?」
「……はぃ」
蛇兜を被る女司祭らしきダークエルフが静かに答える。
「もう一度、問う。お前はフェレミンか?」
「……そうだ。わたしがフェレミン・ダオ・ランギバード」
ビンゴ。
やはり身に着けてる衣装からしてそうだよな。
「ヴィーネ。聞いていたな?」
「はい」
標的である女司祭を見つめながら、後ろにいるヴィーネに知らせた。
そのままヴィーネは歩いて、俺の隣に来ると、
「わたしは、元【第十二位魔導貴族アズマイル家】次女ヴィーネだ。貴女はアズマイル家を滅ぼした仇、ここで、死んでもらう」
彼女は弓を持った状態で反対の手に持つ矢の鏃の先を女司祭フェレミンへ向けている。
「くっ……アズマイル家の生き残りか。まさか、蓋上の世界を生き残り、マグルを従えて地下都市に舞い戻るとは……」
女司祭は苦虫でも食ったような、悔しい顔を見せて話している。
「ハァ? プッハハハハアハハ――ッ、ご主人様のお力を目の前に見ても、まだ、分からぬとはな……女司祭も地に落ちたものよ」
ヴィーネは珍しく大きく嗤う。
そして、目を細めて、矢を弓に合わせて弦を引く。
いつでも矢を射出できる体勢となった。
「……マグルを、ご主人様だと?」
「信じられぬ……」
「だが、あのミズレを一撃で倒していた……」
朱色防護服を着ている、他のダークエルフたちは動揺した顔を見せて、そんなことを喋っている。
「まずは周りからだな。邪魔だから殺るぞ?」
そう問いながら<鎖>射出。
狙いは女ダークエルフたちではなく、壁のように立つ邪魔な大柄怪物の蠍脚だ。
鎖は生きた蛇の如く一番端に立つ怪物の蠍脚の貫き巻き付いていく。
その巻き付かせてアンカーにした鎖を起点に<鎖の因子>マークへ掃除機のコンセントのように鎖を収斂させながら怪物の足元へ瞬時に移動。
そのまま横に寝かせていた魔槍杖で怪物の脚を薙ぎ払い、蠍脚を一気に刈り取った。
続けて、隣にいた大柄怪物へ前進しながら、俺は全身の筋肉を意識。
魔槍を持つ腕を背中へ引きながら怪物へ近付いたところで、魔槍を握る腕を一気に前部へ押し出した<豪閃>を発動させる。
紅の一閃が蠍脚を捉えた。
蠍脚たちは燃えるように切断され、一斉に踊るように宙を舞う。
だが、俺がスキルを繰り出した直後の隙を狙ったのか、左端にいた無傷の大柄怪物が鎌刃を振り下げて、攻撃してきた。
横へ振り抜いていた魔槍杖の後部を上に傾け、怪物の刃を受けとめる。
――だが、大柄怪物の鎌腕は二本。
続けて、もう一つの鎌刃が降り下ろされてくる。
慌てはしない。鎌刃へ視線へ向ける――。
魔槍杖を消しながらタイミングを計り、後方へその場で一回転を行った。
両足に履いている魔竜王製の紫色グリーブの足裏で、振り下ろされた鎌刃を受けて蹴るように刃を防ぐ。
そのまま宙返りの着地後、魔槍杖を右手に再度出現させながら魔力を込めた魔闘脚の踏み込みで、爆発的に反転。
攻撃してきたデカブツ怪物へ半身回転しながら勢い良く魔槍杖を横へ振り払う。
巨刃である紅斧刃が、怪物の太い胴体にめり込んだ。
スキルではないので中途半端な位置で止まった。そこで、力を込めて、胴体を切り払うように強引に魔槍杖を振り切っていく。
「ギョバッ」
大柄怪物の胴体真ん中にあったダークエルフの顔が紅斧刃によって潰れるように斬られた瞬間に奇声をあげていた。
まだ――だ。
自身の足の爪先を軸として身体を駒のように扱い身体を横回転させていく。
振り切った魔槍杖も同様に一回転。
再度、下から掬い上げた魔槍杖の紅斧刃を、血を噴出させている怪物の胴体へ直撃させた。
ドライバーの真芯でゴルフボールを捉えたように怪物の巨体を吹き飛ばす。
吹き飛んだ大柄怪物は大きく斬られた傷口から迸っている血を周囲へ螺旋状に撒き散らしながら、瓦礫の壁に激突していた。
脚を斬られてバランスを崩していた大柄怪物たちも、ヴィーネの弓矢、ヘルメの氷槍魔法、ロロの触手骨剣により、それぞれ止めを刺されていく。
壁のように立ち塞がっていた全ての大柄怪物たちは、あっけなく全滅した。
残りは女ダークエルフたちのみ。
少し臭う。鉄分、血煙か。
紅斧刃からは付着した血の蒸発音が聞こえる。
その魔槍杖を降り回し血糊を吹き払ってから、女司祭を睨みつけた。
「……まっ、待つのだ。わたしを殺せば、魔毒の女神ミセア様がお怒りになるぞ……ましてやマグルがここまで暴れたのだ。女神様もお怒りになるはず……」
怯えた顔をみせる女司祭フェレミンは左手から手鏡のような物を持つと、俺たちに見せてくる。
その鏡には何も映ってはいない。
それとも俺たちには見えないだけか?
「……その神様が、この大屋敷を守ってくれたか?」
「……」
黙った。構わずに魔法を念じる。
中級:
足に傷を負っている朱色防護服を着る女ダークエルフ目掛けて、人間の腕程の氷矢が宙を切り裂くように進む。
槍のような白輝く鏃が、女ダークエルフの顔を貫いた。
氷の矢は突き抜けて、背後の瓦礫の壁に刺さる。
同時にスキルの<
二つの光槍は女司祭の隣にいた女ダークエルフたちの胸を貫き背中を突き抜けていた。
二人のダークエルフは口から血を吐き顔から生気が失われる。
最後に残したのは、女司祭のみ。
「ヴィーネ、残しといた」
「ひぃぃ、ふざけるなァァッ、こっちに来るナァ」
女司祭は独り残された恐怖のせいか、杖と手鏡を振るい発狂している。
「ありがたき幸せっ【第四位魔導貴族ランギバード家】司祭家長フェレミン・ダオ・ランギバードっ! 覚悟せよ――」
ヴィーネは心を込めた気合い声を言い放つと同時に、気持ちを乗せた矢を放ち、次々に速射し始めた。
「ぐェッ、いっ、痛いッ! グエァ! 魔毒の女神ミセア様ァァァッ、奇跡を、今ここに――」
胴体に一本、二本と、矢が刺さり、足に数本の矢が刺さり、最後に、女司祭の眉間へと一本の矢が突き刺さった。
女司祭は目が血走りながら死んでいる。
「ヴィーネ。長女と二女をまだ確認してないが、これで満足したか?」
隣、後方にいたヴィーネへ振り向きながら問い掛けた。
「……はい。わたしは、仇を討ち取りました……母様、姉さま……」
ヴィーネは大粒の涙を流して、泣いていた。
次第に声は大きくなり、叫ぶように泣き始める。
滝のような泣きようだ。
……そりゃ、泣くよな。
家族の仇を果たしたいと願い続けて何年も地上を放浪していたんだ。
だけど、願いは叶った。
――良かったな。
泣きじゃくるヴィーネを慰めようと、腕を伸ばした瞬間――強大な魔素を感知。
それは、女司祭と女ダークエルフたちの死体場所からだった。
何だ? 爆発的な速度で魔素が膨らんでいく?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます